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■オープニング本文 ●事の始まり 一人のシノビがこそこそと都から少し離れた平原にある廃屋の中にはいっていく。 約束の物を届けるべく、その中にはいっていく。 すると数人の開拓者が待っている。 彼らは(勝手に)高位の開拓者を妬み、恨み、恐喝しようと考えて、シノビに調査の仕事を頼んだ。 「これが、開拓者の名簿だ」 個人情報漏洩は恐ろしいものです。 じっくり見れば、相手の特徴や能力の穴などを見つけられる。 はっきり言えば弱点が丸分かりということで。 「これをネタにいろいろ出来そうだなぁ」 下品な笑いをしながら名簿をばらばらとめくっていく。 あいつはこういうのだった。こいつはこれが弱点。等と楽しそうに呟きながら眠りにつく。 色々とこれから楽しくなる、そんな事をおもって。 次の日、名簿を盗んだ開拓者が目にしたのは人影。 とは言え、はっきり色や何かが分かるわけじゃない、ぼんやりと輪郭がはっきりせずゆらゆらとしている。 その手には盗んできた開拓者の名簿。 「おい!なにしやが・・・・」 仲間の一人が叫び上げると次の一瞬で胸を貫かれ、視界が真っ赤に染まる。 目の前にいたはずの人らしきものがすぐ傍で腕を突き立てているのを見つめる。 「『夜』‥・・か?」 シノビの最終技と言われる時間を止めるスキル。あっさりと目の前でそれを使われる。 視線を落として名簿を見ればシノビ。 どうやら名簿の事細かな情報を真似しているようだ。 「くそ、がぁ!!」 胸を貫かれたのが抜刀しシノビを切りつける。 横に一閃された胴体から瘴気が溢れたのを確認すると絶命。 それに動揺しながらもしっかりと相手の人数を確かめ始める。 今目の前に胸を貫いたのが一人、奥に三人、手前に二人、計六人 それぞれ名簿を持っていたり、服(らしき部分)に収めている。 「おいおい、マジかよ・・・・」 確認できる部分の名簿を見ると全てがそれなりに高位の開拓者だ。 本能的に強いものを選択したとしか思えない。 じっとりと汗が滲む。 とりあえず他の仲間は臨戦態勢だ。仲間意識が強いなぁ、と思いつつ少しずつ後退する。 二人目の仲間が近くにいたシノビではない他の人影を切りつける。 もう一度時を止められる前に一人でも数をへらす。 腰に構え突きを繰り出すが当たらない。 そしてうっすらと、避けられた瞬間に見た名簿、職業泰拳士。 チンピラの攻撃をあっさり避けると指先で二、三箇所突かれる。 「なめや・・・・がはっ!」 「くそ、次は『点穴』かよ・・・・マジで冗談じゃねぇ・・・・」 内部破壊系の泰拳士の技。 残りの四人の名簿を確認しようとは既に思わない。 「ずらかるぞ!」 一番後ろにいた一人が、そう叫び廃屋から飛び出る。 そのときにうっすら見えたもう二人。 舞を踊り、シノビの傷を回復している。 「巫女までまねしてるのか!」 そうして後ろを見せて、廃屋から飛び出たところを後ろから襲い掛かる人影。 名簿には志士と書かれている。 「っと、それぐらい!」 避けこそはするが、一撃が重く地面を陥没させ衝撃すら伝わるほど。 はっきり言って相手にする連中ではない、そして相手になる連中でもない。 名簿を盗んできた彼は一人で廃屋から都へと走り出すが・・・・。 「ぐぁあ!」 一本の矢があっさりと数十メートルの距離から肩を貫く。 見なくても分かる、弓術師だ。 「遠距離から弓、接近であの二つか・・・!」 なんとか自分の能力を駆使し移動し、人影から逃れる開拓者。 何とか振り切ったのか追撃はなく、都へと命からがらたどり着き、開拓者ギルドへ向かう。 ●開拓者ギルドにて パラパラと依頼の整理だの何だのしている夢のところへ、先程の開拓者が地面を赤く染めながらやってくる。 「ここは病院じゃないぞ」 と、いいながらも救急箱を持って手当てを始める。 その間に震えながら夢に呟く。 「はぁ・・・・頼む・・・・ここから・・・・少し離れたところにある・・・・廃屋に・・・・アヤカシと・・・・開拓者の名簿が・・・・」 ゆっくりと手を指し示すが、どうにもはっきりしない。 とりあえず分かっているのは手遅れだと言う事。 「俺が・・・・わりぃんだ・・・・道をそれたのが・・・・」 懐から有り金全部、銘品であろう刀を差し出し。 「これで・・・・どうにか・・・・」 それを最後にがくりと倒れ、絶命。 ゆっくり肩を見ると、あっさりと鎧、服を貫通して深々と骨に突き刺さっている。 「全く・・・・酷いもんだね、こりゃ」 とりあえず簡易ながらに開拓者を弔い、言葉を思い出す。 「まずは・・・・事実確認かね」 そう開拓者の遺言の通り調べていると、一つの事件が起こる。 都のはずれ、平野のまんなかにある廃屋に近づいたものは殺され、食われていると。 その姿は開拓者の人影であると。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
暁 露蝶(ia1020)
15歳・女・泰
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●ギルドにて 「あぁ、あの件か‥‥取りあえずこちらで調べては見たが盗まれた物はないな‥‥どこぞのシノビ辺りが進入して写したって線が濃いな」 ギルド嬢の夢がエグム・マキナ(ia9693)と朝比奈 空(ia0086)ルオウ(ia2445)が名簿についての事を聞きにきたので事前‥‥の前に調べていた案件を述べ始める。 パラパラと書類の束をめくりながら煙管を吹かして軽く真剣な顔つきで言葉を吐き出す。 「取りあえずここ最近で人の手があったと思われる名簿‥‥数百冊‥‥そこからさらに高位と思われる人物、今回の相手だと思われる人物が入ったのが十数冊‥‥持ち出せないからここで覚えていきな」 エグムと朝比奈、ルオウの前にどさっと積み込まれる名簿、日々開拓者の数は増え続けそのつど情報も更新されていくとなれば名簿の数、厚さも増えていくものだ。 一冊ずつ確認を始めていく。事前の情報で得られた敵の技能と開拓者の名簿をにらめっこを始める。 「絞り込みが難しいですね‥・・瞬速の矢と言われても‥‥まぁ、最悪を想定すると、こうなりますか‥‥そうしますと」 「こんなに‥‥色々書いてあるなぁ」 「持ち出された、と言うわけではないのですね‥‥」 三人そろってパラパラとめくり終えると名簿を戻して、一礼。他の開拓者が待っている郊外へと走り去っていく。 「‥‥嫌な予感がするねぇ‥‥ちょっと、そこの‥‥腕の立つやつを十人程集めておいてくれない?」 一応の対策としてそれなりの開拓者を集めておく夢であった。 ●都郊外の平野にて ギルドから帰ってきたエグムと朝比奈、ルオウが合流し、開拓者八人が弐百〜参百の距離の先にいるアヤカシと廃屋を見つめて、作戦会議中だ。 全員合流したところで作戦の確認を始める。 まずは前衛の泰拳士、シノビにぶつかるのが朝比奈、巴 渓(ia1334)柳生 右京(ia0970)の二人。中衛にいるであろう志士と弓術師に当たるのが斉藤晃(ia3071)とエグム。そして後衛であろう巫女に当たるのが、ルオウ、暁 露蝶(ia1020)。補助に回るのがシャンテ・ラインハルト(ib0069)。 がりがりと地面に図を書き込みながら一同が顔を見合わせる。いつもどおりのアヤカシ退治、ちょっと相手が強敵だというぐらいの認識ではあった。それが、最悪の道筋となるとも知らずに。 「それじゃいくか!」 と、声を高らかに上げて巴が立ち上がりバキバキと拳を鳴らしながら、廃屋のほうへと見やる。丁度屋根と思わしきところに一人、外でぼんやりと立っているのが数名。ぼんやりと陽炎の様にゆらゆらとゆれている為どの職業かは分からない。 「取りあえず、まずは接近しなければ話にならないか」 「開拓者…もどきね。強いんかね?さてさて、いっちょやってみっか」 柳生と斉藤も獲物を構えて自分の相手になろうアヤカシを見据えて一息。流石に歴戦を通ってきたとなると目つきが一気に変わり始める。 「これで姿まで似ていたらやりにくくてしょうがないわね‥‥そんな事はなさそうだけど」 暁も屈伸をしながら体を暖めている。 「ほうっておけば、さらなる脅威に、なりかねません‥‥急ぎましょう‥‥」 楽器の手入れも済み、しっかりと音を確認しながら、此方も臨戦態勢に。 「なんっつーか‥‥やっぱりやりづらくはあるんだよな」 ルオウもぐっぐと背を伸ばしながら向こう側を見つめる。 「さて、綺麗な死にば――もとい。シノビの引きつけはお願い致します。前線から引き剥がしていただければ、こちらの戦線にとってかなり有利ですので」 そうエグムが言うと、全員が立ち上がり、獲物を構えて廃屋へと歩みを進めていく。 ●悪夢の日 アヤカシの一人、弓術師に当たるのが廃屋の上で辺りを見回して獲物を探す。 黒い影のような体に赤い目、かなり横に裂ける口‥‥口はしには血のような染み。 近づいたものを片っ端から襲い、食い、戦闘本能とその食欲を満たすがため獲物を探す。 そして今日の獲物を見つけて、その割ける口をにぃっと吊り上げると射撃体勢に入る。 数は八、生きの良いのが八。嬉しそうにも思えるその顔は狂喜に満ちている。 「では、行きましょうか」 と、エグムがそう言い、同時に全員が「ある一定の範囲」に足を踏み入れると正確無比な矢が一本、前衛に構えていた柳生の頬を掠めていく。弓術師最高の射程で此方を正確に狙ってくる。 「中々やりよるな」 斉藤が飛んできた矢の一つを叩き落しながらじりじりと前進する。 障害物の無い平野、相手が確実に此方を捕らえてくる状態で頼れる防御物は自分の獲物のみ。 百の距離をほぼ確実にあててくる弓を掻い潜らないといけない条件が追加される。 「俺達は立ち止まれない、先にいくぜ!」 巴が瞬脚を使い一歩踏み出るように前に高速移動すると同時に敵の弓術師が狙いをつける。 それを抑えるかのごとくエグムも弓を構えるが、二十の距離はそれほど短くは無く、先に先行した巴の援護をするまでには遅く、遠い。 敵の第一射目、正確に巴の腕を貫き、左手を奪う。が、止まらずにさらに接近。 「やらせません」 エグムも漸く自分の射程に入り射撃。だが、相手の右後方へと大きくはずれ、すぐさまに六節で矢を装填、猟兵射を放つ。距離のせいか相手の右肩に辛うじて当たるが、怯まない。 狙撃手というものは一度捉えた獲物は眼を離さないのが定石であり、常である。それにたかだが矢が一つ、其れぐらいでは抑えることは出来ない。 第二射目。さらに接近してきた巴のあっさりと右腕を貫く。 現状、巴が先行、後方でエグムが支援射撃、残りの六人がその中間を進む。 「まずい、ですね」 朝比奈が点々と続く血を眺めながらぽつりと呟く。先行してもらっているおかげで後ろの七人は無傷で無事ではあるが、戦力が削れているのは確かだ。 一応巴の思惑通り、撹乱‥‥とまでは行かないが敵の注意を引きつけているのは確実だ。瞬脚のおかげでかどうにか廃屋まで三十ほどの距離まで辿りつき、目標のアヤカシを見つけると同時に全てが止まる。瞬時に背後に高速移動、そして攻撃。叩き伏せるように背後からの無慈悲な一撃。右爪が痛々しく血を滴らせながら巴の背中から引き抜かれる。 「まずいですよ!」 先行しすぎたせいで回復も援護も間に合わない。アヤカシが生かしたまま食らうのが至高であるのが救いだ。何も予防策もせずに突っ込んだ結果ともいえる。シノビは引き抜いた右爪を舐めながら巴を見下し、嬉しそうに口端を吊り上げる。 「ぐぁぁ!ぐぅ‥‥」 しかし距離を稼げた分弓術師の攻撃を受けずに前に進めたのは良かった。 残り五十ほどの距離まで開拓者達が詰め寄れた。 「早くしないと、手遅れになります!」 とは言え、突出すれば矢の餌食、少し距離の離れたエグムへと向き直っているのが幸いかさらに歩みを進めていく。 「役者不足でしょうが‥‥貴方の相手は私です」 エグムが向き直った弓術師に対して六節、猟兵射の二連射。だがエグムの命中能力だと距離八に対しては不十分だ。掠め、当たりはするものの直撃、貫通は全くと言っていいほどにしない。対してのアヤカシは割ける口を限界まで開き、楽しそうに矢を射る。能力を真似たとは言え元が強力であればあるほど強力だ。真似た物、天儀でも屈指の弓術師、簡単にエグムの肩を貫く。 「――ッ!なかなか、危険ですね‥‥」 ぎりっと奥歯をかみ締めながら、矢を引き抜き、続けて打ち込もうとした先にさらに二本の矢が連続で飛び込んでくる。咄嗟に心臓、頭を庇い防御。一本はそのまま横に反れてもう一本は足に。膝を付いてその場に崩れ、相手と開拓者を見やる。 距離は四十程だろうか、弓術師を引きつけたのは有効であった。しかし後を追うほどの体力は既に無い、霞む視界の中で誰かが叫んでいるが、ぼんやりとしか聞こえない。 「私も、未熟ですね‥‥」 カランと弓を落して息を整える。これでも相手が本物以下であるのが脅威だ。取りあえずといいながら矢の一本を口に咥えて、刺さった矢を一気に引きぬく。苦悶の表情を浮かべながら、濃い血の匂いをあたりに撒き散らしながら止血を施し始める。確実に相手を殺して獲物を食らうアヤカシであればこんな事はなかっただろう。 「くっ‥‥後退、しますか‥‥」 少しずつ後ろに下がり、弓の射程範囲から逃れ始める。 距離三十、十分に自分達の術の範囲に入り込んだ開拓者。とは言え既に二人は沈められ、また弓術師も此方を向いている。一先ず朝比奈が巴の傷を癒すのに集中し、他の開拓者が前に出でる。 「では、いきましょう‥‥!」 シャンテが騎士の魂と戦将軍の剣を組み合わせて独自の組曲「騎士候の剣戟」といいながら演奏を始める。それと同時に奥にいる巫女の一人が舞を踊り始め、どちらも戦闘準備が整う。 「開拓者の姿を持ったアヤカシ‥‥その能力、興味深い」 そうしている間に前に出てきた泰拳士を相手に柳生が刀「乞食清光」を抜刀し、一先ず切りかかる。が、掠りもせずにするりと避けられる。チィと舌打ちをしてから早々に斬り潰す為に柳生無明剣と両断剣、さらに気力を練り上げて最大限まで命中を上げた一撃を振り上げ、刀が分身しているかのごとく揺れながら泰拳士の片腕を捉える。 ザンッと心地よい音と共に剣先が相手の腕の付け根を斬りあげるが、一層と瘴気を濃くしながらぎりぎりで避けられ飛ばすには至らず、振り上げて体を上げたところにカウンター気味に一撃が振り下ろされる。ほぼ力任せではあるが本能と言うべきだろうか、的確に頬を捉えて振りぬかれる。 「くっ‥‥まだ、終わらん!」 血反吐を吐き捨てた瞬間にさらに追撃、各所に指を当てられる。そして内部から爆発するような衝撃とこみ上がる血反吐を抑えながらも相手を睨むのをやめない。‥‥手数の差と言うのは馬鹿にならない。此方が二度斬りつければ相手は四度殴るってくる。つまるところ荷が重過ぎ、見誤ったというべきだろうか、片腕をもっていったとは言え弱ってはいない。先行した巴の治療に朝比奈もいない、一人で戦うにはかなり無理がある。じっとりと嫌な汗をかきながら打ち合いを始める。 「志士を模してる噂やが、ホンモノにどこまで迫ってるかねぇ」 朱槍を振り回し、ぴっと腰に構えると志士に向かってぽつりと斉藤が呟く。そして次に咆哮。ほぼ全員のアヤカシが斉藤へと顔を向けて武器を構える。未だルオウ、暁は巫女到達前、柳生は予想以上に苦戦、巴、エグムはリタイア。ほぼ全員の攻撃を一度に受ける事になる、 「ほう‥‥どんなものかね」 獲物をかまえて防御の姿勢をとり、攻撃に備える。まずは目の前の志士からの一撃。姿に似合わない大きい獲物、大剣を上段から振り下ろすのを朱槍で防御、そこから柳生相手をしていた泰拳士が反転後方から正眼の構えで接近し、弓術師もゆったりと構え、衝撃を発する矢を射出。 「やる、やないか!」 朱槍を駆使し、その巨体に似合わない機敏な動きで攻撃を捌き始める。大剣の一撃を横に逸らし、矢の衝撃を耐え抜き、さらに泰拳士の連続攻撃。 「くぁ‥‥きくなぁ‥‥」 横っ腹にもらった泰拳士の攻撃が内臓を破裂させるような感触と同時に炸裂する。本物とは多少なりと性質が違う点はあるものの、内蔵への攻撃をするのは変わりない。ぼたぼたと血反吐を吐き捨てながらも攻撃に耐え、志士への一撃。心地よい斬撃音と共に片腕と胴体への一撃を放つ。血‥‥ではないが瘴気が溢れぐらりと踏鞴を踏む。 「ふん、てめぇは姿はもしてるようやが、重さがないな」 斉藤がぐらりとふらついたところに柳生が慌てて走りこみ、斉藤の肩を持ち上げながら刀を構える。一瞬とは言え、総攻撃を食らえばたまったものではない。ぽたぽたと口端から血を垂らしながらもしっかりと朱槍を構えなおす。 「行くぞ柳生、今の内に一つ減らすぞ!」 「あぁ、分かった!」 一、二、三!と同時に柳生と斉藤が志士に対して十字に刀と槍を振るう。血の様に吹き出る瘴気を眺めて、泰拳士とシノビに向き直り、一息。 「これは、きついのう」 「全く‥‥」 そうぼやきぼろぼろになった二人の後ろから朝比奈が合流する。 「取りあえずの回復はしたので死なないかと」 少々息を切らしながら杖を構え、二人の治療に入り、仕切りなおすのだった。 そして此方、巫女二人、弓術師一人に対峙するはルオウと暁。 目の前で舞を踊り、回復をしている巫女は二人に未だ気が付いていない。 「ルオウさん、早く片付けないと被害が」 「おう、分かってる!」 示現、タイ捨剣を使用してまずは一撃を舞を踊っている巫女に、斬りかかると同時に暁も骨法起承拳を使用しながらルオウの脇から飛び出ながら一撃を見舞う。バッサリと斬り瘴気を溢れさせながらさらに鞠の様に吹き飛んでく巫女の一人。しかしそれをみた周りは別に動じずに攻勢に出てくる。まずは巫女の後ろにいる弓術師、赤い目がぎらつくと同時に三本の矢を射る。今は先程よりも距離が無い為、回避はかなりの難易度だ。 「くっ、これぐらい!」 ルオウに向けられた二本の矢は何とか身を捻り、もう一本はうまく真っ二つにする事が出来た。しかしその後ろの暁への一本は回避をしたところ、確実とも思える偏差射撃で暁の腹部をなぞるように掠め、赤い物を散らす。そして弓術師の次の攻撃、体勢が崩れている暁への高速に放たれる一本の矢。 「まず、い!」 不可避とも思える矢が的確に暁の足を貫く。痛みに耐えられずに叫びを上げる暁を眺めて楽しそうに嬉しそうに笑いを浮かべる弓術師。 「こいつ!」 ルオウが弓術師へ隼人を使用し俊足を活用して接近するもその距離二十程、それほどあれば装填、視認、射出が可能だ。もう一度ルオウに向けて参発正射放つ。無慈悲な矢はルオウの四肢へと放たれ、確実に動きを止める速度でやってくる。 一本目、右に体をずらし回避。 二本目、下段からの斬り上げで防御。 三本目、左肩を貫き。 そのまま体勢を崩してごろごろと転がりながらも体勢を持ち直して巫女と弓術師に視線を向ける。巫女の一人は廃屋のほうへと転がっていったのは未だに戻ってきてない、いるのは目の前の回復をし続けてる巫女と弓術師。 「かはっ‥‥ッ!」 暁が矢を後ろで引き抜き、相手を見据える。取りあえずもう少し後方にいる斉藤達のところへ戻ればまだどうにかなる。息を荒くしたまま、その場からゆっくりと立ち上がり。 もう一度後方へと視線を向ける。朝比奈は斉藤と柳生の回復に付きっ切り、せめてその範囲まで飛び込めば回復はされる。 「‥‥ル、オウさん‥‥一度体勢を立て、直しましょう‥‥」 「ちっ‥‥おう!」 一気に反転、ルオウが暁を拾い上げて斉藤たちの下へ駆け出す。そしてその後ろからさらにルオウの左肩を貫く。奥歯をかみ締めながら何とか合流をするべく走りこむ。 ルオウ、暁が斉藤、柳生、朝比奈と合流し何とか体勢を元に戻し、対峙する。 「今、治しますから」 朝比奈がルオウと暁の傷を癒し始めたところで、斉藤と柳生が前に出る。 相手は泰拳士、シノビ、弓術師、巫女。廃屋へ吹き飛んだ巫女はそのまま動かずに出てこない。手順を増やされる心配がなくなったとは言え、何時起き上がるかも分からない。 「一先ず、前衛を潰さないと、駄目ですね」 「こんな事なら、酒飲んでくればよかったわ」 くっくと斉藤が笑いながら踏み込み朱槍をなぎ払う。 目標はシノビ、柳生に泰拳士を任せて潰しにかかる。 びゅんびゅんとその長物を振り回しシノビを追い詰めるが、いまいち致命傷を与える大きい当たりは無い。完全に逃げの体勢にはいっているのか朱槍の範囲からも外れていく。そうして廃屋のほうへとシノビは姿を消す。 一方の柳生は相変わらずと言うか、スキル、気力も共に使えない状態であると相手にもならない程に当たらない。とは言え、掠めたり一番最初に斬りつけた腕へとは何度か当たるようにはなっている。 「ちょこ、まか、と!」 気合一閃、持ち手を切り替えて居合い切りの体勢からの一撃。片腕を切り落すことに成功。その代償は数度目の内部破壊、回復したとは言えかなり消耗するのは間違いない。 慌てて朝比奈が前線維持の為に閃癒を施す。精霊砲や神楽舞を施しても前線が崩れれば一気に後衛まで攻撃はされる。しかしそれでも回復量の少なさ、相手の攻撃力の高さが相まって連続使用を余儀なくされ攻勢に出ることが出来ない。そしてその回復で動けないところへと弓術師の矢が飛来。 「くっそぉ!」 ルオウが左肩を庇いながらも逆手から振り上げ、矢を一刀両断。左肩の傷が塞がっていないせいかあたりを赤くしながらも気合で守り通す。 「読みの甘さですかね‥‥」 エグムがぐったりと倒れている巴の回収をし始める。少し休んだおかげで動けるようになったのは幸いだ。 「全くだな‥‥さ、とっとと回収して撤退するぞ」 後ろから一人の女性がエグムと巴の肩を担ぎながら指示を飛ばす。 「次の演奏を‥‥」 前線ではシャンテが演奏を終わり、次の演奏に入るところに夜によって前衛をすり抜けたシノビがシャンテの前に立ち塞がる。作戦ミスの一つ、前衛が後衛を護りに入っていないという点だ。 「しま‥‥」 た、と言う前にあっさりと右下腹部から左肩にかけての斬撃。なすすべも無く一撃を貰い、視界が真っ赤に染まりあがる。演奏を試みるも、相手の行動が一手早い、さらに右肩から左下腹部へと十字に切りつける。意識が隔絶しそうなほどの痛みと真っ赤染まりながらも演奏の手は緩めない。何とかシノビに精霊の狂想曲を食らわせることは出来たが出血量が酷くその場に倒れこむ。確実な攻撃、散る間際にしてはかなりの一撃だ。 そうしてシノビが混乱したところを追撃する形で斉藤達が動き出す。 と、そうしたところでシノビとしては十分な働きをした、鬱陶しく思えたのか泰拳士が混乱したシノビを叩き殺すとゴミの様に投げ捨てる。 「‥‥用済みって事か‥‥」 柳生がそういいながら瘴気に化したシノビを見つめぽつりと、真正面から何も無しに斬り込んだところで当たらないのは既に十重の承知。 「泰拳士、巫女、弓術師か‥‥流石というべきかね」 斉藤も口端を上げて笑ってはいるものの、ジリ貧であるのは確かだ。 傷の処置はしたとは言え、体力までは回復しない。さらに重傷者を抱えてるところから残された時間も少ない。 「なんとも、言えないですね‥‥」 回復にほぼ全ての練力をつぎ込んだせいか朝比奈も既に肩で息をし、じっとりと汗が滲んでいる。シャンテの傷を治しながらぜいぜいと息をしている。暁も出血から既に立ち上がれず、ルオウも左肩が完全にやられて動かない、巴、エグムも傷のせいで前線までは既にこれない。万事休すといったところだ。 ●悪夢からの撤退 全員が負傷、一部が半殺しにされているが何とか生きている。アヤカシもそれなりに傷ついてはいるが、その戦闘本能と食欲は全くと言っていいほど薄れていない。ゆっくりと近づいて、一人ずつこれから食そうと言うときに煙幕が炊かれる。 「嫌な予感ばかり当たるってのは、世の常かね‥‥回収したら即時撤収!煙幕は切らすなよ!」 十人程引き連れて、負傷した開拓者を回収にやってくる夢。一定範囲を煙幕で覆いながら回収し、撤退を始める。正直全滅するとは思わなかったが、こうなってしまったものはしょうがない。 「全員生きているな、よし‥‥取りあえず治療費くらいはどうにかするが‥‥それなりに弱らせただけましか」 煙幕にまぎれてそのまま弓の範囲を脱すると開拓者を馬車にのせる都へと。治療と薬草などで止血を施しながら軽く舌打ち。とは言え、何も考えずに後衛の護りもせずにただ真正面からぶつかれば当たり前と言えば当たり前の結果だ。死ななかっただけマシと言えるだろう。 この後、負傷したアヤカシの止めを確実に行う為に倍の数で攻め入ったのは言うまでも無い。 |