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■オープニング本文 私はガンマン開拓者、カラミティ・ジェーン。この世で最も危険なガンマンとして有名よ。 何故かという理由は後で話すとして、とりあえずあのアヤカシを追うのよ皆。 そう、あれはアヤカシなの。真っ黒な馬も、それに乗った真っ黒な騎手もアヤカシなの。 まあ言わなくても分かるわよね。さっきから超高速でジェレゾの町を交通法無視して爆走し、至るところで人を撥ね、障害物を壊しまくっているんだから。 あれが出現したのはジェレゾ競馬場よ。 …知ってる? 今日は年に一度、ジルベリア競馬界の最高峰、エンペラーカップが行われる日なの。 そこにあいつらは何食わぬ顔でエントリーしてきた…ええまあ、おかしいと思うべきだったのよね。アヤカシカケルノ号なんて名前がついていた時点で。 とにかく奴はレースが始まるや否やなみいる人気馬をごぼう抜き、圧倒的な速度で堂々の第1位を制した。 そしてそのまま止まらずレース場の柵を粉砕し進行方向にいる観客を軒並み踏み倒しこうやって町の中を大暴走。 …どうやら競馬に血道を上げる人々の念から湧いて出てきたものらしいわ、あのアヤカシ。 とりあえず私はもう走れない。これ以上走ったら死ぬと思う。一生分くらいは走った。出せる力はすべて出し切った。だからバトンタッチお願いね。皆は優秀な開拓者だからきっと奴を退治出来るに違いないと私信じてる。だからアヤカシについては1ミリも心配してないの。 それよりもっと心配な問題があるの。 …買っちゃったんだ、アヤカシカケルノの馬券…。 ねえ、これ…配当金出るわよね? だって間違いなく1位だったんだもん。 ぶっちぎりで高配当出るわよね? ね? 出るって言ってお願いよぉ! うっかり所持金全部突っ込んじゃったのよ私! 年に一度のことだから、つい、つい気が大きくなっちゃって…っ! |
■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ファムニス・ピサレット(ib5896)とフランヴェル・ギーベリ(ib5897)は競馬場にいる。 「おかしいなあ、お姉ちゃんとリンスガルトさん、まだ来ない」 「そうだねえ。まさか日にちを間違えはしないと思うんだけど」 周囲には馬券を握り姦しく騒ぐ人、人、そして人。 本日は帝室関係の方々も、特等のボックス席に来ていらっしゃるそうだ。 「もうエンペラーカップ、始まっちゃいますよ…2人してどこにいるんだろう」 気遣わしそうに零すファムニスの視線は、フランヴェルに向かって一直線だ。 アナウンスが響き渡る。 『さあー、本日の一番人気、ブランカ・ブランカ入りました。次には天儀から参戦、ガンリュウムサシ。アル=カマルから参戦、マハシャーイ…続いてブルーエンパイア…ユンカース…バロネットマーチン…スピットファイア…アヤカシカケルノ…』 彼女の目を引くのは一番人気の白馬、ブランカ・ブランカ。 体ばかりか鬣も尾も真っ白。絹のように艶めいたそれが、青空の下なびいている。 「フランさん」 「『フラン』でいいよ、子猫ちゃん。なんだい?」 「あ、あの、私はきっとあの白いのが勝つと思います。フラン…さんはどう思いますか?」 敬語を捨て切れずもじもじする少女の姿に内心涎を零さんほどであるが、あくまでも表に出さないフランヴェル、さらりと髪をかきあげる。 「そうだなあ、ボクもあれがレースを制するような気がするよ」 馬たちが配置に就く。そして――ゲートが開く。 ● ここはジェレゾの裏通り。いかがわしい界隈。 連れ込み宿の一室でリンスガルト・ギーベリ(ib5184)とリィムナ・ピサレット(ib5201)が、表記していいことの限界を超えていちゃついている。 「ん〜リィムナぁ〜♪」 「…リンスちゃん♪ そんなところばっかり触ってぇ♪」 「そうしないでいられようか、リィムナに触る機会、ぐんと減ったのじゃぞ。それどころか一緒にいる機会すら…」 彼女たちは本日、ファムニス及びフランヴェルと待ち合わせしていた。だが、いつまでたっても部屋から出ようとしない。 主にリンスガルトのせいだ。彼女はリィムナが泰大学に入ってから、以前のように頻繁にデート出来なくなった為、欲求不満が常態化している。そのため一旦デートするとなると、密度が半端でなくなるのだ。 (会ったときからクライマックス状態だったなあ、リンスちゃん…いきなりお宿に連れ込んでくるんだもん) ファムニスは裸の胸にくっついている頭を撫でる。妹、そして面白い変態と約束した日は、確か今日だったはずだと思いながら。 「もう3日ここにいるんだけど…そろそろベッドから出ない?」 リンスガルトは恋人の妹と、稀代の変態である伯母の顔を思い浮かべた。 現在進行中の情事と交わした約束とを心の天秤で計ってみたら、圧倒的重さで前者の方に傾いた。 「…いや、まだまだ足りない――」 台詞が終わらないうち突如部屋の壁が吹き飛び、何かが駆けこんできた。 「――ほげっ!」 何かはリンスガルトを思いきり踏み付け反対側の壁を吹き飛ばし、去って行った。 図らずも恋人を盾にする形で無傷となったリィムナ。 「…アカヤシ! リンスちゃんアヤカシだよ、アヤカシ!」 リンスガルトは後頭部と背中に蹄の跡をつけたまま起き上がる。 「アヤカシかっ! 追うぞっ!」 ● 『おおーっとアカヤシカケルノ大暴走です! 一番人気をはるか尻目にゴールインした後逃亡です! 何が起きた、どうしたんだ戻ってこいアヤカシカケルノ! アヤカシカケ…え? 本物のアヤカシ?』 「アヤカシ!?」 実況中継にファムニスが驚く。 フランヴェルは毅然とした表情で立ち上がった。 「…アヤカシか! 追い掛けよう!」 言うが早いか馬場と観客席を隔てる柵を乗り越え、2番手でゴールインしたブランカ・ブランカの元に駆け寄る。 そして騎手にこう持ちかける。 「失礼、ボクは開拓者のフランヴェル・ギーベリという者だ。たった今アヤカシが発生したようなのだが、残念ならボクは相棒を連れてきていない。というわけでその馬を貸していただけないだろうか――そうか、快く引き受けてくれるのか! ありがとう!」 騎手が返答する前に彼女は動く。 ファムニスをお姫様抱っこし、ひらりと馬に跨がる。 「ファムもおいで! 大丈夫、決して怪我はさせないさ!」 キラリと白い歯が光る。周囲に幻の花が開く。 さながら夢の国の王子様だ。ファムニスの目もハート型になろうというもの。 「は、はいっ。フ、フランさん…」 「はっ! 行くぞシルバー!」 「えっ、その馬そんな名前じゃない…」 騎手の突っ込みを無視し走りだす。 アヤカシたちがどこを通って行ったかは丸解りだ。周囲を破壊しながら進んだのであるからして。 右往左往している観客席を通り過ぎ、壁に空いた大穴から会場の外へ…出ようとしたところでファムニスは見た。馬券売り場で他の客と一緒になって、ごねているジェーンを。 「オーケー配当金がないのは仕方ないわ。でも待って、お願い待って、せめて掛け金、掛け金だけでも戻…全部とは言わないから、苦汁の決断で半分だけでもいいと…いいえ3分の1…分かった5分の1…10分の1でもいいからっ! 私今所持金ゼロ…待ってえええええ!」 無情にも降ろされる馬券売り場のシャッター。 膝をつくジェーンの胸元で揺れる一対のスイカだかメロン。 (なんという巨乳っ…! 是非試さなくては…) ファムニスは矢も縦もたまらず手をわきわきさせ、フランヴェルに訴える。 「フランさん! あそこのおっぱ、もとい女の人が苦しそうにしてらっしゃいますので介抱します!」 「…ん? 介抱するのかい? 分かった」 馬から降り失意の底にありそうなジェーンに飛びつき、顔を弛ませ、胸を執拗に撫でさする。卓越した指使いで。 「大丈夫ですか? 大丈夫ですかぁ? おーっ…思った通りご立派ですねっ直接さすりますね!」 「ぎゃああ、何、何なの、どこから湧いたのこの痴少女!?」 「そんな嫌がることないじゃないですかハァハァ!」 「ええと…介抱しているん、だよね?」 尋ねるも返事がない。 やはり胸が大きい方がいいのか。 そんな思いを噛み締めながら、それでも試しに言ってみる。 「先に行くよ?」 「はいフランさん行ってらっしゃいませ」 完全な棒読みに切なさ倍増となるフランヴェル。白馬に拍車をかける。 「はいやぁー!」 ● リンスガルトとリィムナは、よろめきつつカフェに入った。レモネードを注文しぐいっと一杯。 呼吸を落ち着けてからリンスガルトは、手にしたハンカチで汗をふく。 「…ひとまず妾たちの足では追いつけぬということを認めねばならぬようじゃな…レンタル滑空艇を借りて来ようぞ」 「ああ、あの遊覧用の?」 「うむ、装備はあるまいが、追いかけるだけなら十分じゃ。走るよりはよかろう」 「そうだね。ところで今思ったんだけど、あのアヤカシ競馬馬と騎手に見えたよね? もしかして競馬場から来たんじゃないかな…だとしたら、ファムとフランさんがそこにいたはず…心配だから2人を探してくることにするよ!」 「…そうか承知した。では妾はその間に業者と話を付けておく! 先に行くぞ! 一番近い業者は確かここじゃ、間違えぬようにの!」 ジェレゾ案内地図を渡されたファムニスは、リンスガルトの頬にキスした。 「ん、気を付けてねリンスちゃん。後で合流しよう!」 「汝も気を付けてな」 まんざらでもない顔でおかえしをしたリンスガルトは、カフェを飛び出していく。カウンターに白いレースのハンカチを残して。 「リンスちゃん忘れ物…あ…これハンカチじゃなくてぱんつ…。リンスちゃん履いてないんだ…」 ● 障害物を巧みに避け跳び越え、進む白馬の王子様、フランヴェル。 「フフッ、乗馬は得意なんでね!」 誰に言っているのか分からない斜め45度の台詞、そして流し目。 彼女の回りには人だかりが出来ている。 「キャー! フランヴェル様よ、フランヴェル様−!」 「こっちを向いてフランヴェル様−!」 「すてきーっ!」 その数151。皆13歳を越えない少女ばかり。そして美少女ばかり。 「やあ! ベアトリーチェじゃないか! ジュリエットも! おやおや、ルクレツィアにマノンまで。駄目だよみんな、こんな時間に町にいるなんて。学校はどうしたんだい?」 「早退してきましたー♪」 「フランヴェル様が来てるんだもん、勉強なんてしてらんないっ!」 何を隠そう全員がフランヴェルの恋人であり親衛隊。白馬に乗って市中を闊歩している我が君の噂を聞き付け、束になって集まってきた次第。 「ちょっと、フランヴェル様にべたべたしないで!」 「あんたこそ離れなさいよ!」 「こらこら子猫ちゃんたち、ボクのために喧嘩はよしておくれ。あははっ、いつ見てもトレビアーンだね! 皆に会えて嬉しいよ!」 とうとう馬を止めて花のつぼみと戯れ始めるフランヴェル。 その頭からアヤカシの存在は、完全に消え去っていた。 ● 「ファム、あんた何やってるの! 早く来て!」 「わ、お姉ちゃん! いえこれはそのあの…ジェーンさん、すぐ戻りますのでそこにいて下さいね! たっぷり介抱しますから!」 乳いじりを中断させられたファムニスは服を乱し倒れ臥している相手へ、名残惜しげな言葉をかける。 それから姉と走りだす。 「フランさんはどうしたの? 一緒にいたんじゃなかったの?」 「うん、ええと、途中まではそうだったんだけど…お姉ちゃんこそリンスガルトさんは?」 「リンスちゃんは滑空艇を借りに行ったんだ! あたし達もそこに行くよ!」 地図に指定されていた業者のところに着いてみれば、既に滑空艇は準備万端整っていた。 「待っておったぞ! さあ、何はともあれ急ぐのじゃ!」 本日は快晴だが、始終突風が吹きまくるという天候。リンスガルトの服も始終へそのあたりまであおられている。 ファムニスは姉にこそこそ耳打ちした。 「お姉ちゃん、リンスガルトさん、ぱんつがないんだけど…」 「大丈夫だよ、リンスちゃんのぱんつならあたしが持ってるから♪」 かくして3機の滑空艇がジェレゾの空に舞い上がる。 スィーラ城を中心にして放射線上に広がる町並みを俯瞰すれば、起きている騒ぎが手に取るように分かる。 暴走中のアヤカシからちりぢりばらばらに人が逃げていく場所。 それからもう1つ、逆に人だかりのしている場所…。 「あっ、あれフランさんじゃない?」 「あ、本当だ」 「何をしとるのじゃあの御仁は! アヤカシを追うとるのではなかったのか!」 リンスガルトは上空を通過するついで、彼女の頭の上に、軽く気功波を見舞っておいた。 ● 「キャー! 大丈夫フラン様!」 「フランヴェル様−っ!」 正体不明の衝撃に倒れたフランヴェルは即時起き上がり、やっと使命を思い出した。 「…しまったあ! すっかり見失ってしまったぞ!」 頬だの服の襟だのキスマークだらけにし、急いで馬の背に戻る。 「子猫ちゃんたち、ちょっと用事を思い出したから、また後でね」 黄色い歓声に送られる彼女は、どこを捜せばといいかと悩んだ後、すぐ次のことに思い当たった。 「いや待て…騒ぎが起きてるとこを直接目指せばいいんだ!」 それは難しいことではなかった。アヤカシだけでなく滑空艇3機、束になって追いかけているのだ。いやでも騒ぎになる。 ● リンスガルトは町の建物と建物の間を擦り抜けながらの超低空飛行。道行くご婦人方の裾を巻き上げ、アヤカシをあおりまくっている。 「なんというのろさじゃ! まるで泥亀の如くよの! それで天下を取った気になっていたとは、ちゃんちゃらおかしくて臍で茶が沸くわ!」 器用にも操縦席で中腰になり、尻まで叩いて見せている。 相変わらずぱんつがないが、本人はまだそれを知らない。 「悔しかったら妾を抜いてみい、ほーれほれ!」 走ることしか頭にないアヤカシは人馬一体となって挑発に乗り、猛然と滑空艇を追いかける。 (うおっ、こいつら速い速いぞよ!) 抜きつ抜かれつで内心ヒヤヒヤしながらも、リンスガルトは彼らを、市街地から連れ出すことに成功した。 一気に機体を反転させる。 「さあ、ここが貴様の執着点じゃ!」 リンスガルトが浴びせる気功波で馬脚が乱れた。 後方に2機が着陸した。 リィムナが飛び出してくる。 ファムニスは前以て打ち合わせしておいたように、援神楽舞を始めた。両手にボンボンを持って。 「フレー、フレー、や・っ・ち・ゃ・え・AYAKASI!」 支援を受けリィムナは敵に追いつき、『外道祈祷書』を開き、全力で歌った。 「もしもし角出せかたつむり〜天儀のうちであなたほど〜走るの遅いものはない〜どうしてそんなに遅いのさ〜♪」 この相手にとっては、とても屈辱的な歌詞である。 攻撃を受け見る見る内に透けていくアヤカシ。 そこにやっとフランヴェルが来た。 「ははは! 主役は後から登場するものさっ!」 『秋水清光』を携えた彼女は白馬の上に立った。 鞍の上から跳び、相手に襲いかかる。 「流星斬・雷霆重力落とし!」 格好良さそうな技の名を叫び、馬ごと騎手を切り抜く。 アヤカシは霧散した。 事が片付いたと見たリィムナは、やっとこさパンツをリンスガルトに渡す。 「はい忘れ物。可愛いとこが丸見えだったよ♪」 「…にゃああ! そ、それは妾の子供ぱんつ! そういえばなんだかすーすーすると思っておったのじゃあ!」 大急ぎで履き直し赤面するリンスガルト 「リンスちゃん、恥ずかしがってる姿も可愛いっ」 「…にゃ…リィムナも可愛いのじゃ♪」 恋人とチュッチュしまくる姉に、ファムニスは言う。 「お姉ちゃん、早く滑空機返しに行こうよ。延滞料取られちゃう」 「すいませーん、レンタル滑空機の延滞料を受け取りに来ましたー」 「ほら、もう来ちゃった――あれ、ジェーンさん?」 見れば彼女、レンタル店のジャケットを着ている。 いきなりどうしたというのか。 「いえ、ね、とりあえず今日の食費を稼ぐために急遽バイトを…」 苦しい事情を聞いたファムニスは、きらきら眼を輝かせる。 「あの、お金がないなら生活費が溜まるまで、私が住み込みでお世話しますよ! むしろ養います! その代り、私がそうしたい時にはいつでも胸を揉んだりちゅーちゅーさせて下さい! お風呂も寝るのも一緒です! いいですか? いいですよね! うへ、うへへへ…楽しみですうう!」 興奮し胸の谷間に顔を埋めつつ、フランに弁解する。 「あ、誤解の無い様に言っておきますが恋愛と胸は別ですから! フランさん大好きですよ♪」 その言葉本当だと信じたい。思うフランヴェルは追いかけてきた少女たちに取り囲まれた。 「うわわっ♪ 子猫ちゃんたち。困るなあもう♪」 台詞はともあれ声色だけは、全然困っていない様子である。 今のところ、ジェレゾは平和だ。 |