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■オープニング本文 ジェレゾから南部へ至る街道沿いには、やじ馬が詰め掛けていた。 彼らの視線の先にあるのはロープを張った空間、その中にある馬車の残骸。 壊れているとかという次元ではない。粉々だ。周囲に異臭が漂っている。生臭くて鉄臭い異臭が。 馬だったものがのされて地面に張り付いているから、だけではない。 ロープの内側で作業をしていた職員が棒で馬車の破片を浮かせ、顔を歪める。 「うわっ…駄目だ。目茶苦茶になってて何がなんだか。男か女かもわからん」 「種族はどうだ」 「それもなあ…ちょっと…とりあえず2人か3人くらいかな、この量だと。土地のものじゃ無さそうだし、身元確認に手間がかかりそうだぞ。近辺の宿から聞き込み始めよう」 最近周辺では、この手の事件が立て続けに発生している。 最初は犬や猫の変死体が発見されるだけであったのだが、段々牛や馬、羊と言った大型の動物にまで及んでくるようになり…本日とうとうこのように、人間が犠牲となった。地元の警察組織が、本格的な捜査をしようとした矢先の出来事である。 「何か」が起きたのは夜中らしい。そして一瞬のことらしい。 被害者が見つかったのは死体になってからのこと。殺される現場を目撃した人間はいないのだ。 「これは人間がやったことじゃないな…どう考えてみても」 「ああ、開拓者ギルドに応援を頼んだ方がよさそうだ」 ● 開拓者たちは馬車の残骸が片付けられた現場に立っている。 彼らの目に映るのは、地面に出来た大きな窪みだ。 大きさはおよそ4メートル。 その形…足跡のように見える。いや紛れもなく人の足跡だ。形だけは。 参加者の1人であるエリカが首を傾げた。 「踏み殺されたってこと?」 「と、見えなくもないよね。でもそれだとしたら、相当に巨大なアヤカシのはずだよ。足の大きさがこれなら、少なくとも10メートル以上の背丈はありそうでしょう。そんなものが歩き回っていたなら、いくら真夜中だったとしても、気づかないってことはないと思うんだ」 「そこは確かに気になるね。それだけ大きかったら夜目遠目にでも何かが動いていると、分かりそうなものだし」 「うーん、それはどうかな。大きいから分かりやすいっていうこともないんじゃないの? ことアヤカシに関しては。もしかしたら姿が見えないタイプの奴かも知れないじゃない。透明だったり、保護色を使ってたり」 「あるいはこっちの想像もつかないような姿だったりな。足がこれだから人間の形をしているとは限らんぜ」 推理すべきは多々あれど、犠牲者をこれ以上出させるわけにはいかない。 「ひとまず今晩は、この街道を通行止めにしてもらいましょうか。で、私たちが夜回りすると。それでアヤカシに行き会えればよし――行き会えなくとも何らかの情報は得たいところだわね」 「そうだな。何にしても、手掛かりが少なすぎるからな。とにかくどういう奴なのかさえ突き止められれば、大分仕事がやりやすくなるぜ」 ● 日が落ちた。 行き交う馬車も人もない街道はひたすら静かだ。 生き物を踏み潰す感覚、柔らかい体が弾けて内部に詰まっていたものがびゅっと飛び出す感覚、その瞬間発される苦痛と絶望感を求めているのに、なかなか得られそうもない。 なぜ今日はこうも人通りがないのか。 アヤカシは苛立ち、待ち受けるのを止め、自ら動き始める。 そして見つけた。開拓者と呼ばれる人間たちを。 「何!?」 「なんだこれ!?」 「おい、足だけ、足だけが出たぞーっ!」 もちろんアヤカシは、彼らを踏み潰しにかかる。 |
■参加者一覧
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
八壁 伏路(ic0499)
18歳・男・吟
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 闇に浮かび上がるのは2つの足。 ユウキ=アルセイフ(ib6332)はマシャラエイトを発動する。 やはり足だ。足だけ。体はどこにも見当たらない。 笹倉 靖(ib6125)は両目をすがめ、素早く松明を地面に差した。 「おーおー、こりゃぁ……足だなぁ。これで潰されたんか」 その通りだとでも言うように、片方が地面を踏み込み、片方が持ち上がり、降りて――いや、落ちてくる。 リィムナ・ピサレット(ib5201)はそれを避け、松明を高く掲げ、啖呵を切った。 「ふざけた格好してるね…あたしの式で逆にぶっ潰してあげるよ!」 靖は2つの足を見比べた。対だ。それぞれちゃんと右、左の形をしている。 「…つか、こいつらって二体? 一体? 思考は同じなんかね。どう思うユウキ」 「…恐らく一緒じゃないかな。でなければ左右揃って出てくる意味が無さそうだし」 「連携するかね」 「多分」 「嫌だねぇ、背後に気をつけて動かないと俺らも潰されかねないわけか。松明くらいじゃちと見通し悪いな」 「…まあ、マシャエライトは消さないようにするよ……兎に角、頑張るよ」 地団駄みたいな動きを数度繰り返してから足は、急に速度を増してきた。 八壁 伏路(ic0499)は迷わず後方に退く。 「……殺気!」 つま先を地面に引っかけあやうくつんのめりそうになりつつも、足の下敷きにはならずにすむ。 「やだこわい。が、おとなしく殺られる気はないぞ。さあ、どこからでもかかってこい! ただしわしは中衛だ!」 彼の声を背にしつマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、足と対峙した。『闇照の剣』と『翼竜鱗』のベイルを身に帯びて。 「全く奇態なアヤカシですわね。ですがそれはどうでもいいですわ。多くの命を奪った罪、償っていただきますわよ!」 持っていた松明を旗にくくりつけ、地面に差す。 サライ(ic1447)が断りを入れ、その火を借りた。 「失礼しますマルカさん、ちょっと火種を拝借しますよ!」 彼の両手にある苦無『烏』――ほぐした松明を松脂に浸した布でくくりつけている――が燃える。近すぎる熱は肌をじりじり焼く。むろん熱い。だがそんなことにこだわってはいられない。 靖は敵から目を離さず、月歩で避ける。 「顔は無いが、俺たち見つけて向かってきている敵さんが嫌ぁな笑顔浮かべてる気がすんなぁ」 先に地面へ突き刺しておいた松明の炎が、巨大な足踏みによって起きる風にあおられ、幾度も立ち消えそうになる。 「――おーいユウキ、マシャラエイト、本当頼むぜ!」 ユウキは片手を挙げた。言葉で応える余裕はちょっとない。アイヴィーバインドを繰り返し発動させているのだが、動きが早すぎてなかなかうまいことかからないのだ。 暗視の効くサライは他の人間よりもはるかに周囲をよく把握出来るので、逐一仲間へ状況を知らせる。 「左が動きます、気をつけて!」 動きを見ている内に彼は、足たちの動きに一定の縛りがあることを発見する。 おおまかに言って普通の人間と同じ足運びしかしない。右左が入れ替わったり、ねじれたりといった動きはしない。 このアヤカシに体は存在しない。存在しないが、存在しているものと仮定して動きを予測した方がよさそうだ。 大きな左足が地面にめり込む。爪先に力が入る。 「! 皆さん、頭を低くして! 右が横凪ぎに来ます!」 サライの言葉どおり、右足の甲が地面すれすれに、伏せた開拓者たちの頭上間近で空を切る。 「あっぶね! なんだ――」 靖の悪態が半ばに途切れる。 両足がふっと視界から消えた。 サライが叫ぶ。 「上! 散ってくださいっ!」 両足をそろえて跳んだ足は宙に浮いてから、揃って落ちる。 地が揺れた。 差してあった松明が倒れ激しく燃え始める。 伏路は袖にかかった火の粉を忙しく払った。 「おうっちち! 危ないのう! えい、せめて昼に出てくればのお。もっとよく見えるのだがのお」 『奴隷戦士の葛藤』を歌う。以下の疑問を脳裏に浮かべながら。 (…そういえば、効果としてはどうなるのだろの。こやつ防具などはつけておらんし。爪が柔らかくなるんだろうか…) アヤカシの動きに変化が現れた。挑発役を追いかけて踏みつけるまでは一緒だが、その先足をぐりぐり地べたに擦り付け始める。 「ん? どういう動きだ」 いぶかしむ伏路に答えをよこしたのは、リィムナだ。 「痒いんじゃない? なんか水虫持ってたときのおじーちゃんにそっくりな動きだよ、あれ」 「なるほどそれは大ダメージだの」 サライは敵からけして視線を外さず、考える。 (魔法の明りも松明も5m程度しか照らす事は出来ない――遠距離から自動命中を成立させるには光量不足だ) といって足にまといつき照らし続けるのも難しい。 (なら、どうすればいいか。踏まれないように離れないようにするのが精一杯な状態ではしょうがない…) エリカが飛び出した。 剣を水平に構え、止まっている側の左足に突っ込む。 その瞬間斬ろうとしていた足が持ち上がる。攻撃は浅く皮を削いだだけに止まる。 代償として反撃が来た。足が力を込め落ちてくる。直接踏み砕かれはしなかったもの、接触はしたらしい。地面に膝をつき、立てない。骨が折れたようだ。 次の一手、もとい一足が来る前に、今度はマルカが飛び込んだ。 「貴方が奪った魂の安らぎの為に、必ずその身を打ち砕きますわ!」 『闇照』が足の裏を斬った。傷はあまりつかない。踏み潰し専門のアヤカシだけに、他の部分より丈夫に出来ているらしい。 すかさずベイルをかざし満身の練力を込める。 全身の骨が悲鳴を上げるほどの重みがかかってきた。奥歯が軋む。脂汗が浮かぶ。しかし彼女は嘲う。 「……その程度ですの?……貴方にわたくしを砕く事などできませんわ!」 攻撃に意識をとられている左足へ、ユウキのアイヴィーバインドが絡み付いた。 右足に靖が白霊弾を撃ちこみ、共闘を阻害する。 片足をついたエリカが剣を奮う。かなり頭に来ているのか、先ほどにも増して勢いがいい。 「殺す! 絶対に殺す!」 (なんだのう…エリカ殿は常に血の気が過多だわな…普通子を産んだら女は丸くなると聞くのだがのう) 伏路は氷咲契を展開し、マルカと足の間に滑り込ませた。 「早う出てこい2人とも!」 マルカはエリカの襟を捕まえ引きずり、足の下から抜け出した。 サライが感知不能な時の空白を作り出す。 「足だけしかないなら…これでどうだっ!」 火の付いた苦無が右足の甲に刺さる。筋と筋の間を避けて。 足は足しかないのでものが刺さったときには、すこぶる具合が悪い。引き抜こうという試みだろう、左足が右足の上に覆いかぶさって、指で苦無をつまんだ。 再び彼は時を止め、そちらにも苦無のキャンドルを灯す。 「サライ君ナイス!」 これなら暗視が出来なくても、居場所を正確に掴める。 リィムナは連続して詠唱を叩きつけた。 足指の爪の何枚かが、いきなり剥げ飛び散る。 靖は、思わず顔をしかめた。 「うわー、えぐいな。生爪剥がしはきついぞー」 と言いながらエリカとマルカの治癒を伏路にバトンタッチ、足に向け白霊弾を浴びせかける。 ユウキはアイヴィーバインドを、二重三重に絡めていく。 「抜歯と併せて拷問の定番だからね。といっても圧殺に比べればぬるいものだと思うよ?」 大足はそれを引きちぎろうとし、力いっぱい踏ん張る。 蔦がぶちぶち裂けていく音が聞こえる。 エリカらの治癒を行う伏路は、そちらに向け罵る。 「ふはは、もう終わりだぞこの水虫デカ足め! 痒みの中で悶え消滅するがよい!」 マルカは節分豆を口にほうり込み噛み砕き、回復を図る。エリカに怒りつつ。 「猪突猛進も大概になさいませ! エリカ様はまだお子様が産まれたばかり、何かあってはわたくし、カモミールちゃんに申し訳がたちませんわ! スーちゃんにも弟君にも、もののついでにロータス様にも! 一体全体母親という自覚はあるんでございますの!」 「分かった、分かったわよ、悪かったわよそう怒らないでマルカ…」 (わあ、珍しいですねー、エリカさんが押されてるとは) 変に愉快な気持ちにもなりつつ、サライは苦無を投げ続ける。 足はいよいよ暴れ、戒めを引きちぎろうとする。 皮膚が裂け、あちこちから粘りを帯びた瘴気が噴き出した。 踵の腱を苦無が切り裂く。 マルカの剣が指と指の間に突き刺さる。 リィムナの詠唱は続いている。 「さっさと倒して、犠牲になった人の身元を調べないとっ!」 彼女の姿なき式は、アヤカシを内側から食い荒らしボロボロにしていく。 靖にはアヤカシの声なき悲鳴が聞こえるような気がした。 ユウキが片手を広げる。 「では、そろそろ終わりに」 灰色の光球が足に向かう。 それに触れた部分は灰となって崩れ落ちる。侵食は次々広がり、アヤカシの全てを塵となして、この世から消し去る。 ● 「血は嫌いとも言っておれんのう」 腹を据えた伏路は、それでも皆よりやや離れて、場に臨んだ。 ここは例の、馬車が踏み砕かれていた現場。余計な気が交じらないよう、通行人は遠ざけている。いるのは開拓者たちと、捜査官の数人。 リィムナは彼らを前に念を押す。 「…あまり気持ちのいいものじゃないけど皆大丈夫?」 否という言葉が出ないのを確認して、外道祈祷書を広げる。 呼び出す時刻は午前零時から――アヤカシが出没したとおぼしき時間帯が、そのくらいなので。 現実にある昼間の光景の上に、薄い影のような夜の光景が重なる。 道の向こうから馬車がきた。1頭だての馬車。南部からジェレゾ方面へ向け走っていく。 御者台には目深に帽子を被った男。窓が閉じられていて中が見えないが、客が乗っているのは確かだ。御者が振り向き小窓に向け、何か言っているからには。 馬車は個人用のものではない。辻馬車だ。車体に車輪の紋章がつけられている。 (あれは確か、ジェレゾに本部を置くメルボン馬車組合のものですわね…馬にも印が) マルカは手掛かりになりそうな情報を、逐一メモに記していく。 隣でサライが呟いた。 「夜中に馬車で移動…余程の事情があったのでしょうね」 詠唱しているリィムナも、似たような事を考えている。 (旅行者か…夜中に馬車走らせるなんて訳有りっぽいね。駆け落ちとか、何かから逃げてるとか…?) 馬車が突然出てきた足に潰された。それこそあっと言う間だ。 右足と左足が交互に念入りに踏みにじった後に残るのは、命のないただの塊。 靖は憂鬱そうに首を振る。 「アヤカシにやられて、少なくとも一瞬であったってくらいしか慰みにならんだろうな…まあ、これで馬車がどこらへんから来たかってのは見当がついたから、後は遺体の確認と聞き込みか」 (やっぱりそれをしなきゃならんのか…腹の中に妙なものを詰め込んだりしてませんように…) 映像だけでもげんなりきていたが、今回ばかりは逃げられない。 覚悟も新たに仲間と安置所へ向かった伏路は、瓦礫と一体化した遺体を目の当たりにし挫けそうになる。 「…うへあ…」 「駄目だよ伏路、回れ右したら。分別しなきゃ」 「分かっとるわい」 リィムナは器用に箸を使い、ひしがれた肉片から、雑物を取り分けて行く。 サライも同様。 「困りましたねえ、こんなに顔が潰れてしまって…あ、よかった。下顎はなんとか確保出来そうですね」 「…おぬしら、神経太いのう」 「あたしはもう慣れたから♪」 「僕もこういうの割と慣れっこでして」 エリカは細かい作業が不得手なのか、本末転倒な事を言い出す。 「…ねえ、これ一度まとめて焼いて骨だけにしたら、整理がしやすくなるんじゃないの?」 「エリカ様、大事な慰留物まで灰になってしまいますわよ」 マルカがたしなめているが、彼女ならやりかねないとも思えなくもない。 靖は急いで遺体の頭部を探り当て、髪を切り取った。 こびりついた血と泥で凝固してしまっている。 静かにユウキが言う。 「洗っておこうか。このまま遺族に渡すのもあれだから」 「…そうだな。これじゃ色もわからん」 伏路は棒を使い、鞄や服など、潰れていない遺留品の確保に乗り出す。 どれもが肉にへばり付き一体化しているのが泣かせどころだ。 (うう、後で夢に見そうだ。しばらく焼肉食えんかもしれん、わし…) なんとか3体の上着らしきものを引きはがし、それぞれのポケットを探る。 苦心惨憺の末、御者のものである馬車組合の免許証と、客のものである手帳が取り出せた。 血糊でえび茶色に固まっている手帳を、サライに借りた苦無でこじ開ければ、最後のページに住所が書いてある。 東部領のものだ。 ● ジルベリア東部。街道を少し離れた小さな町の、更にとっぱずれの場所にある家。 開拓者たちは初老の女に出迎えられた。 「ご苦労なことで。うちの亭主と息子が迷惑かけまして、申し訳ねえです」 家の中は箒できれいに掃いてしまったみたいに、何もない。暖炉の火が小さな音を立てはぜている。 「親子で飲んで博打して、どうしようもなかったですよ。あげく大借金こさえてねえ、ジェレゾに行って一山当ててくるんだって言い残して、逃げ出して。天罰ですかねえ」 女は靖から渡された2束の髪を手に取った。愛しそうに撫でた。 皺ばんだ手が震えているのを、リィムナは見てとる。 「おばあさん、仇はきっちり取ったよ。体が残ってなかったのは残念だったけど…お弔いさせてよ。これも何かの縁だから」 女は何も言わず、笑っているような泣いているような顔をした。 サライは彼女の曲がった背をさする。 靖とユウキは服と手帳を入れた箱を黙って眺める。 マルカはそっと席を外した。家族を失う辛さは身に染みて知っている。まずは存分に悲しむことだ。周囲が力になれるとすれば、それからのこと。 外に出てみれば空気が冷たく、思わず耳に両手を当てる。 丘の向こうからエリカと伏路が歩いてきた。 家の戸口を振り返ってからマルカは、そちらへ小走りに歩いて行く。 「エリカ様、御者様の方はどうでしたか?」 「ああ、大丈夫そうよ。組合から遺族にお悔やみ金が出るそうでね」 「独身で、残される妻子がおらんのがせめてもだったか。こっちはどうだったかの?」 「娘さんがおられるそうですので、今後はそちらに行かれると。こたび鬼籍に入った兄とは折り合いよろしからずだったそうですが、堅実なお人だそうです。ですので心配はなさそうですわ。借金問題についてはリィムナ様が先方に脅…話をつけられましたので、取り立てに来ることはございませんでしょう」 「そう。まあ、よかったわね」 マルカは冬晴れの空を見上げる。 間を置いてエリカに聞く。かなり真剣に。 「駄目な殿方というのは、死ぬまで駄目さが直らないものでしょうか?」 「え? どうしたのいきなり」 「いえ、なんとなく」 「待てい。何故わしを見る2人とも。わしそんな駄目ではないぞ」 |