人影
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/17 21:20



■オープニング本文

●人影一つ
 ゆらゆらと何を思っているのか分からない黒尽くめの人影が歩いている。
 何を思っているのか何をしようというのかは全くもって分からない、ただひたすら前に歩いている。
 時折誰かに当るとふらふらとよろめき、また別の方向を向いて前へ歩いていく。
 全てに身を任せてと言った感じにただ前へ歩いていく。
 

 そうして歩いていくと何を思ったのか山賊が現れ、その人影に付きかかる。
 何を思ってかどうかは知らないが、特に理由は無いだろう、今日さえ良ければ良いという連中だ。
 そういった理由でその人影に刃物を突きつけ、掴みかかる。
 その直後、吹き飛ばされる山賊。
 人影は特に何もしていない。
 胸元を掴まれ、前を進むのを邪魔されただけだ。
 膝を付いた状態から立ち上がるとゆっくりとだが目の前の山賊を睨む。
 そうして腕を前に出して、一呼吸。
 直後にもう一人の山賊が大きく吹き飛ばされて木にたたきつけられる。
 かろじて意識はあるようだが、かなりの威力で何をされたのか分からないせいもあってか恐怖する。
 今、此処でこいつに手を出したのが間違いであったと。
 狙いを付けるごとに吹き飛ばされて前で進む為の障害を排除する。
 
 一人は木々にめり込むように。 
 一人は岩へとたたきつけられひしゃげ。
 一人は骨を砕かれて。

 そうして人影が去る頃には山賊の明日は消えていった。

 
 人影は前へと進んでいく。
 目の前に物があれば排除する。
 それが家屋であれ、人であれ、ケモノであれ、アヤカシであれ。
 前へと進む障害は全て排除する。
 それが人影に課せられた物の様に。

●ギルドにて
 一人の村人がギルドの受付へと入ってくる。
 容姿は普通の村人、貧富の差も無く、いたって普通の村人だ。

「開拓者ギルドはここで、いいんだよな?」

「何か依頼ですかねぇ?」

 いつものように何時もの態度で夢が受付を始める‥‥のだが、村人の雰囲気を感じ取ってか足を下ろしてちゃんとした状態になり。

「用件を詳しく」

「はい‥‥私の村はいたって普通の村だったのですが、数日前に黒尽くめの人影がやってきてですね」

 一つずつ、起こった出来事を話していく。
 ある日突然、何事もない村の家屋が一つ破壊された。
 勿論それは唐突に起きた事であり、原因を探るのは常である。
 その破壊された家屋へと向かい、村人が集まると人影が一つ。
 何故か、どうしてかを問い始めると、いきなり村人が吹き飛び絶命。
 それは周囲にいた村人へと被害を及ぼし、家屋も全滅。
 生き残った彼だけがここへとやってきて依頼を頼んだ、と言うところだ。
 
「何を目的に何を思ってかは知りませんが‥‥これ以上私達のような被害者を増やすわけには」

 そういってそれなりに膨らんだ袋を一つ置いて。

「これでどうにか、人影を退治してもらえませんか」

「‥‥一つ聞くけど、物理的に接触する事はできるんだね?」

「そう、ですね‥‥見たところ幽霊の類ではないかと」

 そう聞くと依頼書を取り出して筆を滑らせて行く。
 

 ――数日後、開拓者ギルドに討伐依頼の依頼書が張り出された


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
贋龍(ia9407
18歳・男・志
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
ノルティア(ib0983
10歳・女・騎
玉虎(ib3525
16歳・女・弓
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

●人影
 開拓者八人、黒い人影への退治へと参加し此処に集う。
 直進するので後は待ち受けて迎撃と言う形ではあるが、どこで進行方向を変えるかわからない。
「さてと、何とも不気味な相手だけど、これは放っておくわけにもいかない‥‥なんとしても止めてみせます」
 真亡・雫(ia0432)が、人影がやってくるであろう地点で自身の獲物を握り締めてそういう。そして心の中で見ず知らずの人の事を思ってくれた依頼者のためにも、と呟く。
「いやはや、強敵のようで‥‥油断せず、慢心せず、といった所ですかね‥‥壁程度になればいいですかね、僕は」
 真亡の隣で屈伸をしながら壁からやってくるであろう道を眺めてぽつりと贋龍(ia9407)が言っている。今回は防御中心かな、とも言っている。
「正体不明の力を使う正体不明の存在を相手とは中々に大変なお仕事ですね〜‥‥」
 サーシャ(ia9980)がそう言いながら大剣「オーガスレイヤー」の手入れをしながら待ち構える。結局の所情報が少なすぎて正体不明であるので中々にやりづらいのだろう。
「ともかく壁は用意しておいたけどな」
 一通りの仕込みが終わったオラース・カノーヴァ(ib0141)が戻ってきてそんな事を言っている。後ろにはストーンウォール十枚にアイアンウォールが一枚構成されている。はたして聞くかどうかは今一ではあるが。依頼人からの情報は事後についての事だったので詳しい事はわからなかった。戦闘の専門でもない一般人から得られるのは状況だけといった所だ。
「流れるまま‥‥ひたすら、前に。なんか‥‥亡霊、みたいだけど‥‥?」
 んぅー?と顎に人差し指を当てて考えているのはノルティア(ib0983)。何かが引っかかるのだろうか、亡霊ではあるが実体はある。その辺で引っかかっているのだろう。
「避けて通れば良いのに。どうして酷い事するの」
 ぎゅっとロングボウ「フェイルノート」を握って、人影がやってくるであろう方向を向いてそんな事を零す玉虎(ib3525)。それは人影にしかわからないこと。理由を問いたいと小さく決意する。
「別に何処かへ向かっているわけでもないのにね。どういう意味が‥‥ないのかしら」
 此方もアイアンウォールを数枚設置し終わり戻ってきたリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)がどういう理由かを考えながら戻ってくる。
「人影は進行方向に障害物があると排除するみたいだし、その辺が理由なのかな?」
 マスケット「魔弾」に装填しながら叢雲 怜(ib5488)が聞いた特徴を思い出しながら道のほうを眺めて、そこから狙撃位置を探す。そこから色々とあるのだが、ともかく撃ちやすい位置を決めてから後は人影を見てから、といったところだろう。

 何一つ良くわからない相手へ警戒等をしていると‥‥
「んー‥‥ほんとにまっくろくろなのだぜ?」
 じぃっと目を凝らして叢雲が人影を見つけてそういうと全員が獲物を構えて迎撃に向かっていく。

●突き抜けるは衝撃
 ふらふらと歩いている人影、何を思って何の為に歩いているのかは全くわからないが、害があるのは確かである。迎撃に出てきた開拓者八人、壁の裏から眺めて相手の様子を伺い始める。
 人影、ふらふらゆらゆら柳の様に揺れながら設置されている壁に「どん」とぶつかり制止、開拓者達が見ている中、しばしの沈黙の後、大きな破砕音と共に土煙が上がる。
「‥‥すごい、破壊力。当ったら、厳しいかな‥‥」
 目を凝らしながら土煙の中の様子を伺いつつ獲物を構える。一枚ずつ、確実に壁を破壊しながら此方に近づいてきている。
「うわ、向こう本気っぽい」
 そう言いながらも目つきを鋭く光らせて玉虎が射撃し始める。弦を引き絞り、しっかりと矢を番えて放つ。が、射程約百、ふらふらとゆれる標的を狙うのは中々に難しい、何発も撃ち人影をかすめていく。常人ならば怯みはするのだろうが、何一つ動じていない。
「大体、この速度で、風向きは‥‥大丈夫だな」
 左目を瞑って銃床を右肩にしっかりとつけてぶれないように何度か動かして狙いをつける、照準の凹凸をしっかりと合わせてから引き金を絞り、発砲。火薬が点火し、銃口から火を噴くように光が飛び出し、白い硝煙があふれ出し、破裂音が辺りに響く。鉛の弾丸を銃口独特の捻りの加わった軌道で人影の軽く上を通過、すると同時にかくんと弾丸が落ちて肩口と思える部分に当る。
「あれ、結構余裕?」
 確かに一撃貰ってよろめいている、しかしその歩みは終わらない。矢をかすめ、弾丸を食らおうがまだまだ。
「流石に強いですね」
 次々に破壊されている壁を眺めながら真亡がじっくりと相手の強さを確かめている。見れば見るほど頭が痛くなっているが。
「やるしか、ないでしょうけど」
 二振りの降魔刀を握り締め、馴染ませて、しくじらないように手ごたえを確かめ。
「あぁ、もう‥‥!止まらないわね!」
 破壊される壁、数枚手前の壁からアークブラストを撃ち込みながら手ごたえを確かめる。胴体部分に直撃しているのを何度か見ているのだがそれでも立ち上がって此方にやってきている。
「痛みは感じないと言った所かね」
 マキビシを壁の合間においてみたもののそれも踏み抜いて此方にやってくる。リーゼロッテが疲れたところをオラースが変わってアークブラストの波状攻撃だが、止まらずに進んでくる。
「このままじゃ‥‥終わら、ない」
 ベイル「翼竜鱗」を構えながら進行している人影へと近づいていく。土煙の中、壁を破壊している人影を見ていると、いちいち目の前の壁にぶつかってから破壊しているのがわかる。側面に回って盾を構えたままその様子を眺める‥‥手は出してこないようだ。
「とにかくやってみればわかるでしょう!」
 下段に構えてから思い切り体重を掛けて上段から一気に大剣「オーガスレイヤー」を振り下ろして人影へと一撃。「めきょ」っとめり込む嫌な感触が手に通じる。歪に変形している頭が見えてから、ゆっくりと下がった頭を持ち上げていく。凹型になった頭の隙間から光る眼孔とサーシャの目が合うと同時に「トン」と体を押すと同時に後ろへと飛んで行き、設置されたアイアンウォールを数枚突き破ってたたきつけられる。
「これは、まずいかな」
 二撃目の準備をしている所へと真亡が飛び出し白線と梅の香り放ちながらを滑るようにふるって妨害、頭の形を戻しながら人影が多々良を踏んで大きくよろめく。
 その隙を目掛けて側面待機していたノルティアが飛び出し、逆手持ちに構えた刀「鬼神丸」さらに追撃を加えて体勢を崩しにかかる。粘りの強い刀身が人影を滑ると同時に何とも言いがたい違和感が手に伝わってくる。
「倒して、畳み掛けて、終わらせる」
 二振りの降魔刀を構え、その刀身が振るわれるたびに閃光が人影へと飛んでいく。バチバチと破裂音を発しながらよろめいている人影へと当り、バチンと大きい破裂音が響き始める。そしてそれを何度も繰り返して人影を圧倒、さらに後ろからはアークブラストの連射も。連なる閃光と雷鳴が人影を包みながらある程度攻撃を続け、一息。
「‥‥流石に、強敵ですね」
 上半身が思い切り後ろに仰け反っているのにしっかりと二本の足で立っている人影にため息と感銘すら受けながら刀「水岸」を構えて接近。それと同時に「ぐん」と上体を起こした人影と接触、刀から衝撃が伝わり足跡をつけながら後退。
「これ、は。まずい‥‥!」
 左手で真亡を仰け反らしたのは確認した、次に右手が此方に向いている、冷や汗を流しながら素早く盾にオーラをこめて構えると同時にめきめきと盾の歪む音と衝撃が手から伝わってくる。一点に衝撃が伝わり、奥歯をかみ締めながら其れに耐える。
「面倒な相手だな」
 ストーンウォールを張りなおしながら相手を確認し第二派への準備を進めていく。が、張りなおしている途中に衝撃が飛び、詠唱中の合間にごろごろと転がっていく。
「疲れる相手ね、ほんっと」
 ぜいぜいと息を切らしながら練力の計算を始めていく。最初に設置した壁の分が結構きている。
「いい加減倒れてほしいのだ!」
 射撃と単動作を組み合わせて射撃、肩口に当った瞬間に炸裂、確実に捉えていたと思ったところに、衝撃が飛んでくる。咄嗟に構えた銃で直撃はしなかったもののかなりの損傷を貰う。勿論近くにいた玉虎も例外ではなく、
「いやっ‥‥いやぁ!」
 背中を思い切り打ち、肺から空気を搾り出されたような感覚に何度も咳き込み始める。
「発狂、ってわけじゃないのかしら!」
 目には見えないが貫通して飛んでくる衝撃を確認してから詠唱、自身にホーリースペルをかけて防御力を上げてからその一撃に耐える。何度か壁を貫通してきたおかげで威力は落ちているがそれでもかなりの威力ではある、突き刺さって抜けるような衝撃に膝を付くほど。
「頼むから、倒れてくれ‥‥!」
 自身の練力が尽きるまで刀から何度も雷鳴を発しながら贋龍が攻撃の手を休めずに立ち回る。既に練力は空になりつつも刀を振るい続ける。
「いい加減、やられてほいいのだぜ!」
 よろめきながらも立ち上がって一発ずつ確実に狙いをつけて撃ちなおす。損傷はかなりあるのか手が震え始めながら両手しっかり狙い、人影の攻撃手を潰しながら戦闘を進めていく。しかし人影、それでも倒れない。
 何度も攻撃を食らいながらも反撃して、開拓者への攻撃を緩めない、ただ前へ進んでいるだけの人影が何故此処までするのかは謎だが。雷鳴に閃光、オーラの纏った剣線、飛び交う矢と銃弾、それでも止まらず開拓者を吹き飛ばし前に出る。
 そしてその攻防が続く、飛び交う衝撃、破壊されていく壁、吹き飛ぶ開拓者に仰け反る人影、何度も刀で斬り、魔法を浴びせ、壁を再構築し‥‥順繰りと回っているようなそんな攻防が続いてしまう。

●消えた人影
 あまりにも倒れない人影、開拓者達の消費もかなり来ている。何を思って何の為にここまで倒れないのかは謎だ。しかし確実に歩みが遅くなっているのも確か。
 そうしてしばらく戦闘が続いて両者ぼろぼろになりながら対峙し、最後の一撃を加えようと前衛が飛び掛ると同時に人影を中心に爆発のような衝撃が起こり、砂埃や風圧に目を覆って一瞬だけ視界が塞がれる。
「‥‥気配、ない」
 真亡、ノルティアが飛び出して砂埃と風圧の収まった瞬間に切りかかりにいくが、空を切る。一瞬で消えたにしても唐突、自爆なのか消えたのかよくわからないが人影は完全に消えている。
「死体の確認が出来なかったですね‥‥」
 降魔刀を仕舞いながら瓦礫に埋もれたのサーシャを掘り起こして肩を組んで立ち上がらせる。ぐったりとはしているが息はあるので一安心だが。
「何を、思って‥‥前に、すすんでいた、のかな‥‥」
 ボロボロになった盾を置いて一息つきながらやってきた道を見返す。
「何にせよ‥‥撃退は成功、死体がないから依頼は失敗、かしら」
 血反吐を吐き捨てながら残っている壁に背もたれながらリーゼロッテがそんな事を言っている。
「敗因は、奥手だった点か‥‥」
 ふらふらとオラースが立ち上がり、やられた部分の肋骨の辺りを触ると軽く痛みが走る。ヒビや折れていないだけマシだが、結構な衝撃が内臓にきているようだ。
「試合に勝って、勝負に負けたところですか」
 真亡もふぅっと一息ついて汗を拭う。警戒をしてみたもののやはり気配が無く、どうにもならない。
「変な相手でしたね」
「なんだか良くわからない奴だったのだ」
 遠距離で狙撃したい二人も遠巻きに見ていたがやはり急に消えたのもあって不思議に思いながら戻ってくる。本当に人影はあっという間に消えたようだ。
 
 結局の所、何から何まで不思議であり、目的も不明だった人影‥‥それからぱったりと話は聞かなくなった