TIKAN
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/12 22:54



■オープニング本文


 ジルベリアの首都ジェレゾ。
 この首都における名物の一つが乗合馬車だ。馬3頭を用いた大型車両は庶民の足。毎日多くの人でごった返す。事件はその中で起きた。

「キャー!」

 絹を裂くような悲鳴。
 乗客の耳目がいっせいにそちらへと向く。
 見れば妙齢の娘が顔を真っ赤にし、隣にいる男を指さしているではないか。

「痴漢、この人痴漢です!」

「えっ…知らないよ、俺はそんなことしてないよ!」

「嘘よ! さっき私のお尻を撫で回したじゃないの!」

「だから知らないって! 俺じゃない!」

 声をあらげる男。涙ぐむ娘。
 見た目では後者の方が圧倒的に有利だ。
 停留所に馬車が止まったところで、警邏が乗り込んできた。

「あなた、ちょっと詰め所までご同行願えますか」

「なんでだよ! 俺は何もしてないよ! 本当に何もしてないんだ信じてくれよ!」

 無実を叫びながら車両から引きずり下ろされ連れて行かれる男。
 その姿を眺め、ほくそえんでいる真犯人がいた。
 彼の姿は車両にいる誰の目にも留まらない。まるで背景の一部であるかのように。
 彼こそはアヤカシ。
 痴漢に対する不特定多数の妄念から生み出された痴漢アヤカシ。



 マーチン邸。
 居間にはエリカの後輩たちが来ている。お茶を飲みお菓子をつまみ、サロンにでもいるようなくつろぎっぷりだ。
 そこにぶちもふらのスーちゃんと、内縁の夫ロータスも交じっている。

「乗合馬車で痴漢が流行ってるそうっすね」

「そう、今週だけでも50人捕まったんだってさ」

「世も末っすねえ。まあ、あたし達は自家用馬車で通学してるっすから、あまり関係ないんすけどね」

「そういえば番長が子供の名前をドラゴンにしたって本当ですの、ロータス様?」

「まだ確定はしていませんよ。したがってますけどね彼女は」

「ご主人たまはネーミングセンスないでちからなあ。相棒の名前も、ぶちだから『スポッティ』、しましまだから『ゼブラ』。見たまんまでち」

「レオポールは違うじゃないっすか」

「レオポールたんのはご主人たまがつけたんじゃありまちぇんよ。ペットショップでつけられたのでち」

「あ、そうなんだ。…ロータス様は、どんな名前にしたいんですの?」

「カモミールですよ」

「へえ、そっちの方が断然いいよね。響きがきれいだし」

「ドラゴンはちょっとねえ…」

「そうっすか? あたしはドラゴンでもいいと思うんすけど。かっこいいじゃないっすか」

「アガサのセンスも野獣番長と同レベルですの」

「あ? 何か言ったっすか」

 話し声が急に低くなった。剣の柄が鳴る音と足音とが聞こえたのである。
 扉が開いて出てきたのは、エリカの顔。

「あら、アガサたち来てたの?」

「う、ういっす、お邪魔してるっす。どうしたっすか仕事じゃなかったっすか番長?」

「そうよ、仕事中。ちょっと着替えたいから戻っただけ」

「はて、今のご主人たまは完璧な開拓者ルックだと思いまちが?」

「ええまあ、そうなんだけど。今回ばかりはそれじゃ駄目みたいでね。出てこないのよ、痴漢が」

「…番長、今なんて言ったですの?」

「痴漢よ痴漢。痴漢してくるアヤカシなのよ、今回退治しなきゃいけないのは」

「世の中ばかりかアヤカシも乱れてきてまちなあ」

 ロータスが席から立ち上がった。
 エリカの肩に手をかける。

「じゃあ僕が服選びしてあげますよ」

「いらないんだけど」

「いやいやそう言わずに。男の意見は聞いた方がいいですよ。痴漢も男なんだからして」






 数分後。
 だぶつき気味のセーターにロングスカートに丸っこい伊達メガネという地味な女が1人出来上がった。

「ちょっと…何これ。こんなんで釣れるわけ?」

「釣れると思いますよ。おおむねの痴漢は大人しそうな相手じゃないと向かってきませんから」






■参加者一覧
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
八条 高菜(ib7059
35歳・女・シ
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武


■リプレイ本文


 満員馬車とは乗客が満載された大型馬車のことである。
 本日も座席と吊り革の数を超える乗客が男女入り乱れ鮨詰め状態。降りる予定の停留所まで、ひたすら忍耐を強いられている。



 八甲田・獅緒(ib9764)は馬車停留所の張り紙に目をやった。

『痴漢に注意! 最近頻発しています!』

 文字を読み終え、側にいるマルカ・アルフォレスタ(ib4596)とエリカに向かって首を振る。

「アヤカシまで変態になるなんて、世も末なのですよぉ。確かに負の感情は集まると思いますけどぉ」

 マルカは俄然憤慨していた。

「全くですわ。このような不逞な輩はアヤカシでなくとも血祭りに上げるべきですわ」

 本日彼女はメイド姿――世にはメイドに異様な執着を見せる殿方がいる、という情報をさる筋から仕入れてのことである。
 実のところ彼女、乗合馬車に乗るのはこれが初めて。自家用馬車派なので。

「そうねー。顔の形が変わるくらいしなきゃ性根は直らないわよね」

 エリカは指をバキバキ鳴らせている。外見をどう取り繕おうが、好戦的な態度は改められないもようだ。

「エッチなのはいけませんよね。とにかく、皆が襲われたら直ぐに対応出来るようにしないとですねぇ」

 獅緒は自分も狙われる可能性があることを、あまり考えていないらしい。
 そこにエメラルド・シルフィユ(ia8476)がやってきた。

「待たせたな」

 任務に当たって彼女は、ロングスカートのドレス姿。普段に比べればかなり大人しめな格好。それもこれも不埒なアヤカシを狩る邪魔にならぬようにするためである。
 聞くところによるとTIKANアヤカシは変態のくせに小心で、開拓者の姿を見かけようものなら出てこないそうだ。

(ある意味攻撃性は低そうだが…アヤカシ相手に剣もなしか…正直心細い…)

 内心不安な気持ちを抱いているシルフィユとは真逆なノリノリの一団が、遅れてやってきた。
 八条 高菜(ib7059)、リィムナ・ピサレット(ib5201)、そして雁久良 霧依(ib9706)だ。
 それぞれ趣向をこらしている。まずは高菜。

「私は、しとやかな妙齢の女性というコンセプトでいこうと思います。もしくは肉欲を押し込めてる未亡人イメージで。ですのでほら、呉服の下にこんなのを」

「うわ、すごい。もう紐ですぅ」

 呉服の下からちらりと見えた下着の過激さに、汗をかく獅緒。
 続いてリィムナ。

「あたしは1人で初めて乗合馬車に乗る園児って言う、いかにも変態心をくすぐるコンセプトでいくよ! このジェレゾ幼稚園の制服…黄色い帽子、水色スモック、ピンクミニスカ、黄色い鞄…もう無敵だね♪」

「…これに引っ掛かったら、最早痴漢とかで済まされるレベルじゃないわよね」

「…ええ。その場で殺されても文句の言えない犯罪者と断定して差し支えなしかと…」

 ひそひそ囁きあうエリカ、そしてマルカ。
 彼女らの傍らでシルフィユは困惑していた、残る1人、霧依におけるコンセプトがどうしても理解出来なくて。
 そこはかとなく脂ぎったひっつめ髪、ノーメイク、ぐるぐる眼鏡 ジャージというだぶだぶの作業着、サンダル履き。ゆるい襟元から明らかにブラをつけていない巨乳の片鱗が見え、下はゴムが緩んでいるのか片側が落ち木綿白パンが顔を覗かせ、とどめとしてあちこちインクの染みがついているという有り様。
 こんなのに果たして痴漢が引っ掛かるのだろうか。

「ふふ、心配無用よ。自慢ではないけれど私は敵を知り尽くしている…修羅場の果てに漸く入稿を済ませたカタケ作家…男っ気の全くない女…己の肉体の豊満さを自覚せず無防備に構える女…ナイーブな嗜虐心の琴線に触れないではいられないキャラクターよ?」

「…ほう…そんなものか…私には微塵も理解出来ないがプロである貴公が言うなら恐らくそうなのであろうな…」

 通りの向こうから馬車がやってくる。
 いつもながら満員だ。
 女開拓者7名は頷きあって乗り込む。
 込み合った車内で立ち位置を確保したマルカは、ふう、とため息をつく。

(市井の皆様方は、毎日このような苦労をなさっているのですね…痴漢云々は別としても、改善の余地ありですわ…馬車の本数を増やすか車両を増やすかした方がよいのでは…)

 真面目な考察をする彼女から少し離れたところでは、高菜が窓の外を憂鬱そうな表情で眺めていた。
 彼女はマルカと違い、特に何か憂えているわけではない。痴漢が寄って来やすそうなイメージ作りをしているまでである。

(ほっとくわけには行かないですねえ、痴漢…いろんな意味で…ふふふ…)



 昇降口付近に足場を確保したリィムナは、時折不安げな表情で辺りを見回し、スモックの前を掴んでもじもじしていた。『大人しそうな子供が尿意をこらえている』の芝居だ。

(さあ来い、来るんだ痴漢!)

 獲物を狙うハンターの心意気で待ち受け、人垣の向こうにいる霧依の様子を確かめれば、口を半開きに目もうつろに、まるで幽鬼の弛緩状態。

(さすが霧依さん、完璧に覇気を殺してる。どこから見てもうらぶれたカタケ女だよ)

 芸達者さに感心するとともに、今朝方おねしょし、彼女に叱責された件を思い出す。罰として現在おむつを履かされていることも。
 厚ぼったくてごわごわした布の感触を改めて意識した途端、変化が体に現れた。

(うっ…まずい…本当にしたくなっちゃった)

 次の停留所までまだ遠い。
 停留所まで仮に持ったとして、押し合いへし合いしながら降りて行くことに持ちこたえられるかどうか。
 刻一刻高まってくる切迫感に、たちまち身動きならなくなるリィムナ。額に汗が浮く。
 その背後から突如手が伸び、スカートの上からおむつの両端を持って、ぐいと上に引っ張り上げた。
 不意の刺激を受けダムが決壊する。

「あ…ううっ」

 羞恥で涙目になるリィムナ。
 なおおむつを吊り上げてくる相手に対してされるままだ。

「やめてくだちゃい…」

 それを眼鏡越しに眺める霧依、大興奮。

(そう…あんな責め方もあるのね…勉強になるわ…)

 余計な知識を新しく仕入れてしまった彼女の視界から痴漢が消えた。
 はっとして視線だけ動かせば、高菜の背後に移動している。
 いかに痴漢としての情熱を燃やしていても、これだけ周囲が込み合っているのだ。あの動きは人間には無理であろう。

「……んっ…?」

 高菜はほとんど身動きしない。眉を悩ましげにひそめ、小さく震えるばかりである。

「………は、ぁっ…」

 耐え切れないように漏らす声も、妙になまめかしい。
 とにかく抵抗はしない。一切しない。その心は、逃げられると困るから1割、自分が楽しみたいから9割。
 異変にいち早く感づいたシルフィユは急ぎ接近しようと試みるが、周囲にびっしり人がいて身動きままならない。
 おまけに近くの男が新聞を広げたせいで視界が遮られた。

(ええいこのハゲめ! 満員馬車で立ったまま新聞を読むな迷惑だろうが!)

 声を大にして言いたいが、そうすると痴漢アヤカシが驚いて逃げてしまうかも知れず、奥歯を噛みしめ光る頭を睨みつけるばかり。
 あれこれし尽くしてから、痴漢は場を移動した。今度はエリカだ。しかし彼女は触られた瞬間ものすごい勢いで振り向き睨んだ。どうやら自分が囮の役をしていることを忘れているらしい。
 急いで逃げた痴漢は続いて霧依に手を出す。
 待ってました状態だが、そこはおくびにも出さず、消え入るような声で被害者を装う霧依。

「やめて…くださ…」

 その内心はこうだ。

(あぁん♪ 手を服に突っ込んで直に触ってぇ♪ もっと♪ 辱めてぇ♪)

 色事師として恥じないプロ根性。
 だが彼女は開拓者としても恥じないプロ根性を持っていた。
 堪能するだけ堪能し次のターゲットへと移動して行くアヤカシを見失わないよう、そのズボンの裾に、アイヴィーバインドをつけた。
 そうと気づかぬ痴漢は、そのままシルフィユのもとへ向かう。
 ――彼女は油断していた。自分には痴漢が来ないものだと。

(まあ他にも囮はいるしな。怪しまれないように努めるが手を出されないのは仕方あるまい。それよりもどこに行きおったのだ…くそう、いい加減に新聞を読むのを止めんか貴様!)

 確かに彼女、顔立ちが及び雰囲気が派手だ。並の痴漢ならまず近寄って来ない。だがしかし、痴漢アヤカシは見損なわなかった。外見のうちに秘められている乙女心という奴を。
 さわりと自分の尻に何かが当たってきた瞬間、シルフィユがまず思ったのは、鞄か?ということであった。
 間を置いて手だと確信した途端、激しく狼狽する。
 こういった系統のアヤカシを相手したことは何度かあるが、目標として認識されるのは、実のところこれが初。

「や、やだ…ちょっ…助けて…誰か…!」

 思わず普通の女の子みたいに弱音を吐いてしまった直後、これではいけないと気を取り直す。
 自分は冒険者。
 心に言い聞かせ、いざ捕縛。

「何をするこの痴漢がっ!」

 確かに捕まえた。そう思ったのだが、敵もさるものだ。一瞬のうちに身をかわした。
 シルフィユが掴んだのは、ちょうどアヤカシの後ろにいた人間――例の新聞親父の腕である。

「えっ。ち、違う私は何もしていない! 私じゃない!」

「ええい紛らわしいわ!」

 確かに彼ではない。
 マルカにはそれがよく分かった。何故なら自分の後ろにアヤカシが移動してきていたので。
 シルフィユの件で車内が騒然としているため、自分には注意が及ばないと思ったのだろうか、大胆な行動だ。

(ほ、本当に触ってくるとは)

 不愉快なのはもちろんだが、それ以前にコートを捲ってまで尻を触ってくる執念に呆れる。
 本物の人間である痴漢もこういうことをしているのだろうかと思うと、ひときわ世相を憂えたくなってくるマルカ。
 ごそごそ胸を、コート越しとはいえ触られた際は、あやうく内ポケットのナイフを取り出しそうになった。
 が、耐える。
 確実に包囲する態勢が出来るまで、アヤカシを逃がすわけにいかない。

(ここで見失ってはならない…我慢ですわ!)

 小柄な体格の獅緒は、人々の合間をくぐり抜け、マルカのところへ移動中。

(は、早く捕まえないとぉ)

 そこで折あしく、停留所についてしまった。
 乗り降りする乗客の流れに飲まれそうになる。
 ひとまず壁際に寄ってやりすごそう。そう決めたところで、彼女は変な声を上げた。

「ふぇ?」

 誰かの手が当たってるような。いや、これは間違いない当たっている。

「…はぅ!? これ、痴漢ですぅ!? 誰ですかぁっ!」

 大声を出した途端手が引いた。
 振り向いた獅緒は、一目散に昇降口へ移動。そこで張っていたリィムナが叫んだのだ。

「こいつだー! こいつが痴漢だよー!」

 瘴索結界を操る彼女にとって、『無個性』という保護色は通用しない。
 人込みに紛れ下車しようとする輩の袖をかすめカードを飛ばし、瘴気が見えたのを確認し、全力で腰に飛びつく。

「痴漢だー! こいつ痴漢だー!」

 獅緒も負けじと反対側から飛びついた。

「絶対逃がさないようにしないとですぅ。これ以上、痴漢や痴漢冤罪被害者を増やすわけにはいかないのですよぉっ」

 顔を真っ赤にしたシルフィユも加わり、背後から襟首を捕らえる。

「貴様、よくも人の尻を…!」

 痴漢アヤカシは彼女らを振りほどこうとしたが、霧依が仕掛けた蔦を操作し手に巻き付かせてしまったので、身動きが取れなくなった。
 マルカがガシッと腕を捕らえる。

「ここで長話するのもほかの乗客方にご迷惑ですから、ちょっと外へ出ましょうか?」

 凍るような視線に脅えたか、痴漢アヤカシは見苦しく犯罪を否定した。

「オ、オレジャナイヨ! オレジャナイヨ! ナニイッテンダヨ! フザケンナヨ!」

 エリカが後頭部をわし掴み、ギリギリ押さえる。

「とりあえずさ、停留所の裏まで顔貸してくれる?」

「ダカラオレジャナイツッテンダロ! フザケンn」

 言い逃れが止んだのは、霧依が股間を掴んだからに違いない。

「ぷっ、お粗末ね♪ さあさあ、降りて頂戴痴漢さん♪」

 高菜はにこやかに、相手の背を針でつつく。

「いやはや、結構楽しかったんですがね。退治はしませんと、ね♪」

 乗客たちは痴漢が車外に引きずり出されて行くのを見送る。

「さてエリカ様、どうしましょう?」

「もちろんフルボッコ」

 その後起きた一部始終は、たとえ相手がアヤカシといっても、男たちの肝を震わせるものであったらしい。
 翌日から満員馬車の痴漢が、劇的に減少した。



 事件解決後。
 エリカ宅でお茶を馳走になっているシルフィユとマルカは、エリカとロータスの会話を聞いていた。

「ほらね、ドラゴンなんて名前をいいと思うのは少数派だったでしょ」

「少数派ってほどじゃないでしょ。意見はほぼ拮抗してたじゃない。差はたった1票よ、1票」

「多数決の原理においては1票が天地の差なんですよ。とにかくカモミールで決定ということでいいですね?」

 ゆりかごにいる赤ん坊は、先に帰って行ったリィムナに抱かれたときもそうだが、ふわふわ笑っていた。
 マルカはふと、霧依の言葉を思い出す。

『カモミールの花言葉は「逆境に耐える」…きっと逞しい子になるわ♪』

 ついでにリィムナが寝所でオッパイを吸っているという暴露話も思い出す。
 お茶を一服。
 シルフィユが声を潜め話しかけてきた。

「穏便に収まりそうでよかったな…正直ドラゴンとか…どこぞの革命家じゃないんだから…」

「…ええ…そうですわね」



 乗合馬車で帰還中の獅緒は振動に身を任せ、座席でうとうとしていた。
 それが、パッと跳び起きる。
 覚えのあるさわりとした感触が、太ももに。

「ひゃぅ!? 倒したはずなのにまだいる…って、アヤカシと違ったのですぅ!? 何をしてるのですかぁ!?」

 非難を受けた少年はさっと身を隠した。
 誰あろうそれは、姿を変えたリィムナ。

(やだこれ、確かに結構楽しい!)

 痴漢に目覚めた彼女は続いて、吊り革に捕まっている高菜のお尻にすりすり。
 高菜は騒がない。嬉しそうに笑って放置している。彼女は大らかな人間なのだ。

「あはは、楽しい♪」

 されどそんな能天気なことを言っていられたのも、霧依が出てくるまでだった。

「…リィムナちゃん? おいたしたら駄目だっていつも言ってるじゃない」

「え…僕はリィムナじゃな…」

「言い訳無用! 悪い子はお仕置きよ!」

 気圧され変身を解いたリィムナは、霧依の膝に乗せられた。

「ごめんなさーい! もうしませんからー!」

「あら、オムツ汚したのね♪」

「き、霧依さんばらしちゃ駄目ー! にゃあああ!」

 お尻叩きをバチンバチンしこたま施した後、霧依は彼女を連れ馬車の後部車両に連れて行く。
 しばらくの間を置き戻ってきた時、リィムナは、恥ずかしそうにスカートの前を押さえていた。

「帰るまでそのままで反省しなさい♪」

「あい…」

 一体何が行われたのか。
 興味は尽きないながら、知るのがちょっと怖くもある獅緒なのであった。