進撃される!
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/09 01:41



■オープニング本文


 ヒュウ、ヒュウっと鋭い風切り音。
 樹木の密集する間を小さな、10センチくらいの人影が飛び回っている。文字通りの人影だ。輪郭はあるが、後は目鼻も分からないほど真っ黒に塗りつぶされている。
 それでも見えたり聞こえたりはしているのだろう、と開拓者たちは見当付ける。なにしろ狙いが正確だ。誰も彼もすでに、体をあちこち切り刻まれ傷だらけになっている。
 人影――便宜上小人とでも言おうか――を舐めすぎたと臍を噛んでも、もう遅い。完全に追われる立場だ。
 彼らはとんでもない機動力を有している。翼などは持ち合わせていないのだが、蜘蛛のように体から粘った糸を出し、それでもって空間を上下左右自在に移動し、両手を硬い刃物に変形させ、切りかかってる。
 どの小人も違うことなく狙ってくるのは、足首、脛の裏、腕の付け根等、機動力を削ぐためのポイント。
 お互い同士連携し動いてくるから、とてつもなく始末が悪い。すでに数人逃げ切れずにやられてしまった。

「くそっ! くそおおお! この…」

 刀を振り回した志士の腕に小人が一体取り付き、そこを踏み台として顔面に飛び掛った。
 右目に小さな刃が突き刺さる。
 激痛に悲鳴を上げた志士は刃を取り落とす。
 一瞬無防備になった首後ろに別の小人が襲い掛かり、深く深く抉り取る。甲高い歓喜の声を上げて。

 追われるものは森の出口を目指し、ひた走る。
 ここは新人が来ていい場所ではなかったのだと痛切に思いながら。



 ジルベリア。
 開拓者ギルド受付嬢エイミーは報告書にざっと目を通し、眉間を険しくした。
 10人行って5人やられ、屍は森に置き去りのまま。残り5人も重傷であり現在戦闘不能。
 いくらルーキーだけの編成だったと言っても、被害が多すぎる。
 アヤカシとの戦いが死と背中合わせなものであると思い知らされるのは、自己の責任を重く感じるのは、こういうときだ。
 死者への哀悼を胸で唱えた彼女は、いち早くペンを取る。依頼内容を即刻書き換え、新たな開拓者を募集するために。

『ジルベリア北方、バルドの森にて小人型のアヤカシ発生。大きさは6〜10センチ。数はざっと50匹ほどいる。体から粘着性の糸を出し、それを頼りにして跳びまわり、刃物状に変形させた手で切りかかってくる。人体の急所を正確に狙い、お互いに意思疎通をなしており、連携行動を取ってくる…』

 


■参加者一覧
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
久我・御言(ia8629
24歳・男・砂
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425
20歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
楠木(ib9224
22歳・女・シ
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟


■リプレイ本文

森の入り口はひっそりかんと静まり返り何の物音もしない。



 トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)は一人ごちた。

「もし私達が森の中に入らなかったら――あなた達にとって私達は『悪い人』になるのかしら?」

 八壁 伏路(ic0499)は額に上げたゴーグルを降ろしぶちぶち言っている。

「しかし素早くてわらわらしてるとはな。家庭内害虫みたいなやつらだのう…ともかく皆、利き手利き足については今聞いたので間違いはないの?」

 リィムナ・ピサレット(ib5201)は開放的な巫女服の裾を絞り込み、うなじや足首などにも布で覆った投文札を巻き付けた。

「…どっちが奪われる側か思い知らせてやるっ」

 柳生 右京(ia0970)は虎の面の下から、冷徹な眼差しを覗かせた。

(新参とはいえ開拓者10人を壊滅に追い込む小鬼。連携は開拓者も得意とする所だが、小人とはいえ、それが敵に回るとどうなるか…)

「面白い…連携を取る以上、数の有利は戦況の有利。この劣勢、覆すとしよう」

 不適な前置きをしてから彼は、作戦行動について仲間たちと、最後の確認を行う。

「森の中が戦場である以上、視野の不利は否めない。感知系のスキルを最大限活用していこう。陽動、包囲、奇襲…どれほどの知能かは分からんが、設置型の罠などの可能性も考慮し、陣を形成、固まって動くことだな」

「りょーかい…どんなにちっちゃい敵でも、じゃくてんをやられたら負けちゃうもん」

 エルレーン(ib7455)は首元に巻いているマフラーを、今一度ちゃんと締める。動いている最中にばらけてしまわないように。
 久我・御言(ia8629)は、準備運動をしているリィムナに言う。

「おそらくこちらのキーになるのは、強力な範囲攻撃を持つリィムナくんだろうな」

「ご期待に添えるよう頑張るよっ。早くアヤカシをぶっ殺したいなあ」

 闇野 ハヤテ(ib6970)は『瞬輝』を肩に担ぎ、眠たげな目を森に向ける。

(連携に向こうの得意な戦場…下手すれば恰好の餌食か。まぁ…俺たちが最初から白旗を振る気なんてありませんけども)

「ここ最近退屈していた所だし、楽しませてほしいなぁ」

 彼は、ふと軽口を止める。隣にいる楠木(ib9224)が神妙な顔をしていたので。

「…この戦いで、命を無くした人だって居るんだよね。早く小人を倒して、その人達を安心させてあげなきゃ。それが私に出来る唯一の事だから」

「…くそ真面目なんですね、楠木さん」

 肩をそびやかすが、ハヤテはその実彼女のこういうところが嫌いでなかったりする。

「ま、とにかく行きましょう。ここでいつまでもにらめっこしててもしょうがないです」

 リィムナと伏路を中にする形をとり、一同、森の入り口まで寄って行く。
 青空の下相変わらずことりとも物音がしない。それがかえって不気味である。
 下草が生い茂り、小さな野の花も咲いている。蝶々がその上をつがいになって舞っている。

「焦る事はない、ゆっくりでいい」

 御言は仲間のはやる気持ちを牽制しながら、敵が食いついてくるのを待つ。

(どこだ。どこから来る)

 リィムナは一歩一歩森へ近づいて行きながら、感覚を研ぎ澄ます。エルレーンもまた――特に頭上に集中する。一番の弱点となる目を、やられてはなるまいと。
 アヤカシはまだ姿を現さない。

 まだ。
 まだ。
 まだ…

 息詰まる緊張感は唐突に破られる。

「来た! 黒小人部隊接近! 速いよっ!」

「上っ! ちっさいの動いてる!」

 伏路が素早く舞を舞った。少しでも敵の動きを制限するように。
 トゥルエノは剣を抜く。

「私があなた達の良い人でよかったわね、ひとまずあなた達は賭けに勝った…でも、私が賭けたのはここからだから…!」

 ばらばらばらっと――木の葉、木の皮、木の実、小石、その他雑多な撹乱物が雨あられと降ってくる。
 それに紛れて小さな人の形が、複数飛び込んできた。
 右京は咄嗟に銃を放つ。だが小人はひるむ事なく、そのまま突っ込んで来る。明らかに顔目がけて。
 トゥルエノは絶叫とも言うべき咆哮を上げる。

「きぃあああああああああああ!」

 相手が声に押された隙を逃さずエルレーンは、『黒鳥剣』を振るう。斬るというより叩きつけるに近い動きで。
 小人は剣と木の間に挟まれる形でぶちゃと音を上げ、潰れた。すぐ瘴気になって霧散したものの、感触が変に生々しい。

「な、なんだか、きもちわるい…」

 楠木は『四季彩』で、アヤカシを真っ二つにする。その代償として、指が千切れそうなほどの裂傷を追う。
 伏路が急ぎ治癒するのだが、すぐ切り上げなければならなかった。低い位置に隠れていた別の小人たちが、間を置かず飛び出して来たのだ。
 開拓者たちの腰から下を狙い、次々小さな刃が切りかかってくる。
 御言は『ピースメーカ』で牽制射撃を行い、最低限近寄らせないように尽力した。
 小人は糸を手繰り寄せ体を後退させ、攻撃から逃れる。

「皆、目をそらしてくれ!」

 ハヤテは一歩踏み出し、閃光練弾を炸裂させた。
 いかに小人が利口といっても、光を防ぐ方法までは頭が回らなかったと見える。動きが一瞬止まった。
 リィムナは『ヒーリングミスト』を口に当て、吹く。間断なく周囲へ警戒を張り巡らしながら。
 トゥルエノが小人の張り巡している糸を払いのけようとする――糸はなかなかに丈夫で、手だけでは切れなかった。しかし飛び移ろうとしていた勢いが殺される。バランスを崩した小人が、中ぶらりんの状態となった。
 すかさず糸の半ばを掴むトゥルエノは、相手が身をよじって切りつけてくるのもそのままに、木の幹へ叩きつけた。
 ベキベキにねじ曲がった体が瘴気に戻るまで、独楽のように回す。恐らく隠れているであろう仲間に見せつけるために。

「…そう、私は女型の開拓者。死に物狂いであなた達を全滅させるわ。父に習ったこの剣でね」

 今のは剣で殺したのでないのでは、と伏路は思う。

(悪役の表情じゃの…まあ別によいが)

 突然前方の空間に何かが落ちてきた。
 小人たちの糸に吊られ空中で止まったそれに、心底伏路の肝は冷える――殺された開拓者の首だったのだ。
 上にかなり小柄な小人1匹が乗り、とんとん足踏みするような仕草をしている。

「小人が毒林檎を食べた姫を救うとかは無いんだろうねぇ…アイツ等が余裕ぶっこいてられんのも何時までかな」

 ハヤテは円陣に先んじ、『瞬輝』を構える。「危ないぞ」という伏路の声を黙殺して。

「気を付けるべきは腕を不能にされる事…それ以外だったら好きなだけ狙わせてやるよ。さぁ…始めようか」

 銃口から発される轟音。
 支えていた糸が切れ、首が地面に落ちる。小さな小人はそれを避け、彼の弾丸に負けず劣らずの速度で切りかかって来た。
 すさまじい旋風が足元を擦り抜けて行ったに続き激痛が走る。
 膝裏から腿の下を取り巻くように深い裂傷が作られていた。
 伏路が急いで回復に当たる。盾で敵と我が身との間に障壁を作りながら。

「戻れっつーても聞かんからな頭に血が昇った奴っちゅーのは!」

 ハヤテを切り刻んだ小柄な個体はさっとまた樹上に退き、枝を伝って逃げる。
 ぼすっ、どさっと落下音が響く。木の間からまた落ちてきた。先程と同じく切り離された首――腕や足もある。

(…餌で奥に誘い込もうとしているわけか。あくどい真似を)

 右京は両手にした『天津甕星』で、真空の刃を放つ。
 彼に届く手前で数匹が消された。
 肉薄に成功した個体が額から頬にかけ斜めに切り下げ、眼球に深く異物を押し込めようとしたが、切りのけられた。
 だが瞼の上まで深く切られた。視界が赤くなる。

「情報通りだ。頭数だけの雑魚とは訳が違うな」

「ええい、忙しいのう!」

 ぼやく伏路の後頭部に、突然ガツィンと衝撃が走った。
 幸い楠木がガードしてくれたので大事に至らなかったが、頭皮がうっすら切られたのと、ゴーグルの留め金が一瞬でガタガタになったのが分かる。
 防具の意味を理解し破壊しようとしているのが明白だ。

「やはりこいつらには知性が…」

 かん高い鳴き声が方々から聞こえ始めた。
 飛礫のように小人たちが襲ってくる。
 エルレーンは『ベイル』を目の上に掲げ、頭上からの攻撃を阻止した。
 防ぐ間に、足元から別の攻撃が来る。装備をしてきているのでハヤテのように深手は負わないが、外套を足がかりに上ってきて、マフラーの上からでも首を狙ってくるのには参らされた。
 耳後ろにザクッという感触が走る。熱い液体が吹き出す。

「あぐ!」

 彼女は急ぎ外套を脱ぎ、張り付いている小人ごと地面に叩きつけた。
 勢いよく彼らが吹っ飛んだところに、精霊力を重ねた剣を振り下ろす。

「…どいつもこいつも、しんぢゃえよッ!」

 瘴気の塊から生まれたものは焼け尽きるように消滅した。

「死角をつくるな。一撃一撃はさほど強くはない、急所への攻撃のみを警戒したまえ!」

 森から引き離すべく後退を試みる御言だったが、防御に徹した布陣をしているせいもあり、なかなかそう出来ない。
 眼鏡はすでに壊れ、地面に落ちている。
 小人には個体差がある。明らかに運動精度が高いのが何体かいる。
 持久戦に持ち込んでいいのか。
 ふと迷いの生じる彼に、トゥルエノが告げる。

「御言、覚悟を決めなさい。あなたは戦士でしょう? 向こうを引きずり込むためには――」

 こちらから攻勢に出る必要がある。
 言外の意志を感じ取った御言は、確認を取った。

「トゥルエノ君…やるのかね!? 今…! ここで!」

「えぇ!! 勝敗は今!! ここで決する!!」

 熱いやり取りの後、トゥルエノが前面に飛び出した。

「来なさい! 世界が残酷だということを教えてあげるわ!」

 突出した彼女目がけ、全方向から一斉に小人が襲いかかる。
 体を軸に剣を回転させた彼女は、その半数以上ほど消滅させる。
 斬撃の網に引っ掛からなかった3体が糸を彼女の体に張り付かせ、急接近してくる。

「くっ!」

 反射的に身を浮かし軌道をそらす。足元の1体は蹴り潰し。背中側の1体は幹に体を打ち付けることによって潰す――背面に刃が刺さる感触がしたが、かまってはいられなかった。
 肩口を残りの1体が切りつけてくる。ガードのため目の前に刃をかざす。
 一撃を弾かれた小人は梢に糸を打ち出しいったん離れ、再度の襲撃を試みる。
 その糸を御言が『バルスウェンデン』で叩き切った。

「アヤカシとは、基本的に我らより大きく力が強い。無論、例外もいるがね。君達の様に――その際我々は協力しながら敵を倒す。君達のように――つまり、君達の戦術は私達にとっては既知のものなのだよ」

 勢いのまま地面にぶつかった小人を、すかさずハヤテが踏み付けた。

「糸出すわ飛び回るわ…面倒な戦い方しやがって」

 魔槍砲は威力が高いが、充填時間というものがいる。素早く動きかつ的として小さい目標には、本来使いにくい武器。

(メガブラスターで一気に狙うのがいいだろうけど、撃つのに時間がかかる上にその間の俺は言わば無防備、加えて直線状に並べないといけない…であれば、誰かと協力を…それなら一気に減らすことが…)

 思いを巡らせるところに、楠木が駆け寄ってきた。
 一体一体地道に対処していた彼女も、多勢に無勢とあって、すでにあちこち傷だらけだ。
 メガネも集中攻撃を受け壊されてしまったので、御言と同様、すでにつけていない。

「ハヤテくん、一人で頑張ろうなんてカッコつけは駄目だよ」

 目をしばたたかせる彼に続ける。頷きながら。

「考えてることぐらいわかるよ、友達だもん。成功するかは分かんないけど…任せて」

「任せましたよ…楠木さん。少しは年上らしく頼れる所、見せてくださいね」

 珍しくハヤテがにこりと笑ったのを見てから、彼女は、地を蹴る。
 リィムナの演奏による防御が届く範囲内にある木という木の目ぼしい枝を、次々刈り取って行く。

(小人にとってはそれなりの枝も、大木みたいな物。移動方向を少しでも狭められれば…!)

 意図は明確に理解されたのだろう。例の群を抜いて素早い1匹を筆頭に、能力の高い個体が空中を併走し、集中攻撃してくる。 足、腕、肩。容赦なく走る痛み。

(…戦いが終わって安心して笑ってくれる人が居るなら、へっちゃらだよ。笑ってくれるなら…この身が痛み傷つき、血に濡れようとも構わない!)

 唇を噛み締めた直後、眼球に刃が迫る。
 咄嗟に防いだ手のひらが貫かれた。
 バランスを崩し楠木は落ちる。その体を、伏路が何とか受け止めた。

「うぉっとお! また無茶をしおってからに…」

 彼女が動き回っていた間に充填を済ませていたハヤテは、能力の高い一団に銃口を向けた。少なくなった糸の設置点、次に動くだろう場所を見定めて。

「足が動かなくても…指が動く限り撃てるんだよ…糸もその気持ち悪い姿も全部薙ぎ払ってやるよ…喰らえ……!」

 一団が空中で弾けとんだ。
 飛び回っていた小人たちの間から鳴き声が上がる。意味は分からない。分からないが、動揺をきたしたらしいことだけは伝わってくる。
 リィムナは息継ぎをしながら、ふっと口の端を吊り上げた。

「主力部隊壊滅だね」

 残りの小人たちが総攻撃を仕掛けてきた。
 トゥルエノがそちらに向け、土くれをひと掴み投げ付ける。

「連携を取れるのがあなた達だけと思わない事ね…!」

 ぶぢ。

(む。なにやら不審な音が…)

 楠木への治癒を止めずに振り向いた伏路は顔を引きつらせた。
 リィムナが口から血を流し、食い千切った小人の残骸を吐き出していたので。

「おおおおい! なにしとるおぬし! そんなことしたら口の中傷つくに決まっとるじゃろ!」

「あ、へーきへーき。後で治癒したらいいから。なんだか恐怖と絶望の味がするよ」

 とか言いながら顔をしかめているあたり、やはり痛いのに違いない。
 御言が地に落ちた小人を冷たく見下ろした。

「わかったかね? 君たちに勝ち目はない。進撃するのは私達の方だと心得たまえ…」



 立ち込める瘴気の向こうに揺らぐ木立の間には、もはや動き回るものの影はない。

「…」

 仲間たちと亡骸の回収を急ぐエルレーンは、無言で顔を拭う。
 手の甲にべったり血が付く。

(小さなヒトみたいな、アヤカシ…)

 切り刻まれている遺骸とそれを見比べた彼女は、うそ寒い心地になる。

(…こいつらが、たくさん生まれたら…私たちは、どうすればいいんだろう)



 楠木が起き上がろうとするのを、ハヤテが止めている。

「駄目ですって。まだ安静にしてませんと」

 彼女は残念そうに、切れ切れの声を出した。

「…お花、探しに行きたいなぁ…。死んじゃった人に添えてあげたいの。懸命に最期まで戦ったのに誰も何も供えてくれないなんて…かなしいでしょ…?」

「それは俺がやっときますよ、楠木さん。獅子奮迅してくれたお礼です」

 楠木が泣くように微笑む。
 ふいと目をそらしハヤテは、足元の花を摘む。名も知らぬ、空から零れて来たような色の花を。