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■オープニング本文 白い砂浜、ヤシの木、紺碧の海、水平線の向こうにある白玉のような入道雲。 夏。まさに真夏。真っ赤に燃えた太陽の下で恋に燃えて燃え尽きるに相応しい道具立てがここには全て揃っている。 それなのに、ああそれなのに、肝腎要である裸のマーメイドたちの姿がさっぱり見えない。男たちの嘆きはいかばかりや。 しかしそれも無理のないことだ。 本来なら小波の寄せるべき波打ち際には、ぶよぶよした半透明な青いものが所狭しと打ち上げられている。ビーチのかなたからこなたまでずっとそう。 ぶよぶよはただぶよぶよしているだけで別に何もしない。小山のように積み重なり防波堤としての役目を果たしているだけだ。当たっても噛んでくるわけではなし電気が走るわけでもなし。 であるが踏んだ瞬間のぶにゅっとした感触がおぞましく、水分が吹き出し顔に当たったりもしてくるため、誰も近づく気になれず、眺めるだけ。 先程意地になったサーファーがスライムを踏み付けながら乗り越えて行ったが、結局戻って来た。沖合にもたくさん漂っていて波乗りにならなかったそうだ。 とくると、ここは開拓者が来て駆除してくれるのを待つしかない。 浮かれ騒ぐつもりだった若人も若人でない人々も、不承不承海の家に引きこもり、縁台で清涼飲料水やかき氷など口にする。 岸の奥へ打ち上げられてしまったスライムが直射日光に水分を絞り取られ、乾きに乾いていく。 紙のようにくしゃくしゃに丸まり、風に吹かれかさこそ音を立て砂浜を転がって行き、誰かの手で拾われゴミ箱に突っ込まれる。 波の音が、遠い。 |
■参加者一覧 / 皇・月瑠(ia0567) / 北条氏祗(ia0573) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 菊池 志郎(ia5584) / 御陰 桜(ib0271) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 何 静花(ib9584) / 天道 白虎(ic1061) |
■リプレイ本文 「静花! 海ですよ海! 海ってぶよぶよしてるんですね!」 波打ち際のスライムを前にした女型からくりの雷花は、間違った解釈による興奮をしていた。 主人である何 静花(ib9584)が面倒臭そうに返す。 「……お前海初めてか?」 「はい。こんなにぶよってるとは思いもしませんでした。あっ、押すと水を吹くんですね」 勘違い続行中のからくりと違いリィムナ・ピサレット(ib5201)及びリンスガルト・ギーベリ(ib5184)は、これが本来の海でないと知っている。 浮輪やビーチボールや持参して、親友兼恋人との楽しい時間を過ごそうと思ってやってきたのに、実にけしからん事態。 「スライム大発生にゃ〜。今年は暑いせいかにゃ〜。これは手初めにお掃除しなくちゃだめだにゃ〜」 相棒からくりヴェローチェの意見にリィムナは、もろ手を挙げて同意する。 「そだね。これじゃ泳げないもん。サクッと駆除して遊ぼうね、リンスちゃん♪」 「うむ。早く倒してリィムナといちゃつ…遊びたいのじゃ」 咳払いして言い直したリンスガルトは、自分の相棒であるもふらのKVがいないのに気づき、どこへ行ったかと見回した。 そしてすぐ、ヤシの木の下で皇・月瑠(ia0567)の相棒駿龍、黒兎と話をしている姿を見つける。 「『いゃん日焼けしちゃうわ』でふか。黒兎さんはもともと鱗が黒いから大丈夫とは思うのでふが、まあ、折角南の海まで来てあくせくしたくはないでふな〜」 「おいそこ、早く戻ってこぬか!」 「む〜。いやでふご主人様〜。だって暑いもふ〜」 「暑いのは皆一緒じゃ、この痴れものが!」 ちなみに月瑠は、黙々駆除を始めていた。サーフボードを持って来たのに波乗り出来なかったのが残念なようで、心なし肩が落ちている。背中にある天女の入れ墨も、どことなく寂しそうだ。 浜辺に追いやられ積み上げられていくスライムは特に抵抗を示すでなく、積まれたまま乾いていく。この芸のなさ、ただ事でない。 「何がしたいんでしょうね、このアヤカシは……」 呆れる菊池 志郎(ia5584)であったが、さはさりながら海をきれいにしないと遊びに来た人達が困るので、気を取り直し駆除を始める。 浜に打ちあがっているスライムを一つ一つ『ゾディアック』で焼いて行くという地味な作業。 相棒宝狐禅である雪待は、肩の上であくびしているだけ。 「…見てないで手伝ってくれない?」 「あんなまずそうなもの、我は相手にしたくないぞ」 「終わったらご飯」 「…なればよし。少しは協力しようぞ」 礼野 真夢紀(ia1144)はスライムをスコップですくい上げ、相棒空龍鈴麗が押す一輪車の中に乗せていく。 「乾燥したら良いみたいですけど…一応アヤカシみたいですし、ごみが散乱する海はよろしくないですの」 北条氏祗(ia0573)は相棒の鷲獅鳥、大山祇神の首筋を叩く。見慣れぬ景色に興奮し羽をばたつかせているので、落ち着かせるために。 「折角の機会だが遊びに来た訳ではない。鍛練であるぞ」 たしなめた後は『ズル・ハヤト』を取り出し、目につくものから切って行く。 「まずは駆除に取り掛かろうぞ」 スライムは水しぶきを上げ、弾けて行く。 御陰 桜(ib0271)は作業前の香草水塗りに余念が無い。 「日焼けは美肌の敵だから日焼け止め♪」 準備万端整ったところで、相棒又鬼犬、桃と共にいざ行かん。 とその前に、日陰で海を眺める作業をしている静花に近づく。 「静花、私たちも開拓者として、参加しませんと。あんなにスライムがいるんですよ」 「集めてでかい鉄板で焼けよ」 「海の方にもたくさんいるみたいですし」 「船でも出して網で集めれば」 「このままでは泳げないですよ」 「私は水着を持っているわけでも無いし」 ああ言えばこういう状態の主人を引っ張り出そうとする雷花の加勢に回る。 「はぁい、静花ちゃん。なんだかあなた暇そうねー♪ 針付きの投網とか作ってみる気はないかしら?」 そこにかわいい女の子もとい男の子、天道 白虎(ic1061)が、相棒鬼火玉のしっと丸を連れてやってきた。 「お姉ちゃんも一緒にあそぼうにゃー♪」 どうやらこの場にいる以上、動かないままではいられなさそうだ。 ● 「折角の海なのに、スライムの所為で楽しめないのはもったいないです。さくさく倒して、余った時間でまゆも海を堪能したいですの」 日よけに被った大きな麦藁帽子の下にある額を、タオルで拭う真夢紀。 捨て場に集めたスライムたちは、酒を飲みながら見張りする黒兎の傍らで、どんどん縮んでいっている。 「『旦那ふぁいとぉー』だそうでもふー」 KVは駿龍の影で涼みながら、のたくたごろごろ。主人のリンスガルトとその親友リィムナが浜辺住を駆け回り、地を震わす足踏みや指ぱっちんで次から次へとスライムを弾けさせているのを見ても、手伝う気配まるでなし。 真夢紀の相棒鈴麗が波打ち際のスライムを、せっせと尻尾で掃き寄せているのとは、えらい違い。 「お天とさんは偉大です」 乾いたものをより分けて真夢紀は、火をつける。この暑い時にたき火もアレだが、一応これでもアヤカシなのだから、きちんと処分せねばと考えたのだ。 からからのスライムは勢いよく燃えた。彼女は手で顔を扇ぎながら、海に視線を送り、小さく驚きの声を上げる。 「あ、すごい。蜃気楼が見えますね」 ● 沖合には静花、雷花、桜に桃、白虎、しっと丸のご一行。浜辺が片付き出したのを見計らい、早々に漁船を借りたのだ。 白虎がまず底引き網をしかけたが、これが大量に入るわ入るわで、危うく網が破れかけた。 静花の作った針網(というかもともとある網に針を装着したもの)はそれほどのことはなかった。穴が空いたところから、多少は水が抜けたらしい。 「大量ですねー」 浜辺までとって返し網をあけた白虎は、積み上がったスライムの下にいる奴から、ナイフで穴を空けて回った。 上の重みがかかり、盛大に水が吹きだす。 ふんふん匂いを嗅いでいた桃はびっくりして数歩下がり、吠えかかる。 桜は仕込み日傘『翠香』の先でスライムをつつき、自分も水を出させてみた。 穴の空け方がうまいのだろう、まるで水芸みたいな噴水である。 「わあ、すごーい。なんだかいろんな使い方が出来そうですねー、このスライム」 駆除作業を一時中断した白虎は、ぼよんぼよんとした物体を手に取り眺め回し、なんとなく放り投げてみた。 たちどころにスライムがぴしゃんと弾ける。 水しぶきのかかったしっと丸が、ぷるぷる炎の体を震わせる。 「わっ、水風船みたい! 桜さん桃ちゃん、これ面白いですよー!」 「えっ。きゃあ、このいたずら小僧めっ」 「うわ、後ろからとかずるいですよー」 仕事を忘れ戯れるかわいい少年と色っぽいお姉さんと犬と鬼火玉。 雷花はそれを見て、がぜん興味がわいてきた。主人の袖を引く。 「静花、あれ楽しそうですねっ声をかけましょう!」 「え、あ、ちょ……!」 彼女らが走って行く上に影が差す。 網を咥えた鈴麗が、真夢紀を背に乗せ、飛び過ぎて行ったのだ。 志郎は浜から投網を投げている。 芸のないアヤカシたちは芸もなくどんどん確保され干され、焼却処分。 海上の回収作業も順調に進んでいるとあって、ちらほら人が戻ってきた。 「もう残りはほとんどないのう、リィムナ」 「そうだねリンスちゃん。いたとしてもこの分だと勝手に自滅しそうだし…泳ぎに行こうか!」 「うむ、そうしようぞ。妾、おニューの水着を購入したからのう。早く試着したくてならん」 「あっ、あたしもそうなんだー。すっごく可愛いんだよー♪」 「ご主人たら、選ぶのにけっこうな時間かかってたにゃー。リンスちゃんに見せるんだからとか言ってにゃー」 「もふもふ。勝負水着という奴もふな〜。ここだけの話うちのご主人も、それはもう悩んで悩んで無難な線に落ち着いたもふ〜」 「いらんこと言わんでいい、KV!」 あらかた片付け終わったと見たリィムナとリンスガルトは相棒たちを従え、更衣室に直行していく。 氏祗はきれいになった砂浜で屈伸体操。大山祇神は嘴で、翼の掃除。 「よし、では走り込みを始めるか」 火が完全に消えるのを待ってから真夢紀は、鈴麗と海岸を一通り歩き回り、取りこぼしがないか確かめる。 確認作業が終わったところで、晴れ晴れ空を仰いだ。 「お仕事終わり! 鈴麗泳ごうっ」 ● 「グォオオオオオ(とばすわよーっ!)」 サーフボードを足場にした月瑠が持つ綱を黒兎が引っ張り、海面すれすれを滑空して行く。彼が波に乗ったところでさっと口から綱を外し急上昇、急降下、頭から海中に飛び込む。 月瑠に負けじというのか、他のサーファーたちも次々集まって白い波濤に挑みかかる。 垂直に落ちてくる日光。眩しくきらめく水面。 海の家の縁台で志郎は、目を細める。 「いやあ、夏って感じですねえ」 「しかり。見ておるだけで十分じゃ」 雪待は焼きモロコシと焼きイカと焼き魚とタコ焼きと焼きそばとサザエの壷焼きと焼きハマグリとかき氷と、諸々楽しんでいる真っ最中。夏バテになど、けしてやられそうにない。 浜辺では桜がたわわな胸と形のいいお尻を惜し気もなく見せつけ、桃、白虎と戯れていた。 「行くわよ〜♪」 『わんっ!』 砂浜に転がされた毬を元気一杯全力で追いかけ、咥え、戻ってくる桃。 「えらいえらい♪」 『くぅ〜ん』 お腹をもふもふされて尻尾を振る様は、実にかわいらしい。とはいえただの可愛いわんこではない。 「ほーら、行っておいで〜♪」 海に投げられた毬を取りに行く際は飛び込んで泳ぐのではなく、きちんと水蜘蛛を履き、すいすい水上歩行する。 「さすがですねえ」 忍犬だからそのくらいのことはするだろうと分かっていても、いざ眼にすると白虎も感心するしかない。先程から一度もボールキャッチで勝てていないのが口惜しいところ。 「彼女、一人−? 俺らと遊ばない?」 夏の海に付き物のナンパ師たちが、桜の体目当てに寄ってきた。 彼女はにっこりほほ笑み、戻ってきた桃を指さす。 「潜水でこの子に勝てたらイイわよ?」 「あ、そういうことならボクがカウントします♪」 「そう? それじゃあ頼むわ、白虎ちゃん」 忍犬と争うとは、あのナンパ師たち溺れるかもしれない。 分かっちゃいるけど静花は止めない。さしあたって白虎と雷花に引っ張られてきた場から逃れたいばかりだ。 暑いし。泳ぎたい気もしないし。大体水着が最初からないし。なろうなら志郎のように店へ引っ込んでいたいのだが。 「行楽って何すればいいんだろうな……」 「スライムの使い方を考えてみませんか? 白虎さん、いろいろ考案しているみたいですよ?」 「浴槽に溜めてスライム風呂とかあるらしいな、私は嫌だ」 「静花ぁ〜…もうちょっと前向きに楽しみましょうよ。せっかくの海じゃないですかあ」 からくりが涙する前をサングラスをかけた氏祗と大山祇神が、正しいフォームで走りながら通り過ぎて行く。 「これが終わったら水浴びをするぞ」 「ギィイ」 砂をけたてて走り去る彼の背は、非常に男らしかった。 ● 「えへへ、せくしーでしょ♪」 浅瀬に足を入れ腰をフリフリしドヤ顔を見せるリィムナの肌には、スクール水着の日焼け跡。 だが、今回の水着はそれではない。上は「祭」と白く染め抜いた赤い前掛け、下は黒猫褌(後ろは完全に紐)。水着というより別の何かにも見える衣装。 真っ白なスクール水着のリンスガルトは、にやにやして言う。 「…リィムナ、まだ尻が少し赤いぞ。今朝はたっぷり叩かれておったからのぅ」 「えっ…? ううっ」 赤くなるリィムナの横でヴェローチェは、ぐっと親指を立てた。 「心を鬼にして念入りにお尻叩きましたにゃ♪ なにしろご主人たら、一週間も連続で粗相したんですにゃ。つい最近のなんかほんとにひどくて、余裕で天儀俯瞰図でしたにゃ」 リィムナは顔を更に赤くし、恨めしげな上目使いをする。 「今夜は絶対しないもん…」 そのお尻をリンスガルトは、ぺろんとさすった。 「じゃあ、仕方ないの」 「ひゃっ! リンスちゃんのえっち!」 叫んでリィムナは、足元の水を撥ねかける。 「お返しじゃ!」 リンスガルトは倍ほど返す。 「このぉ。負けないぞっ!」 ばしゃばしゃやり合っているうちにお互いずぶ濡れ。顔を見合わせて笑い合い、海に飛び込んで泳ぎ始める。 ● 岸辺では夏の行楽に付き物のバーベキュー。 さんさん降り注ぐ太陽の真下で肉が――バラからヒレからホルモンに至るまで――モロコシやジャガイモやタマネギやと仲良く焼けていく。 もうもう上がる煙と芳しい香り。 「白虎ちゃん、早くとらなきゃ駄目よ。焼け過ぎると小腸は縮むから」 「はーい♪ あ、ずるい静さんそれボクのー!」 「甘っちょろいことを言うな。こんなのは早い者勝ちだ」 肉片を掠め取り口にほうり込んだ後静花は、よく冷えたビールで飲み下す。 雷花はからくりであるので、食欲に惑わされず焼き当番。もともと料理など、女性らしいことは得意なのだ。外見はそうでもないが。 しっと丸も火加減の手伝いに忙しい。 「焼けたのから脇に寄せて行きますから、どんどん取ってくださいねー」 真夢紀は紙皿へ肉を小分けにし、自分が食べると同時に、鈴麗にも与えている。 「鈴麗は龍だから、タレなしですね。でも、おいしいですよー」 食に目がない相棒に釣られ、志郎も参加している。だが彼自身はさして食欲がないらしく、アイスを浮かべたソーダ水を堪能していた。 「やはり夏は冷たい飲み物に限りますねー」 「【氷霊結】って便利ですよねー。うちにもそれを使った冷蔵庫があるんですよ」 「へえ、そうなんですか。あ、氏祗さんもバーベキューいかがですか?」 「いや、拙者は鍛練に来ているのでな。麦茶だけ頂いておこう」 氏祗は鷲獅鳥に伏せの姿勢を取らせたまま、海上に向かって目を細めた。 一通り楽しみ終えたのか、月瑠と黒兎が上がってくるところ。 リィムナとリンスガルトはどこから持ってきたのか、大きなスイカを砂浜に置き、目隠しをしてスイカ割り。 白虎がこっそり近くに寄り、スイカの下へスライムを仕込む。 「リンスちゃん、もっと右、右−」 リンスガルトのいいフォームでスイカが真っ向唐竹割されるのと同時に、ばしゃーんと四方八方飛び散る水。 ぐっしょりとなった少女たちが、砂山の後ろでにやにやしている白虎を発見し、追っていく。 さすればいきなり足場が崩れ、落とし穴に落ちた。 「ひゃああああ!? ぶよってるー!」 「うぬぉ!? ス、スライムがまだおったわあ!」 KVとヴェローチェは仲良くヤシの陰で涼みながら、そんな主人たちを応援していた。 「脱出頑張るもふー」 「頑張るにゃー」 ● 南の海の、夜。 遮るもののない満点の星空。 その下で月瑠は酒を飲んでいた。七輪でイカをあぶり、肴にして。 「いいものだな、南の空も」 相棒は隣に足を折り畳んで座りこみ、今し方もらったひんやりスイーツ、バケツプリンを味わっている真っ最中。 「ゴォウ(ちょうど食べたかったのよねー)」 スライムを見てなにかぷるぷるしたものがほしくなっていた矢先にこれ。やはり旦那と自分は心が通じ合っている。 そう思う黒兎の目に、派手な炎が目に入った。 バンガロー方面だ。 白虎のしっと丸が盛大に燃え盛り、色を変えながらくるくる飛び回っている。 続いて空に咲く色とりどりの花。歓声。 「どうやら花火をやっているようだな」 ● シャワーを浴びて出てきたリィムナを、リンスガルトが手招きする。 「西瓜食べ過ぎであったぞ? 大人しくこれをつけい♪」 彼女が出してきたのは、襁褓『無二』。 「ええー…恥ずかしいよぅ…」 とか言いながらリィムナは、素直におねしょ対策用品を履かせてもらう。 2人は揃ってテラスに出た。足を出してぶらぶらさせ涼んでいたところ、リィムナが声を上げる。 「あっ、何か海の中光ってるよ」 「おお、まことじゃの。なんじゃろうのこれは」 海蛍か蛍イカか。 青白い光をもっと見るため、少女たちは下を覗き込む。身を寄せる。顔も寄せ合う。 キスはリンスガルトから。 「…んっ…」 リィムナからも、即座にお返し。もっと濃厚な奴を。 「大好き…」 物陰に隠れて様子をうかがうヴェローチェの肩に、ぷくぷくの肉球が乗った。 「一緒に花火見に行かないもふか。隣のバンガローでやってるもふ」 「あ、KVさんお構いなくですにゃ♪ 私はこうやって二人の夜を見えないところから堪能しているのですにゃ」 「覗きでふな」 「いやん。観察と言ってほしいにゃ♪」 「とりあえずもふも付き合うもふ」 どん、どんと腹の底を揺すぶる音。 夏の夜空に大輪の花が咲く。 |