|
■オープニング本文 女騎士エリカの忍犬、コリーのレオポール。 「わん」 彼の子供たち4匹も、もう随分大きくなり、公的な忍犬養成所で訓練を受けるようになった。 その見学が最近の日課。 自分自身は少々あやしい個人忍犬スクールで適当な訓練を受け、適当な証明書を貰ったきりであるので、子供がこうしてしっかりしたところに通ってくれているのを見ると、動物ながらうれしい。 柵の外から覗いてみれば子供たちは、障害物越えにいそしんでいる。 「ウォウウォウウォウ」 応援していると施設の人が来て、うるさいと追い払われてしまった。 理不尽である。 思いながら帰路に着く彼は、途中寄り道をした。頼まれていた用事をすませるために。 ● 「わん」 「おやレオポール、いらっしゃい。お使い感心だね」 ここは食料品店。 店の主人はレオポールが咥え下げている買い物袋から銅貨を数枚を取り、代わりに『もふらクッキー』の袋を入れる。 「いつもご贔屓に有難うねー」 「わん」 このクッキーは相棒仲間であるもふら、スーちゃんの大好物なのだ。 本来たまのごほうびとして支給されるものだが、彼は主人の貯金箱からちょいちょい抜き、勝手に買っている。 自分が行くとばれるかもしれないので、このように知り合いに頼み、代行してもらっている次第。 「おー、お疲れたまでちレオポールたん。いつもありがとうでち」 スーちゃんは、明らかにお腹周りがたるたるしてきている。 もともともふらはスマートな体つきをしていない生き物であるが、それにしてもこれはちと丸々してきすぎだ。 いかに雑な性分の主人とはいってもそろそろいい加減異変に気付きそうだと、レオポールは思う。 昨日もしきりにスーちゃんの、肉が余って二重になっている首後ろをつまんでいた。『依頼同行が足りないかなー?』と呟いてもいた…。 「え、スーちゃんそんなに太ったでちか?」 「わん」 「気のせいでちよー」 しかし本人に自覚は乏しく、買ってきてもらったクッキーを早速ぽりぽり食べ始める始末。 レオポールは友達として心配である。ことがばれたら主人のエリカが怒り、おもちと化してきているスーちゃんを小突き回したり、階段を転がし倒したり、あるいは窓から投げたりしそうなので。 というわけで同じく相棒をしている知り合いに、助力を仰ぐとする。 どうしたらスーちゃんを痩せさせられるだろうかと、相談、相談。 「わんわんわん」 |
■参加者一覧 / 菊池 志郎(ia5584) / 无(ib1198) / 杉野 九寿重(ib3226) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / 伊波 楓真(ic0010) / 紫ノ眼 恋(ic0281) |
■リプレイ本文 「わん」 青龍寮の庭先で遊んでいた管狐のナイは、呼び声に振り向いた。 見ればふさふさした襟毛のコリー犬がいる。 「わん。わん、わん(レオポールですが、風天さんはどこですか?)」 「キュウ。キャア(今主人の无(ib1198)と依頼に出掛けてますよ)」 教えてやると、がっかりした様子。 聞けば相談事があったらしい。 (なら、どうせ暇だから…) 自分が引き受けよう。そう言ってやると、尻尾をはたはた振ってきた。 喜ばれるとこちらもうれしいものだ。 思ってからナイは、そういえば、と相手の素性について聞く。レオポールという名前が初耳だったもので。風天からもその名前は、聞いたことがない。 そう言うとレオポールは首を傾げた。会っているはずなんだけど、と。 「わん。わわん。わん…(家族構成は奥さんと子供が4匹。職業は騎士エリカの相棒。現住所はジルベリア…)」 そこまで聞いてナイは悟る。 (レスポールって風天から聞いてたけど) それが実は聞きまちがいであったことを。 「わわん」 「キャン。キュー」 庭園に現れたナイとレオポールに、鬼火玉の戒焔が寄って行く。小さくぽぽぽと揺れてご挨拶。そしてお話。 お互い言葉は交わせないが、言いたいことはなんとなく伝わるので、不自由はない。 (スーちゃんって前にスィーラ城で会った子だよね。自己管理が出来ないなんてしょうがないなぁ) 鬼火玉は炎の溜め息を吐いた後、俄然燃え始めた。 (この僕、戒焔がダイエットに一肌脱ぐよ! 皆で協力して痩せさせるからね) 主人であるマルカ・アルフォレスタ(ib4596)の方を見れば、ガーデンテーブルで、訪問客のエリカと話し込んでいる。 「あら、そうなのですか。スーちゃんがそんなに…」 「そうなのよ、よく見たら太ってきてるみたいで。もふらにも何かさせたほうがいいかしらね」 折角なので彼女らの邪魔はせず、戒焔は、こっそり抜け出すこととする。 (マルカ様はエリカさんとお茶でも飲んでてね♪) 「ベイリーズー、お客さん来てますよー」 と主人の伊波 楓真(ic0010)に言われても、迅鷹ベイリーズはどこ吹く風。 「しょうがないですねえ…」 ソファから動こうとしない相棒を楓真が、犬と管狐と鬼火玉が待つ玄関口まで運ぶ。 運動不足で若干ぽっちゃり気味となった重みを肩に感じながら。 「わんわん」 「キュ、キュウ」 「……」 三者三様の説明を受けたベイリーズは、内容を理解した。 『まあ、協力してやってもよいぞ』 ということで、主人の耳元をつつく。 「キー! キー!」 「…このまま乗せて運んでいけと? ベイリーズも、もう少し動いた方がいいんじゃないですかねえ…」 「キー! キー!」 「はいはい、分かりましたよ」 『ダイエットねぇ。からくりの俺にゃよくわかんねぇや』 訪ねてきた犬と管狐と鬼火玉と迅鷹(主人つき)に、エプロン姿のからくり白銀丸は首を傾げた。 縁側から座敷を振り返れば、主の紫ノ眼 恋(ic0281)が焼き肉をおかずに、もりもり山盛りご飯を食べている。おひつを横に自分で継ぎ足しお代わりをして――あれでもう三杯目だ。 「ん、なんだ白銀丸」 『…いや、別に。とにかく痩せたいなら、食わなきゃいい気もすっけどな。運動しときゃ食べても問題ないんだよ』 「わわん。わん」 『出来りゃ世話ないか。それもそうだな…恋、俺ちょっと行ってくるわ』 「あ、待て待て。食べ終わったらあたしも行くぞ。面白そうだからな」 人妖の朱雀は主、杉野 九寿重(ib3226)の尻尾と耳をもふれるだけもふっている。 「相棒足るは何時だって相方の意思を尊重して、伴った状況においてっ、必ずや意向に沿って手伝いつつ、目的を達成させるのに助力しなければならないんだよっ! なのでその為の体調に気を使うのは当たり前なのだし、増してや動き辛くなるのは言語道断なのだよねっ!」 居並ぶ犬、管狐、鬼火玉、鷹(主人つき)、からくり(主人同行)に言ってのけた彼女に、スキンシップが慣れっこになっている九寿重も同意した。 「己を律し切れないものは、いざと言うとき役に立ちません。といってもこれはなにも相棒に限った話ではございませんがね。主側もまた手本となるべく、その旨を心掛けるべき――ところで最近のエリカ様はどうされておられるのですか?」 「わわわん。わん。わふ」 「なるほど、相変わらずの暴れん坊ぶりと…今少し家政に目を向けるべきかも知れませんね」 「しーちゃんしーちゃん!」 その呼び方をやめてくれまいかと主である菊池 志郎(ia5584)は、いつも思うし言ってるのだが、羽妖精の天詩は一向に聞く気配がない。周辺を目まぐるしく飛び回り、読書の邪魔をする。 「お友達が遊びに行こうって誘いに来てるの! うた、行ってきてもいいかな、いいかな!」 「うん、それはいいけど…」 「やたー! じゃあ行ってきまーす!」 返事を聞くが早いかびゅんと飛び出して行く相棒。 志郎は慌てて窓辺に駆け寄った。一応どこのお友達か確認しておかなければいけないので。 見れば犬と管狐と鬼火玉と迅鷹(主人つき)とからくり(主人同行)と人妖という多彩な顔触れが、ぞろぞろ連れ立って移動して行くところ。 「…ピクニックでもあるんですかねえ…」 ● 「これはお揃いでどうしたでちか、みなたま」 庭先でクッキーを貪り寝そべっているスーちゃんは、確かに太り過ぎていた。 肩の肉は盛り上がりお腹の肉は垂れお尻は大きくなり…悪い方に進化したすごいもふら。 天詩が純真にして天真爛漫な眼を輝かせる。 「すごいね、スーちゃんはまんまるだね、すごいね!」 羽をぱたぱたさせスーちゃんの周囲を旋回、明るく元気に誘いかける。 「スーちゃん、レオちゃん、遊ぼう! うたはおにごっこがしたいな〜みんなでやろ!」 「え〜。スーちゃん遠慮するでち。動くとお腹がすくのでちよー」 そう言いながらバクバク食い続けてるのはどういうことか。 ジト目になりながら白銀丸は、スーちゃんに発破をかける。 『なあ、やろうぜ。鬼ごっこで培われる俊敏性は戦闘でも役に立つしよ』 スーちゃんは突き出た腹をかきながら、だれだれ答えた。 「素早さとかいらないでちよ。もふらは見守るのがお仕事なのでちから」 『戦闘しねぇのかよ…良いから少しは動け!』 「いやでちー」 口元以外微動だにしない太もふら。 ナイはチョークを口に咥え、スーちゃんの周囲をなぞる。それから白銀丸に頼みスーちゃんを動かしてもらい、床に記された輪郭を前足で示す。よく見ろと。 「キャウ、キャウ(太ると大変だよね)キュウー。キャン。キュー(もふらさんでも寝返りを激しくやればやせるかも)」 土のうとしか見えない痕跡を前にしてなお、スーちゃんは動じなかった。 「大丈夫でち。お相撲さんよりは断然痩せているのでち」 確実に駄目な思考。並大抵の方法でやる気にさせるのは、かなり難しいみたい。 思い知るナイは、さてどうしようかと考え込む。 相手が動いてくれないのに焦れた天詩が、ぷうっと頬を膨らませた。遊んでよと再度言い、こう続ける。 「エリちゃんに、スーちゃんがおかしばっかり食べて遊んでくれないって言うもん」 たるんでいたスーちゃんの体がびっと硬直した。 「まあ待つでちよ天詩たん、早まったことはしないほうがいいのでちよ。ご主人たまが暴れ始めたら周囲1キロは巻き込まれるでち。このクッキーを一枚あげるでちからないしょないしょにするのでち」 見え見えな買収工作である。 しかし天詩は遊びたいのであってお菓子が欲しいのではない。いらないよと首を振り、スーちゃんの耳を引っ張る。 「おにごっこするのー」 「いやでちー」 様子を見ていたベイリーズは、主人の肩から離れた。 「キー! キー!(我は日向ぼっこに勤しまねばならぬ…だが、こやつのダイエットとやらを手伝ってやらんことも無いぞ)」 「あうち! なにするでちかベイリーズたん!」 いきなり鉤爪で尻を蹴られ、スーちゃんは一ミリほど飛び上がった。 ベイリーズはそこへ立て続けに蹴りを見舞う。痛いのでスーちゃんは、よたよた転がるように動く。 取り敢えず動き回ればいいんだろうと思っているベイリーズには、満足の行く結果だ。 「クルルル…(ふむ、これはいい運動になるのではないだろうか? そうは思わぬかスーよ?)」 「思わないでちよ! 虐待でち虐待でち!」 ナイはスーちゃんの注意がよそに向いているのを確認し、クッキーの袋をさっと奪い取った。そして、ぽーんと宙に放る。 「わふ!」 レオポールがキャッチし、ひょいひょい庭を走りだした。 スーちゃんは慌てて追いかける。 「スーちゃんの、スーちゃんのクッキー返すのでちー」 しかし太っているのですぐ息切れし、立ち止まってしまう。 「ふん、いいでちよ。お部屋にまだ買い置きがあるでちから」 とかなんとか憎まれ口を叩きながら引き返そうとするその尻を、降下してきた戒焔がちろちろ炙った。 (ほら、頑張って走って!) もちろん火傷させないように手加減してであるが、熱いものは熱い。 スーちゃんは再びどたどた動き始める。 「あちちちち! お尻燃えるでち! 虐待でち虐待でち!」 天詩が走って追いかける。相手が飛べないので、飛行はしばし封印だ。 「スーちゃん、捕まえちゃうぞー!」 同じくベイリーズも追う。 「キーッ! キーッ!」 白銀丸は腕組みをして、それを眺める。 『クッキーっつったら油と砂糖の塊みたいなもんだからなー。際限なく食ってたらそりゃ太るわ』 朱雀は肩をすくめた。いくらも動いてないのに早くもフウフウ言ってるスーちゃんの有り様を見て。 「だから皆がこうして集まって、体型を整えるダイエットを進めてるのだけどっ、アタシとしてはその元凶たる隠れての買い食いがいけないと思うんだよねっ」 『…確かにな。銭の横領はちっといただけねェかな。信頼関係ってのはやっぱ、大事だしよ』 「だからここは心を鬼にし、きちんと何故こうなったかを相方に報告してっ、金銭管理をきちんとする様に促すんだよねっ。そのなった結果、小突かれたり転がされたりしてもっ、それは自己責任というものだねっ」 責任回避を相当に含まなくもない台詞だが、恋はおおいに得心したらしく、うんうん頷いている。 「所詮いつまでも隠しきれることでなし。これぞ因果は巡るという奴だ」 白銀丸も異を唱えるつもりはない。結末を考えるとほんのちょっぴりかわいそうだが、仕方ないことであろう。 「シロ、どこに行くのだ?」 『いや、屋敷の台所借りて、低カロリーなクッキーでも作ってみるかと思ってよ。動いた後にまた同じモンしこたま食っちゃ、しょうがねえもんな』 話を聞き楓真が寄ってくる。 「あ、なんならお手伝いしましょうか? 僕も甘いものが大好きですし」 『ああ、いいぜ』 ● 「も、もう駄目でち…スーちゃんグロッキーでち…」 「ギィイ…」 スーちゃんが伏すと同時にベイリーズも、芝生の上に舞い降りた。日ごろの運動不足がたたり、両者早くもスタミナが切れたのである。 天詩や戒焔やナイ、レオポールなど、まだまだはつらつ元気だというのに。 「ええ〜もっと遊ぼうよ〜」 天詩がぴょんぴょん回りを跳ねても、戒焔が飛び回っても、反応しない。ひとまず休んで何か飲んで何か食べたいとそれだけである。 「キーキー(主よ! おやつを所望する!)」 というわけで動く止まり木こと主人を呼ぶベイリーズ。 返事がない。 怪しんで周囲を見回した彼は、大変な事態に気が付いた。 「キィキィ!(…ハッ! 居ない!?)」 大いに焦ってなおキイキイ鳴き騒ぐ。 ナイはスーちゃんの体の変化を確かめてみたが、はっきり分かるほど体積は減ってない。 (…いっそどつきまわされてスパルタにされたら痩せるんじゃ) 首を傾けた彼は、クッキーの袋を地面に置き匂いを嗅いでいるレオポールを、目配せで呼んだ。 「わん?」 「キュン。キュウキュウ…」 こしょこしょ内緒話をする犬と管狐。 スーちゃんの背に乗って「ハイヨー、スーちゃん!」と元気づける天詩。 恋と朱雀は迅鷹ともふらの背をぺちぺち叩く。 「こら、まだ一時間も経ってないのに何たる醜態だ。早く起きんかお前たち」 「この程度じゃ脂肪燃焼出来てないよっ。立て、立つんだっ」 「駄目でち…スーちゃんたち真っ白に燃え尽きたでち…」 「ギィ…」 てこでも動こうとしない太めの相棒たち。 とそこへ、おからクッキーを盛った盆を手に、白銀丸と楓真がやってきた。 『おーい、おやつ作ってきてやったぞー』 「少し休憩しますかー」 問題の2匹はまさかという素早さで起き上がり、飢えたアヤカシの形相で目標に突っ込んで行く。 「おやつでちー!」 「ギィイイイイイ!」 質量が倍増しているもふらが宙を跳ぶ。迅鷹がきりもみ急降下する。 『うぉおおおおお!?』 「ちょっと待ちなさ…」 白銀丸たちは揃って盆ごと引っ繰り返された。 派手に地面にぶちまけられるおからクッキー。2匹はそれを食う食う食う。 「なーんだ、スーちゃんたちまだまだ全然大丈夫だよっ♪ おにごっこの続きしよう、続きー」 うきうきと言う天詩。そこにエリカが帰ってきた。 「あれ、どうしたの今日は。こんなにたくさん集まって」 庭先のとっちらかった様子を不思議がる彼女に、すすすと朱雀が近づく。ナイもまた。 「エリカ、ちょっとこっちに」 「テミジカナ、オハナシ、アルノ」 がつがつ食べているスーちゃんは彼女の帰宅に気づかなかった。太ったため五感の反応も鈍っていたのかしれない。 手短な話を聞き終わったエリカは大股で自分の相棒に近づき、声をかける。 「ただいま、スーちゃん」 「おお、ご主人たまお帰りな」 相手が言い終わらないうち、がっと顔の両側を挟み込み、宙吊り。 「あんた…勝手に人の貯金箱からお金盗んで買い食いしてたんですってね…」 数センチ先にある笑えない笑顔に、さすがのスーちゃんも危機感を覚えたもようだ。大量の汗をかいている。 「首が抜ける首が抜けるこの体勢は危険でちご主人たま」 エリカは勢いをつけスーちゃんの額に自分の額をぶつけた。すごく痛そうな音を響かせて。 「ごほおお! 頭が割れるよーに痛いでち!」 地面に落とされ転げ回るもふら。その前で、剣が鞘から抜き放たれる。 「なななん何のつもりでちかご主人たま」 「いえ、ダイエットに協力してあげようかと思ってね…全身くまなく削いでいったら大分体重が減るでしょう?」 「それ最早ダイエットじゃないでち! きゃあああ虐殺でち虐殺でち!」 「待てこらー!」 振り回される白刃に追われ全力疾走し始めるスーちゃん。 「あ、待ってー。うたも鬼ごっこ交ざるう」 追いかけて行く天詩。 (やっぱり痩せるには走って汗をかく事だよね!) そして戒焔。 見送る白銀丸はふと思い出したように、隣の主人に言う。 『お前もダイエットしたほうが良いんじゃね? 腹の肉……』 言いながら、むにと相手の腹を掴む。少々の増量を確認するために。 途端地面に落ちていたクッキーのお盆が、顔に向かって飛んできた。 『って何すんだ痛ェ! 手当たり次第物を投げるなー!』 「うるせぇ! 狼の体に勝手に触れるんじゃねえ!」 命がかかっているかもしれない壮絶な鬼ごっこが終わったのは、空にカラスが飛び始める頃であった。 スーちゃんのダイエットは成功したと言えよう。本当に燃え尽きている体の線が――毛も一部――げそっと削げ落ちているのだから。 「おもしろかったねー、また遊ぼうね!」 天詩は迎えに来た志郎に連れられ帰って行く。 白銀丸と恋、ベイリーズと楓真も、連れ立って帰宅していった。 「さー、アタシも九寿重が待ってるからかーえろっと。じゃあまたねー」 「キャン。キュウ」 「うぉーん」 手を振って帰って行く朱雀と、耳をぱたつかせ帰って行くナイに、遠吠えでさよならするレオポール。 最後に残った戒焔は、炎の言葉を吐いた。 (スーちゃん上手く痩せられて、よかったね) 「わん」 はたはた尾を振るレオポールの姿に、彼はにっこりした。あくまでも炎として。 (心配してくれる友達がいて、スーちゃんは幸せだよね…) 火の玉は夕暮れと一体化しながら、家路目がけて飛んで行く。 (さあ、帰ってこの話をマルカ様にしてあげなきゃ…) ゆらゆらと、楽しげに。 |