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■オープニング本文 自然界には擬態というものがある。 弱い動物が石や木、あるいは他の動物などに見せかけて天敵をしのぐというものだ。 それは多々人間関係の間においても見られる現象だ。だからアヤカシがその手を使ったとしても極度に不思議というわけではない。 ● 開拓者たちはしらじら輝く朝日を見ていた。 探しているのは最近この地方で話題になっている「凶暴化もふら」だ。 もう何人も噛まれたり引っかかれたりしている上、家畜小屋を襲われるなど被害も拡大している。 人々は夜おちおち出歩いていられなくなる有様だ。 ここ一帯ではそのためもふらについての印象が非常に悪くなっており、開拓者が本物のもふらを連れていても子供は逃げる大人は遠巻きにするという有様。 仮にももふらがそんな悪さをするはずがない。そいつはきっとふらもだろう。信じて一晩中、生息地と噂される雑木林を探し回り、凶暴化もふらとされるものを狩り出そうとしたのだが、そういうときに限って敵は丸きり姿を見せず。とうとうこのように霜の降りる朝を迎えてしまった。 「……また明日探そうか……」 気落ちしながら雑木林を後にするところ、行く手かららぞろぞろ動物の群れが歩いてきた――探していた例のものだ。 1、2、3、4、全部で4匹。 それを見た瞬間皆はいいようのない表情になる。 そいつらはもふらどころかふらもとも違う何かとしか言いようのない連中だった。 どいつもこいつも足が長すぎたり耳の形が違ったり尻尾がなかったり顔のパーツの配分がいい加減だったり色が変だったりと、夜店の屋台のぬいぐるみかというほど、やる気のなさそうな真似っぷり。 そもそも全部大きさがちぐはぐだ。 義憤に駆られて誰かが叫んだ。 「パクリにしてもクオリティ低すぎだろお前ら!」 |
■参加者一覧
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
ソヘイル(ib9726)
15歳・女・ジ
祖父江 葛籠(ib9769)
16歳・女・武
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
エメラダ・エーティア(ic0162)
16歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「もふらさまは、あんなに可愛いのに、怖がられるなんて…。早く偽物を発見して、もふらさまの濡れ衣をはらさなきゃ…!」 義憤に駆られ意気揚々依頼に参加した祖父江 葛籠(ib9769)は現在親友のソヘイル(ib9726)とともに、心ゆくまで寒さを堪能していた。 ジルベリアは数ある儀の内でも最北端を誇る。その骨まで染み入ってくる寒気、他ではちょっと味わえないほど強烈なのだ。立ち止まったが最後、靴の裏からも冷えがしんしん染み込んでくる。 「うう、イルぅ…寒いよぉ…」 お互い抱き合い暖を取っても身震いがしてくる。 夜も更けきり、朝が近づいてくるにつれ、ますます気温が下がってくる。 アル=カマル出身のソヘイルは、しろくまんとを着込んでいるのにもかかわらず、歯の根が合わなくなる始末。 「寒い…砂漠育ちには堪える寒さですよ…」 あまりに寒く感じるからか眠気まで襲ってくる。 それを追い払うため彼女らは、代わる代わるほっぺたをつねりあった。 「ね、ねむひ…」 「寝ちゃ駄目ですよつづらさん…遭難してしまうですよ…」 「錫杖」を突き鳴らす鴉乃宮 千理(ib9782)は彼女らより寒さ慣れしているのか、達観した顔で息を吐いた。 「これだけ星がきれいに見えておるからのう…冷え込むのも致し方なしか」 津田とも(ic0154)はうんざりした口調で言う。 「つっても、もう夜が明けそうだけどな」 なるほど東の空は白々してきている。恐らく今が最も気温の下がる時間帯だろう。 明るくなるにつれ枯れ草や木の上にびっちり霜がついているのが見えてきた。 探索当初「も、もふらはんのパチモンやて‥‥!? ゆ、許せへんで‥‥!」と葛籠に負けず張り切っていた雲母坂 芽依華(ia0879)も、今は消沈気味だ。 「ほんま、都より底冷えしますわ…」 エルレーン(ib7455)は、あんか代わり抱いている相棒のもふら「もふもふ」に話しかける。 「これさー、ぜったい氷はってるよねー」 収穫なしだろうかとエメラダ・エーティア(ic0162)は、残念な気持ちだ。初依頼ということもあり張り切っていたのだが。 「仕方ない、また明日出直そう」 琥龍 蒼羅(ib0214)が出した意見には皆賛同した。 夜中歩き回り獲物が見つからないときて脱力感もひとしお。 葛籠はソヘイルとともに遠い目をし、上ってくる太陽を眺める。 「朝日が、眩しい…ね…」 霜が一斉にキラキラ輝き、なんともきれいな光景だったが、この際あまり慰めにならない。 しかしそこでようやく幸運の精霊がほほ笑んだ。行く手から得体の知れない何かが近づいてきたのだ。 芽依華が真っ先にそれに気づき、急いで皆を引き留めた。 「みなはん、アヤカシが4匹現れまし」 みなまで言わないうち、悲鳴が取って代わる。 「いやぁぁぁぁぁぁっ!! こんなんもふらはんやおまへん!!」 他の面々も悲鳴こそ上げないが、同様の衝撃を受けた。はっきりくっきり姿を見せたアヤカシのパチっぷりに。 エルレーンは胸に抱いていたもふもふを見つめ直し、棒読みで呟いた。 「わあ、にて…る?」 「もっふー! そんなはずないもふ!」 蒼羅は4匹の姿を見比べ、それぞれ独創的な形状を呈しているのを確認する。大きさまで揃っていないのも。 「…以前ふらもとは戦ったことがあるが。流石にこれは間違えようがないな」 エメラダは眉をひそめ、かなり不満そうだ。 「…もふらには…見えない…もふらは…もっと、可愛い……真似をしている…つもり…です?」 ソヘイルも「にせものさん」のあからさまな適当さと似せる気のなさに、呆れるやらムカつくやら。 「う…せっかくのもふもふなのに…絶妙に可愛くない…とりあえず、本家もふらさんに謝れ!」 葛籠は武僧という職業柄、一応いいとこ捜しをしてやろうと試みた。そして、こういう結論に達する。 (ええっと…あの2メートル級の目が離れまくってる個体だけは認められなくないかも…あまりにも似てなくて、手抜き臭も甚だしいけど、かろうじて許せる再現率というか…ある意味、ブサかわとも言えなくはない…かも) 何しろ他のがもっとひどいのだ。 「びみょうにざんねんなかんじだなぁ。かぁいい…かぁいい、んんー?」 50センチ級は目鼻が真ん中に寄り左右ズレている上、蛍光ピンクの花柄に蛍光緑の地色。目に痛い。 1メートル級は毛並みがもふもふどころかばりばりで、尻尾がないのに角三本。竜のようなたてがみを生やしている。 忘れた部分を捏造で補ったのだろう。 「うう…めちゃショックや…こ、この手足が長いやつなんて…むしろホモォ…」 3メートル級に至っては変に頭身が高い上顔が半分人化している。 毛が短いのとあいまって、かぶりものをしたタイツ人間が四つ足で歩いているぽく、正直気持ち悪い。 飴を嘗めつつ千理は、しみじみこう漏らした。 「アヤカシにも色々あるんじゃな。にしても、子供の落書きより酷いとはの。これを放置するのは色々と危険じゃ」 芽依華は「エル・コラーダ」を杖がわりになんとか立ち上がる。 「と、とにかく、こんなんは残しておかれへんさかい、さっさと片付けてまいまひょ」 蒼羅は目をぱちもふらたちに走らせた。 向こう側も開拓者の存在に気づいている。獣の唸り声を上げながら、足早に寄ってくるところだ。 「まあどんな姿であれ、やるべきことは変わらんが。とりあえず俺はあの大物に行くぜ」 千理がその言葉に軽く反論した。 「一番大きなものは後回し、小物に際し多対一となるようしたほうがよくはないかの? 弱くてもアヤカシじゃ」 不適な笑みで蒼羅は返す。 「大物相手の戦いには慣れている。もちろん油断は禁物だが、この程度の相手なら、下手を打たない限り遅れを取ることは無いだろう」 「ほう、たいした自信じゃな。ま、やれるというならかまわぬよ」 ソヘイルが続いて宣言する。 「あ、それならボクはあの一番小さい奴に行くよ」 後に残るのは1メートル、そして2メートル。 千理の「細かい方から先に潰す」という方針は合理的であるので、彼女とエメラダ、芽依華、ともが1メートルにまず向かうとした。 けれどもそれぞれの個体を連携させないこともまた重要――というわけで葛籠とエルレーンが、2メートル級の担当となる。 「パチモンは許さねえ‥‥ノロいもふらモドキなんざ射撃の的にしてやるよ!」 物騒なともの言葉とともに、戦いの火ぶたは切って落とされる。 ● 「見てごらんッ! これが本当のもふらなのッ! かぁいくないもの、消えちゃえッ!」 頭に乗せたもふもふを見せつけながらエルレーンは、2メートル級に挑んだ。 「黒鳥剣」を 振りかざし、容赦なく相手の正面から襲いかかる。 顔、胸、前足にたちまち生まれた裂傷から流れ出るのは血でなく、黒い霧――瘴気。 ぱちもふらは吠え、全身で体当たりを仕掛けようとしてきた。 それを葛籠の作った烈風が弾き飛ばす。 「もふらさまの尊厳のために、偽物は滅する、よーっ!!」 振り上げ叩き潰そうとしてくる前足の爪を、「岩融」で防御する。 2メートル級ともなればさすがに攻撃の重量があり、受けるたび体に響く。 とはいえエルレーンが共闘しているので負担は少なかった。お互い相手を補いあうように右に左に場所を変え、確実にダメージを加え続けて行く。 「えいっ、たあっ! かわいくないもの、しんぢゃえッ!」 ぱちもふらは少しづつ変化して行く。 空気が抜けるのと同じ要領なのか、輪郭全体がしわしわに崩れて来た。頬が垂れますます目が離れ、なお姿形がもふらから遠ざかって行く。 「…すっごくたれてきた…」 「うーん、いったいなにをめざしていたのか、いちだんとわからなくなってきたね。ほねぐみくらいもっとしっかりしてないとさあ…」 1メートル級のぱちもふらは一気に複数から囲まれたことでかなり焦ったらしい。急に方向転換した。 そこに千理が一喝。 「喝ぁ!」 相手がすくんだ隙に前方へ回り込み、悪そうな笑いを浮かべる。 「はっはっは、何処へ行こうというのかね」 ぱちもふらは牙をむき正面突破を試みる。どこまでも獣の知能しかないようだ。 そこを確かめた彼女は避けるふりをし、足を引っかけた。 態勢を崩し勢いのままでんぐり返ったところを、芽依華の「エル・コラーダ」が切り裂く。背中を一直線に。 間髪入れず、ともの「クルマルス」が、たっぷり弾をお見舞い。 「おらあ、散れパチモン!」 こう立て続けに来られては傷を塞ぐ余裕もない。 ぱちもふらは流血ならぬ流気の煙を上げながら、近くの木に飛びついた。上って難を避けようというものらしい。 エメラダの「年代記書」から放たれた雷がそれを弾き落とす。 彼女は前もって確認しておいた近場の空き地へ、じりじり相手を追いやって行く。 (戦闘、は…雑木林への類焼に…注意……だから…ダメージ与えつつ…可燃物の無い場所…開けた場所など…誘導) 類焼の危険が薄いと思われるエリアに入ったところで、ファイアボールを発動。 3分の1ほどがごっそり失われた体のぱちもふらが反転し、半狂乱の突進をしてくる。 その喉を千理の「錫杖」が貫いた。 「出直して来るがよい」 相手が霧散する前に彼女は、さっと毛に触れてみた。 本物とは似ても似つかぬ、タワシみたいな触感。 「ごわごわしとるのぅ…本物との格差がここにも」 消えて行く姿に少しだけ優しく付け加える。 「次はもふらになって生まれて来るとよいな」 「にせものさん、覚悟っ!」 50センチ級のもふらに挑むソヘイルは、「黒曜石の短剣」を両手に、出合い頭の二段攻撃を加えた。 左右にずれていたぱちもふらの顔は、真ん中から×印に深く切り込まれた状態となる。 とはいえ敵は生き物ではない。そこまでやられて即死ということもなく、飛び離れ手近な木の上に駆け登った。 が、弾き落とされる。ともからの援護射撃によって。 すぐさま態勢を立て直しその場で一回転。別の場所へ逃げようとするが、見逃すほどソヘイルも甘くない。喉の部分を狙い削ぎ取る。 一番小さなぱちもふらの体から、どっと黒い霧があふれ出す。 輪郭がぼやけ消え行くまでの間、彼女は目が離せなかった。 なにしろ先程真ん中につけられた傷を回復させようとした結果、顔面崩壊が一層進んでしまい、目鼻の位置が完全にバラバラとなっていたのだ。 (なんだかなあ…もう福笑い状態ですよ…) 脱力感を覚えるが、ぼんやりしているわけにはいかない。まだ残っているところへ応援に行く。 「えっと、つづらさんは」 親友の方に顔を向ければ、骨組みを失ったテント生地がもぞもぞ。 (え…あれ何…ああ、ぱちもふらですか) 納得したところで銃撃音。 「どうせ出現すんだったらもっと気合入れて形作っとけや!」 ともの罵倒に歩調を合わせ、2メートル級も消えて行く。 「力だけはそこそこあるようだな」 3メートル級のぱちもふらを相手にしても、蒼羅は怯まない。他ぱちもふらが順調に倒されて行くのを確認しながら、そちらへ大物を近づけないよう「天墜」を奮う。 初手の居合抜きで切り飛ばした右前足先から、とめどなく瘴気が漏れてくる。 巨体が暴れることでへし折れた周囲の木々を足がかりに駆け上がり、急所を狙う。無防備な背後からうなじに刃を突き立て、重力に従い切り下ろす。 ぱちもふらは吠え、大きく体をよじった。長い手を背後に回そうとしてくる。 蒼羅は急いで相手の体を蹴り飛び離れた。その際乱雑になった地面への着地に幾らか失敗し、軽く足をこねくった。 「ちっ」 と言ってもここまで来たら大した問題ではない。 退治を終えた仲間が続々参戦に舞い戻ってきたのだ。 「いちげきっ、ひっさあーつ!!」 「黒鳥剣」がぱちもふらの足を挫く。 「錫杖」は額に、「エル・コラーダ」が顎に入る。 「岩融」が腹に「黒曜石の短剣」が尾の付け根に。 「クルマルス」は鉛弾を、「年代記書」は火を。 こうまで集中攻撃されてはどうしようもない。最後に残ったぱちもふらも、あっけなく弾けて消えた。 芽依華が額を拭う。 「はぁ、はぁ‥‥きょ、強敵やったわ‥‥ほんま、こんな中途半端なんは別の意味で危険やわ‥‥。もう二度と会いとうおまへんな」 ソヘイルは葛籠に駆け寄り2人でハイタッチ。 「ボク達にかかれば敵無しですよね☆」 「やったねっ、大勝利☆」 その後はハグ。 エルレーンは珍しくため息などついている。 「…何を思ってもふらになったのかなあ。もしかして…かぁいいかぁいいって、なでなでしてもらいたかったのかなあ」 やたらセンチメンタルに頭上のもふもふを抱き上げ、思い切りお腹いじり攻撃を加える。 「でも、こうやっておなかをもふもふできるのは…本物だけのとっけんだよね♪」 「ぎゃああーーー! やーめーるーもーふーーーーー!!」 その声を聞いたソヘイルは、早く街に戻りたくなった。ぱちもふらを見過ぎたせいでもふらが本来どんな顔をしていたか、あやふやになってきてしまっていたのだ。 とりあえず本物をたくさん確認し、認識を戻したい。 「ええと、角は…なかったんですよね、多分」 一方葛籠はちょっとだけ寂しい気持ちに。 (でもやっぱり、ちょっとブサかわだったな…) しかしアヤカシはアヤカシ、やはり退治しなくてはいけなかったのだと思い直す。 「これでもう、この一帯の人たちも、安心して暮らせるねっ」 エメラダはその意見に頷いた。エルレーンのもふもふいじりに参加しながら。 「本物のもふらは…ん、可愛い…怖くも、ない…だから、撃退後は…ここ一帯の方々の…もふらに対する…悪い印象…を…払拭…したい、です」 ● 後日。ギルド。 千理が茶を飲みながら、係員と雑談している。 「いやあ、ふらもかと思いきやとんだ紛い物じゃったよ」 「お仕事ご苦労様です。しかし新しいアヤカシの名称はどうしましょうね。ぱちもふらのままでよろしいですか」 「そうじゃのう…。いや、記録に残すとなるとその名前、ちと重みに欠けるのう…」 考えて彼女は、ぽんと膝を打つ。 「誰かが何と言ってたか。そうそう、『邪神』じゃったな 意味は『邪神の手にかかったかのようにパクりながらもなんか違うもの』じゃったか。じゃから、邪神モラフとでも登録するがよいな」 「…なんだか内実に反しやたら強そうですね」 「なに、気のせいじゃ」 |