天才の復讐
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/09 22:23



■オープニング本文

●都から少し離れた平原
 バタバタと黒い外装を羽織った者が一人。
 足元に転がっている白骨化した丸々一本の腕とそれが握っている刀を拾い上げる。
 丁度少し前に開拓者の一撃で斬り飛ばされたものだ。

「ふふ、痛かったけど、楽しかったわねぇ‥‥」

「おねぇちゃんだけずーるーいー」

 所々赤い点々がついている白い外装を羽織った身長の低い子が白骨を突きながらにやにやと笑っている。
 それをよそに白骨化した手が付いた刀から骨を外し二度三度刀を振るう。
 何度か開拓者を斬りつけ、血糊がべったりと付いていたにもかかわらず鈍く光を反射してぎらついている。
 妖刀と言っても過言ではない程に禍々しい感じがある。

「それ、斬れるの?片手で使えるの?おねぇちゃん弱いの?」

 と、笑っているところに黒い刃が迫り来る。
 流石にと言わんばかりに自分の刀を少しだけ抜き、刀を受けると火花が散る。
 ぎちぎちと刀を合わせながらにぃっと笑うと少し離れて刀を納め。

「流石、おねぇちゃん」

「さ、行くわよ、このままじゃ、いまいちだわ」

「死にに行くなら私が首とりたいのにぃ」

 そういいながら後についていく、片腕を失ったサムライとその妹が開拓者に復讐するべく、強い奴と死合をするべく、都へとすすんでいく。

●都、開拓者ギルドにて
 いつものように机に足を乗せてナイフの手入れをしながら受付をしている夢。
 その目の前に赤い斑点模様の白い外装の少女がやってくる。

「ご用件は何でしょうか」

 ちらりと相手を見てからある程度警戒しながら話をし始める。
 ぴたりとナイフの手入れもやめて何時でもぬける様にもち手をさりげなく変えて話を進める。

「えっとぉ、なんだっけぇ‥‥あ、そうそう」

 ぽんと手を一つ叩くと、懐から一枚の紙を取り出して机にすっと置く。
 ゆっくりと手を離して書いてある字をみるとえらく荒いように見えて達筆な字で『果たし状』と書かれている。

「‥‥ここは開拓者ギルドのはずだが‥‥」

 それを机から取り上げ中を見ていく。

 果たし状、前回の私の無敗に傷をつけたのを後悔させてやる。

 と、だけ書かれている。

「これだけじゃ、なんだか分からんな」

「んー、とね、簡単に言えば、復讐?」

 もう一枚紙を取り出すと読み始めていく。

「んーと、開拓者ともう一度死合をさせろ、要求が満たされない場合、都中を探して斬ってやる、だってさ‥‥あ、これって脅迫状とか言う奴だよねぇ」

 けらけら笑いながら読み終わった脅迫状をさらに机に置いて一言。

「都外れの平原、一度おねぇちゃんが腕を吹っ飛ばされたところにいるわぁ」

 踵を返してそのまま開拓者ギルドから出て行く。
 其れを見送った後、大きく息を吐き出してどっしりと椅子にもたれかかる。

「‥‥なんとも、人の道の外れた姉妹だこと」

 果たし状と脅迫状をつけた依頼書が張り出されたのは数日した後の事だ。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎


■リプレイ本文

●死合
 すっかり当たり一面雪景色となった平原に黒と紅白が映えている。
「来ると思うのぉ?」
「来るわよ、確実に」
 そういいながら都の方へと視線を向ける、妙に嬉しそうに、楽しそうに。
 ‥‥どれくらいたっただろうか、都から開拓者八人、揃ってやってくる。
「ほら、来た」
「ほんとだぁ、来たねぇ」
 姉妹はそういうとにんまりと口角を上げる。
 そうして距離的に十歩ほどあけて両者が対峙する。
「やっぱり生きていたアルか、死に損ないっちゅー言葉がよく似合うナ。んーで? 勝てネーから泣き付いたカ?」
 前回、反撃気味に顎に一撃を貰った梢・飛鈴(ia0034)、再戦と言うことでここにやってきている。彼女自体数少ない実戦に来たともいえる。
「違うわね、楽しかったから戻ってきたのよ、生きていると実感出来るのはいいわよ」
 そういいながらゆっくりと開拓者を見始める一代
 その間に白野威 雪(ia0736)が全員に加護結界を付与していく、一人一人に触れて祈っていくとほんのりと淡い光が開拓者を包む。一通りかけ終わったあと梵露丸を頬張り、回復し、準備を整える。
「準備も出来たようだし、始めましょう?」
 ゆらり二人揃って前に出る。自分の刀の範囲ぎりぎりをとどめて。
 その様子を見ているとくすくす笑い始めるのが一人。
「なんとも覇気の強い姉妹だな、私のものにしたいくらいだ」
 雲母(ia6295)が煙管を吹かしつつ姉妹を見つめてぽつり、相変わらず覇王様は楽しそうにしている。あながち冗談に聞こえないのが恐ろしいところ。


 とにかく自分が狙うべき相手のほうへとある程度分かれて戦闘態勢を取る。
 一代の相手に梢、志藤 久遠(ia0597)、鉄龍(ib3794)。
 二代の相手に恵皇(ia0150)、秋桜(ia2482)、 雪切・透夜(ib0135)。
 後衛に白野威と雲母が控える。
「さて、と‥‥楽しくやろうじゃないか」
 そう、言うと同時に開拓者が動き始める。
 まずは梢が一代の失った腕の方へと回りこんでから焙烙玉を一発。
 一代と二代の丁度中心で爆発、雪煙と炸裂音が辺りに響き相手の目を潰してから左側面から片足を潰す狙いと攻撃に転じるが泰拳士の勘と言うか嫌な予感をしながら骨法起承拳を叩き込む。拳が唸り手ごたえのある痛みが伝わってくる、が。
「ふぅむ、伊達じゃないアルね」
 少しだけ抜いた鞘で拳をしっかりと受け止めてにんまりと笑う。
 その笑みに何かを感じたのかすぐさま距離を取るべく、腹部目掛けて蹴りを放ちそこから瞬脚で距離を取る。
「果し合い、いえ、死合でしたか‥‥戦いは目的のために行う手段であって、戦うことただそれだけに意味はないように思いますが‥‥!」
 梢が離れた所を一気に接近して雪煙を晴らしながら志藤が突っ込んでいく。心覆を使いあくまで冷静に淡々とした心持で五月雨を穿つ。流石に狙いは荒くなるがそれでも十分。相手を手を出させないと言う点では確かに回避に集中している。
「そこっ!」
 えぐるように突き出した五月雨の隙の一瞬、持ち手に衝撃が走り志藤が苦悶の表情を浮かべる。何でもない只の蹴りではあるが、怯ませるには十分の威力だ。少し痺れた手を戻すのが遅れたところに居合いの構えで一代が目を光らせる。留め金は外れ、少しだけ見えている黒い刃が日の光を反射している。
「まず、い‥‥!」
 いくら冷静を保っていたとしても一代が見えているのは冷や汗ものだ。音も無く風を斬りながらの一閃が鉄龍の盾によって防がれる。その間に白野威が志藤に近づいて蹴られた手の甲の部分を癒し始める。
「たまには騎士らしく、か」
 ぎちぎちと刀を抑えつけつつ後ろを見て体勢を立て直しているのを確認して弾き飛ばす。涼しい顔をした一代が刀を戻して一息。やはり一筋縄ではいかないな、と誰かが呟きつつ白野威が加護結界をかけなおしている。
「大丈夫ですか‥‥?」
 白野威のおかげで支援は滞りなく受けられる。その点がかなり大きい。


 そして一方の開拓者と二代。
「オイ、あんまりおイタが過ぎるととても恥ずかしいおしおきが待っているぞ。もしくは死か、好きな方を選べ」
「出来るのぉ?あんたたちでぇ」
 ねっとりとした口調でくすくすと笑いながら何処吹く風で開拓者達を見つめる二代。
「遥か格上が相手、下手すると死亡ですか‥‥余裕はなさそうで」
 グニェーフソードを構えて恵皇と並んで戦闘体勢を整える。
 くすくすと笑い続ける二代に気味悪さと嫌な予感をしながらもじりじりと接近。
「楽しめるといいんだけどねぇ」
「強さの意味を履き違え、自らの欲の為だけに刀を振るうなど‥‥」
 ギリっと奥歯をかみ締めた秋桜が散打による手裏剣「鶴」の斉射、風切音が高らかに鳴りながら二代へと吸い込まれるように飛んでいく。それをゆらゆらとゆれた状態でするりと受け流すように避ける。そこへ恵皇が瞬脚での急接近からの連打、泰拳士らしい拳の連打を相変わらず同じようにくすくす笑った顔で避け続ける。柳や枯葉のような動きで一つ一つ丁寧に避けていると言えば避けているが。
「ちぃ!」
 そう連打を続けている一瞬の隙に「とん」と軽く頬を殴られる。不敵な、挑発的な笑みで。相変わらず捉え所のない二代に困惑しつつ攻撃を続け、避けられる。そうして二度目の隙、攻撃が途切れた一瞬、二代の目つきが変わり握りこぶしを作っている。完全に振り下ろす体勢で。
「油断大敵ですよッ!」
 割り込むように大剣が恵皇と二代の間に振り下ろされ、一旦距離を取ることになる。スイッチするように雪切が攻撃を繰り出して攻撃の機会を潰す。幾らただの殴りとは言え、振り下ろしで顎に食らうとどうしても脳が揺さぶられる危険がある。ブンブンと大振りな一撃なのでその合間に間合いに入ろうとする二代を秋桜が止める。
「その程度ですか、まだまだ!」
 攻撃の合間合間に挑発しながら二代を貼り付けにする。
「言うじゃない、雑魚のくせにさぁ」
 くすくすとした笑いを止め、途端に冷たい目になる。ぞくっと嫌な汗が一気に流れたところに薄く日の光を反射した何かが前髪を数本切り上げる。一代と対称的に白い刃の刀が抜かれている。
「ちっ、忌々しいねぇ」
 攻撃の直前に投げられた手裏剣が軽く二代の服を切り裂いている。秋桜の援護がなかったら首が飛んでいたと言うところだ。


 とりあえず開拓者と二人が距離を取って一息。もう一度加護結界を受ける恵皇と雪切、致命傷は無いとは言え白野威の練力もかなり消費し始めている。
「やはり、私の物にしたいな」
 一部始終を眺めて状況判断していた雲母がぽつりと言う、未だに彼女は動かない。
「さてと、準備運動も終わったし‥‥死合しますか」
 一代と二代が半歩近づいて半身を向けて身構える。
「さぁ、本番だ」
 嫌な気配を発しながら一歩ずつ近づいていく。
「まったく、面倒な相手だナ」
「そのようだ」
 ふぅ、と一息ついてから梢と恵皇が瞬脚での接敵、手数で攻め始める。それを避けながらじっくりと間合いを計る二人。
「もらっタ!」
 密着したところへの骨法起承拳、「どん」と音を鳴らし少し浮かせることになる。
「そこぉ!」
 此方も同じように極神点穴をねじ込むように放つ。「く」の字に体を折りながら後ろへと吹き飛ぶ二代。二人が攻撃を貰って少し吹き飛ばされ、着地した瞬間に急接近。遊んでいる顔ではなく本気で「敵」と認めた顔で。

 攻撃の隙を狙って、次に前に出るのは鉄龍と雪切、今回の補助役であり騎士らしい行動だ。ベイルと黒い刀グニェーフソードと白い刀が大きく金属音と火花を散らして攻撃を受け合う。
「へぇ、少しは学習してるじゃない」
 ギチギチと刀と盾。刀と大剣を合わせながらじっくりと視線を合わせる。そして距離を置く。
「‥‥今はこっちでやらせてもらおうか」
 鉄龍が盾を捨ててバルカンソードと自前の爪を構える。
「死にたがりね‥‥ふざけるなよ」
 ゆらっと一代が動くと一気に接近して一閃、ぎりぎりのところでバルカンソードで受けるが、片腕とは思えない重さに冷や汗が流れる。
「遊びでやっているつもりなら、消えろ」
 そのままバルカンソードから振り抜き上段からの袈裟斬り。受ける前に鮮血が舞う。

「いやはや、なんとも‥‥」
 少しながらも押されているグニェーフソードと状況でどうしようか、と考え始める。
 一度離して絡め手を使うべきと判断し、一旦距離を置いてグニェーフソードを裏返しもう一度刀を受け、そのまま捻り上げるように刀を絡めとり、後方へと弾き飛ばす。
「今です!」
 そういった瞬間に飛んでくる手裏剣。秋桜の的確な援護、剃刀の刃が二代を傷つける。事はなく、弾き飛ばされる。
「刀、一本だけって誰がいったっけぇ?」
 腰に下げているもう一つの刀に「しまった」と言いながら体勢を直すところへ一閃。滑るように細い線が一本真っ直ぐに描かれる。血飛沫と言うよりも、じわじわと出るようにわざと攻撃したようにも見えなくもない。

 騎士、防御役が一瞬崩れた所の援護を志藤と秋桜が回りこむ。泰拳士の二人はまだ余力を残して隙を見てから攻撃してもらいたい、そこからだ。
「流石ですね」
 志藤が冷静を保ちながら一代へと攻撃を繰り出す。先ほどと同じような五月雨での攻防。違うとすれば相手が刀を持って捌き始めたと言うところだろうか。とは言え、相手に切り傷は出来ている、致命傷がないだけでぎりぎりを避け続けている。そしてそこから一歩踏み込まれて一撃と同時に篭手払い。ばしっと持ち手に一撃を与えて傷を負わせると同時に右肩から左腹部へと一閃され、一度距離を取る。

「ほら、接近するわよぉ」
 手裏剣を弾き飛ばしながらじりじりと秋桜へと接近していく。後ろには負傷した鉄龍と雪切、特に隊の同志である雪切の手前、格好悪いところは避けたい。どこから出しているんだと言わんばかりに手裏剣を取り出しては投擲。とは言え、じりじりと近づいてくる。後ろに弾き飛ばした刀も拾われてから、一気に接近され一閃。ゆらっと空気が歪むと斬られた秋桜の後ろからもう一人秋桜が忍刀を二代へと突き刺す。理と影の応用の一撃だ。
「ふぅん‥‥やるじゃない」
 そのまま秋桜を蹴り飛ばして忍刀を無理やり抜いて一息。
 膝を付いて息を荒くする二代。

「まだまだねぇ、だから甘いのよ」
 二代の前に一代が立つと身構える。これが最後という事だろう。

「まだ、大丈夫ですね‥‥」
 負傷した仲間を閃癒で回復しながら適宜加護結界を付与していく。が、なんとも相手の攻撃が強いので一度ではなく何度も付与し、回復すると消費もかなりのものだ。ぜいぜいと息を切らしながらも。
「そろそろ、私の、練力も限界です‥‥」
 全員の治療と援護をかけ終わりぺたんと座り込む白野威。
 ずっと援護してきたと考えれば十分な働きだ。
「さて、そろそろかねぇ」
 煙管を吹かしていた雲母が立ち上がり、弓を準備し始める。覇王の気配を漂わせながら。

●決着
「さぁ、楽しませてくれよ、開拓者」
 ゆらっと前に出るは天才。まずは梢が飛び出して攻撃を繰り出す。それを掻い潜り楽しそうに笑みを浮かべ刀を振るう。ピシピシと血が飛び散るところに一閃。両腕で防御するがそのまま腹部も斬られる梢
「まだ、終わらんヨ」
 倒れかける瞬間に膝を蹴りぬく。がくんと一代が折れたところへ鉄龍が突撃。オーラドライブの黒いオーラを発しながら一代へと迫る。まずはバルカンソードでの応酬、片腕に片足を負傷したとは言え未だに相手は倒れない。
「剣が一本だからと油断するなよ、俺の最大の武器はこの爪だ!」
 と、いいながらブラインドアタックからの左爪を繰り出す。
「舐めるな、と言っただろう!」
 爪を受けてから刀を捻り斬り上げる。ざん、と心地よい斬撃音が左腕を大きく傷つけ、そこから振り下ろしの一撃。辺りの雪原を赤く染める。
「死合と、言ったのを忘れたのか貴様」
 跪く状態になっている鉄龍へと、怒りあらわにして右目に刀を構え、突き刺そうとした手前、一代の動きが止まる。
「そう、言えば、貴様もいたな」
 薄緑色のオーラを発している一本の矢が一代の心臓を抉り、貫通して地面に突き刺さる。
「なんとも残念だがな」
「ふふ、いいじゃない」 
 そう言いながら糸の切れた人形のように座り込み動かなくなる。
「チッ‥‥嫌な気分だ」
 はき捨てるように雲母がそういう。

 そして一人残った二代。
「ふぅ‥‥じゃあかえろぉっと」
 一代の死体と刀を持ち上げふらふらと歩き始める。
 それを追う様に恵皇が飛び出すが。
「もうする気はないわよぉ、じゃねぇ」
 そういってどこかへと消えていく。

 ここに刀に生きた彼女の人生が幕を閉じる。