臨時アシ募集(至急)
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/24 21:55



■オープニング本文


(目の下に隈が出来たスーツ姿の男が、よろよろギルドに現れる)

 始めまして、私はさる出版会社のさる雑誌の、さる漫画家の担当をやっています者で(名刺を渡す)ノブ・リンモンと申します。
 お金たくさん払いますから助けてください。可及的速やかに助けてください。
 まず先生がどこにいるか分からないので探し出してください。
 明日の夕方までに48P上げなきゃいけないのにまだネームが真っ白と言う現実から逃避したんです。
 今回だけは、今回だけは落とすわけにはいかないんです。
 だって…取材だの病気だの銘打ってサボリまくった挙句の連載再開回なんです! 
 これを落したら今度こそ、待ちに待たされた読者から暴動が起きます!
 雑誌の売り上げガタ落ちです!
 そんな事態を引き起こしたら私、責任取らされて首になるんです!
 ばかりか会社の存続にも関わりかねない重大事でして…ええ、悔しいことに先生の描かれる漫画は…面白いんです。連載で人気No1なんです。信じたくないけど事実なんです。
 そうでなきゃ私だってもっと強く言えるのに…いつまでもあの身勝手な人間を当社が飼っておかなくてもいいのに…(ぎりぎり歯噛み)。
 …とにかく先生を探して仕事場に連れ帰って明後日の夕方までにどういう手段を用いてもいいから48P完全に仕上げて印刷所まで持ってきてください。
 もうそれ以上は何をどうしても引き伸ばせませんので、そこのところを先生にきっちりお伝えください…… とにかく私はこれから関係者方々の間を駆けずり回って土下座行脚してきますので、後はよろしくお願いいたします。
 本当に本当にお願いいたします。


(よろよろ退場していく)




■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
多由羅(ic0271
20歳・女・サ
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟
ノエミ・フィオレラ(ic1463
14歳・女・騎


■リプレイ本文

「お話によると、大体この裏通りあたりに逃げ込むことが多いそうです」

「担当さんも大変ね…でももうちょっと早く依頼してくれたら良かったのに」

 手にした似顔絵と道行く人々を見比べる鈴木 透子(ia5664)、そしてフェンリエッタ(ib0018) 。
 岩宿 太郎(ib0852)は時計をちらちら眺め、焦りのあまり大量の汗をかく。
 締め切りはあさっての夕刻。ネームは真っ白。そして48P。

「可及的速やかに探さねばヤバイ! 貴重な時間がゴリゴリ減る!…おお、あれが先生行きつけの雀荘か!」

 薄汚れた建物に駆け寄るが入り口は閉じられ、『定休日』の札。
 地に膝をつき嘆く太郎。

「うおおおおおもうダメか!? ダメなのか!? 落ちるのか!?」

 フェンリエッタは扉に耳をつける。

「…中に人がいます。声が聞こえます」

 それを聞いた多由羅(ic0271)は、袖まくりした。

「では私がおびき寄せて見せましょう」

 大きく深呼吸し、そしてくわっと目を見開く。

「中にいる奴聞け! 漫画家という看板がなければ貴様はただの社会不適合者だ! 加齢臭まみれのハゲブタだ! いやそれはブタに失礼だ! 肉としてすら売れないのだからな! 即刻両手を挙げて出てこい!」

 閉めたシャッターが震えるほどの大音声に、そこここの窓が開く。

「うるせー! こっちゃ今寝てんだよ!」

「真昼間から酔ってんのかバーロー!」

 しかし肝心の雀荘からは音沙汰がない。
 多由羅はあっさり諦めた。

「…出て来ませんね。いいでしょう、臆病者に用はありません!!」

 きびすを返し、走る。

「腰抜けのさとるの先生に代わって私達が締め切りに間に合わせましょう!」

 太郎も後に続く。

「くっ…そうだまだ時間はある…! 要は原稿がありゃいいんだろ…? かくなる上は! 全ページ!! 俺達で描く!!!」

 彼らを見送った霧雁(ib6739)は普通にピンでカギを開けシャッターを開く。
 さとるの先生は雀卓の下で酒ビンを抱え、呟いていた。

「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ…」

 メンタルが危険水域にあるようだ。
 とりあえずフェンリエッタは酒成分だけ解毒しておく。
 あいさつから始める透子。

「お初にお目にかかります、さとるの先生。あた」

 ノエミ・フィオレラ(ic1463)は彼女を押しのける勢いで突っ込み、一気に持論をまくしたてた。

「私は先生の大ファンです! 先生の負担を軽くする為の秘策があります! まず大胆な設定改変で今迄の登場人物を全てショタに! 全員の体格を統一すれば執筆が楽に! 描き分けは顔と髪でいけます! 小さな男の子は体の凹凸が少なく、筋肉もないので描きやすい! さらにお風呂回にすれば服を描かずに済み労力軽減! 決して私の趣味をごり押ししてる訳ではありません! 設定変更すればちあき先生の描くショタをずっと堪能できるなんて思ってないですよ!」

 超至近距離での力説であるが、先生には届いていない。
 ノエミが突っ込んでくるときうっかりぶつけた拳により、意識が飛んでいたのである。
 それに気づいた彼女は、心臓マッサージを加えた。

「せいっ!」

「うえっほげほげほげほ!」

 目出度く蘇生する先生。
 八壁 伏路(ic0499)は早速提案。

「のう、今回見開き2Pは穴埋め対談すればいいんでないか」

「駄目だ…もうその手は使えない…もう対談する相手がいない…若人よ、俺の作品を読んでくれているか」

「鋼鉄都市か。う、うむ、愛読しておるぞ?」

 これはウソだ。『週間少年ホッピング』における伏路の目当ては、巻末常連の『ぷにゆり!』(毎週打ち切りになってないかとドキドキさせられている)である。

「そうか…ありがとう。しかし許してくれ。続きが描けないかもしれない今週もまた」

 弱音ばかりの先生に、フェンリエッタが渇を入れた。

「先生が描かなければ一切を私達が作る事になるけれど…いいの? いいなら漫画家なんてやめちゃえばいい。私なら、自分の作りかけの作品に他人の手を入れられるのは嫌だもの」

「うう…正論だな娘さん…そうだ俺はもう田舎に帰ってリンゴ園を継ぐべき時期なのかもしれない…」

 これはいわゆる『でんち切れ』な状態ではないだろうか。そう見た透子は、ゴソゴソ袂からノートを取り出す。

「あたしの描いたお話を観て下さい。前々から書き溜めていまして…先生は新人賞の審査もされていましたよね?」

 彼はノートを受け取り目を通し、数ページで手を止める。

「…すまん…誰が誰なのかまずそこから説明してくれんかね」

 彼女の画風は天儀王朝絵巻を参考としている――全員判で押した下膨れの引き目鉤鼻。

「あ、はい。これが東雲の君、こっちが若竹の宮、ここに並んでるのが昴星殿と暁の皇子。彼らは皆兄弟です。若くして亡くなった美しい母の面影を求め、宮中の女性たちと恋愛絵巻を繰り広げ…」

「ハーレムものだな、分かる分かる。わしもそういうの好きだ」

「違いますハーレムものじゃありません! 恋愛ものです!」

 似たようなものではないか、と怒られた伏路は思う。
 とにかく一同はショート気味の先生を仕事場に連れ帰った。



 先生の切れた電池を復活させようということで、アシたちは惜しみ無くアイデアを出し合った。
 内容をまとめ筋立てすればこうなる。



 突如前ぶれなく巨大隕石が落ちてきて鋼鉄都市が壊滅した。隕石がぶつかった弾みで地面に穴が空き、世界は温泉に飲みこまれる(太郎案)。

 衝撃で登場人物たちが全員ショタ化した(ノエミ案)。

 異世界からぼいどとかいう邪悪な未知の生命体が攻め寄せてきた(伏路案)。

 ぼいどは主人公たちを拘束して極太な触手で×××を×××して更に×××。抵抗出来ぬまま苛烈な辱めを受けるショタハァハァ(ノエミ案)。

 その頃連載休載前に敵方へ囚われていたメインヒロインは主人公たちのことなどどこへやら。イケメン将軍とよろしくやり、さるばとーれろそよりずっとはやいとほざいているのだった。
 天は正義を見放したのか――そう思ったとき天空のかなたより翼持つワルキューレたちが12人、ボインからロリまでよりどりみどり「お兄ちゃん助けに来たよ」と言いながら飛んできた。温泉だからもちろん裸(伏路案)。

 彼女らの奮闘により主人公たちは危機一髪難を逃れる。すごいシステムを搭載したすごい武器とすごい必殺技を新しく手にする(多由羅案)。

 男性サービスとしてワルキューレのお色気シーンもショタのそれと同等くらいにはあったほうがいいように思います(伏路&霧雁&太郎案)。

 この機会に悪辣な敵対組織を主人公が撃ち殺す。
 この機会に目が腐った民衆を広場で正座させて説教する。
 今まで隠していたが実は存在していた相棒のドラゴンで空を支配する権力者共を焼き払う。
 死んだ親友を生きかえらせる。
 メインヒロインは仁義に照らし姦夫と共に重ねて四つに叩き切る(多由羅案)。

 それは読者的にちょっと厳しいと思うので須磨の浦へ流すにとどめておく(透子案)。

 これまであまり日の当たらなかったセカンドヒロインと結婚させよう。祝言挙げて三々九度でラスト(多由羅案)。


 土下座行脚から一時戻ってきた担当はすべてを聞き終わった後、静かに部屋を出て行った。

「…さて、仕事に戻ってきます」

 残された先生は急に笑い出した。

「うん、もうそれでいいんじゃないかな! 面白いんじゃないかと思えてきたよ! やろうそれで!」

 この人考えることを放棄したんじゃないだろうか。
 ちらと脳裏をかすめた疑いを棚上げし、フェンリエッタは仕事場の準備。
 作業場の一角に休憩スペースを作る。気分転換のためと、食べかす等で原稿を汚さないためだ。そこにおやつと軽食、湯沸しと茶葉も用意。右手は小指以外の指先を切り取った綿の手袋をつける。
 透子が不思議そうに聞く。

「それはなんですか、フェンリエッタさん」

「ああ、こうしておくと原稿が汚れにくいの。皆の分も一応作っておいたから、使ってちょうだい」

 ノエミは山ほどの薄い本を、作業場中央に積み上げる。

「ショタの裸体の資料はここに! イケメンやロリや巨乳が攻めな本もありますから、皆さん参考にどうぞ! 光源を上手く使えばトレスも出来ます!」

 製作進行表を壁に張り付けていた霧雁は参考資料を一冊手に取り、目を丸くする。

「これは拙者と弟子…夜春を伝授する際確かにこういった事をしたでござるが…覗かれていたのでござろうか」

「えっkwsk!! もっとそれkwsk!!」

 欲望むきだしの涎が出てしまうノエミ。
 伏路もまた随喜の涎を垂らしていた。さとるの先生所有の資料を見回って。

「あれは…ぬぷじゅる天国ではないか! 同好の士が後ろに手を回してもいいと求める幻の奇書がここに…のおっ、こっちは出版社が倒産して原稿が消えた黄表紙! 貴重な写本の数々、読まずにはおれぬ!」



「絵柄はこの際どうでもいい! 男子は3日会わなきゃ活目が必要なんだ! これだけ経てばもはや別人だ! 絵柄が変わらんわけあるか!! 燃えよペン! 描く! 48ページ分の! 生まれ変わった世界で暴れ回る武器群とか男の子とか全て描ききってみせるぜ! ファイヤー!!」

 太郎は言葉の比喩でなく全身に炎をまとっていた(といっても実体の火ではないから原稿には差し障りない)。
 彼は描く。機械と武器の一切を。鍛冶屋の息子としては得意分野なのだ。その代わり人物は不得手なので全部トレス。お陰で違うはずのキャラが同じ顔になったりしている。
 多由羅はトレスすらせず自由な線で自由過ぎる絵を描いている。
 それを受け取った透子は黙々とべた塗りをするついで、そっと手直しする。王朝絵巻風に。
 しかし問題はない。次に控えているノエミが更なる手直しを行うのだ。
 彼女はショタに関して一切手抜きをしない。

「ショタなら寝ずに幾らでも頑張れます! ぐへへへ!」

 その言葉は伊達でない。全くペースを変えず、ショタを量産し続けていく。
 背景は抜きだ。最後の段階で版木切り張り使い回し作戦をとると決めている。今描いているのはぼいど(何故か彼女の顔)による蹂躙シーン。危険な所は後で湯煙処理。
 フェンリエッタも手慣れた様子で人物を描いて行く。
 そういえば今何時だろう、と彼女は思う。始めてからずっとカーテンを締めっぱなしなので、時間の流れがよく分からない。
 消しゴムかけをしている霧雁が気を利かせ、言った。

「そろそろ出前をとるでござるかな。眠れぬ分、食わねばならぬと漫画の神様も言っておられるでござるよ」

 これには皆素早く反応した。

「出前! 俺は鳥の丸焼き!」

「わっほい。そんならわし、特上寿司を桶で。泰国飯店の小龍包もつけてくれ。後はそう、ほっかほっかの肉まんアンまんも欲しいのう」

「私は鰻と甘いものが食べたいです」

「あたしも甘いものお願いします」

「私も甘いもので」

「私はピザがいいなあ」

「了解でござる。では拙者は夜泣き蕎麦でも頼むでござるかな」

 全ての領収書が編集部に行くことは言うまでもない。



 2日目の夕方。
 伏路は一番疲れてなさそうだった。さとるの先生の所蔵資料を読み込んでいるばかりなので(ノエミが持ってきた資料があるから場所塞ぎになろうという理由をつけ、隙を盗み自宅に運び込んだりもしている)。
 時々は扇で気力を仲間に送ったりしているが、基本ごろ寝。すしをつまんでいるだけ。
 多由羅は痛む目頭を揉み苦情を言う。

「伏路さん、ちゃんと手伝ってください」

「わしの行動力はおぬしらにやったから動けぬ。で、この巻の続きはどらよし手伝おうケシカス飛ばしをしよう唐竹割はやめてくれ」

 そろそろ集中力が途切れる頃合いか。
 霧雁は周囲を見回す。
 ショタに情熱を傾けているノエミは多少目が血走っているものの、変わらず手を動かしている。
 フェンリエッタも崩れのない集中線を描いている。
 太郎は――背負っている火が徐々に小さくなってきている。要注意だ。
 透子は。

「…へえ、そうなんですか小人さん……お気持ちはよくわかります……うんうん…ははあ…なるほど…実はあたしもさっきから見えてはいけないものが見えて来ました…」

 自分が呟いている台詞をそっくりそのまま原稿内に書き綴っている。
 これは危険信号。思った霧雁は彼女の肩を叩く。

「小休止をとられるほうがよいでござる。コーヒーは準備万端いつでも用意しているのでござるよ」

「あ、はい。そうですね…ちょっと休憩を取らせていただきます…」

 透子は休憩スペースに座り、適当なカップにコーヒーを注いだ。誰かがフェンリエッタ特製のハーブティーを飲みかけにしていることに気づかぬまま。
 口に運び一気飲みし、ブレンドの成果で増幅したまずさによって、盛大に吹き出す。
 その先には仕上げを終えた原稿が。
 悲劇が起きるまさにその瞬間、霧雁は『夜』を発動した。
 原稿を取りのけても机にはねて外に散っては何にもならない。電光石火伏路という障壁を引き寄せる。

「ぎゃあわっちいい! なんでわしこっちにおるんだ!」

 しかし一つ悲劇を避けたからと言って、安心するのは早すぎた。
 背後でばさばさっという音。
 首を向けてみると完成原稿が紙吹雪に。
 太郎が絶叫する。

「多由羅さん何してんのおおおっ!?」

「いえ、切り張り指定とありましたので、ひとまず切ってみたまでで」



 3日目の夕方。
 霧雁は印刷所に向かい疾走していた。透子も同行していたのだが、途中で踏みとどまった。彼をいち現場に向かわせるため、陰陽術を駆使し、交通を差し止めるために。
 あたしのことは構わず先へ――それが彼女の最後の言葉。
 忍者は涙を拭う。

「犠牲は忘れないでござる…!」

 印刷所の窓からガラスを突き破り、飛び込んだ。

「来てくれたか! 信じていたぞー!」

 原稿を受け取った担当はもはや時間がないので中身を確かめもせず、印刷に回した。
 後は運を天に任せるだけ。
 思いながら霧雁は果てる。
 透子もその数分前、徹夜続きだった挙句の錬力解放が祟り、道端で果てていた。
 仕事場では他の仲間とさとるの先生が、氷を枕に果てている。



 かくして鋼鉄都市最新話、無事掲載と相成った。
 多由羅が切り刻んだラストの部分はさとるの先生が、1人で全部描き換えた。以下のように。



 主人公たちは我に返る。
 そう、これまでのことは全て夢だったのだ。自分たちは鋼鉄都市の最深部にある牢獄へ囚われの身となっていたのだ。
 しかし現実にショタ化している。どういうことか。
 ぼいどそっくりな顔をした少女刑務官が、檻の向こうから告げる。

「帝国の反逆者どもめ。どうやら年齢退行処理とヒプノペーディアだけでは性根をたたき直すに足りないようだな…仕方ない、今から実地に洗脳教育を施してやろう…ぐへへへへ」





 以降鋼鉄都市は少年漫画の限界に挑戦する漫画として、一層名を馳せることとなったのであった。