不思議洞穴【外伝弐】
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/18 02:39



■オープニング本文

●不思議洞穴第二階層にて
 一人の若い冒険者が松明片手にすすんでいく。
 ・・・・第二階層鍾乳洞型の自然に作られたような場所。
 それなりに足場も悪かったり、鍾乳石が立ち並んでいたりと、どこにでもあるような洞穴と変わりない。
 唯一つ違うのは壁だ。
 どうやら宝石系の鉱脈にぶち当たっていたせいか、壁を掘り返せば豆粒のような原石がころんと出てくる。
 とは言え、大粒でもなければ状態がとてもいいわけでもない、所謂小銭と同様な宝石だ。
 しかしやはりそれでも夢と言うのはある。だからこの冒険者も此処にきて宝石を掘っている。

 カツーン・・・・カツーン・・・・

 つるはしを振るい、がりがりと壁を削り続ける。

 カツーン・・・・カサ・・・・カツーン・・・・カサカサ・・・・

「!?」

 男は振り返る。
 壁につるはしを叩き付ける以外の異常な音に。
 じっとりと汗が滲む、普通のアヤカシ、特にここのやつらならば何度も倒してきた。
 攻略方法すら理解し地形も嫌と言うほど通ったので覚えている。
 しかしこの気配は今までの元と全くと言っていいほど違う。
 そう、じっとりと汗が滲むような嫌な重圧が背中にのしかかる。
 
 ・・・・ごくり・・・・

 唾を飲み込みつるはしに力をこめると気配に対して一閃。
 メキョっという破砕音をしながらそのまま振りぬき、気配を見やる。
 そこに人間大の黒くわきわきと何本もの足を動かしながら腹の辺りを引き裂かれたあれが立っている。
 ゾクっと男は冷や汗が滝の様に流れ始める。
 斬りつけた部分からわらわらと何かが這い出てくる。
 
「ひぃぃぃ!」

 男はあまりの戦慄に走り、逃げようとする。が、相手が悪い。
 地面に這うように倒れると、信じられない速度で寄ってくる。

「くっ、はぁはぁ・・・ッ!っと!」

 どんと大きく踏み込み、亀裂を飛び越える。
 それなりの大きさの亀裂だ、あの体格なら、と思いにやりと振り返ると。

「―――ッ!!!」

 言葉にならない悲鳴が上がる。
 高速に羽が振るえ、浮かび上がる黒い巨躯。
 そして信じられない速度で此方に飛んでくる。

「いやぁぁぁ!!!」

 ぷつりと、そこで意識が隔絶する。
 その後・・・・ぼろきれの様にずたぼろになった男が発見され「あれ、あれが・・・・」と呟き続けていた。

●洞窟前にて

「これで、四人目か・・・・」

 黒いあれの犠牲者が日に日に増えている。
 生物の環境順応能力と言うのは凄まじいわけで、そしてここは不思議洞穴なわけで。
 何が起きても不思議ではない、と認識はしているが・・・・。
 流石にこれ以上の被害を出すわけにはいかない。
 村長はいつもの様にギルドへと手紙を送るのであった。


■参加者一覧
鶴嘴・毬(ia0680
24歳・女・泰
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟


■リプレイ本文

●不思議洞穴前にて
 開拓者一同が、村長と被害者の面々に会う。
「おぉ、これまた強そうな開拓者さんですのぅ‥‥」
 村長がほんわかと出迎え、被害者の開拓者が事件の説明をし始める。
「また凄いのが出たんですね‥‥私あんまり見たことはないんですけど‥‥」
 暁 露蝶(ia1020)がそんな事を言う。
「ジルべリアには、冬の寒さに耐えきれずアレは出ませんが‥‥恐ろしいものだと、伺ってはおります」
 その後ろでシャンテ・ラインハルト(ib0069)も想像できないのだろうか、うーん、と頭をかしげながらアレについて考え‥‥るのをやめたようだ。
「前回は逃げられたけど、今回こそはしっかりしとめないとっ!」
 赤マント(ia3521)が前にここ、不思議洞穴の最深部へと向かったときにちらりと対峙していたためか、闘志を燃やす。速さ命の彼女にとって、アレの速度も気になるのだろう。
「まっ、これ以上被害が出ないように頑張るとするか」
 話を一通り聞いて、合流する鶴嘴・毬(ia0680)武道派なのであまりアレについて抵抗は感じないのかかなり平然としている。
 というより今回集まった開拓者、殆どがアレに恐怖やら負の概念が全くと言っていいほどない。ただしその中で正の感情を持っているものが一人。。
(G教徒として最高の死に場所ですね)
 剣桜花(ia1851)天儀内のG教徒として活動している彼女にとって、今回の依頼はまたとない事であり、決死の任務でもある。しかしそんな桜花が一つ気がかりなのが旦那の存在、雲母(ia6295)。先程からギラギラとした目線を背中に受けているのでやりづらいったらありゃしない。
「ゴキブリ・・・私あんまり見たことがないんだが、どれ程脅威なんだ?」
 そんな事を知っているのかどうかは分からないが、きょとんとした様子で話を聞いている。此方もアレの存在自体を全くと言っていいほど知らないようである。何気に「ゴキブリ」と呟いた単語がいけなかったのか、被害にあった開拓者がぷるぷると震え始めたのは気のせいではないだろう。ここまでなるぐらいに驚異的であり、脅威的なのだ。
 取りあえず、全員が洞窟に潜るといったところで、ほぼ全員が「残飯」を要求する。が、いきなりと言うことなのですぐには用意できなく、一同がのんびりとご飯をご馳走になる。

 その間に露蝶とシャンテがもう少し詳しい事をお願いします。と、げっそりしている開拓者に尋ねる。なるべく詳しい場所と事をお願いしますと。
「ん‥‥そうだなぁ‥‥俺は第二階層のここだったな」
 いやそうな顔(それもかなり)しながら一人の開拓者が地図を取り出すと通路の一つを指差す。
「あれ、俺ここだったけど」
 其れを見ていた他の被害者は別の部屋を指差す。
「私はここね」
 また違う場所を指差し。
「んう?どういうこと?」
「‥‥「アレ」を引き寄せるものとか‥‥」
 口数の少ないシャンテがしっかりとたずねる
「引き寄せるも何も、俺たちはいるのを知らなかったから特にねーぞ?採掘用のつるはしに薬草類、武具ぐらいだし」
 うんうんと一同頷き、そこで会話を遮る。どうやらしっかりと心のそこにトラウマが刻まれているようだうーんと頭をかしげながら考える。どうやら第二階層全域にわたってアレがいるらしい。見たことも無いのにぞくっと寒気がするのは何故だろう。これ以上は有益な情報はなくぼちぼち収穫して戻る。

 そうして戻っていくと、他の開拓者達が材料の屑野菜や残飯をしっかりと入手し、もう一度洞窟に向かっていくのである

●出会うは最凶最悪の敵なり
 毬が松明に火をつけて、辺りを照らす。すっかりアレのせいで閑古鳥なこの洞窟。ある意味ではかなりの難敵であるとの暗示の様だ。
「さて、一応持ってきたし、どこか適当な部屋に撒いてみようか」
 見ただけでてかりそうな程に油ものをもってきた赤マントがきょろきょろと辺りを見回しながら部屋を眺める。それなりに広さもあり、動き回っても大丈夫そうなところだ。ここまで運搬してくるまで、何一つ奇襲という奇襲はなかったが、一応退避も考えて一番階段に近いところを選択する。ごっちゃりと残飯を部屋の中心におくと、そこから離れて様子を伺い始める。
 ごくりと皆が息を飲んでいると‥‥。

 ‥‥カサ‥‥カサカサ‥‥

 アレ、特有の嫌な移動音。聞いた事のある者ならば確実にこの音を真っ先に思い浮かべるであろう音。部屋の奥、三階層側からアレはやってきた。‥‥超高速に。
「きたぞ!」
 毬のあげた声を起点に開拓者がアレを囲む。人間大の大きな黒いアレが松明の光によってぬらぬらと輝いている様は最悪でもある。
「う‥‥意外と、気持ち悪い‥‥」
 シャンテがそういいながら演奏を始める。と、同時に音に反応してシャンテのほうへとアレが向き直る。二足歩行から地面にへばりつくように足をわきわきと動かしながらまだゆっくりと近づいていく。
「ひぃ‥‥っ!」
 重量の爆音を奏でて足を止めようとするが、それよりもかさかさと蠢くそれに対して恐怖で狙いが定まらない。
「アレが苦手って言う訳じゃないけど‥‥ここまで大きいと厄介かな」
 素早くシャンテの前に立ち塞がる赤マント、地面を張っているアレに対して崩震脚を踏み潰すかの如く放つが、瞬間的に加速し、回避される。
「うぅ、直接触りたくないけど、武器がこれじゃ‥‥」
 いやいやながらに露蝶も、ぐっと拳を握り回避をしてきたアレにむかって高速の拳を繰り出す。が、かさかさと嫌な音をたてて回避。
「やけに素早いじゃないか、蟲のくせにっ!」
 松明を置いて、疾風脚を飛び出しながら放つ、めきょっと横っ腹であろう部分にあたると、なんとも言えない不愉快な感触に少しながら躊躇する。意外と平気であってもやはり生理的、本能的に嫌な感触という奴だ。
 ダメージを受けたのか少々いびつな形になったアレを。
「私はG教徒としてなす事をします」
 アレの方へと桜花が進むと回復を始める。本気で敵対するようだ。
「流石の私も怒るぞ、なぁ‥‥本気で怒るぞ」
 雲母がぎりぎりと奥歯をかみ締め、青筋を立てながら桜花へと弓を引き絞る。
「誰も手を出すなよ、私の責任だ」
 そのまま桜花を引き離すように雲母が立ち回り始め、うまい具合に分断する。
「うぅ、はやく‥‥終わらせましょう」
 シャンテがトラウマを作りながら重力の爆音を演奏し、アレの進行を妨げる。そしてそれを始点にして、毬、露蝶、赤マントがいっせいに飛びかかる。
「黒と赤、どっちが速いか勝負だ!」
 どん!と大きく踏み込むと泰練気法・弐を発動して連打をくわえるべく加速。だが、流石のアレ。この世でもっとも巨大化してはならない生物は伊達ではない。通常に動くだけでも並みの開拓者以上の速度を出してカサカサと回避する。
「!この僕を超えるなんて‥‥」
 だが、それでも赤マントの拳は何度か掠めている。変な風に足が曲がっていたり、かさかさと変に痙攣をしている。それを桜花が回復し、元通り。それでも雲母が抑えているのでまだましではある。
「でも、攻撃してこないな」
 邪拳を繰り出し何度も拳をあて動きを止める。そこを狙ってさらに露蝶の旋風脚をたたきいれ、赤マントの追撃。見事なまでの連携を披露しながら追い詰めていく。とは言え、相手も相手、蟲の本能というのだろうか、カサカサと動き逃げ始める。
「凄く、不愉快ですね!」
 体勢を立て直し、反転した露蝶が思い切り嫌な顔で攻撃を続けようとするが、その前にシャンテのほうにカサカサ近づいていき。いくら見慣れてなくて、平気だとしても、カサカサと徐々に視界を真っ黒に染めていく黒いアレの恐怖に耐えれるわけもなく
「え、えぇ!?いやぁぁぁぁぁぁ!」
 ご愁傷様としか言えない、殆ど錯乱状態で精霊の狂騒曲をかき鳴らしていく。それがなんともいい効果だったのだが、完全に動きが止まる。
「そこだっ!」
 毬が松明を投げつけて残飯ごと着火。ごうごうと燃え盛りながら未だしぶとく羽を広げて飛びまわり初める。既に眼にしたくない光景が目の前に広がると人間固まるもので。
 燃え盛るアレが。羽を広げて部屋中を飛びまわっているのだ。平気だ、見たことがないといっていた露蝶とシャンテにはしっかりとその光景が写るわけで。
「うわぁ、さすがに僕もこれはきついなぁ‥‥」
 多少げんなりと赤マントが其れを見つめる。とは言え、純粋に飛びまわってる速度が半端ないのでそちらの方に心を奪われているようだが。
 バタバタ、ガサガサ‥‥部屋を縦横無尽に飛びまわり、最後はぽてっと落ちる。案外しぶといのに限って最後は呆気ないものだ。脅威的な黒いあれはここに燃やされ、すべてが終わった。‥‥はず。
「でも、聞いてた話じゃわらわら中からちっちゃいのが出てくるんだっけ?」
 そう思い、一同がぞっとする。これでさらに中から出てきたらどうしようか、流石に細かいのだと処理にも困る。
「で、でも、ほら殴っただけですし、切り裂いたわけでもないですから」
 露蝶がなるべく想像しないように、声を上げて否定する。
「そ、そうです‥‥燃やしましたからっ‥‥」
 シャンテも其れにうんうんと頷くのだった。
「んー‥‥あとは夫婦喧嘩が終わればかね」
 死亡確認、と指を指してしっかりと言った後に隣で派手に喧嘩をしているのをぼんやり見つめる四人であった

●夫婦喧嘩
 アレ側、G教徒として散るべく開拓者に対峙、結果夫婦喧嘩となる。さすがに本気の雲母となると的確に狙った場所を確実に撃てる、それが桜花を抑制し続ける。
「私はG教徒として死ぬんです、止めないでくださいっ」
 Gはしっかりと火葬された、援護も十分にし、練力もほぼ空。ダガーの先端をぴたりと喉に当ててじっと雲母を見つめる。
「死ぬぐらいなら、開拓者をやめろ、ひっそりと私の元で生きろ」
 素早く構えた弓から一気に矢を放ち、ダガーを弾き飛ばす。
 G教徒的にはこれ以上の無い死に場所であろうが、夫婦仲となればまた話は別という事だ。ある程度観念したのかむすっとした顔で大人しくなる桜花。それを確認すると雲母が簀巻きにし始める。
「‥‥当分私の傍を離れるんじゃないぞ」
 大人しくなった桜花を担いで皆の下へ。 とりあえず頭を下げよう、そう思いながら申し訳なさそうな顔で合流するのだった。。

●全ておわ‥‥り?
 アレもしっかりと焼き殺し、G教徒としての自決も雲母に阻まれ、簀巻きにされた桜花を担ぎながら開拓者一同は洞窟の外へと出て行く。これで一件落着。今後アレの存在がこの洞窟を脅かしたり、開拓者を襲ったりはしないだろう。
 ‥‥そう、それが本当に根絶されていればの話‥‥炎の中、小さな黒い塊が一匹そろそろと火の中から出てくると、カサカサと洞窟の深部へと消えていったのは誰も知る由がなかった。