死線
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/26 10:53



■オープニング本文

●どこかの村にて
 至って特に何もない平凡な村。特産物もなければ温泉も無くて別に大した事がない、完全な平凡な村。ただし最近の問題としては変なアヤカシが夜な夜な村にやってきている。別に何か悪さをするわけでもなく、ただただふらふらと歩いて村を徘徊していく。
 勿論それに対して何かしらの行動(たとえば罠を強いたり、撃退の為に攻撃)をしたが特に効果はなく、やはり夜な夜な村の中を徘徊するだけ。住民的には昼間は見かけもしないし、邪魔でもないのだが、少々気持ち悪い。
 そんなときに、この村にたまたまやってきた開拓者が一人。こちらも村と同じような特に特徴もなく平凡な開拓者だ。強いて言うとすると多少線が細い。気の優しそうな頼りなさそうだが頼ってしまう。そんな感じ。

「アヤカシ、ですか‥‥自分で良ければ力になれると思いますけど」

 まぁ、このように安請け合い‥‥と言うわけではないが、快く承諾して早速と言わんばかりに夜まで待機してそのアヤカシを倒すために準備していく‥‥そうして準備も整って夜になってくるとやはりそのアヤカシはやってくる。ふらふらとこちらを向いて視線が混じり‥‥。

「悪いが、ここで死んでもらう!」

 腕を構えられたまま、一気に接近し斬りかかった所で彼の意識がぷっつりと消える。

●ギルドにて
 ギルドのとある一室。いつものように夢が煙管を吹かしながら目の前にいる開拓者とにらめっこしている。開拓者は全身包帯塗れで手元には鎖が繋がっている。

「こいつが、大量殺人犯ねぇ‥‥」

「あの、その呼び方どうにかなりません?」

苦笑いを浮かべながらそう言っている。どの辺が大量殺人犯なのかと言われると軽く疑問と言えば疑問だ。何ていうか線が細い上にそこまで腕っぷしもよくなさそうなのがその原因かと思われる。

「村人は行方不明であんただけ怪我と血にまみれて倒れていた‥‥ってところから犯人はあんただけじゃない?」

「そう、ですね‥‥記憶があいまいなので反論の余地がまったくないですね」

 ははは、と笑いながらそんな事を言っている。何とも呑気な二人だと外にいる他の職員が見ている。一応発見者からの情報として村の中で一人で倒れているだけで、血の跡だけ残して村人は全滅していたとのことだ。

「引っかかるのは、なんであんたが生きているってところかねぇ」

「あまり、覚えてなくて‥‥気が付いたらこうなっていましたし、気が付く前はアヤカシに斬りかかろうとした所から覚えてないですから」

 ふーんといいながらゆっくり煙管を吹かしながらある程度の予想を立てていく。とにかく原因になったアヤカシは現在行方不明。目が覚めたらこんな状態との事。

「その怪我‥‥やけにひどいわね」

「ええっと、粉砕骨折とか、断裂がどうとか‥‥そういわれました」

 なるほどねぇ、と言いながらある程度の推論を立てていく。ぼんやり煙管を吹かしながら天井を見上げて。ぽつぽつと考えて。いる所に不意に後ろから声を掛けられる。

「姉御、例の村の隣村で同じ事件が‥‥」

「その隣村の周りに他の村は?距離は近いかい?」

「いえ、距離的には少々遠いですが‥‥」

 煙管の灰を落として一息つくと椅子からがたっと立ち上がってその場を後にする。取り残された二人に「ま、一応見張っておいて?」と言いながら自分の机に向かっていく。そして取り出す依頼書と墨壺に筆。
 さらさらと依頼の内容を書いていく‥‥珍しく事細かに書いているので他の職員がうろたえていたりとか。さらっと書き上げていつものように掲示板に張り付ける。

「さてと、推測の域が出ないのはいただけないけど‥‥しょうがないわねぇ」

 煙管を付け直して、一息。いつもより真面目な顔をしている。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔


■リプレイ本文

●死線
 開拓者七人、黒い影のようなアヤカシともう一人の開拓者を目の前に戦闘を繰り広げている。矢が飛び交い、魔法が飛び交い、火花を散らして、刀の鍔競り音が、血まみれになった村に響き渡る。
「ちぃ‥‥また、止めやがったナ?」
 そんな事を言いながら振り向きざまに蹴りを一発。前髪を散らしながら、飛んでくる剣線を紙一重で避ける。
「こっちにはいない‥‥早く見つけないと」
 激しい戦闘をしている反対側で、村の中を走って影を探していく。暗い村の中に光を見出すように、確実に、目を凝らして探していく。
「‥‥厄介すぎる、ほんと」
 溜息を付いて飛んできた手裏剣を避けて一息。さっきから何度も掠めているせいで神経もすり減り気味だ。マシェエライトのおかげかそのせいか、やけに正確にこちらに攻撃が飛んでくるので気が緩むとあっという間に風穴があいてしまう。
「これで、開拓者の、原因が、わかったんじゃないかな!」
 空手の組手のようにばしばしと突き出す拳をぶつけ合いつつ、前後進を繰り返し、時折飛んでくる刀の一撃のを、上体を逸らし避け、一旦後退し、また突撃。
「気は引けるけど‥‥やらなきゃ、やられる‥‥!」
 印を組み、目標にめがけて影縛りの狙いを付けていく。飛び回る相手には少々難しいが、言った通り、やらなきゃやられる。
「おわ!頼むから、大人しくさせてくれ!」
 すぱっと切れた横髪を気にしながらもじりじりと接近していく。
「まったく、大変すぎる相手じゃ」 
 ホーリーアローを詠唱し、素早く構えて一撃。祝福された聖なる矢が相手を貫き損傷を‥‥与えることはなく。
 
――数時間前にさかのぼり
「ひい、ふう、みい‥‥全員いるようだな」
 夢が受付の机をぎぃっと鳴らして背もたれている。表情からしてかなり真剣のようだ。
「んで、なんぞ集めたんダ?」
もふらの仮面を弄りつつ梢・飛鈴(ia0034)が尋ねていく。
「そこだよ、例のアヤカシが目撃されているんだ、場所はここ。被害はまだ特に報告はない、同じようにふらふらしている。あとついでに言えば二つ目の村も最初の村と同じ状況になっていた」
 報告書をどさっとおいて深くため息。煙管を吹かそうとしたところで雲母(ia6295)に火を貰って、そこから深く吸って吐き出し。
「新しい情報は、その村でも開拓者がいたことだ、これは死んでいたけどな」
「都合よく、いるもんですね」
 茜ヶ原 ほとり(ia9204)がぶつぶつと精神集中しながら気になったことをぽつりと言い放つ。それに対して返答がまったくだ、と。
「こいつも同じように体の損傷が酷かった‥‥察するに操心術か憑依にかかった奴はこうなるっぽいな」
「好奇心猫をも殺す。そんな感じかね」
 やれやれと言いつつ、トカキ=ウィンメルト(ib0323)もため息を付いている。それなりに話が都に知れているという事だろう。
「殴れれば、倒せるかな」
 ぎゅっと拳を作って脇を締めて拳を数度繰り出しつつ、九条・亮(ib3142)がかくりと首を傾げる。
「鏡のような、影のような‥‥なんにせよ気味が悪い相手です」
宮鷺 カヅキ(ib4230)が獲物の位置を直しながらそう言っている。正体不明なのはどうしても後手に回ってしまう。
「そういや、村人はいるんか?伝染病みてーに村人に襲われたらかなわねーんだが」
「心配するな、二つの事件から村人の操られていた可能性は零だ。根拠もあるぞ?村人が争った形跡がないからな」
 ふーむ、と言いながら煙管を吹かして笹倉 靖(ib6125)が考え込む。
「これ以上被害を増やすわけにもいかぬじゃろう、早速いくとするかの?」
 此方も煙管の紫煙を揺らしてから椿鬼 蜜鈴(ib6311)が準備を始める
「こっちもそいつだけに構ってられないしねぇ‥‥馬車用意しといたから、乗っていきな」
 そういうと開拓者八人馬車に乗りこんで目的地へと出発していく。
 ‥‥しばらくそれを見送った後に、もう一度椅子を軋ませて。
「‥‥やな予感がするねぇ‥‥」

――数十分前に遡り
「特に、何もないね」
 到着してから素早く索敵をしていた宮鷲が戻ってきて一言。
「村人も無事みてーだな、操られたり、とかはなかったわ」
「とりあえず、近くの倉庫に避難してもらったぞ」
 笹倉と椿鬼が戻り、この辺りも万事抜かりなく、あとは相手を倒すだけだ。
「視線が交わるとどうなるか、と言ったところか‥‥やけに嫌な予感がする」
 煙管を吹かしてから全員がいるのを確認して。
「いいか、もし操られたとしても手は抜くな。死ななければそれでいい‥‥あくまで目標は影だ、わかったな?」
 ぎろっと冷たい視線を掛けると全員が小さく頷く。
「と、お出ましのようだナ」
 横目でちらりと奥からやってくる影を見つけると散会するように合図を送って各々が配置につく。
「足元だけって難しいなぁ‥‥」
 相手の方へと松明を投げて明りを確保しつつ相手の足元を見つめて拳を握る。殆ど勘で当てなきゃいけないのはかなりものだ。
「まったく、大変だな」
 ばちばちと手から雷光を放ちながら相手を見据える。見えていれば当たるはず、外れるかもしれないが、見ないで撃つよりはましだ。
「ふぅ‥‥隙をみて、一発‥‥」
 茜ヶ原も依頼の方へと切り替えて一息ついている。ぎゅっと包帯で手を弓に括り付けて外れないようにしておく。‥‥ちらりと前にいる雲母の背中を眺めてからもう一度ぎゅっと握りしめる。
「あと‥‥数歩‥‥」
 手に精霊力を溜めていつでも魔法を撃てるようにして待ち構える。
 一定距離まで近づいて、そのから一気に開拓者が飛び出ると戦闘が開始される。
「恨みはねーが、ここで消えてもらうアル」
 視線を落として足元を見ながら接近、一定距離まで近づいたところでぎゅんっと曲がり、相手の後ろへと回り込む機動をしながら苦無を投げ始める。上体を見れないだけあって、命中精度はがたがただが、足を止めること自体は成功している。
「これ、変なところに目が生えたりしないよね」
 九条も梢の反対側に回り込みながら予想で殴ってみる。どうにも空を切っている感覚しかなくイライラしている。
「まったく、相手がしづらい、本当に」
 ちらりと障害物から相手を見て‥‥視線が交る。確かにゆらゆらと揺れてこちらの攻撃を避けているが、じっとこちらを捉えた状態でだ。
「‥‥戦闘力の高いのを使うって訳か‥‥」
 そこでぷつりと意識が途切れる。

●死線を交えた者
 ――時は戻り。
 目の前には光がなくなった雲母が影を庇うように立ちふさがる。
「多分だが、あの影‥‥自身の戦闘力はないな、だからあいつみたいに強い奴を操って捕食する‥‥か」
 マシェエライトで影を探りつつ、目の前にいる覇王に溜息を付きながら身を伏せる。
「‥‥ちぃ‥‥」
 茜ヶ原が横目で戦闘しているのを眺めて軽く舌打ちをしている。どちらを優先するか心が揺れているようだ。
「人生の中で一番難しい解術じゃね、これ?」
「いいから、早くせんと全滅じゃぞ!」
 小さく詠唱し、球を投げるように振りかぶると火球が覇王目がけて飛んでいき、爆炎をあげる。
「やれやれ、こういう形で相手するのはちょっともったいないナ」
 爆炎の中から飛んでくる手裏剣を弾き飛ばした瞬間に飛んでくる山姥包丁の一撃を苦無で逸らしてからさりげなく楽しそうに攻防を繰り広げる。多少殴ったり蹴ったりしても笑って済ませる相手はいいナとか言っていたとかどうとか
「しかし、本当にこの人、人間なの!?」
 目の前に飛んできた覇王の一撃を避けて、カウンター気味に腹部に拳を当てて距離を置く。よろめいてから、静止‥‥顔を上げてまた近づいて来る。
「脳の規制が外れているんだよ‥‥!絶対的にかかっているものを無視して最大限に能力を出せるんだ」
 気が付けば位置がずれる相手に苦戦をしながら影縛りの狙いを付ける。
「もうちょっと簡単な依頼だと思ったんだけどよぉ」
 閃癒で前にいる梢と九条を回復させながら、考えを始める。
「これ、あいつも回復した方がいいか?」
 覇王に指を刺しながら。
「あいつが言っただろ、手は抜くなって」
 山姥包丁にめがけて溜めていた精霊力を解放、サンダーの雷光が金属に吸い込まれてバチっと音が響く。それの反動か一本目の山姥包丁を落とすことに成功。
「こっちはこっちで片づけるか、三人いりゃ抑え付けれるだろーヨ」
 そういうと茜ヶ原、トカキ、九条、椿鬼が影の逃げた方向へと回り込んでいく。
 
 目の前にいるふらふらとした覇王、その気配は下手なアヤカシ以上だ。
「殺してもしなないよーなやっちゃからナァ」
 蹴りに合わせてもう一つの山姥包丁を振り、金属音が響き渡る。
「やるじゃねーカ」
 そのまま包丁で受けられている足を軸足にもう片方で上から振り下ろすように体と足を捻ってから絶破昇竜脚で一撃。‥‥その瞬間に目の前数歩先に回避されて地面を大きく陥没させる。
「しかし、本当に厄介だなぁ」
 加護結界を掛け直しながら、梵露丸をぼりぼり食べていく。閃癒に加護結界に忙しい。
「もう、昔の私じゃないんだ‥‥!」
 そういいながら天狗礫を投げつけ、相手の制動を揺らしたところへ、梢が瞬脚で飛び出てから容赦なく天呼鳳凰拳を叩きつけ一撃。軽く宙に浮かせたところへと狙いを付けて影縛りを発動し、相手の動きを止める。
「もうちょっと楽しみたかったガ、終わりダナ」
 そのまま上から馬乗りの状態になり、抑え付け。
「お、やるねぇ?」
 そういいながら接近して解術の法を施し始め‥‥脂汗を垂らし始める。
「わり、もう少し抑え付けてくれ‥‥これ厄介だわ」
「もう、限界です‥‥!」
 限界まで影を縛り終わり、一息。息を整えながらもう一度と言ったところで。
「ぐァ‥‥!」
 月涙の薄緑の気を発した矢を腹部に貰ってたじろぐ。
「ちぃ!」
 叩きつけるように解術を施した所で此方にも月涙の発した矢が肩口を貫く。
「手で握って無理やり発動なんて‥‥!」
 驚いたところで相手が振りかぶったのを見て印を組んで‥‥矢が手から射られる。すべてを貫くその矢が抉るように腹部を貫通しながらも二度目の影縛りを成功させ。
「いい加減、目ぇさませってのぉ!」
 気力を振り絞って解術の法をもう一度叩き込んだところで弾き飛ばされ。
「ったく‥‥大した奴だナ、本当ニ!」
 振りおろすように、脚をしならせて頬から首元を狙って一撃。骨の軋む音が辺りに響き渡ると、そのままぱたりと倒れこみ、動かなくなる。

●死線の終わり
 分かれた四人が影を捜索する。操られた雲母は糸の切れた操り人形のごとく倒れて動かないが小さく息をしているので生存は確認した。あとはこの事件の現況を潰すだけだ。
「いた‥‥!‥‥これで、終わり」
 先即封で足を軽く止めてから、素早く矢をつがえる。弓が最大までしなり、その力を一気に開放する。いつもより研ぎ澄まされた集中力で相手を狙い、穿つ。‥‥一本の線に見える程の速度が影を貫き、よろめかせる。
「喧嘩の割に被害が大きいけど!」
 矢が貫きよろめいている所に空気撃で完全に転倒させてから瞬脚を使って一気に接近。泰錬気法・弐による覚醒状態のまま、当たった瞬間に地面に向けて最大限の力で一度殴り、二度、三度殴って、地面に張り付けるように攻撃する。
「避けぇ!」
 九条がその声で飛びのいたところに椿鬼が両手にためていた精霊力を解き放つべく詠唱をし終えている。
「燃え尽きろ!」
 収束された精霊力の塊が爆炎の火球となって着弾、火柱が上がる
「最後まで手を抜かないけどな」
 さらに追撃のアークブラスト、雷光と雷鳴を響かせてチリチリと高音を発しながら火柱に向かって飛び、着弾。バチイ!と大きいはじける音が響き渡る。
 ゆらゆらと揺れる影が動かずにじっと黙っている。その直後、目線を上げて一番近い九条と視線が交り。
「しま‥‥った‥‥?」
 咄嗟に身構えていたところ、目の前にびぃぃぃんと揺れる矢が一本。
「伊達に、弓術師じゃない」
 九条の手と顔の隙間から一直線に影の目を貫いて瘴気にさせる。どこか覇王と似てきた。
「‥‥こいつ自身、殆ど力はないみたいだな‥‥」
「厄介なのは変わりなかったが‥‥知能と能力が優れたアヤカシ、といったところじゃな?」
 
「ふぅ‥‥大丈夫ですか‥‥?」
 倒したのを確認してからほとりが雲母の肩と弓を持って戻ってくる。こうしてみると案外小さいんだなぁと改めて思っていたとかどーとか。
「ま、村人の被害もねーし、いいんじゃないカ」
「いいなー‥‥ボクも覇王と戦いたかったー」
 ぶーぶーと文句を言っている。
「んっ‥‥助けるのに手間取った」
 ぜいぜい息を荒げつつも、止血剤や薬草で手早く治療を済ませて、ほっとする。
「こっちの被害が、大きいって」
 そんな事をいいながらその場に座り込んで一息。
「いだだだだ!俺、怪我人だから!」
「男じゃろ?我慢せい」
 傷口が埋まるくらいに止血剤を塗られている方が痛い気がするとか全員が言ったとかどうとか。