ミイラを追え
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/03 01:37



■オープニング本文


 やあ、オレは現在アル=カマルを巡業中の「ホップ座」看板俳優のジョニー。目下砂漠をラクダで疾走中だ。
 空には満月が輝き、背後では松明が輝いている。
 手に手に槍だの弓だの曲月刀だの振りかざし迫ってくる群衆。
 誓っていい奴らはオレを殺すつもりだ。
 何故かと言うに今オレはミイラになっているからだ。
 話せば長くなるが手短に言うと、今季の一座の出し物が「ミイラと騎士」というものであり、オレはミイラ役だったのであり、全身包帯で固められているからろくに口が利けないのであり、包帯は一人でほどけないのであり。
 次の巡業先に向かう途中面倒くさいのでこのコスチュームを解かず、最寄りのオアシスへ水汲みにいったら、そこにいた村人に悲鳴を上げられ、あれよあれよという間にたちまちこのような状態に。
 いくらなんでも人間のミイラと本物のミイラの区別くらいつくだろうと皆思うだろう? 
 オレもそう思う。
 実際そうなったはずだ。横をいいフォームで走っているこの、本物のアヤカシミイラさえ、合流してこなければ!

「ああいうええおおおあああうう」

 ええい黙れ。オレはお前の仲間ではない話しかけるな! 
 ますます向こうに誤解されるだろうが! 
 あっこの、オレのラクダを奪おうとするとはどういう了見だ。やめろ振り落とされたらあの群衆に捕まってオレの命が危険だろうが! 
 お前はそのまま徒歩で行け!

「ミイラが2体逃げるだぞー!」

「逃がすな、捕まえんべー!」

「ラクダを盗みやがってー!」

 盗まなかったら追いつかれるだろ!
 どういう厄日なんだ今日は!

「ががげげげげぎぎぎぐぐご」

 そんでお前は何言うとるかさっぱりわからん! 
 あっ。なんだ、行く手から女騎士? 
 剣振りかざしててすっごくいやな予感がするんですけど!

「っし! そのままこっち誘導してー! 首刎ねるからー!」

 ぎゃあああああああっ!?



■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
多由羅(ic0271
20歳・女・サ
ナザム・ティークリー(ic0378
12歳・男・砂
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟
トビアス・フロスマン(ic0945
56歳・男・シ
カミル・ハルトシュラー(ic1137
18歳・男・吟


■リプレイ本文


 アルバルク(ib6635)は相棒の霊騎とともに今宵の憩いを求め、さるオアシスまでやってきていた。
 松明を掲げた村の住人が集まり、騒いでいる。

「いよう、何かあったかね? 俺は開拓者だ。よければ力になるぜ?」

「おっ、ちょうどよかった! それなら一緒に来てくれよ!」

 声がした方に目をやると、ナザム・ティークリー(ic0378)がいた。
 ラクダの前足を折らせ彼は、アルバルクの返答を待つのも惜しいのか、急いで飛び乗る。

「何があったんだ」

「ああ、ラクダ泥棒が出てな。それもアヤカシなんだよ。ミイラが2匹」

 話を聞いてアルバルクは変な顔をした。
 アヤカシが家畜を襲うというのはざらだが、奪うというのはちょっと聞いた覚えがない。

「途中までこの村の衆と追跡したんだけど、乗り物がなけりゃ、やっぱやりにくいからな。急遽借りに戻ってきたところでさ。とにかく取り戻さねえと」

 砂漠の子であるナザムにとっては、アヤカシ本来の危険性よりラクダを盗んだという行為のほうが、より重く感じられる。
 ラクダは単に移動手段というわけではない。粉を挽く手伝いもするし、荷を運んだりもする。食肉や皮革用としても使える。羊やヤギが育たないような場所でも生きて行ける唯一の家畜。
 それを盗むなどとはまさしく言語道断。

「人間の盗っ人であっても半殺しにされておかしくない暴挙だぜ」

「…ま、こいつはいい小遣い稼ぎになりそうだ。ハイヨーアラベスクゥ、金の為にー」

 砂を蹴立て速力を上げるアルバルクとナザム。前者はたちまち後者を引き離して行く。

「遅いなこいつ…農作業用だからって…ほら、気合入れな!」



 カミル・ハルトシュラー(ic1137)は「ホップ座」の荷馬車にいた。
 旅の途中巡業中だった彼らと意気投合し、行動を共にしていた矢先この事件が起きたのである。
 オアシスに向かったジョニーがいつまでたっても野営キャンプに戻ってこないので、様子を見に行こうかとしたところ、ラクダに乗った彼とミイラと追手の大群が地響きを上げ通り過ぎて行った次第。
 何らか誤解を受けているらしいと悟り追いかけ始めたのだが、荷馬車を引く馬の足が遅すぎ追いつけず離される一方。

「本物のミイラと間違えられるというのは、ミイラを演じる役者冥利に尽きるのでしょうけれども……『舞台を降りたら役も衣装も脱げ』という格言が生まれそうな事態ですね」

 団長はその言葉で、涙目になりかけた。

「こんなことでうちの花形を失ったら、私ゃどうすりゃいいんだ…路頭に迷う…」

 心配すべきはもっと別なところにあると思うのだが。

「ジョニーさんは生身の人間ですし斬られたりしたら血も出るでしょうから、退治しようとしてる人達もたぶん途中で気付いてくれると思います。たぶんきっともしかしたら」

 曖昧な物言いも少しは気休めになったらしい。団長はハンカチを目に押し当てながらこんなことを言い出す。

「一座あげて追悼講演だな。花形役者悲劇の死…全儀婦女子の紅涙を絞ること間違いなしだ、うん。きっと前以上にヒットを飛ばすぞ!」

(…あれ? 死亡前提にされてる?)

 カミルはともあれジョニーが無事であることを祈る。万一の場合どこで葬式をやるのだろうと、現実的に考えながら。



 火矢に追われてミイラが走ってくる。
 『鬼神大王』をすらりと鞘から抜き放つ多由羅(ic0271)は、口角を上げた。

「ミイラ二体をこの刀で屠りましょう。エリカ様、首級はこの私がいただきますよ?」

 エリカもまた、挑戦的な微笑で返す。

「それじゃ競争といきましょうか? 早い者勝ちよ。負けた方は後日カフェでおごること」

「いいですよ。高いもの頼まれても恨みっこなし」

 双方申し分なく殺気をもとい士気を漲らせている。
 八壁 伏路(ic0499)は己の身の安全という観点から安堵しつつも、接近してくるミイラについて、何か妙だなと感じた。
 走っているミイラがラクダに乗った仲間の進行を攻撃――妨害しているように見えなくもない。
 アヤカシが仲間同士連帯に欠ける行動を示すのは多々あることだが、共通の敵を前に足の引っ張り合いというのは珍しい。
 かくいうモヤっと感は霧雁(ib6739)も感じていた。

(ミイライダーの方、なにやら妙でござるな…)

 通常動物はアヤカシを恐れ、逃げようとするもの。しかしあのラクダは乗っているミイラに対しパニックを起こしている様子がない。
 横を走るミイラについては嫌がっているらしい素振りがある。近づいてくるのを避けようとしてどんどん進行方向がそれて行ってしまっている。

(もっとよく音を拾ってみねば)

 鈴木 透子(ia5664)は『聖なる水晶の瞳』を取り出し装着した。初めて会うタイプのアヤカシなので、念には念を入れてのことだ。

(あれがミイラ…? 思ったよりずっと動きが早い…)

 アンデッド系であるからもっとこう、ぎくしゃくのろのろしているのかなと思っていたのだが、これはなかなか油断出来無さそうなフットワークのよさ。特に走っている方。

(とにかく…仕事っ!)

 気合を入れて前方を睨んだ彼女はすぐさま、はっと目を見開いた。
 走っているミイラからは瘴気が立ちのぼっているのが見えるのに、ラクダに乗っている方には、一切見えない。
 これまで培ってきた経験と情報を高速で総浚いした彼女は、恐ろしい結論に達した。
 戸惑いながら注意を呼びかける。ミイラを追う一団に向かって。

「離れてください! 待って下さい! そっちのミイラからは瘴気が出ていません!」

 瘴気の存在を感じさせないアヤカシ――とくれば、正体はこれしか思い浮かばない。嵐の門を守るというあの存在。

「これは…きっと…魔戦獣です! 注意して下さい! うかつに手をだすと危険です!」

 聞いたエリカと多由羅は驚きかつ、一層血を沸き立たせた。

「何か様子がおかしいと思ったら…気をつけねば! 私達の想像つかない方法で襲ってくるやもしれません!」

「…面白いじゃない。普通のアヤカシとどこがどう違うのか、実地で確かめてみるのも悪くなさそうね」

 何のひっかかりも覚えて無さそうな女騎士そして女サムライ。
 霧雁は大急ぎで引きとどめる。

「多由羅さん姐さんお待ちなすってでござる! あのミイライダーは息をしているようなのでござる! ミイラにしてはおかしいのでござる!」

 エリカは言った。

「それは…魔戦獣だからじゃない?」

 そして砂丘を駆け降りて行く。
 最高に嫌な予感がした伏路は、声かけだけで止まらないと判断し、咄嗟に舞を舞い術をかける。
 急に足が重くなり停止したエリカが振り向いてきたところで、額をこつんとやり舌を出す。

「ああっ! すまん、二日酔いで…!」

 向こうの表情が険しくなってきた。
 ので、直視をせぬよう心掛ける。

「エリカ殿! ラクダに乗っておるのはわしらに任せて、走っておるアヤカシを倒してくれい!」

「何でよ!」

「走っておる方が明らかに手強い! ラクダと併走しておるのだぞ、膂力がうかがえるというものだ! おお恐ろしい、わしらの手にはおえぬ。出番だエリカ殿! 存分に野獣ぶりを見せつけてくれい!」

「野獣とか言うな!」

 怒りつつエリカは単体側に向かう。今の足止めで出遅れてしまったため、多由羅に騎乗分を譲らざるを得なくなったのだ。
 その多由羅に霧雁が追いつき、助力を申し出た。本音は牽制だが。

「多由羅さん、ひとまず相手の気をひいてほしいでござる! 所有者がおられるでござるから、ラクダだけはアヤカシから引き離さねば! 足を奪う意味でも!」

 普通のアヤカシと違うという認識を抱いている故、多由羅も少し注意深くなっている。そうだ、まず相手の機動力をそごうと考える程度には。

「こっちだ!」

 多由羅の咆哮に徒歩ミイラが反応し、体の向きを変えた。
 姿勢を低くしたエリカが剣を前に構えたまま、腹めがけ体ごと突っ込む。
 剣の切っ先がミイラの体の背中側から突き出る。

「ぼがああああ!」

 ミイラは獣のような唸り声を上げ、エリカの体に腕を回し締め上げる。

「こっ、の…」

 透子の式が飛んだ。
 獰猛な白狐の顎がミイラの頭部を掠めかじり取る。取られた部分は瘴気を立ちのぼらせ再生して行く。
 力が緩んだ隙にエリカは身を離した。
 その間中騎乗ミイラは竦みあがるだけ。霧雁が焙烙弾を投げるに至り、ラクダが驚いて棹立ちになったところで、落ちる。

「その首貰ったあ!」

 多由羅が間髪入れず切りかかる。
 ナザムの叫び声がそこに重なる。

「待て止めろ多分そっち人間だあ!」



「いやはや、この爺め、ミイラという物を初めて拝見いたしましたぞ。なんとも生きのよいものでありますな」

 ラクダ部隊に交じっている執事の名はトビアス・フロスマン(ic0945)。
 さる人物を探してこの地に訪れた際、たまたまラクダ泥棒事件に遭遇し、義によって追跡に参加している次第。

「おーい、こっち!」

(むむ、この声。みつけましたぞ)

 そう、彼が探していた人物とはエリカである。
 理由の詳細は執事としての節度によって、彼の胸一つにしまわれているので、ここには明記しない。

(エリカ様のお手並み、拝見させていただきましょう)

 『フェイルノート』をかまえ、火矢を放つ。誘導している方向へミイラを、確実に進ませるために。
 火気が苦手なのかミイラたちは方向転換をして行く。

「ははひひふふへほほほほほ!」

 声を上げているのは徒歩ミイラだけ。騎乗ミイラは散ってきた火の粉をバタバタ払い落としている。まるで人間みたいな仕草だ。
 珍奇なりと思ったところ、行く手から声が上がった。

「離れてください! 待って下さい! そっちのミイラからは瘴気が出ていません! これは…きっと…魔戦獣です! 注意して下さい! うかつに手をだすと危険です!」

 魔戦獣。
 耳慣れぬ、いかにも危険そうな単語を前に、追跡部隊はたたらを踏んで立ち止まる。たとえ相手が、一般人でも追いかけてやろうという気になれる程度の外見のままであったとしても。
 そこにアルバルクが合流してくる。

「ミイラ? あれがラクダ泥棒のアヤカシかい?」

 ラクダは貴重な財産ということをナザムから口酸っぱく教えられていた彼は、ひとまず射撃を控える。財産を傷つけてはもともこもないので。

「……しっかし、なんかこいつらもめてねえか?」

 閃光と轟音が走った。
 ラクダが棒立ちになり、ミイラが落ちる。
 遅れていたナザムが追いついてきた。
 追いついてくるなり大声を張り上げた。

「待て止めろ多分そっち人間だあ!」



『二体のミイラのどっちかが変装した生身の人間なので攻撃しないでくださーい。うっかり攻撃しちゃっても殺さない程度にお願いしまーす』

 最後尾の耳に呼びかけが聞こえたことを望むカミルは、馬車の席に腰を下ろした。
 これでちょっとは制止できれば良いのだが、何分混戦模様で皆頭に血が上っているようなので、期待は出来ない。
 後は事態を静観するしかなかろう。この馬車まだ追いつかないし。

「……私にできることはここまでです」

 それにしてもアル=カマルにおける香典の相場はどれくらいだろう。気になる。



 多由羅が咄嗟に手首をひねる。
 紙一重で軌道のそれた刃先は伏路が作った氷の障壁に当たる。
 かくしてニセミイラは首をすっ飛ばされずに済んだ。
 腰を抜かした彼の前に透子が白壁を作る。戦闘に巻き込まれないように。
 アルバルクが寄ってくる。笑いながら。

「おう、ちゃんと人間だったのかい。しっかしラクダ泥棒はいけねえなあ」

「全くでござる」

 霧雁は手早く忍刀で、ミイラ頭部の包帯を切り解いた。
 出て来たのはまごうかたなき人間の顔。役者というだけあって二枚目だ。やつれて色が悪いが、状況が状況だけに仕方ない。
 ひとまずアヤカシの協力者かもという疑念はあるので、拘束しつつ事情を聞く。

「災難でござったな。安心めされよ、何もしないでござる。ひとまず何があったかお聞かせ寝返るでござるか?」

 伏路は村人に向かい、両手を広げての説明を始める。

「村の方々よ、こんな新鮮なアンデッドはおらぬ。論より証拠と言うではないか。少なくともアヤカシではない」

 その間中ほかのメンバーは、ミイラ退治に勤しんでいた。
 主に多由羅とエリカがなます切りに切りたおす。腕と言わず胴と言わず足と言わずに切れるところはすべて切る。アルバルクも騎上から切りつける。
 それでも敵はなかなか倒れなかった。

「アンデッド系って本当にイライラさせられるわね」

「エリカ様、口から血出てますが大丈夫ですか?」

「大丈夫、あばらが怪しいけど大丈夫、治癒でいける!」

 ようやく追いついたカミルの、叩きつけるような呪歌が功を奏しているのか、現場の士気は右肩上がりだ。
 ナザムが『アル・カマル』でミイラの首回りをえぐった。
 首は大きくえぐれる。ミイラの包帯が、そこを庇うように巻き付いていく。
 トビアスが進み出た。

「皆様、お下がりあれ! 穢れしものを屠るには火が最適でしてな!」

 立ち上がる炎に包まれミイラは、叫び声を上げつつ燃え、消えた。



「まさか人間だったとは、このトビアス一生の不覚。ひらにお許しくださいませ」

 というトビアスに始まり、透子も謝罪をする。

「ごめんなさい。勘違いでした。」

 多由羅もそう。

「すみませんでした。てっきり本物かと…」

 エリカも勿論。

「全然気づかなくて申し訳なかったわ。おわびします本当」

 それに対しジョニーは言った。

「いいっすよもう…」

 実に物分かりがいい態度だが、それには理由がある。

「んだってなあ、アヤカシでねえのは結構だけんど、人間だとすりゃあよ、こりゃ単なる泥棒だんべ」

「だなす。落とし前ってもんがあっぺ」

「うんうん、その気持ちは分かるぜ。大切だもんなラクダって。でもほら…」

「この通りラクダも無傷で戻って来たのでござるし…」

 ナザムと霧雁が説得に励んでくれているが、追いかけてきた村人たちは、まだ何かとくすぶっている。彼が相手側の非を言い立てられる雰囲気ではない。
 伏路はそんなジョニーの肩に手を乗せ、言った。

「謝っておこう、わしも一緒に頭を下げてやるから。詫びの印にホップ座で一芝居うつというのもいいのではないか? 今回の件をだな、題材にして…」

 アルバルクは、タバコを口に咥え火をつける。
 彼はひとまずこの件について、傍観者の立場。『サンクトペトロ』を弾いているカミルと同じように。
 エリカが、ふとトビアスに言った。

「あのー、そういえばどこかでお会いしたことがありますか? なんとなくお顔を拝見したことがあるような気がするんですけれども…」

 彼は温和な笑みで返す。

「いやいや、御気になさらず」

 そうですかと返した彼女は、伏路、霧雁、透子に言う。

「あんたたち、機転利かせてくれてありがとうね」

 多由羅がそれに続ける。

「私から礼を。いや、危ないところでした…」