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■開拓者活動絵巻 |
■オープニング本文 ● 今年も残すところあと一ヶ月となった。年末年始の準備に向け街の雰囲気もなんとなく慌しくなっている。 神楽の都にある開拓者向けの下宿所、『なずな荘』でも年始を迎えるため大掃除という名の合戦が幕を開けようとしていた。 なずな荘とは女将ひさぎが開拓者である夫が亡くなった後、駆け出しの開拓者を支援したいと古い宿を買い取り始めた下宿所である。 二階建ての木造住宅で、入ってすぐ土間から上がった板の間が皆で食事などを摂る共有空間、厨房へと続く廊下に開拓者用の部屋二部屋、行燈部屋、布団部屋、女将の私室、風呂があり、二階は廊下を挟んで四つずつ部屋が並ぶ。建物の裏手には井戸と物干しもあり、洗濯もできる。 賃料は安く三食付、女将のひさぎはなずな荘の隣で定食屋も営んでおり料理は中々の腕前だ。多少建物は古いが開拓者ギルドからも近く、隣の部屋との敷居は襖一枚ということを気にしなければ住み心地は上々といって良い。そのため住み着いてしまっている開拓者もいる。 なずな荘では一年の埃を払う大掃除は毎年、住人皆でやるというのが慣例であった。この日ばかりは朝寝は禁止。勿論開拓者としての仕事が入っている場合は別であるのだが。 「さあ、皆さん準備を始めてください」 腹は減っては戦はできぬ。朝食終了後、ひさぎが皆に襷と割烹着、それに頭に巻く手拭を配る。これが今日の装備であった。例えどんないかつい男や洒落者でも大掃除には割烹着、それが決まりだ。割烹着は全て皆の体型に合わせたひさぎの手縫いである。 武器の箒にハタキに雑巾…それらも既に土間に用意されていた。 「今年もきっと煤玉と綿毛玉が現れることと思います」 煤玉と綿毛玉、こいつらは大掃除の時期になるとどこからともなく現れ掃除の邪魔をしていくアヤカシである。大きさは共に人差し指の頭ほどから拳大といったところ。 煤玉は名前の通り煤の塊のようなアヤカシで主に風呂場や厨房など火を使うところに出る。時折、天井や梁にも張り付いていることもある。綿毛玉は綿埃のようなアヤカシであり、下宿所のあらゆるところ、特に掃除が行き届いていない部屋などで大量に見かける。 両方、様々なアヤカシを相手にしている開拓者にとって大した脅威ではない。ハタキで払ったり、箒で掃けばあっという間に消えてなくなってしまう。 だが舐めてかかると痛い目を見るのが世の常だ。いきなり破裂した煤玉による目潰し攻撃、さらには顔や着物を真っ黒に汚してくれることもある。綿毛玉も気管にするりと入り込みクシャミや咳や涙などを容赦なく引き起こす。鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔はちょっとした惨事だ。 中には景気良くボンッ!っと爆発するのもいる。去年それで髪がちりちりに丸まってしまった犠牲者が出た。美しくセットした髪がまるで絵本に出てくる雷様のようになってしまったのだ。美形だっただけにそれはもう悲惨な姿であった。 「格好つけてほっかむりは嫌だとか我儘は言ってはいけませんよ。あとでお洗濯が大変です」 まるで子供に言い聞かせるような言い方だ。そのためかひさぎは開拓者には「女将さん」のほかに「おっかさん」だの「お袋さん」だの呼ばれている。しかし実際はまだ30代前半の泣き黒子が色っぽい美人であった。 「掃除道具は全て土間に用意してありますので、分担を決めたら各自持って行って下さいね」 割烹着を装着した開拓者を見渡しひさぎが満足そうに頷く。 「では今年も大掃除よろしくお願い致します」 ひさぎのお辞儀とともに大掃除が開始された。 |
■参加者一覧
紗々良(ia5542)
15歳・女・弓
ラヴィ・ダリエ(ia9738)
15歳・女・巫
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
ラシェル(ic0695)
15歳・男・魔
リーズ(ic0959)
15歳・女・ジ
小苺(ic1287)
14歳・女・泰
レイブン(ic1361)
20歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ● 「えいえいおー!」 大掃除開戦にレティシア(ib4475)が拳を突き上げた。冒険でぼろぼろになった服に割烹着、纏めた金色の髪にはほっかむり。右手にハタキ、左手に雑巾、そして顔にはゴーグル。 「お世話になった一年の感謝をこめて今日の私はお掃除ましーんになることを誓います」 という服装であった。 「…光と闇の戦い私達は負けません」 ハタキをくるりと回す。レティシアのテンションは高い。昨夜、大掃除が楽しみすぎて遠足前の子供のように眠れなかったほどである。 「ボクもなずな荘の住人だもんねっ。しっかりお掃除しちゃおう!」 リーズ(ic0959)も気合十分だ。首にゴーグルもかけて装備は完璧…なのだが、ほっかむりを引っ張った。耳を押さえられているようで落ち着かない。 「ん〜…、ちょっと耳が変な感じかなー?」 位置を微妙に調整。 「ラシェル、これおかしく……あれ、どうしたの?」 友人のラシェル(ic0695)がほっかむりと割烹着を手に首を傾げている。 「…これ、どうやって着るんだ?」 「ボクが手伝ってあげるっ」 任せて、と割烹着を手に取った。 割烹着姿となったラシェルにリーズが嬉しそうに笑う。 「えへへ−、皆お揃いの格好だねーっ。今日はラシェルが手伝いに来てくれて嬉しいなーっ」 「以前世話になった場所だ。そのお礼にな…。それに……」 ふいっとリーズから視線を外す。 「今は…」 うるさい奴も世話になっているみたいだしな、と呟いた。リーズにその言葉は届いたのだろうか。 「ラヴィさんの旦那様がこちらの食堂に…。私もいつも美味しいご飯を食べさせてもらっている、から。今日は、お礼代わりに」 埃対策に口元を手拭で覆った紗々良(ia5542)は借りたハエ叩きで素振りを繰り返す。これでアヤカシを落とすのだ。 「はい、お礼を兼ねてお掃除の手伝いに参りました」 にこやかに頷くラヴィ(ia9738)。夫が世話になった先への年末の挨拶回り、妻の鏡である。手にした白いハタキはジルベリアの御伽噺に登場する家事手伝いの小人の力が宿るというもの。これを使うととても掃除がはかどる『気』がするらしい。 「えぐえぐ…シャオは掃除が嫌いにゃ…」 日当たりの良い場所で小苺(ic1287)が転がっていた。彼女の相棒である猫又焔雲が「日頃の恩に報いろ」と背の上でしきにり足踏みをしている。 「わかったにゃー。請けた以上はきちんとやる…」 「つもり」と心の中で追加。心の声が聞こえたのか床に下りた焔雲の視線が厳しい。 「約束は守るにゃ」 小苺はこくこくと頷いた。 「女将さんには日頃からお世話になっているだけでなく、此処は自分達の家でもあるからね」 箒やハタキの最終確認中のレイブン(ic1361)。アヤカシと対峙することを考え、昨夜のうちに付け根や持ち手など補強をしておく用意周到さ。毎日お世話になる掃除道具は大切に使いたいのだ。 「ところで…」 皆の視線の先には赤い紐で髪を結い上げた背の高い男。 「あー…いや、その…」 玖雀(ib6816)は苦笑いを浮かべ頭を掻く。 「掃除片付け料理洗濯はもう趣味みたいなもんでさ…」 開拓者ギルドへ向かう道、通りかかる下宿所で大掃除があると聞いていてもたってもいられなくなり参加した、と説明する。 持参した掃除用具は握る箇所が変色した程よく使いこまれた箒、磨かれた鎌に割烹着。ただ割烹着だけは新しい。昨年、友人から誕生日に贈られたもので、その気持ちを無下に出来ず不本意ながら年に一度の着用中であった。 「早いとこ掃除を始めるか」 玖雀を良く知る者がこの場にいたのであれば彼の声がどことなく弾んでいることに気付いたかもしれない。 ● 「綺麗にしても、煤だらけの埃だらけでまた汚れてしまうにゃ」 部屋の隅に転がる綿毛玉を小苺がハタキでつつく。 「まずはお部屋を汚しちゃうアヤカシさんにご退場頂きましょう」 ラヴィの瘴索結界で下宿所内のアヤカシの位置を把握する。アヤカシが多いのは厨房だ。 「一箇所にまとめて退治するのが一番だと思うけど…。厨房はねぇ」 細々したものが多いから、とレイブン。食器が割れても大変だ。 「空き部屋はどうだ?」 ラシェルがレイブンの部屋の向かいが空いていた、と提案する。 「ならば、私が荷物どけて準備をしてくる、から」 紗々良が向かった。 「あたい達はアヤカシを追い立てるとしようかねぇ」 見事な肢体を割烹着で包み、結い上げた髪をほっかむりの中にしまい、更にゴーグルとマスクを装着したレイブンがハタキを振り上げた。 「こういう時、歌うと出てくるって物語でよみました」 愛らしい笑顔を浮かべたラヴィはすぅと息を吸い込み、口の両脇に手を広げる。 「まっくろくろくろ はいまみれ でていかないなら めだまをほじくるぞ」 可愛い声で紡がれる物騒な言葉。ざわりと梁や竈に溜まっている煤が蠢いた。 ラヴィ、ラシェルは布団部屋のアヤカシを追い出すために運び出した布団を干している。布団叩きが小気味よい音を立てるたびに埃が舞う。 「ラシェル様、右斜め上に一匹、それと左手近くに集団がいます」 埃に混じり飛ぶ綿毛玉をラヴィの指示に従いラシェルが払っていく。 何も残っていない布団部屋ではリーズがアヤカシの追い出しにかかる。 「でていかないなら おいだすぞーっ」 上機嫌にはためくハタキにあわせ小さな尻尾も揺れる。 弦を弾く音が空気を震わせる、それが次第にアヤカシを集めた部屋に近づいてきた。 部屋に転がり込んだ煤玉に遅れ、弓を手にした紗々良が姿をみせた。 「これで最後、だよ」 「ゴーグルも付けて煤も埃もどんとこいだよっ!」 リーズが鼻歌混じりにハタキを振るい綿毛玉を消していく。逃げた一匹をラシェルのハタキが払う。 「…綺麗にしたところに入られても迷惑だからな」 ラシェルとリーズは背中合わせに立ち互いに死角をカバーしアヤカシを退治していく。 「そこ、今度はこっち…」 フォア、バック、スマッシュ…紗々良は華麗なる蝿たたき捌きでアヤカシを消し去った。 高い場所のアヤカシを退治していくのは玖雀とレイブン。同時に掃除も行う手際の良さ。二人に掛かればアヤカシも単なる汚れであった。 「目潰しは痛いにゃっ」 声を上げ目を抑え転がる小苺。 傍には鞠ように大きな綿毛玉。どうやらゴーグルを外し転がる綿毛玉で遊ぼうとして目潰しを喰らってしまったようだ。 「大丈夫? 目を洗いにいこうか」 レイブンが小苺を抱き起こす。幼い弟妹達がいる彼女はなずな荘でもお姉さんであった。 「小苺さんの仇ですっ」 レティシアはハタキを構え素早く一歩踏み込んだ。繰り出した鋭い一撃がアヤカシを粉砕。そのまま踏み出した足を軸に華麗に一回転、背後の煤玉をも消し去った。しかしそんな彼女めがけ、梁から特大の煤玉が落ちてくる。小刻みに体を震わせる煤玉。それは爆発の前兆―であるということをレティシア達は既に先人達の尊い犠牲から学んでいた。 「自分は一人じゃない」 先人の教訓があり、一緒に戦う仲間もいる。言うが早いか玖雀と入れ替わり、爆発の威力を削ぐための歌声を放つ。 前線に出た玖雀はに次々と畳を跳ね上げ煤玉を囲む。畳の壁の中、煤玉がポンっと音を立てて弾けとんだ。 破裂音に驚いて逃げ惑うアヤカシ達。 「逃がしやしねぇよ」 玖雀が投網の要領で闘布を放ち絡め取る。 「あら、あら…後で畳も干しましょうね」 ラヴィが覗きこんだ畳裏は煤で真っ黒であった。 ● 「そういえば天儀のお掃除の仕方ってコツとかあるのかな?」 リーズがはい、と手を上げる。 「上から順番に、が鉄則なのです。高いところは背の高い方にお任せしましょうね」 答えたラヴィに頷くのは玖雀だ。 「高所の掃除や重たい物を運ぶ時は俺を呼べよ」 皆、開拓者であることは承知だがつい心配になってしまう。玖雀からみればまだ子供といった年齢の少年、少女ばかりなのだ。心配するなという方が無理である。 「綺麗で清々しい住処で、新しい年を迎えるためにもしっかり掃除をしないとね」 レイブンは固く絞った雑巾と水の入った桶を皆に配る。掃除後捨てられるようにぼろ布を使用だ。 「じゃあ、厠と風呂場から始めるわ」 割烹着の紐を締め直す玖雀をレイブンが遮る。 「それはあたいが…」 住人ではない人物にそこまでやらせるわけにはいかないということだ。 「あー…水場は寒いし手も荒れる、服も汚れやすいだろ?」 それでもと言うレイブンに…。 「いいよ、俺がさくっとやってくるわ」 反論は聞かないぞとばかりに背中越しに手をひらりと振り奥へと向かった。 階段の雑巾掛けを終わらせた紗々良の割烹着が引っ張られる。 「競争しようにゃ?」 小苺が一階の厨房へと続く廊下を指差す。 「雑巾掛け競争?」 「にゃ。こっから奥まで行って戻ってくるにゃ」 よーい、と構える姿に重なる幼い頃の自分。 (「昔は、兄さまと、雑巾掛けで、競争して…」) 「紗々良さんを困らせてはだめよ」 厨房からレイブンの声が聞こえてくる。 「困らせてないにゃ」 二人のやり取りに思わず笑みが漏れた。 (「母さまに、怒られたっけ」) 「うん、わかった、競争、しよう」 紗々良が小苺の隣に並ぶ。 「相変わらず此処は賑やかだ、な」 空き部屋を掃除していたラシェルは廊下を走り抜けていく二人を見送る。 板の間並べられている取り外された障子。 今から始まるという障子の張替えに興味を惹かれ見ていれば、拳で障子を突き破るラヴィの姿が。 「楽しそう。ボクもやっていいかなっ?」 リーズも加わり、あっという間に障子は穴だらけだ。 「汚れ、殲滅」 雑巾片手に腰に手を当てての決めポーズ。磨かれた厨房の床にレティシアは満足そうに微笑む。 一緒に厨房を掃除していたレイブンは使った雑巾の回収と桶の水の入れ替えへと回っている。動きに無駄がない。 「お風呂の掃除は…っ」 玖雀が担当する厠にやってきたレイブンが言葉を飲む。鉋をかけたように一皮向けた眩さを誇る厠。玖雀の傍らには掃除に使った竈の灰で作った灰汁。瓦版で人気の主婦の知恵袋顔負けである。 「…すごい」 板の継ぎ目に詰っていた砂埃まで取除く徹底した細やかさ。 「綺麗になれば気持ちがいーじゃねぇか」 玖雀は当たり前のように答えると、今度は鎌を手に井戸周りの雑草を片付け始める。 予想通り風呂も眩い。 風呂を沸かしに来たレイブンはしばし風呂を見つめていた。 ● 武具の隣に鮮やかな織物の覆いが被さった鏡台。鏡台の上に並べられた櫛や簪。繕い途中の外套と可愛らしい裁縫道具。無骨な物と年頃の娘らしい物が一緒に存在する部屋。それは娘としての顔と戦士としての顔を持つレイブンそのままの部屋である。 そして大掃除の必要がないほどに整理整頓されているというところも彼女らしかった。 「…?」 天井を見上げる。上から聞こえてくるドンドンという音。上はレティシアの部屋だ。 「そういえば…」 彼女が高い所に手が届かないと跳ねていたことを思いだした。レイブンは二階へと上がっていく。 ジルベリア製のインク壷と羽ペン、押し花を漉き込んだ和紙を使った行燈。ジルベリア、天儀の文化が混じったレティシアの部屋。 レイブンに手伝ってもらいレティシアは掃除を終える。尤も現実逃避のたびに模様替えをするのでそれほど汚れてはいなかった。 「押入れの中もやる?」 「大丈夫ですっ」 レティシアは慌てて押入れを背に庇った。 「えっと、そうやったばかりなのです、はい」 そこは誰も知らない、知られちゃいけない乙女の秘密の場所なのだ。 「これはいるのか? こっちは? …ってちょっと待て」 袋片手に物の仕分けをしていたラシェルが重ねた本や箱を右から左に移動させようとしたリーズを止める。二人はリーズの部屋の片づけ中だ。 「移動してるだけじゃ掃除にならねぇだろ」 リーズの部屋は掃除されているが物が多い。微妙な表情の張子の虎だとか金魚の風鈴だとか天儀の珍しい物や書物が溢れ返っていた。 「…あんた、いらねぇものは捨てろよな」 文机の上も物だらけじゃないか、とラシェルの手が山の一番上に乗っかっている本にぶつかる。崩れ落ちた本からはらりと栞が落ちた。 「…これは」 蓮華草の押し花が貼られた栞、ラシェルがリーズに贈ったものだ。 「どうしたのっ?」 本を積む順番を変えていたリーズが声をかけてくる。 「……っなんでもねぇよ。だから積む順番変えんのも掃除じゃねぇって」 ラシェルは慌てて栞を本の間に挟んで文机の上に戻した。 ● 井戸端に賑やかな声が響く。 「わぅ、煤とか埃でゴーグルの周りだけ凄いことになっちゃってるなぁ」 汲み上げた水に映る自分の顔にリーズは驚きの声を上げた。 「お疲れさま、でした」 紗々良は割烹着を脱いで汚れを落とす。 「何かいい匂いがするにゃ?」 同じく汚れた手足や顔を洗っていた小苺が鼻を鳴らす。 厨房から漂うふわりと甘い香り。 「二人ともお風呂が沸いたよ、入っておいで」 レイブンが二人を呼びに来る。 厨房では掃除を終え着替えた玖雀が汁粉作りに精を出している最中であった。 厨房の使用許可は女将のひさぎに得ている。たっぷりの水で煮た小豆を手拭に取り、水気を取って砂糖と混ぜて…。そう旅のお供携帯汁粉ではなく本格的な汁粉だ。 鍋から上がる柔らかい湯気に綻ぶ口元。機嫌よく揺れるお玉はもふら様お墨付きの美味しい料理を作ることができると噂の逸品。割烹着、箒などだけではなくお玉、包丁、鍋蓋も自前だった。寧ろその三つは玖雀にとっての三種の神器と言ってもいい。 「美味しそうです」 可愛らしい包みを手にしたラヴィが玖雀の手元を覗き込む。 「疲れた時には甘味っていうだろ?」 「そう思いましてラヴィもお菓子を焼いてまいりました」 皿に人形や星型のクッキーを並べる。 「そうだ、ラヴィ、悪ぃが後でお茶を淹れてくれねぇか」 玖雀の申し出にラヴィは笑顔で頷いた。 「ボクも一緒に作っていいかなっ?」 リーズがやって来る。 「前に依頼で教えてもらったきんぴらを作ろうかなって」 下ごしらえをしているリーズの手元は少々危なっかしい。 「ラシェルに食べて貰いたかったんだよね」 はらはら見守っていた玖雀は手伝いを申し出ようとして止めた。彼女は自分で作ったものを食べて貰いたいはずだ。 「美味しいって言ってもらえると良いなぁ」 真剣な表情で調味料を量るリーズ。 「美味しく食べて貰いたいって気持ちがあれば大丈夫です」 ラヴィが太鼓判を押した。 くしゅん、小さなクシャミが響く。既に割烹着やらを脱いだラシェルは掃除の途中みつけた本を読んでいるところであった。 「…風邪でも引いたか?」 間もなく小苺がひさぎを連れて来て、「お茶にしましょう」と厨房からラヴィ達が現れる。 「働いた、後のお茶は…格別、ね」 満足そうな紗々良。 「また来年もよろしくお願いします」 大掃除はそう締めくくられた。 |