【初夢】風が騒がしい、な
マスター名:桐崎ふみお
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 普通
参加人数: 21人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/18 21:56



■オープニング本文


 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 遠くから聞こえる雷の音。鉛を溶かしたかのような雲は渦巻き見上げる人を無意味に不安へと駆り立てる。
「始ったか…」
 建設途中の電波塔、鉄骨の上に佇む男が呟いた。金きり声を上げ荒れ狂う風にコートがはためきまるで羽を広げた烏のようだ。
 男の視界に映る西の空は暗い。まるで今から起こる事を予見しているかのように。

 電波塔の工事現場を少女が一人走っていた。
「誰か…助けてっ」
 叫んだ声が空しくこだまする。少女は何者かから逃げていた。追いかけているモノの正体は少女にはわからない。
 頭があり腕があり足がある。パーツだけで見れば人間のようだ。しかし頭だけが肥大していたり、片腕だけが長かったりなど、どれもバランスがおかしかった。そしてなによりもそれらには外見がなかった。影が形なしたかのようなモノであった。
 転がっていた機材につまずき少女が転ぶ。
 それでも這って賢明に逃げる。しかし壁際に追い詰められてしまった。
「いやっ……」
 少女に向かって伸ばされる枯れた枝のような腕―それがいきなり霧散する。
「アヤカシがこんなとこまで出てるとはね…」
 消えた影人間の向こう、刀を手にした少年が立っていた。
「あーあ…これって時間外手当出るかなぁ」
 少年は欠伸を一つ噛み殺した。

「みーっつけた」
 双眼鏡を覗き込んでいたロリータファッションの少女が楽しげな声を上げる。
「アイツ、あんなとこにいたんだ」
 ポケットから取り出したロリポップキャンディの色はピンクと白のマーブル。イチゴミルク味。それを一舐め満足そうな笑みを浮かべる。
「ねぇ…アイツ、アタシが殺してもいい? いいよね…。だってアタシ、スペシャルだもん」
 少女が軽く床を蹴り、ビルから飛び降りた。

「…っと、失敗、失敗」
 いくつものモニターを前に眼鏡の青年は舌打ちをする。モニターに大きく表示される「ERROR」の赤い文字。
「まったく、面倒なことをさせるなよ」
 指は一時も休まる暇なくキーボードを叩く。新しい画面が開き、一軒意味の無い文字列がまさしく流れるようなスピードで表示されていく。
「よーし…良い子だ、俺に全部を見せてくれ」
 言葉と共にエンターキーを押し込んだ。

「飴の包み紙……っ」
 少年は屋上で紙を拾い上げる。苺がプリントされたものだ。途端浮かび上がる、様々なビジョン。
 ずきり、と右目の奥が鈍い痛みを訴えた。
「とうとうこの日が……来た、のか………」
 右目を押さえ呻く。西の空が騒がしい。
「ちょっと、そろそろ授業が始るわよ」
 そんな空気を壊して屋上の扉が開かれる。
「委員長……」
「まったく、教室にいないと思ったら…ってどうしたの?」
「ごめん、委員長、先生に俺は腹痛で帰ったって伝えておいて」
 少年は驚く委員長の脇を走りぬけ、階段を降りていく。
「まだ、早すぎる……っ」

「まったくなんなのよ。元気そうでしたって先生に言って……え?!」
 委員長と呼ばれた少女の背後、いきなり立つコートの男。
「誰?! 勝手に学校……」
 男が手を翳すと少女が崩れ落ちる。崩れ落ちた少女の体を男が受け止めた。
「あぁ…問題ない。鍵は我々が手に入れた」

 裏通りにあるバー『天国への階段』。天国とは名ばかり、半地下にある薄汚れた店だ。
「此処は子供が来るところじゃねぇぞ」
 バーのマスターは新たな来客に無愛想にそう答えた。
「俺だって、こんなヤニ臭いとこには来たくなかったよ」
 やれやれ、と溜息混じりにカウンターにやってくるのは制服姿の少年だ。少年はコースターにペンを走らせる。
「………お前も思い出したのか……」
 マスターがそれを確認し溜息をついた。
「来な…」
 カウンター内側に少年を招き入れる。

「そうか……解った」
 男からの連絡を受けた青年は唇に笑みを浮かべた。
 真下に広がる風景を見下ろし腕を広げる。
「さあ、我らが王はすぐそこまできている……! 王のために新しい世界を作り出そうじゃないか」


■参加者一覧
/ 六条 雪巳(ia0179) / 朧楼月 天忌(ia0291) / 柚乃(ia0638) / 佐上 久野都(ia0826) / 秋霜夜(ia0979) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ニノン(ia9578) / エルディン・バウアー(ib0066) / シャルル・エヴァンス(ib0102) / 不破 颯(ib0495) / 岩宿 太郎(ib0852) / 尾花 朔(ib1268) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 玖雀(ib6816) / 落花(ib9561) / 何 静花(ib9584) / 庵治 秀影(ic0738) / 奏 みやつき(ic0952) / 葛野 凛(ic1053) / フルール・リ・フルーフ(ic1218


■リプレイ本文


 そこはαでありΩである。全てが有り何も無い。
 黄金に輝く竜が目を覚ます。
「リンスちゃん、おはよう」
 虚空から一人の少女が姿を現した。名はリィムナ・ピサレット(ib5201)。元は人間の魔術師であったが黄金竜と出会い人を捨てた。竜の恋人、半身といっても良い。
 竜が身を震わせ金髪の少女へと姿を変える。出会った時の姿。リンスガルト・ギーベリ(ib5184)という少女の姿であった。
「妾はあらゆる宇宙の世界の次元の終わりと始まりを見てきた」
 リンスガルトは存在する全ての理を内包する理の竜だ。
「そして今、かの地に特異点が生じ数千、数億、数兆の多元宇宙を巻き込んで消失するのじゃ…」
 リンスガルトの手の中に映し出されるのは地球。
「へぇ、あの宇宙のあの惑星で特異点か…」
 既に次元の剥落が始まっているのが見える。
「流石に被害が大きいし止めに行こう。リンスちゃんと久しぶりにデートだよ」
 リィムナがリンスガルトに手を取る
 繋いだ手に笑みを交わす二人。
 彼女達は神以上の気まぐれさで世界に干渉する。


 神楽市はここ十年ほどで一気に都市化が進んだ。分厚い鉛色雲が街を覆っている。
 雲の下大きな鳥が一羽飛んでいた。雄のクジャクだ。クジャクは空を旋回し茅野輪神社の社に降り立つ。そして暢気に羽を繕い始める。足下で世界の綻びが始まろうとしていることなど知る由も無い。

 社の中、焚かれた火が爆ぜる音だけが響く。
 風も無いのに炎が大きく踊った。
「よもや…闇の力が此処まで大きくなって、いる…とは」
 祈りを捧げていた巫女ニノン・サジュマン(ia9578)が呻く。
 この炎は『災い』と呼ばれるモノを封じる結界の要だ。ニノンは五百年の長きに渡り結界を維持してきた。いずれ来る世界の目覚めを待ちつつ。人は彼女はこう呼ぶ『夜明けを待つ巫女』と。
「もはや結界の維持は……」
 ニノンの頬に傷が走る。血が床に落ちると同時に闇が訪れ結界が失われた。
「しかし…彼等も目覚めたか…。お寝坊さんどもめ、待ちくたびれたわ」
 頬から滴る血を拭い笑う。
 クジャクが社から飛び立った。

「…とり、さん?」
 大きなうさぎの縫いぐるみを抱いた柚乃(ia0638)が空を見上げる。色素の薄い髪、白いワンピースから伸びた手足は華奢でビスクドールを思わせた。遠くを見つめたまま夢を見ているような瞳に光が宿る。
「はじまりが…くる…」
 ふわりと髪が舞い、背中に現れる淡い光を纏った二対の純白の翼。
「呼んでる…」
 歌うように囁く。行かないと…。

 母なる混沌に帰して―そう世界が柚乃を呼んでいる。

 クジャクはビルに降り立つ。冷徹な眼差しが街を見下ろした。向かいの古いビルの屋上に一人の男が立っている。
「ふん…こいつぁ、臭ぇな」
 庵治 秀影(ic0738)が金網に手を掛けた。
 風によって運ばれてくるのは、忘れ去られた墓地を流れる下水道にも似た…。
「懐かしい匂いがぷんぷんしやがるぜ」
 煙草を咥える。百円ライターはガス欠で火が着かない。
「はっ…その芳しい香りは誤魔化しようもねぇ」
 鼻で笑い唇の端を上げる。ライターを投げ捨て、布の袋に包まれたあるものを手にした。懐剣ほどの大きさだ。
 乾いた笑い声が風に千切れた。
「あぁ…面白くなってきた。疼くんだよ…とっくの昔に失くしちまった野心って奴が…」
 袋に被っている埃を吹き払う。
「しっかり目覚めろよぉ、相棒。奴はすぐそこまで来てるぜ」
 見据えた西の空、暗雲が立ち込めている。

 市の北側にヴァチカンに本部を置く神教会日本教区の支部がある。
 礼拝堂でカソックに身を包んだエルディン・バウアー(ib0066)が朝の祈りを捧げていた。神教会の神父とは別に彼にはもう一つの顔があった。『災い』を封印した組織AGOSの一員。ヴァチカンが持つ魔に対抗する力の象徴。
「父と子と聖霊と…っ」
 祈りの途中、突如右手が焼けるような痛みに襲われる。同時にエルディンの中に天啓の如く『災い』に関する記憶が流れ込んできた。
「時が満ち、古の災いが目覚めた時、封印されし記憶と力も蘇る……」
 エルディンがAGOSに伝わる教えを繰り返す。
「ふっ、まさかこの私に大役が回ってくるとは思いもしませんでした」
 手の甲に浮かぶ十字の聖痕。
 聖痕に手を置いてエルディンは祈る。
(古の戦士の力を持つ者たち、私のヴィジョンを受け取ってください。そして我が元へ集いなさい)

 薄い金属を重ねた武具を身につけた秋霜夜(ia0979)は先祖の霊を祀る廟の前に立つ。
「あたしの代にこの日が来るなんて…」
 静かに手を合わせ祈る。
 秋はエルディンの声を聞いた一人だ。この地に結界を作るために尽力した一族の子孫である。その身にまとう武具も先祖伝来のもの。
「『鎮めの拳』秋霜夜、行って参ります」
 決意に満ちた声で秋は告げた。

 その姿を遠くから見守っている者がいる。六条 雪巳(ia0179)は椅子に深く背を預けると息を吐いた。
「…まだまだ、若いです…ね」
 夜明けが来るまで世界を監視する、それが六条達に課せられた使命。
 低く唸るモーターとファンの音。デスクの上、いくつも並ぶモニター。
 六条はモニターの一つに映った秋の姿を見ていた。
「私達は…『監視者』なの、ですよ…」
 世界を保全するための監視者。それは世界の『平和』を守ることではない。
「故にどちらにも与せず、どちらが勝とうが関係ないのです、よ…。……落花さん」
 もう一つのモニターに映る少女にも話しかけた。

 落花(ib9561)が宙を見据える。
「落花様、いかがされましたか?」
 脇に控える老人の問い掛けに「なんでもない」と応える。
「で、なんだっけ…。そっか、古の戦士ね…。戦士…」
 眉間を人差し指で叩く。
「捨て置きな。祀家に楯突く未来は、まだ見えてない」
 落花は六条や秋と同じく結界に携わる祀家の現当主である。歴代随一と言われる霊能力と予知能力を危険視する者も少なくない。
「今はこっちだ…」
 隅のできた双眸を眼前で倒れている男に向ける。
 男が憎々しげな目で落花を見上げた。
「「覚えていろ。今に古の戦士達がお前を…」」
 男と落花が同じ言葉を発する。
「くひ…っひ…はは、その時はまた返り討ちにしてやるよ」
 男が懐からナイフを抜く。男の身体がいきなり跳ね上がった。
「私の予知で…な」
 地面から突き出した異形の手が男の腹を貫き、宙に掲げる。男の四肢が垂れ下がった。
「あら…やり過ぎちゃった…。『災いを呼ぶ怨霊の』の力を一部…この身体に封じたのはいいけど…」
 制御が難しいなぁ、とぼやく。
(私の予知通りなら古の戦士諸君は……)
「くっ ひ、ひ…」
 唇から喉を引き攣らせたような笑いが漏れる。
「楽しみだなあ…」

 神楽大学図書館は午前中、学部の学生も少なく過ごしやすい。資料を探していた院生の佐上 久野都(ia0826)は窓を横切った大きな影に空を見上げた。
「クジャクですか」
 視線が中庭で止まる。双眸を瞠った。あぁ、唇から漏れる歓喜の声。
「…やっと来てくれたのですね。待っていたのですよ貴女を…」
 真っ白い二対の翼を持つ少女。混じりけのない微笑にかの人の面影を見た。
「ずっと、この身体で生きる前から…」
 窓が勝手に開く。蛹が羽化するかのように短かった銀色の髪が伸び、一房だけの紫が瞬く間に広がる。
「さぁ参りましょう、貴女の望む世界のために…」
 青年は恍惚とした笑みを浮かべた。


 放課後。神楽学園中等部に通うフルール・リ・フルーフ(ic1218)は突然何かに襲われた。それは人に似た影。
 影達はフルールを追ってくる。
(…なんです、これ…。助けて…)
 走る、走る。影はのったりとした動きだというのに確実に迫ってくる。その手がフルールの肩を掴んだ。
「きゃぁああ…」
 悲鳴とともに影を突き飛ばそうと手を出した。いきなり影が掻き消えた。
 掌に残る痺れ。
「…私が、やったのです…?」

「対象を見つけた。確保しろ」
 複数の足音と人の声。カソック姿の男達が現れた。
 男達がフルールに向かってくる。
「お前ら、うちの生徒に何をしているんだ?」
 フルールの前に神楽学園高等部の制服を着た女性徒が立つ。
「葛野先輩…」
 彼女は葛野 凛(ic1053)、端正な容姿と他の者を寄せ付けない雰囲気で下級生に人気がある。
「大人しく少女を此方に渡しなさい」
 近づく男の腕を取ると捩じ上げた。
「我々も時間がないんだ。抵抗するなら」
 別の男が銃を抜く。
「…物騒だな…」
 響く銃声、葛野の美しい銀色の髪が舞い落ちた。
「クッ…」
 葛野が胸を押さえる。
「先輩…」
 葛野に駆け寄るフルールの腕を誰かが掴んだ。眼鏡を掛けた紫の髪の青年が「此方に」と強引に走り出す。
「心臓が…心が熱い……」
 葛野の中で蘇る血の記憶。口元からは牙が覗き、頭には銀狐の耳が、そして制服のスカートを巻き上げるようにふさりとした尻尾が生えた。
「そうか…!」
 叫ぶ。手を広げて嬉しそうに。
「強者達の死合…命の奪い合いが始まるのか!」
 葛野は男達の合間を駆け抜けた。
「殺す価値もない」
 吐き捨てる。彼女は自分に流れる強さを求めた果てに狂気の道へと堕ちた銀狐の獣人の血に気付いてしまった。もう後戻りする事は出来ない。
「強者達は全て私の獲物…。その心の臓、止めてくれる!!」
 彼女には『監視者』も『災い』も『導く者』も何も関係ない。ただ強者を喰らう、それだけだ。

 学校帰り、土手で岩宿 太郎(ib0852)は尾花朔(ib1268)に打ち明けた。
「朔、俺、最近変な声が聴こえるんだ…」
「変な声?」
「古の戦士とか災いとか…ヴァチカンとか……」
 空は茜色から紺色へ。
 岩宿の背を叩こうとし、心臓がドクリと脈打った。
「それと…あ、ご、えっと…AGOS、とか?」
 尾花のなかで膨れ上がるドス黒い気配。
「そっか…ごめんね、太郎…でも…」
 見えない力が二人の間で爆発する。
「な、何を…まさか…災いの…ぐっう…」
 岩宿の身体が吹っ飛んだ。赤く染まる尾花の双眸。
「…太郎が悪いんだよ。余計なことを思い出すから…」
 太郎は転がり川へ落ちた。
 尾花が己の手をみた。どうやら人間の部分が急所を外させたらしい。

 赤い緋い尾花の双眸。半ば溺れながら岩宿は親友の事を思う。
 友達だと思っていた。親友だと。傷から血が流れ出していく。
(…もう良い……)
 後は野となれ山となれ…。

『ならば野と山になってみせよ…』

 突然岩宿の脳内に声が響く。

 水面に出た手が咄嗟に何かを掴む。
「クゥケェ〜」
 クジャクの悲鳴。水面擦れ擦れを飛んでいたクジャクの飾り羽を掴んだのだ。もがくクジャク、羽が舞い落ち、千切れた。

『太古から続く我ら野山の力…この地を守る自然の力…これで災いを滅ぼすのだ。今からお前の名は!!』

 岩宿の手がクジャクを解放し、代わりに力強く握られた。

「うおぉぉぉ! 変ッ身ッ!」
 握った拳が空高く突き上げられる。
「一撲一掃! ノヤーマン!!」
 水柱が立つ。スーツにヘルメット、靡くマフラー。
「これが俺の封印されし力…待っていろ、朔! そして奴に連なる災いども」

 クジャクはヨロヨロと空へ。烏と激突し、目を回し落ちていくクジャク。
 空から降ってきた黒い羽をシャルル・エヴァンス(ib0102)は受け止める。幾重にも重なったパニエが覗く漆黒のドレス、頭には羽をあしらったヘッドドレス。
「ああ…愛しいお方、我が君よ…」
 彼女の中に溢れ出てくるかつての記憶。五百年前災いを封じる巫女でありながら、災いの鍵となる者と恋に落ち、災いを蘇らせてしまった記憶が。
「この時を待ち望んでいましたわ。ようやくお会いできますのね」
 シャルルは艶然とした笑みを浮かべた。

 奏 みやつき(ic0952)は教室の中で耳を塞ぎ怯えていた。外から激しく叩かれ硝子戸が揺れる。
「なんなんだよ、なんなんだよ…」
 無数の黒い手が窓を叩いている。
 一際大きな音がして硝子は呆気なく割れる。黒い影が入り込んできた。
「ひっ…」
 手に何か触れる。わけも分からずそれを掴み闇雲に振り回した。
 耳を劈く轟音。振動に頭が揺れる。奏の手には銃のようなもの。何故そんなものが此処にあるか分からない。
「え…」
 倒れた影が血を流す親友の姿になっていた。
「ぁ…ああ…っ。ぁああ!!」
 奏の絶叫が響く。
 次々に侵入してくる影、呆然としたままの奏に襲い掛かろうとしたその時だ。
「…チッ、聖痕(コイツ)が疼きやがる…と思ったら魔(テメェら)かよ。我が主よ(クソッタレ)…!」
 怒号と共に影が吹き飛ばされた。
「おら、ガキ…立てよ」
 刀を手にした男が奏を無理矢理引き上げる。
「…だれ?」
「あぁん、俺か? 俺は通りすがりのお節介、朧楼月 天忌だ」
 朧楼月 天忌(ia0291)が唇を釣り上げて笑った。
「一気に行くぜ…」
 刀を振り上げ走り出す。朧楼月の刃は迅速に容赦なく影を切り裂いていく。
 奏は親友の姿がちらつき引鉄を引くことができない。
「ソイツは飾り(オモチャ)かぁ?」
 朧楼月が切り捨てた影が化学教師の姿になって崩れ落ちた。
「殺らなきゃ殺られるのは分かってます! でも殺すことはない!」
「甘い事言ってんじゃねぇ。ああなったらもう二度と戻らねぇんだよ」

「みやつき」

 廊下を胸から血を流した親友がやって来る。
「…まさ、か…」
 奏は止める朧楼月の手を払い親友へ近づく。
「生きていたんだ…っ…」
 焼けるような痛み。親友の手から伸びた黒い刃が奏の胸を貫いていた。
「ぁあ…っ」
 痛みの中、それでも奏は親友が生きていたことに安堵し微笑む。
(本当に…よか……)
 刃が奏の親友だった何かの首を跳ねる。
「馬鹿野郎(クソガキ)っ……。テメェの名前も聞いてねぇだろう…」
 血溜まりに横たわる奏の開いたままの瞳をそっと閉じてやる。

 モニターに表示される『警告』の赤い文字。
「ヴァチカン?」
 六条が手早くキーボードを操作するとヴァチカン、神教会大聖堂地下の様子が映し出される。
「奴は…!!」
 六条が思わず声を上げた。ヴェントリスと呼ばれる空間、幾重にも張られた魔法陣その中央に神代の時代『灰塵の妖狐』と呼ばれた不破 颯(ib0495)が捕らわれていたのだ。
 うっすらと金色の目が開く。牙の隙間から漏れる呼気は炎を孕み、黒髪の先端は溶岩のように灼熱の赤。妖狐を戒めていた呪鎖がその熱に耐え切れず形を失い灰となった。不破が操るのは全てを灰燼へと帰す炎。
 武装司祭達が槍を構える。
「ハッ…そんなもの…何になるんだ?」
 不破の炎に魔法陣すら蒸発した。
「AGOSに連絡を」
 駆け出した司祭がいきなり不破の前に転がる。
「柚乃は歌が好きなのー。一緒に歌う? 永遠の眠りへ誘う歌を…」
 現れたのは柚乃。取り囲む司祭達に向けて可愛らしく小首を傾げる。。
 あなたに相応しい舞台があるの、柚乃が手を差し出した。
「それは俺を楽しませてくれるところか」
 柚乃は楽しげに歌う。不破はその手を取った。
 二人の姿が忽然と消えた。

 鳴り響くアラーム。今度は神教会日本教区支部…。襲撃を受けたらしい。
 映像を教会の入り口へと切り替える。いきなり画面が揺れ映像が途切れる。フォローに入ったカメラに映るクジャクの姿が。
 入り口は既に突破されていた。
 六条は杖を手に取り、モノクルタイプのアイモニタを装着する。
「少しばかりお灸を据えに行かなくては」
 白き羽毛を封じた宝珠に念じる。光の翼が背に開き、六条は部屋から姿を消した。


 侵入者は尾花とシャルル。それぞれ別ルートからである。
「おっと、ここから先は通行止めじゃ。お若いの」
 尾花の眼前を杖が遮った。
「今晩和、夜明けを待つ巫女、いい夜だよ…あなたの命を奪う、ね」
 尾花が繰り出す見えない弾丸ををニノンの杖が受け止める。
「災い、滅ぼすべし! 朔…例え刺し違えても俺の手で!」
 二人の間に岩宿が割って入る。
「今度こそ君を殺して完全なる魔になろう」
 尾花と岩宿が睨み合う。

「あら……遅かったわね」
 教会最下層、その中央に立つシャルルは、やって来たエルディン達に微笑む。
「今からあのお方を呼ぶの」
 彼女の足元から光が広がり魔法陣が浮かびあがる。
「我に奇跡の代行を」
 エルディンの声が響く。魔法陣の放つ光が弱まり、そこから秋が飛び込んだ。
「鎮めの力よ、此処に」
 秋が拳で魔法陣を打ち付ける。陣の一部が消えた。
「邪魔はしないで」
 シャルルの放つ黒い羽は無数の刃へと変化し、秋を狙う。しかし刃は見えない壁に阻まれた。
「…全く、血の気の多い方ばかりで困ってしまいますね」
「雪巳さまっ」
 秋が尻尾をふらんばかりの勢いで新たに現れた人物の名を呼んだ。
「霜夜さん、下がっていなさい」
「監視者たる雪巳さまに約定を違えさせる訳にはいきません。あたしが行きます」
 六条を見据え、篭手の紐を締める。
「雪巳さま、その瞳にあたしの姿を留めて貰えたら嬉しいです」
 言うや否や突撃した。

 その部屋に入ってすぐにフルールは言葉を失う。此処は神教会の施設のどこかだ。彼女を助けてくれた佐上に「司祭と話をつけましょう」と言われやって来た。
 壁一面に並ぶ棺のようなカプセル。その中に眠るのは…フルール、フルール、フルール…。
「それは神の器の出来損ないです」
 フルールが佐上を振り返る。
「……っ」
 身体が震える。
「神教会は災いに備え神降ろしを計画していたようです。でもどれも力が足りず…試作型である貴女に目をつけたのですよ」
 佐上が銃を構えた。衝撃にフルールが床に転がる。
 右肩に焼けるような痛み。
「そう簡単に人を信じては…ねぇ?」
 穏やかな笑みを浮かべて佐上がフルールを見下ろした。
「大丈夫です。貴女を殺しては元も子もないですから。大人しく神の器になってくださいね。あの人の望む世界には災いだけでは足りないのです」
 出血で朦朧としているフルールの中に別の意志が流れ込んでくるのが分かる。
「では…」
 佐上は優雅に一礼すると部屋を出て行く。

「朔ぅう!」
「太郎…」
 既に二人は傷だらけだ。
 どうして…岩宿は心の中で問い掛ける。
 岩宿の銃口が尾花を捉えた。しかし尾花の弾丸も岩宿の肺を貫く。
「が…はっ」
 血の泡を吹き出して、それでも岩宿は指に力を込め引鉄を引く。
「「これで終わりだ」」
 二人の言葉が重なる。互いの胸から溢れ出す鮮血。
「は…はは……相打ち…か…」
「君に殺されるなら本望だよ」
 岩宿の血に染まった尾花の身体が形を失い始める。
「やっぱり友達のままで……」
 岩宿が最後に見た尾花の瞳は、あの頃と同じ緑だった。

 吹っ飛ばされた秋が壁に叩きつけられるのを六条の念が防ぐ。
 エルヴィンは秘跡の多用でまっすぐ立つことすらできない。シャルルは強大だ。
 だが諦めようとしない彼らに彼女が苛立ちを覚えた頃、第三者が現れた。
「くくくっ…」
 視界を焼く灰銀の炎が空間に踊る。
「さあ、楽しませろよ」
 灰の炎をまとい妖狐が現れた。背後には柚乃。
 不破が立て続けに戦士に向かって炎を放つ。それは六条の念を焼き払い、戦士達を飲み込もうとした。
「血管、肉、髪の一筋に至るまで、わしの全ては大いなる災いを拒絶する結界の構成物(パーツ)!」
 ニノンがエルディン達の前に立つ。
「わしはもう夜明けを待ちはせぬ…」
 ニノンの炎が灰銀の炎を喰い千切った。
「唸れっ、乞食清光」
 斬撃が不破を襲う。
「まぁた同士(テメェら)の落胆した(シケタ)容貌(ツラ)とはな…」
「朧楼月、良く来て…」
「勘違いすんじゃねェよ。オレはテメェらの仲間なワケじゃねェ、まして神(クソッタレ)の操り人形でもねぇ」
 エルディンの言葉を遮り、刀を構えた朧楼月が姿を見せる。
「オレはオレの意思(じゆう)でここに来た…! 狐(じじい)、覚悟はイイか? 地獄(イイトコ)に落として(イかせて)やるよ」
「忌まわしき夜に我が手で引導を渡してやろう。さあ…ショータイムはこれからじゃ」
 二人がそれぞれの得物を不破に突きつけた。
「ふん…少しはやる、か。だが所詮は虫ケラ、俺に刃向った事を後悔するがいい」
 斬撃を防いだ不破の両脇に生まれる炎の竜巻。
「まさか…あの術式を使うか!」
 幻影なんて生易しいものではない、炎が渦を巻き荒れ狂った。

 シャルルが儀式を再開する。
「これで……完成」
 頭に飾った黒羽を刃に変える。災いへの贄…それは彼女自身。躊躇いもなく胸に刃を突き刺した。
「さあ…愛しい人よ……」
 血が魔法陣を染める。黒い霧が噴出す。霧がシャルルを包み込みそして、事切れる寸前の彼女の唇に触れた。災いの復活。
 姿を持たない災いはフルールを依り代にした神に負けてしまうだろう。
「私の身体を…」
 佐上は自らの体を差し出す。喰われ消えていく意識の中、佐上は柚乃を見た。彼女は災いと神をその身に宿し世界を混沌に帰すだろう。
「これで…ようやく貴女の、一部に…」
 微笑み、佐上の意識は途絶えた。

 神に意識を蹂躙されながらもフルールは戦っていた。
「わ、私は…っ、貴方の為の人形じゃないのです…ッ!!」
 叫ぶ。これ以上自分のような者を増やさないためにも。無理矢理腕を持ち上げる。あの時影を払った力をもう一度。フルールは神をその身に宿した己の身体に向けてその力を解放した。


「ああ、これはあたしじゃないと駄目だ」
 リィムナは世界を見下ろす。因果の糸が縺れ絡み合い、このまま放置しておけば全ての因果が断ち切られ世界は存在の意味を失ってしまう。
「次元の修復はリンスちゃんお願いね」
 リィムナは白紙に見えない文字を書き込む。
 黄金の竜へ変化したリンスガルトが放つ聖なる光のブレス。次元の綻びを修正していく。

 そして世界は書き変えられた。


「…寝てた?」
 バス停ののベンチで礼野 真夢紀(ia1144)は目を覚ました。
「……あれは確か」
 夢の内容を思い出す。冬休み実家で見つけた、小学生の時のノートに書かれたものだ。
 当時人気があった漫画『舵天照』のキャラを使った転生モノの話である。タイトルは『選ばれし者の哀歌』。
「思えばあれでキャラ上手く描けないから文字書きになろうって思ったのよねぇ…」
 今は文芸部員である。
 そのノート、燃やしてしまおうかとも思ったのだが、個々のネタが使えそうだと実家から送る荷物と一緒に梱包したのだ。
「雨が降ってきそう…」
 空を見上げた礼野が言ったそばから雨が降り出し、瞬く間に大粒になっていく。
 横をみるとクジャクがベンチの端で眠っていた。
「どこからか逃げてきたのかしら…」
 時計を見れば間もなく荷物が届く頃だ。
 雨の中走って戻ろうかと思ったところ、呼び止められた。
「あんたは汚れちゃいけねぇ」
 男が影から現れる。
「待ってりゃバスが迎えにくるさ」
 この先は夢を見終わった男の世界だ、と咥えている煙草の先端を揺らす。
「踊るんだろう? 俺とよぉ、楽しもうぜぇ!!」
 手にした袋を紐解く。
 男が雨の中へ躍り出た。
「唸れ、折り畳み傘」
 風を起こしそれは広がる。そして男、庵治 は土砂降りの中、駆け出した。
「踊るのはあたしのほうかも…」
 礼野は符を構える。影から天魔が現れた。彼女は撃退士、陰陽師礼野 真夢紀なのだ。


 何 静花(ib9584)は数週間前、おかしな声を聞いた。「世界が終わる」「世界の始まり」「災い」「選ばれた戦士」…声は勝手なことを静花に囁いた。
 始めは掌に数字を書き「ネオ神楽の崩壊が…」などやっていたが、繰り返される声がいい加減うるさくなって部屋に引篭る。
 机の上で目覚める、時間は7時、部屋は締め切っているので夜だか朝だかわからない。いつもなら、このままベッドに倒れ込むところだが、その日は何故かカーテンを開けてみようという気持ちになった。
 カーテンを開けるとそこに居たのは一羽のクジャクである。
 クジャクが「キュゥゥウッ!」と一鳴きし、極彩色の羽を広げる。
(鳴き声可愛いな。はっ…羽を広げ…これは求愛のポーズ?!)
 告白されたなんて人生初。此方も答えなくては、と荒ぶる鷹のポーズ。
「静花、起きてるの…」
 母が朝ごはんを食べなさい、と。
 ダイニングに下りていくと既に父がいる。
「目覚めた力はもういいの? どうせなら女らしさに目覚めればよかったのにねぇ」
 母の料理はいつも美味しい。
「まあ、いいじゃないか。また一緒にご飯を食べてくれるなら」
 父はいつも優しい。
 気付けばあの変な声は聞こえなかった。
「そういえば告白された」
 引篭っていた娘の発言に両親が凍りつく。

 世界はとても平和だった……。


 玖雀(ib6816)は布団の中で唐突に目を覚ます。
「…おかしな夢をみた…気がする……」
 何かとりとめもない夢を。空を飛び、見たこともない景色を眺めていたような……。
 頭を掻く。
 枕元にあった朱紐で髪を結び顔を洗うため井戸へと向かう。
 その前に、夢の中で盛大に毟られた気がし、そっと枕周辺の抜け毛を調べたのは内緒の話。