儚く散った夢の話
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/29 02:45



■オープニング本文

●ギルドにて
 ぼんやりと仕事をしている夢が日付を眺めて筆をくるくると器用に回し、いつものようにだるそうにしている。

「明後日は‥‥そうか、もうこんな時期なんだな」

 そう呟くといつものように休暇届を提出する‥‥が、破り捨て去られる。
 いつものサボリ癖のせいか今月分の仕事を終えてないので受理されない。
 自業自得とは言え大事な用事、分かりましたと一言言うと開拓者達のところへ向かっていく。

●お願い
「すまない、ここの遺跡の奥までの調査を頼みたい‥‥あとついでに花を添えてきて欲しいんだ」

 すっと差し出されたのは地図と、名も無い白い花。
 じっと貴方達を見つめて頼み込んでいる。

「私がいければいいんだが、別の仕事があってねぇ‥‥終わり次第向かいたいんだが、遅れてしまいそうだから」

 もう一つ文の入った袋を「とん」と机においてゆっくりと話し始める。

「勿論断ってくれてもいい。定期的な調査だから急ぐ必要はないんだが‥‥ちょっと私用も混じっててな」

 いつものふざけた様子もお気楽な様子もなく、ただぽつぽつと。
 よほどの大事な事なのかじっと、鋭く見つめて話ている。

「私用はいいとして基本的にはどういう状態なのか、アヤカシの発生の有無、老朽化の進み具合の調査をしてもらいたいんだ」

「説明は今する、一応定期的な調査なんで時間もないからな」

 文の入った袋だけ懐に仕舞うと、地図と花を置いたまま話を進める。

「場所は魔の森に近い調査済みの遺跡だ。罠も既に解除されているが、どれほど老朽化が進んでアヤカシが運びっているかがわからない、注意しておくれ」

 地図を指差しながら説明を続ける。

「最深部と思われる場所には目印があると思うから、そこまでいって戻ってくればいい。それと目印には触れるなよ」

 とんとんと最深部であろう場所を指でたたきながら言う。
 一通り説明を終えると、地図と花を置いたまま立ち上がり一礼し、他の開拓者へ地図と花を出して話をする。
 そうやって一人一人に真剣に頼みまわる夢。
 よほど切羽詰っているのだろう、ばたばたと忙しそうに走り回っている。

 ‥‥そうしていつもの掲示板に


■参加者一覧
ユリゼ(ib1147
22歳・女・魔
紅珠(ib3070
14歳・女・陰
言ノ葉 薺(ib3225
10歳・男・志
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
御門 平八郎(ib4851
27歳・男・サ


■リプレイ本文

●ギルド前にて
 開拓者六人と夢が話をしている。
「ま、調査と言ってもさらっと見るぐらいだ、ぱっぱと言って帰ってこい」
 一番手前にいたユリゼ(ib1147)に名も無い白い花と遺跡の地図を渡すと、足早にギルドに戻ろうとする夢を引きとめる
「その遺跡、以前に何が発見されて何のための遺跡?それとアヤカシも」
 しばし考え込んで一息つくと話し始める。
「さぁ、昔の人の考えなんて私にはわからないからねぇ‥‥アヤカシも最近行ってないから何がでるかさっぱり‥‥何か面白い発見でもあったら教えて頂戴ねぇ」
 少し誤魔化したように言うとギルドの中へと入っていく夢。
「‥‥遅れても必ず来るって、伝えておくわ」
 そう、夢の後姿に言いながら花に視線を向ける。
 手渡された花を眺めながら言ノ葉 薺(ib3225)が誰に言うわけでもないがぽつりと。
「さて、それでは縁を紡ぎに行くとしましょう」
「あれだけ真剣に頼まれれば、やる気が起きない方がおかしいよな」
 鉄龍(ib3794)がユリゼの手にある花を見つめてそう言う。その後に調査のついでなら楽な物だとも言い。そんな風に各々が渡された花に向かってぽつぽつと思いをいいながら
地図と遺跡の場所を確認してから調査に向かうのだった。

●遺跡内部
 魔の森からそう遠くないこの遺跡。内部は石造りの基本と言えば基本的な造りでかなり見通しも良く、通路幅もかなりある。とは言え、老朽化が激しいのか柱一つ一つがボロボロであり、壁などもぱらぱらと上から埃が落ちてくるのが眼に見える。天井が無いだけ押しつぶされて遺跡と一緒に埋もれていくと言う最悪の事態はないのは幸いである。
「ここか‥‥確かに聞いていた通り幻想的だな‥‥」
「悪いが調査の方は得意な奴に任せるぜ。俺ぁ学が無い上に、どうにも細々したのは苦手でな」
 鉄龍と御門 平八郎(ib4851)が刀を担ぎながら前に出て行く。
「さて‥‥あたしはせめてもでもみんなの足引っ張らんようせんと‥‥」
 陣形の後ろ側で紅珠(ib3070)が小声で呟く。とは言え、頑張らねばと思いつつ自分の嫌いな眼を隠している前髪を分けて耳にかけると辺りを警戒し始める。
 そして前髪を分けているところの前に劉 星晶(ib3478)も遺跡の周りにある木々からもれる光を眺めながら。
「‥‥魔の森に近いのが残念ですが、いいところですね。こういう場所は」
 まだまだ日は高く、お昼前といったところだろう。斜めに所々を照らす日の光が幻想的な雰囲気を出している。
「とにかく奥にいきながら調査しましょう」
 言ノ葉が隊列の後ろにつくと全員が足並みを揃えて歩き始める。
 
 地図どおりの道順を歩きながら崩壊の度合いを調べていく、殆どが風化によるもの、所々人の手による物があり、殆どの道が塞がっていたり大穴が開いていたりする。
「なんとも酷い状況で」
 ユリゼが瓦礫をこつこつと叩きながら地図に×印を書き足す。
「とりあえずぶっ壊してみようぜ」
「なんとか通れないか、やってみるか」
 鉄龍と御門がそれぞれの獲物を構えて瓦礫の前に立つ。
「あの、やめたほうがいいと思うんですが」
 言ノ葉が後ろで警戒をしながらそういう、それに賛同してか劉も超越聴覚を使いながら辺りを警戒しつつ。
「音でアヤカシが寄ってくるかもしれませんから」
「まぁ‥‥早くいけるっちゃいけるけどなぁ?」
 紅珠もなんとも言えない顔で二人の背中を見つめて言う。勿論とりあえず試してみると言う事で。
「ま、細々するのはめんどくせーし」
「そうだな」
 と、しばし眼を瞑ってから見開き。
『せーの!!』
 
 同時に刀と剣を振り下ろし瓦礫に一撃。「ドゴッ」という大きな音と同時に地面が振動を始める。開拓者がそれなりに本気を出してさらに技能も使い、また老朽化、風化が進んでいる建物で衝撃を与えたら当たり前と言えば当たり前だが。
「さて、どうしましょう」
 言ノ葉が崩れてきた柱を避けてため息混じりに呟く。
「走り、ますか」
 ユリゼがそういうと破壊した瓦礫に向かって全員が走り始める。勿論その後ろでは床が崩れたり、柱が倒れてきたりと崩壊が始まっている。来たときよりも酷くなってるというのはなんとも言えないが。
「一応、地図、の道、ですから、ね!」
 劉が走りながらも地図を確認して、奥地へと進んでいく。
「だいじょぶ、そう、やけ、どぉ!」
 崩れてきた柱をひらりと避けて紅珠が付いていく。何とか崩れてくる柱やら瓦礫をしっかりと避けながらも道を確かめていく。とにかく前には進んでいるので問題はないのだが、どうにも後ろ側はどんどんと酷い事になっている。
「‥‥すまない」
 そう後ろのほうで鉄龍が申し訳なさそうに謝り。
「いや、悪いなぁ」
 御門も同じように謝っている。
「余裕が、あって、いいこと、です」
 走りながらも白墨で印をつけているユリゼ、つけている端から崩れていっているのでなんとも言えないのだが。今のこの状況ではそんなことよりではあるが。

 そうして崩れが収まりなんとか落ち着いたところで散々で悲惨になった背後の状況を尻目に開拓者全員が一息ついている。
「死ぬかと‥‥思いました‥‥」
 ぜーぜーと息を切らしながらぺたりと座り込む、走ったおかげか走ったせいかは分からないが行程のほぼ半分までやってきた。
「‥‥あかんわ、おるで」
 よろりと立ち上がり茂みを見やる、符を構えてゆったりと狙いをつけて一閃、斬。一匹のアヤカシが瘴気となり消えていく。それを起点にわらわらと子鬼のアヤカシが飛び出てくる。
「早く、目印に献花したいのですがね」
 手を構えて素早く詠唱を始めるユリゼ、御門も刀を抜き放ち手身近にいる子鬼を斬りつける。低級のアヤカシなので大した強さもなく、あっさりと瘴気となっていく。
「手ごたえの無い相手だが、油断は禁物だ」
 鉄龍も近づいてくるアヤカシをなぎ倒しつつ、辺りを警戒する。
「魔の森に近いわりには」
 背後から襲ってきた子鬼を言ノ葉がなぎ払い辺りを瘴気の霧に包ませる。一度振るうたびに何度もその霧を濃くしながら突き進む。流石に雑魚であるのか何対かやられるとあっさりと撤退していく。
「‥‥手ごたえの無いことで」
 劉が最後の一匹を切り終え刀を仕舞うとやっとの事で一息。とにかく心眼に超越聴覚を使い警戒をする。一瞬しか識別はできないのだが、こちら側に向かっているのは確認されなかったので、また奥地へと足を進めていく。

●目印
 崩落した場所を避けて、崩落させた場所を確認し、襲い掛かってくる低級のアヤカシを蹴散らしながら、どんどんと遺跡の奥へと入っていく。雰囲気だけではあるが妙に神聖な感じも次第にしてくる。そうして瓦礫の山を一つ、二つと越えた先、円形に広がる広間のような場所にたどり着く。地図上でも確認できる最深部だ。その真ん中、地面に深く突き刺さった一本の半分程朽ちた刀がまだ輝きのある刃の部分と柄に収まっている宝珠が木々からもれる日の光を反射している。
「静かね‥‥彼女も毎年ここに着ているのかしら」
 ゆったりとその幻想的な雰囲気を眺めながら中心にある刀のところへと歩みを進めていく。
「ここが目的地、ですね」
 心眼を使いながら辺りを歩きアヤカシの警戒を始める言ノ葉、散々蹴散らしてきたのか流石に付近には気配はなく、ほっと一息つく。
「どうやら目印はこれのようですが」
 突き刺さった刀の前まで来るとしゃがみこんで花を添え始める。
「この目印は‥‥とりあえず先に花を添えるか」
 一本、そして二本目と白い花が刀のところに置かれ始める。
「彼女の代わりに‥‥遅れますが、きっと来るわ」
 ユリゼも渡された花と他の開拓者が添えた花を纏めると、少し窪んだところに岩清水を垂らし、そっと花を活ける。何があったのかは聞いていないので色々と思いをはせながらそっとその刀身に手を伸ばし、やめる。首を振って、触ってはいけない、権利がないもの。と心で呟き。
「‥‥で、これが目印か?結構な業物っぽいが」
 ユリゼがそうしてしゃがみこんで手を合わせているところに御門が柄頭のところに手を置いてどれどれと言っていると。
「余計な事はしない、そういう契約だろう?」
 一本の白い花を持って夢も到着する。その姿をみて慌てて手を離して、刀から離れる御門。そうして活けられたところにもう一つ花が添えられ、何か重々しくするのかと思えばあっさりと振り返り帰り始める夢を引きとめる。
「あの目印は一体なんなんだ?過去に何かあったのか?」
「‥‥聞きたいかい?‥‥まぁ、聞かないと納得いかないって感じだけど」
「そりゃ献花っていうには妙だし、あっさりしてるから、説明くらいはしてもらいてぇな」
 そう、夢に尋ねるとゆっくりと口を開き始める。
「‥‥此処から出たらな」
 少しだけ笑ったような感じではあるが、そういって瓦礫の合間をくぐりぬけるのを開拓者六人、後を追うのだった。

●帰り道
 開拓者と夢が着た道を戻りながら昔話に耳を傾ける。
「昔、どうしようもなく無茶をする子がいてねぇ‥‥ある日、とてつもないお宝があるって言われていたこの遺跡に足を運んだのさ」
 地図を確認しながら、最後尾にいる夢が言葉を紡いでいく。
「あそこには、やはりやりきれない記憶や降り積もるものを?」
「辛気臭いかは知らないけどねぇ‥‥とにかく、そうして一番奥にある宝を無事に手に入れたその子はね、手短にあるもっと大切な宝をなくしたのよ」
 その話を聞きながら軽くユリゼが顔を暗くする。
「絆の証‥‥ですね、私にはとても羨ましいです」
 そう話を聞きながら羨ましそうに後ろを振り返る言ノ葉
「そんな過去があったのか‥‥ではまたこの遺跡に来るのか?」
 少し心配そうに尋ねるが。
「私はまだ心配されるほど落ちぶれてないさ。まぁ、次からは崩落に気をつけないといけないけどねぇ」
 くすくすとそう悪戯っぽい笑みを浮かべて話ながら遺跡の外へと全員無事に脱出する。
「ま‥‥なんにせよ無事でよかったよ‥‥私の奢りだ、飯でも食べにいこうじゃないか」
 そういって肩を寄せて開拓者六人がご馳走になって財布の中身を危うくしたのは言うまでもない。