【お館】初秋のお祭り
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/20 02:35



■オープニング本文

●お屋敷にて
 夏バテ中のおやかた様がごろごろと転がる。
 旅行先を悩みつつも、いろいろと精霊門だの渡航手続きだので苦戦している。
 それを爺がやっているわけで、おやかた様的には暇なのだ。
 まぁ、なんにせよ、一言。
「暑くて暇じゃ‥‥」
 そんなわけで時間を持て余しているおやかた様。
 ごろごろごろごろ‥‥特に面白い事もなく、暑くてだらけているだけ。
 爺的にはもっと外に出て世の中を見てきなさいとかどうとか言っている。
「暇、暇、暇」
 ごろんごろんと転がりながら玄関まで転がって、着地。
「ひやかしにいくのじゃ」
 むふっと得意げな顔してお出かけし始めるおやかた様。
 勿論行先はいつもの開拓者ギルドである。


●ギルドにて
「そろそろ秋ねぇ‥‥雨の日はさむいわ‥‥」
 煙管を吹かしながらぼおっとしつつまったり。
 この間の戦闘の後処理やら腕の保存、刀の管理と結構走り回ってたりする。
「で、こーしてると暇人がくるのよねぇ」
 ぐったりとしている所に我が物顔でやってくるおやかた様を見つめて溜息一つ。
 何しに来たんだよ、って顔しながら見つめてるが、思い切り無視されている。
「相変わらずじゃのう?」
「うっさいわね、私はこれでも疲れてるのよ、いそがしーのよ、たいへんなのよー」
 ほっぺた摘まんで伸ばしているのをどこぞの宅配喫茶の店員が見てたとかどーとか。
 とりあえずぐにぐに弄った後溜息を付いて机に横たわる。
「もー、がきんちょは祭でもいってなさいよ、もー」
「何じゃ、そんな行事きいとらんぞ?」
「ほら、これよこれ」
 ぺろんと差し出した一枚のチラシには確かに祭の日時と場所が書いてある。
「ほー、祭かの?」
「どーせ暇なんでしょ、いってきたらどーよ」
「うむ、じゃあ、ここで連れを募集するから依頼書をよこすのじゃ」
 はいはい、と言いながら机から紙を一枚取り出し、筆と墨を取ってさらさらと。

『おやかた様と祭に行くもの募集』


■参加者一覧
テーゼ・アーデンハイト(ib2078
21歳・男・弓
奈々生(ib9660
13歳・女・サ
明神 花梨(ib9820
14歳・女・武
菅野(ib9930
20歳・男・泰


■リプレイ本文

●お祭り
 そんなわけでやってきたお祭り。
 おやかた様と奈々生(ib9660)、明神 花梨(ib9820)、菅野(ib9930)の四人でぷらぷらと歩いている、まだそれなりに日が高いので人はそこそこまばらではある。
 夜中の花火を眺めながら何か食べつつ、ゆっくり鑑賞したり、仕事があるからまだいけない、など理由はそれなりにあるのだろうが、そこそこの賑わいだ。
 そんな中菅野が先にどんな屋台があって、どういう配置があるのか下調べをしていたので大体どこに何があってとかは把握しているのだが。
「そういう無粋な事をするものじゃなかろ?」
 おやかた様が口に人差し指を当てて静かに言うなと。先に知っていていいのは花火をするだのそういう予定であって、お祭り特有のわくわく感やらどきどき感を損なうのはいただけないらしい。
「それにしても、おやかた様とお祭りにいくなんて、おやかた様も暇だったり?」
「確かに暇じゃなー、それにお小遣いもあげるのじゃ、お得じゃろ?」
 奈々生がうんうん頷きながらおやかた様に付いていく。
「でも、おやかた様ちゅーから、依頼人なのか、それとも親方さんなん?」
 目の前の三つ編み輪っかを見つめながら首をかくりと傾げている。見た限り何かの親方には到底見えない。
「お館のほうじゃ、よーく覚えておくのじゃ」
 そーなんかー、と言いながらじっくりおやかた様を見つめる。きっとわかっていない。

 そんなわけでお祭りの通りにやってきて、端から一つずつ眺めながら食べ歩きになっていく。
「おー、あっちのお店いこー!」
 ぐいぐいと奈々生がおやかた様の手を引っ張って屋台の一つに連れて行く。それを後ろからまってやーと言いながら明神、菅野も後ろについてくる。。
 まずは定番の焼き鳥の屋台にやってきて、じゅうじゅうと肉の焼ける匂いを嗅ぎながらじーっと二人してそれをみつめ、さらに明神も合わさって三人でじーっと見つめる。
「んー‥‥おっちゃん、これ三十本」
 奈々生が焼き鳥を指さしながら平然と言っている、もちろん隣で平然とお金を出しているおやかた様、後ろで菅野が止めようか迷っていたが止めなかった。
 そんなわけで包みの中に焼き鳥三十本、ほくほく顔でそれを抱えながら次の屋台に向かい始める。
「ぎょーさんこーとるけど、大丈夫なん?」
 目の前のおやかた様を撫でながら明神が尋ねると、むふふと怪しく笑いながら得意げな顔をして。
「これぐらいすぐなくなるのじゃ、楽しまないと損じゃぞー?」
 早速焼き鳥食べながら歩いているおやかた様に言われて、それもそーやなーと納得。
 そんな後ろで菅野がきょろきょろあたりを見つつ護衛をしている、とは言えそこまで危険なこともなく、目の前にいるのは仮にも玖流滝の当主であって下手に手をだすと逆に痛い目を見るというのを知るのはもう少し後だったりする。
 そんなわけで焼き鳥の置いてあった反対側の屋台を見つめる。こちらに置いてあるのはたこやきだ。目の前で醤油の焦げるにおいといい感じに生地が焼けていく匂いが立ち込めていき、明神の尻尾がぱたぱたと動いている。
「食べたいかの?」
「んー、やっぱ定番やろ?、ぎょーさん食べたいな」
 ふむー、と一言いって店主にぱっと手を開いてこの数くれと、一言。5個かい?と返答したのを鼻で笑って。
「五船じゃ」
 ちょっと引いた。
 そんなわけで大量のたこやきを入手したご一行はさらに隣の屋台を眺めていく。ジグザグに屋台を一つずつ見つめて全部正はする気満々だったりする、開拓者たる者依頼者を裏切るような事はしてならないし、依頼者がそういっているので拒否権は無いに等しい。つまるところ楽しまないと負け。
「とりあえずじゃ、菅野、道端の小石を拾うのはいいんじゃが、通行の邪魔になるからほどほどにの?」
「‥‥そうですか?」
「あとで往復するんじゃ、しっかり屋台の場所を覚えておくのじゃぞ」
 どんだけ食うんだ?って顔しながらも静かにうなずいておく、多分屋台が全滅するんだなぁ、とかひそかに思っていたり。
「何かみていてお腹いっぱいになってきた気がする」
 奈々生も目の前で大量購入しているおやかた様を見つめて、ぽつりと。
 そりゃ目の前でどんだけ食うんだよって量を買っていれば当たり前だ。
「なーなー、おやかた様、うちな、甘味食べたいねん」
 肉やらたこ焼きやらは買いまくっているんでちょっと違うもの。
 ぱたぱたと尻尾を振りながらじぃーっと向かいにある団子屋に尻尾がぱたぱた。
 その様子をうんうんと頷いて了承したのか、ぽんと手元に渡される文。
「買えるだけじゃぞ?」
 いや、そこは食べられるだけじゃないのかよと、軽く突っ込みが入ったらしいが気にしない。そんなわけでしばらく明神が離れてぐるぐるとまわりの屋台を回っていく。危なっかしいと思ったのかその後ろを菅野が付いていき、荷物持ちもしている。勿論だがその間にもおやかた様と奈々生が追加で食べ物を買っている。
 しばらくして、菅野が大量に甘味を抱えながら明神と一緒に戻ってくる。
「限度、ってものがある‥‥」
 溜息一つに山盛りになっている戦利品を食べ始めているおやかた様と奈々生を前にあきれていたり。
「あー、ずるいー!」
 明神が膨れて近くにあったたこ焼きを頬張り始める。
 あーんとか言いながらおやかた様に焼き鳥を食べさせている奈々生はというと、すさまじい勢いでなくなる焼き鳥に軽く驚いてたり。
「んー‥‥やはり、こういうときに食べるものは美味しいのじゃ」
「んむむ、おやかた様、食いすぎ‥‥」
 食い尽くされた焼き鳥で一息つきながら、次のたこ焼きに手を伸ばす。
 こちらはこちらで明神がぱくぱくと口に放り込みながらおやかた様と少しばかり取り合いになっていたり。とにかく甘味はおいておき、焼き鳥とたこ焼きが全滅。食い尽くされた串やら船を菅野が片づけつつ、自分も食べている。
 
 また、しばらくして。
「ほふー‥‥」
 満足げにしたおやかた様を眺めてついでに買ってきたお茶を配る明神。
「食いすぎなの!」
 殆ど横取りされていた奈々生が膨れている。
「まぁ、いーやろ、まだまだ屋台もあるしな?」
 買ってきた栗饅頭やら飴細工、大判焼きの餡子系のお菓子を食べながらひと時のまったり空間。
「まだ、日‥‥高いですよ」
 リンゴ飴を買ってきた菅野がため息つきながら目の前の惨状に少し、あきれてたり。女性の食欲はよく分かりません。
「おー!それや、それほしかったねん!」
 偉い勢いで尻尾がぱたぱた揺れる。相当欲しかったらしい。そんな明神の横から顔を出しつつ、尻尾をもふもふ。ぴくんと震えるが、リンゴ飴の誘惑に負けているのか気にせずもふられ、リンゴ飴を堪能中。
「わらわには大きいのじゃ」
「なら半分こ?」
 奈々生が器用に三分割して、菅野と自分とおやかた様に手渡す。後から足りなかったらまた買えばいいしのうと、おやかた様。幸せそうにほおばっている明神の尻尾がまたぱたぱたと大きく振られている。
 余談だが、周りにいた他の客があっという間になくなっていく食べ物にかるくひきながらも驚いている。あの小さい体のどこにあの量が入ったのかという感じでだ。

 そんなわけで散々食いまくって、その残骸を菅野が一通り片づけた所で夕方近くなる。
 当たり前だが食いすぎである。
「さてと、いい感じに食ったし、運動でもするかの?」
 満足げなおやかた様が歩き出したのを見て、三人も付いていく。
「運動っていうと、射的とか金魚すくいとかー?」
「お、ええな、あれって、うまい事的に当てたら『俺に惚れるなよ』って台詞言うのが礼儀なのは、ホンマなん?」
「それは、違う」
 後ろで小さく突っ込まれているが気にしない。
「お、向こうに射的あるー!」
 そんなわけで早速走って近寄り奈々生に付いていく。一般的な射的、矢先を潰した弓矢を使うものだ。とりあえず山のように積んだ文の束を渡して、腐るほど矢を貰って準備完了。
「じゃー、やったるでー!」
 明神が小さめの弓矢を構えてじっくりと目の前の商品を狙って、ばしゅっと一発。ひょろひょろと力なく飛んでいき、ぽすんと落ちる。むぅー!と唸りながら次々に撃っていく。そしてかすりもしない矢に唸っている。
「次、私ねー」
 奈々生も早速といわんばかりに弓矢を構えてぱしゅっと一発。明神よりかはまっすぐ飛んでいった矢が店主に当たる。流石に戦闘用でもないし、矢先を潰しているので痛くはないが驚いてはいる。だってさっきから店主にしか当たっていないのだから。
「うまくいかへんなぁ‥‥おやかた様と、菅野さん、やってみてや?」
「おー、歴戦の勇者なかんじー?」
 のりのりで構えるおやかた様と菅野、そんなわけでぱすぱすと先ほどのように撃っていくとぽこぽこと景品を当てていくおやかた様、その隣で力なく飛びつつも景品を落とす菅野。矢の続く限り景品を落とす。そのたびに奈々生と明神があれほしいこれほしいときゃっきゃと騒ぎ、おやかた様が撃ちぬいていく。しばらくして、店主が土下座して帰ってくれと言ったので勘弁してやったおやかた様。
「えへへ、景品沢山もろたなー?あ、コツ教えてやコツ」
 おやかた様の袖をぐいぐい引っ張りながらふくれっつら。結局一発も当たりませんでした。
「満足だー!」
 そんなわけで腐るほどお土産の食い物と、景品を抱えながら練り歩く。周りから見たらどんな貴族が練り歩いているんだとか思われそうだが。菅野も肩に止めていた鴉が嬉しそうにガラス球を咥えている。


●花火の時間
 そんなわけで日も暮れて花火の時間が迫ってきている
「ほれ、帰るぞ」
 けどおやかた様ご一行はそのままお屋敷に戻ってきている。
 奈々生と明神が「えー」と言いながら文句を垂れて、後ろで菅野も不思議そうに後を付いてきている。あれこれ言っている間に爺がお出迎え。大量のお土産を押し付けてから縁側に集合して。ゆったりとし始める。
「何かあるの?」
「もーそろそろじゃの‥‥ほれ、くるぞ」
 丁度空に花火が上がってくる。池にも花火が反射して池と空を明るくする。
 その光景を眺めながら買ってきたリンゴ飴を頬張り、たーまやーと、明神が。
「うちが寺におったとき、こんなふうに見られんかったなぁ‥‥後で線香花火もしよー?」
 ごそごそ山のような土産から線香花火を取り出して庭で用意しつつ花火を眺める。
「うりゃうりゃ」
 その隣で花火を眺めながらもおやかた様の前でお菓子を食べたり、猫じゃらしを振ったりと落ち着きのない奈々生。ちょっと向きになるおやかた様。
「‥‥静かに、見ればいいのに」
 ちょっと溜息を付いている菅野に爺がお茶を一杯。苦労人同士か何か通じ合っている。
 
 どーんと大きい音を鳴らして空を明るくしている花火と、足元でぱちぱちと小さい音を鳴らしながらも小さくはかなげな線香花火が辺りを照らす。
 そんな夏の終わりと秋の始まり。

 楽しげな声は季節をまたいで、年を重ねても続くだろう。