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■オープニング本文 ●とある辺鄙な村の中。 大した物も特になく、目立つといえば村の裏側にある小高い丘の上の大きな桜の木。 昔から春の季節になるとそこから桜吹雪が舞い散るので有名なのが特徴である。 しかし、そんな村でも事件と言うのは勝手気ままに現れ、問題を起こすのは世の常。 月明かりの中、桜の蕾もちらほらと咲き始め、いつものようにポツポツと淡い桃色が日に日に増すの楽しみながら、ふと桜の木を眺めていた村人が、気になるものを見かける。 桜の木の下で何か背筋の凍るような、淡い何かを見たという。周りは「酔っていたんだ」「見間違いだ」「気のせいだ」としか言わず、結局その村人の見た物は有耶無耶になってしまった。 たかだか一人の村人の見間違いだろうと考え、そんな事が起きてもお構いなしに他の村人が桜の木の様子を見に行く、そろそろ満開の季節でもあるし、村の風物詩であるのを心配し‥‥。 いつもと変わらぬちょっとした勾配の坂をあがり、見慣れた桜へと。その時、様子を見に行った村人は後悔をすることとなった。あの話をまじめに聞いていれば、もう少しまじめに取り繕っていれば。‥‥しばらくして村人は生気の無い目をしながらふらふらと村へと帰ってきた。うわ言の様に「桜‥‥桜‥‥」と呟きながら。その様子を見た他の村人は恐怖し、桜の木を見つめる。「今までこんなことはなかったのに」「どうしてこんな平和な村にまで」と騒ぎながら。 そして、その生気の無くなった村人は常に「桜‥‥」と呟きながら二日ほどしたのちに亡くなった。あまりの異常、村で起きるには唐突で、早急に解決しなければならない問題に、村人達は一通の手紙を送るのであった。 ●ギルド受付 「‥‥手紙とは珍しい」 飛脚から手紙を受け取り、さっさと開封し中身の確認をし始めるギルドの受付嬢。 机に足を乗せ、煙管を吹かしながら手紙を読み続けていく。 ‥‥態度は悪いがしっかり上から下まで読み続け、悪戯ではない事や真剣な事を確認すると、姿勢を整えて依頼書の作成に取り掛かる。 「桜の下には死体とか、幽霊はお約束と言えばお約束だな」 桜の木の下には死体があって血を吸って淡い桃色の綺麗な花を付けると言われているが、実際に掘り返したこともなければ、そんなことに遭遇したこともないが、今の天儀ではありえると考えられるのが不思議である。 「ま、こんな世の中じゃ、しょうがないと言えばしょうがないか」 そして出来た依頼書を壁に貼り付け、一仕事終えた満足そうな顔で一服し、開拓者を待つのであった。 |
■参加者一覧
葛城 深墨(ia0422)
21歳・男・陰
橘 楓子(ia4243)
24歳・女・陰
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
セシル・ディフィール(ia9368)
20歳・女・陰
イリア・サヴィン(ib0130)
25歳・男・騎
ミレイユ(ib0629)
23歳・女・魔
櫻吏(ib0655)
25歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●とある村にて ある日、ぞろぞろと丘の上の桜の木を眺めながら、一人、また一人と村の中へと入っていく一団が現れる。この辺鄙な村に起きた不幸な事件を解決するべく、現れた開拓者達。 「この時期になると桜にアヤカシとかそういう依頼多くなるよな」 そう葛城 深墨(ia0422)が本を閉じながら他の開拓者に尋ねるように呟く。 「そうですね、早く村人の不安を取り除いて安心して過ごせるようにしないと」 セシル・ディフィール(ia9368)が拳を握り締め力強く意気込む。 形はどうであれ、此処に来た開拓者の目的は大体が二つ、セシルの様に村人を助ける目的がまず一つ目、そして花見を楽しむと言うのが二つ目。 仕事終わりに桜を肴にしながら酒でもやれないか、と思っている櫻吏(ib0655)がぼんやりと煙管を吹かしながらぽつりと呟く。 「早く仕事を終わらせて酒でもやりたい次第で御座いましょう」 クツクツと咽喉元で笑いながら自前の「桜火」に視線を軽く落とす。 「そういうのはちゃんと仕事を終わらせてからだ」 御凪 祥(ia5285)がその視線に気がつき、軽く注意をする‥‥が、その腰にも同じように「桜火」がぶら下がっているのは花見が楽しみなのだろう。 「しかし、最初の目撃者は生き残り、次の目撃者が死んだというのは解せないな‥‥死んだ村人は桜に因縁でもあったのだろうか」 イリア・サヴィン(ib0130)が顎に手を当てながらじっくりと考えながら後を続いていく。どうやらずっと気になっているようで、先ほどから唸りっぱなしだ。 そんな様子を橘 楓子(ia4243)が見て、ぽつりと呟く。 「そんなに気にしてもしょうがないでしょう?既に終わっている事より先のことを考えるんだねぇ」 相変わらずの毒舌を吐きながらも桜を眺めながらてくてくと進んでいってしまう。 「皆さん、とりあえず聞き込みでも始めましょうか」 そんな光景の後ろでミレイユ(ib0629)がおっとりとした口調で聞きこみを始めようと言い、手をぱんぱんと叩く。それを起点にし、各々が聞き込みを始める。 ●昼の村での聞き込み 何人かに分かれて早速聞き込みを始める開拓者達。 此方は楓子と櫻吏の二人が村人を聞き込みを始める。 「取り合えず、最初に桜の元で何かをみた村人からかしら?」 「そうで御座いましょうねぇ‥‥もし、そこの人や」 多少暗い雰囲気を出している村人を呼びとめる。二人を見た瞬間には動揺するが、開拓者だと気が付くとすぐに事情を話し始める。 二人は、最初に目撃した人物の事と死んだ村人の事を尋ねる。 「そうですねぇ‥‥あの忌まわしいのを見つけたのは向こうの家、そんで祟られたのはあっちの家‥‥」 交互にのんびりと指を刺して案内をする村人、どうやらあまり言いたくも関わりたくもないようだ。 「何時祟られるか分からんのでな‥‥くわばら、くわばら‥‥」 農作業をするのか、村人は鍬を担ぐとさっさとその場から離れ始めていく。 「かなり、大変で面倒くさいねぇ」 「これは中々大変な仕事で御座いますねぇ」 真剣に考えているのかは定かではないが、声を揃えて「大変」といいつつ言われた通りに最初の村人の家へと向かっていく。 ‥‥一声掛けた後に中にはいると、多少おびえている村人とその家族が迎えてくれる。 「あぁ‥‥依頼ですか‥‥此処に来たということは『何か』についてですね」 案外しっかりとした口調で淡々と話を進めていく。 「遠めにしかも夜だからあまり他の村人からもはっきりとした事は聞けないかと」 「ふむ、姿形は分からずと」 「他に気が付いた事はあるのかねぇ?」 ふむ、と顎に手をあててしばし思案する村人。 その間に奥さんがお茶を用意してくれたのか、二人はのんびりとご馳走になる。 「そうですね、靄という感じですかね‥‥亡くなった村人以外近づいたりしなくなったので、それぐらいしかないですね‥‥」 奥さんからのお茶を受け取り、一息つくように飲むと、「はぁ」とため息一つ 「殆ど私と同じ様なことしか言わないでしょう、他の村人も」 最後にそう告げられると、さっさとその場を後にする二人。 案外、と言うよりはある程度分かっていただろう結果に終わってしまう。 「どうしたものかしら‥‥」 「後は夜の桜に期待しましょうか」 クツクツと笑いながら、面倒くさいといいながら桜を眺め、その場を後にする。 ●桜の調査 一方此方は昼間の桜の木。 葛城と御凪がちょっとした勾配の小高い桜の木のある丘へと進んでいく。 「『何か』は見えないな」 「そのようですね」 ある程度桜の木を見られる場所に近づくと、それを中心に左回りに葛城が、その反対側を「心眼」を使いながら御凪がゆっくりと回っていく。 二人とも獲物を構えながら気配を感じ取れるように、じっくりと。 「何か、反応はありますか?」 「一応桜の木に何かいるな、どういうのかは分からんが」 それを聞きゆっくりと固唾を飲み込むと、桜の木をもう一度眺める葛城。静かに符を取り出し、人魂を使うと桜の木に近づかせていく。 「‥‥ふむ‥‥」 桜の木の近く、数歩の所まで近づくと、もう一度ぐるりと桜の木を回る。桜の様子をじっくりともう一度確認するが、どう見ても普通の桜にしか見えず、傷やら掘り返した後は全く持って見つからない 「本当に幽霊‥‥ですかね」 符を元に戻すと、ゆっくりと息を吐き出しながら桜を眺める。 「後は夜になってから、だな」 もう一度ぐるりと回ってきた御凪が葛城と合流しながら声を掛ける。どうやらあまり手ごたえは無かったようだ。 「戻って出直しましょうか」 「それしかないようだ」 上ってきた坂道を下りながら、もう一度桜の木を眺めるが、その様子は変わらずにひらひらと花びらを舞わせるだけであった。 ●村での伝承を求めて 場面は変わり、また村へ 此方はセシル、イリア、ミレイユのジルベリア人で構成された聞き込み組み、こんな辺鄙な村であるせいか村人の興味はやはり注がれる。 特に子供が近寄り、色々と質問責めをしてきたり、つつかれたりとしてる。その反面大人は依頼したとはいえ、それなりに警戒をしている。 「貴方達、この村や桜についてのお話を知っている?」 セシルがその場でじっと見つめていた子供に合わせるようにしゃがみこんでたずねる。いかにも腕白で色々遊びまわってるような子であるが。 「んー、知らん!」 あはは、といいながら元気よく知らないと言われ、とっとと走り親の元に掛けると「俺、あの変な人と話せたぜ!」と自慢気に言っている。 「やはり大人に聞くのが一番ですかね」 物腰柔らかく、イリアが近くの村人に尋ねる。やはりそれなりに警戒はされるが、事件解決のためと思ってか話はしっかりとしてくれるようだ。 しかし‥‥ 「この村の伝承?んなもの、あるわけないべ、こーんな田舎に、そげな大層な代物ないべ」 殆どその反応しか返ってこない。 これはどうしたものかと思い、次に死んだ村人の所へ向かう。それほど大きい村でもないのであっさりと到着する。多少重苦しい雰囲気が外側から感じられるが、仕事のため、平和のために中に入っていく三人 「すいませんー」 と、おっとりとした口調でミレイユが声を掛ける。そうすると奥のほうからぱたぱたと一人の女性がやってくる。どうやら奥さんのようだ。 「?‥‥開拓者のかたですか‥‥何のようでしょう」 旦那を亡くした割には落ちついた感じで対応をし始める。なるべく不快な思いをさせないように、三人は手短に亡くなった主人について聞き始める。 「特にはない、平凡な夫でした、全く‥‥うちの人だけ死ぬなんて‥‥」 暗く多少なりはしたが、話を続ける。 「では、最後に桜と呟いたのに何か心当たりは?」 イリアが深刻そうな顔をしながらたずねる。 「それに恨みやらなんやら買うような人でもありませんでしたので‥‥きっと最後に見たのが桜だったのでしょう、お花見が好きな人だったので」 懐かしむようにぽつりと呟く。三人はこれ以上は聞けないのだろうと思い、一礼するとその場を後にする。 ●妖しい行動 村の外にある森の中から雲母(ia6295)が、がさがさと現れる。村人に聞いた周辺の事に対して確認を取るように調べてきたようだ。 「アヤカシは見られない、ケモノは多少いる、か」 桜の木を中心に地形を見て回ってくるが特に目ぼしい物もなく、成果は上がらないようだ。地形も平凡で桜の木を中心に平地が続いているだけであった。 「後は桜の木に何が出るか、と言うところか‥‥幽霊か、あまり信憑性がなさそうではあるが」 桜の木を見上げながら煙管の火を付け、一服する。 「さて・・・・本当に幽霊やアヤカシかな・・・・?」 そうポツリと呟くと、合流するべく、桜の木の丘へと向かっていく。 ●桜の下で 夜になり、各々が集めた情報を交換し終えると桜の木へと向かっていく。 しかし、ある程度皆が予想している事とは違った雰囲気になりつつある。どういうことになるかは分からないが、獲物を構え、桜の木を前に横二列、前後衛がはっきりと別れる陣形で「何か」は現れていた。 「現れましたね、元凶が」 符を構え、しっかりと「何か」を見据える葛城。橘、セシルも同様に符を構え、支援の用意を済ませ、ミレイユは杖を構え、静かに詠唱を続ける、その前には雲母が弓を構えながら呟く。 「さて、何が出るのか‥‥」 「何が出ても倒すしかないだろう」 御凪がそれに答えるように呟くと自身の獲物である双戟槍を構え、ゆっくりと間合いを詰めていく。それにあわせるようにイリアもルーンソードをジルベリア独特の構えで距離を測る。 「では、行かせてもらいましょう」 櫻吏がほぼ無動作からの十字手裏剣を投げつけ、一気に間合いをつめ、撹乱する動きを見せ始める。それと同時に、御凪、イリアも弾け飛ぶように「何か」に切りかかる。後衛は前衛の攻撃開始を起に呪縛符を葛城、橘が同時に投げつけ行動力低下を狙う、が。 十字手裏剣は「何か」に当たらずそのまま後方に、御凪、イリアの神速とも言える同時攻撃を放つが効果が無い、しかし呪縛符は効果があったのか、多少「何か」が揺らぐ。 「ただのアヤカシではなさそうですね!」 イリアが体勢を整えながら、声を上げる。 「幽霊‥‥かしら」 面倒な相手ねぇといいながら次の符を構えながら呟く。 「‥‥効果が現れないな」 「で、御座いましょう」 御凪、櫻吏もその様子を見ながら体勢を整いなおす。その後ろでセシル、雲母、ミレイユがその光景を見ながらゆっくりと状況を把握し始める 「本当に幽霊なら私達にはどうすることも‥‥」 援護に回ったままではあるが状況を把握しながらゆっくりとうなだれるように呟く。 「ん、どうしましょうか‥‥」 おっとりとした口調の中にもしっかりと「ヤバイ」と言うのが感じ取れる一言を放つ。 そんな中で「何か」からの思念波のようなものを受ける開拓者達。 何か重圧を感じるような物を受け続ける、普通の人間ならばこれで参ってしまうだろうが、多少頭痛がする程度でそれほどのダメージは受けない。 「ちぃ‥‥厄介だな」 御凪がその重圧をふり払うように槍を振るうが、手ごたえはなく、重圧も消えない。いくら影響が少ないとは言え、受け続ければ開拓者言えども、と言うところで 「幽霊、しかし呪縛符は食らう‥‥そして、これか‥‥そういうことか」 雲母が声を上げ、戦闘は終わりを迎える。 ●犯人は? 弓とランスを下ろし、ゆっくりと「何か」の方に向かい歩いていく。重圧をもろに食 らっているのだろうか、顔を歪ませながら桜の木の下にしゃがみこむと、ぽつりと呟く。 「これが、犯人だな」 桜の根元から、毛玉の様なものを抱き上げると、ふぅと一息。狐の死体のようだ。 確かに瘴気がそこからあふれている。 「で、どういうことなんですか」 イリアが剣を収めながら、たずねる。どうしても納得がいかないようだ。 「まだ死体が新しい、瘴気にでも当たって怨念のようになった、と言うところか‥‥まぁ、一番は親心と言う奴だろう」 少々桜の木を見上げれば、子狐が此方の様子を眺めている。 どうやら子を護るための想いが具現化したようである。 「とは言え、このままでもいかんだろう‥‥燃やしてくれ」 桜の木から少し離れたところに死体を置くと、軽く手を合わせる。 「やれやれですねぇ‥‥」 櫻吏が早速と言わんばかりに「桜火」を口に含むと、死体にふりかけ、火遁を使い燃やし始める。 「しかし村人が死んでしまったのは変わりないだろう」 「どう説明しますか‥‥」 御凪と葛城が頭を捻る傍ら、橘がふぅ、と息を吐き出し一言 「アヤカシのせいでいいんじゃないかしら?」 「そうですね、それが一番かと思います」 ミレイユも賛同し、そのまま開拓者達は村へと引き返すことにした。 ●事が終われば 一晩経った後‥‥もう大丈夫だと言う事を伝えると、すぐさま花見の用意を始める村人達。しこりのような物を残してしまったが、平穏は取り戻したと言う事で、村長から報酬を受け取り、花見に招待される。 「しょうがない‥‥とは言え、すっきりしないな」 多少浮かない気持ちではあるが「桜火」を飲む御凪、その隣で葛城、セシル、も一緒となって酒盛りを始める。 「まぁ、済んでしまった事ですし、これからを考えればいいじゃないですか」 酌をしながらセシルが「まぁまぁ」と言っている。 「やはり、春の謳歌は桜に御座いましょうなぁ‥‥」 「いや、全く同感‥‥ふぅ‥‥桜の下で呑む酒はうめぇなぁ」 此方は仕事の後の一服と言った感じ、小さく乾杯をするとちびりちびりと堪能しながら桜を眺める葛城と櫻吏。 「多少後味は悪いが‥‥きっと桜に魅入られたのだろうな」 「ま、仕方ない事さ、今はこの風景を眼に焼き付けようじゃないか」 「そうですね、綺麗です、本当に」 イリアと橘、ミレイユは多少離れたところで、静かに桜吹雪を眺める。 大きな桜の木が何もかも知らぬ顔でその花びらを散らし、辺りを桃色に染めていく、その光景を眺めながら、ゆっくりと花見を堪能していく。 「花見か、儚く散るのを楽しむと言うのも、変な話だ」 冷めた反応をしながら報酬を受け取り、帰り道で桜の木を見上げる。 これも自然の摂理、とポツリと呟くと桜吹雪の中、消えていく。 その花見で盛り上がっているところに「コン」と一鳴き お礼を言ったのかどうかは分からないが、澄んだ鳴き声があたりに響く。 ‥‥もうすぐ訪れる本格的な春を迎えるように桜は花びらを散らすのであった。 |