【北の国から】春来たりなば
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/29 18:37



■オープニング本文

前回のリプレイを見る




 これまで上層階級が独占してきた政治を一般に開放する。言うのはたやすいが、実行となると難しい。
 オランドにはよく分かっていた。ババロアの民は支配されることに慣れている。上がこうだと言えば従順に真面目についてくる者が圧倒的に多い。不平不満を抱いても、直接異論を述べ立てるのは無作法だと思う向きがある、と。
 支配する側にとってみればこれほど都合のよい民はない。
 それは昨日今日出来上がったものではなくて、何代にも渡り培われてきたものだ。
 アーバンもそう。あの地の自治意識の高さは、風土や歴史により自然と作り上げられてきたもの。誰もが容易に真似出来るものではあるまい。
 けれども、やらなければ。

「…義務と権利の明文化か…領内法を書き換えなければならないな」

 政治に異論を唱えてもいいのだという感覚を身につけてもらわなければならない。
 連携して組織を作り上と交渉するとか、身近にある諸問題を代表者同士話し合って解決するとか…意識が変わればそういったこともおいおい出来ていくようになるだろう。
 後は教育の充実。
 どんなに権利を明文化したところで、それがろくに読めない理解出来ないでは話にならない。



 ババロア城の近くにあるババロア侯爵の墓の前、アーバン伯爵が黙祷を捧げている。
 先にあった真新しい花――先頃ここを訪れた陰陽師の少女が供えていったものだ――の隣に、赤黄白を束ねたチューリップの花束を置く。

「お気の毒したの。生前には何かと付き合いもあったもんじゃが…よくチェスなどもしたものじゃ。わし、いつも負けておったが」

 白いハンカチで目元を拭く伯爵。
 しんみりしているそこに、アーバンの有志たちがぞろぞろやってきた。

「伯爵様、早くいらしてくだせえ。執政殿がお待ちなされています」

「…わし、どうしても会わなきゃならんの」

「そりゃそうです、あなたがアーバンの代表者なんですから」

「でものう…あの御仁なにやら怖い感じしてのう。執政殿は、我が領地の経営についてあれこれ聞きたいと申されたのじゃろ?」

「はい。参考にされたいそうでがす」

「じゃったらわし何にも言うことはないぞ。そういうのはおぬしらがやっておることじゃで…わしここで待っておるで、おぬしらだけで話し合ってきてくれんか。で、結果だけ教えんしゃい。いつものようにの」

「だからそれでは駄目なんですって。いつまでも馬鹿言ってないで来てください。私たちもここでの用事を済ませて、早く戻らないといけないんで。春祭りが近いんですから。今年も沢山来ますよ、観光客が」



 アーバン渓谷の牧草地や森は、高原地帯の可憐な花でいっぱい。
 厳しい冬の終わりを祝うのが春祭り。
 昔はこの地域だけに留まる地味なものだったが、今は観光の目玉として様々な催しが行われる。ヨーデル歌い比べとか、坂からチーズ転がし大会とか、民族衣装を着てのダンス大会とか。そのうちでも一番の呼び物が、春の女王選手権――要するにミスコンだ。目の保養になるため毎回多数の観客が押し寄せる。
 ミーシカはこれに燃えている――エマを出場させるので。
 手製のドレスを彼女に着せ、気炎を上げている。

「いいぞエマぴったりだ、今年はお前が女王だ!」

「無理よー、私背が低いから着映えがしないし…ミーシカは出ないの?」

「私はお前の応援するから出ない! 背が低いことは気にするな、低い方がかわいいんだから!」

 ケインとトビーは彼女らの会話をスルーし、チーズ転がし大会の傾向と対策を話し合っている。

「今年はジャンプ台から転がすのか…滅茶苦茶飛ぶぞ」

「これもう落下予想地点で待ってたほうがよくない?」




「ギーギーガー…ギガ」

 ジェレゾの街角。ガー助は工房のお使いに出た帰り、花屋の前を通りがかった。
 水温むこの季節、店先は一段と華やいでいる。時に目立つのがチューリップだ。パステルカラーの乱立は、まるで楽しい音楽を奏でているように感じられる。ゴーレムの心にも。

「ギーガー」

 彼はきときとキャタピラの足を動かし、店の中へ入っていった。3本ばかり買い求めようと思って。
 花瓶に入れて飾れば、職場も華やぐことだろう。






■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
レイア・アローネ(ia8454
23歳・女・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文


「おや、燕が巣をかけておる。夏遠からじかのう」

 八壁 伏路(ic0499)がマーチン邸まで来てみれば、庭先に馬車が泊まっていた。

「お客かの」

 車体にはアルフォレスタ家の紋章が入っている。

「おお、マルカ殿が来られておるのか。これは丁度よかった」

 若い子のファッションは現役世代に聞くのが最も確かであろう。
 玄関ベルを鳴らすのもそこそこに中へ入って行くと、やはりマルカ・アルフォレスタ(ib4596)。客間でエリカと話し込んでいる。

「――なるほど、それはいい案ね。分かったわ、アガサに言っておく。ついでだから私もいくらか寄付させてもらうわ。ロータス、あんたもやるわよね」

「えー、僕はあんまりそういう気はないんですけど…実家には一報入れておきますよ」

 咳払いして存在を示してから、伏路は彼らに声をかけた。

「たのもう」

「あら伏路。いつ来たの」

「ついさっきじゃ、エリカ殿。マルカ殿、何のご相談をしておられたのかな?」

「いえ、ババロアに教育施設を立てるお手伝いが出来ないものかと思いまして。ひとまずわたくしの母校ジェレゾ城北学園と、エリカ様の母校聖マリアンヌ女学院にて寄付を募ろうかと…後はハプス財団にも支援の提議をしませんと。孤児にも教育の機会を与えなければなりませんし、そうなると奨学金も必要でございましょう? 考えることが多くて」

「後はその学校に赴任してくれそうな引退教師はいないかって話でね――そっちはトマシーナとアキママ先生の担当だけど」

 それなりに地位がある人間というのは義務が多くて大変だと、極楽トンボな吟遊詩人は思う。
 ともあれ、自分がここに赴いてきた用件を伝えねば。

「ミーシカ殿がアーバン渓谷春祭りにおいてじゃな、エマ殿をミスコンに出場させるとかでな、微力ながらも力になりたいのでな、ぜひ今年の流行を教えていただきたい」

「そうねー、十代の子なら同年代のアガサたちに合わせたらいいんじゃないの? この春はオレンジと豹柄が来てるって言ってたわよ、あの子たち。後、アル=カマル渡りのターコイズをアクセに使うとかなんとか」

「いや、やんきいの流行ではなくて一般女子の流行を聞きたいのだが…マルカ殿の意見はどうかの?」

「そうですわねえ…ひとまずオレンジがこの春の流行でしょうか。形はこう、ガーリーと申しますか、ふんわり目がよろしいようで。アクセはエリカ様がおっしゃられましたように、ターコイズが来てますわ。宝飾店でも売り切れておりました」

(やんきいも普通女子もあんま変わらんのか?)

 思っているとロータスが肩をつつき、雑誌を渡してきた。

【ジェレゾコレクション・春号】

「こういうの見た方が早いですよ。流行流行言ったって、業界の見解にそって動かされてるだけのことですから。要するに付和雷同ですよ」

「かたじけない。ではお借りして行こう」

「殿方だけで何のご相談ですの?」

「いやいや、女子にはちと聞かせられない内容ゆえご容赦されよマルカ殿。あ、そうだ。ついでに伺っておくかのう。エリカ殿、ベビー服とタオルセットは、どっちがいいかの? まだ先の話ではあろうが」

「そうねー、タオルにしておこうかしら。止血とか固定とかに使い回せそうだし」

「仮にも妊婦がなぜそう殺伐としておるのだ…」



 2回目となる執政の就任式は、関係者を招待した昼食会とでもいうべき規模のもの。演説するひな壇もなければ儀仗兵の姿もない。会場への出入りは自由。
 レイア・アローネ(ia8454)には、その気軽さが有り難い。

「オランド執政も…大変だとは思うがこれからだぞ…ま、あまり大仰では私の出る幕もないしな。肝心なところで役に立てず済まなかった。こんな私が参加していいのかと恐縮ではあるが、賑やかしくらいはさせて貰いたいと思ってな」

 彼女の言葉に、正装したサライ(ic1447)は首を振る。

「いいえ、レイアさんも十分ババロアのために尽くされましたよ。胸を張っていいと思います――どうぞ」

 差し出すのは葡萄酒――彼が式に提供したものである。ヴォトカ、ワッフルと一緒に。
 レイアは苦笑した。

「だといいが。またなにかあれば一緒に戦おう」

「もちろん」

 そこに騒がしい集団がやってきた。

「来たで来たでババロアー」

「何か辺鄙なとこっすねー」

「ギーギーガーガー」

「あら、アリス様にアガサ様、ガー介様、いらっしゃいませ」

 マルカが迎えに出たところからするに、彼女が呼んだ人々らしい。
 レイアは葡萄酒のグラスをテーブルに戻し、そちらに向かう。
 オランドが会場に出てきた。
 鈴木 透子(ia5664)は彼に近づき天儀式にお辞儀、言祝ぎを述べる。

「再就任、おめでとうございます。」

 「頑張ってください。」と続け、もう一度お辞儀。ありがとうと答えた相手の鬢に白髪が出来ているのに気づく。

(少し老けられたみたいです…)

 伏路は同じ顔に、別の感想を抱く。

(お顔をとくと拝するのは初めてだが、険のない良いお顔立ちだの)

「あー、わしはその日暮の開拓者ゆえ執政殿へ直接支援はできぬが…執政殿の行く末がアヤカシに歪められぬように」

 清い光がオランドの体にかかり、消えた。

「まあ、激励であるな。厄払いというかそういう感じだ」

「ああ、これはかたじけない」

「いや、礼などいらぬ。ほんのお遊びのようなものだからの」

 伏路は場をそそくさとマルカ、サライに譲る。彼らの方がたんと話すことがありそうだったから。

「この度は、再任おめでとうございます。オランド様が執政を続ける事が出来てよかったですわ」

 祝辞を述べるマルカに執政が、深々と礼を述べた。

「教育施設の立ち上げについて、物心両面とものご支援誠にありがとうございます、アルフォレスタ様。お陰でこの度は無事学校の設立が相成りまして、何とお礼を申してよいか」

「いやですわ、わたくしはただ方々にお声がけをしただけのこと…今出来た学校から始まる教育が、いつか帝国の為になると、そうなって欲しいと思っております。いわば帝国の未来への投資です。何も特別なことではない、当然のことをしたまでです」

「いいえ、当然のことこそが難しいのです。恥ずかしながら私だけでは資金繰りがどうにもならないところでしたので、本当に助かりました」

 サライは嘆息する。

(無給とは厳しいですね…)

 執政となれば黒い金を集めることも容易い。宮廷はオランドが真実堕落しないかどうか、試しているのだろう。

「何か出来そうなことがあれば、遠慮なくおっしゃってください」

 貴方の誠実な人柄は好きだ。そう付け加えるとオランドは、穏やかに笑った。

「それはうれしいね…でも君はこれまで、もう十二分私を助けてくれたよ。やり直す機会をもらった以上のことを望めば罰が当たる。サライ君、君が御前会議で述べてくれた意見は、すばらしいと思う。大変参考になったよ。これからの指標にしたいと思っている」

 直に褒められたサライは照れた。それを隠す意味もあって、真面目な顔をする。

「多くの民にとって子供は労働の担い手です。今まで教育を受けずに生活が出来ていた訳ですし、教育を受ける・受けさせる意識が芽生えないかも知れません。なので、泰の科挙制度を手本にされてはいかがでしょう」

 学業優秀な者は身分に関わらず官吏として用いる制度を作れば、優秀な人材確保と教育意識向上が望める。
 税の減免等で商業振興し、読み書き算術が出来ればより多くの収入が見込める。
 学問が出来た方が得だと皆が思えば、教育への熱が入るのに加え、商業発展も可能となる。
 勿論やり過ぎればどこかが歪になるから、バランスは必要だ。

「先は長いですが焦りは禁物ですね。時間をかけ、改革していきましょう」

 マルカはここに来る前見てきた、真新しい校舎を思い浮かべる。
 自分を含めた寄付者の名を刻んだ大きな石碑が、正門のところに据えてあった。
 誇らしいようなこそばゆいような、目下そんな気持ちだ。

「いつかババロアの学校が帝国随一になる日が来ればよいですわ。ね、アリス様、アガサ様」

「えー、そんなんなったらまたうちら、先生らから尻叩かれそうやわ…」

「全くっす。学生にはゆとりが大事っすよ」



 アーバンの春祭りは宴たけなわ。あちこちから楽隊の音が聞こえてくる。屋台からおいしそうな匂いも漂ってくる。
 春の女王選手権会場の裏方には、ミーシカとエマ、伏路の姿。

「んむ、エマ殿はかわいらしいぞ。今年の一等賞に違いない」

「そうだ、お前は最高だエマ!」

 客観的に見てもエマは、かわいらしい顔立ちをしている。
 背が低い分少しでも見栄えよくとポニーテールにした髪に、あしらうのはキュートフェザー。
 耳にはスノードロップの耳飾り、首にはピンクサファイアの首飾り。若草色のドレスの上に、オレンジのショール。

「流行のカラーは押さえたからの、都会から来た観客の掴みもバッチリとなろう!」

 ファッション誌を片手に豪語する伏路に、ミーシカは念を押す。

「本当だろうな。うまくいかなかったらお前ぶっとばすからな」

「大丈夫だ! わしを信じろ!」

 盛り上がっている会場の一角には、レイアもいた。
 チーズ転がし大会を見るついでに通りがかったのだ。

「ダンスは悪くないがミスコンはな…。ガラではない…」

 うそぶいて出場者名簿を眺めたところ、どういうわけか自分の名前を発見。

「って何故私がエントリーされてる!?」

 背後から背を叩くものがいた。
 首を向ければサライである。

「僕もですよ…誰の仕業でしょうか。困りますね…」

 彼はこういうハプニングに慣れているらしい。さらっと諦め前向きになった。

「折角ですから出場しますか? 貸衣裳もあるみたいですし」

「ま、待て…そういうのはええと…苦手だ」

 何のかの言いながら、レイアもまたノリがいい。なし崩しに参加と相成った。



「おーい、こっちこっちこぎゃ」

「うわあああケイン、しっかりしてくれー!」

 チーズの塊を顔面に受け倒れる参加者たちを尻目に、離れた木陰で横になる透子。

「少し疲れました。」

 さっき買って食べたチュロッキーの味を思い起こしつつ、大きなため息。
 彼女は現在とあることで落ち込んでいる。気の持ちようであると頭では思っていても、心は納得しない。つい、いじいじと草をむしってしまう。天気は快晴なのに、心は長雨。

「…あら…なんだか…おいしそうな負の匂い…饐えた感じがいい感じ…畳が腐りかけた座敷みたいだわ…」

 不意に聞こえてきた薄暗い声の主を確かめる気も起きないほど、弱り気味。
 ぬっと視界に入ってきた不景気な顔にも、眠そうな半眼を向けるだけ。やけくそ気味に言う。

「…こんなので良いのなら、どうぞ。食べやすいように瘴欠片にしてあげましょうか?」

「…いえ…そこまではいいわ…歯ごたえなくなっちゃうし…」

 視界から顔が退き、ついでバリバリという音が聞こえてきた。
 たくあんを丸かじりしているような景気のよさ。
 一体どんな食べ方をしているのか。ものすごく気になって起き上がり振り向いてみたが、残念にも食事は終わったところだった。

「…ごちです…」

 これはすこぶる変なアヤカシであり、油断は出来ないのだが、会ったついでに聞いてみよう。

「あの、貴方たちって人にとっての何なのですか」

「…さあ…私はアヤカシだから…人間的見解ってよく分からないけど…とりあえずあなたたちには…必要よね…私たちがいないと…失業…陰陽師とか…魔術師と一緒で…潰しがきかなそうだし…占い師にでも転向するしか…なくなる…」

 やけに即物的な回答をされてしまった。

(そういう答えを欲していたのではないのですが…)

 思いながら畳み掛ける。影法師を念頭に置いて。

「人がアヤカシになるようになったのは何時頃からですか」

 隙間女は三白眼を細めた。

「…そりゃあ…昔々から…私が発生する前から…儀が空に来る前からでは…ないかしら…じゃあ…急いでるからこれで…」

 地面に発生した穴にずずずと沈んで行く相手に、透子は言った。

「ありがとうございます。少し気が晴れました。」

 微妙にいやげな表情を見せ、隙間女は沈み切る。
 負の感情を食われたせいか、ちょっと気分が軽くなったようだ。

「…お祭りに戻りましょうか。」



 春の女王選手権は盛り上がっている。

「いいぞー、脱げ女王様!」

「おっぱいぽろりはないのかー!」

「叩っ切るぞ貴様ら!」

 オランド執政、そして女友達と会場を訪れていたマルカは、目を丸くした。

「あら、レイア様も出場なされてましたのね」

 黒革ボンテージにピンヒールの間違った女王がかぶりつきの客に蹴りを入れ退場させられた後、妙なるメロディが聞こえてきた。
 周囲の木々に花が咲く。
 可憐に着飾ったエマが登場してきた。
 まこと『春』にふさわしい容姿。
 会場から怒涛のコールが沸き起こる。

「エーマ、エーマ、エーマ、エーマ!」

 誰かと思ったらやはりミーシカだった。

「なんと愛らしい姿よの! 春の女王はこれで決まりじゃな!」

 いやバイオリンを手にした伏路もいる。
 そう――確かに彼女で決まりだったろう。選手権にサライが参加していなければ。
 最後に出て来た彼は亜麻色の鬘をかぶり、黒いドレスの裾をはためかせ、アル=カマル仕込みのダンスを踊る。
 どこかなまめかしい体捌き、時折挟まれる投げキッスとウインク。揺り動かされない男の数は…そんなに多くなかった。
 踊り切った後には拍手の波。そこにはマルカとその友ら、オランド執政の姿もある。

(…楽しいですね。願わくばこの笑顔が永久に続き、この地より遍く世界に広がらん事を)

 かくして今年の春の女王はサライに決定。エマは次点。
 この結果にミーシカが黙っているはずなかった。
 選手権がすんでから早速サライを捕まえ、締め上げる。

「ふざけんなよお前! 何ノリノリで参加してんだ男だろうが! その王冠エマによこせこらぁ!」

「いっ、いえっミーシカさん、僕は別にそんなノリノリというわけではげほげほっ!」

「落ち着いて。私は別に2位でもいいわよミーシカ。あなたの女王様が私であることに変わりはないんだから」

「いきなり過激発言をぶちこんできますね、エマさん…」



 夕映えに染まる渓谷で、伏路はミーシカに握手した。

「楽しかったぞ。また機会があれば来させてもらうで」

「おう。来るなら来い。特に来年の春祭りは絶対に来い。今度こそエマに一位を取らせるからな」

 胸を反らして言う彼女に苦笑しつ彼は、握手した手をすっと持ち上げた。
 そして、甲に唇をつける。

「女王様には騎士のひとりでもおらねば格好がつくまいて」

 最初ぽかんとしていたミーシカの顔が、たちまち髪と同じくらいの赤さに染まる。

「…お前…よくこんなこっぱずかしいこと出来るな! 早く帰れ!」

 彼はついにこにこ顔になる。しばかれないよう飛びすさって、大きく手を振り別れの言葉。

「では、またの!」