【初夢】彼が彼女で君が僕で
マスター名:桐崎ふみお
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/08 19:37



■オープニング本文


 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 年の瀬…朱藩のとある街にある商店でのできごとである
 屋号は『九十九屋』という。さして大きい店ではない。なので武器防具から花嫁衣裳までご相談次第でなんなりと、を標語に掲げ、飛空船を駆って世界のあちこちを文字通り飛び回っている。当然年末は書き入れ時で、毎年自分達の年末年始の準備を面倒見ている暇はない。
 しかし今年は少々事情が異なった。店の番頭鈴代が蔵のあまりの散らかりっぷりに切れたのだ。蔵には店の在庫だけではなく、店主六朗が趣味で集めたよくわからない曰く付きのものなども散乱しており目も覆いたくなる有様となっていた。これでは咄嗟に欲しいものがあっても探せないから片付けろ、というわけだ。
 だが店の者で手が空いている者はいない。一番暇そうなのが店主の六朗だか、彼に任せると今以上に悲惨な結果になるであろうことは想像だに難くない。そこで「蔵の大掃除を手伝って欲しい」と身を切る思いで開拓者に依頼を出した。背に腹はかえられないのだ。


 開拓者達が通された土蔵は二階建ての二十畳ほどの大きさであった。外観はよくあるものだ。しかし扉を開けてみれば、床どころか二階へ上がる階段すら荷物に隠れて見えないという散らかりっぷり。片付けというより発掘作業、そんな言葉のほうがしっくりとくる状態である。
 しかしそこは開拓者、やはり頼りになる。日が暮れる頃には大方片付き床も階段もその姿をみせていた。
 そして「今日中に終わらせるぞ」と意気込んだ二日目、それは起こった。
 昼食後のことである。お腹も一杯、少々眠くなる魔の時間帯。しかも都合の良い事に否、悪い事に…その日は風も無く開いた窓から差し込む日差しは冬とは思えないほどにうららかで温かい。ついウトウトしてしまう、そんな陽気だった。
 開拓者の一人がともすれば閉じそうになる瞼を擦りつつ棚の上にある『廃棄』と札の貼られた壷に手を伸ばす。油紙で蓋をされている、掌サイズの小さな壷だ。『廃棄』の札の下から朱書きで思わせぶりな文様が描かれた別の札が覗いている。常ならば怪しいと思うかもしれない、しかしぽかぽか陽気にお腹が一杯、そんなこと気にする者は誰もいなかった。
 ともかく開拓者がその壷を手にとる。その瞬間、まるで壷が意志があるかのように開拓者の手からするりと抜けて宙へとその身を投げ出した。
「あ…」
 現場を監督していた六郎が声を上げる。
 ある者は開拓者の反射神経を活かし咄嗟に手を伸ばした。しかし間に合わない。
 壷は床に落ちて派手な音とともに破片を飛び散らし、もうもうと粉塵を撒き散らかす。
 暫くの間、蔵に響くのは咳き込む音や鼻を啜る音。粉塵もおさまった頃……。
「大丈夫かー」
 六郎の声がかかる。何故か蔵の外しかも少々離れたところにいた。実は壷が割れる瞬間に咄嗟に蔵の外に飛び出し逃げたのだ。逃げる際のあまりの身のこなしの素早さに、咄嗟に毒を疑った開拓者もいたであろう。それほどまでに迅速かつ的確な逃げっぷりであった。
 その開拓者の視線に気付いたのか六郎は「身体に害のあるものではない」と首を左右に振る。しかし蔵から離れた所から言われても説得力が無い。
「そう毒ではない…だが…まあ…ただ……ただね…」
 六郎が言い難そうに言葉を濁らせた。
「その薬、噂では入れ替わっちゃうらしいんだよねー。中身が!」
 テヘペロとでも付け足しそうなノリで六郎は明るく軽く言い放つのであった。
「あ、でもさ、時間が経てば治るらしいから、そこはまあ、気にしないでなー。あ…もう粉塵消えた? なら掃除再開しようっかー?」
 気にしない、気にしない。気にしたら禿げるよ、と六郎はへらりと笑う。

 開拓者達は半信半疑で互いの顔を見合わせ、そして目を瞠る。なんとそこには自分がいるではないか。
 どうやら六郎の話嘘ではないらしい。


■参加者一覧
ヴァレリー・クルーゼ(ib6023
48歳・男・志
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
コニー・ブルクミュラー(ib6030
19歳・男・魔
サフィリーン(ib6756
15歳・女・ジ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
ジャミール・ライル(ic0451
24歳・男・ジ
八坂 陸王(ic0481
22歳・男・サ


■リプレイ本文


 広がる青空、ポカポカ陽気、とても良い掃除日和だ。
「さっむ…こんな日によく掃除なんてしようと思うよね…」
 だがアル=カマル生まれのジャミール・ライル(ic0451)にとっては寒い。両手をすり合わせ、はぁ、と息を吹きかける。
 錦絵の整理という名のサボタージュ。
 力仕事はデカイ奴らに任せれば良い…などと思っていたら自分より遥かに小柄な何 静花(ib9584)がデカイ仏像を運んでいる。
「大丈夫ー? あっちの人に任せた方がよくない? …このあと暇? どっか遊び行かない?」
「この後は奥の置物を運ぶ」
 会話が噛み合っていない。生真面目、人見知り、ぼっち故に終わった後に誰かと遊びに行くという発想がでないのはご愛嬌だ。

「えいっ」
 棚にある箱を取ろうとサフィリーン(ib6756)は手を伸ばし何度も飛び跳ねるが届かない。
「これでいいか?」
 それを見ていた八坂 陸王(ic0481)が代わりに箱を取ってやる。
 屈んだとしても見上げるほどに大きな八坂。
(「私ももうちょっと大きくなるとは思うけど、流石にお兄さん位にはなれないよね」)
「陸王お兄さん、ありがとうね」
 自分の仕事へ戻る八坂の背で揺れるふっさりとした尻尾。
(「ふさふさの尻尾、可愛いな」)
 彼の見る世界、揺れる尻尾は一体どんな感じなのか、一度経験してみたいな…なんて気楽に思ってみたりした。


 襲い来る涙とくしゃみ。
「ん…あれ…れ?」
 手の甲で涙を拭ったサフィリーンが違和感に気付く。
「えっ?! 手が大きいよ?」
 大きくて分厚い手。しかも天井が近い。更に…。
「あーあー…声も太い!」
 風邪のがらがら声とはまた違う。
「この声…」
 鏡に映っているのは八坂の姿。左手を上げる。鏡の中の八坂も左手を上げた。右手をひらひら、当然八坂もひらひら。
 暫しの沈黙。
「きゃぁぁぁぁぁっどうしよどうしよどうしよ!!」
 乙女の野太い悲鳴が上がった。

「どどど、どうしましょう先生!! 僕がサイラスさんになってしまいましたっ!!」
 コニー・ブルクミュラー(ib6030)が師のヴァレリー・クルーゼ(ib6023)の体に縋る。
「俺はサイラスだぞ」
「あ、すいませんっ、先生じゃなくてサイラスさん…えっと、じゃあ僕の体に先生が…? でも今のサイラスさんは僕で……え? え? あれ??」
 コニーは混乱した。
「落ち着かないか」
 尻餅をついた自分が眼鏡をクイっと上げる。眉間に寄った皺、自分だが表情が違う。師のヴァレリーだ。
「先生、とりあえずお立ち下さい」
 サイラス・グリフィン(ib6024)が腕を掴んで立ち上がらせた。
「すまんな。いずれ戻るならさっさと掃除を済ませようではないか。こういう時こそ平常心だ」
 ヴァレリーがパンと手を叩く。
「こんな時でも落ち着いてらっしゃる先生、さすがですっ!」
 胸の前で手を組み身を乗り出す姿に一瞬黙るヴァレリー。
「…行くぞサイラス! ではなくて君はコニーか。で、こっちがサイラス…」
 指差し確認。
「……ええい、ややこしい! 名札だ! 名札を着けるぞ!」
 ヴァレリーが叫んだ。

「…む…視線が低い…?」
 周囲を見渡した八坂の視界に飛び込んできたのは鏡を覗き込む自分。
「…俺?」
 体を見下ろした。小さな手。華奢な体。動きに合わせて舞う服。
(「この衣装は…踊り子の娘だな」)
 太い悲鳴が上がった。
 自分が、いや自分の体が頬を押さえ内股気味で叫んでいる。
(「踊り子の娘と、互いに入れ替わったのか…」)
 ふむ、とさして慌てた様子は見せない。
(「困ったな…」)
 しかし冷静に見せてのフリーズ。
(「…困ったが、時間がたてば戻るというなら…慌てても仕方あるまい」)
 結局開き直って掃除の続きをすることにした。
「とりあえ…っ!!」
「私いたーーうわぁぁぁん」
 突撃してきたサフィリーンに抱きしめられる。泣きべその頭にぽふっと手を置いた。

 静花は薄らぐ意識の中で夢を見る。入れ替わり先を相談している皆の夢を。
「半分以上対象固定だと……!」
 くっ、と唸る。
「ぼっちに特定の相手なんかいねえよ!」
 静花のパッシブスキルはぼっち。しかも放浪癖によりガンガンスキルレベルは上昇中。
「もううさみたんでもいいよ」
 叫んで眼を覚ました。
 目に飛び込んでくるのは四つん這いで迫って来る必死な形相のジャミール。
「こ、これだけは身体から離しておれんッ!」
 静花の腕が掴まれた。
「は?」
「ぬ?」
 交差する視線。
「…うさみた、ん?!」
 ジャミールの中はラグナ・グラウシード(ib8459)のようだ。そして静花は本当にうさみたんだった。
 では自分の体は…。
「あー…」
 困った顔の静花が胸を触っている。消去法でいくとジャミールだ。
「女の子は好きだけど、こう…自分で触んのってなんか、あれだな」
 楽しくないなぁ、なんてぼやく。

「時間が経てば治るから…」
 去ろうとする六郎の腕をサフィリーンがむんずと掴んだ。
「逃さないよっ」
「えー…」
「…本当に、ほんとに少ししたら元に戻るの?」
 サフィリーンの耳の付け根が感情が昂ぶりによりむわっと浮く。
「え?」
 ぱぁと表情を輝いた。
「ぅわ、わぁ…!!」
 弾んだ声に合わせて尻尾も揺れる。
「楽しいっ」
「じゃあ、そういうことで」
「それとこれとは別。戻っても戻らなくても危険手当でお給金上げてね」
「しっかりして…ぐはっ!」
 死体のように転がる自分の体に驚いたラグナがすっ飛んできて六郎の胸倉を掴む。
「過去に『入れ替わった』という報告があるのなら! その後どうなったかという報告もあるはずだ! 戻り方を、早く!!」
 力任せに揺らされた六郎が白目をむく。
「そうだ、もう一度粉を…!」
 怒涛の勢いで戻ると、破片の上に残っていた粉を振り撒いた。
 重なる三つのクシャミ。
「どうだ!」
 叫ぶラグナの声が妙に高い。
 静花は己の手を見る。手首に金環、小麦色の肌…そして大きな掌。
 武人として小柄な自分が夢にまでみた大きな体。反射的に壁に向かって正拳を繰り出した。
「…っ!」
 壁はびくともせず手だけが痛い。
「俺の体に傷でもついたらどうすんの! 売り物なんですけど!!」
 涙目のラグナの中はジャミールか。
「その体が羨ましい」
 解せぬ、という表情のジャミールはおいといて掃除の続きと手にした箱が持ち上がらない。
「…?!」
 元の体より非力…。なんたる悲劇。魂が口から抜けた。
「ぐ…わ、私の美しい肉体を返せッ!」
 うさみたんを背負った静花…ラグナがジャミールの胸倉掴んだ。
「だーかーらー…時間が経てば…戻るって言ってたでしょー……」
「ん…?!」
 ラグナがジャミールと静花=自分の体とジャミールの体を見比べた。
「…ということは……」
 小さな胸の膨らみ。夢にまでみた女性のおっぱ……。
(「ち、ちょっとぐらいなら…」)
 手をワキワキと胸へ。
「ぬっ?!」
 手に余るではなく手が余った。そっと静花を見る。
「…悪かったな、胸板が薄くて」
 静花はその視線を非力な体に対する抗議だと受け取った。重要なのは乳のデカさではない。胸板の厚さだ。これぞ修羅脳。
 突如ラグナがキリっと表情を改める。
「そうだ、今なら…あそこにいけるのではないかッ?!」
 床を蹴って走り出した。
「どこに行くの?」
「銭湯だ!」
 グイと首根っこを掴まれる。
「それはだめっ」
 鼻先に突きつけられるサフィリーンの人差し指。ポーズは可愛い、だが外見は八坂だ。
「こ、この粉を落としたいからだ! 他意はないぞ!!」
 引き摺られ蔵の中へと消えて行く。


「まぁ他に害がないならいいでしょうけどね」
 机を持ち上げたサイラスは腰に違和感を覚えた。
 此処で無茶をすると戻った時に自分にしわ寄せが来る。
「コニー、悪いが代わって貰っていいか?」
 弟弟子を呼ぶと持ち上げ方などコツを伝える。
「あ、はい! ありがとうございますせんせ…じゃなくてサイラスさん!」

 彼らの師、ヴァレリーは袖を捲くり準備万端だ。
「サイラス…じゃなくてコニー、机を運ぶのを手伝いたまえ」
 腰痛からの解放に声も弾む。
「サイラスさんの代わりにがんばります…っとぉ」
 コニーが突然なにもないところで躓く。彼にはままあることだ。だが今日は一味違う。ダンッと踏み出した足が体を支えた。
「先生!サイラスさん! 今見ましたか!?」
 きらきらした瞳を二人に向ける。
「僕こけませんでした!! こけませんでした!!」
 大事な事なので二度言った。体が動きを覚えているらしい。

「先生、あまり無理をなさらずに…」
 気遣うサイラスの頬には皺が刻まれ、髪も艶を失いつつある。
(「私も年をとったものだ…」)
 だが今は弟子の体である。若さとは素晴らしい。
「ふっ、我らに任せて君は軽作業でもやっていたまえ」
 普段気遣われている分、得意気に告げたのだが、肝心の机を持ち上げられない。
「ぬう、重い?!」
「よいしょー! わっ! すごい! 机が軽い…!」
 ヴァレリーが持ち上げられない机をコニーはあっさりと持ち上げた。
「コニー! もっと体を鍛えたまえ!」
 思わずコニーに叱責を飛ばす。
 師の分も机を運ぶコニーがふと呟いた。
「流石騎士…いいな…」
 騎士に憧れていた幼い自分。
(「…僕もこれぐらい力があったら騎士になれたのかな」)

 サイラスは師に言われた通り書物の整理に取り掛かる。
「…並べている本の背表紙が逆さまだ」
 師の言葉に書架に並ぶ背表紙を確認した。だが眉間に皺を寄せ体を前後させても焦点が合わない。
「目が霞むな…。これが…老眼?」
「最近眼鏡の度が合わなくてな」
 身体の持ち主がすかさず訂正。
「先生、合ってない眼鏡をいつまでも使っていないでくださいよ。戦闘依頼で何かあったらどうするんですか」
 溜息混じりに本の背表紙を指で触れる。触った感じで上下がわからないかと思ったのだが無理だった。
(「先生も歳を取ったものだな…」)
 目頭を揉み解す。自分も間もなく三十に届こうというのだから当然か。
「いつまでも一緒にいられるわけではないけれど…」
 先生を労わないと、と口元に笑みを浮かべる。
「まぁ、甘やかしすぎない…」
「あ…」
 書物を運んでいたヴァレリーが何も無いところでいきなり滑った。
「ちょ!危ない!」
 咄嗟に支えようとするが身体が思うように動かない。逆にヴァレリーに掴まれ、二人まとめて転ぶ。
「な、何故平坦な所で転んでしまうのだ」
 ドジッ子も体が覚えているようである。
「先生、身体が若いからって普段やらないような事するからそういう事になるんですよ…っ」
 サイラスの腰に走る痛み。
「コニー、サイラスを背負って休めるところに連れて行ってやりたまえ」
 自分の体に何が起きたか把握したヴァレリーがコニーに指示を出す。
「よもや…」
 自分が師匠を背負える日がくるとは思わなかった、とサイラスを背負ったコニーが感動で体を震わせる。
「もっと体を鍛えて…サイラスさんの体でなくても先生をお助けできるようになりますっ」
 コニーは誓うのであった。

 予期せぬ失敗、恥ずかしさと申し訳無さにヴァレリーは額を押さえる。
(「君はいつもこんな気持ちだったのだな…」)
 ごつごつとした掌のマメ。
 失敗を繰り返す彼は、だが諦めず努力を重ねる。マメはその証だ。
「…そうだな」
 叱るばかりが師ではない。彼の長所を伸ばす師であろう…とマメだらけの掌に告げた。

「…っと」
 跨いだ箱に爪先を引っ掛けつんのめる。借り物の身体に傷を付けるわけには行かないと、柱に手をつき持ちこたえた。
 持ち上げようとした葛篭も重く全身に力を込めても太刀打ちできない。
 大きさの異なる体は勝手が違い過ぎた。
「持ってあげるね」
 横から葛篭を持ち上げたサフィリーンは嬉しそうだ。自分の顔の筋肉がああも動くとは。
 葛篭を軽がる運ぶサフィリーンは「凄いなぁ、凄いなぁ」と感嘆の声を上げくるりと一回転。
 周囲は自分より背の高い者ばかり。忘れていた世界。
(「少し、新鮮だな」)
 子供の落書きをみつけた。
「お兄さん、ちょっといい?」
 サフィリーンがハタキを振る。
「あのね、お兄さんみたいな大きな人にやって貰ってみたかったの」
 と、肩に担ぎ上げられた。
「やる方になっちゃったけど」
 笑み混じりの声。二人力を合わせ、天井の埃を払う。
 慣れてみると彼女の身体は身軽で中々に動きやすかった。

「重たい…つか苦しぃ…」
 ジャミールはげっそりと肩を落とす。この体、身長こそ大差ないものの筋肉量が違う上に、鎧まで着用している。
 一歩も動きたくない、そんな気分だがそうもいかない。
「重たいものダメ、絶対」
 何かというと見るからに重たそうなものに手を伸ばす静花を止める必要があったのだ。
「まじ俺の身体怪我したら弁情させるからね、まじで…」
 六郎に向ける顔は本気だ。そして静花にも念を押す。
「踊り子的に体に傷は絶対NGなんだからね、大事に扱ってよー?」
 頷くそばから釘が飛び出た木箱に向いた。
「まじで…やめて…っ!」
 静花が勝手に動けないように手を繋ぐ。簡単に外れないように指を絡めての恋人繋ぎだ。
 「掃除は?」と静花。
「いや、あまりのことにそんな余裕ないな」
 ホント残念、でも仕方ないともう一方の手を顔の前でひらひら。
「私の手を男が…」
 ラグナが悲しそうな顔で二人をみていた。女の子に悲しい顔をさせたくないが、中身が男ならば問題ない。
「俺、マジイケメン」
 自分の体が傷付かない事が一番重要なのである。


 夕暮れ、薬の効果が切れた。
「若さというのは有り難いものだろう?」
 腰を痛めたヴァレリーをサイラスが背負う。
「ほら、先生今から眼鏡店行きますよ。コニー、お前もだ。矯正器具は普段からの手入れが大事なハズだからな」
「はーぃ…っ!」
 何も無いところでコニーが転ぶ。
「眼鏡の手入れが終わったら偶には皆で茶店でもよっていこう」
 ふわりとした笑顔にコニーとヴァレリーが顔を見合わせた。

「うさみたんよ…私は帰ってきた」
 ラグナはうさみたんを抱きしめる。
「それにしても…」
 小さいがおっぱいを触ってしまった…と手を見て思い出す男と手を繋ぐ自分の姿。
「…いずれは彼女と……」
 うさみたんの手を握る。

 鏡を覗き込み自分の体に傷がないか確認中のジャミール。
 もしもの場合に備え六郎を逃がさないように手はしっかりとしっかりと帯の端を握っていた。

 武の道に必要なのは地道な努力だ、と静花は夕日に向かって拳を握る。
「30LVに、私はなる!」
 ぼっちのカンストとどちらが先か。

「わっ」
 サフィリーンの体が宙に浮く。
「乗ってみたかったのだろう」
 八坂が彼女を肩に乗せた。
「ありがとうっ。わぁ…空が近い」
 茜色に染まった空に差し伸べる手。
「お兄さんはきっと大きな木なんだね。 皆が安心してお休みできるの」
 巣に戻る途中の小鳥達が八坂の肩や頭に止まって一休み。
「驚いたけど、素敵な体験したのかも、ね」
 サフィリーンの言葉に八坂が頷いた。