食べて遊んでアル=カマル
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/23 01:14



■オープニング本文


 アル=カマル首都。
 本日は開拓者ギルドがバザールの一角を貸し切り、イベントを行っている。
 『無料試食会』と銘打った店舗に並ぶのは、開拓者たちが所有してはいるものの不要になった、又は持て余している食料アイテム。年の瀬も迫っている。余ったものを一気に消費して身辺をすっきりさせよう――という趣旨の催しだ。
 開拓者のみならず一般人も交じって、場は大いに賑わっている。
 むろんバザールのほかの場所では、通常通り種種雑多な店が開業中。
 色鮮やかな果物や野菜、大袋に詰められた香辛料、肉屋の店頭に飾ってある山羊の頭、強烈なアラック、金銀銅の細工物、艶やかな絨毯に布、宝石類、空を映すようなブルー・タイル。
 物悲しげなリュートの調べに乗せ吟遊詩人が唄うかと思えば、安普請の舞台で踊り子が、木戸銭目当てに舞っている。
 月と星が縫い取られた天幕のうちには占い師がいて、水晶玉をのぞき込んだり、カードを繰ったり、数珠を繰って精霊に呼びかけてみたり。
 かと思えば虫食いだらけな神代の古文書やら、時勢に便乗した旧世界旅行記なる代物が雑貨に交じって売られている――両者典拠のあやしいものであることは言うまでもない。
 幅の狭い曲がりくねった小道、思いもかけぬ場所にある出入り口、不意に現れる階段。
 どこにどう繋がっているか分からぬ作りの町は、時を忘れて迷い込むに最適だ…。

「さすが首都じゃな、何でもあるのじゃな。あれは何じゃあれは何じゃ。おおっ、こんなところにカタケットの海賊版が!?」

 あっちへこっちへ好奇心の赴くままうろつき回るエルフの姫様を、従者アイーダが追いかける。

「ステラ姫様! お待ちください! 離れると危険ですから!」

 その従者の後ろを、よれた白衣の女学者ファティマがついていく。

「なあアイーダ、紐か鈴つけたほうがええんちゃうの、あの子。口で言うたていっこもいうこと聞かへんで。ちゅうか、あたし失礼してええかな? 買いたいもんがあるんやけど」

「不人情なことは言わないでください。一応仮にも従姉妹でしょうよ」

「まあ、そうやけど。しかしなー、あんたも過保護過ぎるんちゃうか? 奴隷商人かなんかに捕まって直にどえらい目に遭わん限り、都会の危険を実感出来へんタイプやで、あれ。いっぺんやりたいようにやらせてみたらどうや? かわいい子には旅をさせろて言うやんか」

「お断りします!」



 とにかくこの町、一日かかっても見つくせそうにない。
 本日は仕事もお休み。開拓者たちは思い思い気の向くまま、今日という日を楽しむのである。



■参加者一覧
/ 相川・勝一(ia0675) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / アムルタート(ib6632) / クロウ・カルガギラ(ib6817) / サライ・バトゥール(ic1447) / 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476


■リプレイ本文


「さてと、このあたりでいいか」

 クロウ・カルガギラ(ib6817)はバザールの一角に足場を定め、相棒翔馬プラティンの背に積んだ荷物を下ろした。
 絨毯を地面に広げ、ざっとした天幕を張り、折り畳み式の陳列棚を設置。対面側に椅子を置き、簡易式コンロに火をつけ湯を沸かしにかかる。
 さて、持ち込んだ品の点検。いつのまにか本当によく溜まった。

「えーと、プリャニキ、パンプキンパイ、もふらまんじゅう、ヴァンパイアキャンディー、キャンディボックス、南瓜月餅、手作りクッキー、月見団子にブルーベリージャム…」

 改めて見ると、圧倒的に甘味が多い。そうでないのはにごり酒霧が峰と、澄酒清和、王様総選挙の際記念に貰った餅、そしてうなぎの蒲焼くらいだ。簡易喫茶店を開店することにして正解だった。

「泰国産めろぉんは切り分けとくか。後はテュルク・カフヴェスィ…おっと、湯が沸いたか」

 準備は整った。
 お菓子類を前面に押し出し、客引きを始める。

「そこのお嬢さーん、ちょっとお茶でもしていきませんかー」

 早速応じたのは、相棒鷲獅鳥イウサールを連れたアムルタート(ib6632)。
 久々の故郷、里帰り。どこかの舞台に上り思い切り踊って楽しもうと予定していたのだが、両手両足に包帯を巻いた姿では無理。手持ちの節分豆をぽりぽりやりつつ、ぶーらぶらバザール巡りをしているところ。

「はいはーい、お茶にお呼ばれするよー」

 席に着いた彼女はプリニャキを手に取り、食べ始めた。
 コーヒーを入れつつクロウが聞く。

「どうしたんだ、その怪我」

「ああ、これねー、最近受けた依頼がちょっと手ごわかったんだ。でもまあ、すぐ治ると思うよ♪ ちょっと踊れないのがざんね〜ん」

 根拠はないが前向き。それが彼女のいいところ。
 2番手のお客が来た。

「たのもう。わしにも馳走を頼む。そのめろぉんをくれ、めろぉん」

 呼びかけはあれども姿が見えない。

「ここじゃ、ここここ」

 声に導かれるままクロウが陳列台から身を乗り出せば、うんと低い位置に顔があった。
 相川・勝一(ia0675)の相棒人妖、桔梗である。

「あれー、桔梗ちゃん、勝一はどうしたの?」

 アムルタートの質問に桔梗は、めろぉんを口一杯ほお張ったまま答える。

「あやふなら、いまほろまひをさんふぁくしとるとこふぁろ。ふぉのへんのたべものらとふぁの」

 ゴクリと飲み込んだ後は言語明瞭だ。

「わしは本屋を見て回るで、単独行動しとるのよ。掘り出し物が多そうじゃからのう」

 羽音を響かせ、鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)の相棒羽妖精、ビリティスが飛んできた。

「いよー、皆さんお揃いで」

 着地した彼女は、もふらまんじゅうに食らいつく。クロウは顔のあんこを拭いてやりつつ、尋ねた。

「おいおいあんたも1人かい。主人はどうしたんだよ」

「ああ、テラドゥカならあっちの方で、実演販売やってる」



『いやあ、折角首都に来たんだから色々回らねえと損だろ? 店はテラドゥカスに任すぜ! じゃあなっ♪』

 そう言い残し飛んで行った相棒を思いやり、テラドゥカスは渋い顔。

(…全く仕方ない奴だ)

 だが逃げたものはしょうがない。
 潔く諦めハリセンで台を叩き、一時中断した叩き売りを再開する。

「さあ、これなるは天儀の菱餅だ。焼いて良し、煮て良し。天儀では、これを食べると女の子は嫁ぎ遅れることがないという言い伝えがある。こちらの雛あられも、同様の意味を持つそうで――」


 向かいの場所で店を開いているサライ(ic1447)は、テラドゥカスの口上に首を傾げる。

(え…そ、そうだったかな…あれ、そういうものだったかな…)

 彼の前には干飯のちまきと沢庵、そして炒り豆。サライの相棒羽妖精レオナールは、そのうちの炒り豆をちょいちょいつまんでいる。
 それはともかくテラドゥカスの店のうちで最も売れ筋なのは、今上げた菱餅でも雛あられでも、高級チョコレートでも天儀酒でもなさそうだ。
 大人気なのは――子供、特に男の子に限定してだが――彼自身である。

「ママー、これ欲しいこれ買ってー! このからくり買ってー!」

「買って買ってー!」

「これっ、やめなさい! それは売り物じゃありませんっ!」

「いやだー、欲しいーっ! 欲しいーっ! うわーん!」

 地面に寝転がり足をばたつかせる子供たち。
 テラドゥカスは彼らを頭や肩に乗せ、相手してやった。店を覗く母親たちの邪魔にならないように。

「すいませんねえ」

「いやいや、お気になさらず。よし子供たちよ。ついでだ。わしの必殺技を見せてやろう。テラドゥカス…ミチェーリ! ほぉうあたたたたたたたたたたたたた! あたぁ!」

 連続突きの風圧により巻き起こる風。膨らむ天幕。立ち上がる砂ぼこり。
 前髪に風を感じるサライは、ふと通りの向こうに目をやり、勝一に気づいた。
 食べ物を商う店を見回りながら、何かを探しているような素振り。
 事実彼は探していた。急に姿を消した相棒を。

「たまにはゆっくりしないと体がダメになってしまいますねー。…それにしても、桔梗がいないのが何か嫌な予感がする」

 相棒の身が危険という意味の嫌な予感ではない。自分自身に災難が持ち込まれるという意味での嫌な予感である。

「こんにちは勝一さん。お一人ですか?」

「ああ、サライ君。いえ、途中までは相棒と一緒だったんですが…どこへ行ったのだか、桔梗は…見かけませんでしたか?」

「いいえ、僕は見ていませんが…レオナはどう?」

「うーん、私も見てないわね」

「そうですか…」

 ため息をついた勝一は、サライに礼を述べ、別の区画を探しに行く。
 そこで目に飛び込んできたのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)の店だ。
 店主のリィムナはヒマワリ柄のタンクトップ。相棒人妖エイルアードは白いタンクトップ。
 どちらも裾丈がとても短く、ちょっと動くたびちらちらぱんつが見える。なのでエイルアードは顔を赤くし、常に裾を引っ張っている。

(は、恥ずかしい)

 エプロンをつけてもいいだろうかと聞きたくて主人を見れば、小太りな客の膝の上に座って、チョコレート、甘刀「正飴」、オリーブオイルチョコ、キャンディ、オータムクッキーを砕き混ぜ合わせたパフェ風のものを食べさせていた。

「はい、おにいちゃん、あーん♪」

「あーん」

「あ、クリーム口についてるよ♪」

 お客の頬をぺろりとやったリィムナは言った。

「ほら、エイルもやって」

 主人の命に逆らうわけにはいかないので、エイルも同様の営業活動を行う。相変わらず赤面しつつ。

「あ、あ〜ん」

 太りぎみなお客さんたちは鼻の下を延ばし大喜び。言われるままにお金を払っていく。
 無料を前提にしている催しになのにいいんだろうか。
 悩める彼は、リィムナにこそっとその旨を聞いた。

「いいんだよ、これはお菓子への支払いじゃなくて、あたしたちのサービスに対する支払いなんだから♪」

「でもこんなに高い値段でいいの?」

「みんな喜んでるしいいの♪」



 クロウのもとを辞した桔梗は、書物専門の出店が集まる一角に来ていた。
 古色蒼然とした巻物から、つい昨日刷られたばかりの新刊まで。出版元はアル=カマルから天儀、泰国、ジルベリアに至るまで真偽取り混ぜ幅広い。

「ふむ、こういった所の本屋は中々に掘り出し物が…おや?」

 彼女の目に留まったのは、天儀発祥の『漫画』が山積みされているコーナー。

 『ツーピース』
 『TARUTO』
 『白子のホッケー』

「…明らかに海賊版じゃな」

 そちらは後で内容を確かめるとし、まずは野生の勘で、BLコーナーを捜し当てる。
 ご多分に漏れず女子たちで溢れている。

(おや、あの御仁は…確かステラ姫とかいう…)

 彼女の風貌、人となりについては、さる筋から聞いている。確かめるにしくはなし。

「もうし、主はステラ姫かの」

「む、お主は何奴じゃ」

「いやいや、わしは怪しいものではない。通りすがりの禁書販売業者じゃ。主はこういうものが好きと聞いたのじゃが買わぬか? カタケットに今まで出した奴に、今ならおまけ本も付けるのじゃ。両者少女と見まごう美少年が特に理由もなく不特定多数とくんずほぐれつする内容なのじゃが」

「即刻見せるがよい」

 棚の陰でひそひそ交渉した結果、商談は成立した。
 ステラ姫はすでに一杯となっている手提げ紙袋に新たな2冊をねじ込み、次なる収穫を目指し店を出る。



 勝一は問題になりそうなリィムナたちの店を避け、ずっと先にある、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)の店に寄る。

「すいません、お茶を一杯いいですか」

「ええ、どうぞ」

 彼女の店にあるのは、おせち、梅干、沢庵、干飯、もふら飴、ジャムセット、月餅、月見団子。
 お客様のカップにこぽこぽ紅茶が注がれる。

「こうして見ておりますと、不要な食料品、随分沢山出ていますのね」

「そのようですね。買ったはいいけど使いどころがなかなか見つからないというの、あるんでしょうね」

 相棒鬼火玉戒焔は、ポットのお湯を沸かしながら、右を見たり左を見たり落ち着きがない。

「戒焔はアル=カマルは初めてでしたか。ふふ、随分珍しげに見渡していますわね」

 かく言うマルカも十分周囲の物珍しさを堪能している。
 ジルベリアとは全く異なる色と形、音。通りを眺めているだけでも飽きない。
 いつか読んだアル=カマルの御伽噺――キャラバンや空飛ぶ絨毯や宝石の谷、ランプの魔神。ターバンを巻き金の鞍に乗るアヌビスの王子様、宝石を縫い込んだ紗を頭にまとい銀の鞍に乗るエルフのお姫様といったイメージに浸っていた彼女は、不意に目をぱちくりさせた。
 本物のお姫様が視界に入ってきたのだ。
 まさしく御伽噺に相応しいエルフの少女なのだが、紗は背中までずり下がり髪は乱れ、手に紙袋を下げている。

「もし、ステラ様ではございませんか」

「おお、そちはいつぞやの無礼な異国の女ではないか。ちょうどいいぞよ、妾の荷物を預かりゃれ。重くてかなわぬ」

 親近感にあふれたというのか、傲岸不遜というのか、微妙な言動。
 マルカはひとまず席にかけた彼女に、梅干しを勧めた。

「よろしければ食べてみませんか」

「なんじゃこれは」

「疲労回復に効く天儀の保存食です。プラムを干したものですよ」

「ほう。なればデーツのようなものか」

「そうですわねえ、当たらずと遠からずかと」

 違う。だいぶ違う。
 教えてやろうとした勝一だったが、遅すぎた。
 ステラはしわばんだ梅干しを、丸ごと口にほうり込む。



 サライとレオナールは品がはけたので店を畳み、バザールの散策。

「流石は首都、賑やかだね」

「そうねぇ♪ ん? あれあれサライきゅん、あれ桔梗ちゃんじゃない?」

「あ、本当だ。おーい、桔梗さーん」

「おお、なんじゃ、サライにレオナールか。何用じゃ」

 売り物の本の上へ座り込む人妖に、サライは、勝一が探していた事を教える。
 するとこう返された。

「ほう、そうか。なら勝一を見かけたら、わしはここにいると伝えてくれ。しばらく動く予定はないでな」

「探しに行かないんですか?」

「行くわけないじゃろ。子供じゃあるまいし。何かあったら迷子センターに1人で駆け込める年頃じゃ、あ奴も」

 迷子センターなんてここにあっただろうか。
 真面目に考えてしまうサライから離れた、レオナールは、本棚まで飛んで行き、品を物色。

「まあ、こんな所にもBLコーナーが♪」

 水を得た魚のように飛び回り、気に入った物件を引き出し、カウンターの端に積んでいく羽妖精。
 もちろん支払いは主人持ち。

「『少年後宮物語』いいわあ。購買欲がそそられるわあ…あら」

 そんな彼女の視線が、とある背表紙に釘付けとなる。

『白兎の穴』

 手に取りぱらぱらめくり、激怒。

「これ、うちの本の海賊版ね、全く失礼しちゃう!」

 桔梗が横から本を取り、流し読みし、頷く。

「おー、これは明らかにパクリじゃの。オリジナルには劣るが…まあそこそこ描けてはおるかな。で、どうするかのレオナール。訴えるかの」

「ふ。そんな無粋なことはしないわ。今度出す新刊にこの白兎きゅんをゲスト出演させる。それだけのこと」

「パクリ返しか」

「ええ。私はカタケ世界で不動の地位を築く人気作家。かたやこちらは未だ名の売れない新人作家…パクられたと言ったところで、世間様が信じるかしら? せいぜい吠え面をかくがいいわ、ほほほほほ」

(発想が黒いなー、レオナ)

 あんまりもめないで欲しいのだが、と財布の中身を確かめるサライは思う。
 そこへアムルタートがやってきた。

「あっ、サライ! 奇遇だねー!」

「あ、アムルタートさん。これはこれは。この度は名誉の負傷をなされたそうで…」

 頭と一緒に耳を垂れたサライは、彼女の買い物袋を眺めた。
 右側のにはお菓子がぎゅう詰めに入っている。カターイフ、クナーファ、フティール、バクラヴァ、アッシャベーキーヤといったアル=カマル特産のものから、このところ天儀ではやっているというビスケットサンド、クロワッサンドーナツ、クリーム特盛カップケーキまである。
 左側のはアル=カマル風円屋根廟の置物。特に役立つわけでなく、きれいなわけでもなく、そのくせかさばって置き場所に困るというありがちな土産物だ。

「この右の袋はねー、姉ロリへのお土産! この辺の美味しいスイーツ! 最近はやりのやつとか、昔から美味しい奴とか! 左の袋はねー、兄ロリへのお土産! 何が欲しいって聞いたら別荘って言われたんだけど、そんなの買えるわけないしー! じゃあサライ、はいっ♪」

「え? あの、なんで僕に荷物」

「あ、そうだ。果物も買ってかないと♪ ココヤシとか美味しいよね♪ あー、それからそれから、綺麗なバラージドレス、新しいの出てたら買うんだ〜♪ えへへ〜ショッピングたーのしーい!」

 自分はよくよく何かを押し付けやすい人間だと思われているらしい。
 そう認識する以外にないサライは、無言で荷物を持ち上げる。

「おっ! レオナールじゃねえか♪」

 ビリティスが威勢よく急降下してくる。
 レオナールに抱き着き、おっぱいに顔を埋め、じゃれまくり始める。

「んん〜このおっぱい最高だぜ♪」

「もう、ビリティスちゃんたらお世辞がうまいんだから♪ あら、なんだかいい匂いがするわねえ」

「おお、さっきそこでケバブ食ってきたんだ。店頭に並んでるロクムとかバクラヴァも試食してきてよ。あ、土産にちょっと包んできてもらったんだけど、食うか?」

「そりゃもちろん♪」

「あ、わしもわしも、食うぞ。くれ」

 相棒たちの姿にサライは思う。

(楽しそうだな…)

 彼の横腹を、イウサールがそっとつつく。どうやら慰めてくれているらしい。
 おかえしとして少年は、鷲獅鳥のツムジを掻いてやった。



「いえ、決して悪戯心ではありませんのよ。わたくしも天儀で初めて食べた時は涙目になりましたが♪」

「ええい何が面白いのじゃこの無礼者め。ここが妾の町であったなら即刻牢屋にぶち込むところじゃ」

 梅干しを食べさせられたステラは、顔中でぶんむくれている。
 マルカにはそれがちょっと面白い。

「まぁお口直しに甘い物を」

 もふら飴を勧めつつ、もし妹がいたらこういうものなのかな、とも思う。

「ふん、もう騙されんぞ。どうせそれもめちゃくちゃ酸っぱいのじゃろ」

「そんなことありませんわ。ほらこの通りわたくしが食べても平気ですのよ。そういえばステラ様はこういう物に興味がおありでしたか?」

「なんじゃいこれは」

「いわゆる人情本ですわ」

 「百合の」という解説も待たず、ステラは本を開き、たちまち額を曇らせる。

「ちっさい字ばかりじゃ」

「不平を言ってはいけませんよ。絵草紙ばかり読んでおいででは、頭の働きが鈍りますわ」

「やかましいわ大きなお世話じゃ」

「あ、ステラ様は殿方同士の方がよろしいのでしたかしら。どちらにしてもわたくしには理解できませんが。やはりお相手は素敵な殿方がよろしいですわ♪」

「ふん。そちの如く根性の悪い女には永久にかなわぬ夢じゃわ」

「まあ、なんてお口の悪いこと♪」

「いひゃひゃひゃ!」

 姉妹ゲンカというのはこんなだろうか、と柔らかい頬を摘まみつつ考えるマルカ。
 そこにエイルアードを連れたリィムナが通りがかる。

「あ、マルカ。あたし達にも飴ちゃんちょーだい」

「ええ、いいですわよ。どうぞ。お店はもう終わりですの?」

 リィムナは明るく答えた。

「終わったっていうか強制終了になっちった♪ 風営法的なものに引っ掛かって♪」

「…あやうくお縄になるところでしたよ…」

「もー。暗い顔しないエイル。ため息ついたら幸運が逃げちゃうぞ♪」

 ため息よりもこの主といることにより逃げて行く幸運の方が多いのでは。
 もわりとした疑いを抱くエイルアードの前でリィムナは変身した。アル=カマルを統べる巫女、セベクネフェルの姿に。

「少し散歩してくる♪ 今度はこれでサイン会と握手会に挑戦だ♪」

「それは拙いよ! 偽者! 不敬罪だよっ! 待ってリィムナー!」

 雑踏に消えて行く2人。
 高みからビリティスが降下してくる。
 戒焔は挨拶のため、同じように飛び回る。

「よー戒焔! いつも熱いなお前! なあ、今ここにセベクネフェル様いなかったか?」

 勝一が早速訂正する。

「違いますよ。今のはリィムナさんですよ。ところで桔梗を見かけませんでしたか?」

「ああ、桔梗なら向こうの通りにいたぜ。本の店に入り浸ってた」

「そうですか、ありがとうございます」

 やっと相棒が捕まえられそうだ。
 ほっと胸を撫で下ろした勝一は、ビリティスに礼を述べ、その場を後にする。
 ビリティスも離れた。一旦テラドゥカスの元へ戻り、土産を渡すために――皆で食い散らかしたせいで、大分少なくなってしまったけど。



「へえ、見失ったのか」

 クロウが話しかけているのはアイーダ、そしてファティマだ。
 品がはけたので相棒とバザール見学を始めたら、ステラ姫を捜し奔走している彼女らに、偶然行き当たったのである。

「まあ今は少しくらい好きにさせてあげても良いんじゃないか。もう数年したら輿入れも決まる筈。気兼ねなく趣味に没頭できるのは今だけなんだ」

 放任主義的な意見に、ファティマが同調する。

「せやね。輿入れしたらいくら何でも今ほど好きにはいかんやろしねえ。どないー、アイーダ」

 アイーダは渋い顔。

「その輿入れが決まるかどうか普段の振る舞いで決まるんです。そもそも都会のど真ん中で年端も行かない者が1人歩きなど、危険もいいところです!」

「そうかなー、俺彼女くらいの年には結構こういうとこうろちょろしてたけど、なんも危なくなかったぜ?」

「ああ、それあたしもやな」

「姫様は温室育ちの令嬢です。蝶よ花よと育ったお方です。あなたたちとは前提が全く違います」

 ……蝶よ花よの令嬢がいかがわしい男色本にはまるだろうか。
 そんな疑念を抱くクロウ。
 彼の心情を察したか、ファティマがこそこそ耳打ちする。

「男同士の薄い本にはまるちゅうのはまだええ方や。本格的に遊びを覚えるよりはな。ええとこのお嬢ほど危ないんよ。免疫ない上に金も暇もあるから、とことんまでいってまうねん。最近やと豪商ナシリーヤ家のいとはんがな、砂犬イブラームの情婦になって出奔したとか」

「砂犬イブラームというと…ジャウアドハッジの郎党の?」

「そう、その――」

 プラティンが急に立ち止まり、いなないた。
 何事かとなだめかかるクロウは、相棒の視線の先に、浅黒い精悍な男を見つける。
 それは、警邏に追われていた。

「待てジャウアドハッジ−!」

「王都に何用だー!」

「ははは、家畜小屋の豚として生きる都市の腰抜け野郎共よ、俺を捕まえてごらんなさーい!」

 半泣きのエイルアードが彼らの後を追っている。

「リィムナやめてー! 本当にお縄になるからー!」



(あっ、あれは…)

 服売り場に根を生やしたアムルタートとレオナールから、こっそり離れたサライは、アイス屋の店頭にいるステラ姫を確認する。

(マルカさんと一緒みたいですが…おかしいですね、アイーダさんがいません…)

 良家の令嬢がお供もつけず市街を出歩くということは、まずない。豪勢な装いをしているときは特に。
 アイーダは責任感の強い人間だ。彼女が姫を放置すると思えない。ということは、姫が意図的に離れているのだ。
 現在はマルカが一緒にいるのでまだしもだが、カモられそうでしょうがない。

(ああ、あんなに分かりやすく財布を引っ繰り返して…金貨がいっぱい入ってるところなんか見せちゃいけませんって! 後ろから知らない人に覗き込まれてますよほらほら。ああよかったマルカさんが追い払った。警戒心薄いな……少しお灸を据えないといけませんね)

 サライは人波をかき分け、彼女らのいるところに歩み寄る。

「姫、ご機嫌麗しゅう」

「ぬお! 生サライ! そちもここにおったのかや生サラ…」

 妙に艶っぽい微笑を浮かべるサライを前に、ステラの言葉は尻すぼみ。
 手を後ろに顔を赤くしてもじもじ。間違いなく夜春に引っ掛かっている。

「お勉強はちゃんとやってます?」

「もちろんじゃ。1日2時間は必ずやっておる! 大進歩じゃと父上も喜んでおられる! お小遣いもアップなのじゃ!」

「それはすごいですね。で、今日は?」

「3分じゃ! 勉強ばかりしておると人間が駄目になるからのう!」

「…またお尻を叩かれちゃいますよ?」

 サライから視線のパスを受け、マルカがにっこり。

「いやですわステラ様、それはさすがに冗談ですわよね?」

 姫は一瞬びくっとした後顔をそらす。
 サライがくすりと笑った。

「ダメですよ、ちゃんと言う事を聞かないと。…攫っちゃいますよ?」

 言うと同時に姫の顔の横にある壁に、手をつく。

(こっ、これはもしや噂に聞く壁ドン!?)

 状況を忘れつい見入るマルカ。

「悪い子は怖いお兄さんに食べられちゃうんです…」

 顔が近づく。
 ここからはもうキスしかない。
 と思ったところで更なる展開が来た。
 サライの背後から、更に手が、壁にドン。

「ツラが気に入ったぞ小僧、俺のところに来い!」

 肩ごしに振り向いたサライは、歯を光らせる男の姿に言葉を失う。

「こっ…このシチュエーションは何と呼ぶべきですの!? 壁ドンドン!?」

 度を失うマルカ。

「美少年ハントの美中年キター!」

 興奮するステラ。
 反応三者三様。
 最も早く我を取り戻したのはサライだった。

「独立派のジャウアド!? 何故首都に…」

 とっさに姫を庇おうと相手に向き直ったサライは、胸倉を掴まれた。

「うわっ! な、何をす…わっ」

「大丈夫、俺もホモだぜ心配するな!」

「『も』ってなんだ、『も』って!」

 突っ込みを入れ足払いをかけるサライ。

「うおっ!」

 相手の襟を掴んだまま後方に倒れるジャウアドハッジ。
 引きずられ前のめりに倒れるサライ。
 偶然が重なり気が付けば少年が男を押し倒す形になっていた。
 しかも事故とはいえ唇が重なった。一瞬だけ。
 騒ぎを聞き付け飛び込んできたレオナールが空中三回転する。

「きゃー♪ ショタ攻のおじさま受け♪ 下剋上よ♪」

 値札のついた売り物を着たアムルタートが、ひゅーひゅー口笛を鳴らしている。

「これはこれで悪くないよ、いっちゃえサライくん!」

 呆然とするサライの目に、赤面する中年男の顔が映った。

「せ、責任取ってよね…」

「ぬおおお! 攻守が切り替わりおった! どうなるのじゃ、これからどうなるのじゃ!」

 期待していたステラには悪いが、どうもなりはしなかった。中年男の姿が消え、代わりにリィムナが現れる。

「なんてね♪」

 ペロリと舌を出す少女にサライは、珍しく怒った。垂れた耳が立つほどに。

「…おかしいと思ったらリィムナさんですかっ! 後でお姉さんに言っておきますからね!」

「ひいいいい言いつけるのは勘弁っ! お尻叩きじゃすまなくなるぅ!」

「駄目です言い付けます!」

「うわーん、サライくんの意地悪−!」

 姫様−、と声が聞こえたので、マルカはそちらに顔を向ける。
 アイーダ、ファティマ、クロウの姿が見えた。

「おーい、いつの間にかおもしれえ事になってんな♪」

 逆方向から、テラドゥカスの肩に乗ってビリィが来る。

「生BLの現場はここと聞いたのじゃが!!」

 勝一を連れ桔梗が走りこんできた。


 …騒ぎはまだ続きそうだ。