サンタ来るス
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/19 23:11



■オープニング本文



 ジルベリア首都は年末商戦たけなわだ。クリスマスにかこつけて売らんかなの大騒ぎ。ケーキの需要のため小麦と卵砂糖の値が上がりそのほかの物価も便乗して上がり、家計に響きご家庭の主婦たちの不満を引き起こしているのだがそれはともかくとして、若人たちの関心はこの年末いかに充実して過ごせるかに向けられている。



 町の一角。
 女性がカフェで暖かいカフェオレなど飲んでいる。
 なかなかきれいな人であり、スタイルもいい。席の傍らに剣が立てかけてあり、足元にブチ模様のもふらが丸まっているところからするに、まず開拓者と見て間違いない――実際開拓者だ。その名はエリカ。ジルベリア出身25歳の女騎士。

「フフ……雪の町もいいものね。そう思わないスポッティ?」

 話しかけられたもふらはつぶらな瞳を彼女に向け、言う。

「今年もこの季節実家に帰ってきたということは、またぞろ一人空しく寂しく過ごすのでちね。かわいそうなご主人たま」

 エリカはぐっと息を詰まらせた。しかし平静を装い言う。

「何を言ってるの、年末年始は家族で過ごすのが世間一般の常識と」

「お父たまとお母たまはアル=カマルへ旅行に、弟たまは婚約者とアーバン渓谷へハネムーンへ行き、お家にはこの年末年始誰もおりまちぇん。墓場のように冷え切ってがらんとしてるだけでち」

 カップが震え始めたが、それでも彼女、表情を崩さないだけの余裕を残している。
 だが次の台詞で仮面が剥がれ落ちた。

「ご主人たまはこの季節になるといつも付き合っている男から別れを切り出されてしまうのでち。今年でもう5回目……一体なぜなのでちか? なぜなのでちか?」

「知らんわそんなんこっちが聞きたいわ」

「そして毎年無常にも、『結婚ちまちた』のお手紙を元カレから送られてしまうのでち。きっと今度もそうなのでち。ぼくは思うのでちよご主人たま、踏み台の女ポジションをはご主人たまはもういい加減卒業するべきだと」

「卒業ねああそうね、したいわよ私も! だけどそのやり方が分かんないのよ! 大体何、スーちゃんあんた本当に私の相棒なの!? 言うことひどすぎない!? この年末は1人じゃないもの友達呼ぶもの飲んで騒ぐもの!」

「あっ、やめるでちご主人たま、ほっぺたを引っ張るのは虐待でち、虐待でち!」

 主人と相棒で騒ぎを演じているところ、通りからも騒ぎ声が聞こえてきた。
 何事かと目を向けてみれば、アヤカシが出現していた。
 ふわふわ地面から浮遊した風船人形。赤ら顔の赤い服の好々爺――サンタクロースだろう多分。
 だが、首元には『イブ・ウェディング・ハッピーキャンペーン』の文字が書かれた垂れ幕と大きな花束が。
 どうやらどこかの式場だか会館だかでひっかけてきてしまったものらしい。
 涙目になっているエリカはくくうと唸った。

「……ムカつく仕事納めだわ、本当に!」

「ひがんではいけまちぇんご主人たま」

「ひがんでないわよ! いいから行くわよ!」



■参加者一覧
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ
津田とも(ic0154
15歳・女・砲


■リプレイ本文

 頭上を漂うキャンペーン風船、と見せかけアヤカシ。
 ゆるさに緊張感もそがれそうなエルレーン(ib7455)は、相棒もふら、もふもふに話しかけた。

「ふーせんあやかし…ふわふわしてるねぇ。もふもふでも倒せるんじゃない?」

「もっふ〜…我輩、めんどくさいことはきらいもふよ…大体ほら、他に戦ってくれそうな人、いるもふよ」

 丸っこい鼻が向けられたところには、確かに戦う気満々そうな女騎士、エリカが剣を振り回している。

「ちょっと、降りてきなさいよ! なにがサンタよ! 何がウェディングよ! ふざけるなバカヤロー!」

「…うぇでぃんぐ? さたんくろす、って、確か子どもにぷれぜんとくれるおじいさんじゃなかったっけ?」

 首を傾げるエルレーンにもふもふは、耳後ろをかきながら答えた。

「もふー、エルレーンももらってくるがいいもふよ、…カレシ」

 直後アイアンクローが発動される。

「えっ、何か言った?」

 エルレーンもお年頃、こういう冗談を笑って見過ごす寛容さは持たないのだ。

「うーん、このアヤカシはどういう意図で発生したんでしょう…」

 相棒駿龍蝉丸に乗る鈴木 透子(ia5664)も、ふわつくだけのアヤカシに疑問符を浮かべる。

(物理的な危険性はなさそう…精神攻撃を旨としているみたいですね)

 事実地上で構えているあの女騎士、相当ダメージを受けている。

「なによなによなんなのよ! 男なんか、男なんか…毎年毎年…調子いいことばっかり言って最後はいっつもこれじゃないのよ!」

「‥‥早めに倒したほうが良いみたいです…蝉丸、集中する」

 アヤカシが見るからに弱そうだからか、相棒は今一つ言うことを聞かない。右に左にゆらゆら定まらない飛び方だ。

「カッコよく決めれば注目されるから」

 それが急にさっと姿勢を改めた。
 要因は自分の言葉だけにあるのでも無さそうだ、と透子は悟る。付近にいる雌の甲龍――岩宿 太郎(ib0852)の相棒、ほかみの姿を目に。

「全く、女の子の前では調子がいいんですから」

 ところで太郎もまた(エリカほどではないにせよ)絵にかいたようなアヤカシのお目出度っぷりにイライラきていた。ウェディングに縁がないことはご同様なので。

「ああいうものは精神衛生上いくない! 非常にいくない! よって倒さなければならん、なあほかみ!」

 力を込めて呼びかけられたほかみは、ぐぅとも答えなかった。眼差しの醒めっぷりが尋常でない。
 そこへ5匹の忍犬――黒銀、白銀、関脇、まろまゆ、そして太郎――を連れた松戸 暗(ic0068)が通りがかる。

「ふむ。わっちらの敵でも無さそうじゃが、場所塞ぎではあるのう。のう、太郎」

 リーダー忍犬である彼女の相棒太郎が、わん、と返事をした。
 声に釣られたか、別の忍犬がよってきた。太郎たちと鼻と鼻をくっつけ匂いを嗅いでご挨拶。
 主である秋霜夜(ia0979)が大急ぎで駆けつける。

「こら霞。勝手に行っちゃ駄目だよ。すいません本当に」

「なんの、ちっとも。犬とはかわいいものよのう」

 暗から両手でぎゅうと顔を挟まれた忍犬霞は、喜んで尻尾をぱたぱた。
 それを小馬鹿にしたように見つめるのは、アーニャ・ベルマン(ia5465)の相棒猫又ミハイル。

「犬って奴は媚びまくりでしょうがねえな。俺には真似出来ねえ」

 サングラスをくいと持ち上げクールに決めたところ、脇から余計な一言が。

「そういうこと言ってる手合いほど実は構ってちゃん率高かったりするのでち」

 むむっとそちらに顔を向けると、ぶち模様のもふらがいた。

「…何だお前」

「お初にお目にかかるでち。スーちゃんなのでち」

「わっ、もふらじゃないですか」

 もふら大好きなアーニャは即刻スーちゃんを抱きあげもふもふ。

「かわいいなあ」

「本当のことを言われると照れてちまうのでち。それはそれとしてみなたまご主人たまを手助けしてあげてほしいのでち。このままでは更なる醜態をさらしてしまうのでち。すでに周囲からイタい女と認識されている可能性大なのでち」

 スーちゃんの懸念は正しかった。
 村雨 紫狼(ia9073)と相棒からくりカリンの間では、早速こんな会話がなされていたのだ。

『見るからに、男に飢えた負け犬オーラのにじみ出た方ですこと』

「言ってやるなカリン…年末幸せイベントに心が疼く人間もこの世には大勢いるんだ」

『惨めさの極致ですわね。ああいうのを干物女というんですの?』

 プラチナホワイトのショートボブ、紅い瞳、華のように可憐でかなり気位の高そうな美少女にカスタムしたマイからくりに横目を向け、紫狼は思う。

(…こいつ毒舌だなあ…まあツンデレ属性にしてはいるんだが)

 その近くにはこれまた人間とからくりとの組み合わせ。津田とも(ic0154)とその相棒からくり、銃後。

「どうやら強度もなさそうですし、動きも鈍い。一撃で決着がつくものかと」

「あ、そ。そんじゃやっとくか」

 簡潔な意見に従いともは、「クルマルス」の銃眼を覗く。
 すでに蝉丸が体重を利用し上から押し、アヤカシの高度を下げさせている。地上班の手の届くところまで。
 エルレーンが早速相棒をけしかける。

「さあっ! 爪でひっかいちゃえ、もふもふならやれるよッ!」

「えー、なぜ我輩がもふ…」

 愚痴りつつ爪をひっかけようとしたもふもふは、はたと気づいた。フーセンが割れたら一番被害を受けるのは一番近くにいる者だと。
 霜夜が遠方から「雷同烈虎」でつついているのを尻目に、ちょいと触っただけで戻ってきてしまう。

「後は任せたもふ」

 こうなると仕方ないのでエルレーンも、自分で行くことにする。「黒鳥剣」を構え正面突撃。

「あっという間に…ぱーん、だよッ!」

 それに負けぬ勢いでエリカが突っ掛かる。剣を手に。

「死んじゃえええええええ!」

 アーニャは「華妖弓」を向け、ともは「クルマルス」を向ける。
 次の瞬間あっけなくアヤカシが爆発した。

 パァン

 一瞬で溶けるように消え、残るは例の垂れ幕と花束だけ。

「りゃっ、あっけない…わっちらやることなかったのう」

 拍子抜けしたように暗は言い、太郎たちの頭を撫でる。
 見届け役をしていた人間の太郎も消化不良だ。破片が飛んでくるとかいう危険性もなく、きれいさっぱり片付いてしまったものだから。
 とはいえ女騎士はまだ騒いでいる。垂れ幕を踏み花束をむしりしながら。

「男なんか、男なんかっ…!」

「見苦しく悲しんではだめでちご主人たま。明るく前を向いて進むのでち。この広い世界にはきっとご主人たまを待っている人がまだいるのでち。期間限定で」

「ロクなことしか言えないならもう黙ってなさいよあんた!」

「もふもふもふっ! 首締めは虐待でち、虐待でち!」

 よく分からないが軽くシンパシーを覚える太郎。
 だが、直後それは妬みに変わった。

「そもそも一年彼氏が連続5人という中途半端な数だからいけないんでち。このさい目的をすり替えて100の大台を目指してみるべきでち。そこまでいけば負け犬でなく立派な猛者でち」

「目指したくないわそんなもの!」

(毎年恋人がいた…だと…なにそれうらやましい、こちとらオギャーと生まれ落ちて30余年一度たりとて恋人なんていたことねーのに!)

 メラメラ燃え上がるフラストレーションを解消しようにも拳の振り下ろし先となるアヤカシの姿は、すでに無い。

「チキショー!! えぇいこうなれば全てを酒で洗い流すしかあるまい!」

 忍犬霞から「肩ぽむ」される彼の叫びを聞いたカリンは、これまた冷たく言った。

『あらいやだ。終末系男の饐えた匂いがしてきますわ』

 紫狼はぼりぼり頭をかく。

「まーともかくあのまま放っておいても暴れ続けそうだしな、かまってやるか! なんか面白そうだしな〜。んじゃ行くぞカリーン!!」

『もう、これからわたくしのドレスを買う約束でしたのに!』



 とある天儀風居酒屋。
 お座敷に姦しい一団が居座っている――先程アヤカシを倒した面々だ(ちなみにここは相棒同伴OKなお店である)。

「どうせ私もクリスマスには予定ないし、エリカさんとスーちゃん、一緒に飲み明かしましょう! 私の携帯食料ぱーっと皆で食べちゃいましょう〜 」

「いいわね、話が分かるわー。こっちもおごるわよ! すいませんビールもって来てくださいビール! 焼き鳥も!」

「わっちはこの糠秋刀魚できゅーっといこうか。エルレーン様はいかがなされるかの?」

「んっとね、白大福ではらごしらえしてー、ローストチキンたのむの。ともさんはどうする?」

「あー、俺は串揚げ頼んどく…おい太郎、最初からあんまピッチ上げない方がいいぜ。天儀の酒はきついからな」

「大丈夫だ、ほっといてくれ。大体毎年仮初ながらもカップルでいられた瞬間があるだけいいじゃねっかよ〜! 羨ましい! 素直に羨ましいぞチクショウ!」

「そいじゃ、騒ごーぜエリカさんよ! 愚痴なんて抱え込んでもダメだろ〜ほら飲めのめッ」

「ええ飲むわよ! 記憶がなくなるまでね!」

 先輩方々の怪気炎に口が挟めぬ透子は、物珍しげに辺りを見回す。

(えーと、こういうところに入ってもいいのかな、あたし)

 近くにいただけで「社会勉強だと思って参加しなさい!」とエリカに捕まり引きずられ、この歳末パーティー(という名の飲み会)に参加した霜夜は、ひとまずお酒を遠慮し、透子と一緒に寿司の折り詰をぱくぱく。
 で、世間話。

「ところで、クリスマスは恋人たちの日というの…それって誰のアイディアですか? あたしはあんまりこの行事を知らなかったんですが」

「うーん、あたしも詳しくは知らないんですけど、なんでも教会がらみだとか…ろまんちっくでいいですよねえ」

 少女は2人、にぎわう窓の外を眺める。台詞のいちいちがエリカたちに刺さっているのに気づかないまま。

「ほんとです。男女のペアが沢山います」

「でしょう。1人の人って目立ちますよねえ。なんだか寂しそうです」

 暗は熱燗をちびちび。

「しかし、告白されたりしてちゃんと意中の相手が何人もおったんじゃのう。わっちなんぞ犬と鎌にまみれた独り身。シノビとして色気で釣ることは仕事ではあるものの、恋人なんぞ全然…しかし、彼氏何人目とか言えるのは羨ましいが、毎回捨てられるというのは気にかかるの。ぬしは容姿がキリッとして美しいし、内面で捨てられたんかの?」

 エリカが何か言う前に、スーちゃんが答えた。

「どうちまちょうかご主人たま一大事でち。外面は直せても内面は直せないのでち虐待でち、虐待でちよ!」

 ゴムみたいに両頬を延ばされるもふら。
 まあまあと暗はなだめにかかる。

「別にぬしの性格が悪いというわけでなくて、違う期待をして男がよってくるから破綻しただけかもしれぬのうということでな…」

 さびた笑みを浮かべたエリカがテーブルに伏す。

「期待通りのこと大抵してあげたと思うんだけどな…」

 ともは串揚げをぱくつき言う。

「へー、でも付き合えるってことは希望あるんじゃねーの?」

「いえ、肝心の目的が果たせてませんし、キープされていただけかもしれません」

 銃後が下した冷静な分析で、場に間が空いた。
 エリカの肩を霞がぽんぽんしている。
 咳払いした暗が続ける。

「いっそのこと、最初から素でさばさばしておいたほうが本当に内面を気に入って付き合ってくれるんじゃないかの。クリスマスを過ごす恋人というのは本命じゃし、二番目に入れたならまだ救いが…」

 また間が空く。
 霞に加えて太郎もエリカに肩ぽんをした。
 主人と一緒に酔っ払い始めているミハイルが、彼女の頭にねこぱんちする。

「なんでえなんでえ、しけてんじゃねよ! あんたよりひどい状態の奴はたくさんいんだからよ! 例えばここにいるアぶべ」

 相棒を押さえ付けたアーニャは、直火焼裂きイカを食いちぎりつつからむ。

「今まで5人も彼氏いたんですか〜? 私なんて彼氏いない歴=自分の年齢。見てのとおり結構いい歳、22歳です。ジルベリア貴族やってるのに婚約者も無し、ありえないですよ。それだけモテてるなら自信持ってくださいよ」

「んー。でもでちねアーニャたま、それだと桃が地面を転がりたおし傷だらけになって腐っていくか、箱の中で真綿に包まれたまま腐っていくかの違いちかないので、あまり慰めにはなら虐待でち! 虐待でち!」

 目を据わらせスーちゃんの毛をひんむしってから、霜夜たちの方を向く。
 彼女らと意気投合しているエルレーンの言葉が耳に入ったのだ。

「ねぇねぇ、どんなたいぷのおとこのひとがすき? 私はねぇ…かっこうよくて強くてやさしくて、私を抱きしめてくれるおとこのひとがいいな…あっ…でも、無職はダメなの!」

「…ついでに、『ぺたんこの胸でもおっけーって言ってくれる人☆』ってのも付け加えておくもふ〜」

 雰囲気に任せ乙女な気持ちになっていたエルレーンは、もふもふの発言で素に戻る。まだまだ酔いが足りなかった模様だ。

「ええい、わるい子はおしり百たたきー!」

「ぎゃあああ! やめるもふー!」

 惨劇を脇ににじり寄ってくるアーニャに、霜夜が戦々恐々としている。

「な、なんですアーニャさん?」

「14歳なら普通は好きな人いますよね。いますよね? 教えなさいよう」

「あたしの好きな人ですか? きらきらスマイルの神父さまとか、見目麗しい巫女さまとか、沢山いますよー」

「違う違う、LIKEじゃなくてLOVE、結婚したい人ってことその歳で無いなんてありえないし〜、実は内心いるんじゃないですか〜?」

「えとえと…母さまも縁付いたのは二十歳過ぎてからですし、全然考えてないですー。でも、母さまはあたしを宿しての結婚と聞いてますから…」

 ごにょごにょ手をいじり合わせた彼女は、強引に話をそらせた。

「つ、つまりは、恋の花とか男女の出会いなんてのは、どんなきっかけで始まるかわかんないですから、希望を捨てちゃダメですよ。ねっ、太郎さん?」

 犬の太郎がワンと言い、人間の太郎が淀んだ目を向ける。

「そうだな。きっかけに巡り会えないまま終了なんてことないと思いたいな…俺にだってきっとモテ期が来るはずだ、だってまで来てねえんだから!」

 そこでカリンが希望を叩きつぶすコメントを発する。

『30までないんだったらもう一生ありませんわよ。魔法使いへの道を目指した方が現実的なのではございませんこと?』

 相棒の暴挙をよそに紫狼はエリカと話し込む。
 彼も多々酔いがきて来ているもようだ。慰めのつもりがいつの間にか、己自身への愚痴と抱負になっている。

「んでマジな話、開拓者は確かに時間が不規則で出会いも少ない! まだ若いうちはいいよ冒険とロマンがありゃ危険でも。でも俺も三十路近いし、開拓者っていう立場の限界も感じてるしな…実は、来年3月で開拓者家業をいったん休業、神楽の街で何でも屋開く予定なんだ 今のギルドじゃ人が集まらずに流れちまう、日常のトラブル依頼を格安で請け負うってね」

 他の犬たちも霞、太郎と一緒にエリカの肩を叩く――と言うか、背中に乗り掛かる。

「アンタも自分の幸せ考えるなら開拓者休んででも婚活しなって」

 アーニャはますます周囲にからんでいた。
 顔を真っ赤にしている人間太郎の頭をべしと叩き、襟首を掴み、エリカを指さす。

「ほら、30歳男子、そこにいい女がいるし〜」

 続いてはエリカの袖を引き太郎を指さす。

「ほらほらー、ここに、よく見たらわりとイケメンの太郎さんがいるじゃありませんか。二人付き合っちゃえば?」

 無責任な煽りを見かねたミハイルは注意を促す。

「おい、アーニャ、いい加減にしろ 珍しく酒癖悪いじゃないか! 俺!?……分かってるだろ、聞くんじゃねぇ」

 しかし自分もベロベロになりかけているので、説得力がない。

「え〜。彼、あなたの知り合いじゃないの〜?」

 といってエリカも出来上がっているので、問題無さそうだ。

「え、私? 太郎さんとは友達づきあいが長すぎちゃって〜〜そんなふうにはとても見られないっていうか〜」

 かくいう無茶な盛り上がりの中であればこそ、太郎も恥だの外聞だのいろいろ忘れ、宴会のノリのせいか酒のせいか無意識ラヴかわからぬ叫びを上げられた。

「俺と付き合ってくだせええ!」

 エリカが間髪入れず太郎に抱き着いた。
 エルレーンはもふもふのお尻をぺんぺんしていた手を止め、目を見張る。

「はうぅ…どきどき、なのっ」

 息詰まる数秒。
 エリカが固まっている太郎から手を放す。

「ごめん…ちょっといまいち…何か違う…」

「何かって何だあああ!」

 彼の悲嘆をよそに場は盛り上がる一方。

「それ、飲めや歌え! 男がおらぬとも犬は愛してくれるぞ! 寂しければ犬を飼えばいい! あ、太郎おぬし豆腐食べるじゃろ」

「そうだ、飲め食え! 串揚げもう一皿!」

 そんな席から離れた位置で甲龍ほかみはふて寝している。
 アヤカシ戦で棒立ちの挙句大酒飲んでクダ巻くマイ主人を見ていて、すっかりヤになってしまったのだ。スーちゃん相手に愚痴っている。

「ははあ、可能ならリクルートしたいということでちか」

 そこへ駿龍蝉丸が近寄って来て、グウグウ唸った。

「…ほかみたん、蝉丸たんがお付き合いしませんかと言ってるでち」

 スーちゃんが通訳した途端、蝉丸の顔にほかみの尻尾がぶつけられた。
 霞がててと寄って来て、蝉丸の背に手をかける。

「霞たんは気配り満点でちな」

「ワン!」

 うれしげに尻尾を振り振りして。