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■オープニング本文 ● はらりはらりと風に吹かれて色付いた葉が落ちる。 この地が開拓者達の都になる前からあると言われる『湛泉寺』。広い敷地には公孫樹や楓、落葉広葉樹が多い。それらの樹木は毎年秋になるとそれはそれは見事に色付いた。秋の高く澄んだ青空を背に照り輝く赤や黄。近隣では専ら『錦寺』と言われ親しまれている。 そして湛泉寺の落葉清掃は近隣の町内会の恒例となっていた。 開拓者向けの下宿『なずな荘』もその町内会に参加している。寧ろなずな荘に暮らす開拓者達は戦力としてかなり期待されていると言っても過言では無い。 今日がその清掃日だ。なずな荘の女将ひさぎは朝から準備で大忙しであった。下宿と共に切り盛りしている定食屋『なずな屋』にも『休業中』の札が揺れている。 ひさぎが担当するのは清掃終了後の炊き出しである。 「では私は先にお寺に行ってきます。割烹着は玄関に用意しておいたのでそれを使ってくださいね」 早めの昼食を取っている開拓者達にそう告げるとひさぎは食材の入った籠を抱えなずな荘を後に……と見せかけ慌てて戻ってくる。 「お願い、後から来る時にお勝手のサツマイモを持ってきて下さいな」 けんちん汁と御握りの炊き出しのほかに落葉焚きでの焼き芋も清掃終了後の楽しみの一つであった。そして今度こそひさぎは急ぎ足で寺へと向かう。 湛泉寺は古いだけあって敷地が広い。総門を潜り公孫樹に左右囲まれた参道を行くと紅葉が覆い被さる中門が見えてくる。 中門から先は回廊でぐるりと囲まれ仏塔と本堂が前後で並ぶ。その横に寺の名の由来ともなった清水を湛えた大きな瓢箪池を中心とした庭園が広がっていた。瓢箪池は周囲を楓で囲まれ、今日のように晴れた日には赤く染まった葉が池に映り込みまるで水中に秋が訪れたように見えた。 寺は普段から住民に解放されており、天気が良い日には散歩する人や、遊ぶ子供達の姿も多い。住職も大らかな人物で子供達が騒いでいても滅多に怒る事はなかった。 今日もお手伝いにやって来たのか遊びにやって来たのか子供達が参道脇の藪で取ってきたオナモミを「痛い、痛い」と言いながら投げ合っている。奥にはどんぐりを拾う女の子達。ままごとに使ったり、繋いで首飾りにするらしい。毎年見かける光景だ。 ひさぎは住職に挨拶を済まし寺の厨房に向かった。調理は寺の厨房で行う。作るのは毎年同じけんちん汁と御握り。御握りの中身は梅干や昆布の佃煮など……。 掃除にやってくる40人分と僧侶20人分……結構な量である。住職は僧侶の分はいらないといってくれるのだがそうはいかない。 割烹着に袖を通すと猛然と米を磨ぎ始める。定食屋に下宿を営んでいるひさぎとは言え、一気にやるのはそれなりに大変なのだ。 そのうちぽつぽつと人が門前に集まり出す。誰かが子供達を呼ぶ。遊んでいた子供達が我先にと自分より大きい熊手や背負い籠を奪い合う。最初だけやる気に溢れているのは子供達の常だ。そのうち飽きて遊び始めるだろう……。 清掃するのは参道周辺と回廊の内側である。僧侶達は寺の裏側に広がる僧堂周辺の掃除で手一杯であった。 庭園周辺は植木を傷つけないよう担当するのは大人、参道周辺は子供と役割分担を決める。とりあえず石畳の上だけでも綺麗にしなさい、と年長者が子供達に繰返す。 「集めた落ち葉は中門脇に集めるように」 焚き火だー、と子供達が歓声を上げ、それぞれの得物を手に散って行った。 「……あいつらちゃんと掃除できるのかなあ」 そんな子供達の様子を見て溜息を吐く青年に「お前が子供の頃もあんなだったよ」と誰か言い、皆が笑う。青年はバツが悪そうに頭を掻いた。 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
サフィリーン(ib6756)
15歳・女・ジ
リーズ(ic0959)
15歳・女・ジ
不散紅葉(ic1215)
14歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 公孫樹の間を子供達が落葉を跳ね上げ駆け回っている。 「……おいおい」 話が違うじゃねぇか、アミーゴと喪越(ia1670)は天を仰いだ。此処にくれば泣き黒子も色っぽい未亡人とお近づきになれるという話だったのに。 色付く紅葉のように未亡人との燃え盛る出会いの予定は塵となった。 肩を落とす喪越に掛かる声。厨房に薪を運んで欲しいと頼むのは「親方」と呼びたくなるような恰幅の良い年嵩のご婦人だった。折角だ軽く手伝ってタダ飯食らって帰るか、と足を運んだ厨房、喪越は心のアミーゴに「グッジョブ」と親指を立てる。 「ありがとうございます。えっと……」 白い割烹着、一筋落ちる黒髪、目尻にほんのり笑い皺……。米を砥ぐ手を止め、顔をあげたその人こそ件の未亡人に違いない。 「喪越です。こんなにも手が冷えて……俺が代わりましょう」 問答無用でその働き者の手をとり、胡散臭い否、誠実な笑顔を浮かべる。 「冷えた身体に温かい差し入れ、嬉しい気遣いだねぇ」 一頻り会話を交わした後、喪越は突然「しかし」と表情を曇らせた。 「空っ風の吹く心はそれじゃ温めることはできねぇ。誰か……」 「ひさぎさーん、お芋と割烹着持ってきたよっ」 元気一杯、リーズ(ic0959)が二人の間に駆け込んできた。 「俺を温めて……」 「お芋此処においとくねっ……寒いの?」 喪越を見上げたリーズが「任せてよっ」と胸を叩く。 「体を動かせば温かくなるよっ。お堂の蜘蛛の巣払うのにちょうど背の高い人を探していたんだ」 「えっ?! 俺はキャッキャウフフの厨房プれ……」 喪越はそのまま引き摺られていく。 「ひさぎセニョリータぁああ〜……!」 「落葉掃除ってあんまりやったことないんだよね」 皆でやると楽しそう、と尻尾をぱたぱご機嫌のリーズは喪越の叫びなど何処吹く風だ。 ひさぎは笑顔で「頑張ってね」と二人を見送ってくれた。 風が木々を渡る音が聞こえる。不散紅葉(ic1215)は顔を上げた。青空に映える黄金色と紅色。紅色は己と同じ名を持つ『紅葉』だろう。 『紅葉』とはどんな樹なのだろう、と今日をとても楽しみにしていた。 秋の日差しに照る紅葉は圧倒されるほどに綺麗だ。初めての光景に感嘆の声が漏れる。 「とっても鮮やか……」 「夕焼けの色を吸い込んで赤くなるんだって」 女の子が紅葉の着物の袖を引っ張った。 「へぇ、面白い、ね」 こっちはお日様の色かな、と落ちてきた公孫樹の葉を手に受け止めた。 「集合〜!」 羽喰 琥珀(ib3263)が子供達を呼ぶ。隣でサフィリーン(ib6756)「おいでー!」と両手を挙げて跳ねる。 「ただ掃除するだけじゃつまらないだろ?」 大きく頷く子供達に羽喰は「そこでだ」とサフィリーンに目配せ。 「皆で落葉で絵を描こう」 くるんっとサフィリーンは踵で一回転し、背後に隠していた公孫樹で描いた三日月をみせる。 子供達の反応は楽しそうと面倒くさそうと半々。 「面倒? そんなこと言っていいのかな〜?」 ふっふっふ、と不敵な笑みと共に羽喰が懐から取り出した小さな箱。蓋を開けば覗く色とりどりの飴玉に子供達の目は釘付けだ。 「勝負して上手く出来た方にはご褒美あげるんだけどなー」 子供達の歓声。 歓声に紛れるような小さな声で名を呼ばたサフィリーンが振り返る。中門からひょこりとたぬき……に扮した玄間 北斗(ib0342)が顔を覗かせていた。 「これもご褒美にあげて欲しいのだぁ〜」 飴入りの南瓜を模した箱をサフィリーンに渡す。負けた場合も頑張ったからとか理由を付けて皆に渡して欲しい、と。 サフィリーンは箱を頭上に掲げると「みんな」とはしゃいだように軽く踊ってみせる。 「たぬきさんからも差し入れだよっ! 頑張った人にはたぬき印の飴をあげちゃう」 玄間がおどけた仕草で手を振り宙帰りを決めてから庭園に戻っていく。子供達は大盛り上がりだ。 「組分けするぞ。ひーふー……あれ? 二人足りない……な〜んてなっ」 両手にオナモミを持ち背後から羽喰の尻尾を狙っていた少年の襟首を掴んで持ち上げる。 「俺に悪戯しよーなんて甘い甘い」 ニヤリと笑って仕返し、とオナモミ一粒少年の服に貼り付けた。 「もう一人はかくれんぼか?」 既に掃除を始めていた紅葉が羽喰達のやり取りに手を止めた。 かくれんぼならば構わない。だがうっかりどこかで転んで怪我でもしていたら大変だ。熊手の柄を握り意識を集中する。少し離れた場所にたくさんある気配は羽喰達、前方は庭園を掃除する大人達……羽喰達の背後、大木の陰に一つ。 そっと近付きひょいと覗き込む。 「何をしてる、の?」 「うわぁっ」 驚いた子供が木陰から飛び出す。 「みーつけた。よし、勝負開始だー!」 羽喰が少年の手を引っ張っていく。 ザワリ……庭園の低木が鳴った。 「たぬき?」 男が目を瞬かせる。 「たれたぬ忍者なのだぁ〜」 人が入りにくい植え込みの隙間を縫って玄間が枯れ草や塵を背負った籠に入れていく。六尺近い背丈に太ましい尻尾。どう見ても動き難いそうだが、茂みや隙間に器用に潜り込む。そもそも皆にはそんな大柄に見えていない。 御年寄りにいたっては「ポン太ちゃん」と呼んで可愛がっている。寺に住み着いたたぬきが掃除を手伝いに来たと言えば納得されてしまいそうだ。 「足元、気をつけてなのだぁ〜」 躓いた人をひょいと抱えて助ける。愛嬌のある形とは裏腹に高機動型たぬきだ。 落ち葉を一箇所にまとめリーズは周囲を見渡す。手入れされた庭園はまるで一枚の絵のよう。故郷ジルベリアではお屋敷でしか目にかかれず、それも滅多に入れる場所ではなかった。だからこうして皆でわいわいしている光景が珍しくもある。 「楽しいなっ」 口元に自然笑みが浮かぶ。 「折角だし池の掃除もしときたいよねっ。綺麗になってると気持ち良いもんね」 大きな虫取り網のような道具を手に池の前に立つ。岸からある程度まではこの網でどうになかりそうだが流石に全部は無理だ。 縁ぎりぎりに立ちなんとか遠くの落葉まで掬い上げようと試みるが限界はさして変わらない。 「オイラが集めてくるのだ〜」 熊手を肩に玄間が池に踏み出し、すぃっとアメンボみたいに水面を渡っていく。高機動かつ水陸両用たぬき……! 玄間が落葉を端に寄せ、リーズが拾い上げる。二人の合わせ技で池も抜かりなし、だ。 「喪越さん素敵ぃ」 本堂軒下の蜘蛛の巣を箒で払う喪越に声援が飛ぶ。 「いやー、それほどでも……」 白い歯輝く爽やかな決め顔で喪越は振り返った。そう、此処は厨房の窓から見える位置。なら声援を送ってくれたのは…… 「……」 決め顔のまま固まる。先程の「親方」がそこにた。声が婀娜っぽかった分がっかり度マシマシだ。 「ごめんなさい、どなたか手を……」 そんな時厨房からの救援要請。いざ行かん、止めてくれるな……だが喪越を逞しい腕が掴んだ。 「こっちもお願いできないかしら?」 「私の所も」 あちこちから婦人方の声。 「オーケイ、セニョリータ、俺に任せろって言いたいとこだがな、生憎俺の手は二本だけ。だから一番急を要している……」 「モテモテなのだ〜」 しれっとたぬきが喪越の横を抜けて厨房への助っ人に向かう。 参道脇、女の子達が落葉の中に混じっているどんぐりをみつけては光に翳している。 「何してるのっ?」 奥まで栗拾いに行って来たリーズが輪に入った。 「狐の目になる丸いどんぐりを探してるの」 「まる?」 ちょっと待ってて、とリーズは籠を下ろし中から栗を二つ取り出す。 「これはどうかな?」 女の子達が喜んで栗を受け取る。 「その綺麗などんぐりは取っておいてねっ。後で紐を通してアクセサリーにしてあげるよっ」 約束、と女の子達はリーズと指きりすると羽喰のもとへと走っていく。どうやら狐は羽喰組のお題のようだ。 「赤い葉っぱを集めてね」 向こうでは同じなずな荘で暮らすサフィリーンが子供達に声を掛けている。その背後に忍び寄る子供。手には大きな虫。 「あっ……」 声を掛けようか悩んでいると、サフィリーンの姿が一瞬消え子供の背後に現れる。リーズと目が合ったサフィリーンは人差し指を唇に当ててから、そっとどんぐりを子供の背筋に落とした。 「ひゃあ!」 悲鳴をあげる子供に「秋にだってお化けはいるんだからね」と片目を瞑って額を突いた。 後ろを振り返る紅葉。木陰から此方を見ている男の子。かくれんぼの子だ。 暫く放っておいたが止める様子は無い。 「何か、用?」 尋ねれば頭を引っ込めてしまう。そこで紅葉は一計を案じた。 熊手を構え、一呼吸。赤い燐光を帯びる熊手。 案の定男の子は好奇心を押さえ切れず「今のなに、魔法?」とやって来た。すごいと興奮した後紅葉の顔をじっとみつめる。 「おねーちゃん、人じゃないの?」 ずっと気になっていたらしい。こくり、と紅葉が頷く。 「ボクは、カラクリ。カッコいい、でしょ」 親指をぐっと立てると男の子も「カッコイイ」と同じ仕草を返す。 「後で冒険の話をしてあげる、から、今はお掃除して、おいで?」 勝負中でしょ、と男の子の背を押した。 落葉で描かれた狐と夕日。 「狐はくりっとした目が可愛い! 夕日は色が変化していくところが綺麗!」 サフィリーンはどっちも良いなぁ、と真面目な顔で二つを見比べる。枝で髭まで再現された狐、どんぐりで巣に帰る鳥の群れを描いた夕日、どちらも力作だ。 「燃やしちゃうの勿体ないねぇ」 子供の言葉にサフィリーンが同意する。 「でも、皆で頑張って集めた落葉使うんだもの、焼き芋ももっと美味しくなりそうだと思うの」 きゅうぅと誰かの腹の虫に皆でお腹すいたねと笑う。 「決めた!」 羽喰が手を叩く。本当は誰か大人に採点を頼みたかったが皆掃除で忙しそうである。 「狐は『可愛いで賞』、夕日は『綺麗で賞』だな」 「はい、じゃあ頑張った人手を挙げて!」 一斉に手があがった。 飴に夢中の子供達を羽喰に任せサフィリーンは料理の飾りに使えないかと綺麗な楓を拾う。手が別から伸びた手と触れ合った。 「あっ、ごめんなさい」 「ごめん、ね」 サフィリーンと紅葉の声が重なる。どうぞ、と譲るサフィリーンに躊躇う紅葉。「私は沢山拾ったから」とサフィリーンは手の中の葉を見せた。 「ありがとう。自分と同じ名前。だから栞にしてとって置こうと、思って」 葉を視線の高さに上げる。 「どんな気持ちで、ボクに紅葉とつけたのかな……」 紅葉の身体に刻まれた『不散紅葉』の言葉。これの意味するところは何であろうか。気になって紅葉の意味を調べたりもした。色々意味がある。その中の何かを指したのか、あるいは全く別の意味があるのか……。 「こういう所に来たら、つい考えてしまうんだ……」 楓を見上げ「不思議、だね」と呟いた。 「秋が好きだったのかも」 サフィリーンも一緒になって見上げる。 「散ってしまうのが勿体無いくらいに綺麗だもの」 「うん……。綺麗、だね」 紅葉は手にした葉を胸に口元を綻ばせた。 中門脇では焼き芋の準備が始まっている。玄間が集められた落葉や塵を焚き火に使えるもの、使えないものと分別していく。 「濡れた落ち葉はこっちにまとめて、塵はあっち……」 分別してる傍から風が吹く。箕を被せて落葉を押さえるよりも先に聳え立った黒い壁が風を防ぐ。 「助かったのだぁ〜」 今だご婦人方の中心にいる喪越が片手を上げて答えた。 落葉の分別が終わると、次は芋の準備だ。芋を濡らした和紙で器用にクルクルと包み、土の下へ。きっと子供達は自分でやりたがるだろうから芋はいくつか残しておく。 「火の扱いには気をつけるのだ〜」 玄間は落葉に火を着ける子供達の手元を見守る。無事に火が着くと子供達と一緒に手を叩いて喜んだ。 「お待ちどうさまっ」 ひさぎを手伝っていたサフィリーンとリーズがお盆に乗せたおにぎりとお椀を持ってくる。我先にと駆け寄る子供達。 羽喰は筆を取り出し、とっておいた大きな葉に何事が書き綴った。 それをそっと焚き火にくべる。 「届くかなー」 葉を飲み込んだ炎、立ち上がる煙の先を見上げる。それから「俺の分も取っておけよなー」子供達を追いかけた。 「こっちは梅干、こっちは昆布……それは私が握ったの……」 元気な声が恥ずかしそうに尻すぼみになる。綺麗な三角はひさぎが握ったもの。三角になりきれていないものや、大きさがまちまちなものはサフィリーンとリーズ作だ。顔見知りのおじさんは「折角だからサフィリーンちゃんが握ったものを貰おうか」と歪な三角を手に取った。 「形がちょっと違うのも愛嬌……だよね?」 「ねっ。こうして掃除終わった後に皆で食べるご飯は別格っ」 「ひさぎさんのご飯、外で食べるともっと美味しいね」 サフィリーンとリーズが頷き合う。 「あぁ〜身体の芯から温まるねぇ」 おかわり、と空になった椀を喪越はひさぎに差し出す。漸くご婦人方から解放されたのだ。 「沢山食べて下さいね」 触れ合う指先と指先。よし今だ、踏み込め…… 「っぐぉ!」 目を剥き呻く喪越。 人差し指と中指をそろえ両手を組んだ少年が尻を擦りつつ振り返った喪越に不敵に笑ってみせた。 「こンの……ぉ」 少年は志体持ちか喪越の手からするりと逃げる。だが開拓者はそんなに甘くない。むんずと抱き上げる。 「ガキンチョは元気だねぇええ」 互いの引き攣った笑みが交差する。 「そーら!」 気合一発子供が宙を舞う。勿論、落ちてきたところをちゃんと抱きとめる。とくと見よ、大人の力……だが子供とは怖いもの知らずだ。俺も、私もと喪越の周りに群がった。 「だぁー、並べ、並べぇ!」 木立にこだまするヤケッパチな叫び。 「あつ、あっつ……」 焼きたての芋を右に左に受け渡しつつリーズはどうにかして割る。 「はい、半分っ」 リーズはほこほこと湯気の立つ芋をサフィリーンに渡す。 「お芋は皮のちょっと焦げた当たりが美味しいよね……っぃ」 はふはふとサフィリーンの口からも柔らかい湯気。 「運動した後の飯は美味いよなー」 豪快に芋に齧りついた羽喰が紅葉の視線に、ぶらさげていた袋の中を開ける。立ち上がる独特の腐敗臭。中には掃除の途中皆で集めていた銀杏が入っていた。 「食べれるの、かな?」 紅葉が首を傾げる。 「土に埋めると良いんでしょ?」 一緒に銀杏を集めたサフィリーンだがさすがに匂いは慣れないようだ。 「串焼きにすりゃ、こいつがまた最高の酒の肴に……っ」 式神で栗鼠を作り、漸く子供達の波状攻撃から解放された喪越が燃えつきかけていた。 「……美人の酌で一杯いきたい……おっと、ここは寺だっけか。坊主が睨んできやがりそうだな」 怖い、怖いとわざとらしく肩を震わせる喪越の目の前に「お疲れ様」とお茶が差し出される。 「ありがて……」 湯呑ごと手を包まれた「親方」の頬が紅葉よろしく赤く染まった。「親方」も未亡人だとは後から聞いた話である。 |