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■オープニング本文 ● 『流星祭』の時期、街はいつもと違った喧騒に包まれる。 祭は西の空が薄紫に染まる頃に始まる。次々と灯が灯る祭提燈風に乗り聞こえてくる祭囃子。祭会場となっている広場は大層な賑わいで、ずらりと並んだ屋台からは威勢のいい呼び込みの声が響き、浴衣姿の男女が楽しげに店をひやかす。時折空を見上げては流れる星を探す人、星に何を願おうかなんて語り合う子供達、様々なざわめきが溢れていた……そんな祭の前日譚。 ● 「その材木はこっちに運べ!」 ねじり鉢巻を巻いた男が叫ぶ。 「提燈が足らないぞー」 箱から取り出した提燈を数えていた男が頭を抱えた。 神楽の都で行われる祭『流星祭』の開催を数日後に控え、会場は既に祭が始まったかのような賑わいだ。 その賑わいと反比例するように周辺の通りは常より静かであった。「休業中」そんな木札を下げた店も存在する。 毎年みかける光景だ、祭の準備に気合をいれるあまり本業が疎かになってしまうわけである。準備で張り切りすぎて祭当日は寝ていたなんて笑い話もあるほどに。 そんな状況である、当然疲労も溜まりに溜まっていた。祭が始まれば疲れなんて一気に吹っ飛ぶなんて豪快に笑い飛ばしていても、どうにもならないこともある。 盆踊り会場で櫓を組んでいた大工の宮城は材木の一部が飛び出ている事に気付く。ちょうど自分の胸あたりの高さ…子供の頭ほどであろうか。祭ではしゃいだ子供が頭をぶつけて怪我でもしたら大変だと、鋸を手にする。 とりあえず飛び出しているところを切ってしまおうと鋸を材木にあて思いっきり引いた。 ズゥウウシィイイン!!! 大地を震わせる重低音が広場どころか近所にまで響き渡る。 「盆踊り会場の方だ」 その音に驚いた人々が広場に駆けて行く。そしてそこで言葉を失った。 櫓が崩れた!!! もうもうと立ち上がる砂埃、その向こうに完成間近だった櫓はなく、代わりに見えるのは乱雑に積み重なる材木。 崩落の衝撃で外に投げだされた大工達が体を強かに打ちつけ呻いている。 さらに砂埃が落ち着くと崩れ落ち重なった材木の間に残りの大工達が挟まれているのが見えた。 「皆、手を貸せぇー!」 あまりの事態に呆気に取られていた人々が慌てて、櫓に群がり材木を持ち上げ作業者達を救おうと試みる。しかし材木は絶妙なバランスで互いに噛み合い中々に持ち上げる事ができない。 「鋸を持って来い」 「いや、一本引っこ抜いたら全部崩れちまうかもしれねぇ」 「支えを入れろ」 「どこに?!」 皆が騒ぐ。 「担架をもってきてくれ!」 倒れてる大工達を運ぶための担架を求める声。 祭始まって以来の緊急事態だ。楽しいはずの祭の準備で犠牲者などあってはいけない、早く助けなければ…皆そう思っているはずなのに、疲労と混乱のせいでやることなすことちぐはぐでまとまらない。 「俺のことよりも櫓を…櫓を……」 櫓の下敷きになった宮城が呻く。足を挟まれていたが痛みなんてなかった。 「わかった、わかった。しゃべるな!」 「ともかく引っ張り出せ」 「足が挟まって動かせねえよ」 「手が足りねぇ、人を呼んで来い」 「落ち着けって」 怒号が飛び交い、辺りは混乱に包まれた。 |
■参加者一覧
十野間 修(ib3415)
22歳・男・志
ディラン・フォーガス(ib9718)
52歳・男・魔
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志
八坂 陸王(ic0481)
22歳・男・サ
天月 神影(ic0936)
17歳・男・志
奏 みやつき(ic0952)
19歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● 風に乗って広場から威勢の良い声が聞こえてくる。『流星祭』の準備が行われている最中だ。準備が佳境に入り会場となる広場が賑やかになればなるほど近隣の通りは閑散とする。常ならば遊んでいる子供の姿も今日はみかけない。もちろんお手伝いに行っているのだ。 「『流星祭の準備のためお休みします』って、祭に気合入れすぎでしょ」 奏 みやつき(ic0952)は、店の戸に貼られた紙に呆れて溜息を吐いた。……とは言え否定的な響きはない。どちらかといえば「しようがないないなぁ」という苦笑交じりのものである。 店先に暖簾を掛けに出てきた小間物屋の女将と目が合い「まったく…」なんて互いに肩を竦め笑いあう、その時である。 ズゥシィイイン…… 重たい地響きが大気を震わせる。 「広場から?!」 ただ事ではない音に奏は走り出した。 「にいちゃーん、お弁当もってきたよ」 手に風呂敷包みを下げた小柄な子供がディラン・フォーガス(ib9718)の横を走り抜けていった。 「転ぶんじゃないぞ」 ディランは振り返り子供に声をかける。 組み立て中の屋台、川原で風に靡く洗い立ての紅白の幕。 提燈を括りつけた縄が柱に渡され、いよいよもって祭の雰囲気が盛り上がってくる。 賑やかな祭、皆の幸福に溢れる笑顔。そしてそれらのために準備に励む人々の心意気。 ディランはそれらが好きだ。だから何か手伝える事はないかと広場にやってきたのだ。 そして責任者を探し盆踊り会場に向かう途中、その音を聞いた。 盆の踊り会場の櫓が崩落した。 崩れ重なった瓦礫の隙間から覗く人の姿。投げ出され背を丸め呻く大工。そしてその周囲を右往左往する人々。 会場は大騒ぎである。 「祭の準備の手伝いにでも…と立ち寄ってみたら、偉い騒ぎになっていますね」 十野間 修(ib3415)は会場を見渡し、まず崩れた櫓へと向かう。 櫓の周囲では既に天月 神影(ic0936)が動いていた。 手にした笛を吹き鳴らす。草笛を野太くひび割れさせたような不思議な音に、視線が集まる。 「皆、落ち着いてくれ」 一人でも犠牲者が出れば、きっと皆で祭を楽しめなくなってしまう。そうはしないためにも得手、不得手を考える時間はない。事態は急を要する、今出来ることをすべきなのだ。 「不用意に触っては危険です。皆さん、一度下がってください」 声を荒げては逆に混乱が増すかもしれない、十野間は穏やかに櫓へ向かう人々を制止する。 十野間、天月の落ち着いた様子に次第に騒ぎが収束していく。 「良かった。他に開拓者の人が来たみたい」 まだ現場に辿り着けていない奏が広場の様子を確認し胸を撫で下ろす。 野次馬がいっぱいいるんだろうなあ、と思いきてみれば遠目からでもわかる現場の混乱っぷりに、とりあえず空砲でも撃って皆を落ち着かせるべきかと思っていたとろだ。 「みんな、あたふたしすぎでしょ」 ともかく櫓の崩落に巻き込まれた人達を助けなくてはいけない、現場に向かう足を早めた。 ディランは新たに押し寄せてくる人々を押し留める。 「まぁ、慌てるのも分かるが、まずはみんな落ち着いてくれ」 人々の前に手を広げ立ち塞がった。自身もこれは一大事だ、と思ってはいたがおくびにも出さない。 「俺は開拓者だ…治癒の術が使える。必ず助けるから安心して欲しい」 開拓者、治癒の術…人々が顔を見合わせる。それからあちこちで安堵の吐息が漏れた。 住民が落ち着いたのを見計らいディランは続ける。 「たが、開拓者も万能じゃない。動ける奴は手を貸してくれないか?」 ディランの言葉に合わせたように二度手が鳴らされる。漸く現場に辿り着いた奏であった。 「すいませーん。手伝っていただける方いませんかー」 声を上げ周囲に協力を求める。 集まった住民はディランが適宜役割ごとに班分けしていく。 「見ての通り、俺は貧弱だ…力仕事は任せた」 頼んだぞ、とディランが住民の背を叩いて送り出す頃には、冗談に笑うだけの余裕が生まれていた。 既に救出のために動いている者達もいる。 八坂 陸王(ic0481)は櫓近くの屋台を借り、仮設の救護所作りに取り掛かっていた。 折角の祭を、良い気分で迎えるためにも最優先すべきは人命だ。最終的に医者へと連れて行くにしても現場で手当てができる場所が必要である。 住民に傷口を拭くための沢山の湯と清潔な布を用意してくれるよう頼み、自分は夏の厳しい日差しを遮る屋根を厚手の布で作る。 「あとは寝床だな」 茣蓙でもあればいいのだが…と思っていたところに、ひょいと茣蓙が差し出された。 「これ使ってください。あとこっちも」 奏が手持ちの茣蓙と十野間から渡された救急箱代わりの胴乱を差し出す。胴乱には自分の手持ちの薬草や包帯も詰め込んでいる。 「ありがたく使わせてもらおう」 茣蓙を敷き仮設救護所が完成する。 (「祭と思って浮かれてたが、その前にやらなきゃいけねえことができたかい」) 佐藤 仁八(ic0168)は下敷きになった者達を励ましていた。 「おう、生きてんだろうな。こんなとこでくたばられちゃ、祭の幸先がよろしくねえ。死ぬ気で生きてろよ」 「死ぬ気で生きろたぁ、なんだそりゃあ」 瓦礫の下から大工が返す。 「そんだけ活きがよけりゃあ問題ねえな」 「兄さん、面倒かけて申し訳ねぇ…」 別の大工からは謝罪の声。 「上等上等、ちっとくれえ躓きがなくちゃあ祭ぁ面白くねえや」 こんなことたいした事はないとばかりにかんらかんらと笑う。 瓦礫の下の者達とそんなやり取りをしつつ、櫓の周囲をぐるりと回り気配を探った。 視認できるのは四人、だが見えない場所にも誰かいるかもしれない。 「どうやら隠れた場所に人はいないようですね」 十野間が佐藤に並ぶ。十野間も同じように他に巻き込まれた者がいないか調べていた。 「櫓の図面と、動けそうな大工さん探してきました」 奏が丸めた図面を手に現れる。後ろには大工を伴っていた。救助活動の助言を貰おうというわけだ。 「まずは人命救助が第一、材木は再利用に拘らず切り分けれる所は切り分けてしまいましょう」 甚平の懐からペンを取り出した十野間が、切り出す、取除くなど処理の方法・順番を間違えないように書き込んでいく。 佐藤は救助活動中に瓦礫が再び崩れ落ちるのを防ぐ為に、下敷きとなっている人周辺の材木を支える準備を始める。 材木は荒縄で吊るそうと考えたが、引っ掛けるのに丁度良い木などが見当たらない。あるのは提燈を吊るすため、櫓を中心に円を描くように配置八本の柱のみ。 柱と柱の間に渡された縄では強度が心許ない。柱を力一杯押す。しかと土台が作られているのだろう。倒れそうな気配はない。これを利用することにした。 「活きの良い若え衆、いんだろ。七、八人手伝っちゃくんねえか。他に荒縄がありゃ持ってきてくんねえ」 材木の重みで柱が傾かないように、柱に括りつけた縄を櫓とは逆側に引っ張り杭で固定する。縄を括りつけるのは住人に任せ、佐藤は大槌を手に杭を打ち込んでいく。 住民に指示を出し終えたディランが櫓へとやって来た。一通り皆の怪我の状態を確認した後、折れた材木の断面で足を切った宮城に治療を施す。 自分ではなく皆を…、祭を…とうわごとのように繰り返す宮城に頷く。 「安心しろ、すぐに皆、助け出すからな。祭も間に合わせるから心配するな」 ミシッ、亀裂が入るような音にディランが顔を上げる。重なっている材木が均衡を崩し、ずり落ちそうになっていた。このまま落下すれば、瓦礫が雪崩を起し、作業中の住民が危ない。 咄嗟にディランが生み出した蔦が柱に絡みつき、材木を支える。しかし元々支えるためのものではない。動きを止める事ができたのはほんの束の間。 再び崩れ落ちそうになる瓦礫を支えたのは八坂だ。受け止めた腕の筋肉が服の上からでもわかるくらいに盛り上がる。そしてそのまま元の場所へと押し戻した。 材木は二点で支える。一点では横から力が加わった時に固定できず揺れてしまうからだ。一端を材木に結びつけ柱に括り、もう一端を杭に巻き付け固定する。 「これで、材木が崩れてもこれ以上下の奴が潰れることぁあんめえ」 パンと佐藤が手を払った。 後は地道に上から順に瓦礫を除けていくだけだ。 天月は医者や医薬品を手配した後、投げ出された大工達の救助に当たった。住民に手を貸してもらい、怪我人を担架に乗せ救護所に運んでいく。 新たな被害を防ぐため周囲の様子に気を配るのも忘れない。 「にいちゃん!!」 一人の子供が、大人達の静止を振り切り瓦礫の下にいる大工に走り寄っていくのが見えた。天月は担架を任せると、少年を追いかけ背後から抱きかかえて止める。 「もしも……」 膝を着き子供と目の高さを合わせる。落ち着かせるように両肩に手を置いた。 「お前が巻き込まれ、怪我でもしたら兄上はどう思う?」 穏やかな口調で問い掛ける。子供も天月の言わんとしてることが分かったのだろう、「ごめんなさい」と俯く。 「わかってくれればいい。さあ、救護所の手伝いを頼む」 子供の背を軽く押してやる。子供が救護所に向かったのを確認してから立ち上がった。 「家族が巻き込まれ、心配でいてもたってもいられない人もいると思う。だが皆が勝手に動けば現場は混乱するだけだ。だから…」 周囲を見渡す。 「俺達を信じて手を貸して欲しい」 と頭を下げた。 瓦礫の除去作業は順調に進んだ。開拓者達が瓦礫を取除き、住民達が邪魔にならないように一箇所に集める。 「材木の上に立つんじゃあねえぞ、下にいる奴が押し花になっちまわあ」 巻き込まれている人に影響のないところは八坂が斧を使って切り崩していく。ただその際に振動で瓦礫が崩れては一大事なので奏に手を貸してもらった。 救出された者は担架で救護所へ運ばれ、治癒の術が必要ならばディランが施す。 気を失っていた事務方が目を覚ました。 「調子はどうだ?」 起き上がろうとしたのをディランが手で制す。 「間もなく医者がやってくる。少しでも気分が悪くなったらすぐに伝えてくれ」 天月が「いいな」と念を押した。崩落に巻き込まれた怪我人の容態が救出後、急変し亡くなったという話を聞いたことがあるのだ。 救護所に運び込まれた宮城は怪我の治療が終わり、意識がはっきりしてくると飛び起きた。そして皆に土下座をする。 「俺のせいで、俺のせいで…。本当に申し訳ない」 士分ならば切腹しかねない勢いだ。その宮城の背を軽くぽんと叩く手がある。 「なぁに、壊れたもんは、また作りなおせばいいさ。失敗は誰だってやっちまう。次に注意すればいい」 深刻な空気を払拭するようにディランが片目を瞑った。 ● 無事救助が終了し、瓦礫の片付けも終わった頃には西の空が真っ赤に染まっていた。 使用した荒縄をまとめていた十野間が先程まで瓦礫の山があった場所へと視線を向ける。 (「これ程の事故であっても死者が無く、更に志体持ちを始め、救助の手が即座に集まったと言うのは、不幸中の幸いでしょうか」) 事故が起きた事自体は痛ましい、しかし巻き込まれた人々は全員助かり、重体者もいないというのは喜ぶべきことだろう。もちろんまだ大きな仕事が残っているのも分かっているが。 「どうれ、櫓を組み直すとすっか」 そう櫓だ。 佐藤の声に住人達が立ち上がる。 「力仕事なら任せてくれ」 いつでもいける、と八坂が控えめに拳を握った。 「まずは使える資材の確認だよね。何をどのくらい用意しないとなのかわかる人います?」 奏の問い掛けに救助の際、手を貸してくれた大工が一つ提案をした。 櫓は釘を使わず縄と材木同士を組み合わせ木の杭でなどで固定する事により繰り返し使えるようにしてあり、今年は規模が大きくなったので新調したのだが、去年までのものが残っている。だからそれを使ってはどうか、と。 崩落した櫓より小さくはなってしまうそうだが、それが一番早く確実であろうと一同はその提案に乗った。 「よしわかった。おう、良いとこ見せてえ若え衆、手伝いねえ」 佐藤がまだ余力のある若者を率い、櫓が保管されている倉庫まで向かう。 「組立手順がちゃんとわかる人、いません?」 それと組み立てに必要なものも…と奏が今のうちにと準備に取り掛かる。戻ってきたらすぐにでも作業に入れるように環境を整えておきたい。 「おう、景気よく声出しねえ、そんなへっぴり腰で神輿担ぐわけじゃあねえんだろ」 賑やかな声が聞こえてくる。佐藤達が戻ってきた。 櫓の部品は大工の指示で並べ、やはり十野間が印を付けていく。何せ大工仕事に関しては素人が多い。 まずは基本となる四本の柱と舞台を支える梁を組む。穴を掘り、そこに力を合わせ柱を立てていく。舞台を支える梁と上手い事噛み合うように、大工の指示で溝の位置を調整する。 すっかり辺りは暗くなり、櫓の周辺では篝火が盛大に焚かれる。川から上がってくる風も篝火のせいで熱気を孕み、皆汗だくであった。 「柱はきちんと固定したか?」 また倒れたら洒落にならないと、八坂が柱一本ずつを確認する。八坂の力でもびくともしなかった。 続いて舞台と屋根を作っていく。もっとも屋根は紅白の幕を下げる梁を渡せばいいだけだが。 要所、要所に幾重にも荒縄を巻き固定する。熟練の大工達とは違うごつごつとした荒縄の塊の見栄えはお世辞にも綺麗とはいえない。それを見てディランが笑う。 「仕上がりが多少不細工でも、可愛げがあるさ」 あとは装飾だ。柱に紅白の布を巻き付け、舞台の下には川原で干されていた幕を下げる。そして提燈を吊るした縄を櫓と柱の間に渡していく。 「終わったー」 奏が大の字に寝転がった。 視界一杯に広がる空は東がうっすらと明るくなってきている。 流石に開拓者達も疲れたらしく、それぞれに寝転がったり座り込んだりしていた。 「何とか開催できそうだ何よりだ…。良い祭になるといいな」 八坂が櫓を見上げる。隣の天月もそれに倣った。 「これまで、石鏡で行われる祭りなら幾度となく見たが……」 此処の祭はどうなのであろう、と。 「きっと賑やかで楽しいものになりますよ」 十野間はあたりに散らばった木屑や工具を片付けている。 「力自慢の出し物でもあれば、参加してみるのもいいか」 八坂の言葉に近くにいた大工が「ぜひとも」と声を上げた。 「お疲れ様です。皆さん、これをどうぞ」 町内の婦人会が握り飯とお茶を持ってやってくる。 そして遅れて湯屋の翁が姿を見せた。 「湯を沸かしましたんで、一風呂浴びていって下さいな」 「あ……」 夜空を流れ星が過ぎっていく。 「流れ星だ」 奏が空を指差した。皆が空を見上げる。先程の流れ星は既に流れた後だったが、もう一つ、会場の端から端へと。 「祭が成功しますように」 皆の声が重なった。 今年の祭はきっと最高のものになるだろう。 |