ウホホな脅威
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/11/25 21:22



■オープニング本文



 はあい、皆さんお元気かしら。私は砲術士のジェーン。通り名はカラミティ・ジェーンよ。その理由は…おっとそれはどうでもいいわね。何しろ今日はお休みだから。
 依頼なんか受ける気はないし、当然武器なんか持ってきていないわ。
 そんな時にアヤカシに遭遇するなんて、全く一寸先は闇ね。
 どんなアヤカシかって?
 そうね、一言で言うとゴリラよ。
 本物のゴリラでない証拠に腕が四本あるわ。
 ウホウホ言いながら追いかけてくるのよ。
 そしてひっきりなし手当たり次第投げてくる…糞を。
 ええ、もちろんアヤカシから出たものだから本物じゃないのは分かっているわ。瘴気の固まりよ。奴を倒せば消えるに違いない。
 だけどね、形といい柔らかさといい本物そっくりでしかも臭いまでついているものにかかっていくのは、尋常じゃない勇気がいるの! 
 私は…私はやっぱり遠距離攻撃したいわけよ!
 被害は甚大よ、奴らが暴れ回った区域では、家の壁だの窓だの洗濯物だの汚染されまくっているわ。
 …そんなわけでごめんなさい、あれはあなたたちに任せる。
 私が武器を家まで取りに行っている間、どうか持ちこたえて! 
 なんなら退治完了してくれててもいいわ! 
 その際は焼き肉おごるから!
 それじゃあ、本当の本当に、急いで戻ってくるから!(ダッシュしてたちまち姿が見えなくなる)



 ウホ、ウホホ!(ゴリラ2頭が現れ雄叫び、尻に手を当てそこから取り出した瘴気の固まりを投げてくる)












■参加者一覧
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
猿養 吉兆(ib3995
18歳・男・シ
来須(ib8912
14歳・男・弓
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
山茶花 久兵衛(ib9946
82歳・男・陰
多由羅(ic0271
20歳・女・サ
山中うずら(ic0385
15歳・女・志


■リプレイ本文


 聞こえているかどうか定かでないが、来須(ib8912)は遠ざかって行くジェーンの背に言っておいた。

「あんたはもう休日出勤とかしなくていいから、後で飯と金だけ寄越せよ!」

 山中うずら(ic0385)はウホウホカーニバルに『燕』の切っ先を向ける。

「あれゴリラ? ゴリラ? アヤカシだよね、斬っていい? 斬っていいよな?」

 山茶花 久兵衛(ib9946)は注意深く一番後ろに陣取って、重々しく呟いた。

「世も末だな……」

 ゴリラアヤカシが通った後にはただうんこあるのみ。
 地獄絵図を前にしエルディン・バウアー(ib0066)の聖職者スマイルにも、少し陰りが生まれた。
 岩宿 太郎(ib0852)は地上の穢れからはるか遠い空を眺めた。鳥になれたら、とそんなことを思う。

「アヤカシがどこに行こうとしてるのかおれわかんない」

「ああ、俺もなぜわざわざ臀部から取り出すのか瘴気に臭いがついているのかさっぱり理解できん。こんなアヤカシを生み出した運命の巡り合わせを恨みたくなるな…俺は腰が悪くて走ることができない…結界呪符「白」の後ろから、おぬしたちの支援をしよう…」

「さっき思い切り走ってきてなかったか」

 猿養 吉兆(ib3995)の突っ込みにも、海千山千の老爺はうろたえない。

「ああ…それがきっと響いたんだ…敵を前にして無念」

 言いながらいそいそと、現出させた白壁の背後に入る。
 何事か悟った吉兆は彼への追求を止め、啖呵を切った。

「ウン…汚物を投げるツインゴリラは確かに脅威だ。だが猿を養うと書いて「猿養」の名は伊達じゃーない所を見せてやるぜ! ウン…汚物ゴリラなんて右手で一匹、左手で一匹、片付けてやるぜ!」

 メンバーの中で雁久良 霧依(ib9706)だけが敵を恐れていない。

「ウンチを投げてくるなんて…その手のプレイも嫌いじゃないんだけどね」。

 遅れて多由羅(ic0271)が馳せ参じてきた。

「不埒なアヤカシが発生したのはこ…くっさ」

 台詞の途中で息を詰めた彼女に、霧依が顔を向ける。

「あら、ちょうど良かったわね、プレイ開始に間に合って。実は今ジェーンさんもいて――」

 状況説明を受け、多由羅は青ざめた。

「『武器を取って戻ってくる』? ジェーン様がそう言っていたのですか…!?」

 ジェーンの人となりと危険性を知るがゆえ、目をくわと見開き、皆に呼びかける。

「皆様! 緊急事態です! このゴリラ共、決して時間をかけてはなりません!! 予定を違えれば…我々は血と糞便の海に沈む事となるでしょう…!」

 すらりと『鬼神大王』を抜く。前衛に出る覚悟のようだ。
 壁の後ろからみじんも動かない久兵衛が言う。

「接近戦は危険だぞ」

「何? 危険? 笑止。糞便が怖くてサムライが務まりましょうか!」

 その心意気に賛同し、太郎も覚悟を決めた。

「えぇい、そびえ立つクソになる前に突撃じゃー! 多少の被弾はもうしょうがねぇ! 数投げられる前にぶったおーす!」

 うずらもたかだか鬨の声を上げる。

「ただ前へ、前ええええええっ!! 切込み隊とは私の事だ!」

 エルディンはそんな彼らにホーリーサークルを付与した。

「私は近づきたくないので皆さん頑張ってくださいね!」

 聖職者はウソがつけない。
 その時うずらの顔面に大きなうんこの塊が飛来してきた。
 己に対する危機を光の速度で感知した彼女は、目にも留まらぬ早業を繰り出す。
 幸いにもそこそこ堅めのうんこは、きれいに真っ二つとなる。

「またつまらぬものを斬ってしまった…」

 しかして右隣にいた多由羅、及び左隣にいた太郎に向けて飛んで行く。
 前者は避けた。そして後ろにいた霧依の顔面にクリーンヒットさせた。

「…どうせなら小さな子が相手の方がぶべぇ!?…んほおお! 臭いわ! しかも目が覆われちゃって何も見えない! 塗糞の上に目隠しなんて…新しすぎておかしくなりそう!」

 被弾対策にゴーグルのみならず、スカーフで口元も塞ぐ来須は、息を乱す女サムライに言う。

「避けてどうすんだよ。あいつ、明らかにやべえスイッチ入っちまったぞ」

「だって私、花も恥じらう乙女ですよ? うんこくらうとか洒落になりませんって!」

 一方後者は素直に自分で食らっていた。
 生暖かさと粘り気と臭気で士気が一気に減退するが、なんとか己を奮い立たせる。

「ふっ。悪臭を吹き飛ばすこの俺の白梅香で汚物はしょうど――」

 言い終わらないうち斜め後方から第2弾。

「何で二方面から汚物が来んの!?」

 振り向けばエルディンが残存物のついた『ウンシュルト』を手に嘆いている。

「おお、神よ、聖なる杖を穢すことを許したまえ」

「あんたかよ! 何してんだよちょっとお!」

 ウホホたちは2本の手で尻からうんこを補充し、後の2本で投球。
 切れ目のない動き。雨あられと飛び交ううんこうんこうんこ。

「聖職者たる私がアレまみれになったら、女性信者の方々が大変嘆くかと!」

「弾丸ライナーが全部俺に来るのどういうことなの!?」

「…一身にXXXを浴びるその姿、私は永遠に忘れません」

「死ぬの!? 俺うんこで死んじゃうの!?」

 だがエルディンだってうんこ飛ばしばかりではない。ゴリラの動きを牽制するため、アイヴィーバンドも発動する。
 ゴリラは絡みついてきたつる草を、力任せに引きちぎり始める。
 来須は狙撃者として冷静に観察する。うんこの的にならないよう、姿勢を低くして。

「攻撃がクソ投げだけとは限らないか…見た目からしてパワーもある。もしかしたら素早いかも、な」

 その観測を裏付けることが直後に起こった。
 傘を広げて防御しつつ火遁の術を発動し、飛んできたうんこを火のうんことしている吉兆が、相手の動きが鈍ったのを見計らい、背後に回り込んで行ったのだ。

「クソッ、火つけてもすぐに消滅しねえとはな! なんて粘り気のあるウン…汚物だ! だが俺はすでに対策を考えていた! くらえええ!」

 『雷同烈虎』で投擲武器を垂れ流す穴を封じる――名付けて臭いものに蓋作戦。
 残念ながらその試み、先に相手に気づかれてしまった。
 ゴリラの肛門が咆哮した。
 大量の物質化した瘴気が勢いをつけて吹き出す。
 吉兆はそれに埋もれた。

「うそだあああああ! 吉兆さああああんんん!」

 悲痛な太郎の叫び声。
 うずらは怒りにわなないた。

「…なぜだ、なぜうんこをする…消化器官など持たないお前達が何故だ…この無意味で無価値な糞袋め! この世から消え失せろ!」

 余計な小芝居をしていたからか、地面にぶつかって弾けたうんこの飛沫から逃げ遅れた。顔にちょびっとブツが撥ねてくる。

「いぎゃあああああ! もう許さん、手打ちにしてくれるわ!」

 来須は援護射撃を行い、ウホウホたちの意識をそらす。

「起きろ吉兆! ミッションはまだ終わってねえぞ! クソから這い上がれ!」

 白から茶色になった壁の後ろより、呟き。

「自己犠牲の精神は、美しいものだ、たとえ糞まみれでもな」

 多由羅は真空刃で飛び込んでくるうんこを手前で空中分解させ、周囲に撒き散らしている。

「あ、いや、やっぱり駄目。もう生理的に無理ぃ!」

 直に刃は使わない。愛刀にうんことかいやだから。

「おぬし先程から全然ゴリラに近づいてないぞ」

「文句があるんだったら自分勝手な事ばかり言ってないで盾になってくださいよ! 老い先短いじゃないですか久兵衛様は!」

「俺は支援役だと言うに! 糞便恐れるに足らずと自分で言っていただろう! その矜持はどうした!」

「サムライの矜持? うんこにまみれるのがサムライの仕事ですか!!」

「…本音が出たな」

 久兵衛は『黒死符』を取り出す。

「行け!」

 ゴリラの目をつつきに鴉の式が、噛み付きに虫の式が殺到し――無慈悲なうんこアタックをかけられた。
 しかし彼らはけなげに任務を果たす。威力はかなり落ちたようだが。
 ゴリラのコントロールが鈍ってくる。神レベルの投球から、普通にうまい投球へと。
 霧依はここに来て、ようやく本気を出そうとしていた。
 『砂漠の薔薇』を地に投げ捨て、『真紅』を右の人差し指にはめる。

「イケナイゴリ君達ね…締まりのない穴にたっぷり折檻してあげるわ!」

 次の瞬間彼女の左人差し指が、同じ後衛にいるエルディンの尻にホールインワン。
 神父は『ウンシュルト』を取り落とし、悶絶する。

「ぅぉぅ…、聖職者のそのような場所をっ、はぅあっ、いけません、いけませんよぉぉぉ」

 グリグリ内診してから霧依は、やっと指を抜く。

「あらごめんなさいよく見えなくて。わざとじゃないの! ごめんなさいね♪…よければ完全に目覚めさせてあげるわよ?」

 痛みが快感に変わったりしたらレッドカードだが、エルディンは辛うじてその域までは踏み込まず耐え切った。
 信仰の力だ。
 だがそちらに意識を集中し過ぎてうんこへの注意が遅れた。変化球が顔に。
 これも神が与える試練と思いたいところだがそうするにはあまりにも臭い。
 地面にくずおれる彼をよそに、続けてうずらを襲う霧依。

「ああああああ!! 入ってる入ってる!! 抜いて!! 抜いて!!!」

「ごめんなさいね本当、見えなくて…まっさらね。仕込み甲斐がありそうだわ」

 そんな手間を食っていたせいで、うずらのよこっ面にうんこが命中。
 絶叫するうずら。阿鼻叫喚の図。
 興奮を胸に霧依は、吉兆に向かった。

「うぎゃあああ! 何してんですかああああ!」

「あ、これも違ったの。ごめんなさいね…慣れればいいものよ、これも」

 更に太郎。

「うおぉぉ雁久良さんにバック取られてる!? なんで!? 味方なんで!?」

「またまた違ったわ…そうね、ゴリラはこんなにキツキツじゃないはずだものね。ああもゆるゆるだと肘までぶち込めそうでお姉さん楽しみ」

「俺にはごめんもなし!? チクショー! なんだかゴリラどもがやけに遠く感じるぅぅぅぅ!!」

(……なんだこれ)

 来須は側溝に身を潜め狂乱のとばっちりを避けたが、多由羅がかっとばしたうんこの欠片が頭にかかった。

「……ま、別にいい。クソまみれが怖くて仕事ができるかよ」

 そんな言葉を吐いたところ、目の前に特大のが着弾。
 ウホホたちはうんこが堅くては打たれたり切られたりすることを理解したのか、段々半生状態のを出してくるようになってきた。
 自分たちはアヤカシと戦っているのかうんこと戦っているのか――心が迷子になりそうだ。
 そこに多由羅の悲鳴。

「ひいやああああああ!」

「くっ…とうとう多由羅さんまでも」

 尻の痛みに耐えながら太郎は、囮作戦を決行する。
 何かを得るには何かを失わなくてはならない。この場合得るのは仲間の勝利で失われるのが彼だ。

「ヘイ、クソゴリラども! そんなヘナチョコな肩で何発当ててもビクともしねーぜ! 悔しかったらもっと狙って来」

 言い終わらないうちにびしばしうんこが飛んでくる。

「ごめんなさいゆるしてくださいくさいです。俺はもうダメだぁぁぁぁぁ…」

 茶色と黄土色の入り交じった人型のオブジェが膝をつく。
 そんな危機的状況の中、復活したばかりの吉兆が男を見せた。
 オブジェの前に立ちはだかり囮を引き継いだのだ。

「さあっ、やれるもんならやってみ」

 間を置かずしてオブジェが2つに増えた。
 このままうんこの勝利に終わるのか――否。彼らが命懸けで作った隙を放置する仲間たちではない。
 来須は矢をゴリラたちの眉間目がけて放つ。

「ゴワッ」

「ヴホッ」

 うずらと多由羅が前面から飛び込む。
 多大な犠牲を覚悟して。

「くたばれうんこめ!」

「どうでもいいからさっさと消えてえ!」

 彼女らの刃が左右のゴリラに食い込んだところで、霧衣が、『深紅』をつけた人差し指を、先ほど吉兆が敗退した弱点にめり込ませる。きっちり肘まで。

「ゴリ君…イかせてあげるわ!」

「ウゴホオオオ!?」

 内部の圧力に押されながら彼女は、アイシスを発射した。
 輩出した大量のうんことともに消滅するゴリラ。
 もう1匹のゴリラはといえば。

「滅するがいい、邪悪なるものたちよ!」

 エルディンが作り出した灰色の光球に飲まれ、一瞬にして塵と化し、これまた消滅した。その身から吐き出したうんこと一緒に。
 うずらは苦い勝利を噛み締める。

「ハアッ!! やっと…倒した…尊い犠牲が何人も…」

 周囲に広がっていた汚染はきれいさっぱり拭い去られた。
 だが感触、匂い、記憶をすぐさま消すことは不可能。
 オブジェから人間に戻った太郎は、発作的に川に向かって駆け出し飛び込んだ。

「うおおおおおおおお! 可及的速やかにざぶっと洗浄してぇ−! ひいいい寒いいいい!」

 来須は袖の匂いを嗅ぐ。

(もう匂ってねえはずだよな…)

 やっとジェーンが戻ってきた。熊も一発で殺せそうなごっつい銃を持って。

「みんな、遅れてごめ――」

 近づいてきた彼女は突然きびすを返し走りだし、つる草に足を取られてこけた。

「何処へ行くつもりですか?」

「え、いやあの神父さん顔が悪魔になってるから怖くてというか遅れたのわざとじゃないのよ? 騒ぎが収まるまで待ってたって事全然ないから?」

 うずらが指をわきわきさせながら近づいてくる。

「ほほう…もっと詳しく聞きたいなあその話…こちとらまだうんこくさく思えてしょうがないんだよね…さあ、やろうか。足裏マッサージ」



 もうもうと脂っぽい煙が立ちのぼる焼き肉屋。

「悪臭の記憶は最上級の肉の香りで打ち消すしかないのだ、わかってほしい! 白梅香ももはやガス欠なのだ! 天儀牛の特上ロース3人前追加−!」

「私はカルビを追加で。ああ、後豚トロお願いします」

「俺、海鮮セット追加。後メシ大盛りで」

「塩タン5人前!」

 太郎、エルディン、来須、吉兆、男衆が食いまくる。

「ジルベリア地鶏のにんにくだれ漬け腿を。特上の奴」

「私は馬肉がいいわ。桜ナベもおつなものよ。あ、お酒もお願いね。そうね、今はアル=カマルアラックが飲みたい気分だからそれで」

「スペアリブお願いします」

 うずら、霧依、多由羅といった女衆も食いまくる。

「あれだけ糞まみれになった後に、よくもまあ食欲があるもんだ」

 久兵衛の前では肉がいい感じにじゅうじゅう焼けている。

「たくましい精神力、それこそが開拓者に必要な条件なのかもしれんな」

 焼けた肉に特性だれをつけむさぼる老爺は、テーブルの隅で真っ白になっているジェーンに目を向けた。
 さっき彼女が霧依から、こっちのお肉もいただくわとか言われて別の座敷に連れ込まれていたことを思い出し、少し気の毒になった。

「お嬢ちゃん、ジェーンと言ったか。焼肉のお礼にお菓子をやろう。うまいぞ」

「あ、ありが」

 ジェーンの台詞が立ち消えた。
 翁の手にあるのは、うんこに似た形と大きさと色合いのかりんとう。
 悪意は無い。優しさだ。

「おーい姉さんや、ここに出ている清酒をおくれ。それと極上ハラミ三人前追加でな」

 高いものばかり注文するが悪意は無い。金銭感覚が無いだけだ。


 たぶん。