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■オープニング本文 ジェレゾのとある裏通りに、とある泰国風料理店がある。 料理店の店名は『辛辛亭』。 名前の通り辛いものを出す店だ。だが辛いだけではなくうまい。だからこそ繁盛している。 タンタン麺や麻婆豆腐は当然として、チャーハンもラーメンもギョウザもシューマイも酢豚も八宝菜も豚マンも桃饅頭もとにかく出てくるもの全てが辛い。 お代わり自由のライスにさえ辛子のフリカケがびっちりかかっている。 辛くないのは実質お冷やだけだ。 辛さにもレベルがある。小辛、並辛、中辛、大辛そして激辛。 激辛を食べ切った客は今までのところ1人もいない。皆途中でギブアップする。何でも、続けて食べようと思っても、体が拒否するレベルだそうだ。 あくまでも噂だが、激辛ラーメンの湯気を嗅がせただけで天井を這っていたゴキブリが死に、落ちてきたらしい。 死にかけていた老人の口に入れたところ、生き返って500メートル疾走したとか。 とにかく辛い物好きの間で知られるこの名店が、今おおごとになっている。 厨房が火事だ。 「うおおおおおお! このどちくしょうがあああああ! いてもたろかあああ!」 店の主人が中華鍋を振るい炎の中で暴れまわっている。 彼は中毒とも言えるほど辛いものが好きである。 何にでも七味をかけ、仕事の最中ガム代わりに鷹の爪を噛み、晩酌にタバスコジュースを飲む。 そのおかげか頭には1本も毛がない。 仕事中も盛んに怒鳴りまくり、相手かまわずケンカし、たまに店内にまでものが飛んでくる。 この前は保健衛生の監査に来た役所の人間と殴りあいをやらかし、丸2日臨時休業になっていた。 そういう人だから、こんな奇行に及んでも、また何かスイッチが入ったのかとしか周囲には思えない。 駆けつけた開拓者たちも当然その考えであった。 「どうしたオヤジさん! 落ち着け! 店燃えてんぞ!」 「危険です! 火を消さないと、火を!」 「天井に火い回りかけてんぞ! おい水、水−!」 逃げて行く客の悲鳴も開拓者たちの呼びかけも聞こえていないのか、主人は中華鍋を振り回し続ける。 危なくて素人には近づけたもんじゃない。 「うおおおお! わしはやられへんぞ、やられへんからなあ! わしの店は渡さへんぞお! かかってこいやあ!」 「くっ…駄目だ、オヤジさん今日はまた一段と辛子が頭に回ってるぞ!」 「とにかく外に出しましょう! 消火作業の邪魔になりますから!」 開拓者たちは、熱気にむせながら厨房に入った。 するとそこには全身を炎に包まれたアヤカシがいた。 体の大きさは2メートルほど。見かけはトカゲっぽい。主人から頭を中華鍋でがんがん殴られつつ、火を吐きまくっている。 ――そう、彼は1人で暴れていたわけではない。店を守るためアヤカシと戦っていたのだ。 真相を知り感銘を受ける開拓者たち。目に涙が滲むのは騒ぎによって引っ繰り返った辛子袋の粉が、もうもうと舞い上がっているからである。 「オイ、オヤジさん危ないぞ! ここはオレたちに任せて早く逃げるんだ!」 「それはアヤカシです、危険です!」 主人は相変わらず何も聞いていない。 殴っても殴っても大トカゲが死なないことに業を煮やし、一斗缶を持ち上げ、中身をぶちまける。 「くらえやあああ!」 食用油が空中に放物線を描き、アヤカシの上に降りかかる。 火勢が一際強くなった。 「何やってんだオヤジー!」 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 灼熱地獄へ乗り込んだリィムナ・ピサレット(ib5201)は、何よりもまず真っ先に、手持ちのゴーグルをかけた。 「うっわー熱いね…ゴーグルたまたま持ってきていてよかったよ。早くやっつけないと!」 サライ(ic1447)、Kyrie(ib5916)、雁久良 霧依(ib9706)も続けて、同様の処置を取る。 皆リィムナと同じくたまたま偶然ゴーグルを持ってきていたのだ。 「ゴーグルがあってよかったです…」 「熱い…メイクが溶けてしまいそうですね。早く終わらせましょう。幸い、ゴーグルで唐辛子煙はどうにかなりますね」 「やだぁ、こんな焼き方じゃお肌にむらが出来ちゃうわぁ」 さて差し当たっての問題は燃え盛る厨房であり火を吐くアヤカシ。 に加えて自分で撒いた油に足を取られ派手に転び、調理台の角に頭をぶつける店主。 禿げ頭から噴水のように血が噴き出す。 「うわああああご主人ー!? しっかりしてくださいっ!!」 駆け寄るサライ。 だが心配は無用だった。店主は気合で起き上がってきた。 その帽子に火がついた。 「ふおおおおおおお! やりおったなダボがあああ!」 「ご主人、下がって下さい!」 「やかましゃぼけがあああ!」 「危ないですから! 死にますから!」 「ふぉおおおおおおお!」 「燃えてますから! 血が出てますから! 下がってくださいお願い!」 とりすがるサライを引きずって、なおアヤカシに突進しかねない様の店主。 リィムナは思った。 (説得…出来そうにないね) ならば実力行使あるのみ。 というわけで急遽サライを呼び戻し。Kyrie、霧依も加え額を突き合わせて打ち合わせ。 分担作業の手順が決まったところで、即時行動。 サライが主人に水をかける。 その水というのは流しの下にあった、冷凍イカを解凍するバケツの水だったのだが、この際背に腹は変えられない。 「落ち着いてくださいご主人! 火だるまになってますから!」 頭からイカと水を浴びせられ、店主の帽子は鎮火した。 すかさずリィムナが暴れださないよう時を止め、『獄界の鎖』で絡め、引き寄せる。 「ヘイパース!」 Kyrieは店主が勢い余ってまた角にぶつからないようその体を引き取り、霧依へ流すように受け渡す。 「お願いします、霧依さん!」 「オッケー♪」 霧依は胸をクッションに店主を受け止め、アムルリープを吹き込み眠らせた。起きている限り騒ぎ続けそうなので妥当な処置であろう。 サライはアヤカシの前に移動し、店主を逃がす間の足止めとして、影縛りをかけた。 「皆さん、今のうちにご主人を安全なところへ!」 リィムナは調理場の裏口を蹴り開け、大柄な店主の足を両脇に抱え持つ。 Kyrieは右手、霧依は左手を持つ。 「さあ、行くよ! よっこいしょお!」 こうして店主は外へ運び出された。 火の届かないところで落ち着いて見てみれば、顔は血だらけ赤鬼みたいになっており、頭の部分は焦げておりで、えらい有り様になっている。道端に倒れていたら、変死体と疑われそうなレベルだ。 「…念のため閃癒をかけておきましょうか」 Kyrieが手をかざし光を当てたところで、消防隊がやってきた。 彼らは開拓者たちを取り囲み、口々に質問を浴びせる。 「大丈夫ですか! 一体何が起きたんですか!」 「厨房から出火したと聞きましたが!」 「店主が錯乱して放火したとかいう目撃談が寄せられているのですが!」 事情を知る開拓者たちは、とりあえず聞かれたことに答える。 「いいえ、違うわ。火をつけたのはアヤカシよ。アヤカシ。この人じゃないわ」 「ええ、この方は店を守ろうと果敢にもアヤカシに立ち向かわれていただけです」 「すごいよね! 店主の鑑みたいな人だよねオヤジさん!」 火をつけはしていないが油を注いだという事実を、当然のように伏せた彼らは、再び店内へ。 サライが釘づけたアヤカシを水の刃で切りつけ、己を標的とするように仕向けている。 「こっちだ火蜥蜴! 僕が相手をしてやるぞっ!」 水はトカゲの体に当たるたび一瞬で沸騰蒸発し、蒸気と化す。 「ああっ熱いっ…! ふあああっ…」 思わず喘いでしまうサライ。 眉根を寄せる表情が悩ましげなものと見えてしまうのは、人柄のせいであろうか職業のせいであろうか。 (どっちにしても後でちょっかいをかけてみたいものだわね) 霧依は、一身に攻撃を引き受けている彼の努力を無にしないため、ゴールデングローリーをかざした。濡らしたアイギスシールドで火避けをしつつ。 「ボク、そんなに熱くならないの…冷ましてあげるわよ♪」 吹雪が渦を巻いてアヤカシに襲いかかる。 冷気において勝るゆえか、水よりも効果があった。炎の勢いが少し弱まる。 Kyrieは氷の式を呼び出した。 薔薇の形をしたそれは真っすぐアヤカシに向かい、弾け、砕け散る。 火勢はますます弱まっていく。 「よっし! そのままそのまま!」 うそぶくリィムナの鑽針釘がアヤカシの両目に刺さる。 急所への攻撃に身もだえしたアヤカシは、残っていた力を全て炎に変え吐き出した。 リィムナはそれを正面から食らう。急いで落ちていた中華鍋を取り上げ前にかざすも、前髪がちょっと焦げた。 「くっ…この程度の熱さ、お灸据えられるのに比べれば大したことないよっ!」 眉間にも鑽針釘が刺さった。 間断なく水と氷との攻撃を食らうアヤカシは、急激に縮み始めた。 縮んで縮んで、最後にじゅっという音を上げ、消える。 「まあ、早いのね。こらえ性がない子はダメよダメダメぇ」 軽口を叩きつつ霧依は、スプラッシュでそこいら中に水をかけて行く。アヤカシは消えても、つけられた炎はそのまま残っているのだ。 サライもあちこちに水をかけて行く。まだ燃えていないところも延焼予防に濡らしておく。 油と交じって勢いよく燃え上がっているところは、Kyrieが凍らせ押さえ込んだ。 合間に厨房から、食材、調味料、小麦粉、油、コンロに使う炭など濡れたらまずそうな品を、外へと運び出していく。 リィムナは防隊員と協力して、店舗の外側から消火作業…。 ● 店内は水浸し。 テーブルも椅子もびしょぬれ。壁にかけたメニューは字が滲んで読めなくなり、厨房の屋根は半ば燃え付きていた。冬の空が見える。 壁の一部も燃え崩れて、透き間風どころではない規模の風が吹き込む有り様。 かなりの惨状だ。が―― 「おう、あんたらには世話かけたのう! 礼に何でも作っちゃるで食いたいもん言うてみい!」 ――店主的には何ら問題ないらしい。タバスコをぐびぐび飲み、ぶはあと息を吐いている。 そこへ、役人とおぼしき人間がやってきた。 「またあんたの店か! 今度こそ営業停止にしてもらうからな! とりあえずこの消失店舗を片付けろ、即刻!」 「アホぬかせ、わしの店は焼失なんぞしてへんわ」 「しとるだろうがどう見ても! 今日こそ俺の担当地区から出て行け! 貴様はこの地域の癌だ!」 「何やとこの青二才が! いてもたろか!」 ついさっきまで血だるまの火だるまになっていたというのに、早くも力いっぱい殴り合い。 リィムナは感心した。店主の生命力に。 「霧依さん、すごいねオヤジさん。開拓者向きなんじゃないのかな、あの性格」 「そうねー。あれだけあからさまな肉食系の男って、最近ちょっと珍しいわよね。興味がわいてこなくもないわ」 逃げていた客がぼちぼち戻って来、濡れた椅子やテーブルを自前の雑巾や布巾で拭き始める。 燃えかすと化したあれこれをサライと一緒に粗大ごみ置き場へ運び、戻ってきたKyrieは、騒ぎに苦言を呈する。 「ご主人、辛いのがお好きなのはいいのですが、摂り過ぎは体に毒です。もし、体を壊してしまったら、貴方のお料理のファンが皆、辛辛亭の料理が食べられず悲しい思いをする事でしょう。どうぞご自愛ください」 聞いているのかいないのか――恐らく後者だろう。店主は目茶苦茶に暴れまわり続けている。 「ご主人−、あまり動くとせっかく塞がった傷口が開きますよー」 控えめなサライの注意をかき消すように、リィムナの野次が飛ぶ。 「負けるなオヤジさん! いけいけそこだ! フックだボディだチンだ! お兄さんガードガード! 足元ピヨってるよー! 気合を入れろ気合をー!」 彼女はこの事態を明らかに楽しんでいる。 霧依は戒めのため、頭をコツンと叩いてやった。 「これ、駄目よリィムナちゃん。無責任に煽っては」 されば大人として止めに入るのかと思いきや、さにあらず。 「サライくーん、手伝ってー」 「え、あ、はい」 店主と役人の周囲に杭が打たれ、ロープが張られる。 霧依はその中にひらりと飛び込んだ。 「僭越ながら私がレフェリーを務めさせてもらうわ!」 リィムナはゴング代わりに中華鍋を打ち鳴らす。 誰も止めるつもりがないらしい。 Kyrieは確信した。また閃癒を使わなければならないだろうなという旨を。 ● 相変わらず包帯だらけの店主は、厨房で忙しく立ち働いている。 店内は再び満員だ。 テーブルの一つに陣取っている開拓者たちは、水を吸ってぶよぶよになったメニュー表を手にしているところ。 一番先に注文を決めたのは霧依だ。 「私はこのお進め、酢豚定食にするわ。中辛でね。皆はどう?」 サライはびし、とメニュー表にある泰国ダックを指さす。 「僕は結構辛いのはいけるので、大辛の…折角ですから豪華な泰料理ということで」 「わっ、それいっちゃうんだ。大胆だねサライくん。あたしはどうしようかなあ〜」 目移り至極思案投げ首のリィムナは、隣の席のKyrieがこんな呟きを漏らすのを聞いた。 「私は甘党でして、辛過ぎるのはちょっと…小辛の青椒肉絲をいただきましょうか」 「ふーん…じゃあー、あたしも青椒肉絲にするー! 激辛で!」 彼女がそう言った途端、店内がざわついた。 「激辛…」 「激辛って言ったよな、あの子…」 「止めた方がいいんじゃないか、死ぬぞ…」 辛い物好きが集まっている中から出てきた懸念の声だけに、サライも心配になってきた。 「リィムナさん、小辛にしておいた方がいいんじゃ…」 「大丈夫大丈夫! あたしこう見えても辛いものんは強いんだから! あ、みんなに氷水作ってあげるね♪」 リィムナはテーブルの水入れを取り、その内のいくらかを氷に変え、それぞれのコップに注いだ。 やがて料理が運ばれてくる。 酢豚定食が最初だ。 「へいお待ちっ」 「あらっ、早いわね。いい仕事だわー」 酢豚定食は赤かった。酢豚自体はもちろん付け合わせのスープも、山形に盛ったチャーハンも。 霧依は酢豚を箸に取った。 食べた瞬間、額の生え際まで血が差す。 「最高ね! うまいぞおおおっ!」 霧依がテーブルをばんばん叩く所に、次の品が運ばれてきた。サライの泰国ダックである。 こんがり赤い狐色をしたアヒルの丸焼きから、ぱりぱりにほどよく焼けた皮を削ぎ取り、香菜を挟んで口に入れる。 垂れ耳が立ち上がり髪の毛が逆立った。 彼は即座にコップの水を飲み、目頭を押さえる。 「くっ…辛いですが美味しいですね! 氷水があって助かります…」 続いてリィムナとKyrieの青椒肉絲が運ばれてくる。 一見したところ両者の赤みは同じくらいだ。違いというほどの違いは見当たらない。 とはいえ、皿の隅にちゃんと『激』『小』の表示がしてある。 自分の前にあるのが『小』だと確認してから、Kyrieは割り箸を割った。 「ではいただきます」 青椒肉絲を一つまみ。 口中で大爆発が起きた。 「…ぐあああああっ! 辛っー!」 テーブルに頭を打ち付けどうにか衝撃を押さえ込もうとした彼は、水差しを手にとった。 「みみみ、水ををっ!」 一気にがぶ飲みしてもなおかつ辛さが収まらず、店の中を走り回り、エアギターで絶叫。 リィムナは床を転げ回り大爆笑。 不審に思った霧依とサライは、リィムナの皿とKyrieの皿を見比べた――いつの間にかすり替わっている。 食べる直前までは両方正しい置き位置にあったのだから……これはもう彼女の仕業と考える他ない。 「…リィムナちゃん、また悪戯したのね。お仕置きよ! 注文した激辛全部食べなさい!」 「えっ…やだ食べられないってば。ほらあたし子供だしい、カレーも甘口しか食べたことな」 言い訳に走るリィムナを、サライががっちり羽交い締め。 「…リィムナさん、また悪戯したんですね」 「あれ、どうしたのサライくん、すっごい力入ってるけど?」 あっと言う間に椅子に座らせぐるぐる拘束。とてもいい笑顔でこんなことを言う。 「さぁ、自分で注文したんだから完食しないと♪ うわあ、なんて真っ赤な青椒肉絲。あったかくなりそうですね。冬は特に繁盛しそうですね、このお店」 「あれ? ねえサライくんなんでそんなに楽しそうなの? なんで?」 霧依は激辛青椒肉絲をレンゲに山盛りし、リィムナの口へ押し込んだ。 「はい、あーん♪」 「ぎゃあああ! 辛い辛いー! うえええ! でも美味しい…いやでもやっぱり辛いー! ひぎゃああああ!」 やっと発作が静まったKyrieは、席へと戻る。 「はぁはぁ…リィムナさんの悪戯と言う訳ですか」 仕置きは霧依たちの仕事として任せ、改めて小辛の青椒肉絲を食す。 「これは素晴らしい…! 牛、ピーマン、竹の子の黄金コンビ、そこにスパイスという名の多様な奏者が加わり料理人という指揮者の下、1つの完璧なメロディを奏でている! これこそ辛みの桃源郷、アルカディア、そしてガンダーラ! ぜひお代わりをお願いします!」 彼がライス含め3杯目のお代わりに突入したとき、リィムナはやっと完食した。 その髪は半白になり、目も虚ろ。すっかり生気が抜けている。 「終ったぁ…辛過ぎてちびった…」 だとしても今日はおむつ装着なので大丈夫。 「はい、よく頑張ったわね♪ いい子いい子リィムナちゃん♪」 「えへへ…頑張ったよ…あたし頑張った…」 少女の頭を撫で撫でする霧依は、飴と鞭の塩梅を心得ている。 そんな彼女の影響をサライは、最近強く受けているらしい。 「そうだ霧依さん、今度、僕にリィムナさんのお仕置きを任せてくれませんか? いっぱい反省させてあげられると思うんです♪」 「……そうねぇ、次おねしょしたらサライ君にお願いしようかしら♪」 「へっ、サライ君が? っそ、そんなのやだよっ! 恥ずかしいし…も、もう絶対おねしょしないから平気だもん!」 嫌々するリィムナを横目にした霧依は、兎の耳に耳打ち。 「…これだけ氷水飲んだし、経験上、間違いなく今夜おねしょするわ。お尻にたっぷりお灸を据えてあげてね♪」 「押さえつけてお灸もたっぷり据えてあげますよ」 「明日の明け方、文学科の寮の前に来てくれるかしら♪」 「はい、じゃあ早速♪」 「ふふ、私も手伝うわね♪」 「ねえちょっと、2人とも何コソコソ話してるの、ねえってばー!」 リィムナが非情な現実を思い知るのは、そう、明日のことである。 |