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■オープニング本文 ここはジェレゾの『バルト工房(武具・アーマー・整備・製作)』 。 職人が鋼を曲げたり打ったりしている中に混じり、15センチくらいの土偶が動いている。 四角いボディにやっとこ型の手、足は無限軌道。 彼の名はガー介。移動式貯金箱としてこの世に生まれたのだが、その存在理由が自身でちょっと納得いかず、紆余曲折を経てこの工房に就職した土偶である。 「おいガー介、それが終わったらこっちの頼む。お客さん急いでおられるでな」 「ガガギギギゲ。ゴ」 親方たちの話によると、最近大手の工房から多数の職人が、スィーラ城に招かれているとのこと。 「アスワッド」とかいう神代の遺物を応用した新型武器の開発をやっているのだそうだ。 気宇壮大なプロジェクトらしい。 自分も参加してみたいなあと土偶ながら夢を見る彼であるが、残念ながら所属している中小工房には、お呼びがかかりそうもない。 「ガギ」 まあ、気を取り直して仕事。 というわけで、きこきこ作業台の端まで移動する。 そこには彼くらいの大きさをした人形が一ダース。 太鼓や銃剣、サーベルを携えた兵隊さんのお人形一式だ。あちこち塗装が剥げたり部品が欠けたりしている。 さる好事家が骨董店で手に入れたものを、万全の状態で飾りたいからと、ここに寄越してきたのだ。 工房の扱う対象からやや外れている気もするが…これも立派な整備依頼。 「ギーガ」 ひとまず錆とり。 専用ヤスリを手に取ろうと背を向けた彼は、ふと妙な気配を感じた。 「ガギ?」 振り向くとおもちゃの兵隊たちが、目を赤く光らせている。 鼓笛手がラッパを高らかにならし、隊長がさっとサーベルを抜く。残りの兵隊が膝をつき、一斉に銃を構える。 次の瞬間小さな銃声が響きわたった。 「ガガギギギ!?」 体でそれをすべて跳ね返したガー介。 「いでででで! おいなんだおい!?」 職人たちはそういうわけにいかなかった。爪の垢ほどの弾は皮膚にめり込んでしまう。蜂に刺されたほどには痛い。 兵隊たちは勝手に作業台から降り、隊列を組んだ逃走を始める。 「おい、戸口を閉めろ! とりあえず外に出すな!」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
七塚 はふり(ic0500)
12歳・女・泰 |
■リプレイ本文 相棒戦馬プラティンから降りたクロウ・カルガギラ(ib6817)は、足元にいるガー介に手を振った。 「久しぶりだな、ガー介。工房にはうまく馴染めてるみたいだな。良かったぜ。今回は何やら妙なことに巻き込まれたみたいだな」 久々の再会にガー介は喜んで、目をちかちか点滅させている。 同じ土偶としてなんだか気になる†Za≠ZiE†ことザジは、興味深げにその姿を眺めていた。 羅喉丸(ia0347)の相棒人妖蓮華も好奇心を刺激され、これまたガー介にちょっかいをかけている。 「ふむ、この頭から出た針金は何の意味があるんじゃろか」 七塚 はふり(ic0500)の相棒、からくりマルフタも参加する。 「ややっ、こちらが噂のガー介殿でありますか。お噂はかねがね聞いているであります。月刊土偶時報にて知りましたぞ。ジルベリア1小さな土偶に認定されたそうでありますな。是非握手をであります、どうぞ」 照れているのかガー介は、やっとこの手で四角い頭を掻いた。 ザジの主人のKyrie(ib5916)は羅喉丸と共に、職人たちから聞き取りをしている。 「おもちゃの兵隊か。言葉だけ聞けばかわいいものだが、実際はちがうんだろうな。ところで炉に火は入っているのかい?」 「一応出るとき蓋は閉めてきたんだが…もしかするとまだ消えてないかもしれん。なにしろ急なことだったんでな」 「壊れたらやばいもんはあるかい?」 「最初見た程度の火力ならさほどでもないと思うんだが、修理預かり品があるからなあ。それには傷をつけさせないでくれれば…」 「なるほど、するとそちらには行かせない方がいいですね…一応火器を持っていますし。小さな兵隊達の武装解除を行うとしましょう…見取り図などはございますか? 簡単なものでかまいませんので…」 そこに喪越(ia1670)がやってくる。ガー介を見るなり彼は、ひゅうと口笛を吹いた。 「Oh、久し振りに姿を見たと思ったら、愉快な事になってるじゃねぇか」 相棒羽妖精癒羅が主の髪を引っ張り、おちゃらけた態度への苦言を呈する。 「全然愉快じゃない! どーすんのよ、この状況。ガー介も再就職できたのに、このままだと仕事場を失っちゃうじゃない」 「ダイヤモンド☆愉快」 「妙なところに食いついてないで、ど・う・す・る・のぉぉぉぉっ!」 「ギブギブ! 脚四の字固めはやめて!?」 羽妖精と人間の体格差でどうやって四の字固めするのかは謎だが、羽妖精は妖精だから人知を越えた不思議な魔法が使えるのだろう。 「ギブ! ちょっとそこの人タオル、タオル!」 喪越の訴えを完全に無視する何 静花(ib9584)は、深刻そうな顔をして呟いた。 「軍の乗っ取りとは……」 相棒からくりである雷花は突っ込みを入れる。 「そのいい様じゃクーデターですよ、静花」 はふりが右手をぴっと上げ、敬礼をした。 「いや、それである意味間違っていないのであります。おもちゃと言えど兵隊、練度が高い可能性があります」 マルフタは主の荷物から戦布や毛布を引っ張り出しながら、嘆かわしそうに首を振った。 「オモチャの兵隊と相棒からくり。同じ機械仕立てでどうして差がついたのか…慢心、環境の違い。どうぞ」 「まるっきり関係ないでありますよ」 「存じておりますおひいさま。男には言わねばならぬ時があるので御座います。どうぞ」 「マルフタは女型であります」 「固いこたぁ言わねえでくださいまし。どうぞ」 (そうだったのか…知らなかった…) からくりの性別は分かりにくいものだ。 思いながらエルレーン(ib7455)は、おもちゃが暴れるという一見メルヘンな事態について思いを馳せた。 閉じられた工房の窓には板が立て掛けられている。万一ガラスが破られた際の用心らしい。 中から散発的に銃声が聞こえてくる。かんしゃく玉よりもっと小さい程度の。 「なんだかほのぼのな気もするけど…でも、アヤカシだよね」 相棒もふらのもふもふは、寝そべりお腹を掻きながら言う。 「数が多くても小さいんだから楽勝もふー。もふもふは暖かく見守るもふー」 こいつは絶対働かせよう。 ひそかにそれだけは決めたが、任務遂行に対して彼女には、若干不安がある。アヤカシ退治は望むところとしても、倒し方について今回は、細かく注文がついているのだ。 「とはいっても…剣で斬っちゃだめ、ってのが、うーん…」 「悩ましいもふなー。エルレーンは雑なことしか出来ない女もふからー。でも、せいぜい頑張るでふー」 「…そうだね。よーし! がんばって…できるだけアヤカシともふもふが苦しむようにどりょくするよ!」 「こわっ! 一体どういう脅しもふか!」 もふもふが震え上がるその時、喪越は関節の痛みに耐えながら相棒の話を聞いていた。 「――それはそうと、とりあえず壊しちゃいけないんでしょ?」 「ああ、アンティークっつうの? これが結構な値打ちもんらしいぜベイベー」 「となると、『混乱の舞』か『誘惑の唇』で行動の自由を奪うしか……何よその顔は」 「混乱はともかく、お前ぇさんの誘惑に引っ掛かるような奴がいるとは――」 無用の懸念を口にした喪越の顔面に、羽妖精の蹴りが乱舞する。返事のないただのおっさんと化すまで。 ともあれ、おもちゃ本体を傷つけずアヤカシ化を解除するという件についてなら、そんなに難しくは無さそうだ。なにしろ同行メンバーにはこの陰陽師の喪越ともう一人適任者がいる。 武僧の戸隠 菫(ib9794)が、そう。 「大丈夫なの、こういうのは菫の得意分野なの! ね!」 相棒羽妖精葵から太鼓判を押された菫は、えへんと咳払いして言った。 「あれは付喪神だよね、多分。あたし、滑空艇とアーマーが付喪神になったのと遭遇したことがあったんだ。そのときは、高位の武僧さんに心悸喝破で引き剥がしてもらったんだ。でも今回はあたし自身が心悸喝破を使えるし、役に立てる…よね?」 最後の自問は小声だったので、本人を除いては聞こえない。 百万の味方を得た思いのエルレーンは、ガッツポーズをとった。 「わかったよ、それならつかまえたらぜんぶ、菫さんにまわすね。てまをはぶくために、いっしょに行動しよっ」 細かい戦い方が苦手なことについて引けを取らない静花も、同伴に手を挙げた。 必然的に雷花も、そこに加わることとなる。 静花は自分と雷花、それにエルレーンと菫を見比べ、心得顔で頷く。 「これは……なるほど、薄乳組か」 「ちょっ静花!」 相棒が焦るのもかまわず首を回し、はふりに声をかける。 「え、あれ、お前は一緒に来ないのか?」 「生憎自分は薄乳ではなく微乳なのであります」 主の言い分にマルフタも同意する。 「右に同じくであります、どうぞ」 そこに、ピシッと鋭い音がした。 板の後ろになっている窓に、クモの巣状のヒビが出来ている。いかに非力な銃撃といえど、何度もやられることで、ガラスに疲弊が来始めたらしい。 「ガギギギ」 はらはらしている様子のガー介にクロウは、親指を立てて見せた。 「まあ任せとけ。ここからは俺たちの仕事だ。プラティン、お前はここで見張りをしててくれ。外に逃げてきたら、ちゃんと鳴いて知らせるんだぞ」 羅喉丸は、相棒の頭に手を置いた。 「行くか、蓮華」 手持ちの瓢箪から酒をきゅっと一杯飲み干した蓮華は、にやりと笑む。 「ぬかるなよ、羅喉丸」 ● 扉の外から工房内に向けて瘴索をかけるKyrie、そして物音を探る羅喉丸。 菫の意見により戸口の外には、おもちゃ達の急な出現逃走への備えとして、板囲いが設けられていた。 二重構えとしてはふりが闘牛士よろしく『翠泰柿』を広げ待ち構えている。もし飛び込んできたら、そのまま茶巾包みにする所存だ。 捕獲の際入り用だろうとエルレーンは、藁やおが屑を入れた麻袋を複数持ち込んでいる。 「みんな、よかったらつかってね」 15センチ大のが12ということだから、それだけでも間に合いそうかと思われたが、静花もまた持ち込んでいた…自前の寝袋を。緩衝材としてはぬいぐるみを多数。 しかしこれは大きすぎると、持たされ役になっている雷花は思うのである。 「もっと小さいのはなかったんですか?」 「袋って言うとこれしかなかった」 「静花ぁ〜……」 Kyrieがしいっと指を口に当て、背後の会話にストップをかける。 「どうやら我々がいることを感づいているみたいですよ。距離を取って、扉の前に待機しているみたいです」 羅喉丸が続ける。 「タカタカタカタカ太鼓をずっと打っているな。音が乱反射して位置が特定しにくい」 鼓笛手の役割についてKyrieは、かなり重要なものではないかと疑っていた。 関係者から経緯を聞いた限り隊長はもちろん鼓笛手もまた、指揮の役を担っていると思われる。であるなら攻撃もただ闇雲なものでないはずだ。囮や陽動など行い、脱出を図る程度の知恵があるかも知れず。 「ひとまず物理的な手出し、誤って踏みつぶす等ないように気をつけましょう」 注意を喚起する彼の前には、壁役のザジがいる。 『イフリーテシールド』を掲げるクロウも、前以て皆に言っておく。 「入った瞬間銃撃とか普通にありそうだな。まあ、死にゃしないだろうけどよ…俺は初手に閃光練弾打ち込むから、皆注意しててくれ」 「へいよう。じゃあ俺は後方についたが得策かね」 のたまう喪越の後ろ頭を、癒羅がはたいた。 「いいから、キリキリ働く! 囮くらいはできるんでしょ!?」 「へ〜い。お前ぇさんはどうすんだ?」 「アタシは遅れて入るわよ。術を仕掛けられるまで近づくには、目立っちゃいけないし。狙いはもちろん司令官ね。アイツが仕切ってるっぽくない?」 「そこまで知恵が回る奴らかねぇ? ま、俺も一応対抗手段はあるからな。地味に逃げ回りますか」 静花は『双虎拳』をはめた手を開いたり握ったりして調子を試し、ぱんっと切れのいい音を響かせ、手を打った。 「じゃあカウントといくか? 5、4、3、2…」 エルレーンは普段より幾分もふもふさせたもふもふを盾代わりに身構える。相手が嫌がるのは流して。 「これは一体どういうこともふかエルレーン! ろうどうきじゅんほういはんでふ!」 彼らの騒ぎをよそにカウントは、滞りなく行われる。 「1…0!」 扉が開くと同時にクロスは弾を撃ち込んだ。閃光が発する。 外に控えていた職人たちが、大急ぎで扉を閉める。 控えていたおもちゃたちから加えられた一斉射撃を、『イフリーシールド』が弾く。ザジの体も弾く。 喪越の体には多少めり込んだ。 「おうっふぁ! 地味に痛いぜこれは!」 ゴーグルをつけているKyrieはそれらに煩わされることなく、相手の位置を把握する。 彼らが陣取っているのは作業台の上方。射撃は高所からの方が有利であるという鉄則は知っているらしい。 羅喉丸がぼやく。 「お日様が昇っている間はおもちゃ箱で眠っていて欲しいんだがな」 菫は静花とエルレーンの後ろから『神威の木刀』をかざし、炎の龍を兵隊たち目がけ迸らせた。 「これはほんの挨拶代わりですよっ」 兵隊たちに炎が噛みついた。もちろん実体としての火ではないので焼けることはない。 しかし彼らは危険と判断したようだ。 隊長が上げていたサーベルを降ろし鼓笛手がラッパを鳴らすと同時に、一斉に散らばって行く。 「こら待て!」 静花は俊足を生かし飛び掛り、1体手づかみで生け捕った。 台の上にあった道具箱が弾みで床に落ち中身が散乱したが、かまってはいられない。 人形は銃口を彼女の顔に向けてくる。 もちろん直にそれを受けるなど馬鹿なことはしない。壊さないように留意して台に伏させる。 「菫、頼む!」 「はいっ!」 素早く結ばれる印。 白く発光する手のひらが人形に打ち付けられたとたん、そこからぶわっと、真っ赤な目を光らせた形もあいまいなものが吹き出す。 これがアヤカシの本体だ。 「えいっ! 消えちゃえ、アヤカシめっ!」 エルレーンが『黒鳥剣』を振るう。 アヤカシはボフッと音を上げ霧散した。 「ふふん、ちょっとだけかぁいいかんじだけど…もう、おいたはだめなんだよっ!」 抜け殻になった人形は傷まないよう、即刻袋詰めにされる。 菫はそれを見て、残念そうに指を鳴らした。 「ただの兵隊さんか。とりあえずリーダーっぽいの捕まえなきゃ」 葵と癒羅が物見のため、天井近くまで舞い上がって行く。 「まずは司令官を落とさなくちゃね」 工房は細々したものが多く、天井からもあれこれたれ下がっていて、視界が悪かった。 入り口は狭いが奥に長い作りで、端々薄暗くなっている。 蓮華はあわてず騒がずまた一杯。 「残念じゃったの。妾の目は闇をも見渡す」 Kyrieは相手がどこにいるのか探る。 小刻みな太鼓の音は先程と一緒で、どこから聞こえているのかはっきりしない――どうも音を乱反射させる能力があるらしい。 細かな銃撃が、方々から起こってくる。狙いはかなり正確だ。 「アウチッ! やめなさいこら君たちやめなさい!」 命にかかわるほどではないため緊張感は薄いが、これでも当たると結構痛い。生身の喪越はなおさらだ。 一緒に囮役となっている羅喉丸を見習って、ガードするものを持ってきたらよかったかもしれないと後悔するが、そうしなかったものは致し方なし。諦めて陰陽師としての術を繰り出す。 「ほらよっ、噛み付くぜ!」 工房いっぱいになるほどの巨大な龍が現れ、轟くような咆哮を上げた。ただの幻で虚仮威しなのだが、相手の注意を引く役には立つ。 その隙に子鼠の式を作り、物陰に放ち、人形たちの居場所を探る。 「お−い、あっちの棚の陰にいるぞー」 Kyrieは撹乱音を防ぐため耳を塞ぎ、瘴索のみに注意を向けた。 疑える箇所には片端から呪歌をかけて回る。 太鼓の音が乱れてきた。 エルレーンは相棒の尻を叩き物陰へ追いやった。 「もふもふ、ちょっと兵隊人形探してきてよっ」 「え、ええー?! 嫌もふ嫌もふ!」 「いいから行って! そうしないとおやつ買ったげないよっ!」 「ひ、ひどすぎるもふ…虐待もふ虐待もふ」 静花も雷花に命じる。 「よし、行け!」 「ああ、何か扱いが悪い……」 渋々作業台の下へ潜って行くもふらとからくり。 一分と立たずもふもふが、飛んで帰ってきた。兵隊人形1体に撃たれながら。 「ひいいいいい危険もふ危険もふー!」 はふりは『緑泰柿』を振るった。 人形が足元を掬われ倒れかかるところに、そのまま巻き付けすっぽり包む。 雷花はぱちぱち撃たれつつ、1体人形をつかみ引き出してくる。 「とれましたよー」 双方袋詰めにし、菫に処理を頼む。 出てきたアヤカシは静花が、燃える拳で真っ赤に焼き尽くした。 「ファイナル・アトミック・パンチ!!」 「なんだかんだで力一杯やるの、好きですね……」 続けて隅に隠れていた1体をクロウが発見、濡れタオルを投げ捕まえ、包んだまま袋に突っ込んだ。台所でゴキブリを捕まえるときの要領に、ちょっと似ているなあと思いながら。 即時それらのアヤカシも無効化され、人形に戻る。 「いたいた! 兵隊さん、こっち見てー♪」 天井の梁に潜んでいた1体を見つけた葵が、投げキッスをくれてやる。 人形は射撃の手を止めた。 そこを蓮華の呪声が襲う。 「戦いの最中女子にうつつを抜かすとは、兵士失格じゃの!」 人形がグラッと支えを失い、梁の上から落ちてくる。 「おっとと! 気をつけてくれ蓮華、バラバラになるぞ!」 羅喉丸が『厳盾』を広げ受け止め、素早く袋に詰める。 (ええと、確か全部で12体だったな。隊長が1体鼓笛手が1体、残り兵卒が10いる計算になるか…) 現在捕まえているのは自分のも含めて5。すべて兵卒。 残りは隊長と鼓笛手含めた7のはず。 思ったところ、かん高いラッパの音が響いた。 どうやらこのままでは逃げ出すのが難しいと思ったらしい。兵隊たちは、強行突破を試みてきた。 銃撃しながら突進してくる。 前面にいるクロウが背後に呼びかけた。 「盾となる人、集まってください!」 Kyrieとザジ、羅喉丸、エルレーンともふもふ、静花と雷花が前に出た。相棒にせっつかれて喪越も。 「行け、囮!」 「こき使われ過ぎだぜ俺」 そこに雨あられ――といったってスケールが極小だが――と注ぐ銃弾。 盾など防ぐものがある人間と、当たってもダメージを食らわないからくり、土偶はともかく、生身で行くとちと痛い。 「はぁいー隊長さぁん、お茶しないー?」 ここぞとばかり癒羅が投げキッスを連発し、Kyrieが歌う。 はふりは、それだけでは不十分と見た。 せっかく残りが欠けることなく揃っているのだ。全部ここで捕まえてしまわなければなるまい。 「皆さん、下がるのであります! オリーブ弾投擲行くのであります!」 「えっ。オリーブって」 菫が何か言いかけた瞬間、オリーブ油の瓶は床に目がけて放物線を描き、衝突し、内容物を容赦なくぶちまけた。 ● 「ギッコンギッコン」 ガー介が人形の錆び落としをしている横、クロウもまた手入れを手伝っていた。濡れたものは乾いた布で、油まみれのものはそれ専用の吸い取り紙で拭く。 はふりはマルフタと共同で、床の掃除をやっている。持参の薔薇石鹸を使って。 「大事なお品を油や水で汚して申し訳ないであります。お手伝いしたい所ですが、あいにく自分は細かい作業は苦手でありますゆえ」 「然り。おひいさまに顔を描かせたら、みなへのへのもへじになるでありますからな。どうぞ」 「いらんこと言わないで欲しいのであります。へのへのもへじではないのであります。こけしレベルのものなら描けるのであります」 エルレーンは喪越の瘴気回収作業に付き合い、取りこぼしのアヤカシなど残ってないかどうか、工房内を歩き回り再点検していた。長剣、短剣、盾、鎧にアーマー。見るものは多い。 もふもふが足元で愚痴っている。 「うう、もふの毛が一部ちりちりになってしまったでふよ…どうしてくれるもふかエルレーン! 本当にいつもの倍おやつを買ってくれるもふね!?」 「もう、疑りぶかいなもふもふはー。はいこれ、ちゃんとよういしてたんだよ、ほら、こんなに袋いっぱいに」 「おお、これは疑って悪…なにもふかこれは! 全部一本十文のうまいぼうではないもふか! 詐欺でふ詐欺でふ! しかるべき所に訴えるもふうう!」 「まあまあ、そう怒るなよアミーゴ。うまいぼう…俺は好きだぜ? 明太子味が特に」 「あ、とっちゃいかんもふ! これはもふのおやつもふー!」 武具を興味深げに眺めていた静花が、声に引かれて寄ってきた。雷花も。 「おお、うまいぼうか。私はコンソメ味が好きなんだ」 「私はからくりですから、あれこれ好みはないですね」 クロウも来る。 「コーンポタージュだな俺は」 羅喉丸と蓮華も。 「俺はノリ塩かな」 「妾はチョコ味が好きなのじゃぞ」 はふりとマルフタも。 「自分はしょうゆバターおつであります」 「こちらはサラダ味です。食べませんが。どうぞ」 「ちょ、好き勝手言いながら皆勝手になぜとるのでふか! もふは搾取されてるもふー!」 待ちくたびれたのか工房の窓からプラティンがぬっと顔を突き出し、いななく。 それを眺めて喪越は、ふと首を傾げた。 「…そういやうちの妖精はどこ行ったんだ?」 その頃、通りを離れたカフェレストラン。 Kyrieがビターなショコラトルテをビターなコーヒーのお供に、ザジと何事か話し合っている。 彼らの向こうの席では、菫と羽根妖精2人――葵と癒羅がきゃいきゃい騒いでいた。 「お茶に誘ってくれてありがとー、葵。悪いわねー菫」 「ううん、妖精が一人くらい増えても一緒だから。で、何を頼もうか?」 「あっ、このマロンケーキがいい。季節ものだしさっ」 「私もそれにするの。2人で一つ、一緒に食べるの」 テーブルの端に腰掛け仲良く羽をぱたつかせる妖精たちを暖かく見守り彼女は、思う。 そろそろ秋になるんだなあと。 |