お前はアホか
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/24 00:30



■オープニング本文


 アル=カマル。とある結婚式会場。
 女博物学者のファティマは、いとこである花嫁ルツから渡された手紙を読んだ。
 その後かけている眼鏡をはずしよくよく拭いてからまた読んだ。
 何度眺めてみても文面は変わらない。

『よくもオレを裏切ったなこのくそ女。うんこをばらまいて結婚式を滅茶苦茶にしてやるから覚悟しておけ 黒の魔術師ウスマ』

 息をついてからファティマは、ルツに尋ねる。

「なあルツ、こいつ誰やねんな」

「それが皆目分からないの。何しろ一度も見たことがないし。手紙だけはしょっちゅう我が家に届いてたんだけどね。後は夜道を歩くとき、よくひたひた足音させてついてきてたくらいかしら。困ったものよ。直に姿を現してくれさえしてたら、こうなる前に引導を渡してあげられたのに」

「全くやな。ちゅーかうんこてなんやねんうんこて。こいつアホや絶対アホや」

「ええ。しかしそれでも魔術師らしいのよねえ…不条理なことに」

「最悪やな」

 淡々と会話を交わす彼女たちの間に、花婿のマディーが割り込んできた。

「あのすいません。どういう次第なのか説明してほしいんだけど」

 式場は現在内側から鍵をかけ、椅子や机を利用したバリケードを築いている。完全なる密室状態だ。
 外側からすごい勢いで壁が叩かれている。
 それはとどまることなく、どんどんひどくなっていく。

「いや、簡単な話や。あんたの花嫁さんのストーカーがこの結婚式を嫉んで、ものすごく低俗な腹いせ行為に出ているだけやねん」

「腹いせってあの、集まってきてるの明らかにアヤカシみたいだよ」

「嘘か本当か魔術師と書いてあるさかいな。そのくらいは可能なんちゃう?」

「そうね」

「なんで二人ともそんなに落ち着いているのかな…」

 途方にくれているマディーに向け、ファティマはにっと笑う。

「そりゃ簡単や。ルツも魔術師やからや。特に呪詛方面に詳しいねんな?」

「えっ、そうなのかいルツ。僕は全然知らなかったんだけど…」

 戸惑う花婿に、今度はルツがにこっと笑う。

「ごめんなさいね、隠すつもりはなかったんだけど、なんとなく言いそびれてて。とにかくどういう類の呪いなのか、見てて大体検討がついたから、早速呪い返ししてみるわ。多分ね、悪いのはこの指輪よ」



 薄暗い室内で黒の魔術師(自称)ウスマは、床に描かれた魔法陣を前に哄笑していた。

「はははは、夜中忍び込んで結婚指輪を呪いの指輪にすり替えてやったことにも気づかず…今頃あいつらはくそまみれだ…オレをこけにしやがるからさ、いい気味だ!」

 彼がそう口にした瞬間、魔方陣の中心から光球が飛び出し左手に当たった。

「おわっ…な、何っ!?」

 自分の薬指に呪いの指輪がはまっていることに驚愕する暇もなくガラスが割れる音がした。
 飛び込んでくる少し柔らかくて黒っぽくて臭い塊。
 響いてくる力強い雄たけびと足音。

 ウホホ! ウホッウホッ! 

 呪いが戻ってきたことを察したウスマは、急いで指輪を外そうとした。
 だが、返された呪いは最初の呪いの倍増しとなるというのが世の習い。
 最早当の本人でも手に負えない。

 ウホホホ! ウホオオオオ!

「うわああああああああ!?」



「ちゅーか、ほっといたらウスマいうのん死ぬんちゃう?」

「かもね、ゴリラアヤカシは10匹くらいいたから。1人で全力攻撃を食らったら、ひとたまりもあるわけがない…きっとうんこの山で窒息死する。でも仕方ないよね。仕掛けてきたのあっちだから」

「いや…それは流石にまずいよルカ。ギルドに依頼を出してあげよう。誰であれ、そんな悲惨な死に方させるのは可哀相じゃないか」

「…あんたの旦那はん、ほんまに優しいんやなあ、ルカ」

「でしょう。私この人のこういうところが好きなのよ」




■参加者一覧
/ 鈴木 透子(ia5664) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / 无(ib1198) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / 雨傘 伝質郎(ib7543) / 雁久良 霧依(ib9706) / 多由羅(ic0271


■リプレイ本文


「奥さまの名前ぇはルツ 旦那様の名前ぇはマディー ごく普通のふたりゃあ ごく普通に恋をし ごく普通の結婚をしやした ところがァただひとつ違ってやしたなァ 奥様は魔女だったんでやす!」

 口上を述べ終えた雨傘 伝質郎(ib7543)は、閉じていた目をゆるりと開く。
 もわんとした悪臭が漂ってきたので、袂で鼻を覆う。
 ここは砂漠の国アル=カマル。焼きレンガの家が立ち並ぶ一角。乾いた砂漠土であるはずの路面は黒茶色な異物で一面隙間ないほど覆われている。

「形といい色といい匂いといい、脅威の再現率でやすな…正直とても瘴気とは思えねえでやす…」

 一個連隊が来て一斉に用を足したとしてもここまでの惨状は呈し得ない。
 アヤカシだ。アヤカシゴリラの仕業だ。この距離からでもはっきりと、10匹からなる群れが尻から出てきたものを1軒の家に向け投げ続けているのが確認できる。
 レンガも見えなくなるほど汚穢に覆われた家はすでに茶色い小山。
 投擲が止まないのでまだまだ大きくなりそうな気配。
 弾切れになる様子も投げるのに飽きる様子も全く見受けられない。

「ウホホ!」

「ウッホッホ!」

「ウホッホ!」

「ゴホッ、ゴホッ!」

 リィムナ・ピサレット(ib5201)は先程からお腹を押さえ、壁を叩き続けている。

「あははは! うんこだうんこだ! ちょー面白いね! ブフッ! うんこって…うんこってあははは!」

 子供というのはたわいない下ネタが大好きだ。
 一方大人たちは笑うどころではない。

「またゴリラちゃん達が出たのね♪ もう、相変わらずお尻が緩いんだからっ♪」

 雁久良 霧依(ib9706)は例外中の例外。

「またアレですか!」

「またか! またこのゴリラどもか!」

「…またですか…! このうんゴリラどうしてくれましょう…!」

 エルディン・バウアー(ib0066)と岩宿 太郎(ib0852)と多由羅(ic0271)は身を震わせ、再びこのアヤカシに巡り合わせてしまった運命の残酷さに耐えていた。

「最悪ヤ…ケモノと聞いてきましたが…これはヒドイ」

 動揺のあまり出だしが関西弁になってしまった无(ib1198)は、懐の尾無狐を見た――全力で正面にある塊から顔を背けている。
 目と目で相棒と意を通じ合わせた彼は、そそくさと『文殊』を取り出す。

「うん、まず結界呪符の陰に行くか」

 防塵マスクをつけた鈴木 透子(ia5664)の面持ちは沈痛だ。

(「瘴気は穢れ」とお師匠様は言ってましたが…)

 流石にこれは穢れがダイレクト過ぎだろう。
 仮にあれが本物のゴリラで投げているのが本物のうんこだったとしても精神に受けるダメージはさほど変わらないかもしれないが、とにかくこのマスクはとれない。とったら、きっと5分で肺が腐る。

「心が折れそうです」

 珍しく弱音を吐く彼女の後ろでは、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が全身に恐れを滲ませ後ずさっているところだった。

「うんこアヤカシだって? 冗談じゃない」

 確かにその通りだと、2名を除く誰しもが思う。
 ちなみに伝質郎はくわばらくわばらと言いながら、帰り支度を始めている所。

「へへへっ、すいやせん。あっしは口上だけ言いに来やしたんで、これでお暇させていただきやす」

 え、ずるい。自分ボクだって敵前逃亡したい。
 切実な思いを胸にフランヴェルが手を挙げる。

「ボクは行かな…」

 棄権宣言をし終わる前にリィムナが、彼女の袖を引っ張った。かつ耳に囁いた。

「フランさぁん…壁役やってくれたら あたしを自由にしていいよ…?」

 強ばっていたフランヴェルの顔が瞬時に蕩けた。鼻の下、伸びっぱなし。

「ボクに任せておきたまえ! ふへへへ!」

「わあ、うれしいフランさん♪ すっごくちょろいね♪」

「そうかい? ふへへへへ!」

 過去にこの手で何度もだまされていると重々承知済みなのだが、本人的にどうしようもなかった。
 筋金入りの幼女大好き人間にとってこの手の言葉を無視するなどと万死に値する。たとえ面白い変態だとしか思われてないにしても。
 伝質郎が、べべんべんと三味線を鳴らした。

「結構毛だらけ猫灰だらけ、野郎(ウスマ)の周りはクソだらけってねぇ」

 こちら側であれこれしている間にも、うんこ山は積もり積もっていく。匂いもきつくなっていく。
 ひとまず周辺住民は地獄よりの使者どもに恐れをなし、一帯から完全避難していた。
 地面と壁とに貼り付いているうんこたちは日光に照らされても乾いていかない。
 惑わされた蝿がぶんぶんたかってきた。
 霧依は深刻そうな声で言う。

「まずいわ…もう虫たちが集まってきている。このままではここは、ほどなく腐海に没してしまう…」

「腐海というより糞海でやす」

 茶々を入れるのは伝質郎。
 透子はマスクをしたままのくぐもり声で意見を述べる。

「ひとまずここからどうするか、作戦を立てましょう」

 太郎は奥歯を噛み締め、拳を手に打ち当てた。

「話を聞くにウスマとかいうアホがあのクソまみれファイトの元凶だな!? ブッ殺す! 速やかにレスキューし死なない程度にブッ殺す!!」

 救助対象とはいえ大変な迷惑をかけているのだ。このくらい言われてもしょうがないだろう。
 エルディンは痛む額を押さえ、ふうと疲れた息を吐く。

「救助対象がアホでも生命の危険に晒されているならば、聖職者として助けなければなりません」

 多由羅は『鬼神大王』を地面に突き立て、胸を張った。

「まずは自業自得とはいえ愚か者の命を救わねば。しかし大丈夫、私は誇り高きサムライ。うんこなんか怖れたりはしません!」

 霧依は指につけたネイルリングを太陽にかざし、婉然と微笑む。

「私は敵数を減らしてくわ。どうせなら思う存分拡張してあげたいんだけど、その時間がなさそうなのが惜しいところね」

 リィムナがペロッと舌を出しウインクする。

「あたしは後ろから援護するよ。大丈夫、うんこは全てフランさんが防いでくれるんだよね?」

「ああ。もちろん。リィムナだけは何としてもうんこから守る!」

 无は可哀想な者を見るようにフランヴェルを見た。
 手を額にかざし、原形を留めなくなっている家屋を確認。

「…ええと、とりあえずウスマは家にいると見たほうがいいんですかね?」

「多分恐らくそうでしょうね。ゴリラはちっとも場から動きませんし…」

 透子の返答に彼は、ふうむと唸る。

「…あの、皆さん。レスキューに関することで、ちょっと思いついたことがあるんですが、試してみていいでしょうか。これなら確保の手間が省けると思うんですよ」

 手間が省けるイコールうんこ被弾率が落ちる。
 というわけで、砲台40門に内心たじろいでいた太郎がすぐさま乗ってきた。

「どんな案だ? 多分この有り様だと、アホは既にクソの山に埋まってると思うんだが」

「ええ、そこは間違いないでしょう。ですので、それを上から取り出すのじゃなくて、下から取り出すんです。早い話、壁で突き上げるということで…これならゴリラの間を掻い潜らなくてすむかと」

 多由羅は場にいるもう一人の陰陽師、透子へ確認を取る。

「そういうこと、可能なんですか?」

 透子は少し考え、自信をもって頷いた。

「やれると思います。あたしも協力しますよ」

 うんこ山から垂直に打ち上げたものはうんこ山に落っこちるだけだということを、彼女は失念しているようであった。
 人知を越えたうんこの量に、判断力が狂ってしまっているらしい。



 皆はうんゴリラの取り巻いている家に近づいた。
 ゴリラたちはわき目もふらず、一心不乱に物質的瘴気を投げ続けている。背後の気配を感じてないこともないのだろうが、あくまでもウスマへの攻撃が優先されるようだ。
 これが呪いの力というものだろうか。自分がやって自分に戻ってくるなら世話はないが恐ろしいものである。
 何故この能力を世のため人のためになるように使わないのか。まあ何をしようと結局ただのストーカーであろうが。

「よし、ゴリラどもは油断している。やっちゃってくれい、无さん! エルディンさんもスタンバイ済みだぜ!」

 防護壁の後ろで无は親指を立て、術を発動させた。

「せいっ!」

 壁が出現し、家の屋根がドゴンと抜けた。
 天高く打ち上がる塊。
 皆は遅れて気づいた。ウスマを打ち上げれば彼の上に堆積していたうんこをも、打ち上げてしまうのだと。
 物質は一定位置まで上昇したと同時に停止、反転。自由落下してくる。

「危ない子猫ちゃん!」

 フランヴェルはリィムナを懐に抱き込み『インターセプター』をかざし、落ちてくる飛沫から庇った。

「太郎殿、守ってくださいっ!」

「えええっ、何で俺ェ」

 エルディンは太郎とアイアンウォールを盾に被害を免れた。

「ウアアアアアア!」

 多由羅は絶叫。目にも留まらぬ早さで刃をふるい、自分の上に落下してくる分をあまさず空中分解させる。
 そのとばっちりをまともに受けたのが伝質郎。

「こ、こいつはウンがつき過ぎでやすーっ!」

 ところで付属物はともかくとして本体のウスマだが、空中に跳ね上がった途端ゴリラの集中砲火を受けていた。さながらクレー射撃のように。
 放物線から軌道がそれた体は、透子の上に。
 血相を変えた透子が壁を最速で立ち上げる。

「こっち来ないでくださいっ!」

 ウスマは再び空中に放り出されうんこ山に落ちた。
 その上に積もるうんこうんこうんこ。

「くっ…やはりやつらの砲門をどうにかしねえと応急処置出来ねえのか」

 太郎は覚悟を決め『連昴』と短銃とを構えた。ゴリラの尻目がけ撃ちまくった。

「ヘイ、クソゴリラ! ヘロヘロ球しか出せねえんならとっととベンチに帰れ、この万年二軍!」

 どうやらゴリラたちは自分のピッチングに多大なプライドをかけているようだ。この囃しで一斉に振り向いた。

「あべし!」

 ヘロヘロどころではない豪速球が当たってきた衝撃と臭さで呼吸困難に陥りかける太郎。
 その隙をついて、霧依がゴリラに襲いかかった。

「さあっ、たっぷり調教してあげるわゴリラちゃん!」

 鋭い爪のついた指が爆弾の供給源である逞しい毛むくじゃらの穴に突きこまれそこを足掛かりに結腸までも至らんとせし進撃――

「ゴオッホ! オホゥゥゥゥ!?」

「ふふふ…悪い子ちゃんね。こんなに飲み込んじゃうなんてっ」

 ――これ以上書くと危険なことになりそうなので止めておく。
 彼女はとても生き生きしていた。うんこまみれとなっても、なお。
 エルディンは堆積物の山に接近、スコップでかき分け、ストーカーを掘り起こす。
 手で触れたくないのでスコップでつつき安否確認を取る。

「もしもし、もしもし、生きてますか? というかどこが顔です?」

 邪粘状態の男は生きていた。
 理由は定かでないが、腹を立てているように見受けられる。

「お前ら…後で開拓者ギルドに訴えてやるからな!」

 近づいてきた多由羅が説教を始めた。

「全く、見苦しい。嫉妬の為にアヤカシの手を借りるなど…! そりゃアヤカシは男性を弄んだりはしないかもしれませんが物凄い勢いでうんこを投げつけてくるではありませんか!! 大丈夫です、ウスマ。何があっても私はあなたの味方です…!」

 言い切った直後、ヒュンと風切る音に素早く身をかわす。

「わっ! うんこ! やだ汚れちゃう!」

 うんこは彼女の後ろ側にいたウスマに当たって砕けた。

「ぶふおっ!」

 多由羅はここに一つの可能性を見いだす。

「…ウスマを狙っている限りは私達から注意が逸れますね」

 エルディンは聖職者スマイルを浮かべた。その顔のままウスマの口に長めの竹パイプを突っ込んだ。

「…ゴリラを引き付けるためそのままでお願いします。これで○ンコに埋まっても大丈夫!」

「もががががぶほっ! お前ら正気か! 救助に来たんじゃねえのか!」

 竹パイプを口から外し噛み付くウスマに、多由羅が吼える。

「こうする以外に方法があるのだったら教えてください…他にどうしたら状況を打開できるのかを! 人間性を保ったまま! 刀を汚さずに! うんゴリラの圧倒的な力に勝つためにはどうすればいいのか!」

「そんなの俺が知るわけねげへえ!」

 集中攻撃が浴びせられる。ストーカー男に。

「ウホッホ!」

「ウホッホ!」

「ウホッホ!」

 2人は電光石火場から退避する。
 今、勝利のために修羅と人間が人間性を捨て去った。



 別の場所では別の意味で人間性が捨てられようとしていた。



「うおおおおお! リィムナだけは、リィムナだけはなんとしてもうんこから守る!」

 フランヴェルが叫んでいるだけなら、ゴリラもさほど注視はしない。指輪にかかっている呪いの方が圧倒的に強いので。
 だが『秋水清光』でもって斬りかかってくるとなると話は別だ。

「ゴホ!」

「ウホ!」

 ゴリラの1匹が片足を持ち上げ大きく振りかぶり、投球した。
 球は構えるフランヴェルの眼前でふっと消える。
 ――いや、消えたのではなかった。途中で急降下したのだ。
 速度を殺さないまま地面に激突し弾ける黄金球。飛び散る飛沫。

(消える魔球やと!?)

 驚きのあまりまたしても関西弁を使った无。
「おええええ!」と吐きそうになっているフランヴェルの姿に笑い転げるリィムナを見、思わず呟く。

「鬼だ…」

 それから視線を、泥人形状態となって停止している太郎に移す。

(ウスマよりむしろ彼に竹パイプが入り用だったんじゃないですかね)

「それ行け、魂喰み」

 口の大きなおたまじゃくしといった式が次々飛び出し、ゴリラから出たものに食いついた。
 いくら本物に見えようともそこは瘴気、式に食われたことで消えうせる。
 汚れていなさそうな箇所を掴んで太郎を壁後ろに引っ張り寄せ、水をかけてやる。
 太郎が再び動き出した。

「助かったぜ无さん! もう俺がうんこなのかうんこが俺なのか分からなくなるところだった!」

 かなり追い詰められていたもようだ。
 やはり前衛にばかり負担をかけさせる訳にはいかない。
 そんな思いを抱く透子は、騒ぎのとばっちりで飛んでくるフェイクうんこにめげず、自身も式の発動にかかろうとし――凍りついた。
 リィムナが急にしゃがみこんでう〜〜んと力み袴の紐を緩めたかと思いきや、足元にぼとっと大きな塊を落としたのだ。
 それは明らかにうんこと呼びならわしていい代物だった。
 フランヴェルは血相を変える。

「ななな何をやってるんだ!」

 その顔は明らかに興奮していた。
 霧依は叫ぶ。弄んだゴリラを内部から氷結爆破させながら。

「リィムナちゃん! 露出脱糞なんて上級者すぎるわよっ!」

 その声はすごく滾っていた。
 リィムナはどこから持ってきたのか皮手袋をはめ落ちたものを掴み、ウスマの顔面に投擲し始める。

「それー! わーい、当たったー! あははははは!」

 負けじというのかゴリラたちも、一層熱を込めてウンコファイトをし始めた。
 尻をウスマに向け、直接放射するものまで出てくる始末。
 事態はまさに混沌。
 あまりの超展開に茫然自失する3名除いた全員。
 太郎をガードにすることさえ失念してしまったエルディンは、顔面に流れ弾を食らう。

「ぶっっっ!!」

 がくっと膝を折った彼はすぐさま立ち直った。よく考えたら地面もうんこでいっぱいで、顔を近づけたら臭いことこの上なかったので。

「おお神よ、最近の貴方が与える試練は酷すぎやしませんか」

 嘆きに応えようというのだろうか、砂交じりの強風が吹き、悪臭を風下に拡散していった。
 遠いところで人々の悲鳴が聞こえる。近いところで蝿の羽音が聞こえる。
 我に返った透子は悪夢から早く脱しようと、攻撃態勢に移る。

「兎に角、ゴリラアヤカシを倒すしかないと思うのです!」

 白銀の龍が吐く氷の吐息が、ゴリラの尻を直撃する。

「ウホ!?」

 冷えたせいだろうか、急に弾の出が悪くなった。
 多由羅が咆哮を上げ、その1匹を潰しにかかる。

「私が駆除してやりますよ、この害虫!」

 袈裟がけに斬られ崩れ落ち消えうせるゴリラと糞。
 エルディンも駆除にかかる。

「二度と私の目の前に現われないで下さい!」

 灰色の球体に飲み込まれたゴリラが、跡形もなく塵となった。付随して出した二次瘴気も消え、空気が少しだけよくなる。

「よおし、ここからが人類の反撃だよ!」

 投げるべきものをすべて投げつくしたリィムナが発動した術により、ゴリラが血へどを吐いた。
 地面をのたうち、苦し紛れ落ちているうんこを掴み投げ付ける。
 が、時間と空間をねじ曲げ姿を消した彼女には当たらない。
 色々疲れてきた透子は无の作った壁の後ろにお邪魔し、そこから援護をするとした。
 短銃と魔槍砲で突貫を繰り返していた太郎が、ふと大事なことに気づく。

「おい、ウスマはどこだ?」

 聞かれたフランヴェはあたりを見回す。

「…そういえば見当たらないですね」

 どうもまた潜ってしまったらしい。
 ウン攻撃に対処している最中、掘り出すまで手が回らない。ということで陰陽師に頼む。

「おーい、すまん、適当なとこ壁出して打ち上げてやってくれ! 天幕でキャッチすっから!」

「了解ですー」

 ドンと壁が地面から突き出し、ウスマが吹っ飛ばされる。
 ゴリラから集中砲火を浴びまくる。

「こっち来ないで!」

 透子から再度飛ばされ頭からうんこ山に突っ込む。

「馬鹿、ちゃんと布広げたところに落ちてこいよクソひげ危機一髪!」

 また飛ばされる。

「あっすいません眼鏡がずれまして」

 砲火を浴びまくる。

「だから向こうに落ちてくださいってば!」

「アホ、そっちじゃねえこっちに落ちるんだよ! ドン臭い奴だな!」

 何度も繰り返した後、太郎はようやく彼を捕まえた。



「おー、きれいになったんやね。みんな、ご苦労さん」

 アヤカシが片付いてたと聞いて確認にやってきたファティマは、街灯に逆さ吊りされているウスマを親指で指す。

「で、あれは?」

 尋ねられた无は肩をすくめた。

「処遇を依頼人に決めて貰おうと思いまして。どうもまだ懲りてないようなので」

「おい貴様ら、こんなことしてただで済むと思ってやがるのか! 降ろせ、降ろせー!」

「まあ、明らかにそのようやね」

 フランヴェルがウスマに近づいて行く。
 その顔にこびりついているものの匂いをくんくん嗅ぎ、ついでリィムナの尻に顔を突っ込み、蕩けた表情を浮かべる。

「うん、リィムナのうんこではない!」

 そこに霧依が来て、リィムナをうつ伏せに押さえ付け、ずぶりと浣腸。

「リィムナちゃん、人前でうんちしちゃいけません! お尻に教えてあげます!」

「あぎゃー! 違うの! それはぁっひぎいいい! あれ牛さんのなの、袋に入れたのプレスティディヒターノでお尻に隠してたのほごぉおお!」

「あら違ったのね。まあそんな気はしてたけど。でも…変態はお仕置きよ♪」

 言うが早いか今度はフランヴェルに、思い切り電撃を食らわせる。

「ぎゃああ!」

 一撃で沈むフランヴェル。

「じゃリィムナちゃん、お詫びにカレーでも奢るわ♪」

「うう、痛かったぁ…うん♪」

 仲良く連れ立って行く少女と女。
 髪を風になぶらせ見送るファティマ。

「カオスや…ていうか透子ちゃん大丈夫かいな。えらい顔色悪いで」

「あ、大丈夫です…ただちょっと疲れてしまっただけで…」

 ファティマさんに会ったら何かを言うつもりだった気がするけど一向に思い出せないし正直どうでもよくなってきた。
 今日一日の記憶を消せたらいいのに。
 ああ、直射日光が眩しい。

「飴ちゃん食うか?」

「あ、ありがとうございます…そういえば結婚式場の方、匂いは大丈夫ですか…?」

「あー、心配あらへんがな。あれ全部瘴気やさかいな。ゴリラが消えたらきれいさっぱり消えたで」

 ならよかった。
 そう思うように努力しているところ、依頼人のルツがマディーとともにやってきた。
 ちゃっかり伝質郎も同行している。

「皆さんご苦労様。はい、これ謝礼金…あら、生きてたのねウスマ。てっきり大自然の一部になってるかと思ったのに」

「ルツ、うんこだらけになってる人にそこまで言ったら気の毒だよ」

「仏のような旦那さんでやすなあ。あっしゃ頭が下がりますでやす」

 太郎もその意見には賛成だ。

「ああ、もはや聖人だな。ていうか奥さん、これからこの人どうされますんで?」

「そうね、ちっとも性根が変わってないみたいだから、西に住んでる大魔女の伯母さんに引き渡そうかと思うわ。馬車馬のように働かせられる使用人欲しがってたし」

「このくそ女ふざけんなー!」

 吠えるウスマであったが、もうこうなったら手も足も出せない。
 せいぜい死なない程度にこき使われるといい。
 多由羅は同情の一欠けらもなく思い、遠い目を空に向ける。

「長い戦いでした…」

 ぼろぼろになった呪いの指輪を踏み壊し、エルディンも空を見上げる。

「ええ、長く苦しい戦いでした…」