ゆるすぎ
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/12 01:45



■オープニング本文


 昨今各方面で暴れている護大派について抱かれているイメージといえば

 血も涙もない極悪人。
 アヤカシを操る闇の組織。
 権謀術策に長け、自分の命すら塵芥のように扱う狂信集団

 といったところだろう。
 むろんその面を否定するものではない。
 だが、この一点だけは忘れてはならないと思う。
 彼らもやはり人間なのだ。天儀に住まう人々とは大分異なってはいるが、それでも人間なのだ。
 だからして大勢いるうちの何パーセントかには必ず、常識で推し量れないほどのアホがいる。
 そしてそのアホは、とんでもなくアホな事態を引き起こす。





 早朝のジルベリア。
 秋の朝もやの立ち込める、首都ジェレゾ。
 アヤカシが含み笑いをしている。

「ウヒョヒョヒョヒョ…ここが天儀だっぴね…」

 とある古代人の手によって作られたそのアヤカシに課せられた使命は、天儀に破壊と混乱を巻き起こし、瘴気を増大させ、偉大なる護大の復活を早めること。
 実に邪悪だ。

「ヒョヒョヒョ…こんなにたやすく首都に侵入できるとは思わなかったっぴ。野蛮人どもはやっぱり知能指数が低いっぴ」

 使役アヤカシの分際で聞き捨てならない台詞だが、彼を生み出した人々の認識がそうなのだからしょうがない。

「さあ、この地を汚染しまくるだっぴー! 人間ども、恐怖に打ち震えるがいいっぴー! ウヒョヒョヒョヒョウキイイイイイー!」

 自称あやっぴーなるアヤカシは飛び跳ねまくり、奇声を上げまくった。
 近くを新聞配達人が通りがかったが、見てはいけないものを見たような顔をしてそそくさ早足で去っていく――アヤカシだと気づいた様子はない。
 それはそうだろう。なにしろあやっぴーは二頭身ゆるキャラそのものの姿かたち。素人目には着ぐるみを着た危ない人が暴れているようにしか見えない。

「ブシャー! 瘴気エキスブシャー!」

 誰にも邪魔されないのをいいことに、あやっぴーは天下の往来を我が物顔に跳ね回る。

「ウホォオオオオオ! 瘴気ブシャー! ブシャー!」

 近くの屋敷の門が開いた。
 そこからパジャマ姿のエリカが出てくる。
 彼女は無言であやっぴーに近づき肩を叩いた。
 振り向いた顔面に拳がめり込む。
 一度ではなく連打だ。
 あやっぴーの顔が面白いくらい凹んで曲がった。どうやら柔らかい材質で作られているようだ。

「顔はやめてー! 顔はやめてだっぴー! ピギャアアアア!」

 その言葉を聞いたのかどうか、今度は腹部を狙って殴り始めるエリカ。

「やめてやめて腹パンやめてだっぴー! おごほぉおおお! なんでもするからゆるしてだっぴー! おぐぇええええ!」

 あやっぴーの口から内臓っぽいものが出た。どうも衝撃に弱い体の作りをしているらしい。
 白目を剥いた相手を地面に投げるエリカ。

「朝から騒がないでよ。赤ん坊起きるから」

 それだけ言い残して屋敷の中に戻っていく。
 打ち捨てられたあやっぴーは、しばしのびきっていたが、やがて何事もなかったかのように起き上がった。

「ゆ、許さないっぴー! 下等生物ごときがあやっぴーにこんな狼藉を働いていいと思ってるかっぴー! ただではすませないっぴー! もう怒ったっぴー! 瘴気エキスまみれにしてやるっぴウキャアアアア!」

 リベンジを誓うあやっぴー。
 しかしその願いは永久に叶えられそうもない。
 何故なら一報を受け、早くも開拓者たちが来てしまったから。



「エリカさん、朝から何やってたんです?」

「いや、不審者が騒いでたから」

「なんかすごい悲鳴聞こえたんでちけど、殺してないでちょうな」

「大丈夫よ、加減したから。それより坊や起きてないの?」

「ええ、全く起きませんでしたよ。誰に似たんでしょうかね、この図太さ…」



■参加者一覧
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟


■リプレイ本文



 リエット・ネーヴ(ia8814)は突如出没したというアヤカシを探していた。
 聞き込みによればアヤカシの名は、あや……なんとか。子細はいまいちはっきりしないが、とにかく目立つ奴らしい。なら歩いているうちに行き当たることもあるだろう。
 思いながら探索を始め3分後。彼女の頭からアヤカシの件は、きれいさっぱり消え去っていた。

「やっぱり花の都は違うじぇー!」

 なにしろジルベリア首都を訪れるのは初めて。観光に熱が入ってしまっても責められないというもの。
 カフェや洋品店や雑貨屋、果ては宝石店の飾り窓に張り付いて見学。道端で演奏をするバイオリン弾きに拍手。続けてぶらぶら公園を通りがかった時、子供たちに取り囲まれたゆるキャラを見つける。

「イノウサだブヒーピョン! ウサイノだピョンブヒー!」

「なんだよー、名前と鳴き声ブレてんじゃん」

「ちゃんとキャラ固めてよ」

「そうじゃな…いまいちな口調じゃな…」

 あれはリンスガルト・ギーベリ(ib5184)の声だ。

「あれー、リンスガルト君、こんなところで何してるじぇ?」

「おお、これはリェット殿。いやな、ある村のトーテムをな、村おこしに使えるのではと思うてな。このように街の反応を見ておるのじゃよ――そういえば、リェット殿は何故ここに?」

「あ、そうだ! 私不審なアヤカシを探していたんだじぇ!」

「何、不審者? 待ちやれ、妾もすぐ向か」

 リェットに続き大急ぎで走りだそうとしたリンスガルトは派手につまづいた。
 車道に転がり出、馬車に撥ねられる。
 幸い開拓者だからその程度ではまいらない。

「ぬおお…まるもふにパーツをごてごて追加して作ったので凄まじく動きにくい…!」



「ウキイイイイイ! 下等生物呪われろっぴー! キャアアアアア!」

 ユウキ=アルセイフ(ib6332)は異様な動きをしている生き物に、眉をひそめた。

「……何だろう? 着ぐるみ……??」

 ゆるキャラなのか。それにしては可愛くなさ過ぎるが。

(…周りの人達に迷惑を掛けている様だから、早めに捕まえないとね。アイヴィーバインドだけで充分かな。いくら不審者といっても、殺めてしまっては不味いし)

 彼はあやっぴーがアヤカシであると、まだ気づいていない。
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)も同様である。可哀想な人を見るような目であやっぴーを眺め、見かねたように「もし」と声をかける。

「騒いでおられるのは貴方ですか? 色々苦情も出ておりますのでもう少し静かにしていただけませんこと?」

「なんだっぴー! 猿の分際であやっぴーに話しかけるんじゃないっぴー! ペッペッ!」

 暴言に笑顔が引きつった。

「貴方、そこへお座りなさい」

「ハァ? 誰に物言ってるっぴー野蛮人」

「お・す・わ・り・な・さ・い!」

「ギィエエ! 頭潰れるっぴー!」

 どす黒いオーラを発し、あやっぴーの頭が歪むほど力を入れ掴み座らせるマルカの目は、全く笑っていない。

「いいですか、天下の往来で大騒ぎするなど健全な帝国男子のする事ではありません。ましてや他人様のお宅の前で等言語道断。このお宅には生まれたばかりの赤ちゃんもいるのですよ。人様に迷惑をかけてはいけないと教わりませんでしたの?」

 アヤカシだから教わるわけがない。
 そのあたりを彼女が悟ったのは、八壁 伏路(ic0499)がソモサツペを手に飛び込んできてからだ。
 ちなみに彼はあやっぴーがアヤカシということを知っている。何を隠そう先程エリカからタコ殴られている所を見ていたので。

「刀の錆になりたくばかかってこい! わしは弱い奴にはとことん強くでるぞ!」

 まるで黄表紙の主人公みたいだ――自分の前に予め氷の結界を張るという所さえなければ。

「瘴気汁ブシャー!」

 あやっぴーがツバを吐いた。
 ツバは結界を突き抜け、伏路の顔に当たる。

「目! 目ええええ! 目があああああああ!」

 転げ回る伏路。ユウキは急いでレ・リカルをかける。
 勝ち誇るあやっぴー。

「フヒョホホホホ! 思い知ったか虫ケラ!」

 その頭にマルカが突き刺したグラーシーザは、後頭部から口まできれいに貫通した。

「全く迷惑なアヤカシですわね」

「オギョオオ!」

 血っぽいものを盛大に吹き出して倒れるあやっぴー。
 伏路はこの機を逃さず、倒れている彼(多分)を蹴りまくった。

「痛いわボケ! 瘴気汁を目に飛ばすのは反則だろが!」

 あやっぴーが起きた。

「ムキィイイイイ! 瘴気汁ブシャー!」

 すかさず離れる。彼としてはそれだけでよかった。急遽乱入してきた雁久良 霧依(ib9706)があやっぴーをアイヴィーバインドで、亀甲縛りしてくれたので。

「ヒィイイ、食い込む、食い込むっぴー!」

 彼女はたちまち看破した。このアヤカシがどMだということを。

「うーん、外見がちびっこだったら申し分なかったんだけど♪」

 手提げカバンからモザイクが入り用になりそうなおもちゃが続々出てきた。
 なぜそんなものを都合よく持ち歩いていたかは、本人に聞いてみてほしい

「あらあら、まるでボンレスハムのよう…なんて醜いのかしら…この豚っ! さあ、たっぷりお泣きなさい!」

「ぎぎゃあ! 鞭はやめてだっぴー! ほおおおお!」

「うふふ…恥ずかしい姿、ご近所の皆さんに全部見られてるわよ?」

「いやああああ! こんなあやっぴーをみないでだっぴー! へああああああ!」

 天下の公道で始まるゆるキャラ公開SMショー。
 どこに需要があるか分からないイベントを前に通行人たちは引いた。
 伏路が霧依の後ろから、小物っぽい台詞を吐きまくっている。

「バーカ、アーホ、ボーケ、おまえのかーちゃん古代人!」

 霧依はハアハアしながら、ハイヒールであやっぴーの顔を踏む。

「まだ足りないわ!」

「いひいいい痛くしないでだっぴー!」

「嘘つきねえ…痛いのが気持ちいいんでしょ? 正直におっしゃい!」

 ユウキはそろそろ外聞が気になってきた。

「あのー、霧依さん、そういうことは人目につかないところでしたほうが」

 その時ようやくリエット、及びリンスガルトが駆けつけてきた。
 リエットは戒めを受け地面に転がるあやっぴーに駆け寄る。

「! これが、あやっぷー? もっと怖い感じのじゃないじぇ?!」

「あやっぷーじゃないっぴあやっぴーだっぴー!」

 縛られたまま立ち上がりぴんぴん撥ねる姿が面白かったので、真似をして遊ぶ。
 伏路は遠方から注意した。

「気をつけろ、そいつ口から瘴気汁飛ばしてくるでな!」

「え、そーなんだじぇ?」

 距離を取ったリエットは、きりりっ、と表情を引き締める。

「ふっ。こーゆーのはできるかな、あやっぽー!」

 仁王立ちした彼女の周囲に幾本も水柱が上がった。さながら水芸。
 あやっぴーは顔面を歪めた。

「へっ、そんなも」

「誰が立っていいと言ったの! 這いつくばりなさい!」

「ぴゃああああ!」

 鞭打ちの刑に処せられている相手に対し、続けて決めポースを取るリエット。

「これから精進すればいいんだじぇ、僕を超えてみろ!! あやっぱー!」

「なんでいちいち名前間違えるっぴー! ムカツクっぴー!」

 あやっぴーは全力を込めアイヴィーバインドを断ち切った。
 変態的な縄目をつけたまま吠えた。

「百倍返ししてやるっぴー! 瘴気z」

 そこに立ちはだかるもう一匹のゆるキャラ、もといリンスガルト。

「待てえい! そうはさせぬ! このイノウサ(ウサイノ)が来たからにはそちの悪業も尽きたと思え!」

 格好よく決め腰の物を抜き放とうとし、初めて着ぐるみの欠陥に気づく。

(うっ! 前足をリアルな蹄にしたから刀が持てぬ…!)

 しかしそこは百戦錬磨の開拓者、迅速に戦法を切り替えた。

(なれば肉弾戦で臨むのみ!)

 だが突きを出しても蹴りを出しても、手足が短すぎて届かない。避けられまくる。

「ヒョホホホホ! 所詮天儀人なんかあやっぴーの敵ではないっぴー!」

 明らかに調子くれ始めたあやっぴーに苛つき倍増だ。

「ええい、汝は我が着ぐるみと体型が大差ないのになぜそんなに機敏なのじゃ! アヤカシだからか! ずる――」

 彼女は不意に汗をかいた。急に小さい方の欲求が高まってきたのだ。

(いかん…早く片づけて着ぐるみを脱がねば! いや待てこれ自分では脱げんのだ。チャック誰かに開けてもらわねば!)

 焦りがよくなかったのだろう。渾身の拳を放とうとした彼女はうっかり脚を滑らせ、転倒した。
 イノウサイノはお腹回りが太ましい。ひっくりかえると1人では起き上がれない。

「おお起こしてくれー! 緊急事態じゃー!」

 呼びかけに応じたのは霧依。
 リンスガルトのもとに馳せ参じるや、お腹を思い切り押す。
 むろんわざとだ。SとMの探求者である彼女が、窮状に気づかないわけがない

「さあ、腹筋力で立ち上がるのよリンスちゃん!」

「んああ腹を押さえてはダメじゃあー! あ…」

 不自然に沈黙するイノウサイノ。
 いい笑顔の霧依。
 着ぐるみの皮が分厚いので、外側に兆候は現れていない。
 でもあやっぴーはプフーと吹いた。

「ウキャキャキャ! こいつおもらsi「言うなあああああ!」

 顔面の真ん中にリンスガルトが鉄拳を繰り出す。
 あやっぴーの顔面が豪快にへこみ後頭部に突き出る。

「ひぎゃあああああ! 顔が、あやっぴーの顔が崩壊したっぴー!」

「元から崩壊したような顔だろうに…」

 さりげなく身も蓋も無いことを言うユウキは、転げ回るアヤカシをアイヴィーバインドで捕らえ、氷の刃を乱発。

「いひいいい! やめるっぴー! 瘴気汁ぶ」

「う! もう瘴気ぶしゃーはさせないじぇ、封じっ!」

 リェットがその上に鑚針釘を打ち込む。ついでに影縛りもかける。
 安全になったので、伏路がまた近づいてきた。

「のう皆の衆、ついでだから焼き芋せんか。エリカ殿の家には広い庭があるで、落ち葉を集めるのもたやすかろ。んで、ついでにこやつを炙ると」

 青ざめるあやっぴー。
 リェットはノリノリだ。

「わ、面白そうだじぇ」

 止めるかと思いきや、意外とそうでもないユウキとマルカ。

「……そうだねえ。古代人についての情報を模索中なんだよね。何か知っている事があったら、訊き出しておきたいかな」

「そうですわね。聞き出せるものがあるか微妙ですけど」

「びゃあああ! 誰か助けてだっぴー! あやっぴー靴でも尻でも嘗めるっぴお助けーっ!」

「うるさい子ねぇ…」

 霧依は着用済みの紐ショーツをあやっぴーの口にほうり込み褌で猿轡。荒縄で縛り上げ顔面に騎乗。
 蝋燭をたらたらしながらリンスガルトを慰める。

「リンスちゃん、心配要らないわ。お漏らしなんて子供にはよくあること…実は大人になってもよくあることよ? 大丈夫、後始末は私がしてあげる」

「うう…すまぬの、かたじけない…」



「というわけで、おむつ替えはこうするとスムーズにいくのよ。次は授乳についてなんだけど…」

「いや、そこまではいいんだけど…」

「まあまあ遠慮なく。あん、もうリンスガルトちゃんたら、吸い過ぎよぉ」

 リンスガルトを使ったおむつ替え講習をすませた霧依は、エリカにおむつ型の祝いケーキを渡し、意気揚々と庭まで戻ってくる。
 木に吊るされたあやっぴーの下で、伏路とリエット、スーちゃんがせっせと落ち葉を炊いている。

「うーん、煙が足りないねぃ」

「湿った葉っぱ入れようぞ」

「杉葉もいいのでないでちか」

 熱気と煙たさに目からの瘴気汁が止まらないあやっぴーの尻らしき位置に、霧依がヴァイヴレードナイフを突き立て、ぐりぐりする。

「よくほぐしておかないとね♪」

「フキャアアア! やめてっぴー! 裂けちゃうっぴー! ほぉおおおお!」

「まあ、こんなに瘴気汁だだ漏らして…もっと体を熱くしてあげる♪ さあ一気、一気♪」

 続いてヴォトカと葡萄酒と天儀酒のブレンドを注入。

「わあ、あやっぷーお腹フ−センみたいにぱんぱんだじぇ!」

 大ウケのリエット。

「さ、逆流しないようほぐした穴を芋で塞ぎましょうね。さて何個入るかしら♪」

「あはぁあああ! 壊れるゥ、あやっぴー壊れるゥ♪」

 あやっぴーの声がおかしくなってきた。
 マルカはそれをスルーし、エリカに祝いの品を渡す。
 カフヴァールと、勇士の帯。

「天儀ではタンゴの節句とやらで兜を飾るとか。勇ましい子になりますように」

「いやー。なんか悪いわね色々。霧依からはケーキだし、リンスガルトからは縫いぐるみだし、伏路も前に腹帯と引き綱くれたし。貰ってばっかりだわ」

「いいではないですの、御目出度いことですもの。…あの、少し抱かせて頂けますか?」

「いいわよ。どうぞ」

 おくるみに入った赤ん坊は、何もかも小さい。目も口も鼻も、差し出した指を握るその手も。
 思わずマルカは顔を緩める。
 近くで覗き込んでいたユウキも。

「とりあえず、無事に赤ちゃん生まれて良かったね」

 リンスガルトは赤ん坊の頬をつつく。

「おお、なんともやわいのう」

 伏路は尋ねる。

「かわいいお子さんだのー。しかし、命名はどうなったのだ?」

「いや、私は決めたんだけどね。ロータスがいやだって言って」

「ほう、どのような名前だ」

「竜小屋で生まれたからドラゴン」

 言葉を失う伏路以下3名。
 そこにロータスが出てきた。
 会話を聞いていたらしく、半眼である。

「命名のセンス全然ないですよね、この人」

「じゃあ、あんたは何がいいって言うのよ」

「最初から言ってるじゃないですか、カモミールにしようって。あなたも僕も花の名前なんだから、子供もそうしたほうが、統一感出るでしょう?」

「そんなへなっぽいのイヤ」

 伏路、こほんと咳払い。

「まあまあ、名前は後でもいいとして、赤子という究極の既成事実も揃ったことだ。おぬしら籍を入れたほうがよかろうよ。仮にも貴族、相続でもめると目も当てられんぞ」

「そこもなんか意見が合わないのよね。私は家に入ってもらうのでいいんだけど、ロータスがそれだといやなんだって。マーチン家ともブルク家とも独立した分家作りたいんだって」

「そっちの方がいいと思うんですよねえ。相続税かかってこなくなるから」

 彼も彼で色々考えてはいるらしい。
 マルカは幼子を揺らし、語りかける。

「あなたは将来、どんな大人になりますかしらね」

 彼女らの背後では、あやっぴーがクライマックスだった。

「そろそろいっちゃいなさい♪」

 言うや否やあやっぴーの尻から霧依の腕が入る。一気に肩まで。
 そしてアークブラスト発動。

「精霊力来る、来るっぴいい! あやっぴー逝っちゃうんほぉおおおおおおお♪♪♪」

 悲鳴とも思えない声を上げ、灰となるあやっぴー。
 リエットは焚き火から焼き芋を取り出しほお張る。

「水じゃ、瘴気の浄化や中和できないんだったよねぃ〜後でこのへんの土を入れ替えないとねぃ」

 ユウキも焼けた芋を取り出し、皮をむく。

「どれ位の被害が出ているのかは分からないけれど、後始末はしないとね。ま、腹ごしらえしてからにしようか」