飛べ飛べ滑空艇
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/28 00:29



■オープニング本文


 アーバン渓谷を北に下れば、北海に面したババロアがある。
 何やかやあったせいで領主がいなくなり、現在皇帝領となっている場所だ。
 ここを治めている為政者は、中央から派遣されてきた執政官オランド・ヘンリー。ジルベリアにしては珍いことに、貴族の出ではない。彼の就任からこっち、これまた色々あったが――今はそれらも全て片付き、地方一帯も落ち着いている。
 ババロアはジルベリア北部のさらに北に位置しているため、農作にあまり適さない。漁業を中心に営んでいるが、それも海が凍りつく冬には不可能。
 よって昔から、貧しい土地柄。

 そのあたり何か改善策はないかと話し合われた結果、この度試みの一つとして、中央から業者を誘致することになった。
 何の業者かというと、滑空艇のレンタル業者である。
 ババロアには長い海岸線がある。海は思いのまま滑空艇を飛び回らせるに、恰好の場所だ。
 滑空艇の技を競うイベントなど開催し、根付かせることが出来れば、定期的な観光収入も見込めよう…という目論み。



『滑空艇レンタル・エアリアルサービス・ババロア1号店』

 真新しい看板の掲げられた営業所――干物工場を改装したもの――の中で、カラミティ・ジェーンは一人ごちていた。

「なるほど…新入りバイトをいきなり支店長に抜擢した理由はこれね…」

 営業所の窓から見えるのは薄い日の差す一面灰色の海。単調にして寂しい限りの光景。
 もう少したったら流氷が流れてくるんだと現地の人は言っていた。
 風も強くなって、出歩けないような日が幾日も続くことがあると。
 今でさえ透き間風が吹き込むこの営業所、どんだけ寒くなるだろう。
 いやいやそれ以前にもっと大きな問題が立ちはだかっている。

「…お客全然来ないじゃないのよ!」

 営業を始めてから一週間たつというのに、倉庫に並んでいる4台の滑空艇は一度も貸し出されない。
 時々人は入ってくるのだが、郵送配達取り次ぎ所、もしくは洗濯屋と間違えている輩ばかり。
 本業は開拓者であり、この仕事にさほど情熱を懸けているわけでもないジェーンも、ここまで客が来ないとさすがに心配になってくる。
 本格的な冬になったら、訪ねて来る人さえいなくなるんじゃないのか、これは。

「まずいわ…いっそ本当に配達とか請け負っちゃおうかしら…そっちの方が絶対需要あるわよね…」



 うそ寒い空に浮いているのはクラゲ。
 傘の大きさ直径5メートルのクラゲ。
 クラゲの長い長い無数の足に絡まってしまい助けを求めているのは、漁師たち。

「お助けー…」

「たあすけてえ…」

 季節風に乗り海の彼方から突如現れたクラゲアヤカシは南に向かい、ひたすら流されている。
 その姿には己の意志というものが微塵も感じられない。まさしく風の向くまま。地上からおよそ400メートルといったあたりをふわふわしている。
 時々上昇気流に乗ったり、逆に下降したり。
 本人はなんてこと無さそうだが、連れて行かれている人間はそうもいかない。何かの拍子に落ちたり、又は山腹の木々や岩にぶつかったりしたら、命の保証はない。

 それらを見上げる開拓者たちは、こんな時に限って誰も相棒を連れてきてないことを悔やむ。
 飛行系の神獣、もしくは滑空艇などあれば、一息で追いつけそうなのに…。

「…ん? おい、あそこに滑空艇のレンタル店があるぞ!」

「本当だ! 何故こんな田舎に!」

 これぞ天の助け。



■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

 リィムナ・ピサレット(ib5201)は空を見上げた。
 さぞかし不安な気持ちでいるだろう漁師たちに、聞こえないかもしれないが、激励を送る。

「大丈夫、あたし達が全員助けるから!…ちびっ子とおっぱい大きい人しかいないけど…でも助けるから!」

 それから勢いよくレンタル店に駆け込む。

「すいませーん! 至急滑空艇のレンタルお願いしたいんですが!」

「やだ、お客!? 本当にお客なの!? 夢じゃ無いわよね!?」

 足を踏み入れた瞬間目に入ってきたのは、揺れまくり存在を誇示する巨乳。
 ファムニス・ピサレット(ib5896)が姉を押しのけ、たわわな乳に突進する。涎を垂らして。

「ジェーンさん! またお会いできてすごくうれしいですうう!」

「ふぉう!? ファムニスちゃん!?」

「こんなところで何してるんですか? あんまり弾が当たらないからガンマン廃業したんですか?」

「廃業してないわよ失礼ね! 休業よ! ちょっとファムニスちゃん揉み過ぎい! 折角収めてるブラからはみ出るから止めてぇ!」

 休業。廃業。

(2つの単語における距離は限りなく近いですね。さながら雑誌における休刊と廃刊のように…)

 考察にふけるサライ(ic1447)は、寒さに負け枯れている室内装飾の観葉植物に視線を注ぐ。

(そういえば、お客が来たのが信じられないような口ぶりでしたね…)

「あら、確かに大きいわねぇ♪」

 雁久良 霧依(ib9706)がジェーンの胸への感想を述べ、勝手に受付デスクを漁り、顧客名簿をめくる。

「…真っ白ね」

 サライは心を痛める。この仕事も休業にならなければいいが、と。

「うへへ…おっぱい…」

 胸の谷間に顔を挟み忘我の境地に浸っていたファムニスは、リィムナから襟首を引っ張られ、天国から帰還させられた。

「ファムニス、遊ぶのは後々! アヤカシ退治が先だよ!」

「はっ! そうだ、今はアヤカシを何とかしないとっ!」

 いつになくリィムナが真面目であることを、霧依は残念に思った。

(惜しいわあ…)

 彼女は現在リィムナの姉からリィムナへの躾を頼まれている。同じ泰大学の寮に入っているのだから、と。
 つまりおねしょや悪戯などした場合、合法的に少女の尻を叩く権利を有しているわけである。
 持っている権利は当然ながら使いたい。

(もっとやんちゃしてくれればいいのに…)

 そんな彼女の気も知らず、正気に戻ったファムニスは、改めてジェーンに質問する。

「ジェーンさん、レンタルしている滑空艇は何機ありますか?」

「4機よ。それぞれ補助席がついてるから2人乗り出来るわ」

 サライは卓上のメモを借り、要点を紙に書き記した。
 アヤカシに持って行かれている人々を助けるためには、落下防止の受け皿となるものが必要である。差し当たっては網などがいいだろう。
 網は1機では張れない。少なくとも2機入り用。アヤカシ本体への攻撃と救助した人の輸送を確実に行うため、フリーハンドの機体も最低1機は欲しい。
 とすると3機いる。

「ええと、滑空艇操縦のスキルを持っているのはリィムナさんと霧依さんだけ…ですね」

 霧依は眉を寄せる。

「まあ、この人数でもやれなくはないけど…人手がもう少し欲しいわねえ」

 ファムニスも頭を悩ませる。

「うう〜ん。今からギルドへ増援を頼んでたら間に合わないです」

 沈黙をおいて後、彼女らは気づいた。もう1人使えそうな人間がここにいるということを。

「…ジェーンさん、滑空艇の構造や操縦について一通りご存知ですよね? レンタル店に雇われると言う事は」

「ええ、まあ。講習は受けたし」

「それなら話は早いです! ジェーンさん、人手が足りないので滑空艇の操縦をお願いしたいです!」

「えっ!? ちょ、え、いやそれは…私講習受けただけで、ほとんどペーパー…」

「ジェーンさんも操縦手お・願・い♪ 人手がいないのよ…だからよろしく♪」

「だだだって、飛んだ時は横に教官がいたし、ちょこっとジェレゾの外れの教習場で旋回飛行しただけで後は全く」

「大丈夫です! 誰でも最初はペーパーから始めたんですから!」

 サライはすぐさま外に飛び出していく。

「じゃあ僕、漁師さん達から人を受け止められるだけの強度を持った網を借りてきますんで! 事は一刻を争います、急ぎましょう!」

「アイアイサー♪」

 お茶らけて敬礼をしたリィムナは、いち早く滑空艇の格納庫へ向かった。
 同じ型の4機が鼻先を持ち上げ、行儀よく並んでいる。

「ビートルZかー。この機種だとスピードはあんまり出ないかなー」

 操縦席に潜り込んで、計器類を点検。

「うん、整備は万全だ。これならすぐにも飛び立てるね」



 2機の滑空艇――1機は霧依とサライ、もう1機はジェーンとファムニスが乗っている――はジルベリア航空隊ばりの曲芸飛行を行おうとしている。

「知らないわよ知らないわよ、どうなっても知らないわよ私は!」

「2人でやればきっと大丈夫です! 自信を持ってくださいジェーンさん!」

 顔を引きつらせるジェーンを助手席から励ますファムニスは、体を左に向けた。
 平行して飛んでいる僚機の助手席から、サライが手を振っている。
 互いの距離は相当近い。後もう少しで翼と翼が触れ合いそうな位。

「いいですか、いきますよ、ファムニスさん!」

「オッケー! いつでも来てください!」

 サライは自分の席から網を引っ張り出し、丸めて投げた。
 ファムニスは身を乗り出しそれを受け止める。
 片側に重みが加わったことで、ジェーン側の機体が少し揺れた。

「うはぁ!」

 脂汗をかくジェーン。

「いいですよ、その調子! 真っすぐ、真っすぐ!」

 ファムニスは、機体の側面に網の端を結び付ける。
 サライも同じく。

「ジェーンさん、平行は保ったまま!」

 飛空艇の扱いに慣れている霧依が、併走飛行の主導権をとった。
 2機の間でだらりと下がっていた網がぴんと広げられていく。
 準備完了だ。

「では、先に精霊の加護を祈願してー、3・3・7拍子−!」

 座ったままではやりにくいが、ともかく神楽舞を行うファムニス。
 リィムナの1機が先行する。

「じゃ、行くよ!」

 クラゲはふわふわ飛んでいる。手を放された風船みたいに頼りなげな飛行だ。近づいてもスピードを上げないところからすると、風だけを推進力としているらしい。
 だらんと下がった長い足の間に、人々が挟まっている。

「皆さん開拓者ですー! 救助に来ましたー! 暴れないでそのままいてくださいねー! 大丈夫ですよー、下に網を持ってきますからー!」

 周囲を旋回しながら、人数を確認。

(1、2、3、4、5、6…全部で6人か)

 なるべく早く決着をつけなくては。山岳地帯に入ってしまったら風が乱れる。救助がしにくくなる。
 クラゲの下に網を張った2機が滑り込んできた。

「じゃあ、始めるよっ!」

 リィムナは機体を斜めに傾け、クラゲの足に肉薄していく。
 もつれ絡まったところをよく見定め、1人だけ落とせるよう慎重に、かつ大胆に『バルク』を振るう。

「絶対動いちゃ駄目だからね!」

 鞭の一撃によって足が簡単に千切れた。
 いったん手元まで引き戻された鞭が、空中で停止した人間に絡み付く。
 時間の停止とともに硬直した体は、後部補助席に投げ込まれた。
 再び時間が動き出す。

「ひぃえええええ! 落ちるぅ…あれ?」

 目論み大成功なリィムナは鼻高々。

「こういう時、夜って本当に便利だよね!」

 彼女は救助した人間を降ろすため、急いで降下して行く。
 残るは後5人。

「それじゃ、私たちもやりましょうか。行くわよ、ジェーンさん!」

「やっぱり行くの…うう、漁師の人、落ちたらごめんなさーい!」

 不安をあおる叫びを上げはするものの、ジェーンの腕はそう悪くなかった。僚機と距離を一定に保ち、網をたるませない。
 足切りはサライとファムニス、霧依の共同作業だ。万一にもやり損なわないように。
 白霊弾と水流刃、ウィンドカッターが足を切り離す。
 漁師はうまく網の上に落ちてきた。
 しかし、アヤカシから離れたとはいえ、中ぶらりん状態であることには変わりない。不確かな足元と、網の間から見える光景に怯える。

「ひぃいいい、おっかねええ! 降ろしてくんろおお!」

「大丈夫です、今すぐ降ろしますから!」

 恐慌を止めるため、サライが夜を発動する。
 一時的に固まった相手を見かけより強い腕力で引き寄せ、自分の座席に積む。もともと1人乗りなので過積載になるが、この際仕方がない。
 さあ降りよう。
 思ったそのときハプニングが起きた。先程の衝撃を受け絡んでいたクラゲの足が、一部するりと解けたのだ。

「うひゃああ!」

 掴まっていた1人が、ずるずるずり下がって行く。

「は、はよ助けてくんろ!」

 サライは落下予測位置を素早く読み取り、霧依に伝える。

「もう少し前です! この位置だと、網にかかりそこねる恐れが!」

 霧依が足元の加速装置を踏みこんだ。

「ジェーンさん、前方に移動して!」

 引っ張られる形で、ジェーン機も、つんのめるように前へ出る。
 突っ張った網の上へ落ちてきた体は、一旦撥ねてまた落ちる。
 動揺は機体へもろに伝わってきた。

「いやあああ機体が機体が機体が傾くっ!」

「落ち着いてジェーンさん、自分を信じて!」

 動揺するジェーンを励ますファムニスは、網に乗ったまま硬直している漁師にも声をかける。

「今すぐ地上に降りますから!」

 彼らを連れ2機は、急ぎ地上に向かう。
 入れ替わりにリィムナ機が上ってくる。

「さあ、残り3人!」

 先程の救助で要領が掴めたので、二度目は難無くやれた。宙で受け止め補助席に積み、地上に降ろす。
 残りは2人。
 クラゲの足は情けないほど少なくなっていた。残るは真ん中だけだ。
 下から、ジェーンと霧依が戻ってくる。

「あら…サライくん、なんだかクラゲちゃん足が速くなってない?」

「そうですね…足がなくなったから、軽くなったのかも知れません。ぶら下げている人も減りましたし」

 目のよさで定評のあるサライは、額に手を当て前方を見据えた。
 風は相変わらず北から南へ吹き続けている。
 遠方に青くかすんでいるのは、アーバンの峰峰だ。
 ファムニスは滑空艇間に横たわる虚空を越えられるよう、声を張り上げる。

「霧依さん、どうしましょう、2人同時に助けた方がいいでしょうか!」

 霧依はすぐさま決断した。

「…そうね、時間もなさそうだし、2人同時にいきましょう! サライくん、いざって時には時を止めてちょうだい!」

「分かりました!」

「ジェーンさんも運転しっかりね! 人の命がかかってるから!」

「初心者にプレッシャーかけないでー!」

 2機がクラゲの下方に入り込んだ。
 残っていた足も千切られ、網に2名が落ちる。サライはすぐさま時を止め、1名を補助席に押し込む。もう1名はファムニスが引き取り、同じく補助席に押し込む。
 リィムナはそれらを見届けてから、膝上の『外道祈祷書』を開いた。
 傘のようだったクラゲの体がどす黒く染まり急速に膨れ上がる。
 霧依の雷とサライの投げ苦無が、それをあっけなく弾けさせる。



 漁師たちを全員ババロアまで連れ帰り家に送り届ければ、もう日暮れ。

「…そういえば、レンタル料3機分しか取れないのよね…この場合…」

 今更せちがらい現実に気づき疲労感を覚えるジェーン。
 その胸にファムニスが飛びついた。

「やりましたねジェーンさん!」

 執拗に揉み揉みし、またよだれを垂らしている。

「うへへへやっぱり最高。霧依さんは至高のおっ〇いです! ジェーンさんは究極です! 甲乙つけがたい!」

 一体巨乳の何がここまで彼女を燃え立たせるのか。それは本人にしか分からない。

「…ファムちゃん、おいたが過ぎるわよ」

「…霧依さん? あれ、え?」

「いらっしゃい! 無理矢理したらダメ!」

 正論を吐きながら少女のお尻を剥きペンペンバシバシし始める霧依。

「いたーい! ごめんなさい! もう無差別巨π揉みしませえん!」

 妹の悲鳴にリィムナは、思わず自分の尻を押さえ(事情通のサライは事情の全てを察したが、何も言わなかった。微笑むだけだ)、じっと手を見て考え込んでいるジェーンに、話しかける。

「運送もいいけど、単にレンタルじゃなくて、ジェーンさんが操縦して遊覧飛行するサービスやってみたら?」

「え? 遊覧サービス?」

「そう。ババロアの海とアーバンの渓谷を往復遊覧するの。美人で胸おっきいし、絶対人気出るよ♪ んで、人手が足らなければ滑空艇の操縦に慣れてる開拓者を呼べば安心♪」

 叩いた後のスキンシップをファムニスと楽しんでいた霧依も口を挟む。

「個人向け送迎サービスもいいんじゃない? 巨乳美女集めれば話題沸騰♪ 私も手伝うわよ♪」

 送迎とは別のサービスを期待されそうな気がする、とサライは思った。
 リィムナが煽る。

「そうそう。それにこれからの季節、アーバンの方はリゾート客増えるし繁盛するよ♪ もしかしたら金持ちのイケメンとの出会いもあるかもよ?」

「出会いあるの!?」

 食いつくジェーンに霧依が太鼓判を押す。

「あるわよもちろん。実はサライ君をこの前引っ掛けたのもそこでね。彼、凄かったわ…♪」

「凄いの!?」

 正面切って聞かれ、赤面するサライ。

「そ、それほどのことは…いえ、何でも…もし会社からOKが出たら、僕が宣伝してきますよ。今からでも。アーバンの人達に伝手がありますから。ガイドブックに乗せて貰えば、利用者は確実に増えるかと」

 今度はファムニスが食いついた。

「アーバン? 私も行きたいです。久々に皆さんに会いたいですから。やりましょうジェーンさん! 遊覧飛行サービス! うまくすれば業績を認められ昇進も夢じゃないですよ! あるいは重役の椅子を手に入れることも!」

 ジェーンはのりやすい性格だ。

「いいわね、私やってみる! 会社に話してみる!」



 数日後。ババロア執政官執務室。
 書記は机の上にある書類の山の、そのまた一番上にあるものを手に取り、執政官に尋ねた。

「執政様、なんですかこの『巨乳インストラクターと巡る冬のババロア――アーバン渓谷遊覧飛行企画・許可申請書』というのは…」

 書き物をしていた執政は頭をかき、顔を上げる。

「ああ、誘致している業者から送られてきたんだ。レンタル飛空艇の営業所で新しい試みをしたいとか言っててね」

「…まさか許可されませんでしょうね?」

「いや、しようかと思う」

「するんですか? なんだかとてつもなくいかがわしい匂いがするのですが」

「まあ、字面だけだとそう見えるが…しかし、意外と真面目なものらしいから――実のところ、是非にと推薦されていてね」

「どなたからですか?」

 疑わしそうな書記に向け、執政はにっこり笑う。晴れ晴れと、すこぶる愉快そうに。

「なに、恩のある知り合いだよ。久しぶりに会いに来てくれてね。とても元気そうだった」