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■オープニング本文 みなたまこんにちはでち。もふらのスーちゃんでち。 今日はご主人たまと一緒に依頼に来てまち。 もうお腹も結構出張ってきてると思うのにご主人たまは一向に依頼を控える様子がないでち。そんでもってスーちゃんを巻き添えにするのでち。 難易度の低いのを選んでいるんだから文句を言うなと強弁してくるのでちが、明らかな相棒権の侵害でちよ。 子供出来たならこっちも自動的に食う寝る食べる生活に入れると思っていたのに…全くあてが外れたといったらないでちな。 どうしてこう無駄なファイティングスピリットに溢れているのでちょうなこの人は。子供時代ライオンに育てられでもしたんでちょうかね。スーちゃんのような教養の高いもふらには理解不能なのでち。 「…スーちゃん、さっきから丸聞こえなんだけど」 おっとこれは危ない危ない。両手で頭を絞られないうちに離れておくでちよ。 ずしんずしんお腹に響くような振動が聞こえるのは、間近を巨大なバルトマンクルークのモニュメントが飛び跳ねながら通過していくからでち。 大きなものだけではありまちぇん。中くらいのも小さいのも広場をあっちこっち飛び跳ねているのでち。皆髭モサモサの立派なお顔だちをしていまち。 バルトマンクルーク、知らないでちか? ではスーちゃんが説明するのでち。 バルトマンクルークとは、髭男の顔を正面につけた焼き物の瓶のことでち。ジルベリア東部、特にこの町フレヘンの名産品なのでちよ。 そのためあっちこっちに今言ったようなモニュメントや像が建てられてたりするのでちが、それがこぞってこのように好き勝手動き回っているのでち。 そのへんで売られていた本物のバルトマンクルークも、一緒になって騒いでいるのでち。 右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、おっさんおっさんおっさんおっさんおっさんばかりで気が狂いそうでちな。 依頼者の町長たま、顔色真っ青でち。 「なんともはや、私らにもワケが分からないのですが、とにかく一刻も早く事態を収拾して下さると助かります。あの、動き回っているのはどれも売り物や飾り物など貴重なものばかりですので、可能な限り無傷で回収していただけると助かるというか…」 でちょうな。何しろ名産品でちからな。 でもそんな大人しい物言いではご主人たまには通用しないでち。早速1個叩き割りまちたよ。 動いてるもの見ると反射的に斬らずにいられないんでちょうな、あれ。 「ちょっとおおお! 人の話聞いてます!? 壊さないでって今言ったばかりでしょお!」 「あ、そうなの? ごめん」 |
■参加者一覧
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 (ジャンピング髭徳利…) どっすんどっすん跳ね回るバルトマンクルークの姿は、サライ(ic1447)の興味をいたく引く。 アヤカシだとしても滑稽な印象が強い。特に子供が好きそうな感じだ、あの動き。 (…じめじめテーマパークの隣にジャンピング髭徳利園を作って、纏めて飼育するのもいいかも…瘴気が入ってるので、そうもいきませんか) リィムナ・ピサレット(ib5201)は今回の敵がたいそう気に入った様子だ。足元で跳ねている小さいのを、扇の柄でつついて遊んでいる。 「髭徳利危機一髪! だね♪ バルトホッパー達を早く元に戻さないとね♪」 彼女の妹であるファムニス・ピサレット(ib5896)が追随した。 「お、お髭さん達ってなんだか可愛いね、リィムナ姉さん♪」 リィムナは返事をせず、ぷいっと顔を背ける。 ファムニスはしゅんとしょげてしまう。 様子を見たサライは、少し気掛かりになった。どちらも彼にとって、妹のように大事な存在なのだ。 (リィムナさんとファムさん、何かあったんでしょうか) エリカは割ったバルトマンクルークの欠片を眺めている。 「そういやこれ、うちにもあるわね。ボトルに使ってるわ」 「ご主人たまも大概のんべでちからな、そりゃ見たことがあるはずでち。マルカたまもご存じでちか?」 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、しとやかに頷いた。 「ジルべリア臣民としてもちろんこの像の事は存じております。しかしそれらが大量に動き回るというのは、なかなかシュールな光景ですわね――あっ」 跳ねていた小さいバルトマンが、騒ぎを迂回しようとした馬車に轢かれ、簡単に割れた。 エリカの一撃で粉々になった事と考え合わせるに、焼き物には焼き物としての強度しかないようだ。 (人的被害もですが、バルトマン自身の被害を防ぐためにも、早いところ回収したほうがよさそうですわね。お腹のお子様の為にもエリカ様にはじっとしていただきたいですが…) 思って相手を見れば、剣を片手でクルクル回していた。 苦笑交じりの独り言が、つい出てきてしまう。 「無理でしょうね」 そんなわけで早くも寝転がっているスーちゃんの、たゆついた襟首を引っ張る。 「スーちゃん、エリカ様をしっかり見ておいてくださいな。相棒としてのお仕事、怠けては駄目ですわよ」 「ええー、スーちゃん来たくもないのに連れてこられた上お守りまでしなくてはならないのでちか…理不尽でち…」 ● 基本は『壊さないように』。 サライは虫取り網の他、布団とマットを敷き詰めた大八車を用意した。捕獲したバルトマンをそこに乗せ、運ぶ所存なのである。 マルカはマフラーを巻いた竹刀を捕獲用具として用いる。陶器などになるべく衝撃を与えまいとの配慮だ。 エリカも一応は気を使ったらしい。いかほど効果があるのか定かでないが、剣を鞘に収めたまま使う。 大型の像にうっかり踏みつぶされたら大変なので、町の方々には事が収まるまで、屋内に退避してもらうとする。 「数が多いし手分けした方がいいね。危険はないし、あたしは一人でいくよ。纏めて元に戻すのは得意だから。バルトホッパーの数がある程度溜まったりでっかいのが一杯いる様だったら、呼子笛かなんかで合図してね、駆けつけるから♪」 そう言ってリィムナは1人離れて行く。 ファムニスにはその行動が、自分を避けているからではと感じられてならない。 リィムナの怒りの原因である『落書き濡れ衣事件』については重々承知している(何しろ当事者だから)のだが、それにしたってここまであからさまに不快を示されると、恨み事の一つも言いたくなるというもので。 「…私、姉さんよりきついお仕置きされたんだけどな…まだお尻に違和感が…」 ぶちぶち零す彼女の背を、サライが軽く叩く。 「何より依頼ですから、解決に集中しましょう…」 「…うん」 分かりやすく跳ね回っている分から回収。 地上に降りている瞬間を狙い、さっと網を被せ捕獲。 手首を返して網の出口をふさぎ手元に引き寄せ、大八車に積む。それを繰り返し周囲に見当たらなくなったら、大八車を引き移動。小さいのを巻き込まないよう、十分足元に気をつけて。 瘴索結界の使えるファムニスは、見えなくなっているものを優先し捜し当て、報告していく。 バルトマンクルークのマグカップや文鎮や胡椒入れなどいったものは殊に小さいので、妙なところにはまったり落ちたりしている確立、高し。 「もー、なんでこんなところにおっこったのー」 歩道脇の排水口に片腕を突っ込み、慎重に手取り。 下手すると下の下水道まで落ちて行ってそのまま流れかねない。 「あら、このようなところにも…」 垣根に体を突っ込んだまま動けなくなっている、複数のガラス製バルトマン。 それを発見したマルカは、試しに竹刀の先でつついてみた。瘴気だけ浄化出来ないか試してみたのだ。 ――触れた蓋の部分が一部塩化した。 「…こ、壊してはないですわよね」 急ぎ竹刀を引っ込め咳払いし、荒縄で取っ手の部分を括り、連ね、ぶら下げ運ぶ。サライの大八車まで。 (そういえばエリカ様は大丈夫でしょうか?) 思って角を曲がった途端、彼女の姿が目に入った。 「あーあーあーどうして力加減が出来ないでちかご主人たま、青銅器だったら割れないっていっても、ダメージがないわけじゃないのでちよ。見るでち、このへこみまくった頭部を」 「最初からこんな感じじゃなかった?」 「絶対違うでちよ。さっき壊した奴と一緒で、買い取りさせられまちからね。だからスーちゃん反対側から殴ってへこみを戻すことを提案するでち」 (全くいつも通りですわね…) バルトマンが幾つも重なったバルトマントーテム(高さ2メートル/材質 青銅)に掴まっているファムニスが、サライを呼んでいる。 「サライさーん、ちょっと手伝ってー。私だけじゃなかなか引っ繰り返せないんだー」 「あ、はーい」 ● 「おほっ、これは大物だね♪」 ズシズシ足音を響かせ跳ねてくる大型バルトマン(高さ2メートル/材質 大理石)をリィムナは、『芭蕉扇』でひと扇ぎ。 ズシン、と地に降りたバルトマンは、そのまま動きを止めた。 瘴気が抜けたのである。 「よし、これでまた1つ完了」 道のど真ん中に止まってしまったので、元あった場所へ戻すとき大変手間だろうが、そこはそれ町の人々の仕事である。自分には問題なし。 「おーい、髭さんやーい」 呼びながらぶらぶら歩いて行く。 気配を感じたので足を向ければ、建築中の工事現場。 ペンキ桶の中に、木製バルトマンが浮いていた。 「あーあ、はまっちゃったんだ…」 つまんで引っ張り出し、先に集めたのを置いているところに持って行き、転がしておく。 ついてしまっているピンク色は…どうにもならないので放置するしかない。 「んー、でも、似合わなくはないよ? その色も」 慰めをかけた彼女は姿勢を低くした。 焼き物のバルトマンが跳ねてくるのが、視界に入ったのだ。 壊れやすい材質で作られているものは動いている際下手に戻すと、壊れてしまう可能性がある。 浄化より確保が優先。 後ろから抜き足差し足追いかけ、跳ねたところ見計らい、ぱっと両手で挟みこむ。 「よし、ゲット♪」 そこに通りの窓から呼びかけが。 「すいません、開拓者さーん、ちょっとうちに来ていただけますか。家中跳ね回って手に負えないんです」 「あ、はーい」 ● 「…隙間といえば隙間女様がいらっしゃるかも知れませんわね」 「…そうね…」 ぼそぼそした声が聞こえてきたので、あわてず騒がず出所である溝を覗き込むマルカ。 見返してきたのは、狭さをものともせずはまり込んでいる白ワンピースの女。 「これはお久しぶりにございます、隙間女様。何をされておいでですか」 「…じめじめパークと…魔の森を…行ったり来たり…今は魔の森に行くところ…じゃあ…」 ずるずる這いずって溝の奥へ消えて行こうとするので、その前に聞いておく。 「バルトマンクルーク、ご存じありませんか?」 「…そっちの曲がり角に…いたわよ…行き止まりでごんごんやってるわ…」 「ありがとうございます。あの、ついででございますが、手早い始末法などはございますか?」 タイミングよく、ガシャーンと音が。 顔を向けてみれば、エリカがまた焼き物バルトマンを粉砕してしまっていた。 「何やってるでちかご主人たま、壊すなって言われてたではないでちかー!」 「だって急に角から出てくるんだもの。しょうがないでしょう」 「…すごい答えでちな…ご主人たまは本当に人間なのでちか? スーちゃん断然自信が持てなくなってきたのでちよ虐待でち虐待でち!」 隙間女は以下のように言い残し、消えていく。 「…ああやることね…」 マルカは心から思う。さすがにあれは真似出来ない、と。 ひとまず曲がり角まで行くと、丈夫そうな鋳物のバルトマン(高さ1・5メートル)が、レンガの壁にぶつかっていた。 なぜ無駄な動きを繰り返しているのか。 疑問に思ったマルカは、そこではっと気づく。 (…もしかして、顔を向けている方向にしか進めない…?) 試しに『翼竜鱗』を構えぐいぐい押し、顔を別方向に向けてみた。 予想通りバルトマンは、そちらに向いて移動。 「ゼンマイおもちゃ並の運動性能ですわね」 でも誘導するには好都合。 「…とりあえず広場まで行ってもらいましょうか」 ● 広場に並んだ大中小のバルトマンクルーク。 磁器、陶器、ガラス、青銅に鉛に石。素材様々用途も色々な髭男たちが広場に並べられている。 リィムナ、ファムニス姉妹が町をくまなく再点検して、もう気配はないと断定したからこれで全部だ。 開拓者たちが来る前に人知れずどこかでひっそり壊れてしまっているものや―― 「な、何でうちの看板バルトマンが、こんなに頭へこんでるんですか!?」 「うちのはヒビだらけなんですが!?」 「誠に申し訳ないでち。でもご主人たまにはこれが精一杯だったのでち。頭が動物だから勘弁してやってほしいのでぎゃああああああもふら殺しいいいいい」 ――エリカがどうかしてしまったもの以外は無傷で回収仕切った。 これにて今回の任務完了である。後は町の人が細かい仕訳をして、元の場所に戻してくれればいい。 (さて…早速喧嘩の原因を聴きましょうか) 思っていたサライだったが、意外にもファムニスから相談に来た。 「あの、ちょっといいかな…」 打ち明け話をサライは、相槌を打ちながら聞いてやる。 「ということで、すべては極悪パンダが悪いの――だけどリィムナ姉さん朝からあの調子で…」 「なるほど、そういうことでしたか…それはファムさんが、きちんと謝らなくちゃいけませんね。言いたいことはたくさんあるでしょうけれど、最初にウソをついたのはファムさんですから。そこは、分かっていますよね?」 「うん…でもどうやったらいいかなあ。全然話聞いてくれないんだもの」 どこから見ても心配無さそうなエリカに体調確認をしていたマルカも、会話に加わってくる。 「では、形で誠意を示されてはいかがでしょう」 「形って…どんな?」 脇から口を挟むエリカ。 「殴られてくればいいんじゃないの? そしたら気持ち良くちゃらに出来そうじゃない」 男の友情物語みたいな展開など求めてなかったので、ファムニスはエリカの提案をスルーした。 もっと妥当性がありそうな案を、サライが即座に提示してくれたことでもあるし。 「プレゼントを差し上げるのがいいんじゃないですか。謝るきっかけ作りとしては…そうだ、どうせですから、髭徳利なんていかがです?」 なるほどそれいいかも。 得心した彼女は早速土産物屋に行く。 温和そうな顔をした小型バルトマンを2体買い求め、切った髪一束とともに、サライに渡す。 サライは楽しそうに作業を始めた。もらった髪を二等分し、それぞれ糸でくくり上げる――サイドアップとツインテール。片方には赤ビーズ、片方には白リボン。 「お上手ですわねえ」 「本当に」 手際のよさに感心するマルカらに、笑って答える。 「僕は旅芸人時代、繕いものしてましたし…よく、こうやって妹におもちゃを作ってあげてたんです。懐かしいな…」 「リィムナ姉さん、はい、プレゼントっ」 「プレゼント?」 ファムニスが出してきたのは、自分と彼女そっくりなかつらをつけたバルトマン2体。 リィムナの仏頂面が崩れる。 「ぷっ、なにそれ! あははっ」 バルトマンの首に添えられていたカードには、『ごめんね、リィムナ姉さん』の文字。 相手の意図を察したリィムナは貰ったものを脇に降ろし、両手を広げる。 「もう怒ってないよ♪ ありがと、ファム! 大好きだよ!」 仲直り出来てよかった。 喜びで胸いっぱいの妹が、躊躇なく姉の懐へ飛び込む。 「私もリィムナ姉さん大好」 直後リィムナは無防備な相手のお尻に手を回しぽんと叩く――ふりして中指をくの字にし、本日最もダメージを受けている部位にピンポイント指圧。 「ひぎいいいいいいいいいいい!」 絶叫し、バルトマンのごとく垂直飛びしたファムニス。 地に落ちお尻を押さえ、声もなく苦悶。 それを見下ろし、ペロッと舌を出すリィムナ。 「…この位の仕返しはいいよね♪」 無言で顛末を見やるサライ。 納得のスーちゃん。 「まあ、ただでは終わらないと思ってたでち」 マルカは思い出したように手を打ち合わせる。 「そういえばエリカ様、予定日は何時頃でしょう」 「えーと…多分十月かそのくらいね」 「その際には、何かお祝いをさせていただきますわ♪」 「あら、有り難う――マルカにいい人が見つかったときに、お返しさせてもらうわね」 その言葉に少女の顔が、ほんのり赤らんだ。 「まあ。いやですわもう、エリカ様ったら!」 |