おやかた様の暇つぶし
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/28 13:01



■オープニング本文

●おやかた様のお屋敷

「ひーまーなーのーじゃー!」

 手と足をばたばたとさせながらごろごろと部屋を転がる。
 寝巻き姿の寝癖頭ついでにいうとだぼだぼ、一言で言うと幼女だが。
 そんなおやかた様があまりの暇加減にごろごろしている。
 あまりに退屈なのでごろごろ転がったまま屋敷を一周してみる。

「んーあー‥‥目が回ったのじゃー!」

 素晴らしいほどの我侭っぷり。
 何というか何時もどおりである。

「ひーまーじゃーひーまーなーのーじゃー!」

 ぐでぇんと垂れてうつらうつらし始める。
 そこににゃーんと猫が近づいておやかた様の頭をぺちぺちと叩く。
 顔を上げるとちろちろ舐められる。

「ひーまーだーぞー!」

 がばぁ!と起き上がる、それに驚いて猫が逃げるのでそれを追いかけてていき。

「おぉ、そうじゃ!」

 ぴぃー!と指笛を鳴らすとこれまたどこからかやってきたのか白髪白髭の爺さんが一人やってくる。
 しゅたっとおやかた様の隣に付くとほんわかとした顔つきでおやかた様をなで始める。

「どうしました?」

「うむ、また開拓者を呼んで暇を潰そうかと思ってな」

「また‥‥ですか。では手配しましょう」
 
 にこやかに笑うとこれまた風の様に消えていく老人。
 と、そうするとまたぐでんと横たわってごろごろし始める。
 おやかた様、シノビの腕、名前もそれなりにあるのだがいかんせん子供なのがいけない。
 ぶっちゃけ幼女、とっても幼女、才能があるというのも考え物。

「楽しみじゃのー、何して遊ぶかのうー」

 わくわくどきどきごろごろ。

「ところで、何をして遊ぶのですか?」

「おお?そうだなぁ‥‥鬼ごっこをしよう、本気でな」

 にやりと笑い、ごそごそ鈴を取り出す。
 それを腰に二つつけてちりんちりんと鳴らし。

「これを取ったら勝ち、と言うことにしよう、うむっ!」

 腰を振り振り、ちりんちりん。
 老人が鼻血を拭きながらギルドを向かおうとすると。

「おぉ、そうだ、この間のあのギルド嬢を呼ぶのじゃぞ」

「はぁ‥‥よろしいですが」

「うむ、気に入ったのだ!」

 腕を組んでうむうむ言うとギルドに行けぇい!と大声を出して指をさす。


●ギルドにて

「はぁ?また遊びに付き合えって言うの?」

 雪も溶けて春の兆しが見えているぽかぽかした陽気で意識をうしないかけてる夢が老人と話し始める。
 この間のかくれんぼの鬼をしたときも文句をいってた割りに楽しそうだからだった、と説明を受けつつ。

「まぁ、いいけどね‥‥んじゃ、依頼書を作るからそのうち開拓者が尋ねるよ」

「いつもお世話になります」

 ぺこっとお辞儀をして礼儀正しく出て行く。

「おやかた様ねぇ‥‥本名なんだっけ」

 煙管を吹かしながら依頼書を作ると机で一眠りするのだった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
志宝(ib1898
12歳・男・志
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
実夏(ib6340
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●鬼ごっこ
 開拓者五人、おやかた様のお屋敷に揃って入っていく。丁度ギルドからやってきた夢とも一緒だ。おやかた様は出迎えには来ずにごろごろと部屋でしているらしい。
「公平にしなきゃいけないんだっけか」
 そう、夢が言うとおやかた様と同じ部屋に入ってゴロゴロし始める。
 その間にお屋敷の方を見たり、準備をするなり自由にしていいとの事。
 開拓者達は揃って頷いて準備をし始める。

「手段はこっちの人数にものを言わせて一人ずつって感じだな、夢さんが強敵になりそうだから先に倒す、と」
 相談しながら芋羊羹を摘んでいる水鏡 絵梨乃(ia0191)、この芋羊羹が後々聞いてくるのはまだ知らない。そんなことも露知らずはもはもと芋羊羹を咥えて満足気にしている。今日はお酒がないので酔拳は封印だ。
 そして此方ではギルドに出る前に聞いていた話を思い出しながら羽喰 琥珀(ib3263)と蓮 蒼馬(ib5707)が打ち合わせをしている。内容はと言うとやはり夢に関することで、夢の上司に当たる人から色々と話を聞いておいた。とりあえず夢の好物である遺跡に関しての事を聞いたので蓮が「阿修羅幻想」を用意している。其れとは別に屋敷の中を見て回り始める。蓮はとりあえず厠の中に入り内側から鍵を掛けて天井裏から出てくる。
「これでよし、と‥‥うまくいくといいんだが」
 いろんな意味で危ない。
 羽喰はと言うと屋敷の中をぐるぐると見て周り始める。
「おー、こことか、なんかないのか?」
 掛け軸の裏を捲ると‥‥ただの壁、部屋の隅を怪しい所を叩くと‥‥ただの壁。あまりにも何もないのでかなり退屈気味だ。とりあえず目的の一つであったござは見つけたので部屋に敷いておく。ついでに持ってきた西瓜と干し柿を用意しておくが‥‥この時期の西瓜がどうなのかは疑問だが。
「んー、ちょっと変則的な鬼ごっこなのだな、楽しみなのだぜ♪」
 ふんふんと鼻歌を奏でながらお屋敷内を探検中の叢雲 怜(ib5488)がきょろきょろと辺りを見ながら探索中。いい所はないかなーと思いつつ老人に連れられている。
「暴れちゃ駄目なところってどこだ?」
「そうですねぇ、お屋敷が崩れなければいいですかね」
 髭を触りつつ丁寧に教えていく。子供好きなのだろう。
「記念すべき初依頼だ、精一杯やらせてもらいましょう」
 此方では実夏(ib6340)がこぽこぽとお茶を用意しながらのんびりとしている。甘いものにはお茶がつき物と言う事でまったりと淹れている。初依頼の相手としてはかなり手強いがこれもいい勉強と言いながら用意を進めていく。

●と言う名の本気
 と、準備も揃ってお昼頃になって鈴をつけたおやかた様と夢が部屋から出てくる。勿論開拓者達は既に準備を整えており待ち構えていたりする。
「楽しみじゃのう、どんな感じになるか」
「期待はずれじゃーないといいんだけどなぁ」
 腰の鈴を鳴らしつつ煙管を吹かしつつゆったりと外に出てみる。と同時にずらりと包囲され、迫っていく開拓者。まずは夢狙い、おやかた様はまた後で。
 まずは夢との鬼ごっこ。伊達に遺跡やら洞窟やらを掻い潜っている訳ではない。体形的にも身軽なので中々捉えづらい。そんなわけでまずは水鏡が夢の前に立ち塞がり、準備運動を済ませたので構えて腰帯にぶら下がっている鈴を狙う。
「これも依頼だから、本気でいかせてもらおうかな」
 くすりと笑い、瞬脚からの急接近、泰練気法弐を発動し防御に回らせる。流石に其ればかりではやられないので前に出ると同時に攻撃を繰り出しているのをしっかりと後退しながら受け続けていく夢。一打目、二打目、最後の三打目で素早く腰帯の鈴を狙って手を伸ばす。意外とあっさり掴んだ、そう思い距離を取って手を開いてみると何も無い。
「いやぁ、危ないなぁ‥‥」
「む、掴んだと思ったんだけどな」
 微妙に夢の姿がぶれて見えているのを確認する。空蝉を使用しての回避をしたようだ。其れを確認し、何度か手を握り直して接近していくところに。
「ほーら芋羊羹だぞー」
 掏り取ったのか丁度一かけら分の芋羊羹が空中に舞う。
「なんてことを!」
 捕獲対象が夢から芋羊羹に切り替わり、素早く空中で捕まえて自分の口にぽいっと、とても幸せそうな顔を浮かべて堪能している間に夢は逃げている。
「芋羊羹には勝てないし、うん」
 はもはも羊羹を頬張りながら満足気に夢の逃げた先へと追いかけていく。

 そうして夢が逃げていると一つの声があがる。
 なにやら未踏の遺跡についての本があるからほしくないかー?と言うのだ。
 ほう、と言ってその声の方へと行き、ゆっくりと襖を開けて中の様子を確認する。
 勿論そこにはしっかりとその死角に陣取った羽喰が。
「夢にお灸すえる為ならもやしていいっていってたからこの本燃やしちまうぞー!」
 と、言っている。
「あぁ、別にいいぞ?未踏の遺跡なのに本がある時点で未踏じゃないだろうしねぇ」
 あれ?と、ちょっと予想外の事を言われて悩み始める。作戦は失敗かと思っているとそのまま面白そうに夢が部屋に入って本を拾い上げる。軽い迷いの隙を狙われてあっさりと入られる。と、其れを見計らって四方を羽喰、蓮、水鏡、叢雲が取り囲む。
「ふむ、やはり未踏じゃないな」
 眺め終わった本をぽいっと捨てると煙管をふかして一服。完全に包囲は出来たのでこれからどうするかと言う話。
「もらった!」
 羽喰がそう言いながらフェイントを使って下に引いていたござを思い切りひっぱり、体勢崩しにかかる。その瞬間に蓮と水鏡が飛び出して鈴を狙う。流石に瞬脚での急接近となると反応はしにくいのか不安定な状態で拳を受けて静止。
「ほう、悪くないな。お前のような女嫌いではない」
 そう言いながら腰帯の鈴を狙って手を伸ばす。
「おや、残念だ、私は気障な男は好きじゃなくてな」
 くすくすと笑いながらシノビならでは身の捻りをして回避、そこからさらに水鏡が真剣な顔つきで。
「おやかた様といい勝負?」
 と、挑発してくる。流石にそれにはかちんときたのか。
「私の方が強いわよ?」
 むすっとした瞬間に空気撃を使った足払い、転倒している地に足を付いてないところを狙って一つ目の鈴を腰帯からぴっと音を立てて奪い去る。
「ちっ!」
 飛んでいった鈴を叢雲が取るとフェイントショットの空撃砲でさらに追い討ち、最後の一つを狙う為に羽喰の方へと夢を吹き飛ばす。
「いただき!」
 一呼吸置いて目を見開いて腰帯と鈴を繋いでいる紐を凝視する。ゆらゆらとゆれる鈴の紐を狙い一閃。鞘から滑るように朱色の刀身が鈴の紐を「ぷつ」と切断すると、夢と反対の方へ鈴が飛んでいく。
「甘いッ!」
 中庭へと吹き飛ばされている夢が苦無を畳みに投げつけると鈴を打ち返す様に畳がせりあがりうまく跳ね返る。
「やはりシノビといえば忍ぶ事でしょうかね」
 抜足で部屋の外に待機していた実夏が吹っ飛んでいく夢を見送った後に跳ね返ってきた鈴を横からぱしっと掴む。経験の差は工夫で補うといった感じだろうか。
「とは言え、きっと気が付いていたのでしょうけど」
 ちりんと鈴を鳴らして笑顔で夢に見せる実夏。
 まずは一人目。

 そして此方。
「むぅ、夢の方ばかりいきおって暇じゃのう」
 ぶらぶらと屋敷内を歩いているおやかた様。勿論既に夢が負けているのはまだ知らずしっかりと周囲に気を配りながら歩いている。
「おぉ?」
 目の前に置かれているおやつ、陰殻西瓜に正飴、かりんとうやらのお菓子がお茶と一緒になって置かれている。
「なんじゃ、餡子物はないのか」
 ぷいっと見向きもせずにお茶だけ啜り満足気にしている。
「そうじゃのう、其処の芋羊羹等がわらわはほしいな」
 お茶を持ちながらゆっくりと待ち構えている方に近づいていく。
 おやかた様は色々凄いのです。
 とにかく丁度二手に分かれる道で左右と天井に隠れながらおやかた様がやってくるのを待ち構えている。ぎしっ、ぎしっ、と廊下が軋む音が一番近くなった所で叢雲がわっと飛びかかる。
「おぉ!?」
 驚きながらさらっと避けてお茶をすする。
 避けられて蛙の様になった叢雲を見下ろして撫で撫で。
「むぅ、鈴よこせー!」
 仰向けに転がった所で空撃砲を一発鈴に狙う。ちりんといい音色が響く。微妙にかすっただけのようだ。
「ふふん、まだまだ甘いのう」
 幼いはずなのに爺臭いのはきっとおやかた様の魅力です。
「じゃあ、これはどうかな?」
 水鏡がえいっとおやかた様に抱きつき、しっかりと固定。そのままひょいと持ち上げる。
「はーなーすーのーじゃー」
 ばたばた暴れているおやかた様を眺めてなんだかなぁ、と言いながらも蓮が近づいていき鈴の一つをぴっと奪う。
「可愛い奴だ」
 おやかた様の頭を撫でてみる。むすっとしたまま鈴を取られている。
「ふん、はんでぃきゃっぷと言う奴じゃ!」
 しゅるっと縄抜けの要領で水鏡から逃げると同時に芋羊羹を奪い、さっさと逃げていく。
「あぁ!ボクの芋羊羹!」
 よよよと泣き崩れて食べられ、消えて行く芋羊羹に奥歯をかみ締めて泣き崩れる。ご愁傷様である。とにかくもう一つの鈴を奪わないといけない。厠へ追い込む作戦は失敗だったが。

「こないなぁ」
 羽喰がぼんやり待ち構えているとおやかた様一人とことこと歩いてくる。
 其れに気が付いて立ち上がり塞ぐようにしていると。
「どーん!」
 思いっきり頭に手刀を食らわせられてその場に頭を抑えてしゃがみこむ。
 そしてそのまま走り去っていく。それに軽くムキになってそのまま追いかけていく。
 
「まったく、最初から真正面きっても良かったな」
 おやかた様を追い詰め包囲したところで全員身構えて鈴を狙う。
「んー、わらわは小細工よりも直接きたほうが燃えるのう」
 くすくすと笑ったおやかた様が腰を振って鈴をちりんと鳴らす。
 まずは蓮と水鏡が瞬脚での接近、高速で飛んでくる拳を理を使いするりと回避、幼い割りにおやかた様といわれているのは伊達じゃないらしい。
「と、そこじゃな?」
 振り向き様に苦無を一つ、抜足による不意打ちを狙った実夏の足元にストンと刺さる。
「流石に、ばれますか」
 早駆に切り替えて鈴を掠め取るように脚絆「瞬風」で滑りながら鈴へと手を伸ばすが  「チッ」と指先に鈴が触れる感触があったものの奪うことは出来ない。素早く減速、向き直り鈴を確認する。
「触れられましたね」
 ぐっと握りこぶしを作って通用するというのを実感する。
「と、怪我させたくないけどこれも仕事だしな!」
 マスケットを構えて鈴を狙い撃つ、銃撃音と同時に金属のぶつかり合う甲高い音が響く、二本目の苦無で銃弾を弾いて無効化しているおやかた様。
「ふふん、まだまだ――」
 と、していたのだがおやかた様、何もないところですっころんでぺちょっと地面に貼り付けに。一同それを見てから静かに鈴を取って終了。
 おやかた様は可愛いのでいいのです。

●終わった後はのんびりと
「あー、楽しかったー」
 羽喰がけらけら笑いながら余ったお菓子を食べてゆっくりする。
 他の開拓者もふぅと一息、実夏の入れたお茶を啜りながらゆったりと。
 何とか鈴を奪い、依頼は成功、おやかた様的には最後が腑に落ちないようだが満足している。
 そんなおやかた様は蓮になでられていたり。叢雲と一緒にお菓子を頬張っている。
 歳相応の子供の割りに中身は凶悪と言う。
「さって、依頼も終わったし帰るとするかね」
 夢がそういうと開拓者がおやかた様を一撫でしてから帰っていく。
 別にご利益があるというわけではないが。

 そうして見送った後。
「そういや余っていたのがあったのう、勿体ない勿体ない」
 そして全員帰った後におやかた様が西瓜を食べてから泣きを見たのは誰も知らない。
 話によると鍵をかけたやつは極刑だのなんだの言っていたとかどうとか‥‥。