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■オープニング本文 ● 天儀全土に名の知れ渡る有名流派から無名の工房まで多くの刀工を擁する武天には、当然製鉄・鍛冶に関する神社も多くある。 武天のとある鉱山の麓の街にある神社もその一つだ。 元々は製鉄の神が奉られており、鉱山で働く男達やその家族が安全祈願のために訪れていた。だが焼き身となった刀を神社の境内に湧く水を使い打ち直したところ、それはそれは見事な刀として生まれ変わったという話が広まり以降、武器の鍛錬の守り神として一部の間で名の知れた神社となった。 最近では己の装備品強化の成功祈願や、激しい戦闘や強化失敗でくず鉄と化した武器の供養のために訪れる開拓者の姿も多い。 陰穀国の小さな里石見のシノビ佐保もそういった噂を聞きこの神社を訪れた。 目的は先日貰った短刀のお守りを買うためである。自身のお守りではなく武器のお守りと笑うことなかれ、だ。 佐保の命の恩人であり憧れの人から貰った短刀なのである。大切にしたいと思うのは当然だろう。本当ならば大切にしまっておきたい、でもその人に「俺が使っていたものなんだから、遠慮せずに使え」と窘められてしまったためにせめても、とこの神社の事を思い出したのである。 最初に神主に頼み短刀のために祝詞をあげてもらうつもりだったのだが、今日は忙しいので少しばかり待ってほしいとのことであった。なんでもいずこからか大量のくず鉄が持ち込まれ今から供養をしなくてはいけないらしい。 ならば先にお守りを買いに行くかと社務所に向かう途中一人の男とすれ違った。風体をみるに開拓者のようだ。泣きはらした目、胸に大事そうに風呂敷包みを抱えている。男は神主をみつけると掛け寄り崩れ落ちた。 「俺の大切な相棒だったんです……。どうか、どうか供養してやって下さい」 そう言って神主に差し出す風呂敷包み。 「開拓者になった時に祖父ちゃんが祝いに……うっ……」 声は途中から涙にとって代わられて聞き取れないが男の話を総合するに開拓者になった時から使っていた大切な刀を誤ってくず鉄にしてしまったらしい、ということはわかった。 佐保は手にした短刀をぎゅっと握る。憧れの人から貰った短刀。しかもその人がずっと使っていたものだ。もしもこれを失ってしまったら……想像するだけで泣くどころか魂が抜けそうだ。 「きゃああーーー!!」 静かな境内に突如として響き渡る悲鳴。拝殿の裏、塀に囲まれた本殿からだ。駆けつけた佐保は一瞬、神域を勝手に侵すことを躊躇ったが塀の内側から聞こえてくる「アヤカシが」という叫び声に、門を開け中へと踏み入った。 塀の内側には白砂が敷き詰められ、北側に優美な曲線を描く屋根を持つ小さな本殿がある。その本殿前に黒い瘴気に包まれたくず鉄の山と、脇に座り込む巫女がいる。 「逃げて!!」 短刀を抜きつつ巫女へと走る佐保に横からの鋭い一撃。刃で受けたそれは蛇の尻尾だ。 くず鉄の山をすっかり包み込んだ瘴気の内側に四つの不気味な赤い光が輝く。「ひぃっ」と巫女が息を呑んだ。 ずぅり、ずぅりと何かを引き摺る音。瘴気の中で金属質な輝きを纏う蛇が鎌首をもたげた。 「巫女の事は任せろ」 先ほど泣きながら武器の供養を頼んでいた男が佐保の背後を走りぬけ巫女を抱え上げる。 「お願いしま……っ」 シャアアア――佐保の声に重なる蛇の威嚇音。途端、男は「タマ丸……タマ丸ぅう……本当にすまなかったぁああ……」と再び泣き崩れた。 驚いた巫女が「どうされました」と肩を揺すっても「あの時もお前が一緒にいてくれたから……。あの村での依頼ではお前を見失って……」と只管泣いているばかり。 推測するにタマ丸とは失った武器の名前で、そのタマ丸との思い出が頭の中を巡っているようだ。 ともかく今は巫女を助けることが先だと、佐保は巫女の手を引っ張りあげる。 蛇が吐き出した瘴気の塊が巫女と佐保を狙う。咄嗟巫女を背に庇うと瘴気を短刀で切って散らす。 「はやく、今のうちに」 今だ上手く歩けない巫女を門から外へと体ごと押し出した。 「開拓者がいたら呼んで……!!」 佐保が言葉を飲み込む。蛇に向けていた鋭い視線、それがみるみるまあるく見開かれた。 「えぇーーーー!!」 数度瞬きを繰り返した後、佐保の絶叫。短刀がくず鉄と化していたのだ。欠けて錆びて、あらぬ方向にへし曲がった刃、柄はぼろぼろで見る影もない。 呆然としていた巫女は佐保の声に我に返り「大変です!! 本殿にアヤカシが!!」と走り出す。 「うそ……なん、で?」 見間違い、見間違いと、佐保はもう一度見直す。何度見てもどう見ても、そのぼろぼろの短刀は憧れの人から貰ったものであった。 「折角貰ったのに……」 見事なまでに鉄くずである。そうとしか言いようがない。打ち直しとかそういう状態ではなかった。何をどうしたらこうなるのかと思うほどに完膚なきまでに鉄くずと化していた。 「……あの人が使っていた……。あの人から貰った……私のたか……」 糸が切れたようにへなへなっとその場に座り込んだ。 少し離れたところでは男が今だ「タマ丸ぅう」と泣いている。 シャアアア――まるで蛇の高笑いのように威嚇音が響き渡った……。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 麗らかな昼下がり。程よく温んだ空気が眠気を誘う。 「風もあったかくなってきたよなー」 大きく伸びて羽喰 琥珀(ib3263)が欠伸を一つ噛み殺す。ほころぶ梅の蕾に春だなーなどと思っていたら、グゥと腹が鳴った。 花もいいが、やはり団子だ。 周囲を見渡し鳥居の傍に茶屋を発見。漂ってくる饅頭を蒸かす仄かに甘い香り。 羽喰は茶屋へと駆け出した。 羅喉丸(ia0347)は拝殿前で手を合わせ目を閉じる。気分転換がてらの参拝だ、最初は心穏やかに「強化が成功しますように」と祈っていたはずなのだが……風に乗って聞こえてきた「くず鉄」という単語が心に漣を立てた。 (1回68000文はさすがに高いのではなかろうか……) とか (そも、腕の良い職人なら成功させるものではなかろうか) など、詮無きことだとわかっているが愚痴が次々と浮かんでくる。 強化はある種の博打だ。張るのは装備と多額の金。負けた時の喪失感を想像し、遠い目をしかけた羅喉丸の意識を悲鳴が引き戻した。 「アヤカシだっ!」 続く叫び。拝殿の裏からだ。 街中にある神社への参拝、当然服装は旅装束であり完全武装には程遠い。だが躊躇うことがあろうか。今も鮮やかに記憶に残る幼い頃自分を助けてくれた開拓者の背中。 あれこれ考えるよりも先に羅喉丸は走り出した。 途中、アヤカシから逃げてきた巫女と出くわす。取り乱す巫女を落ち着かせ話を聞いたところ、アヤカシは武器をくず鉄化する力を持っており、巫女を助けてくれた二人が危険な状況らしい。 今にも倒れそうな巫女を遅れて駆けつた羽喰に託し羅喉丸は本殿へ急ぐ。 いきなり服を脱ぎ始めた双子の姉に慌てて抱きつくファムニス・ピサレット(ib5896)。巫女と羅喉丸のやり取りを聞きアヤカシ退治に行こうとしたのはわかる。わかるが……。 「姉さん裸は駄目だよ」 「だって装備が消えるの困るから」 姉リィムナ・ピサレット(ib5201)は恥ずかしがる気配もない。 「確かに装備が壊れたら困るけど……」 でも裸はダメ、ゼッタイ!とファムニスが必死に止める。 「二人とも準備をするわよ」 双子の姉的立場である雁久良 霧依(ib9706)が二人を物陰へ押し込んだ。そして二人の荷物からさらしや新品の褌を取り出す。これを水着みたいに身体に巻けばいいわ、と。 「はい、ばんざーい」 服を脱いだファムニスに白い九尺褌を手際よく着せていく霧依。 「胸まで隠れるのはいいですけど……」 恥ずかしそうにうっすらと膨らみかけた胸を押さえファムニスは背後を振り返る。背面は太い紐でしかない。お尻の食い込みが落ち着かない、と内股気味に足をすり合せた。 「次はリィムナちゃんよ」 今度はスクール水着の日焼けが残るリィムナの幼い体に赤いさらしを巻いていく。リボン結びで留めたために「プレゼントはあ・た・し」状態だ。 だがやはりリィムナは気にせずくるりと一回転。 「あれ、姉さん、お尻赤いよ……?」 不自然に赤い尻にファムニスは首を傾げた。 「ひょっとして今朝もおねしょしてお尻を……」 「ファム! あんたは余計なこと言わなくていいの」 あわわ、と妹の言葉を遮るリィムナ。幼い身でありながら泰の大学に通う才女であり、腕利きの開拓者でもあるリィムナだが、いまだおねしょはなおらない。 「ええ、リィムナちゃん今朝もやっちゃったのよ」 豊かな胸をさらしで隠し、褌は締め込みというお祭り装束の霧依が「いっぱいお仕置きしてあげたわ」と右手を挙げる。私に代わって妹をよろしくとリィムナの実姉に頼まれた霧依は、その言葉通り普段は優しいお姉さんとして、悪戯や粗相をした時は容赦なく叱る怖いお姉さんとして彼女を見守っている。お尻ぺんぺんも愛の鞭の一環だ。 「霧依さんもっ!」 やめてーと顔を真っ赤にする姉に「可愛い」とときめく妹。 「もう二人とも行くよ!」 話はこれでおしまい、とリィムナが走り出す。 富一を狙った蛇の尻尾、羅喉丸が顔の前で両腕を交差させその一撃を受け止める。 真っ赤な目と睨みあい隙をうかがう。その時懐でガサリと紙の擦れる音がした。 遺跡と呼ばれる開拓者達の鍛錬に使用される不思議な場所。そこで手に入れた万屋で使用できる引換券が何故か大量に懐にあった。 (一瞬でも俺から注意を引き離せるか……) 羅喉丸は懐の引換券を鷲掴み空に向かって放り投げる。 降り注ぐ引換券を見上げる蛇、羅喉丸は一気に距離を詰め瘴気の集う一点に拳を叩き込んだ。 苦しそうに身を捩った蛇が発する威嚇音。背後の富一が呻き声を上げ頭を抱える。 だが羅喉丸にとってそれは蛇の威嚇でしかない。 蛇が大きく口を開く。毒のように吐き出される瘴気の塊。 (あれが装備をくず鉄にするのか……) 巫女の言葉を思い出し、再び引換券を掴む。これで防げれば上々と、瘴気の塊へ向け投げつけた。しかし瘴気の塊は引換券をすり抜けまっすぐに羅喉丸へと。咄嗟に横へ飛んでかわ……しきれないっ。 足元に転がるくず鉄。両の拳を包んでいた篭手が消えた……。 「確かに恐ろしい力、だな」 拳を握る。 「だが所詮物は物だ!」 人の命と比べるまでもない、と羅喉丸。尤もそうは言っても神布「武林」や大アヤカシと戦うために鍛え抜いた「金剛覇王拳」など数々の戦いを潜り抜けてきた相棒とも呼べる武器や出会った人との思い出の品であり絆の証でもある御守「あすか」などがくず鉄と化したら、全て終わった後に寝込む自信はある。 「それにな。知っているか、アヤカシ」 一撃叩き込んでのもう一撃。 「くず鉄を100個集めると姿絵を描いてもらえてな……」 メタい……いやそれはきっと多くの開拓者達の涙の上に出来上がった仕組みなのだろう。 蛇と戦う羅喉丸の後ろを抜け富一と佐保を連れ出す羽喰。二人とも心此処にあらず、だ。 溜息一つ、富一の傍らに膝をつくと肩を強く揺さぶった。 「そーやってめげててタマ丸喜ぶか? アイツお前とタマ丸の思い出弄んでんだぞ」 タマ丸に反応し富一がゆっくりと羽喰へ顔を向ける。 「大切な思い出好き勝手されて腹立たねーのかよっ」 はっと我に返る富一。 「刀はお前を守ったんだ」 次は佐保だ、と彼女が握る鉄をその手の上から包み込む。 「大切な人から貰ったんだろ。敵討もしねーでしょげたままでどーすんだよ!」 放心していた佐保がゆっくりと瞬きをした。 心神喪失を怒りで上書き作戦は成功し、二人とも「アヤカシを倒さねば」と立ち上がる。 羽喰は二人に自分の刀を貸し送り出すと、自身は筆と手帳を懐から取り出す。 「くず鉄って言えばこの人だよな〜」 そしてすいすいと器用に朱藩の某くず鉄王を描き始めた。 戦場に舞い降りる霧依達三人。 「行くわよ!」 ワッショイ!と霧依がその格好に相応しい掛け声とともに大幣代わりに褌を括りつけた杖を羅喉丸へと掲げた。 「わ、わっしょい」 その勢いに押されつい応える羅喉丸の身体に力が満ち、傷もみるみる回復していく。 「さあ後ろは任せて!」 「それは心強いな」 羅喉丸は頼もしい助っ人が心の内で双子の後姿に「いい眺めね」と思っていることを知らない。 「此処にはお社もありますから速攻撃破です!」 舞布代わりにファムニスがふわりと舞わせたのは真っ白な褌。神楽舞を舞うのに何か手にしてないと落ち着かないのだ。 ファムニスの動きに合わせ白い布は羽衣のように踊る。彼女の周囲に満ちた精霊の力が光の粒子となってリィムナに注いだ。 何も言わずとも互いに何をすれば良いのか通じ合うのは双子ならでは、だ。まってましたとばかりに、片手を空高く突き上げるリィムナ。リィムナそっくりの分身が同じ格好で現れた。 「くず鉄むしろ大歓迎!」 本来忌避すべきくず鉄、だが彼女はそれを欲していた。いいものが貰えると聞いたら、集めたくなるのが人情ってものだ。今日だってくず鉄一杯出来ますように、と祈願に来た。 分身が蛇に向かって飛び出す。戦闘は分身に任せ自身はここぞの時のために蛇の挙動を探ることに専念する。 シャアアと甲高い威嚇音。 ファムニスの脳裏に突如浮かぶくず鉄になったヴェールや褌。しかし基本装備品は姉に強化をしてもらい、自分のは興味本位でやるだけだ。故に思い出したところで「だからどうした」で終了である。 「こっちを見ろー!」 元気な声と共に羽喰が登場。 「お前らが一番ぶん殴りたいって思ってる奴はここにいるぞーっ」 先ほどのくず鉄王の似顔絵をお面のように顔に貼り付け大声で蛇の注意をひく。果たしてくず鉄王の似顔絵の効果か、蛇が威嚇音を発しつつ羽喰を狙い瘴気を吐いた。 尻尾のように纏めていた髪が背で広がる。髪を纏めていた結紐がくず鉄になったのだ。 「紐なのに鉄……っ……ぶふっ!」 初めてくず鉄を作ったときを思い出し、たまらず噴出す。 あれは薬草を強化した時だった。何故草がくず鉄に!と、そのでたらめさがやたら面白かった記憶がある。 思い出し笑い中の羽喰へ空を切って尻尾が迫る。だがそれは羽喰に届く前にリィムナの分身によって防がれた。 「叩き潰すよ!」 本体の声と共に分身が白い燐光を纏った拳を連続で蛇に叩き込む。 「ありがとなっ」 社へ攻撃を向かせないよう羽喰が囮として飛んだり跳ねたりわざと蛇の周囲を派手に動く。 蛇の胴に拳をめり込ませた羅喉丸は上がった声に反射的に振り返り言葉を失った。 「ばいんばいんです!」 ファムニスの嬉しそうな声。 そう霧依の胸を隠していたさらしが無くなっていたのだ。当の本人は困ったわね、と豊かな胸を揺らしながらさほど困ってなさそうに呟いている。 「此処は俺が引き受けた。だから服を早く!」 慌てて顔を逸らし羅喉丸は叫ぶ。 「んふふ、こうしておけば大丈夫よ」 杖に括りつけた褌で胸元を隠す。だが動くたびに布が揺れてきわどいことにはかわりない。 うかつに振り返ることはできない。ある意味背水の陣だな、と羅喉丸は思った。 分身は作るたびに体力を消耗する。汗を拭うリィムナにファムニスと霧依から治癒の術が飛ぶ。 「ここからが本番っ!」 リィムナが広げた右手と左手の先に現れる分身。 羅喉丸も「俺も奥の手と行こうか」と拳を高らかに鳴らす。 「はっ!」 拳を腰溜めに構え発する短い気合。羅喉丸の身の内を巡る練力、渦巻く炎のような感覚。 肌の表面が静電気を帯びたように粟立ち、大気が震える。 泰拳士の奥義の一つ。体内の気と練力の流れを意図的に操作することにより己の限界を突破する……強力だが身体への負担も大きい技である。 しかし外に被害が行く前にアヤカシを片付けるべきだと羅喉丸は判断した。 羅喉丸とリィムナの分身達の攻撃が蛇の鱗を剥ぎ落としていく。 苦悶で暴れるアヤカシ。既に威嚇する余裕もないらしい。 だが器は崩れ、瘴気を吹き上げているというのにその赤い目は爛々としたままだ。 鋭い牙がリィムナの分身を裂く。 「あたしの事を忘れないでねっ」 間近に迫った蛇の目にリィムナ本体が一撃を加える。着地と同時に再びファムニスと霧依からの支援。 「これでお終いだよ」 再び生まれた分身二体。 「うぉおおっ!」 羅喉丸が咆哮と共にアヤカシの顎を思いっきり突き上げた。そしてがら空きになった胴、瘴気の中心部へ向けて拳を振りぬく。 一瞬硬直した蛇の頭を左右からヒップアタックで挟む分身。ゆっくりと崩れ落ちる蛇の頭。 「……さらにもうひとぉついっくよ」 壁を駆け高く飛び上がったリィムナの「あたしを受け止めて」といわんばかりに蛇の頭に着弾するフライングピーチアタック。 ズトォオン…… 重々しい音と土煙が立ち上る。 蛇が形を失い、瘴気が風に散る。残ったのは名残のくず鉄……。 アヤカシが消えたのを見届けた後、膝から崩れ落ちる羅喉丸を羽喰が支えた。 「あたたたっ……」 お尻を摩り立ち上がる姉に駆け寄ったファムニスは猿も驚きな真っ赤なそこに急いで治癒を施す。 「リィムナちゃん、ファムちゃん、お疲れ様」 「霧依さんっ!!」 霧依の無防備な胸に感極まった様子で飛び込むファムニス。 「さらし姿が最高でぇす!」 一見大人しく控えめ目なファムニスは大きな胸が大好きなのだ。夢と希望と何が詰まっているの、という子供らしい好奇心によるものだとは本人。 小さな女の子が大好きな大きな胸の霧依曰く、相性ばっちりらしい。 怪我はしていないかしら、とファムニスの凹凸控えめの身体を思う存分撫でる霧依はアヤカシが消えた後を眺めている富一と佐保に声を掛けた。 「武器を手にしたときの事を覚えている? 振るった時の事は?」 問い掛けに二人が頷くと「そう」と霧依は双眸を柔らかく細める。 「形あるものはいつか壊れるけど思い出は不変よ」 常に此処にあるわ、と自分の胸に手を置く代わりにファムニスの頭を抱き締めた。 「新しい武器を手に、思い出を心に抱いて前に進むのよ」 頷きかけた二人が微妙な表情を浮かべる。とてもいい話なのだが、幼い少女をまさぐりつつでは説得力も落ちるというものだ。 「くず鉄……一個も手に入らなかった」 あれだけお願いしたのに、とリィムナ。本来くず鉄防止を祈る神社でくず鉄豊穣を願った罰か優秀な物欲センサーのおかげかリィムナは一つも装備を失う事無く戦いを終えた。 分身の装備がくず鉄になったりもしたが分身が消えると共にそれも消えてしまっている。 「リィムナちゃん、あげるわ」 霧依からリィムナに渡されるくず鉄。 「いいの?!」 「ええ、でも一つ約束して頂戴? 今夜はおねしょしませんって」 「え?」 「もしも今夜おねしょしたら、男子寮の前でお尻ペンペンね」 「えぇっ! こ、今夜はしないよ……! 本当だって」 顔を真っ赤にしお尻を隠しつつじりじり後退するリィムナ。それで治るのであればとっくの昔におねしょは解決してるはずである。 饅頭をかぶりと一口。 「蒸かしたてはやっぱり美味いよなっ」 仕事帰りに一杯やるおじさんのように羽喰がくぅ〜と唸る。此処は社務所だ。気力の尽きた羅喉丸を休ませるためにつれて来たのだ。 そこで出されたお茶と饅頭。 「大変お世話になりまして……」 「それは外にいる皆と寝てるやつになっ」 深々と頭を下げる神主を手で制し、俺は面白いモンみれたし饅頭も貰ったしと饅頭をもう一つ手に取った。 「そーいやさ、思ったんだけど。今回みてーにくず鉄アヤカシにしちまって、開拓者に倒させる祭りってどーだ?」 喉元過ぎればなんとやら、だ。 「鬱憤晴らしたいやつらも多いと思うんだよなー」 にかっと満面の笑みを浮かべお茶を一気に飲み干す。 「じゃあ俺もお参りして帰るかな」 拾ってきたくず鉄を羅喉丸の枕元に置くと立ち上がった。 この事件はくず鉄収集家の間で話題となり、大量のくず鉄が神社に持ち込まれることとなる。だがあれ以来件のアヤカシは現れていないらしい。 |