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■オープニング本文 ●ギルドにて 「ふざけるな、私はしっかり手続きをしただろうが!」 煙管をギリギリと銜えながら、上司であろう人物に食って掛かるギルド嬢のユメが机を叩きながら声を張り上げる。 わなわなと震えながら握り締めた書類を突き出して、さらに声を張り上げる。 「全てにおいて不手際はないだろう、後はここに判子を押せばいいんだよ!」 「しかしだな、今は忙しいし人手も足りないから、ダメだよ」 汗を拭いながら必死に説得をする上司。意外と頑固者同士譲ろうと言う精神はないそうだ。いい加減疲れてきたのか、ギルド嬢がもう一度机を叩き、声を上げる。 「手続きはした!よい休日を!」 思い切り扉を閉め、さっさと退出していく。その様子に思い切りため息を付いた上司は受け取った書類を眺めて、もう一度ため息を付く。 「何でこのギルドはこういうのしかいないんだろうなぁ‥‥」 窓を眺めながると、桜がひらひらと舞い散る季節になったのが嫌と言うほど分かる。その階下には春にもなり、新しい開拓者や、色々な依頼が次々にギルドに流れてきているのが自然と分かる。ため息を大きく吐き出し、机から判子を取り出して、書類に「ぽん」と一押し ‥‥これが後に起こる事件の発端とは誰も知る由も無かった‥‥。 そして判子の押された書類には「有休届け」と書かれていた。 ●数日して 「た、大変です!」 ばーん!と効果音が後ろに出るような程勢いよくあけられる扉に、お茶を零しそうになる上司。 「扉は静かにあけてほしいんだけどなぁ」 ずずず、とお茶を啜りながら「何かな?」とゆっくり落ち着いた様子でたずねる。 「ちょ、そんな事より、ユメさんはどこですか!」 「彼女なら数日前に有休とってるよ」 「引継ぎも何もしないで有休とっちゃったから‥‥報告書やら仕事やら溜まっているんです!」 それを聞いたとたんにお茶を盛大に噴出し、入ってきたギルド嬢にもろに吹きかける。 どちらも慌てて、咳き込んだり、あちゃちゃ!と叫んでいる。 「中間管理職って大変だなぁ‥‥最優先事項で彼女の捕獲をギルドに張り出せ‥‥今すぐだ」 ため息を一つついた後にギルド嬢に指示を出す。 ギルド嬢はそれを敬礼し承諾すると、すぐさま依頼書を作成し張り出すのであった。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●ギルド内、上司の部屋にて ユメの上司が仕事をのんびりとこなしながら開拓者を出迎える。 「いやぁ、すまないねぇ‥‥」 すまないねぇと言いながらも常に仕事の手を休めずに、てきぱきと仕事を続けているのを見ると、それなりに出来る人と言うのが分かる。 そんな上司を前にアルネイス(ia6104)と梢・飛鈴(ia0034)がユメについて聞き始める。流石にちゃんとした場所なので、カエルもお面もしっかりと仕舞い、開拓者らしいと言えば開拓者らしい態度をしている。 「それでユメ殿はどんな人なのですか?」 アルネイスが顎に手を当てて目標について聞き始める。隣にいる飛鈴も同じく顎に手を当てて、それを聞いている。 「そうですねぇ、やはり紅い長髪と煙管が彼女の特徴ですかねぇ‥‥基本的に彼女は風のような人だから、ふらふらしているのが多いはずだよ」 ニコニコと笑顔で対応しているが、やはり気苦労のせいか疲れているのが眼に見える。 「普通だったらクビか減俸モノアルな‥‥」 「まぁ、こっちも気軽に判子を押しちゃったのもあるから、そんなにね」 ぽりぽりと頭を掻きながら「ははは」と笑っている。 「連行するとして、有休が消されるのに対して保障とかは?」 「あぁ、それは大丈夫だよ、それなりにしっかりしているから、文句は言うかもしれないけど」 のんびり笑いながら開拓者達を見送る、上司。 アルネイスと飛鈴はため息を付きながらも少し楽しそうに部屋を後にする。 「退屈しのぎには持って来いあるナ」 「そうですかねぇ〜」 ●ギルド内、受付にて こちらは華御院 鬨(ia0351)と酒々井 統真(ia0893)の二人が他のギルド員の話を聞くべく、てこてこと聞きまわっている。 「ユメについて聞きてーんだが、どんな奴なんだ?」 「ユメさんですかー?仕事も出来る人ですけど‥‥態度は大きいですね、どこかの王様といい勝負するんじゃないでしょうか」 うにゃーと言いながら頭をかしげて他に無いか唸り始める。 「そんな人が引継ぎもしないとは何かあるんどすか?」 「ユメさんの考えている事は難しいですからねぇ‥‥多分、気まぐれじゃないですかぁ」 「何となく知り合いに似ているのがいるな‥‥」 統真が頭を抱えながら、「あぁ、振り回されるんだ」と心の中でポツリと呟く それを横目に鬨も「大変どすなぁ」とその様子を眺めくすりと笑う。 「今回は上の手違いもありますからねぇ、その分休憩が増えて私は嬉しいですが」 けらけらと笑いながらお茶を啜るギルド嬢、緩みっぱなしのギルドだと言うのがひしひしと感じられる。 「ま、いいや‥‥今回みたいな事がでないように手引書みたいなのを決めたらどうだ?」 「そうどすなぁ‥‥本当に休みたいんなら、職場を改善してから有給をとるべきどす」 「ま、ゆるゆるですからねー‥‥一応上にも伝えときますよ‥‥あ、煎餅いります?」 お茶と煎餅を食べながら嘆願書みたいな物を書き連ね始める。 このギルド嬢も一応現状には不満を募らせているようだ。 「んじゃ、頑張ってくださいね」 食べかけの煎餅を振りながら開拓者二人を見送る。 ●賭場にて こちらはおっさん二人のむさ苦しい組み合わせでサイコロを振っている。此処に来る前にギルドにて、ユメがどういう人相、人物、容姿等を聞いておいたので、ユメが来るであろう場所に張り込んで、目標を捕らえる、趣味半分の作戦に出ている。 「おっさん二人で、セニョリータを追いかけるなんて、犯罪者だな‥‥半」 喪越(ia1670)が掛け金のじっくりと考えながら隣にいる鬼灯 仄(ia1257)にたずねる。 「女を追いかけまわすのは趣味じゃないんだがなぁ‥‥半」 目の前のサイコロを眺めながら自分の掛札を前に出し、一息。 何事も人生を楽しまなければつまらない、そんな感じに賭けを楽しんでいる。 周りにいるのも、掛札を揃えていくそして「丁ないか」と言う声が響くと、部屋の暗がりから、 「丁だ」 とポツリ、一言声が届く、その声の主がどういう人物かはよく見えないが、女性だと言う事は分かる。 丁半揃ったところで、賭けが始まる。 サイコロが振られたツボを上げると‥‥ 「ニロクの丁!」 見事に撃沈した二人の札は回収され、奥にいた女性へと流れていく。 「ま、こんなもんか」 女性は立ち上がると、颯爽とその場から出て行く。 それをぼんやりと眺めていた鬼灯が、気が付く‥‥紅い髪の毛で煙管を銜えていることに。 「たまには手加減してくれよ、ユメの姉さん」 賭場の男がケラケラと笑いながら、女性へと声を掛ける。 そう、ユメと言われたことから鬼灯は確信した。 「喪越、目標だ」 「オ〜ウ、何で当たらないんだYO!」 頭を抱え、次の賭けをどうしようか悩んでいる。 そんな喪越を鬼灯が一発頭をはたき、引っ張り始める。 「いいからいくぞ!」 賭場からドタバタと流れるようにユメの後を追い、その場を後にする。 「見失ったか!?」 喪越の首根っこを掴んだまま、鬼灯があたりを見回し、ユメを探し始める。 「鬼灯旦那、あっちだ!」 指を指した方向はギルドの方、確かにちらりちらりと紅い髪の毛が見える。 二人はすぐさまユメの後を追うように雑踏の中へともぐっていく。 ●対面 そしてこちら、飛鈴とアルネイス、統真、鬨のギルド組。基本的な情報やら、人相を聞き終えたため、これから捜索と言う感じに話し合っている。 「んじゃ、とっとと探しにいくアル」 飛鈴とアルネイスが早速統真、鬨との反対側へと消えていく。 そして残された二人も探しに行こうと言う所で賭場から歩いてきたユメを見つける。 「統真はん、二人に連絡を‥‥」 「うっし、了解、時間稼ぎ頼むぜ」 統真がその場からぱっと走り出し、分かれた二人を追いかける。 鬨はそれを確認すると、ユメのほうへと歩きだし、追尾を始める。 「‥‥あまり離れると、面倒どすなぁ」 ゆっくりとユメのほうへと流れるように歩き、正面に向かっていく。 わざとぶつかり、足止めをするべく、半身が被る程度の位置に立ち歩き始める。 丁度反対側にいるユメはぼうっと煙管を銜えながらのんびりと歩いていたので、ぶつかるのは容易であった。 「っと‥‥」 ぶつかった反動で二三歩踏鞴を踏みながら、後ろに下がる。 そして鬨はぺたんと尻餅を付くと、足首を気にするようなそぶりをし始める。 「すいまへんなぁ‥‥手、貸して貰えまへんか?」 ユメに分かるように足首を押さえ、立てないと言うのを示すが。 「ちっ‥‥男の癖になよなよと」 明らかに不機嫌そうに手を引っ張りあげて、立ち上がらせると、小銭を投げつける。 「物乞いするなら、もう少し旨くやれ」 立ち上がらせるだけ立ち上がらせると、煙管を銜えなおしその場を後にするのを引きとめる。 「ちょっと、待っておくれやす、あんたが原因で足をくじいたんどすよ」 「おい、あまり私を怒らせるんじゃないぞ‥‥やるものはやっただろう」 「そういう問題では‥‥」 明らかに舌打をしたあと、鬨の襟首を掴み上げるユメ。 「では何だ、悪いが貴様が足を挫いていないのぐらい私には分かるんだぞ」 長い髪で見えないが、その奥ではかなり鋭く睨みつけている。 「それは‥‥」 ちらりと奥を見やると、賭場からずっと追い続けてきた、おっさんズが追いついてい来る。 「鬼灯旦那、ありゃちょっとまずいんじゃないか?」 「いや、足止めとしては100点満点だ」 追いついた二人がユメの後ろに付いた所で飛鈴、アルネイス、統真が鬨の後ろへと追いつく。 「おや、開拓者だったか」 ぱっと手を離して、ぐるりと顔を眺めるユメ、彼女が何を考えているのがさっぱり分からない。 「ユメ殿ですね、お縄につくです!」 「ちょっとそれは違うんじゃないアルか?」 びしっと指を指しながらどこぞのちびっこ探偵のように振舞う、その後ろでしっかりとツッコミをいれているのも流石といえば流石だ。 「お前さんが有休取ったせいで連れ戻すってことになった、それに見逃す訳にもいかねーんだ。残りの有給、開拓者との鬼ごっこで潰す気か?」 煙管をぱたぱたと銜えていたのをやめて、ぽんと手を叩くユメ。 今の発言で何か面白い事を考えたのか機嫌のよさそうに髪の毛を掻き揚げる。 「いいだろう、鬼ごっこをしようじゃないか、丁度暇をしていたところなんだ」 楽しそうに煙管を吹かし、数歩離れると開拓者達に。 「私が捕まったら素直にギルドに戻る、仕事もしよう。ただ掴まえられなかったらお前らの負け、残りの有休を楽しむ‥‥どうだ?」 統真ががくぜんと「やっちまった」という雰囲気をだしながらも他の開拓者達は「手っ取り早くていいじゃないか」という感じに身構える。 「やれやれ、血気盛んなギルド嬢だ」 鬼灯が煙管を一度吸い、ゆっくりと吐き出す。 「HEY!YOU!先手必勝!」 喪越がぱっと懐から符を取り出し、人魂を発動、どうみてもセクハラしかしないような顔つきの猿がユメに向かって飛んでいく。 が、ユメが一度低く腰を落として身構えると、真っ二つに切り裂かれるエロ猿。 「Oh!No〜!」 「流石、と言うところどすか」 一瞬で居合いをすませ、符を断ち切ると、右腰に小太刀を収めるユメ。 その光景をみた瞬間にはじけ飛ぶように飛鈴、統真が走り出す。 「まー、観念するとイイネ」 「全くだな!」 瞬脚を使った統真が回り込み、前を塞ぐ形で飛鈴が一気に間合いを詰めていく。 「やはり開拓者やっていたほうが私は良かったかもしれん」 にやりと笑うと丁度横にある路地に飛び込み、挟撃を回避する。 「む、代休とか、色々手当てがでるらしいですけどー!」 思い出したようにアルネイスが路地に向かって、有益な情報を叫ぶが、本人にとっては既にどうでもよいのだろうか、返事は無い。 「マジかよ!くっそ!」 「拳士を舐めたらアカン」 統真、飛鈴はそのまま屋根伝いにユメを追いかけ始めていく。 「うちらも追いかけるどすか」 「これは本気でやらんとダメっぽいな」 それの後を追うようにアルネイス、鬨、鬼灯も走り始める。 しかし、その後ろでは。 「NO〜!藤吉朗〜!」 真っ二つにされた符を眺めながらがっくりと涙を流し続ける喪越‥‥動機はある程度不純だったが、これはこれで可哀想だ。 ●ギルド嬢対開拓者 ひたすらと逃げるギルド嬢を屋根伝いに追いかけるが影が二つ。 それを楽しみながら、逃げるユメ。 「なかなか面倒な相手だな!」 統真がもう一度瞬脚を使い、路地の無い所で回りこむ。 流石に突破するのは難しいと想ったのか、その場で立ち止まり、構える。 「たまには運動しないと、なぁ?」 左手を「かかってこい」という仕草をする。 それを機に、統真も一気に間合いをつめて攻撃を仕掛ける。 「手加減できねーが、恨むなよ!」 右拳、左拳、と連打を放ち、完全にギルド嬢というのを忘れ、相手をし始める。 その連打をひたすらに受け流し、楽しそうに相手をし続けるユメ。 「流石、熟練の開拓者と言うところだな、防戦しか、できん」 元開拓者というだけあってか流れるような受け流しを続けるが、ブランクのせいか、やはりそれなりに拳が掠め、多少なりと苦笑している。 「足止め、ご苦労さんアル」 次こそ挟撃する形で飛鈴がユメの背後から攻撃を始める。 気配を感じ取ったのか、半身を捻り、攻撃を避けながら、横にずれる。 丁度家屋を背に、前に開拓者という状況になると同時に、路地から走ってきた四人がやってくる。 「さ、ユメ殿、覚悟するといいです!」 「ここで、ごねても仕方ないどす」 アルネイスと鬨がじりじりと近づきながら、捕獲の機会を伺う。 そしてその隣では、鬼灯、喪越が獲物を構えながらゆっくり近づく。 「もう一度、食らうといいYO!」 性懲りも無く、符を投げつけ、二匹目の藤吉朗がばっさりと真っ二つにされる。 「ま、観念してもらうかね」 鬼灯がその後ろから、徒手で捕獲しようと掛かる。 それも楽しそうに、受けながらじりじりと後退。 「おぉ、やるなぁ‥‥だが、甘いな」 繰り出した右手を避けられると、腹部に重い蹴りを貰い、踏鞴を踏みながら後ろに下がる鬼灯、意外な反撃に驚きながらも、態勢を立て直す。 「お、耐えたか‥‥じゃあいくぞぉ!」 ニヤリと笑うと開拓者に飛びかかるユメ 自分の欲を満たす為か、どうなのかは分からないが、暴れ始める。 それは、六人がかりでも手がつけられない程であった‥‥。 ●ギルド前にて ‥‥数十分間、結局暴れるだけ、暴れたせいもあるのか、その後、あっさりと投降し、ギルドに戻っていく。 「楽しかったぞ、開拓者」 不満も何もない顔でさっさと自分の仕事に取り掛かる。 彼女にとってはこれも休暇の内だと言い、また遊んでくれと言う。 そんな光景を見たあと、開拓者達は、思い思いに大きなため息を付き、この事件がおわるのであった。 |