【お館】山登り
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/01 04:42



■オープニング本文

●お屋敷にて
 おやかた様がごろごろとしながらやけに不機嫌そうな顔をしている。
 この間結構本気を出しながらもやられたのが原因らしい。

「まぁ、十対一じゃないですか」

 お茶と羊羹を置いて爺がなでなでと。
 撫でられながら羊羹をはもはも食べつつ、唸っている。

「やっぱり不服ですかな」

 撫でるのをやめると奥に行ってしまう爺。それを首をかしげて見ていると、何かを持って戻ってくる。
 野営道具一式と言ったところだろうか。結構な量の物を持ってきている。

「たまにはごろごろしてないで山籠もりでもどうですかな、最近なまってるようですし」

 どしゃっと置いたのは天幕やら毛布やらの道具一式。
 それなりに使い古されているせいかちょっとぼろぼろな部分が目立つ。

「久しぶりに出したので埃が被って‥‥先代も良く山籠もりなさっていましたよ」

 それを聞いてか一唸りしてから立ち上がり。

「ちょっとギルドに行ってくるぞ、それ‥‥準備しておくのじゃ」

 満足げな顔をしてお見送り、早速準備にはいる爺だった。

●ギルドにて
 暑さでやられている夢が目の前にやってきたちんちくりんを眺めて。

「なによぉ、何か用事‥‥?」

「うむ、わらわの弟子たちやらを集めて山籠もりしようかと思ってな」

「ふーん‥‥まぁ、いいけど、何日くらい?」

「わらわも忙しいからのう‥‥四日くらいを目安に、じゃの」

 ふーんと言いながらもさらさらと依頼書に書き込みを始めていく。
 おやかた様と山籠もり、とだけ書かれた紙をぱたぱた乾燥させ始める。

「相変わらず適当じゃのう‥‥」

「だって結局あんたが説明するじゃないの」

 そりゃな、と言いながら笑いあう二人だとか。


■参加者一覧
風間・総一郎(ia0031
25歳・男・志
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
禾室(ib3232
13歳・女・シ
八重坂 なつめ(ib3895
18歳・女・サ
白銀狐(ib4196
14歳・女・シ
ルキノ(ib6603
20歳・女・砂
サフィラ=E=S(ib6615
23歳・女・ジ
ミル・エクレール(ib6630
13歳・女・砂
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ
六車 焔迅(ib7427
17歳・男・砲


■リプレイ本文

●お屋敷前にて
 随分と軽装なおやかた様とそれに引き替え軽〜重装な開拓者。この辺を眺めて爺がにやりと笑いを浮かべる、熟練したからこそ分かるところだろうか。
「おやおや‥‥そんな重装備で‥‥これは楽しみになりそうですね」
 その横でおやかた様もくすくすと笑っている。
「さーて、出発するとするかのぉ‥‥遅れるんじゃーないぞ?」
 よいしょっと荷物を背負ってから早速と言わんばかりに山登りに向かっていく。

●おやかた様との三泊四日の地獄の野営
 山登り、ゆったりした家族連れで行くようなしっかりした道があるような所から野営地に向かうわけでもなく、険しそうな山を見つけてから‥‥。
「よし、ここに行くか」
 びしっと道沿いの山‥‥なんかではなく、その道から外れたどう見ても未踏のやばそうな山だ。
「‥‥ほんとうにあそこ行くんですか?」
 重装備な不破 颯(ib0495)が冷や汗を流しながら指を刺している、どうみても手が震えている。そりゃそうだろうと思われるが。
「当たり前じゃろ?くだらん山登り気分ならさっさと帰るといい」
 鼻歌を奏でながらやばそうな山へと進んでいく。その後ろをとてとてと近づいていく禾室(ib3232)が辺りを見回してからおやかた様を見つめて。
「わしと同年代なのに『おやかた様』と呼ばれるということは、おやかた殿は凄いんじゃなぁ‥‥本名は‥‥?」
 首をかくりとまげて疑問に思う。それを隣で聞いている他の開拓者も「そういえば‥‥」と声をそろえている。わかっているのは玖流滝という名前だけ。それを聞いて横目がちに「秘密じゃ♪」と。
「(後頭部‥‥後頭部‥‥撫でる、隙を見て、撫でる‥‥)」
 その後ろ、ぶつぶつ言っているのは八重坂 なつめ(ib3895)先ほどからじーっとおやかた様の後頭部を見つめてずっと言っている。きっとおやかた様の隙をつけられるようになれば強くなれるとかどうとか。
「おやかた様、大丈夫ですか心配ですの‥‥」
 先ほど出発前に白銀狐(ib4196)が爺に聞いておいたが本当におやかた様の荷物に食料は一切入ってないとの事。追い込むためとは言え少々心配だとちょっとおろおろ。そんな白銀狐をくすくす笑っているおやかた様。
「おやかた様は相変わらずだね」
 後ろでルキノ(ib6603)が釣竿を肩に担ぎながらのんびりやり取りを見ている。今回はのんびり修行がてら魚釣りだ。
「はわー‥‥緑がいっぱいっ!すっごく‥‥危険そうだぁ‥‥」
行こうとした先と違う所を指さされたのでそっちを眺めてみるサフィラ=E=S(ib6615)緑というかどす黒い感じが溢れている。ひしひしと嫌な予感。
「今回もなんだか大変なことになった気がする」
 丁度通り道に生えていた木の実を一粒口に放り込んでいるミル・エクレール(ib6630)残念ながら渋いのかぺっぺと吐き出して手帳に何かを書き込んでいる。これも経験。
「準備はちゃんとしてきたけど‥‥あの山だと裏目にでましたかね‥‥」
サラファ・トゥール(ib6650)が自分の荷物を見つめてちょっと溜息。これはちょっと持ってきすぎたかな?と呟いている。とりあえずこれも修行だな。と言い聞かせてたり。
 その後ろを六車 焔迅(ib7427)がついていく。とりあえず何をしゃべっていいか分からないといいながらおやかた様の周りを見つめている。これも修行の内‥‥というのかは定かではない。
「ほれ、遅れとるとおいていくぞ」


 とりあえずまずは天幕を張る場所をまでたどり着かなければならない。どう見てもどうやっても道なき道を歩いていくおやかた様と開拓者達。がさがさと隣の茂みからは訳の分からない鳴き声は聞こえてくるわ、太陽の日差しなんて一つも入ってこないわ‥‥山登り気分というよりは開拓気分。命の危険すらある。
「よし、この辺にしておくかの‥‥と、いう事があったのう」
 ぜいぜい息を切らしながら開拓者達も話を聞き始める。
「まず一つ、死ぬな。二つ、逃げるな。三つ、生きろ。以上だ」
 ぽかーんと開拓者が口をあけている。修行だからって甘えたことをぬかすとおやかた様からきついお仕置きがまっているだろう。とはいえ一日目ですでに夕方。開拓者達はそれぞれ持ち込んだ食料を使って料理をし始める。‥‥簡易的な食糧なので本格的な物は明日以降という事になるだろう。ちなみに持ち込んだ食物の大半がここで消化されることになる。何はともあれ、まずはここまでやってきた疲れを癒し、明日の修行の為に備える。

 二日目、木々の間から日が差し込み、開拓者が起き上がる。これから二日間修行に徹するのみ。
「さて‥‥元気に修行するとしようかのう」
 そういうと各自の修行に向かっていく。と、その前に千室があまよみを使って天気予報。結果はずーっと晴れ、晴れ、晴れ、言うとすると暑い晴れ。ちょっとげんなり。ミルも砂利やら砂やらを使って真水を作って配っておく。

 森の中不破が自分の弓を持ちながら適当な木に白墨で的を書き始める。その片手には蚊取り線香を付けて虫よけもしている。何か先ほど握りこぶし大のアヤカシのような蟲がいた気がするが気にしない。とにかく修行を始める。
「流石に止まった的だと、楽すぎかね」
 トスッ、トスッと心地よい音が響きながら木が矢だらけになっていく。まぁ、普通の事だ。むしろこれぐらいやらないと上には上がいすぎるせいで、どうともと言った感じだろうか。朝食を食べてからは的に絵をかいて、急所や各部位に正確にぱすぱすと撃ち続ける。‥‥とはいえ、立ち止っている相手を外すことはないのだが。走り回って的を狙って攻撃しても、結果は大体同じ。
「ああいう鳥とかは‥‥」
 見上げると鷹だか鳶がえらい勢いで小鳥を咥えて飛んでいる。高度差と高速飛行してる相手に何本か矢を撃ちこんでみるものの‥‥普通に当たらないのが世の常。
「どうやって、当てているのだろうねぇ‥‥」
 じっくり考える。

「これは‥‥」
 じーっとキノコを見つめている千室、つんつこと指で突いてみる。特に変化なし、色味悪し、匂い良し。見るからにとても怪しい。
「女は度胸‥‥いただくのじゃ」
 ぽいっと口の中に入れてもぐもぐと‥‥びくん!と尻尾と尻尾を一度振るわせ、すぐにそれを吐き出して死毒ですぐさま解毒する。
「げほげほっ!‥‥今のは、本気でやばかった‥‥」
 ふうふうと息を荒くしながら手帳にキノコの形状と味と毒性について書いていく、どうやら視神経にくる毒らしい。変に目がちかちかとしてぼんやりする。
「味も、悪し‥‥」
とにかく水を飲んで一息つきたいところ、水場もついでに探しておく。何かあった時の為の備えとして水を確保。超越聴覚で耳をぴくぴく動かして川を探し当てに行く。
「お、結構見つけたのじゃ」
 川岸に近寄って頭を入れてもきゅもきゅ飲んで一息。ついでに顔も洗ってさっぱりしておく。で、顔を洗ってさっぱりしたところで目の前に飛び込んでくる植物一つ‥‥ぱくっ。
「‥‥うぇぇ‥‥」
 どうやらとても苦いらしい。だばぁと口から吐き出しながらもう一度川に顔を突っ込んで口をゆすぐ。顔を上げて少し見上げると木の実を発見‥‥懲りないようだ。

 こちらではしょんぼりしている八重坂が修行中。今日の朝からおやかた様の後頭部を撫でるというという偉業を成し遂げるために一日じっくり見てみたが、隙がなくて断念中。とはいえ撫でるだけで四日間を過ごすのはいただけない。少し開けた場所で槍「黒十字」を構えると一息つき、頭の中で状況を想定していく。敵の数、足場の有無、明暗。そしてそのまま、一突き。鋭く突かれた一撃で一人目を倒す。と、同時にすぐに振りぬいて石突きで一撃、怯んでいる所に槍を半回転、下から抉るように切りあげて二人目。
「むぅ‥‥相手がいないと難しいです」
 ひゅんひゅんと槍を構え直してもう一息。目の前にある木の一点に集中して突きを繰り出していく。単純ながらも基礎中の基礎、ひたすら突きまくる。コツコツと音を鳴らして円形に、十字に、と少しずつ突き方を変えながら、持ち手を切り返して下段から木をなぞるように振り上げる。と、同時に真っ二つになっていく的役の木。
「おぉ‥‥」
 しげしげと槍を見つめて首をかしげる。何かすごいのが出来たなぁ、と。

 コツコツと心地よい音が響いている中、白銀狐が森を走っている。後ろにはとても激昂している熊が一匹。なんていうか白銀狐三人分位の大きさのがかなりの速度で木々をなぎ倒しながら接近していく。
 ‥‥少々前、おやかた様の頭を撫でてから今日のご飯と修行という事で熊か猪でもいないかなーと探していたところ、本当にいるんだもの。ぐるると辺りを眺めている熊一匹、修行の相手としても申し分ないと手裏剣を数発投げてこちらに気が付かせてから対峙。ずもももと立ち上がった熊が予想以上にデカすぎた。‥‥と言うわけで現状、追いかけられている。
「ちょっと、速すぎる、ですの!」
 振り向きながら手裏剣を数発投げ、足止め‥‥するには少々攻撃力不足だろうか。さらに激昂して木々をなぎ倒しながら走ってくる。
「でも、負けないですの!」
 ぴょんぴょん木々を飛びながら後ろの熊に追いつかれつつある。勢いよく鋭い爪が飛んでくるのをぎりぎりで避けてから一息ついて飛び上がり、後頭部、首裏の辺りを狙いつけて忍刀「暁」を付き下ろし、一撃。肉の斬れる音と鮮血が飛び散る中、必死に刀を押し込んでいく。暴れまわる熊に負けて刀を抜きつつ吹っ飛ばされている間に熊は逃げて終わる。また、出てきそうではあるが。

 こちらは魚釣りやら川岸にやってきている組。ルキノとサフィラがのんびりと釣り糸を垂らしてぼうっと魚が釣れるのを待っている。ルキノはというとくるくると片手で銃を回しながら釣り糸をじっと見つめている。単純ながらにかなりの神経を使うのでまだまだ危なっかしい。ぴくんと釣り糸に気を取られれば銃の制動が危うくなり、逆に銃の制動を意識すると餌が食われる。
「なかなか難しいのは‥‥もう一つが原因かな?」
 ちらりと横を見るとわたわたとサフィラが所狭しと動き回っている。楽しそうに岩を転がしてミミズを取り出すと釣り糸を垂らす‥‥しばらく釣れないと我慢できなくなって別の場所で釣り糸を垂らす‥‥そんな事の繰り返し。
「うー‥‥忍耐を鍛えるのにいいけど、暇だよぉ!」
 むすーっとしながら魚釣りをするのだが、耐えられなくて山菜取りに変わり始める。天儀の山の中が初めてのもあるので色々ときょろきょろと見回しながら進んでいくのをルキノが眺めて一息。
「面白い子だ」
 くすくす笑いながらも修行は続く。
 そのもう少し下流ではサラファも鞭を使いながら魚を捕まえている。小さい獲物を捕まえるのはなかなかに難しい、うまく狙いを定めて鞭で水面を一撃。パンと弾ける音と共に跳ね上がる魚を鞭で捕まえて手元へと投げるように手首のひねりを加えて器用に取り続けていく。
「明日はおやかた様に修行を付き合ってもらおうか」
 他の子も模擬戦をするようだし、と言いながら器用に魚を取り続ける。今日の夕飯は少し豪勢にしようとちょっと張り切り気味。

 こっちの森の中ではミルがバダドサイトを使って木々の合間にいる目標を見据えて、獲物の数を数えている。兎が三羽に猪二頭、激昂している傷を負った熊が一匹。牡鹿女鹿が二匹ずつ。パッと見てそれぐらいかな、と一息ついて視界を元に戻すと近くに兎が一羽。どうにも仕方がない事だが近距離戦闘に持ち込まれると多分手が出ないだろう。とりあえずある程度準備運動やら体の調子を確認して。
「あとは、おやかた様とやってみるかな」
 ぐっと握りこぶしを作りながらサリックでの挙動を確かめて体の調子を整えていく。

 こちらではじっと山に潜んでいる六車、獲物が来るのを待っているが‥‥そうそうひっかかるほどではない、また風もこの森の中じゃ殆ど流れないときている。先ほど咆哮を上げている熊が通って行ってかなり命の危険を感じたが、何とか息をひそめていたおかげで助かった。あの大きさになると下手な生命力ではない。なおかつ手負いの獣は何をしでかすかわからない。
「‥‥こないな‥‥」
 人が来たことにより警戒しているのか獣をあまり見かけない。素人がいきなりやって成功するわけもなく、しょうがない事だが。

 そんなこんなで二日目が終わると取ってきた魚やら獲物をやらを調理して捌き始める。千室とサフィラがあれがダメだこれがダメだと言いつつその間に魚を焼いている。残念ながら肉は次の機会だ。

 三日目、実質的な最終日。おやかた様を連れ出して数人が組み手をしたいというので相手をするおやかた様。
「時間もないから全員でかかってきていいぞ?」
 不破、白銀狐、サフィラにミルにサラファ。見物に千室と八重坂。六車は獲物を捕らえるためにすでに森の中に行っている。
 とにかくかかってこいと言われたのでかかりにいく。まずは不破がぐるぐるとおやかた様の周りを走りながら射撃する‥‥前に基本的に苦無で迎撃される。走っている間が無防備なせいで殆ど攻撃手をつぶされている。
「移動のしすぎだ」
 そういっている隙に白銀狐とミルが飛び出し、手裏剣とサリックでの攻撃で牽制、銃弾を滑るように刀で受け流して手裏剣を弾き飛ばす。さらもそこからサフィラが握り拳を作って一撃。何ていうか泥臭い攻撃を繰り出しつつお館様の攻撃も避けて‥‥と言ったところで耳をくにくにと弄られてぺたりこむ。
「ひにゃあああああ!」
 真っ赤になりながらその場に座り込む。腕はいいけど敏感だな、とか。その間に白銀狐も接近しつつ暁による攻撃を繰り出しながら肉薄しつつ、攻防を広げていく。その後ろでサラファも鞭で獲物を奪い、お館様の手を潰そうとするものの、中々隙を付けずに今一。ミルも混戦状態で流石に弾丸を打つのは気が引けるのだろうか、一撃一撃が丁寧だ。そんなこんなで手合わせを続けていく開拓者とお館様、満足げに手合わせをするお館様だったとか。

 ‥‥日も暮れて散々殴られたりした割には元気な開拓者が夕ご飯を作っているところに、おやかた様と白銀狐が熊を引きずって帰ってくる。
「今日はちゃんと食べるのじゃぞ、残したら拳骨じゃ」
 これを食べきるのに苦戦したとたとかどうとか。とにかく鍋やら焼肉やらで消化して、食べきれない部分は干し肉として爺にお土産という事になった。


●お屋敷にて
 全員ぼろぼろになりながらお屋敷まで戻ってくる。熊のせいで荷物が増えたが、まぁ、いいだろう。
「んー、もうちょっといたかったのう」
 何だかんだで元気なお館様、そんな元気なおやかた様をいいこいいこと言いながら八重坂が撫でている。おやかた様ご満悦。