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■オープニング本文 みなさんハッピーニューイヤー。アヤカシの隙間女です。 正月は冥土の国への一里塚。これほどめでたいことはありませんね。 しずしずしけっぽく過ごすのが一番。 のはずなのですが、そうは思わない人間のほうが多いようです。 「動くな! 動くと撃つぞ!」 「おい、早く金を詰めろ! 早くしねえかぶっ殺すぞ!」 今ジェレゾの銀行の中を通りがかったんですけどね、強盗やってる人たちがいます。 年始から忙しいことで。 人質になってる行員は窓の前に集められている状態です。彼らはその後ろ側で脅しています。 人間の盾ですか。なるほどこれなら窓側からだけは攻撃されないことでしょうね。その辺知恵は回るようです。 「おい、動くなっつってんだろうが!」 でも私にも銃向けてる時点でバカです。 人間に間違われることはよくありますが、冬場だと珍しいです。白ワンピースしか着てないんですけどね、私。行員じゃないんですけどね明らかに。 「動くなっつっただろうが!」 撃っても無駄なんですって。 ほら貫通したでしょう。実体ないんですよ私。 「ど、どういうことだ! 何者だお前!」 アヤカシです。 「…おい、あの銃偽物じゃないか?」 おや、行員たちが妙な誤解をしてしまったようです。窓側から我先に離れました。 「数はこっちの方が多いぞ、やっちまえ!」 椅子や机が投げられ始めました。意外とファイトのある人たちですね。 「やっ、やめろてめえら! 違うこれは本物…」 誰かがガラス窓破って強行突入してきました。 うわお、番長OBエリカじゃないですか。 酒臭い。 どこで飲んできたか知りませんが、完全に出来上がってますこれ。 飛び込んでくるなり強盗犯の頭にウイスキーの瓶ぶつけました。 飛び散る血飛沫と瓶の破片とウイスキー。 倒れた相手を殴りまくってます。 救助しに来たというより乱闘しに来たようにしか見えません。 エリカの内縁の夫的なロータスが、野次馬に混じり外で見物しています。 「エリカさーん、殺さないようにしといてくださいよー。ていうか多分近くに逃走用の車両とかあるはずですから、そっちを先にした方がー」 いい指摘ですが、あんまり聞こえた様子ありませんね。 気絶した強盗の体を盾にしその喉に剣をつきつけ、一味に呼びかけています。 「動くな! こいつがどうなってもいいのか!」 もうどっちが強盗なんだか。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
ウルスラ・ラウ(ic0909)
19歳・女・魔
零式−黒耀 (ic1206)
26歳・女・シ |
■リプレイ本文 撃っても平然としている女はもちろん、酔っ払いが一番手におえない。 「ちょっとでも動いたら、こいつの喉をかっ切る!」 いきなり乱入してきてこの言いようはないんじゃないだろうか。 人質であるべき人々は戦意高揚意気盛ん、手当たり次第ものを投げ付けてきて大人しく従いそうにない。 ここは一つさっきのと別の奴を撃ってみるべきか――強盗団が物騒な結論に至りかけたそのとき、開拓者たちが踏み込んできた。 「やいやい! 何の騒ぎだってんだ! 俺は開拓者! サムライのルオウだ! って何してんの?」 入ってくるなりルオウ(ia2445)は、ボコボコにした男に剣を突き付けているエリカを見てしまい、思わず目が点になった。 「いくら男運がないからって、銀行強盗までするかふつー? あー、落ち着けよ、な? 話は聞いてやっから。おかーさんは泣いてるぞー」 「違うでしょ! どう見ても私が銀行強盗を鎮圧してんでしょ!」 「いや、悪いけど全然そうは見えねえわ」 続けてマルカ・アルフォレスタ(ib4596)の凛とした叫び。 「開拓者ですわ! 双方お止めなさい!」 エリカの破った窓から飛び込んできた彼女は、さっと行員と強盗団の間に入る。『翼竜鱗』を左に、『マカブイン』を右に。いかにも騎士らしい堂々たる姿。 「あらマルカ。新年おめでとう」 「おめでとうございますエリカ様、本当に良くも悪くも期待を裏切らないお方ですわね」 (全くだな) 心で相槌を打つアルバルク(ib6635)は、なるべく強盗側の気を荒立てないよう、ゆるんだ物腰で言った。 「たーく、新年早々ドンパチしやがって。こういう仕事は年末に納めとくもんなんだよ。最近のごろつきって奴はまったくなっちゃいねえなあ…まあ、あんたらには、怪我しねえ内に投降をお勧めするぜ…」 「うるせえ! てめえにものを教えてもらう言われはねーんだよ!」 脅しのつもりか強盗犯は、天井に向け発砲する。 音に刺激されたエリカが人質を引きずりたおしながら、抜き身の剣をかざし、発砲者に襲いかかった。 酔いが回っているので手元が狂い、目標の10センチ横にあった机を真っ二つにしてしまう。 「チッ」 (舌打ちか…本気でやるつもりだったんだな…) 北条氏祗(ia0573)は汗をかく。 霧雁(ib6739)は自分の背後で固まっている行員たちに目を向ける。 (とにかく一般人の方々の安全を確保せねばならぬでござるな) 「要するに、酔っ払いと銀行強盗のフリーファイト?」。 ウルスラ・ラウ(ic0909)は素早く判断した。酔っ払いを放置しておくと話がまとまらなくなると。 銀行員と野次馬、建物や設備に被害を出さないようにするのが一番。 銃を持ってる強盗を追い詰めたはいいが、自棄になって乱射でもされると困る。 「ててててててめえ、殺す気か!」 エリカに襲われ及び腰になっている1名に両手を挙げて近づき、こそっと耳打ち。 「大丈夫あの酔っ払いはあたしたちとは無関係だから。あたしはあなたたちを助けたいと思ってる。ううんウソじゃない。本心からそう思ってる。この目を見て。これがウソをつく目に見える?」 ● 銀行の前で鴉乃宮 千理(ib9782)は、飴をしゃぶる。 「解りやすい悪党じゃの。今時こんな悪党もレアモノじゃて」 ロータスが頷く。 「どうせやるならもっと計画を立ててからにしないとね。逃走用の馬車は用意するのが当然として、さてそれからどこに逃げるかですよ」 会話を小耳に挟んだ零式−黒耀(ic1206)は誰に何を言うこともなく、強盗犯の逃走経路潰しに向かう。 (…新年早々、大変賑やかであると判断致します) 銀行の裏手は駐車場になっていた。 馬車は数台停まっている。表の騒ぎに人が集中しているからだろう、変に静かだ。 (さて、彼らのはどれでありましょうか) 足音を消し車体の下をかいくぐり、耳をすます。 焦った声が聞こえてきた。 「おい、あいつら遅いじゃねえか。何やってんだ」 「あまり手間くうと警邏が来ちまうぞ。表に回ってあいつら回収して、出直すか?」 御者台にいる1名が、中に潜んでいる1名と話をしている。 銀行内にいる一味と違い、ごくごく普通の格好だ。帽子を目深にコートの襟を立て、顔が見えにくいようにはしているが。 右手は不自然に懐へ入れたまま。 (間違いない。銃を所持していますね。多分中にいる方も) 確信を抱いた彼女は猫のように姿勢を低くし、姿を消して忍び寄る。 御者台まで肉薄し、一気に跳躍。 「うがっ!?」 いきなり目の前に出現した相手に銃を構える暇も与えない。 御者役は『鑽針釘』で効き腕を刺され、動きを封じられる。 「てめっ!」 中にいた片方が銃を抜き撃ってこようとした。 「大人しくしてくださいませ――」 御者を乗り越えようとした黒耀は動きを止める。 「そっちは我が引き受けようぞ!」 駆けつけてきた千理の『玄武錫杖』が車体の横っ面を貫通、中にいた男の顎に命中する。 「いいのですか、車体を壊してしまって」 「なに、経費はこやつらにつけておくさ。盗品かも知れんがな。ほい、どうどう。落ち着け落ち着け」 驚きいななく馬の首を押さえ叩いてやった千理は、手綱を切る。万一にでも馬車を奪われた際のために。 黒耀も同じ目的から、車輪の一つを『斬冬』で破壊しておいた。 それから手早く2人で逃走役を縛り上げる。 気絶していない方が叫んだ。 「くっそ、てめえら、何者だ!」 「なぁに、通りすがりのお坊さんじゃよ」 「私は通りすがりのシノビです…これでよし。馬様、少々ここでお待ちください」 ● ところで場には、酔っ払いと強盗犯との他にもう1名、困った存在がいる。 アヤカシ隙間女だ。 マルカとアルバルクは揃って思う。 (最近よくお見かけしますがお暇なのでしょうか?) (隙間のねーちゃんは最近どこにでもいねえか?) ルオウはずかずか近づいて、小声に話しかける。 「んだよー、またお前かよ。アヤカシの上にお前って正月にこれだけ似合わない奴もいないよなー」 「お褒めの言葉有り難う…」 「褒めてねえ。とりあえず騒ぎ大きくすんなよ。どっかその辺の日陰にでも入ってりゃいいじゃん。つーか、何してんの? 初詣に行くキャラでもないだろ、お前」 「魔の森に行く抜け道探してただけよ…」 ドサンと音がした。 エリカがウルスラのアムルリープにかかって倒れたのだ。 「今のうちに、殴られた仲間を助けとけば?」 犯人側を促したウルスラは、続けて行員たちも促す。 「あの酔っ払いは危険だから、早く避難を。さ、あそこの非常口から」 仲間を取り戻した強盗たちは、そのさりげない誘導に抗議した。 「おい待て。そいつら避難させてどーすんだ。俺たちの身が危なくなるじゃねえか」 隙間女は一切を気にせずゆらゆら動く。 「動くなって言っただろ!」 銃弾が飛んで来たが無視。 「もう何、何なんだよあいつ!」 (まだアヤカシと気づかないとか、それはそれですげえな) そろそろ頃合いと見たルオウは注目が集まるよう、大声を出した。隙間女に向けて。 「なんにせよさー…お前アヤカシなんだから退治してやんないとな!」 刀は抜かず構える 今し方隙間女を銃撃した相手に歯を光らせる。 「おい! あんたも気を付けろ! 奴には銃でもなかなか効かねえ…でもナイスファイトだ!」 霧雁も騒ぎだした。 「おお、よく見れば隙間女! 何という事だ! ああ…なんと残酷な運命でござろうか。斯様に強大なアヤカシと正月早々相対せねばならぬとは…お祓いのお布施をケチったせいでござるな…」 よろよろ壁に手をつきよよと崩れるその様、明らかに芝居がかっている。 アルバルクは肩をすくめる。 「強盗諸君は銃がきかねえ事が不思議だろうが、こいつは何せアヤカシだ。この通り斬っても切れねえ」 『アル・カマル』の大振りがすかすか通り抜ける。ここに来て強盗団も、やっとどよめいた。 追い打ちをかけるように、霧雁が見栄を切る。 「一刻の猶予も無いでござる、皆さん、避難して下され! ここは我等が…!」 シャムシールが通じないのだから、忍刀も通じない。空気を切るのと一緒。 流れに乗り、氏祗も矢を射かけた。当然これも素通りして壁に突き刺さる。 何も感じはしないがちょっとイライラしてきたか、隙間女は彼らに半眼を向けてきた。 「…なんなの…うるさいわよあなたたち…」 そこで霧雁が交渉を持ちかける。もちろん周囲に聞こえぬように。 「隙間女さん、協力とは言わぬまでも何もせずにいてもらえる様頼むでござる」 「…茶番に付き合えと…?」 「ただでとは言わないでござる。後で各儀じめじめスポットガイドマップ第1巻を差し上げるでござる故…」 隙間女は首を傾け考えるような素振りをした。 それからぶわっと髪を逆立てる。ドンッドンッドンッと重いラップ音を響かせる。 演出サービスであろうと察した霧雁は、また大袈裟によろめいてみせた。 「効かない…やはり無理でござる! 拙者はまだ死にたくないでござる!」 ここまで来ればどんな鈍い人間でも、相手が人外だと認めざるを得ない。 締めとしてマルカが重々しく、強盗たちに語りかける。 「そちらのワンピースの方は銃弾が通用しないのも当たり前。隙間女様と仰るアヤカシですわ」 いったん言葉を切ってから、後ろにいる行員にだけ教える。彼らまでパニックを起こしてはもともこもないので。 「あ、人間を襲うような事はありませんのでご安心を」 そしてさりげなくかつこれ見よがしに、襟元の勲章をちらり。このようなことに用いてすみませんと、ガラドルフ大帝に詫びながら。 「帝国臣民ならこれが何かわかりますわよね? そう、宝冠銀鷹賞ですわ。先日畏れ多くも大帝陛下より拝領いたしました。このような物をいただいたわたくしを攻撃したりしたらどうなるか。陛下は地の果てまでも皆さんを追いかけますわね。それより今投降すれば、罪が軽くなるようお口添えして差し上げられますわ」 説得という名の脅迫は、隙間女の存在よりも強く彼らの心に響いた。 無理もない。アヤカシと国家権力。どちらがより真に迫った脅威として感じられるかと言えば、明らかに後者だ。 「くっ…きっ、汚えっ! 職権乱用じゃねえか、それは!」 「虎の威を借りやがって! 卑怯者!」 「何とでもおっしゃいなさいな。己を鑑みれば、あなたがたも偉そうなことは言えないはずでございますが?」 騒ぎの中人質たちは、そろそろと出口に下がって行く。 実はアルバルクが、前以てそうするよう指示していたのだ。入ってくるとき、『気を引くから逃げろ』と書いた紙片を渡して。 ちょうど表に黒耀が回ってきた。逃走役2名をずるずる引きずりながら。 「皆様、裏口の方々の確保、無事完了致しました。馬車も走れぬようにしましたので、ご安心くださいませ」 それを契機に人質たちは、一斉に外へ逃げて行く。 立てこもり班に激しい動揺が走った。 計画の雑さから察せられるように、失敗した場合の対処法も一本化していなかったらしい。咄嗟に逃げようとする2名と、人質を追おうとする3名とに、行動が分かれてしまった。 「おいてめえら、何逃げてんだ!」 怒鳴ったのは首領だろうが、逃げた2名は足を止める事なく裏口から走り出て行く。 そこからは、全てがほぼ同時に進んだ。 「おっと、こっちは通行止めじゃ!」。 裏口前に潜んでいた千理が衝撃波を食わせ、2名を中に逆戻りさせる。 ウルスラが石の壁を築き、人質逃走を庇った。 ルオウは銃口を向けた相手の間合いに一瞬で入り、すごむ。 「銃を捨てな。お前らには過ぎたおもちゃだからな」 アルバルクは刀風で目出し帽を切り裂き、銃口をつかんだ手をひねり床に向けさせ、説教をする。 「大体、行動が雑なんだよ。俺がやるなら銃はチラつかせても絶対撃たねえ。警邏が即きやがるだろ――」 霧雁は、手裏剣『白露の時津風』を乱舞させ、強盗犯たちの手を貫いた。 ウルスラは吹雪を起こし、彼らの周囲を真っ白にする。 「もうブリザーストームで永遠に黙らせてしまってもいいんだけど…その方が効率的だし、世のためにもなるし?」 先ほどしていた説得とは、打って変わって低い声。冷たい目。 そこで寝ていたエリカが起き上がった。 「寒っ! なんなのよちょっと!」 帰ってきた酔っ払いの姿で、強盗たちは完全に戦意喪失した。 そこまで行けば後はもう、取り押さえるだけである。 「よーし、そのまま動かないように」 「壁に手をついてくださいまし。もうおかしな気は起こされませんように」 氏祗とマルカが言って回るところ、警邏がどやどや入ってきた。 アルバルクはまだ説教をしている。 「立て籠もったっていい事はねえ。計画から外たら即引くんだよ。強盗はスピード勝負。仕事はクールにスマートにだ」 ● 「殺生・偸盗・邪淫・妄語・飲酒。これぞ五戒じゃ。神教会でも言いおる。『汝、盗むなかれ』とな。働き者が馬鹿を見る世になってはいかん。独房でしっかり反省し、労働にて金を得る人間となるのじゃぞ。頑張れよー!」 千理は爽やかに手を振って、護送車両に詰め込まれていく犯人たちを見送る。 「くそーちくしょー!」 「覚えてろてめえらー!」 同じように見送る黒耀は、淡々と呟く。 「更生の望みは薄そうです」 銀行の中では隙間女が、床に開いた得体の知れない穴に潜って行くところだった。 霧雁がそこへ小冊子を落としている。 「今回は、まことにありがとうでござる。ガイドマップ以下続刊にござる!」 「…せいぜい楽しみにしておくわ…」 ウルスラは首をかしげ、氏祗とルオウに聞く。 「…っていうか、あのアヤカシは退治しなくていいの?」 「…そこは拙者も思った」 「でも隙間だしなあ。いいんじゃねえか、別に」 酒が切れ頭を抱えているエリカに、マルカが苦笑する。 「エリカ様、お酒は控えられますように」 「…ええ、そうしたほうがいいみたいね…」 「そうですよ。いつも以上に理性が飛ぶんですから」 エリカは瞬時に眉を吊り上げ、口を挟んできたロータスの襟を締め上げようとするが、割り込んできた千理に止められる。 「まま、落ち着け。この男の愚痴でも聞こうか。浴びるほど飲んでどうしたことじゃ」 聞かれたエリカは顔を真っ赤にし、呻く。 「こいつっ…人が酔ってるのをいいことに安全対策しなかったのよ…」 「朝起きてからそれに気づいてヤケ酒してたんですよね。さっきまで」 一拍置いて千理は、両者が何を言わんとしているか悟る。 わざとらしい咳払い。 「ほう…もっと詳しく聞きたいのう」 マルカが脇から潜り込む。 「あの、憚りながらわたくしも其の件伺いたく」 ウルスラも。 「あたしもなんだか相談に乗れそうな気がしてきた」 黒耀も無言で眼を輝かせ割り込んでくる。 エリカが再度呻く。 「あんたら面白がってるでしょ…」 「いやいや、少なくとも我はそんなことはないぞ? うん、ないぞ?」 |