愛ある復讐
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/22 22:23



■オープニング本文

●どこか寂れた森の中
 一本の黒光りする刀が少しだけ盛り上がった土の上に突き刺さっている。木漏れ日が黒金特有の刃を光を反射させ、禍々しさをかもし出している。
 この刀は少し前に開拓者と死闘を繰り広げていた、ある女性の刀だったものだ。それも強い思いを持って、自分の欲求を満たすためと言いながらもその欲望は純粋だった。
 人間の想いというのは物にこめられるとずっと長く残る物だ。勿論その持ち主が死んだ後でもその想いというのは残り続ける。
 
 不意に森の奥から子鬼が一匹その刀をものめずらしそうに見つめながらじっくりと辺りを見回していく。どうやらこの刀が欲しくなったようだ。よくわからない獣の声を上げながらその刀を握り締めると、びくんと体を震わせて叫び声をあげ始める。そして叫び声をあげながらどんどんと瘴気となり、その刀へと吸い込まれていく。
 この刀の持ち主も刀によって惑わされていた‥‥訳ではないようだ。その持ち主の怨念、執念、欲求、ありとあらゆる欲求が詰まっている刀だ。下手に触れば子鬼のように、人が触れば気が狂うだろう。
 そんな日々をずっと繰り返し、刀は少しずつ少しずつ瘴気を溜め込んでいく日々を繰り返す。

 しばらくして刀の持ち主だった人物の妹がやってくる。
 片腕をだらんと力なく垂らしながらその刀をじっと見つめる。
「ふふ、見るたび見るたび禍々しい‥‥そろそろ、仕上げよねぇ‥‥?」
 その刀を掴み、びゅんびゅんと振り感触を確かめる。数回振り回した後にぴっと刀を正眼に構える。振った勢いではらはらと落ちてきた木の葉がその刃に触れると音もなく真っ二つに。
「さて、と‥‥」
 だらっと垂れた片腕に刀を添えて一気に引き抜く。音もなくぼとりと腕が落ちるが、叫び声も何もあげずに奥歯をかみ締めたまま土くれの上に刀を突き刺し、切り取った腕と札を取り出すとそこに添えて何かの呪文を唱えていく。‥‥すべて唱え終わり、一息ついて刀を見やる。
 相変わらずの禍々しさは変わらず「はぁ」とため息をついてから切り取った部分の出血を抑えながらその場を後にする。
「次の手段は‥‥」
 ふらふらと歩いていくその姿は執念に満ちている。
 その後しばらく、熱病と切り取った部分の苦しみによってその刀の経過はわからずじまい。
 姉を生き返らせる、そんな無理難題をずっと試してきたのがこれだ。

●執念の果てに
 数日後に刀の所へとやってくる。
 また刀だけ残っているのだろうと思いながらそこにいく。
 いつもと違う気配、肌にぴりぴりと感じる瘴気の渦に冷や汗が流れる。
 土くれが掘り返されていて、刀はなくなっている。
「まさか、ねぇ‥‥?」
 掘り返された土くれを覗き込んであるものを探す。
 勿論そこにあったものはない。
「‥‥腕もない、札もなくなってる‥‥そして、骨もない‥‥」
 じっと其処を見つめているとぞくっと震えあがる。
 咄嗟に片手ながら刀に手を掛けてその方向へと向き直る。
 どうやって、どうなって、元に戻ったのはわからない。
 とにかく目の前には姉の骨と自分で切り取った中途半端に腐敗した腕で組みあがった骸骨がそこにいる。
 そして手元には姉が使っていた刀が握られている。
(‥‥逃げよう、あれがお姉ちゃんかどうか確認する時間も方法もない‥‥)
 じりじりとすり足でその場から後退しつつ、相手を見据える。
 相変わらず手に持たれている禍々しい刀と骸骨がかたかたと笑っているのにぞくりと震える。
 ここにいたらやられる。あれはただの瘴気の塊なんだ、そう割り切ると同時にその場から一気に離れるべく走り出す。


●ギルドにて
 しばらくして、ギルドに何件か事件の報告があがる。
 どれも片腕を切り落とされるという事件だ。
 時間も場所も何も特定されていないのだが、唯一共通点があるのがその片腕を斬られている所だ。
 しかもさらに付け加えて面倒なのが並みのアヤカシじゃないという点。
 何が作用しているのかわからないが、片腕を求めて妖刀を振り回して近隣の人を斬った張ったしているらしい。
「で、こいつの目的はそのなくした片腕なわけ?」
「斬りとっては自分に付けて合わなかったらすぐに投げ捨ててといった感じですかね、なんにせよ人の多いところに被害が流れているので」
「討伐依頼ってところね‥‥いいわ、依頼書作っておくから偵察に数人出しておけ」
「りょーかい、適宜連絡しておきます」
 そんなわけで偵察を飛ばしている間に、片腕を求めるアヤカシの討伐依頼が出される。


■参加者一覧
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
一夜・ハーグリーヴズ(ib8895
10歳・女・シ
奈々生(ib9660
13歳・女・サ


■リプレイ本文

●開拓者ギルドにて
 平野 譲治(ia5226)が被害者や目撃者の話を聞いている。どうそのアヤカシが出てくるのか、時間や場所を丁寧に聞いていく。
「特にはないんだよ、とにかく急に襲ってきてやられてばかりだったから、ただやたらと腕を狙ってきたのは確かだよ」
 偵察に行っていた夢の部下らしき人に平野が話を聞いている。若干だがその話を聞くたびに苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「あと、夢はいないなりか?」
 きょろきょろとあたりを眺めると、いつものように机に脚を乗せて煙管を吹かしているのがあっさり見つかる。そのまま近づいていって話を始めていく。
「事情があるのはわかっているなりが、力を貸してくれないなり?」
「例のアヤカシね‥‥私は構わないけど、あくまで援護だけだから戦力で考えないって約束するなら手伝えるけど」
「それでいいなり、危なくなったら助けてくれればいいのだ!」
 にこっと笑いかけた平野をわしゃわしゃと撫でまわすと上着を羽織、刀と短刀を用意し始める夢。人数が少ないという危険を少しでも分散できる。後方支援のあるかないかでも十分変わってくるものだ。
 そんなわけで準備が整った開拓者達、アヤカシ退治に出陣していく。

●都から少し離れた所
 最後の目撃情報のあった村から少し離れたところまでやってきた開拓者達。
 まだまだ日は高い、その間に事前に作戦を相談していく。
 前衛には雲母(ia6295)と奈々生(ib9660)、中衛に一夜・ハーグリーヴズ(ib8895)、後衛に平野、後方支援に夢の布陣となる。
「まず深追いはやめろ、一撃殴ってすぐに後退するくらいでいい一体でここまで来てるんだ、下手に前に出ると死ぬぞ」
 煙管を吹かしながら雲母が他の三人に念を押す。この中で夢を除けば年長者であり、一番経験も豊富だ。それに知り合いも多い、息子娘のように見える他の参加者をやらせまいと静かに意気込んでいる。
「それにしても面倒なアヤカシだね、本当に一体だけなの?」
 奈々生が刀を構えつつ被害があった方の村を見つめる。
「一体だけよ、何度も確認させたけどね。あとは獲物は刀、アヤカシの元が強いのか油断したら死ぬわよ」
 その場にいた夢が補足説明をしている。
「まや、自分の腕切り落とされたら痛くてしんでまう」
 うーっと唸りながら少しおびえているが。
「でも、放っておいてもたくさんの人が痛い事なるから、まや、頑張る」
 ぺちぺち自分の頬っぺたを叩いている所を雲母がゆっくりと撫でている。
「全力全開っ!絶対に倒すなりよ!」
 同じように頬っぺたをぺちぺちとたたいて気合を入れる平野。頬っぺたを叩いた後、小さく賽子を転がす。ころころと地面を転がった賽子、真っ赤な点が一つ。
「うー、いやな出目なりね‥‥んぁ、なんか向こうからくるなりよ!」
 作戦中もきょろきょろと辺りを見回していた平野がぱたぱたと慌て始める。奇襲というよりはこちらに向かってゆっくり確実に前進してきている。
「‥‥さて、お客も来たようだし、いくぞ」
 ゆっくり、ゆっくりと地平線の彼方からこちらに向かってくるアヤカシが一体。全身は確かに骨だが片腕だけはどこかで拾ったのか腐敗しきっていない腕が付いている。
「私は後方援護だ、あとは任せるぞ開拓者」
 そういうと後ろに下がっていく夢を見送ったのちに、向かってくるアヤカシを迎撃し始める。


●骸骨
 自分で斬りおとしてつけた腕の具合が悪いのかみしみしと動かしている。今までこんな奴は初めてだ、何かに取りつかれたよう、何かを探しているようにも見えるが。
「作戦は言ったとおりだ、私がひきつけるから続け」
 眼帯と煙管を仕舞うと、撃龍拳を構える。覇王らしからぬ前衛姿勢に平野が違和感を覚える。本来彼女は後方での射撃を中心にしているのにやけに前に出ているからだ。
「きららの背中はまやが‥‥」
 そんな覇王の背中を見つつぎゅっと獲物を握りしめる一夜。彼女の言葉は前にいた覇王に伝わったかはわからないが自分の中で決意を固める。
「危なくなったら援護するなりよ!」
 素早く符を構えて練力を貯める。彼も目の前にいる覇王の背中を見つめてぎゅっと力を込める。
「一体だけかな?」
 んー、と言いながら眺める。障害物もあまりないところに一体だけがずりずりと近づいてくるのみ、一体だけにしてはかなりの雰囲気がある。
「とにかく出方を見ないとわからん、いくぞ」
 拳を作ってすたすた歩いていくのを後ろからついていきながら、全員が臨戦態勢に入る。

 陣形は雲母と奈々生を前衛にそのすぐ後ろに一夜、最後尾に平野が続いている。
 アヤカシも開拓者の気配、というよりも人の気配を感じたのか刀を構えて距離を測るような動作をし始める。やはり下手なアヤカシ以上に危険なのは肌を伝わりぴりぴりと感じられる。
「アヤカシってまや初めて見る‥‥何あれ怖い」
 うーっと唸りながらやってくるアヤカシを眺め一夜がむすっとした表情を浮かべる。
「さてと腕と、言っていたな‥‥私の腕はどうかな?」
 ぷらぷらと腕を見せつけるとそれに反応するアヤカシ、それを確認してから「どん」と地面を踏み一気に加速しながら右手を前に、左手を脇に構えたまま突っ込んでいく。流石に不意打ち気味なのもあったのか反応が遅れ懐に潜られてから、一撃。
 がぎんと音を立てて蹈鞴を踏んでいるアヤカシ、体制を崩したのを確認してすぐに一歩後退。反撃気味に振りぬかれた刀が前髪を数本散らしながら掠めていく。
「一旦、引くなりよ!」
 空中に「黒」の文字を指で描きながら青白い燐光を放ちながら術を発動させ、雲母とアヤカシの間に文字通り壁が出現して、アヤカシの踏込を妨げる。
 一瞬の踏込を抑えたのちにすぐさま奈々生が追撃、斬りとって付け加えた腕を防御に回して刀の一撃を受けきるとぶんっと腕を狙って刀が振り上げられ、一閃。宙を舞う右腕を確認してにまぁとアヤカシが笑った、様に見えた。
「うわ、あぶなっ」
 にゅっと斬られた腕からもう一本腕が生えてにぎにぎと手を動かす、偽物の腕を仕込んでいたようだが、その偽物の腕が斬られた部分はあまりにも綺麗だ。
「あんなんで斬られたら、まぁ、すぐ治療すればつくかもな」
 かたかたと斬った腕を咥えたまま動かないアヤカシに対して雲母が前に出る。それを確認してから平野が結界呪符「黒」を解除して次の攻撃に移る隙を援護するように一夜が苦無で援護。キンっと金属が合わさる音を鳴らしながら攻撃の手を緩めさせた所に雲母がまた一撃。丁度刀を持っている左腕、それに連動している肩口を狙って。ぴしりと音を響かせると同時に振り下ろされる攻撃を自身の分身を作り出してすぐに距離を取る。
「ほら、こっちだよ!」
 振り切った後の隙を確認してから奈々生が接近して刀を振りおろし。それに合わせて平野が「縛」の文字を宙に書き燐光と同時に術を発動。アヤカシの足元を呪縛符で絡め取り、踏込が出来ない状態のところを刀で一撃、と見せて足を狙って蹴り。がくっと膝が折れて体制が落ちた所を狙い、また一閃。後から付けて腐敗していた腕を斬り飛ばしてすぐにもう一度蹴り離す。同時に呪縛符を解除し後ろに大きく吹っ飛ばしていく。
「まだ来るぞ、構えておけ!」
 ごろごろと転がっていった後に動かなくなる。それを構えたまま開拓者がじっくりと距離を詰めていく。一歩、また一歩、雲母、一夜が走り出せば一気に突っ込んでいける距離にまでだ。
「油断するなよ」
 一定距離まで近づいた瞬間に飛び起き、一気に接近して刀を構えるアヤカシ。不意を付かれたのか雲母と奈々生の間をすり抜けて一夜に急接近する。
「こっちくんな、あっちいけ、あっちいけっ!」
 苦無を投げつつ後退。
「むぅ、間に合わないなりっ!」
 どちらの術か迷っている所で木葉隠を併用しつつ小剣「狼」で刀の攻撃を受けつつ回避しながら声を上げる。
「腕ばっかねらいおって!まやの腕じゃみじかいだろ!それぐらいわからんかあほたれ!」
 むきーと言いながら刀の一撃を跳ね上げた所に咆哮。奈々生の方へと引きつけた間に、平野の方へと早駆で離脱、近寄ってきたアヤカシの刀を受けて鍔競りをしている所へ、雲母が一撃。ボギンと鈍い音と共に肋骨を粉砕、軽く舌打ちして狙ったところを外したと呟いた後に、奈々生から引き離す様にもう一撃を当てた所で刀を見つめ、思い出す。
「そういえば、刀を見て思い出したよ、お前の止めを刺したの私だったな?」
 くつくつと笑いながら、縁があるな、と言っていた所でアヤカシが倒れるようなふらついた動きをしたのちに、平野と一夜の方へと駆け、一閃。
 完全に不意を付いて打ち取られた、と思えた。

 あっという間の出来事だった。
手を広げて平野と一夜を守るように立ちふさがった何かから鮮血が舞う。
 右上段からの振りおろし、そのまま切り替えして左上段への振り上げ。
 振り上げと同時に宙に舞う腕、平野と一夜は背中を見ながら、腕を飛ばされた人物から叱咤されて構え直す。
 もう、一振りと言ったところで奈々生が横からアヤカシに体当たりをし、距離を取らせる。そこからもう一度声が上がり、「縛」の文字を描き呪縛符を発動させ、動きを鈍らせた所へ、さらに追撃の打剣による連続攻撃での貼り付け。さらに止め。
 けたたましい青紫色の閃光と真っ赤な鮮血が雷のような甲高い音と風を切る音と共にアヤカシへと吸い込まれ一撃のもとに粉砕する。
 そしてびゅんびゅんと空気を斬りながら宙を舞い、音を立てて地面に刀が突き刺さる。


●鮮血の果てに
 瘴気となっていくアヤカシを見る前に、ぜいぜいと息を切らして倒れこむ雲母に開拓者が駆け寄る。雲母のおかげで他の開拓者は外傷は無いにしろ、相手の強さや気迫で消耗しているのか息が上がっている。
「くぅ‥‥ったく‥‥私の腕を持っていくとは‥‥!」
「止血、止血なりよ!」
 自分の着物を破り裂いて出血しないように硬く結んで。
「夢を呼んでくる!」
「まやもいく!」
 奈々生と一夜が走り出して後方に待機していた夢を呼んでくる間に平野と一緒になって刀を回収する。このアヤカシが以前に現れた人斬りの骨かはわからないが回収しておいた方がいいのは確かだからだ。そうして駆けつけた夢が腕と開拓者、刀を回収してすぐに天儀に引きもどっていく。
「ま、死んでないだけ、マシってやつかねぇ」
 軽口を叩きながらくつくつ笑っている。今にも泣きそうな自分の子を見つめて。