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■オープニング本文 ● 石鏡から武天に抜ける川沿いの街道を佐保は一人歩いていた。地味な色合いの着物に袴。袴は腰で締め、脚絆で裾を纏めている。腰には短刀を一振り。凹凸のあまりない小柄な体型のため少年剣士のように見えるが、実際は年頃の娘であり陰穀国石見家のシノビである。武天在住の上司に頼まれたちょっとしたお遣いの帰りだ。 佐保が肩越しに振り返る。村が見えなくなった辺りから誰かが後をつけて来ていた。当初、襲撃かと思ったのだが何かがおかしい。 気配は五つ、右手の藪に二人、左手の土手に一人、背後の木の陰に一人、前方の地蔵辺りに一人。隠れている場所も人数もわかってしまう程度の尾行なのだ。 わざと気配を気付かせて恐怖を与えようとしているようでもない。 背後で身を隠す場所を移動しようとして何かに躓いたらしい物音がする。 なんともお粗末な尾行であった。 佐保は立ち止まると溜息を吐く。 (「どうしたものか…」) このまま気付かないふりをするか、正体を確かめるか暫し悩み、後者を選択する。 草鞋を結びなおすふりをしてしゃがみこむ。いかにもな隙の作り方だが、多分尾行者にとってはこれくらいが丁度良いのだ。 案の定、叢が鳴ったかと思えば人が飛び出してくる。足元にあった小石を拾うと振り向き様、投げ付けた。 「ぎゃっ」と悲鳴を上げて地面に転がったのは…。 「子供…」 十にも満たない子供だ。短刀にかけた手を止める。 姿を現した五人、全て子供であった。刃の欠けた刀なり木刀のようなものを構えている。 「命が惜しければ金目の物を置いていけ」 一同のまとめ役と思われる年嵩の少年が佐保に告げる。その少年ですら十かそこらであろう。 佐保が黙っていると更に「痛い目をみたいのか」と刀を振りかぶって見せた。 「子供の遊びにしては物騒ですよ。怪我をする前に家に帰りなさい」 とは言うものの果たして子供達に帰るとこなどあるだろうか。皆、垢染みた襤褸のような着物を纏い酷く痩せている。 一人の子供が木刀を手に飛び掛ってきた。粗末な尾行をしていた割には動きがいい。それでも佐保には掠りもしなかった。 半身を開き、一撃を避けると足を引っ掛けて転げさせる。そして手から零れた木刀を遠くへと蹴り飛ばし、一同を見渡した。 「それとも痛い目がみたいのですか?」 殊更見せ付けるようにゆるりと柄に手を掛ける。 「逃げろっ!」 まとめ役の少年が叫び、転がっている二人を抱え、藪へと掻き入っていく。 佐保は溜息一つ吐いて、子供達を見送った。 (「彼らは……」) 小さな宿場町に着き宿に入る。一人旅だと言う佐保に主人が驚く。 「それは大丈夫だったかい?」 最近、どこからかやってきた悪ガキ達が野盗まがいの事をしてる、と主人が教えてくれた。 間違いなく街道で出会ったあの子供達のことだろう。 「被害は結構あるのですか?」 「一人旅とかが狙われるみたでねぇ。この前此処に泊まった行商人は、食い物と金を奪われたとか言っていたなぁ。まぁ、命までは奪わないらしいがね」 彼らが人の命を奪っていないと聞き、佐保は安心をする。 「村でギルドに依頼を出したから、近い内に開拓者さんが来てくれることになっているけどね。坊やは気をつけるんだよ」 主人はぽんと佐保の背を叩いた。どうやら佐保のことは少年だと思っているらしい。 ● 宿の小さな部屋で佐保は先程の子供達の事を考えていた。 「彼らの言葉は…」 陰穀で聞いたことがある訛りであった。それに刀の使い方も。 先だって陰穀で叛が起きた。叛とは慕容王の地位を得る為に当代の慕容王を実力で排除しようとする動きである。陰穀のシノビにとって当然の権利であり、その行為の是非を問われる事はない。 叛は陰穀どころか、開拓者までも巻き込み大きなものとなった。大規模な戦闘もあったと聞く。 尤も叛はすでに終結し、陰穀は再び当代の慕容王の元で動き出した。 しかしだ…。 叛の爪痕はあちこちにまだ残っている。 佐保の石見家は国の外に主がいる。里は山間部にあり土地は狭く、痩せている。そのため、そうでもしないと生き残る術がなかったのだという。 『忠狂い』と揶揄される鈴鹿に連なる家である。頭領である一葉も例にもれない人物で「主のため以外に徒に駒を失う事はあってはならぬ」と叛に対しては静観の姿勢を貫いた。結果、石見は叛の影響を受けることがなかったが、里も持たない小さな一族などでは潰れたところもあるらしい。 あの子供達はそんな一族の生き残りだろうか。大人が全て死に絶え、居場所もなく陰穀から遠く離れたこのような場所まで流れた来た。そして生き残るために野盗まがいの事をしているのかもしれない。 近い内に開拓者が野盗を退治するためにやって来る。その気になれば自分一人でも、あの場で彼ら全員始末することができたであろう。彼らはその程度の実力だ。開拓者にかかっては元も子もないだろう。捕縛されるだけならともかく殺されでもしたら……。 「どうにかできないものだろうか」 出来る事ならば、新しい道を示してやることができないものかと思う。かつて自分が抜け忍として里から追われる身となった時、世話になった開拓者達が示してくれたように。あの時は結局再び石見家に戻る事を選んでしまったが。 しかしそう思うのは小さいながらも里もあり、いざとなれば守ってくれる存在もいる自分の傲慢だろうか。 それに彼らは人の命は奪っていないとはいえ、既に人を襲い食料やら金品を強奪してしまっているのだ。罪を償うべきだとも思う。 しかし捕らえ、牢に入れ、罰を与えられた彼らは、再び外の世界に出てきた時に、新しい道を見つけることができるだろうか。 それ以前に新しい道があるということに気付く事ができるだろうか。結局また同じ事を繰り返してしまうかもしれない。 情けない事だが、彼らと同じ狭い世界しか知らない自分では何が正しいのかわからない。 ただ彼らに罪を償わせ、新しい道を見つける切欠でも伝える事ができれば、と思う。 その日の夜、佐保は中々寝付けなかった。 翌朝、井戸端で顔を洗っていると、宿に客がやって来る。 依頼を受けた開拓者かと思ったがどうやら違うようだ。 佐保は手拭で顔を拭くと、表へと走る。 そして開拓者達に声をかけた。 「あの…お願いがあるのですが……」 あの時自分を救ってくれた開拓者達ならば、自分にシノビとして生きる以外の道を示してくれた彼らならば話せば力になってくれるかもしれない、そう思ったのだ。 |
■参加者一覧
大淀 悠志郎(ia8787)
25歳・男・弓
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰
羽流矢(ib0428)
19歳・男・シ
燕 一華(ib0718)
16歳・男・志
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
麗空(ic0129)
12歳・男・志
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志
ハティーア(ic0590)
14歳・男・ジ |
■リプレイ本文 ● 宿の前で呼び止められ明王院 浄炎(ib0347)は振り返る。そこには思いつめた表情の少女が立っていた。 「開拓者の方でしょうか?」 明王院の胸に届くか届かないかという背丈の少女が踵を上げ、男の顔を覗きこんだ。 「そうだが、何かあったのか?」 見たところ少女は一人のようだ。道中何か困った事でもあったのかと問う明王院に少女は佐保と名乗ると「力を貸して欲しいのです」と切り出した。そして最近街道に出没する子供達の野盗の事を話し出す。 「先の乱の煽り…か」 明王院が眉を寄せた。男は妻と共に、被災孤児らを保護し、行く先がなければ養子として迎え入れ、自らが経営する宿で自立のための職業訓練などを行っている。だから戦により行き場を失い野盗へと身を落とした子の話を聞けば、手を汚す前に救いの手を差し伸べることができたのならばと思わずにはいられない。 「尤も今となっては詮無き事か…」 気持ちを切り替えるように目を閉じ一度だけ頭を振った。起きてしまった事を嘆くのではなく、今何ができるかが重要だ、と。 「ぬすむのは、ダメだって〜……ババがいってた」 ひょこりと明王院の背後から顔を覗かせたのは麗空(ic0129)だ。 麗空の外見は、五つ、六つの子である。「お子さんが?」と驚く佐保に明王院が幼子のように見えるがれっきとした開拓者であると説明する。偶々同じ行き先ということで此処まで一緒に来たらしい。 「そ〜、かいたくしゃ〜」 元気に頷いた麗空がくるりと宙を一回転してみせた。 宿の出入り口で大淀 悠志郎(ia8787)は手で賽子を弄びながら佐保達を見ていた。宿を発つつもりだったために既に旅支度を整えている。 「佐保さんですか?」 大淀の横をすらりと背の高い女が通り抜け、宿の前で話している三人組へと向かう。どうやら開拓者二人を呼び止めた娘の知り合いらしい。 佐保は突然名を呼ばれた事に驚き、更に声の主である女性を見て二度驚いた。かつて自分が抜け忍として里の追跡者から追われていた時に助けてくれた開拓者レジーナ・シュタイネル(ib3707)であった。昨夜は気付かなかったが同じ宿に泊まっていたらしい。 「お久しぶりです」 「レジーナさん、お久しぶりです。あの時は大変お世話に…」 足早にやってくるレジーナに佐保が深々と頭を下げる。 「そんなに恐縮しないで下さい。その後いかがですか?お体の具合とか…」 少し屈み佐保の顔を覗き「元気になられたみたいで何よりです」と笑みを零した。それから隣に立つ明王院と麗空に顔を向ける。 「ご一緒に旅をされている方ですか?」 佐保はレジーナにも子供達の事を話した。 「そうですか、子供たちが…」 レジーナがほんの少しの間だけ痛ましそうに目伏せる。しかしすぐさま顔を上げた。 「うん、何とかしたい、ですね」 もう一度「うん」と頷く。 「一緒に考えましょう」 当たり前のようにレジーナが言う。 「野盗退治を邪魔するつもりか」 突然の声に一同が身構える。 「そんなつもりは…」 慌てた様子で手を振る佐保の耳に届いたのは押し殺した笑い声だ。 「背後からの接近に気付かないなんてシノビとしてどうかな?」 「お久しぶりですっ」 背後に佐保と同じ陰穀のシノビ羽流矢(ib0428)と三度笠にてるてる坊主をぶらさげた燕 一華(ib0718)が立っていた。二人ともレジーナと同じく佐保が世話になった開拓者である。昨夜偶然出会ったとのことだ。 「実はもう一人いるのですがっ」 燕がくるりと道を振り返る。 「まだ気持ち良さそうに寝ていますっ。きっと佐保に会えたら喜ぶと思いますよっ」 「ま、ともかく重要な話をこんな場所でやるのはどうかな?」 羽流矢が声を潜め、周囲の気配を探る。早朝ということもあり村人の姿もほとんどないが、一人此方を見ている者がいた。光を纏ったような白銀の髪に小麦色の肌、この辺りでは珍しいアル=カマル風の衣装。 「あっ」 燕が声を上げる。どうしたのか、と視線を向ける羽流矢に燕が「知り合いですっ」と答えた。以前依頼で一緒になったことがあったと。名をハティーア(ic0590)というらしい。 一同の視線に気付き、此方へとやってくる。 「一緒にてるてる坊主を作って以来ですねっ」 燕が佐保達にハティーアを紹介し、てるてる坊主作りとはとある村で子供達に頼まれた依頼だと補足する。 佐保はハティーアにも、野盗となった子供達を助けるのに協力してくれ、と頼む。 ハティーアは少しの間考えてから了承した。 「いいよ。その開拓者より先に子供達を見つけて他の土地に連れて行けばいいの?」 「そうだボク達同じ宿に泊まっているので、よければいらっしゃいませんかっ?」 燕が「そこで詳しい話をしましょうっ」と歩き始めた。 「それはそんなに悪いことなのかな?」というハティーアの呟きを佐保は聞いた気がした。 大淀の脳裏に浮かんだのは己の過去だ。どん底で一人生きるしかなかった自身……。 賽子を放り投げ落ちてきたところを掴む。 (「自分は博徒となる事を選んだ……」) そして様々な鉄火場を潜り抜けてきた。 では野盗をしているという子供達は…。その子らがどう考え、何を選ぶのか見てみたい。そんな興味が湧く。 掴んだ賽子の目は確認せずに懐にしまいこむ。 「浮かぶも落ちるも自由ってね」 大淀は佐保達を追いかけるために立ち上がった。 燕達が泊まっていた宿は一階が居酒屋を兼ねている。皆の案内を羽流矢に任せ燕は座卓の間を通って奥へと進む。 「仁八兄ぃ! 起きて下さいっ」 床に大の字になって寝ている佐藤 仁八(ic0168)に声をかける。 「ぁあ〜…まあだ 呑めるぜえ あたしぁ」 ごろりと寝返りを打つ。 「佐保を覚えてますかっ? 彼女がこの村にいたんですっ」 肩を揺さぶる。 「佐保…?」 佐藤が片目を開ける。のそりと起き上がり、着物の中に手を突っ込んで腹を掻く。 「そうですっ。今この宿に来てます。それに何か相談したい事があるらしいですよっ」 燕が半分寝惚けている佐藤の背を押した。 ● 佐保が子供達に会ったという街道を羽流矢は調査していた。 あれから話し合った結果、まずは囮を立て子供達をおびき寄せ塒を見つけ出し捕獲することになった。そして子供達に考えさせる。自分達のしたことを、そしてどうしたいのか。 勿論羽流矢達は、できるだけ子供達を助けるつもりである。必要とあれば開拓者ギルドと掛け合う事も考えていた。 羽流矢は作戦に適している場所を探す。 「誘い出すにはこの辺りが丁度良さそうだ」 蛇行する川に沿い緩やかな描かれた曲線の真ん中辺りに一里塚がある。その周辺がちょっとした藪になっていた。藪が目隠しの役目を果たし見通しが悪く、身を隠す場所も多い。半人前が襲撃してくるには良さそうだ。 子供達はどこに隠れるか…、自分がまだ子供だった頃を思い出す。 「…完全に姿が隠れる場所か?」 きっといかにも人が隠れていますといった場所に身を潜めただろう。人の意識の死角となるような場所などには考えも及ばなかった記憶がある。 苦笑しかけた唇が不意に結ばれた。 (「助けを求めるより野盗の道を選んじまったのか」) 他にやり方もあったろうに、と思う。 「らしいっちゃらしいけどな」 今度こそ呆れ交じりの苦笑を零す。 羽流矢は場所の見当をつけると急いで宿場に戻った。依頼を受けた開拓者達よりさきに動かなくてはならない。 街道を旅人に扮した大淀が一人歩いている。荷物は最小限に収め、武器である弓も携帯していない。時折川を覗き込んだり、鼻歌をうたってみたり、気楽な一人旅といった風を装う。 大淀の少し先には親子に扮した明王院と麗空、後ろには佐藤と佐保。 一見長閑な街道風景だ。 他の仲間は子供達に気付かれないよう大淀から少し距離を置き身を隠している。 「馬子にも衣装たぁ言ったもんだ」 佐藤の笑い声が晴天の下響く。 佐保は昨日子供達と顔を合わせているので、男のような格好から良家の子女といった姿へとなっている。武器も見えるところには所持をしていない。佐藤はその護衛といった役どころだ。 僅かに唇を尖らせた佐保の背をぽんと叩く。 「似合ってるってえ言ってんだよ」 暫くして佐藤が尋ねた。 「あれから、石見ぁきっちり治まってんのかい」 「天気はどうだい」それくらい何気ない口調であった。 「はい、今は落ち着いています」 シノビの里の話だ。詳しく話せない事も多いだろう。佐藤もそれを察し「そうかい」と一言だけ頷いた。 「一人で突っ走らずに、誰かに相談するってえ知恵がついたようで何よりだ」 佐藤の大きな手が佐保の頭の上に乗っかる。 「今度命を粗末にしやがったら、四辻の方をぶん殴りに行くぜ。おめえにゃそっちの方が効きそうだ」 「生きていればこそ道を選ぶ事ができる、と皆様に教わりましたから」 佐藤を仰ぎ見て微笑む。それから咳払いを一つ。 「それにあの方はそう簡単に佐藤さんに殴られるような方ではありません」 そんなところは相変わらずだと、佐藤はまた笑う。 一里塚が近づくに連れ麗空の口数が減ってきた。経験を積んでいる開拓者だ緊張しているというわけではないだろう。 「大丈夫か?」 「ん〜、どうかした〜?」 麗空はきょとんした瞳で明王院を見上げた。どうやら変化に本人は気付いていないらしい。 麗空が明王院から視線を外しさりげなく周囲を探る。 口の横に手を添えて「いるね〜」と口の動きだけで伝えた。 先程から羽流矢の耳が藪を揺らす音を拾っていた。道を挟んで反対側にいる燕に視線を走らせると頷き返す。どうやら燕も気配を感じ取ったようだ。この分なら、先行している麗空達も子供達の気配に気付いているだろう。 子供達が来た事を鳥の鳴き声を真似て伝え、羽流矢は一里塚が見えるぎりぎりの場所まで戻る。羽流矢の役目は逃げ出した子供達を追跡し塒を突き止めることである。襲撃の時に子供達に見つかるわけにはいかない。 大淀が荷物を傍らに置き藪の作る日陰へと座る。膝の上に握り飯の包みを広げた。 一口齧ろうとしたその時に、背後の藪が揺れ子供達が飛び出してきた。人数は佐保から聞いた通りの五人。皆酷い格好をしている。手にした武器は凡そ役立ちそうには見えなかった。 大淀を囲むように散らばると、 一番大きな子がぼろぼろの刀を翳した。 「食べ物と金目の物を置いていけっ」 「うわぁっ」 大淀は大袈裟に驚き、取るもの取りあえず転げるように逃げ出した。 子供達は追いかけてこない。逃げる途中背後を確認すると、大淀が立ち上がった拍子に転がった握り飯を拾っている姿が目に入った。 大淀と入れ替わるように一里塚にやってきたのは、明王院と麗空だ。 二人は子供達を驚かせ追跡をしやすくするための囮であった。 「わるいこは、めってするんだよ〜」 麗空の三節棍が空を切る。子供達は声を上げて一目散に逃げていく。 「にげた〜。にがさない〜!」 一番幼い子が逃げ遅れる。頭領格の少年が慌てて戻り、目潰し代わりに砂を麗空に向かって投げ付けた。 「っ!!」 麗空が顔を抑えて屈みこむ。少年はその隙に子を抱え皆と別方向へと走り去った。 足音が遠くなった頃、麗空は顔を抑えていた手を退けた。けろりとした表情だ。屈みこんだのは演技であった。彼らを逃がすための。 羽流矢とハティーアの二人を除き一里塚に集合した。二人は子供達を追跡中だ。別方向に逃げた二人を追うためにハティーアも追跡に加わった。 佐保が羽流矢の残していった印を辿り、一同を案内する。 山の麓に崩れかかった小屋が一軒建っていた。壁板は一部剥がれ、代わりに腐りかけた筵が垂れ下がっている。かろうじて屋根が残っている。変わり者でも住んでいたのだろうか、そこに子供達が入って行くのを羽流矢は確認をした。 羽流矢が身を隠していると、幼い子を抱えた少年も小屋へと入ってくる。追ってハティーアも姿を現した。 別方向に逃げたというのに同じ場所に戻ってくるなんて、と羽流矢は同郷出身として額を押さえる。 全員合流後、子供達の人数を確認するために暫し時間を空けた。燕が気配を殺し、小屋に近づき中の気配を探り、佐藤と麗空が小屋の周辺に注意を払う。 特に佐藤は子供達の仲間が他にいないかまめに周辺の気配を探る。 大淀が叢の中に身を隠し進み、小屋周辺に簡単な罠を仕掛けた。草を結んで足をひっかけさせるような他愛もないものだ。 罠も完成し、それぞれ配置に着く。小屋の出入り口脇に麗空、正面に燕、大淀、明王院、右手に羽流矢、ハティーア、左手に佐藤、佐保。そして子供達を小屋から追い立てるためレジーナが背後に回りこむ。 腰を落とし足を引き、深呼吸を一度。 小屋は強風が一吹きでもすれば壊れそうなほどに頼りない。下手をして子供達を傷つけないように意識を集中させ、レジーナは壁に拳を打ちつける。 鈍い音と共に小屋が揺れ、ぱらぱらと木屑が落ちる。 「見つかった?」 「逃げろっ」 中から混乱した子供達の声が聞こえる。 入り口から錆びた刀を持った年長者二人が「俺達が相手だ」と勢い良く飛び出し、そのまま悲鳴を上げた。 入り口近辺に佐藤が撒いた撒菱を思いっきり踏んでしまったのだ。 「罠だっ」 痛みに悲鳴をあげつつも中に伝える。しかし先程も逃げ遅れた一番幼い子が年長者を追いかけてきた。 一人の少年が前に出て、もう一人が子供を抱きかかえて小屋の中に戻ろうとする。 「わるいこだけど〜、ちいさいこは、ばーんってしちゃダメ〜って、ババがいってた!」 入り口の横に待機していた麗空が飛び出し、前に出た少年の武器を三節棍で絡め取り奪う。子供を抱えて逃げようとした少年の手を燕が払い武器を落とさせ、そのまま取り押さえる。 少年はせめても、と思ったのか抱えていた子を放り投げた。咄嗟に麗空が抱きとめようと手を伸ばすが届かない。 子は地面に激突する寸前に体を丸めて見事受身を取った…が結局そこを明王院に抱え込まれてしまった。 麗空の注意が幼子に移った隙に逃げようとした少年の襟首を羽流矢が引っ掴む。 右手の壊れた壁から転がり出てきた子は大淀の仕掛けた罠に足を引っ掛け盛大に頭から地面に突っ込んだ。ハティーアがその子を助け起こしてやるついでに捕獲してしまう。 「手荒にして相済まねえ」 左手の窓から飛び出してきた子は佐藤に鞘で足を掬われ、くるんと綺麗に回転して叢に落ちた。 ● あっという間の出来事だった。気付けば五人、開拓者に囲まれ正座をしていた。 武器は取り上げられたが縄は打たれていない。 幼子を背に庇うようにして年長者が開拓者達を睨み付け、威嚇するように低く唸る。 怒りと怯えの混ざった目はそれでも開拓者の隙を狙っている。 子供達を落ち着かせようと水を差し出そうとした燕を大淀が制し、どかりと膝を立てて座り込んだ。子供達の顔を眺める。 「君たちは中途半端なんだよ…」 呆れた様子を隠そうともしない。取り上げた武器に視線を向ける。 「おそらく『できる限り楽をしたいが殺しまでする度胸は無い』そんな所かい?」 「違うっ」 噛み付くように子供が吼えた。あまり追い詰めるな、と一歩踏み出しかけた燕とレジーナを明王院が止める。 「違いはしないさ。行き詰ったからと工夫も考えもせず、安易に楽な方へと流された」 先程吼えた少年を指差す。 「その結果が今の君たちの姿じゃないのか」 一拍おいてから、そういえばと言葉を続ける。 「君らの討伐依頼が出ているのを知っているかい?」 少年達が青褪めた。 「人を殺していない?」 頭を左右に振った。 「そんな理は通らない。追い剥ぎは追い剥ぎ。数日のうちには捕まって死罪、そんな所だな」 突きつけられた現実に子供達が俯いて黙り込んでしまう。 「しかし、君達はツイてるよ」 大淀の視線は周囲にいる開拓者達へ。 「その前に、こんなお人好しが出てくるんだからな」 後は君達次第だ、と大淀が立ち上がったあと、ぐるぅう〜と誰かの腹の音が鳴った。 「…おなかすくと、くるしくて…ここが、きゅーってする…」 麗空がしゃがみ込んで自分の腹を押さえる。 「それはとてもつらいの〜。でもねぬすむのはダメってババがいっていたよ〜」 視線を合わせられた子が俯く。悪い事をしている自覚があるのだろう。 「でも…そうしないとっ」 それでも反論しようとする子の頭を羽流矢が軽く叩く。そして子供達に水飴と干飯を差し出した。 「毒は入っていない」 一口飴を舐めてみせる。生唾を飲み込む音が聞こえた。 おずおずと伸ばされた手にそれらを乗せてやる。よほど腹が空いていたのだろう、一心不乱に食べ始めた。一気に頬張りすぎて喉に詰まらせた子に燕が水筒を渡してやる。 「俺が同郷なのは解るだろう?」 子供達が頷く。 「里から此処まで来て、自分達で生きて行こうとしたのは褒めてやるよ」 だけどな、と続ける。 「やり方が悪かったな」 子供なのだから素直に助けを求めた方がよほど効果がある、と。尤も今となっては使えない手段ではあるが。 「まだ半人前なんだから力に頼るなよ。襲撃なんて皆に気付かれていたぞ」 子供の額を指で弾く。 「人から奪う事はいい事とは言えません。でもボクは、自分達が辛くても人の命を奪う事までしないのは、一線を越えないだけの強さを持っていることだと思いますっ」 噎せ返る子の背中を擦ってやりつつ燕が子供達の顔を見る。だからと言ってどうなるのだろう、と先程突きつけられた現実を思い出した子供達の顔が暗くなる。 レジーナが膝を着く。 「皆さんは自分がしたことをどう思っておりますか?」 静かな問いかけだ。 子供達が顔を見合わせる。羽流矢が一人の子の頭の上に手を乗せた。 「里は助けちゃくれなかったから、俺の言葉は気にしなくてもいいが他の奴らはちゃんとお前達の事をかんがえている」 だから、聞くだけ聞け、と順繰りに子供達の目を見た。 「…悪いことをしたと…思って…る」 年長者の少年が途切れ途切れに言葉を発した。他の子供達も頷く。 レジーナは子供達に微笑む。 「同じことでも、場所や、時や、相手や判断する人によって『良い』も『悪い』いも変わってしまうことがあります」 何が良くて、何が悪いのかレジーナ自身も答えを持っていないと胸に手を当てる。 「いつも考えます…けど、とても難しい」 「悪い事…」 ハティーアの呟きに佐保が視線を向けた。ハティーアはずっと子供達を見ている。 「飢えて死にそうで追い詰められて、生きる…ただそのためけに物を盗るのって、そんなに悪いことなのかな?」 そういえば彼は出会った時も似たような事を言っていた。彼は一体何を思っているのだろう。 美しい少女のように整った、でも感情の見えない横顔を佐保は見つめた。 「ただわかることは、貴方達は全てを奪われて辛かったことでしょう。そして貴方達が奪った人たちも辛い思いをしたと思うのです」 子供達がはっと顔を上げた。 「お互いに傷ついて生きること…とても、悲しい事ではないでしょうか?」 でもどうすれば良かったのかわからない、と子供達。 偽善と思われるかもしれない、と燕が前置きをする。 「でも、こんなことをしなくても生きていける道を歩むお手伝いをさせて頂けませんかっ?」 かつて雑技衆に拾われなければ、今の自分はなかった。自分がしてもらったように子供達に新しい道を示してあげることができれば、燕はまっすぐに子供達の目を見た。 その言葉にレジーナも頷く。 燕は戸惑う子供達の手を取って立ち上がる。 「まずは体を綺麗にして服を着替えましょうかっ?」 「ちょっとだけ気持ちが変わりますよ」 麗空は視線は遠くを見ている。それは在りし日の自分の姿。麗空もあの子らと同じ戦災孤児であり、志体能力を生かし山賊まがいの事をしていた。たった一年ほど前の事だ。 「…ババは、わすれちゃダメって。…じぶんのしたことは、きえないから…わすれず、くるしむんだって」 自分のしたことは忘れたわけではない。ただあの時のひもじさ、苦しさも一緒に蘇ってくる。腹がきゅうと絞まるように痛い。 「………………おなか…すいたね…」 膝を抱えるように背を丸め、耳を塞ぎ目を閉じる。これ以上思い出したくないとでも言うように。 誰かに肩を抱かれた、温かい体が寄り添う。恐る恐る目を開けば、明王院の姿があった。 そうだった、自分はババと呼ぶ尼僧に出会い救われた。きっと彼らも大丈夫だ。 「へ、いき……」 肩を抱く手に自分の手を重ねる。 「そう自分達のした事は消えない。だから子らよ、罪は償う必要はある」 明王院が覚悟はあるか、と問い掛けた。子供達が頷くと、笑みを浮かべ「では体を綺麗にしようか」とレジーナ達と共に子供を連れ近くの小川へと向かった。 子供達の身形を整えるのは気持ちを切り替えるため、そして奉行所や依頼を受けた開拓者達の目をごまかすためでもあった。 本当は風呂に入れてやりたいのだが生憎小屋にはない、しかしこのまま村につれ帰ることはできない。小川で汚れを落とし、沸かした湯で体を拭ってやる。 二人が子供達を連れて行っている間、残された盗品を探し出す。 佐藤は懐から石鏡の地図を取り出すと、小屋のどこに隠すかあれこれと思案始めた。ここは不自然か?とかここは解りにくいか?などと言いながら。野盗が石鏡方面へ逃げたと思わせるためのちょっとした細工である。 野盗退治の依頼を受けた開拓者達には申し訳ないが、この際貧乏籤を引いてもらうつもりであった。 「換金するツテがなかったのか」 物は意外と残っている。 「奪ったお金は、もう食べ物と交換しているみたいだね」 ハティーアが空っぽのサイフをはらはらと振るう。そして周囲に問い掛けた。 「動物は弱肉強食の世界で生きてるのに、どうして人だと罪になるの?」 皆が顔を上げる。 「無駄に殺生はしないけど物を盗った子供達、処刑される可能性を分かっていて子供達の捕獲を依頼した村人。なんで子供達だけが罪になるのかな?」 ハティーアが再び問う。糾弾しているわけではない。純粋にわからないといった様子だ。 彼自身生きるために物乞いや盗みと色々やってきた。あの子供達が悪ならば自分はどうなのであろう? 決まりを守らない事が悪いことならば、それを破り子供達を助けようとしてる自分達はどうなのだろう?と。 大淀が肩を竦める。 「人生に正しいも間違ったも無いさ。あるのはただ『どう生きたか』か……」 それ以上でもそれ以下もないと賽子を投げる。 羽流矢はハティーアの手から空の財布を取った。その財布に少しばかり金を入れる。 「いい事とも、正しい事とも思っちゃいないさ」 じゃあ、どうして?と問われれば小銭の入った財布を軽く振った。 「幼い同胞への勝手な後始末かな」 顎に指を当て暫し考えていたハティーアが首を傾げる。 「僕には、違いがわからないや」 それでいいのではないかと、言いかけた言葉を佐保は飲んだ。 「偉い人がそれを決めるの? なら僕は今まで通りに、虫けららしく、表面上だけ言う事を聞けばいいってことだね」 「そうやって考えることを止めるのは、少なくとも良いことだとは思えません」 子供達が戻ってきた。汚れを落とし、着物を着替えた子供達は心なしか表情も明るい。 レジーナが子供の髪を梳きながら尋ねる。 「皆さんはどう生きたいですか?」 開拓者候補としてギルドに預ける、戦乱やアヤカシの被害で傷ついた土地の復興を手伝うなど候補はいくつか考えていた。でもあくまで子供達の考えを聞いてからである。 「ごめんなさいっ。痛かったですよね?」 汚れを落とした子供達の傷の手当を燕はしてやる。武器を払った時につたであろう痣をそっと撫でてやりつつ、慌てて考える事はないと子供達に伝える。 答えのみつからない子供達にハティーアが声をかけた。 「志体があるなら、開拓者になれば自分でお金を稼げるね。ただ、依頼を受ける技量がないなら、訓練が必要かも」 技量不足を指摘され、年長者の少年が恥ずかしそうに顔を赤らめた。 皆で一緒にいたい、というのが子供達出した結論であった。そして皆で何か手伝う事ができたらいい、と。 「ならば被災した土地に住み、復興の手伝いなどするのはどうだろうか?」 そうすれば新しい故郷も出来ると明王院。ただ戦乱を経験した子供に被災地というのは精神的に辛いものがあるかもしれない。その場合は自分の下に引き取ろうと思っていた。また子供達の被害に遭った人々に対する謝罪や弁償も私財を投じる覚悟も決めていた。それはその子達の親になろうという覚悟だ。 子供達が戸惑うように視線を泳がせる。 「自分の頭で考えて動くんだな」 大淀が自らの米神を人差し指で突く。 「人同士の戦争があった場所は怖い」 幼子が言った。いずれ戦の記憶と向き合う必要もあるだろう。だが今は無理に向き合わせる時でもない。明王院は「わかった」と力強く頷いた。 ● 身形を整えた子供達を連れギルドの出張所がある町へと向かう。野盗をしていた子供達だとばれないように年長者の一人は佐保のお付として、もう一人は大淀の年の離れた弟として、そして幼い三人は明王院の子として別々に村に入る。 羽流矢だけはやることがある、と先に町へと向かっていた。 羽流矢から遅れること数日、皆が町に辿り着いた。人の少ない時間を狙ってギルドへと行く。ギルドに連れて行くのは危険だと解ってはいたが、復興中の村に子供達を連れて行くにしてもギルドの紹介があったほうが何かと有利なのだ。それに道中疑われることもなかったほどに子供達は大人しかった。 通された部屋にやって来たギルドの職員には被災した孤児達だと説明する。依頼の帰りに偶然腹をすかせている所を拾った、と。 「この子達が身を寄せる場所を紹介してもらいたいのだが」 流石に自分達の手配書が回っているギルドは落ち着かないのか子供達がそわそわしている。 「子供達に新しい故郷を作ってやりたい。復興中の村などがあればいいのだが…」 明王院と職員の会話を見守りながら佐保は子供達の肩を抱いていた。不意に一番小さな子が叫ぶ。「ごめんなさい」と。慌てて年長の少年が子を庇うように前に出ると「悪いのは俺です」と頭を下げた。いや「僕がお腹すいたって言ったから」次から次へと子供達が頭を下げる。 思わぬ事態に佐保は咄嗟に部屋を見渡す。いざとなったら開拓者ではない自分が騒ぎを起し子供達を逃がそうとした。 右手に窓が一つ。あそこから逃がす事が可能であろう。その窓に人影が覗いた。羽流矢だ。落ち着け、というように佐保を指差す。 息を吸い込んだ佐藤がドンと机に拳を置いた。 「こいつらがこうなった原因はなんだ? ギルドお墨付きで開拓者達が掻き回した内乱じゃあねえか。その結果こいつらが食い詰めて武天で犯罪に手を染めた。その事を武天の赤入道にぶちまけるぜ。武天とギルドの関係悪くするかこいつらの面倒みるか、好きな方を選びねえ」 一息に言い切る。 「ギルドは志体持ちの子供用の養成施設でも作るべきではないかな? 先生は寸志または無償で、開拓者から募るとか」 ハティーアが暗にギルドの不備を指摘する。それができないから子供達が貴方達の言う『正しい』から踏み外してしまうのだ、と。 職員は佐藤とハティーアを交互に見た。それから後ろの子供達へと視線を向ける。 「街道に出る野盗を退治して欲しい、という依頼を受けた開拓者さんが先程戻ってきたのですが、どうやら野盗達は石鏡方面に逃げて行ったようですよ。律儀に盗品をギルドに返して」 さらりと言ってから、受け入れ先の候補を探してきますね、と立ち上がる。 職員が去った後、大きな溜息が零れた。 「吃驚させないで下さい」 佐保が座り込む。明王院は素直に謝ったことを褒めてやった。 子供達の行き先は理穴東部にある小さな村に決まった。まだ村としての体裁すら整っていないという。だがその分新しい者も溶け込みやすい、と。 明王院と佐保がその村に子供を連れて行く事となった。明王院はついでに村の代表に挨拶をし、子供達の当面の生活費を預けておくつもりである。 出発当日、一人ギルドの屋根の上から子供達を見送る羽流矢の元に佐保が来た。 「子供達に会わないのですか?」 「俺は陰穀のシノビだよ」 新しい道を歩む子供達には会わないよ、と。 「あの時言っていた後始末とは…」 ギルド前に置かれていた盗品は…。言いかけた佐保の言葉を羽流矢は遮った。 「野盗が開拓者に恐れをなしてなけなしの金を返しに来たんだろう」 シノビとは人知れず、速やかに事を成すものだと羽流矢は思っている。 「行きなよ、もう出発するんだろう?」 佐保は頷き、屋根から姿を消す。 旅立つ子供達に燕は風呂敷包みを渡した。 「これをどうぞっ。沢山あって困るものではないでしょうっ」 中は下着や着物など着替えなどだ。 会いに行くからそしたら村を案内して欲しいと告げる。 「あんま背負い込みすぎんなよ。楽しくやんな」 佐藤が唇の端を上げて笑う。 レジーナがしゃがみ込み子供達と視線を合わせた。 「これから沢山のものを見て下さい。そして生き方について、自分達のした事について考えてください」 「あぁ、そうさ。思考と工夫…それで出来る事はいくらでも有るんだ。だから安易なことをするなよ」 子供達の選んだ先を見たいと大淀も最後まで付き合ってくれた。 「もうおなかすいてきゅぅ〜ってくるしくなりませんように」 麗空が力いっぱい手を振る。 泣き出しそうな子供達を促し明王院と佐保は理穴に向けて旅立った。 羽流矢も彼らの後姿が見えなくなるまで見送っていた。 「そこが帰るべき場所になるといいな」 その言葉は子供達に届いただろうか? |