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■オープニング本文 「おお忙しい忙しい。早く行かなきゃ遅れちゃう。みんなもう集まったかな集まったかな」 シルクハットにえんび服姿の白兎が懐中時計を見ながら、大急ぎで走って行く。 開拓者たちが近くにいるのを完全に無視し、とにかく先を急いでいる。 「集会集会集会、わお。集まれ集まれ集まれ、わお」 今回退治を依頼されたのはこのアヤカシだ。 ここ最近こうやって、夜昼となく周辺の地域を駆け回っているそうな。 それ以外特に何をするわけではないがアヤカシはアヤカシ、いつ何時災いを引き起こすか分からないので、人々は不安がっている。 事実この白兎が現れてから、あやしい出来事が起きるようになった。 誰もいないはずの部屋でぼそぼそ話し声がしたとか、夜中に何かが庭先を這っていたとか、天井裏を歩き回る足音がしたとか。 「会合会合会合、わお」 白兎は古い木の根方にある薮に飛び込み、姿が見えなくなった。 開拓者たちは後を追う。 途端、穴に落ちた。 そのまま落ちに落ちて行く。 いや、落ちるという表現が正しいのかどうか。なにしろ非常にゆっくりした速度なのだ。半ば宙に浮かんでいる感じ。 穴の壁面には本棚や戸棚、家具などがひしめきあっていた。ティーポットやヤカンも浮遊している。奇妙きわまりない。 穴の底に降りてみれば、四方八方扉がついた円形の広間。 どれを開けて進めばいいかと悩むまでもなかった。先に降りた白兎が扉を開けっ放しにしていたので。 そこから出てみれば明るい雑木林。 手入れされた小道をたどって行けば、それはそれは長いテーブルがあった。 先ほどのウサギが席に着いている。ほかにも大勢席についている。明らかにアヤカシが。 上座にいる白ワンピースの女――アヤカシ隙間女――が周囲を見回し、湿っぽく口を開いた。 「…では皆さんお集まりのようなので…」 そこでふと動きを止め、開拓者たちに目を向ける。 「…誰かしら…あの人たちをつれてきたのは…」 白兎が手を挙げた。 「僕僕、僕だよ多分。僕を追っかけてきたんだよ。わお」 隙間女は眉を顰めたが、すぐ視線を仲間の方に戻す。 「まあいいわ…では改めて…皆さんお集まりのようなので…最終意志を確認させていただきます…全員移住したいということで…よろしいですか…?」 「よろよろよろよろしいよ、わお。一足お先に行くのよね、わお。お空はそろそろアレだしね、わお。隙間のお姉さん、早く僕らを向こうに送ってちょうだいよ、わお」 |
■参加者一覧 / 明王院 千覚(ib0351) / 无(ib1198) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / アムルタート(ib6632) / 八壁 伏路(ic0499) / トビアス・フロスマン(ic0945) / サライ・バトゥール(ic1447) |
■リプレイ本文 アヤカシらは自分自身たちの話に忙しく、闖入者の存在についてあまり気を配っていない。 大方後から来た移住志願者であろう、と思っている。 それは開拓者たちにとって幸いなことであった。 人間であると瞬時にばれたら…なにしろこれだけのアヤカシが有象無象集合しているのだ。はっきり言って危険である。 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)とリィムナ・ピサレット(ib5201)は、改めてあたりを見回した。 明るい木立の下にあるテーブルは長く長く、百メートルくらいは優にありそうだ。両側にずらっと椅子が並び、それぞれにアヤカシが腰掛けている。 ティーポットにティーカップ、お茶受けのお菓子が所狭しと並んでいるが、まともに食べたり飲んだりしている者はあまりいない。 「ほへー、アヤカシってお茶会するんだね!」 アムルタート(ib6632)は驚いた後、ノリよく話しかける。 「なんか楽しそう♪ ねえねえ私もいーれーてー!」 白兎が赤い目をくるくるさせ、言ってきた。 「いいよ。アヤカシなら誰でも歓迎だよ」 それを聞いたリンスガルトは、どうやらこの兎自分たちを開拓者だとは気づいていないらしい、と察する。 (なれば誤解させたままにしておくかの) 余計なことは言わず、山盛りのクッキー皿に手を伸ばす。 クッキーからカニの足と目がニュッと突き出し、カシャカシャ逃げ始める。 リンスガルトはココアのを簡単に捕まえた。 アムルタートもオレンジピールのを捕獲する。 「む。ちと騒がしいが紛れも無くクッキーじゃのう…甘くて美味しいのじゃ♪ お茶も欲しいのじゃ♪」 「美味しー♪ このお菓子どこで買ったの? もしかして手作り!? 手作り!?」 リィムナもナッツ入りを捕まえ口にし、満足げに頷く。 多少変だが確かにこれはお菓子だ。なればお茶が入り用。 というわけだからサライ(ic1447)にいつもの無茶振り。 「サライ君、メイド服着て給仕しなさい♪」 ここは一体…と首を傾げていた少年は、兎耳をびっと持ち上げ、遠慮がちに苦情申し上げた。 「ええっ…メイドですか? 女装は慣れてますけど…恥ずかしくないわけじゃ」 さればリィムナがにこにこ念押しする。 「あたしの言う事、聞けない訳じゃないよね?」 とどのつまり流れに負けてしまうのがサライのサライたる所以。 「…分かりましたっメイドやりますっ」 自棄も交えて着替え始める彼のことは一旦置いておくとして、无(ib1198)も周囲の光景に戸惑い気味だ。 「おや、不思議の国へ迷い込んだ、ですか」 目を擦りつつ懐の尾無狐に独りごち、こんな機会は滅多にないのだから異界見聞録でも書いてみようかな、と思う。 さしあたって気になるのは、大きな木の幹についている扉だ。 膝くらいまでの小ささである。 「なんだろうの、これは」 八壁 伏路(ic0499)もそれに興味を覚え、近づいてきた。 顔を見合わせドアノブに手をかければ、簡単に開く。 向こうには、花盛りの小さな庭園が見えた。 頭と手足のついたトランプたちが、こぞってクロッケーをやっている。 「あれもアヤカシですかねえ」 「うーむ、どうだろの」 なにはともあれマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、パーティーの主催者であるらしい隙間女にまず挨拶。 「これは隙間女様、しばらくぶりですわ」 主人に従者は付き物だ。トビアス・フロスマン(ic0945)も挨拶をする。うずく好奇心を、表情に出さないで。 「隙間女様でございますか…マルカ様からお噂はかねがね」 隙間女は髪だけひょいと持ち上げた。 こいこい、というふうに動かす。 開拓者たちは皆見えない手に捕まれたように、彼女の席近くへ引き寄せられた。 人数分の椅子が一斉に引かれる。そこに全員座らされる。 「…あんまり喋らないで…あなたたちの素性が…分かると…すごくめんどい…自分で…人間とか言わないでよ…」 明王院 千覚(ib0351)は、しんから珍しげに、隙間女を眺め回した。 「不思議なアヤカシさんの調査で伺ったのですが…本当に珍しいアヤカシさん達のようですね」 と、口の中で一人ごちる。 ティーポットがすっくと立ち上がり(何故か脚が生えている)コトコト移動してきてカップに茶を注ぐ。 卓上をはい回っていたロールケーキをナイフがスパスパ切り分け、銘々の小皿に飛ばしてきた。 多少躊躇を覚えなくもないが、味わってみればごく普通のケーキであり茶。 トビアスが『ふむ』と勿体振ってから言う。 「もてなしには是非返礼をしたいものですな。僭越ながら私めも菓子を用意させていただきましょう。茶葉などはいつも持参しておりますからな――この付近に調理場などはございますか? よろしければお借りいたしたいのですが」 「じいやは対抗意識を燃やしているようですわね」 「なんの、おひい様は笑っておられますが、決して対抗意識を燃やしている訳ではありませんぞ」 隙間女は髪だけ持ち上げ一方向を指し示した。 見れば一軒の家が。 じいやは一礼し席を立った。 カップのお茶を飲み尽くした千覚もまた、立ち上がる。 「…ただ頂くのもなんですし、私も季節に合った氷菓子でも、皆様にお出ししたいかと」 家の前には召使の服を着た蛙が座り込んでいたが、入って行く2人をちらっと横目で見ただけで、別に何もしなかった。 扉が閉められた後、ガシャンガシャン派手にものが壊れる音がした。 誰かの金切り声が上がる。 『コショウヲヨコセー! モットコショウー! コショウー! ギャアアアアア!』 サライは、こそっと隙間女に聞いた。 「…あの、一体何が起きているんですか?」 「…別に…アヤカシコショウババアさんが…通常運転してるだけよ…」 (そんなアヤカシいるんだ…) すごく見てみたいような気もするが、今の自分はメイド。持ち場を勝手に離れるわけにいかない。ああでも、見たい。 そわそわしている彼を見て、リィムナがあ、と声を上げる。 「サライくん。スカートの後ろがパンツに入っちゃってるよ」 アムルタートとリンスガルトも、すかさず注目。 「あ、ほんとだ。丸見えだ♪」 「む、ぷりぷりよのう」 「きゃっ!…ううっ、申し訳ございませぇん…やだっ恥ずかしいですぅ!」 ドジッ子属性をアピールするのを忘れない彼の下着は、白の紐ショーツ。 それが露になっている様はまさにラッキースケベ、目にすれば得したと思える御仁も多いかもしれない。 ひとまず无はそうではないが。 彼はさっきから、白兎と話し込んでいる。 「ところで、ここにいる皆様はお知り合いです?」 「そうだねえ、僕としては今日初めて見たのもいるし、そうじゃないのもいるし、色々さ。とりあえず君らは初めて見る顔だね。わお」 「お空はそろそろアレってどういうことで?」 「アレはアレでソレでコレなのさ、わお。ここにいたら危ないもんね。わおわおわお」 「向こうってどこです?」 「向こうはここじゃないとこさ。アヤカシなのにそんなことも知らないのかい。わお。君はいつ発生したんだい。わお」 ききききき、と笑い声が上がった。実に人を食った態度である。 しかし无は怒りだす事なく、のんびり「へぇそうなんですか」と相槌を打った。 ふと前を見れば、化け猫風のアヤカシがにやにやしていた。 猫は尻尾から順々に消える。 笑っている口だけが残る。 その口も消えたかと思えば、今度は平然とした顔で、向かいの席に座っている。 「…普段なにやってるんです?」 「こうやってるのさ。出たり消えたり、消えたり出たり」 うそぶくアヤカシ猫は、大皿に乗っているチョコレートに手を伸ばす。 手が伸びた途端チョコレートは尻尾を生やし、チュウと鳴いて逃げ出した。 アヤカシ猫はそれを追いかけテーブルの上を駆け回る。 全く妙な茶会だ。 (この数が相手ではおとなしくするが吉だのう…にしても、アヤカシが居心地悪いとはこれいかに) 真面目に思案していた伏路の顔を、羽を生やし飛び回っていたホットパイが直撃する。 「ぐぎゃあああ、あっづううう!」 リンスガルトは隙間女に話しかける。他には聞こえぬよう、こそこそと。 「お主が隙間女…サライから話は聞いておる。なんでもじめつきテーマパークに住んでおるらしいな」 「じめじめテーマパークよ…」 「気にするでない、意味合いとしてほぼ変わらん」 三白眼をむくアヤカシの顔を、リィムナはじいいと見る。 直には見覚えがないはずなのだが、どこかで会った…いや、「感じた」。そんな気がしてならない。 「…話はサライ君やその師匠から聞いてるよ。島中雪美のファンなんだって?」 「…イエス…マイフェイバリット雪美…」 「ところで移住って? 空が…って事は、移住先は「儀」じゃないよね。どこ?」 アムルタートも身を乗り出す。 音もれがないよう小声で話す。 「そういえば何で集まってるの? お引越しって、どっかいっちゃうのー?」 「…あなたたちが…気にすることでも…ないと思うけど…」 相手の気が乗らずとも、2人はぐいぐい行く。お互いの台詞が重なるのも気にせずに。 ちなみに全部囁き程度の音量である。 「今アヤカシめっちゃ攻められてるもんね! あたしたちに! でもどこ行くの? 大丈夫?」 「あたしみたいな化け物級開拓者がいて居心地悪くなった? それとも…儀の「滅び」…が近いから? 知ってる事全部教えて欲しいな♪」 「…わざわざ…聞かなくても…危険が迫れば…逃げるでしょ…普通…」 彼女がぶちぶちやっているそこに、マルカも話しかけた。 「移住と仰いましたが、そのような斡旋もなさっておられるのですね。わたくしまるで存じませんでしたわ…ところで、隙間女様も移住なさるのでございますか?」 そう聞くと伏路も、ちょっとだけ寂しい思いがする。あくまでちょっとだけだが。 「…そうか、移住するのか。おぬしらも色々あるのだのう。出て行くならさっさと行ってしまえ、平和になる。で、鏡の国へでも行くのか、隙間?」 「…ああ…そんな国も…確かにあるわね…」 サライがぐす、と涙を一杯目にため、メイド口調で訴える。 「あの隙間女様…貴女も移転なさるのですか? テーマパークでごゆっくりなさってください…淋しくてサライ泣いちゃいます…それに…アヤカシの皆さんというか、瘴気が無くなると陰陽師の方々が困ってしまいます…」 伏路はハッとした。 アヤカシがいなくなるという現象が己の身に及ぼす影響について、今更ながら思い至ったのだ。 无がこんなことを言い始めたので、なお焦る。 「確かに困りますねえ。もしアヤカシがいなくなったら、陰陽道も使い所がなくなりそうで…」 「ぬ、そうなると、わしらがおまんまの食い上げではないか。さすがに困る。たまには顔を出すがよい、隙間」 「…私は…まだ…移住しないわよ…最後に行く…」 「なんじゃい、心配して損した。ところで、どこへ引っ越すのだ。そういえば風のうわさでは青くて丸い儀を夢に見たお方がいるらしいがのう…」 そこで、トビアスと千覚が戻ってくる。 両者頭からコショウまみれとなっているが、幸い作ったもの――汁粉と樹蜜を利用したかき氷、ワッフルにスコーン、クランペットなど――は無事である。 「皆さん、どうぞお上がりくださいませー」 「腕によりをかけ作らせていただきましたぞ」 トビアスは早速給仕を始める。 マルカが皆に菓子を勧めた。 「じいやの作った物も良ければお召し上がりを。お口に会えばよろしいですが。どれもあつあつなうちが一番おいしいですので」 開拓者たちの反応は、当然というべきか、上々。 一方アヤカシの感想はといえば。 「何だ、これ動かないの。どうしてこんな生きが悪いの。わお」 万能執事と言えども、さすがにそこまで真似出来ない。アヤカシじゃないのだから。 ● 花茶「茉莉仙桃」を味わう千覚は、コショウの残り香にクシャミをしている。 手は手帳の上に、イラストを書き付けていた。この体験が夢物語として開拓ケットの出版物になるかも知れないと、思ってのことだ。 彼女の前にいるのは体が人間で頭が魚のアヤカシと、芋虫のアヤカシと、それから…。 「…すいません、あなたのお名前は?」 「ウミガメモドキだよ」 聞いたことがあまりないが、とりあえず絵の横に名を記す。 「――ええと、移住と仰っていましたけど、どちらかにお引越し――」 質問するのだが、アヤカシたちはてんでばらばら勝手なことを喋るだけだった。 一体彼女の言葉を聞いているのかいないのか。 …多分聞いていない。 「そりゃ、遠いね。とても遠いね。もちろん遠いね」 「だけど我々劣勢ですから、ここは臥薪嘗胆雌伏万年」 「お待ちお待ち、歌を歌おう、すてきなスープ、緑色の――」 そこに影が差した。 何事かと見上げればそれはそれは巨大なカラスの顔。 アヤカシ3匹がばくりとついばまれた。 それを見たリンスガルトは、隙間女に言う。 「あー、食われてしもうたがいいのか?」 「…大丈夫よ…大ガラスさんは私と一緒で…実体が無い…」 なるほどカラスが場を立ち去れば、食われたはずのアヤカシたちはちゃんとそこにおり、喚き続けていた。 「面妖よの」 思わずそう漏らすリンスガルト。 无はそんないちいちを書き留めつつ、テーブルに顎を乗せ目を閉じているネズミに、話しかけている(けれどもネズミは眠りこけたまま、全く起きてこない)。 いかに食べられると分かっても、動き回るクッキーやパイ、跳ね回るゼリー、這い回るチュロッキーなどを相手にするのは、伏路として気が進まない。 (かろうじてまともそうなものといえば、あの干しぶどうで「お食べください」と書いてある小さなケーキ…あやしいと言えばあやしいが…) 一応は疑ったものの、好奇心もあって口にする。 途端に樹冠から頭が突き出るほど巨大化した。 キャンディ紅茶を周囲に勧めていたトビアスは、執事らしい沈着さを失わないまま、隙間女に確認。 「これは一体いかなる次第でございましょうか?」 「…書いてあるからって…なんでもその通りに…するのは…愚かってことよ…」 弱り切った伏路の声が降ってくる。 「達観しとらんで、どうすりゃいいのか教えんかい」 「…そこのを飲んだら…元に戻るわよ…」 勧めに従い『お飲みください』とラベルのついたジュースを飲んだ伏路は、たちまち小さくなる。 少々小さくなり過ぎるほど小さくなる。木の幹にある扉に入れるくらい小さくなる。 「やれやれ…またさっきのを食べんといかんのか。どうなっとんのだここは」 千覚は隣の席にいるリンスガルトに囁く。 「なんだかここにいる皆さん、アヤカシにしてはあまりアヤカシらしくありませんねえ」 「うむ。本来アヤカシは即斬るべきじゃが、隙間女どのの様な例もあるでな…」 「そうですわね、隙間女様のように人を食べたりしないアヤカシもおられますが、他の皆さまもそうなのでしょうか? であるなら普段は何をしているのか、大変気になりますが…」 話に加わったマルカは視線を感じた。 顔を後ろに向ければ、例のアヤカシ猫が木の枝に寝そべり、見下ろしている。 「…あなた様は何をしておいでなのですか?」 「さあねえ?」 「以前黒歴史を見せるといった方もおられましたが、そのような変わった力をお持ちだったりするのでしょうか?」 「そのあたりも秘密かなあ? どうもあんたたちさっきから、尋ねてばかり。行儀が悪いね」 サライはその言葉に、なんとはなしの不安を覚えた。 (このひともしかして…僕らを怪しんでる?) その読みはかなり当たっていた。猫が発してきた次の質問からするに。 「あんたたちはなんのアヤカシだい? なにかそれらしいことをして見せておくれでないか」 无はネズミを起こすのを諦め、質問対象を隙間女へと切り替える。 「はあはあ、普段は隙間に生息し負の感情を食べている、と…で、白のお姉さんは彼氏います?」 「…いないわよ…ていうか…あなたたち…そろそろ帰らない?…」 うんざりしてきた隙間女はテーブルの下へ引っ込んで行く。 それをリンスガルトが追いかける。 「まあ待たれよ。妾とリィムナが全く同じ夢を見て…恐らくアヤカシの仕業じゃが、それに出てきた建物と同じものがの、過去を記憶するという「夢語り部の間」での幻影で出てきたのじゃ。あの夢は…過去に「儀」以前の世界で実際に起きた事なのか? 知っていれば教えてほしいのじゃ」 隙間女は、すこぶる面倒臭そうな顔をした。 「…まあ…人間も…色々…諸々…気づく時期とは…思ってた…」 突然軽快な音楽が響いてくる。 テーブルの下から出てみれば、リィムナが卓上で踊っている。式によって作り出した自分と一緒に。 手を取り合い腰を抱き合い過剰接触どんと来い(ちなみに彼女らの後ろではアムルタートとサライがバックダンサーを務めている)。 『優しく 強く くすぐって ぎゅっとしたげる あなたの大事な一部分 ヘイ♪』 ちょいと卑猥な歌詞。 いかにも蠱惑的なセクシーダンス。 アヤカシの目にどう映っているかは定かでないが、少なくともリンスガルトはめろめろ。 「リィムナ…可愛いのぅ…2人とも抱き寄せてぺろぺろしたいのじゃ♪」 だがしかしデレデレしていたのもつかの間、最後にリィムナが式と濃厚な口づけを交わすパフォーマンスを演じるに当たって、猛然と怒りだした。 「妾の前でこの浮気者!」 テーブルの上に駆け上がり、リィムナを横抱きにし、派手に尻叩きを始める。 「リンスちゃんごめんなさいい! 浮気じゃないってばー! だってあれあたしじゃ――ふぎゃあああ!」 樹蜜つきのクランペット片手にトランプ小人たちと大富豪を行っている伏路が、文句を垂れた。 「おい、おぬしらも少し静かにやってくれい。今、わしにいい手が来とるんだから」 どたばたしている最中千覚は、周囲の様子が変わってきたのに気づいた。 さっきまで高かった日は傾き、木々の間を斜めにさしてくる。 アヤカシたちが騒ぎをやめ、影のようになって、じいとこちらを見ている。 かなり不穏な空気。 そろそろ帰ろうか。そう思った无は、隙間女に言う。 「あ、一応帰り道教えてください」 その時白兎が甲高い声を張り上げた。 「人間だ人間だ! あいつら人間だよ、わお!!」 わあっと影が舞い上がり、一斉に開拓者たち目掛け向かって来る。 隙間女が首を傾けた――ように无には見えた。 景色が折り紙のように折り畳まれ、消えて行く。 気が付けば全員、白兎を見失った薮の前にいた。 今のは夢だったのであろうか。 いいやそうではない。 その証拠には无と千覚の手帳に、奇妙な茶会の様子が記されている。 アムルタートは見送りしそびれたことを惜しがった。 それでも一応別れの言葉は述べ手を振る。薮の中に向けて。 「じゃーねー! 元気でねー! お菓子ありがとー♪」 |