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■オープニング本文 「おお、ロメオ。あなたはどうしてロメオなの!」 「ジュリエッタ。おお、僕のジュリエッタ!」 大仰に嘆く女優。大仰に嘆く男優。 管弦楽器の演奏が始まった。 バックダンサーがいきなり踊りだし、歌い出す。 …どれもごく普通の光景だ。劇場でなら。 問題はここが劇場ではない、という点にある。 ● ジルベリア一地方。バーム村とクーヘン村共同経営の、それはそれは広大なカボチャ畑のど真ん中。 場をわきまえず繰り広げられているメロドラマ劇場に、開拓者たちは戸惑うしかない。 「こいつらどっから湧いてきたんだ」 それが分からないから村人たちも気味悪がり、急遽ギルドに連絡してきたのである。 「まあ…調べなきゃいかんよな」 とりあえず近づいてみるが、俳優、歌手、奏者。誰も気づく様子がない。 思い切って触れてみようと手を伸ばしたとき、奇怪な現象が起きた。 触れた人間の姿が揺らぎ飛び散ったのだ。水面に映った月が、石を投げ込んだことによって崩れてしまうように。 驚いて手を引っ込めると、飛び散ったものは再び集まって、元の姿になった。何事もなかったかのように。 一体これはなんなのか。 実体が無いアヤカシというのも確かに存在するが、これはそれとは違う感じがする。生きていない――そんな印象を受ける。確かに見えるのだが、存在感というものがない…。 『おいおい。せっかく見ているんだ、邪魔しないでおくれ』 急な第三者の声がしたかと思いきや、カボチャ畑からカボチャのお化けが姿を現した。 姿形はジャック・オ・ランタンに似ているが、胴体はなく顔だけ。それもかなり大きい。高さは…大体3メートルといったところか。 くり抜かれた目の部分と口の部分から橙色の光が漏れている。人を怖がらせるのではなく、安心させるような光。 どの開拓者も本能的に悟る。これはアヤカシではなさそうだと。 「…あんた、何者だ?」 『私か。カボチャ大王と呼ばれている。これでも精霊だ』 武器を降ろした開拓者たちは、早速カボチャ大王に質す。 「この現象は、あなたが引き起こしていることですか?」 『そうだよ。誰もいないからいいかと思って。音も低くしているし…これまで撮り溜めていた分を見ようかと思ってね…暇だから』 「撮り溜めるって…何を?」 『そりゃあ、舞台とか、お芝居とかだよ。私はそういうものが大好きでね。昔は子供たちを集めよく見せてやったもんだよ。カボチャ大王はハロウィンの王様だ。お菓子を貰いに行くところに姿を見せると、皆大喜び。頭に乗せて空を飛んでやるともっと大喜び。私の回りに集まって、夜遅くまで大騒ぎ…だけど、最近はそういうこともなくなった。人間も色々忙しいみたいでね』 大きなカボチャは寂しそうである。 開拓者たちは思った。 ここで会ったのも何かの縁だろう。なら、少しばかり付き合ってやるのも悪くなかろうと。 なにしろ、ハロウィンなのだから。 |
■参加者一覧 / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) |
■リプレイ本文 子供時代のマルカ・アルフォレスタ(ib4596)にとってハロウィンは、領内の郷士や名士が訪れる大園遊会のイメージしかなかった。 一般的にはそういうものでなさそうだと気づいたのは――トリックオアトリートなる言葉を知ったのは――開拓者になり、様々な階層の人々と交わるようになってから。 そんな彼女はカボチャ大王に、恐縮しつつ礼をする。 「カボチャ大王様ですか。恥ずかしくも存じ上げませんでしたわ…」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)はカボチャ大王の体(顔しかないが)をばんばん叩く。 「あははは! 大王かっこいいね! ねえ、ねえ、飛べるってどんなふうに飛ぶの? ちょっと飛んでみてよ!」 『よかろう』 大王が突如光り始めた。 赤青黄色、緑色。ゆっくり回転しながらふわりと浮き上がる。 「すごいすごいカボチャ大王! ねえねえ、皆と遊ぼうよ!」 当地方のトーテムゆるキャラ、イノウサイノの着ぐるみ2ndバージョンを着ているのはリンスガルト・ギーベリ(ib5184)。 「ほお…これは見事よな。ブピッ、ピブッ」 妙な鳴き声がついているのは、イノウサに成り切っているからだ。 村起こしの一環である2村合同秋祭りにゲストとして呼ばれている身の上、この精霊に協力を願えば祭りがさらに盛り上がるかもしれない…なんて考えてしまう。 リィムナ・ピサレット(ib5201)はまだ続いている鮮明な舞台をとくと観察。 「成程、時の蜃気楼の本家版て訳か…溜めておいていつでも取り出せるっていうのは、便利だよねえ」 感心をしておいてから、リィムナの手を引っ張る。 「折角だし皆で遊ぼう♪ 村の子供達も呼んでこようよ♪」 「うむ、そうじゃの。カボチャ大王殿、しばし待たれよ。ギャラリーをかき集めてくるによってな」 『おお、そうか。それは楽しみだな。ぜひたくさん呼んで来てくれ』 気分に影響されるものなのか、大王は一層光り輝いた。周囲に星屑が生まれ、点滅する。 「ねえカボチャ大王、あたい乗ってみたい、乗せてー!」 『いいともいいとも。さあお乗り』 畑に降りてきたカボチャに飛びつくルゥミは、ヘタのところに腰掛けた。 「マルカちゃんも一緒に乗ろうよ!」 「い、いえ、わたくしは」 この年になってそんなことを頼むのも…と躊躇してしまうマルカに、カボチャ大王も誘いかける。 『遠慮せずにお乗り。私はこう見えても力はある。一度に30人乗せたこともあるんだ』 「…ではその…お言葉に甘えまして、乗せていただきますわ」 ルゥミとマルカを乗せ、大王は浮き上がった。 同じ「飛ぶ」であっても龍や滑空艇などとはまるで違う。音がしないし、揺れもない。雲の上にいるようである。 『さあ、どんどん上がってみよう』 2つの村明かりが見下ろせる。今宵は満月。黒ずんだ森の影もくっきり出ている。 間近に瞬いていた星屑が弾け、地に降り注ぐ。落ちた場所に止まって、ぴかぴかし続ける。 カボチャ畑はたちまち光の花でいっぱいだ。 「街の子供達はこんな楽しい事をしていたのですね…」 「わー、すごく楽しいよ大王! あははっ」 地上ではリィムナとリンスガルトが、村の子供たちを勧誘している。 「精霊さんだから大丈夫♪ 皆もおいでよ♪」 「カボチャ大王なる精霊だそうだピブッ。ジェレゾで流行っておる芝居を総天然色音声つきで見せてくれるそうだブピッ。皆、来ないと損だブピッ」 子供たちは彼女らの言葉を疑わなかった。なぜといって、カボチャ大王が夜空に浮いているのが、村からもはっきり見えたからだ。 あんな楽しげなものがアヤカシなわけない――というわけで大きいのも小さいのもこぞって、カボチャ畑へ繰り出す。 幾人かの大人たちは、精霊と聞かされてもなお少々うさん臭く思われたので、心配しつつその後についていく。 ● カボチャ畑は満員御礼。 大王は子供たちが来てくれたので、すこぶるご機嫌だ。 『おお、よく来たよく来た』 声色がとても優しかったので、子供たちもすっかり安心し、初めてお目にかかる精霊へ挨拶する。 それすなわち、遠慮会釈もないいじくり回し。 「うわー、でっかい」 「あ、中に入れる」 「ほんとー。おうちみたい」 内に外にたかられ、むせる大王。 マルカは子供たちを落ち着かせにかかった。 「さあさあ皆さん、カボチャ大王様に乗せてもらうのは後にしましょう。お芝居を見る間は、お行儀よくしてくださいね」 ついてきた大人たちも子供らを呼び戻し、行儀よく座らせる。 カボチャ大王は一息ついてから、観客たちに尋ねた。 『さて、どんな芝居がいいかな?』 真っ先に手を挙げたのはリンスガルト。 「宮廷恋愛活劇『スィーラのゆり』が見たいピブ!」 『スィーラのゆり』――それはとある作家の小説を元として作られた歌劇。 フィクションとはいえ革命を扱っていたので初上演の直後公演を差し止められ、原作ともども発禁処分を受けた。 にもかかわらず婦女子の少なからぬ層から熱烈な支持を得、それはいまだ衰えを見せず、様々な創作物に影響を与え続けているといういわくつきの恋愛物語。 『分かった。スィーラのゆりだな。ええと、確かこのあたりに…結構昔のだからな…』 大王の目に『検索中』という文字が点滅する。 それが消えた後、広大な畑に度肝を抜くほど壮麗な舞台が現れた。 花に包まれた階段から騎士に扮した男装の麗人が、歌いながら降りてくる。 『草むらにつつましく咲くすみれなら〜ただ風を受けているだけで〜いいけれど〜♪』 リンスガルトはイノウサイノの短い前足を振り回し、大はしゃぎした。 「のおおお! ラスカル様ああ! ジュテーム、ラスカル! ブピー!」 リィムナもこの劇を知っていたらしい。両手を握り締め、瞳を輝かせる。 「うわー! 観るの初めてだ! これが、これがスイゆりオリジナルなんだ!」 マルカも興味しんしんで見守る。 (確か、主要カップルが全て女性同士という斬新な設定でしたわね…その点も公序良俗に反すると見なされたとか…) ルゥミは彼女らと違い一切予備知識がなかったが、それでも十分楽しめた。何しろこの舞台、どこもかしこも花花花で埋め尽くされており、衣装もとにかく豪華絢爛。村の女の子たちも雰囲気にたちまち魅了されてしまったらしい。大人しくしている。 だが男の子たちは総じてつまらなさそうだ。気のなさが如実に顔へ出ている。宮廷で色々あってジェレゾで色々あって革命が起きてといった愛と憎しみの大河ドラマが繰り広げられているのだが、居眠りを始めるのまでいる始末。 ラスチーユ要塞を民衆が襲い、反乱軍の指揮官をしていたラスカルが『ジ…ルベリア…… ばんざ…い…!!』と言いながら倒れ、後を追うように彼女の恋人であるオンドレが死に王様(さすがに皇帝という設定は使えなかったらしい)とその一族が国家の敵として国民から断罪されるという、大人にとっては衝撃だが子供にとってはなんじゃらほいな結末に至って、早速ブーイングが始まる。 「カボチャ大王、もっと面白いの見せてー」 「今のつまんなかったー」 「何と勿体ないことを言うのじゃそなたらは! ラスカル様とオンドレの魂震える純愛が分からぬのか! 全ジルベリアが泣いたと謳われるほどの名作じゃぞ! 『スィーラのゆり』は! ええい、それでもそなたらは帝国臣民か!」 キャラの口調設定も忘れ、素で熱く語るリンスガルト。 村の女の子たちも同調する。 「そうよ黙りなさいよ男子!」 「ラスカル様に文句つけるんじゃないわよ!」 それを見ていたマルカはふと思い出した。そういえば自分も劇に出ていたことがあった、と。 かなりマイナーな劇場ではあったが、もしかして。 「カボチャ大王様、少し前に上演されました『ジェレゾ迷宮案内(以下略)』は記録されていらっしゃいますか?」 『ああ、あの実験劇か。もちろんあるとも』 新しい舞台が浮かび上がった。 チョンチョンチョンと拍子木が鳴り幕が開く。 リィムナはあっと声を上げた。 「リンスちゃん、リンスちゃん、これあたしも出た奴だよ♪ ほらあのジェレゾサスペンス劇場の奴!」 「ほう…これがそうなのかや。聞いただけではストーリーがいささか分かり辛かったのだが、一体どんな内容の…」 リンスガルトは誠心誠意最後まで真面目に劇を鑑賞した。 結婚式場で花嫁アケミが殺され。 花婿マサアキがストーカータエコ(キャスト:マルカ)に襲われ。 少年探偵と家政婦(キャスト:リィムナ)が不慮の交通事故で死に。 おろち教団を探っていた捜査官が暗黒儀式で正気を失い。 ジェレゾ地獄地震が起き実は犯人だったマサアキがタエコに刺殺され。 不意に空から暗黒神おろち様(キャスト:リィムナ)が現れ。 おろち様が捜査官に尻をひんむかれ激しくスパンキングをされ幕が下りる所まで、全部見た。 そして出てきた呟きがこれである。 「うむ、さっぱりわからん!」 ルゥミは出演者であるリィムナとマルカへ、直に尋ねてみる。 「ねえ、今のどういうお話だったの?」 「えーとね、このお話は…………げんだいしゃかいのへいそくかんとこんとんときょうきをひょうげんしているんだよ。そうだよね、マルカ?」 「…ええ、狂気の演技は大変でしたわ。息もつかせぬ超展開の連続…わたくしも驚きましたわ。カボチャ大王様は、どのような感想を抱かれましたか?」 『ん?…ううん…そうじゃなあ…不条理コメディとしてはいい線いっとると思うぞ?』 子供たちは先程より強く大王にねだる。今度は男の子女の子揃って。 「ねえ大王、もっと面白いのにしてよー」 「分かるのにしてよー」 今こそあたいの出番。 自負してルゥミは手を挙げた。 「カボチャ大王、あたいのじいちゃん、ハユハの英雄的勝利を描いた『スオメンの奇跡』を見せてよ! この間人形劇でやってるの見たんだ! あれなら絶対面白いよ!」 『人形劇か。そうだな、子供にはそのほうが見やすいかもしれんな』 たちまち人形劇の舞台が浮かび上がった。 木琴の軽快な音楽が流れ、幕が開く。 可愛らしい人形たちが出てきた。皇帝――紋章から察するに現皇帝ではなく、その父帝――が居並ぶ勇士たちに向かい、こう言っている。 『アヤカシはこのゴタゴルの丘目がけに集結しつつある。その数およそ4000匹。もしこの丘が奪われるようなことがあれば、ジルベリアはおしまいじゃ。帝国の興廃、この一戦にあり…頼む、そちたちが頼りじゃ。十勇士よ、何としても奴らを打ち破ってくれ』 人形のひとつ、大筒を担いだ砲術士ハユハの姿に、ルゥミの胸は熱くなった。 紙の雪が舞う舞台の上をえっちらおっちら進んで行く場面を前に、小声で近くの席の子供たちに説明する。 「あたいのじいちゃんはさ、32人でウラーっと迫り来るアヤカシ軍団を倒したんだ…吹雪の中丘の拠点から照準眼鏡無しのヘッドショットしてね」 「あの砲術士ハユハって、お前のじいちゃんなの?」 「そうだよ、スオメンであたい、じいちゃんと出会って、家族になったんだ――」 紙の吹雪が舞台に乱舞する中、勇士たちは無事アヤカシたちを撃退し、補給路を死守。 ジルベリアにおける魔の森は消滅した。 だが不幸にもその直後、皇帝は崩御してしまう。死の間際冠を託された十勇士は、混乱に乗じ反旗を翻した大貴族達の罠をかいくぐり、王者の証を戦場にいる皇帝の息子、ガラドルフに届ける。 ガラドルフは手ずから冠を被り、剣を抜き放ち、居並ぶ家臣や臣民たちに宣言した。 『皆のもの、本日より我がこのベラリエースの主なるぞ。我が手の力により、我が知恵により、ジルベリアは統一をなし、とこしえに和平を楽しむであろう!』 人々は喜び、新皇帝をたたえる歌を歌う。 それを聞きながら勇士たちは、人知れずそっと場から去って行く…。 王権宣伝の匂いはするが分かりやすい内容だ。 見ていた子供たち、大人たち、開拓者たち、揃って拍手をする。リンスガルトなど涙を流している。 「素晴らしい、素晴らしいのう…人形劇だと思って軽く見ておった事を詫びるぞよ…」 皆が満足してくれたので、カボチャ大王も満足だ。 『じゃあ次は、何がいい?』 リィムナがにかっと笑い、カボチャ顔をぺちぺち叩いた。 「まあまあ、ここからはちょっと休憩しててよ、カボチャ大王。今度はあたしたちが、お芝居見せてあげる♪」 ● お姫様に扮したリンスガルトがあぜ道をのしのし歩いてくる。 こてこての縦ロール、ごてごてのドレス、馬鹿でかい孔雀羽の扇子。 後ろからマルカがしずしずついてくる。侍女役であるらしい。 「リンス姫様、今日もまた民の税金を湯水のように使い市井のお菓子の買い占めとカジノ遊びに興じてらっしゃいましたね。いい加減になさいませんと、皇帝陛下から罰を受けますわよ」 「ふん。妾はそのようなへまなどせぬ。ほれ本日もこのようにきっちり門限までに帰っ」 言葉が途切れたのは、カボチャのツルに引っ掛かり転倒したからである。 侍女は特に手助けするでなく、脇を通り過ぎていった。 「待て、待たぬか! 助けぬか!」 「勤務時間は過ぎましたのでお断り致します。わたくし時間外労働は一切致しません主義ですの」 「おいこら、こらー! ええい、南瓜は大嫌いじゃ!」 腹立ち紛れに蔓を引きちぎり起き上がったリンスガルトは、勢いよく手を打ち合わせた。 「そうじゃ! 名案を思いついたぞよ! この畑は全部潰して妾の遊び場にするのじゃ♪ なんという類い稀なる発想じゃ、妾天才ではあるまいかのう!」 自画自賛しているそこにリィムナが飛び込んでくる。 「ちょっと待ったあ!」 「む、何奴じゃ」 「あたしは村の美少女リィムナ! カボチャ畑を潰すなんて止めてよ! あたしたちカボチャが食べられなくなっちゃう!」 「わははははは! 南瓜が無ければお菓子を食べればよいではないか!」 「お菓子は姫様が塵も残さず買い占めてるでしょう! そのせいでこの領地の子供たちがどれだけ泣かされていることか…領主なら民のこともっと考えてよ!」 リィムナの額を閉じた扇が打った。 かなり硬そうな音がしたので相当痛かったと思える。 額を押さえ地面に付す彼女に、嘲笑が浴びせられた。 「わははははは! 民の事など知らぬわ! 文句があるならスィーラ城へいらっしゃいなのじゃ!」 リィムナは土を握り締め、悔し涙を零した。 「駆逐してやる…! 悪い領主などっ…」 そこへ背中に羽をつけたルゥミが現れた。 カボチャの頭がついたステッキを持ち、周囲に雪を舞わせている。 「お困りみたいだね! お助けしちゃうよ!」 「だ、誰?」 「あたいは雪と南瓜の妖精、ルゥミだよ!」 ● 「雪と南瓜…」 「属性かみ合ってないんじゃないかの」 観客のうち大人は腑に落ちないような反応だったが、子供たちは素直に面白がっていた。 「悪いお姫様やっつけろー」 「がんばれー」 声援を飛ばされたリィムナは、客席に目線を送り、ぐっと親指を立てる。 「分かった、頑張るよ皆!」 ● ルゥミはステッキを振るい、リィムナに粉雪を浴びせる。 「さあ、これでリィムナちゃんは最強だ! 進撃しちゃえ!」 リィムナは立ち上がった。人差し指を噛んだ。 「この力があれば…!」 閃光が走る。 次の瞬間カボチャ畑に女形の巨人が姿を現した。 「何奴じゃ! でかいだけで妾に敵うと思うな!」 一部始終を見ていたはずなのにそんなことを叫ぶリンスガルト。 巨人は蹴りを繰り出す。 足裏が踏んだのはドレスだけ。中身は瞬時にすっぽ抜けていた。 目にも留まらぬ早業で跳躍し巨人の足を切りつけ、続いて本体を襲うリンスガルト。 巨人は巨体に似つかわしくない反射速度で、後ろに飛び下がる。 ● 「ああ、カボチャ畑であんなに暴れて」 「カボチャが潰れちまうだよ」 次の出番を待つマルカは、はらはらしている面々に種明かしをしてやる。 「心配ありませんわ、あの巨人は幻術のなせる技です。本当にそこにいるわけではありませんから、カボチャに被害は出ませんわ」 ● 「おのれ跳び回りおって!」 リンスガルトが宙に浮き照明係をしているカボチャ大王を足掛かりに、一際高く跳躍した。 敵の背後を取り、体を独楽のように回転させ、うなじを狙う。 巨人は後ろを振り向く事なく、手の甲をぶつけてきた。 「…何いっ!」 後方宙返りで避けるリンスガルト。 その瞬間巨人の姿が、大量の蒸気に包まれ消滅する。 リンスガルトの背後にリィムナが現れる。 「もらったー!」 彼女は手にした扇子でリンスガルトの頭部を強打し、あぜ道に叩き落とした。 扇子が粉々に砕けたところを見るに、相当な力が籠もっていたようだ。 「ぐおお…リィムナめ…本気で叩きおって…」 呻き立ち上がろうとするお姫様の襟首を掴み、腹を膝に乗せ、お尻を連打。 「悪い子にはお尻ペンペンだー!」 「痛いのじゃー! 本気で叩くなと言うておろうがー!」 そこで再度、侍女マルカが出てきた。 「お姫様、そういえば言い忘れておりました。どちらにしても遊び場を作るのは無理です。お城の蔵にはびた一文ありませんから」 「お金が…ない…!? ななな何故じゃ!?」 「もちろんあなたが無駄遣いなさるからです。ちなみにお城自体、もう抵当に入っておりますからね。今日からは自給自足の生活をしなくてはなりません。さあ、これを」 恭しく差し出されたのは、クワ。 「貧しくたって心は公女! そんな気持ちで頑張ってくださいませ」 しばし呆然としたリンスガルトは、クワを手にがくっと膝をつく。 「…すまぬ! 妾が全面的に間違っておった! 許してたもれ!」 リンスガルトは震える彼女の肩に、そっと手を置いた。 「いいんだよリンス姫。分かってくれたらそれでいいんだ。さあ、心を入れ替えて一緒に畑を耕そう! そしてカボチャ大王を称えよう!」 祝砲としてルゥミがクラッカー大筒を鳴らす。 飛び散る金銀の火花と紙吹雪。乱舞する色テープ。 カボチャ大王の計らいだろう。合唱隊と踊り子の一団が現れる。 臨時役者一同それに合わせ、歌い踊る。 いつのまにか集まっていた村人たちも踊り始めた。老いも若きも、男も女も。賑やかさにつられ、様子を見ていた村人たちも次々やってきて、お祭り騒ぎに連なる…。 ● 翌日。2つの村の入り口。 イノウサイノのトーテムが置かれている前で、リンスガルトはカボチャ餡団子を食していた。 「南瓜というのはおいしいのじゃな♪」 リィムナはカボチャチップスを食べている。 「スナックにしてもいけるんだね♪」 マルカはパンプキンパイだ。 「色々な調理方があるんですのね」 ルゥミはカボチャ飴。 「そういえば、昔じいちゃんがよくこれ作ってくれたなあ…」 ハロウィンは終わった。 空は青く、雲は白い。 夜中飲んで騒いでしたお陰か、村は昼近くになってもひっそりしている。皆多分まだ寝ているのだろう。 カボチャ大王は4人の前で、大きく頭を下げる。 『今年は久々に、とても楽しかった。礼を言うぞ』 「お礼なんていいよ。あたいたちも、うんと楽しんだから。そうだ、今日の事も時の蜃気楼使えば何時でも見られるんじゃないかな。大王の姿もね♪ そしたら村おこしになるかも!」 「それはよい案じゃのう。カボチャ大王殿、よろしければ来年以降もこの村に出てやってくれんかの。村が有名になれば、観光客が来る。ハロウィンに加わる子供も、もっと増えるぞよ。何事も宣伝が大事じゃて」 ルゥミとリンスガルトの意見を聞いたカボチャ大王は、俄然張り切ったらしい。目から星屑を飛ばした。 『そうか。なら、そうしてみるとしよう。それではまた来年!』 クルクル回りながら上昇し青空の彼方に去って行くカボチャに、リィムナが手を振る。 「また会おうねー、大王−!」 ルゥミは小首を傾げ、マルカに話しかけた。 「大王、どこに行くんだろうね」 マルカはくすりと微笑んで答える。 「劇場ですわよ、きっと」 |