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■オープニング本文 ポツ……ポツ……地面に黒い染みができたかと思えばあっという間に雨が降ってきた。 井戸端で遊んでいた子供達が声を上げて近くの家の軒下へと駆け込んでいく。 「最近雨が多いねぇ」 お下げを結った少女、水穂が空を見上げた。 「これからもっともっと雨の日が多くなるんだろうなぁ」 うんざりだと大人顔負けの溜息を吐いたのは坊主頭の隼人だ。そろそろ梅雨の季節になるのだろうここのところ雨が続いており母も「洗濯物が乾かないから汚してくるな」なんて文句を言っていたのを思い出し憂鬱な気分になってきた。 「外で遊べなくなるね」 屋根から落ちてくる雫を掌で受け止めていた陸生が更に気持ちが塞ぎそうなことを言い始める。 「そういえばさ、絹江おねえちゃんの花嫁衣裳見た?」 一同に漂った湿っぽい雰囲気を払拭するために花房が話題を変える。絹江は子供好きで仕事が無い日は遊んでくれたり、喧嘩をすれば仲裁しててくれたり、泣いている子がいれば慰めてくれたりこの界隈の子供達のお姉さんのような存在であった。その絹江が近々同じ村ではあるが少しはなれた所に住んでいる男の元へ嫁ぐことになっている。 子供達にとって絹江が嫁に行ってしまうのは寂しくもあったが、精一杯祝いたいという気持ちも勿論ある。だから今皆で、嫁入り行列の出発の際にまかれる紙ふぶきの準備や花嫁がもつ玖珠玉造りを手伝ったりしてるのだ。 「え?まだ見てないよ」 まず話しに乗ってきたのは水穂だ。水穂の隣に座っていた妹の千佳も興味津々という目をむける。やはり女の子、そういった綺麗な衣装などが大好きである。 「真っ白でね、とても綺麗だったのよ。今度見せてもらいに行きましょう」 「真っ白なのか?うわぁ…汚したら母ちゃんに怒られそうだな」 隼人の情緒のない言葉に少女達の非難の目が向けられる。 「なんだよ、だってそうだろう?白い服なんて汚れが目立つって母ちゃんが言っていたぜ」 「そうだよなぁ。汚れたら大変だよな」 今まで黙り込んでいた雄太が顔を上げる。みなの中では一番頭が良く大人びた少年であった。 「花嫁さんがそんな汚すようなことするはずないでしょう」 心配ご無用と笑う花房に雄太が空を指差した。 「雨だよ。雨が降ったら道はぬかるむだろう。どんなにゆっくり歩いてもドロが跳ねるじゃないか。そしたら折角の花嫁衣裳も台無しだ」 花嫁は嫁ぎ先まで嫁入り行列をするのがこの村の慣わしだ。その日に雨が降ったら……。折角の大好きな姉の結婚式が台無しになってしまう。 「そうだ!!」 隼人が叫んだ。驚く一同を見渡して得意そうに胸を張る。 「てるてる坊主を沢山作ろう。そうすればきっと晴れる」 その提案に子供達は頷いた。絹江を喜ばせるために自分達ができることをやろうと。 うちに余り布があったとか、話はとんとん拍子に進んで行く。そんな中千佳が手をあげた。 「どうせならば村で一番高いところにてるてる坊主を飾ろう。そうしたらきっとお天道様にも良く見えるよ」 確かにそれはとても名案に思えたのだが。 「村で一番高いところといえば広場の一本松だろう?いくら隼人が木登り得意でも上れないよ」 雄太が頸を振る。広場にある一本松は村のシンボルにもなっている木で、近くに立つと反り返って見上げないと上が見えないほどである。村の建造物で一番高い火の見櫓の2倍はゆうにあろうかという高さ。どっしりとした木で倒れる心配はなさそうだが、大人ですら上ろうとはしないのだ。 「そういえば村に開拓者さんが来ていなかった?開拓者さんならきっと一本松にも登れないかしら?」 しょげた千佳を見て花房が助け舟を出した。 「開拓者さんの報酬は?」 「千佳のお小遣い全部渡すよ」 千佳の言葉に皆頷く。子供の小遣いなんてたかが知れていると雄太は思うのだが、ほかならぬ絹江のためだ。 「そうだね僕達のお小遣い全部集めてお願いしてみようか」 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
燕 一華(ib0718)
16歳・男・志
薔薇冠(ib0828)
24歳・女・弓
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志
ジャミール・ライル(ic0451)
24歳・男・ジ
ハティーア(ic0590)
14歳・男・ジ
篠目つぼみ(ic0839)
16歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 玄間 北斗(ib0342)と篠目つぼみ(ic0839)は子供と連れ立って花を摘みに行くところである。 「おいら達もしっかりお手伝いするから、お姉ちゃんが喜ぶように一緒に頑張ろうなのだぁ〜」 玄間の口調はちょっとのんびりとしている。その言葉に隼人が「おー」と片手を挙げ、篠目に手を引かれていた千佳もその真似をした。 「花嫁様の行列きっと素敵でしょうね。ぜひ拝見したいです」 子供達の様子に目を細めていた篠目に不意に振り返った隼人が「シッ」と人差し指を口の前に立てる。 少し先に桑を詰め込んだ籠を背負った絹江の姿。桑畑から帰ってきたところか。 「隼人、千佳、どこにいくの」 すかさず隼人が玄間の背に回りぐっと押し出す。 「たぬきの兄ちゃん達に秘密の場所を案内してくる」 「なのだぁ〜」 嫁入りの準備を手伝っている事を内緒にしてるらしい子供達に合わせて玄間が頷く。 「そう、あまり危ない所に行ったらだめよ。お二人ともどうかこの子達をよろしくお願いします」 絹江は子供達が手伝ってくれているどころか小遣い握り締めて開拓者達にお願いをしたことも知ってはいるが、それは表に出さず深々と玄間と篠目に頭を下げた。 村の端まで来ると玄間は子供達と別れる。彼はこのまま村を出て子供達が行く事ができない場所に花を採取しにいくのだ。 「二人とも篠目さんの言う事を聞いて無理をするのではないのだ。おいらもちゃあんと花を持ってくるからなぁ」 腰に括りつけた花篭をポンと叩く。花の自生地については予め大人達から情報を入手済だ。花篭の中には水に湿らせた綿と布も用意し、採取道具はすぐに取り出せる場所に入れている。準備万端であった。 そして子供達が篠目と一緒に野原に下りていくのを見送ってから湿地目指し駆け出す。 野原は雑草が伸び盛りで背の低い千佳は埋もれてしまう。子供達の様子に気を配りながら篠目は一緒に花を探してやる。 「お二人ともあそこに生えてますよ」 きっと大好きなお姉ちゃんのために自分達で摘みたいだろうと篠目は手伝いに徹した。少し行けば子供達が立ち入りを禁止されている雑木林もある、だから周囲に気を配る事もわすれない。 高いところに花をみつけた。子供が背伸びしても届かないのをみて、ひょいと抱き上げる。おっとりとしたお嬢さんにみえるがやはり開拓者。それなりに力はある。 「支えますから、ぐっと手を伸ばして……。そう、もうちょっとです」 子供達を応援しながら花を沢山摘んでいく。夕暮れ前には花篭一杯に花を集めることが出来た。 ● 農具や養蚕の道具をしまっている倉庫で、てるてる坊主と紙ふぶき作りは行われている。 「こうやって広げた布の中央に詰め物を入れてですね、くるっと包み込んで」 燕 一華(ib0718)が器用にてるてる坊主を作っていく。その手元を覗き込んでいるのはハティーア(ic0590)だ。異国出身の彼は天儀の文化にはまだ疎く興味深そうにてるてる坊主を見ている。この二人は以前、仕事を一緒にしたことがあり顔見知りらしい。 「ちょん、ちょんとお顔を描いて、完成ですっ」 出来上がったてるてる坊主をハティーアに向けた。 「これは、おまじないみたいなものなのかな?」 「そうですっ。晴れを祈るために。あ、詰め物にはこれを使いましょう。木陽から毛を分けてきてもらいました。精霊さんの毛ですから必ず晴れにしてくれますよっ」 木陽とは燕のパートナーのもふらである。 「本当?!」 精霊の毛の話に反応したのは花房だ。花房は「可愛い女の子から教わりたい」と言ったジャミール・ライル(ic0451)にてるてる坊主の作り方を教えていたところ。 「はいっ、ボクの笠につけているてるてる坊主にも詰めていますから、ご利益は保証します」 どうぞ、と集めたもふらの毛を差し出した。 「ねぇ、ねぇ、同じ布ばかりじゃつまらなくない?色々バリエ欲しいよねー」 まだ二つも作っていないというのにジャミールが何か言い出した。そうして自分の荷物から亜麻のヴェールを取り出すと徐に切り裂く。 「これも使おうよー。綺麗じゃない?」 「ならお顔も皆さんの似顔絵みたいにしてみましょうか」 燕も提案する。子供達の似顔絵の描かれたてるてる坊主、少し離れた場所に嫁にいってしまう姉を見守る御守り代わりにもなるかもしれない。 「似顔絵てるてるには首に小さな鈴を付けてあげるのも可愛いかもしれませんねっ」 それにしても……と喪越(ia1670)がずらっと並べられたてるてる坊主達を見る。 「大量のてるてる坊主が軒下に並んでるっつーのも、なかなか面白そうな光景だねぇ」 「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が……」 香具師達が使う口上を真似しつつ短刀で巧みに紙ふぶきを作っていくのは佐藤 仁八(ic0168)。その鮮やかな手捌きに陸生と雄太は尊敬の眼差しを向ける。そんな子供達に顔をむけてニヤリと笑う。 「おめえ達ぁ偉え。危ねえことを手前達だけで無理してやらねえのが偉え。これからも、こういうろくでもねえ大人ってのぁこき使わなくちゃあいけねえよ」 軽口を叩いてる間にも紙ふぶきは順調にできあがっていく。 「ただいま帰ったのだぁ〜」 花摘みから戻ってきた玄間達にハティーアが声を掛ける。 「ほんとの花びらを撒いたらキレイかもしれないね、と思ったのだけど使えそうなのある?」 「丁度良かったです。花びらを頂いてきたので紙ふぶきに混ぜて使って貰えれば嬉しいです」 篠目が花篭を差し出した。花は玖珠玉を作っている絹江の友人達に渡してきたのだが、落ちてしまった花弁などを貰ってきたのだ。 「ありがとう。色とりどりの吹雪を作れたらいいな……と思って」 楽しそうな様子の子供達に視線を向ける。ハティーア自身、結婚式がいかにめでたいことなのか感情で理解できていなかったが子供達が喜ぶのは良い事だと思っていた。 「じゃぁここらで一つ休憩とくかねぇ」 佐藤の持ってきたお菓子の大盤振る舞いに子供達は目を輝かせる。そんな子供達の肩を全員まとめて佐藤は抱きかかえた。 「お天道様のご機嫌にゃ、てるてる坊主でも必ず通じるとぁ限らねえ。だがよ、おめえ達の気持ちぁ姉ちゃんに必ず通じるとぁ思わねえかい」 わかるかい?と順繰りに子供達の目を見る。 「そこで、だ」 何やら声を潜めて相談事。全員が真剣な面持ちで頷いたのに満足そうに笑う。 そこに喪越がやってきて輪に加わる。 「いいか祝いってのは心だ。心の赴くままに溢れ出る気持ち全てを吐き出したほうがお祝いする方もされる方もうれしいんじゃないかねぇ。と、い う わ け で」 どん、と自分の左胸を叩く。そして見守る子供達に向かって……。 「ハイ!お祝いのポーーズ!!」 人差し指を伸ばした手を顔の前にもってきて腰を落とし気味にポーズをつけた。その勢いに飲まれた子供達が菓子を手にしたまま手をあげたり体を傾けたり。 「……うぬぅ。タイミングも首の向きも手の角度もまだまだ甘ぇな。いいか、本番までに間に合わせるんだ。それこそが俺達の矜持!」 戸惑う子供達に親指をぐっと上げる。 「まぁ、あれよ。全員揃って、踊りなり一発芸なりしてやれば姉さんも喜ぶんじゃねぇかってことよ。なぁに、怒られそうになった時には俺の奥義『スパイラル土下座』が炸裂するから大丈夫だ」 『スパイラル』聞きなれない単語に男児達は「よくわからないけど格好良い」と頬を高潮させる。 「要は土下座じゃろう」 てるてる坊主を吊るし終えて戻ってきた薔薇冠(ib0828)の冷静なツッコミが響いた。 ● 夕食後、玄間は絹江を探し村を歩いていた。手には小さな包み。 「絹江さん」 井戸端にその姿をみかけると声をかける。突然声を掛けられた絹江は驚いたが、それが昼間出会った開拓者であるとわかると笑顔を浮かべる。 「子供達がお世話になって……」 またも深々と頭を下げようとする絹江を遮り、玄間が包みを差し出す。 「雨続きで水浴びとかも出来なくて色々と難義していると思うのだ。良かったら花嫁衣装を着る前の身嗜みにでも、使ってなのだ」 包みは薔薇の石鹸である。遠慮する絹江にたまたま持っていたものだし、男の自分には必要ないものだなどと強引に渡す。 宿への帰りがけ、何気なく覗いた大工の工房で薔薇冠の姿を見つけた。 薔薇冠はぬかるんだ道が乾かなかった場合に備え、花嫁が歩く道に敷くすのこのようなものを作ろうとしていた。事情を聞いた村の大工は快く道具と材料と場所を提供してくれたのだが、梅雨を前に急ぎの仕事があり手は貸せないということだ。そんなわけで工房にて作業中である。 「当日は必ずや晴れてくれるものと願うておるが、前日に降る雨は、そうもいきますまいて」 昼間てるてる坊主を吊るしながら道の状態も確認してる。その時に水溜りになりそうなところも埋めなど整備もしてきた。しかしそれでも前日雨がふれば土がぬかるみ、花嫁衣裳が汚れてしまうだろう。 「徹夜になるやものぅ……」 折角子供達が頑張っているのだ、その願い叶えてやりたい、袖を捲くり気合をいれる。そこに玄間がやってきた。 「薔薇冠さん、何をしているのだ?」 玄間は話を聞くと協力を申し出る。 「それなら行列が過ぎたら、そのすのこを進路上に持って行ってを繰り返せば少ない枚数で済むと思うのだ」 もちろんすのこを運ぶのは任せて欲しいとも笑顔で頷く。 「俺も手伝うよー」 ひょこり玄間の背後からジャミールが顔を覗かした。 「力仕事は任せー……てもらっちゃ困るけど。バージンロードでしょ、見た目貧相じゃだめだよねー。よし、俺は模様を描いていこう」 なんて倉庫で塗料を探し始める。 「どうせならさー、子供達にも描いてもらっちゃう?」 「いいや、折角晴れるように願っているのだ。雨が降った時の場合なんて言い出して水をさしたくはないのぅ」 そういうのは大人の仕事じゃ、と片目を瞑った。 「さぁ、皆でよい日を迎えましょうぞ」 ● 嫁入り前日、すのこを始めてとして準備もあらかた終わった。後は巨大てるてる坊主を一本松に吊るすのみだ。 吊るす役目は篠目が引き受けた。 「どんな景色が見えるか楽しみです。それにこれでも、見た目よりは動きやすいのですよ」 言葉通りするすると登っていく。 「ぬっ、ガードが固くていけねぇや。でもこう時折覗くふくらはぎの白さがなんとも……」 喪越が目を細めて篠目を見守っている。 一本松の天辺からは遠くまで続く桑畑の濃い緑、自分が歩いてきた街道が見渡せ、何よりここ数日では珍しい青空が目に眩しい。ただ西の空にちらほら見える雲が気になった。 「花嫁様が通るのはどちらの方向でしょうか?」 てるてる坊主に花嫁の行列が見えるように吊るす。 案の定昼過ぎたころから雲が多くなり、ついには雨が降り出した。倉庫では子供達が並んで窓から空を見上げている。 「雨が降るのはよくないのでしょうかね」 「雨には雨の風情があるもんだがねぇ。ガキンチョにそれを理解しろってのも酷な話か……」 篠目の問い掛けに喪越が答える。 「そうですね」 篠目は雨は龍に通じ、吉兆だと教えられてきた。だからもしも明日雨が降ったならば絹江は天から祝福されて幸せになるということを子供達に話してあげようと思った。 「大丈夫ですよっ。皆さんの気持ちはきっとお天道様に通じますっ」 燕は子供達を慰める。そんな燕と一緒にいたハティーアがカードを取り出して並べ始めた。 「心配なら占ってあげるよ。僕はね占いができるんだ」 そっと幸運の女神の力を借り並べたカードを捲っていく。最後の一枚は……。 「ほら大丈夫」 太陽のカード、それを指に挟んでひらりと翳す。 佐藤は隅で隠れるように作業中だ。体の影からちらほらてるてる坊主が覗いてる。 「これは内緒にしておこうと思ったのじゃが。花嫁が歩く道もちゃんとできておる。だから心配するでないぞぇ」 薔薇冠がすのこの事を子供に教えてやる。 子供達の表情もだいぶ晴れやかになってくる。 「じゃ、今日だけ特別よーってことで俺が晴れ乞いの踊りでも踊っちゃおうかなー」 ジャミールがとんと床を蹴って立ち上がる。 手にした薄い布、そしてカフィーヤがふわりと宙に舞う。跳ねるたびに装飾品がぶつかりあい鈴のような音が響く。 「ハティーアちゃんも一踊りいかが」 もう一人の踊り子を誘った。 草木も眠る丑三つ時、闇に紛れるように一本松に取り付いた影が一つ。腰に荒縄を巻きつけた佐藤であった。明かり一つなく夜半まで降り続いた雨のせいで木の表面が滑りやすくなっているが、気にかけた様子もなく登っていく。 「あたしがてるてる坊主にならねえようにしねえとな」 背には大量のてるてる坊主を背負っている。子供達にありったけの布を集めさせて作らせたものだ。子供達の気持ちが一杯に詰まったてるてる坊主を一本松の枝に吊るしにいくのだった。 ● 明けて当日、天気は昨日までが嘘のように快晴。大きなてるてる坊主だけではなく枝にすずなりのてるてる坊主に村人が思わず驚き、そして快晴の理由に納得する。 絹江の家ではちょうど花嫁衣裳に身を包み手に玖珠玉を持った絹江が出てきたところであった。子供達と開拓者に気付いてやってくる。 「皆様本当にありがとうございました」 「めでてぇな。俺からもお祝いの言葉を贈らせて貰おうじゃねぇか。リア充爆は……」 「絹江さま、おめでとうございます」 喪越の言葉に篠目が被せる。 「そして、あなた達もありがとう」 絹江が開拓者達の背中に隠れている子供達を手招きした。 「絹江お姉ちゃん」 花房の声を合図に子供達が次々と走り寄ってくる。 「お め で と う」 一人一文字、言いながらポーズをつけていく。そうあれから本当にお祝いのポーズを練習していたのだ。そして最後にハティーアの提案で籠にいれた6人の似顔絵を描いたてるてる坊主を渡す。 「僕達いつでも一緒だっ、から……」 そこで感極まって泣き出した。絹江も子供達を抱きしめて泣き笑いだ。 「美人の笑顔は世界の宝ってな」 「綺麗な花嫁、着飾った女の子たち。やー、眼福だねぇ」 喪越とジャミールには多分男は見えていない。 「道の準備もできたぞぇ」 薔薇冠が声をかける。やはり前日の雨のせいで道はぬかるんでおりすのこの出番だった。すのこの移動のために位置についた玄間と燕が手を大きく振っている。 紙ふぶきが空に舞う。風に乗って聞こえてくるのは佐藤のヴァイオリンの音色。 青空とたくさんのてるてる坊主に見守られ花嫁行列が出発した。 |