復活の右腕
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/04 12:20



■オープニング本文

●開拓者ギルドにて
 がたがたと裏にある倉庫を掃除し終わり出てくる夢。
 いつものダルそうな顔ではなく眉間に皺を寄せて険しい顔で煙管を齧っている。
「まずった‥‥あんなものと一緒に保管するべきじゃなかったか」
 腕を組んでがじがじと煙管を齧りながらどうするか考える。
 確かに以前、怪しい刀を保管して色々と調査していた。そこまでは特に問題ない。
 もう一つ刀と一緒に開拓者の右腕も保管していたのが原因のようだ。
 もともと妖刀であり、そこに溜まっていた恨み辛み等の負の感情が具現化したのが骸骨騒ぎの原因だった。
 そして次は斬られた右腕と刀がなくなっている。
「まずいな‥‥早めに手を打たないと」
 他に無くなった物品の目録を作ってから天儀の都へと足を運んでいく。


●数日たち
 ギルドやら都にある噂が上り始める。
 夜中になるとアヤカシが現れるとの事。
 目撃情報はそれなりに件数が上がっているが被害件数は上がっていない。
 何かを探しているのか、ふらふらと歩きまわっているとの事。
 とは言え、流石に気味が悪いという事で開拓者の有志が討伐にしに行くのだが‥‥あっけなく返り討ち、というよりも適当にあしらわれている。
 大体は名を上げたいと思っている駆け出しやら熟練やらさまざまな人種はいるが、一人で突っ込んであっけなくといったのが続いている。
「って、聞いたんだけどねぇ‥‥」
 肩口から包帯を巻いている夢が机で頭を抱えている。
 自分でやったことは自分で始末すると言い、自ら出向いたのだが一瞬でやられたという。
 何とも情けない話ではあるが‥‥。
「私は直接戦闘が苦手なのよ」
 と、言い出す始末ではあるが、どうやら本気だったのか結構悔しがっている。
 煙管を強く齧りながらアヤカシについてぽつぽつと話し始める。
 獲物は当たり前だが刀、右腕は実体でそこから瘴気が具現化し、人型のアヤカシになっているとの事。
 戦闘方法に関しては一瞬で近寄られて斬られ、具体的な事はわからない。
 そんな風に煙管を齧りつつ話し続けて。
「何にせよ、このままじゃどうにもならん、いつ被害が出るかもわからん‥‥だから、頼む」
 頭を下げて頼み込む夢を見つつ、掲示板に張られた討伐の依頼を受けに行く開拓者だった。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
アルフィール・レイオス(ib0136
23歳・女・騎
御形 なずな(ib0371
16歳・女・吟
薔薇冠(ib0828
24歳・女・弓
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●深夜の天儀
 開拓者八人、右腕の亡霊を探すべく街中を歩きまわる‥‥はずだった。
「しかし、まぁ、大アヤカシもびっくりのしぶとさだナ‥‥」
 はぁ、と溜息を付きながら梢・飛鈴(ia0034)が夜中の天儀を歩き、ようやく巡り合った目の前の敵を眺める。右腕だけよく知っている奴、刀だけ何度も戦った奴。
「これも腐れ縁っちゅーもんカ」
 ぐっぐと握り拳作りながら準備運動をし始める。
「事前情報からむき出しの腕に執着しているようだけど、何が原因なのやら」
 海月弥生(ia5351)も見覚えのある腕を見つめてから弓を構える。懸念されていた明りについては月明かりで十分視認できる明るさを保っている。
「ん、過去の報告書にも目を通したが‥‥随分と厄介な相手だな」
 ひゅんひゅんとロングソードを振ってから盾を構えて相手を見据えるアルフィール・レイオス(ib0136)。立っているだけでも嫌な汗が流れる。
 そしてこちらでは軽くしゃがんで唸っている御形 なずな(ib0371)。
「宴会開いて酒飲んでお金もらえる依頼って聞いてやってきたのに何かやばそうな依頼に迷い込んでいるやん‥‥あかん、これガチや、ガチで殺しにきとる‥‥」
「見つけるのじたいは楽じゃったが‥‥待ち伏せされたという事かのぉ?」
 先ほどまで薔薇冠(ib0828)が鏡弦を使って索敵をし、獲物自体はすぐに見つかったのだが、此方が揃うまで何故か手を出さなかったことに疑問を持つ。
「折角篝火を用意したんだが、こうまで月明かりがあるとそんなにいらんかったか」
 アルバルク(ib6635)が頭をぼりぼりと掻きながらため息交じりに相手を眺める。場所を用意はしたが相手を見てぴんときた、軽々とこっちの誘導に乗らない奴、他のアヤカシとは一線を越えているという事。
「それにしても刀と片腕しかないって‥‥うぇ、きもちわる‥‥とっとと終わらせちゃおう?」
 ぶんぶんと剣を振り回してから相手を見据えるエルレーン(ib7455)。彼女が戦ってきた中でもかなりやばい部類ではある。
「何に過剰反応するかはわからんが、刀じゃろうか」
 松戸 暗(ic0068)が相手を見据える。待ち伏せするまでもなく開拓者の目の前にいるアヤカシ、ただひたすらに開拓者を見つめてから、軽く動き出す。その仕草を見て全員が構えると月の輪のようににんまりと口が笑う。その不気味な笑いが恋しい物を見つけたような、もしくは何か好物を手に入れた時のような、そんな笑みを浮かべてゆらゆらと構える。

●開戦
 構えたアヤカシを見てからすぐさま臨戦態勢に入ると半円状に取り囲むように包囲を進めていく。
「どーやら、ほいほいこっちに付いてくるよーな輩じゃねーナ」
 腰から苦無を一本抜いて投擲。まっすぐ飛んで行った苦無が金属音を鳴らしながら振り下ろされた刀によって叩き落される。
「自分の間合いを把握している、感じですか」
 海月も苦無を叩き落とした瞬間に同じように矢を放つ、が、上段への返しで軌道を逸らされる。そして素早く正眼に刀を構え直すアヤカシ。
「誘導はちっとばかし難しいか‥‥ああまでどっしり構えられると」
 素早く辺りを見回しつつ、動きの阻害がないか確認をしていく、特に裏路地というわけでもなく普通の道のど真ん中に構えられている。
「それにしても何であんな刀おいといたんだろう」
 じりじりと間合いを詰めつつ軽く思案する。あらかじめ叩き折っていいとは許可も貰っているし、何故保管していたかも聞いた、まあいつもの夢であって「貴重資料」の一言だった。
「何にせよ生き延びんと」
 騎士の魂をかけながらしっかりと相手を捉えておく。今の所動きはなく、にんまりと笑ったまま此方の準備を待っているのが気に入らない。
「単発だけで勝てる相手ではないようじゃのう」
 続いて薔薇冠も矢を撃つがこちらも弾かれる。それに続いて松戸も苦無を続けに投げ後衛がそれを皮切りに攻撃をつづけ始める。苦無、矢などを自分の間合いに入ったものを叩き落とし続けるアヤカシ。
 その射撃の隙間を縫う様に梢が回り込みつつ苦無と竜巻を使って接近、叩き落とした瞬間を狙って一撃、刀の側面を狙いまずは様子見で攻撃を繰り出す。がんっと音を鳴らしながら刀を上にあげるとそのまま続けざまに回し蹴りを放つ所で体を捻って後退。
 直後に振り下ろされた左腕の拳圧で前髪がちりちりと焦げ臭くしながらアルフィールと場所を変わり、防御に切り替わる。
 盾の持ち手がぎしぎしと軋みながらも一撃に耐えてオーラシールドを発動、続けて飛んでくる攻撃を耐えつつ、攻撃の切れ目にシールドノックを繰り出して反撃、したのを誘われる。正面への攻撃を逸らされるとすれ違いざまに刀の柄を振り下ろされる。その攻撃を中断するように海月と薔薇冠が屋根の上から射撃。が、アルフィールが接敵しているので射角が取れない。
 それ横目で見つつ割り込む形でエルレーンがまっすぐに振りおろし。アルフィールとアヤカシの間を割った瞬間に追撃でアルバルクが続く。エルレーンが剣の重さで屈んでいる所の上を狙い銃撃、アヤカシを防御に回せた瞬間に一度全員が距離を取って一息。
「やりにくいやっちゃナ」
 焦げた前髪を弄りながら相手を見据える。また同じように正眼に刀を構えてじっくりと観察するように此方を眺めている。
「射角もばれていると言った感じですが‥‥」
 海月が追撃を抑えるように発と六節を使い相手を足止め、それに続いて薔薇冠も矢を放ち続ける。高所からの撃ちおろし、射角を確実に見据えられているためかゆらゆらと柳の様に避けられている。
「何にせよ長引くと厄介だ、まだこっちを観察している間に確実に仕留めるぞ」
 アルバルクが一旦声を上げてから指示をし直す、狼狽える前に落ち着いてからもう一度アヤカシを見つめて全員が攻勢に出始める。

 梢が最初に構え直したアヤカシの手前で急転換すると、その後ろから海月と薔薇冠が高所射撃、素早く叩き落とし振り切った状態を見据えてエルレーンが突っ込む。
「もうかたっぽの腕が欲しいってことかな、でっもあげないよ、しんぢゃえー!」
 ずん、と一歩踏み込むと同時に捻りこむように突きを繰り出す。空気を裂きながらまっすぐ相手の肩口を貫く、確かな手ごたえと瘴気が霧散するのを眺め引く瞬間に剣を掴まれてたじろぐ、一瞬目があったような感じがし、ぞくりと冷や汗が流れる。
 動けなくなり、アヤカシの範囲内で立ち往生したエルレーンにアヤカシの突きが先ほどと同じように空気を切り裂きながらまっすぐに剣の持ち腕に向かって進む。
「剣を離せ!」
 言われてはっとし、剣を離したエルレーンの前にアルフィールが滑り込んで盾でその突きを受ける。がぎんと大きく金属を鳴らして体勢が崩れたアルフィールを援護するように松戸、海月、薔薇冠が苦無を投げ、瞬速の矢を放つ瞬間に、緒形が才能の微塵のかけらもない歌を歌い始める。
「お前は奴隷戦士〜♪右腕の奴隷戦士〜♪もうここで何もつかめない〜♪」
 傍から聞いてればそんなので効果があるのかと言われるようなものだがそれを大人しく受けているアヤカシ、効果があるかはわからないが素直に聞いている。
「‥‥防御するぐらいなら一撃ってかんじだナ」
 一旦引いた前衛と変わるように梢が前に出るとそれに反応して剣閃が飛んでくる。苦無でその軌道をぎりぎり逸らしながら前衛が体勢を立て直した所でもう一度引く。
「もー、砕けて、壊れて、きえちゃえッ!!」
「合わせるで!」
 指で照準を作ってアヤカシを捉えるとすぐさまなずなが重力の爆音がアヤカシに降り注がせ、エルレーンが刀を振り下ろした所を狙って接近、肩口に刺さったままの剣を掴むと同時に紅焔桜を発動、力任せに引き抜きながら蹴り飛ばしすぐさま隠逸華で追撃。剣を水平に構え素早い三段突きを繰り出す。一発、二発、三発と、最初の数発を受けられ最後の一撃で先ほどと同じく肩口を掠めていく。
「避けろ!」
 アルバルクが叫んだ所で反撃ぎみにからなが振りぬかれ、鮮血が舞う。自分の貰う一撃と相手に与える一撃を比べた所、攻撃直後の隙を狙われた。
「こんのっ‥‥!」
 身を捻りながら盾で相手を吹っ飛ばして膝を付く。
「一旦、立て直さねば!」
 薔薇冠がすぐさま瞬速の矢で追撃を封じ、すぐさまアルフィールとアルバルクが前に出る、膝を付いて息を荒げているエルレーンをなずなが近づいてすぐさま手当を始める。
「はよ、手当せな‥‥!」
 薬草と包帯を用意し手当をし、その前方ではアルバルクがシャムシールを振り肉薄し始める。反りのある刃が相手の刀を滑りながら火花を散らし、向こうから飛んでくる一撃をアルフィールが耐えて、代わり替わり攻撃を続けていく。攻撃を受けた肩口を狙いながら、飛んでくる矢に合わせてアルデバランでの追撃を加えて右手を狙った。所を狙い撃ちされる。ぐるりと身を捻った所で左腕からの一撃。鎖骨に食い込むほどの一撃、思わずうめき声をあげて蹈鞴を踏む、すぐさまその援護にアルフィールが入り込むと、アルバルクの代わりに梢が入れ替わり、攻撃の手を休めない。
 が、アルフィールも相手の攻撃を受け続け、反撃しぜいぜいと息を切らし始める。高所からは海月と薔薇冠が援護をしてくれているし、松戸も苦無で危ない攻撃に対してはすぐに反応してくれるが、相手にやり方を見られすぎたのが問題だった。
 一度盾で弾いてからもとに戻す際に攻撃を合わせられた。それも刀ではなく盾ごと押し込む形での掌底、内臓に直接響くような衝撃に嗚咽を漏らし、怯む。その隙を付いてさらに徒手での攻撃が飛んでくる。隙間から腹部にかけての掌底が飛んでくる、力を込めてそれを受けると、めきめきと嫌な音が響く。苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべつつ渾身のシールドノックで相手の体勢を叩き崩す。
「そこだっ‥‥!」
 すぐさま相手の体制が崩れた所で一気に近づくと暗で相手の腹部を貫き、すぐに後退。それに続いて海月、薔薇冠も続けざまに射撃で追撃。矢と苦無で穴だらけになった所に梢が突っ込んでいく。

●因縁
「ほんと、いい加減にしとけッ」
 何度も放たれている高所からの攻撃に合わせると同時に相手の懐に入り込み、気力を練り込み、攻撃。が、反撃気味に振り下ろされた一撃を右肩に受け、すぐに刀を握りしめ。
「がっ‥‥てめーとの、因縁も、これで終わりダ」
 刀の側面からけたたましい音を鳴らせつつ思い切りぶん殴る。ビキンと金属の音を鳴らせながらすぐに蹴り飛ばす。
「強敵、でした」
 海月が発を使い、右腕に即射。二撃目をしようとしたアヤカシの攻撃を防ぎ貫く。そこに重ねるようにアルバルクが右腕を切りあげる。ヒビの入った刀と斬り飛ばされた右腕を眺めながらにたりと笑ったような気がする。


 ざくっと刀の突き刺さる音と共に瘴気と化していくアヤカシを眺めながら満身創痍でその場に座り込む開拓者。
「もう、こーいう相手は、こりごりだナ‥‥」
 切られた所を抑えながら落ちてきた右腕と刀を拾い上げて近くまで持ってくる。
「油断も隙もない相手でした」
 高所から降りてきた二人も息を荒げつつ拾ってきた右腕と刀を見つける。
「こんな厄介な代物さっさと壊そうよ」
「賛成だな、壊していいって許可もあるしな」
「相当な業物だが、いいのか」
 罅が入っている刀と腐敗し始めた右腕を見つつ、どうするかと見回す。
「ん、しっかり処分でいいだろう」
「この持ち主、どんな相手だったのじゃろうか」
 松明の火で右腕を燃やしながらそう刀を眺めてぽつり。
「‥‥私がもっとスゴイ吟遊詩人やったらしっかり成仏させてやれるのかもしれんが、残念ながらペーペーや。また復活することもあるかもな。そんとき私がすごく成長して出会うことがあったら聞かせたるわ」
 瘴気になったアヤカシの所で静かに鎮魂の経を唱えるなずな。それを横目に見つつ、復活すると厄介だと少なからず思いながら刀と右腕の処分を始める開拓者達だった。