いもまつり
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/08 15:46



■オープニング本文

 北の帝国ジルベリア。
 今はもう秋。長い冬を間近に控えた季節。



 天気は晴れ。小春日和というのか程よく暖かい。
 丘また丘が連なる一面の緑――全てじゃがいも。
 ここはジルベリアにおいての一大ジャガイモ生産地。
 その一角において現在「芋狩り」が行われている。これは地元の有志が様々な人に農業の重要性を知ってもらおうと企画した催しだ。
 簡単に言えばいちご狩り、なし狩り、ぶどう狩り等と同じもの。入場料を払い収穫したものはその場で食べ、持ち帰りの際はぬかりなく別料金がかかるという按配だ(とはここはいえなかなか良心的であって、お持ち帰りの際の料金は市場価格の半額程度と設定されている)。
 賞金などは出ないが、一番大きいジャガイモを掘り当てたものは、今年度の収穫王として地方の農業機関誌に名前とインタビュー記事がでかでか載ることになっている。
 今年はどういうわけか、参加者に開拓者が多いようだ。パートナーの忍犬やもふら様等が地面を掘り返している姿が、そこここで散見される‥‥。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / バロン(ia6062) / 玄間 北斗(ib0342) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / キャメル(ib9028) / 不破 イヅル(ib9242) / マルセール(ib9563) / 雁久良 霧依(ib9706


■リプレイ本文

 天は高く澄み、地は果てまで広がる。
 ジルベリア特有の乾き澄んだ空気の中、キャメル(ib9028)は両手を口に添え、元気いっぱい叫んだ。

「おいもさーん!」

 そして耳をすます。
 平野であるのでやまびこは帰ってこないが彼女は全然気にせず、うんうん頷いた。

「さぁ、くーちゃん! ほってほってほりまくるの〜!」

 キャン! とうれしそうな鳴き声を上げ、尻尾を振り倒す彼女の忍犬、くーちゃん。
 ほほえましい光景だ。

(それにしてもこの子は、何故わしの後ろに身を潜めているのだろうか‥‥)

 隠れ里で染み付いた習性どおり振る舞っているのだけだと知らぬバロン(ia6062)は首を傾げつつ、駿龍ミストラルの首を叩く。

「丁度同じ仲間も何匹かいるようだからな。寂しくあるまい」

 彼が言うとおり会場には、ラグナ・グラウシード(ib8459)が連れてきた駿龍レギと、 マルセール(ib9563)が連れてきた駿龍テバサキ、不破 イヅル(ib9242)の連れてきた駿龍璃多の姿があった。
 同種族同士気が合うのか3匹並んで座り、ぐいぐい鳴き交わしている。
 しかし主同士はというと、そこまで親しげでも無さそうだ。
 いやマルセールとイヅルは初めから同行してきたということもあり。

「‥‥ん‥‥。‥‥豊作‥‥みたいな‥‥?」

「わぁ‥‥この一面の緑の下に芋があるのか? うん、土のいい匂いがするな。芋は店先に並んでるのしか見たことがないから‥‥たくさん収穫出来るといいな♪ イヅル、それは?」

「‥‥借りた‥‥軍手‥‥手、荒れるから‥‥爪の間に土入るし‥‥」

「おお、それは気遣いすまないな」

 と悪くない雰囲気なのだが、それを見ているラグナのほうが完全に敵意剥き出しなのだ。

「爆ぜろ爆ぜろりあじゅう爆ぜろりあじゅう爆ぜろ」

 病み気味な台詞を呟き続け、あげく見せつけようとでも言うのだろうか、背中に負ぶっているウサギのぬいぐるみに話しかけ始めた。

「一番大きなジャガイモを引き抜いたら『収穫王』になれるらしいぞ、うさみたん! 何? オレがきっと一番になれるだろうって? そんな買いかぶってもらうと照れるぜうさみちゃん!」

「ねえ八曜丸、あの人はどうしてぬいぐるみに話しかけているんでしょうね」

 柚乃(ia0638)は、相棒もふらから作業ズボンの裾を噛まれ引っ張られ離されていく。

「シッ、見ちゃ駄目もふー。ああいうのは目を合わせると襲ってくるもふー。そんなことより芋もふ芋もふー」

 上着をすぽーんと脱ぎ散らかし、裸足で袖無しシャツ一枚、下には白いビキニ水着を着用という健康優良児なリィムナ・ピサレット(ib5201)も、優しいお姉さん(仮)の雁久良 霧依(ib97069)に手を引かれ、これまた移動。

「さ、あっちに行きましょうね。あのお兄さんは病気だからそっとしておいてあげないといけないのよ」

「ふーん。どんな病気なの?」

「それはそれは恐ろしい、非モテという病気よ。それにしてもリィムナちゃん、寒くない?」

「寒い? ううんへっちゃら♪ 裸足で突撃!」

「リィムナちゃん元気ね♪ 子供は風の子♪」

 言いながら彼女は野良着に着替え、自分とリィムナの脱いだものを畳み、滑空艇カリグラマシーンの翼にかけておいた。

「しっかり見張っててちょうだいね、チェンタウロ」

 番龍として見張りに立つリィムナの炎龍チェンタウロは、ぐぐ、と低い声で応じる。霧依についてどことなくうさん臭そうな視線を注ぎつつも。
 と、そこにエルレーン(ib7455)が近づいてきた。

「あの‥‥うちのラルも近くに置いてよろしいでしょうか?」

「あ、どうぞどうぞ。リィムナちゃーん、さあ掘りましょう!」

 陽気に場から離れて行く霧依。
 炎龍ラルの背に身を潜めたまま、エルレーンはため息をつく。万事やけくそ気味なラグナを盗み見て。

「あはは、これはなかなか大きいな、なあうさみたん?」

 何を隠そう彼は彼女にとって命を付け狙ってくる兄弟子。
 そうなるに至った説明は省くが、とりあえず顔を合わせるごとに重症化していっているような有り様に深く心を痛める次第。
 出来れば彼と仲直りしたい。そんな気持ちなのだ。だけどそれにはどうしたらいいものか。

「‥‥」

 悩むところ、礼野 真夢紀(ia1144)、そして玄間 北斗(ib0342) の話し声が聞こえてきた。

「向こうのほうなんかまだ掘られてないから、たくさんありそうですよ」

「そうだね〜まゆちゃんと一緒にお芋掘りなのだぁ〜大きくて美味しいお芋を一杯取ろうなのだぁ〜」

「ぜひそうしましょう。しらさぎ、じゃが芋を掘りに行きましょう」

「はい。ジャガイモというのはシマにもあるあれですね」

「あ、まゆちゃんのところにもあるんだ〜」

「ええ、最近生産を始めまして。今日は掘るだけではなく、調理法も教えますよ、しらさぎ。じゃがいもといえば、マッシュポテトなる物が美味しいんです♪ 薄くスライスして油で揚げるとお菓子になったりと‥‥他にも様々な調理法がありますよね。何を作ろうか、今から楽しみです☆」

 前者は相棒としてもんぺ姿のからくりを連れ、後者は忍犬黒曜を連れている。
 しかしそれはさしあたりエルレーンにはどうでもよかった。問題は会話の内容だ。

「お菓子‥‥」

 彼女はこぶしを手にポンと打ち付け、芋掘り作業に赴いた。頬被りをして――ラグナに顔バレすると厄介なので。



 リィムナは四つん這いで地面に顔を近付けくんくん土の香りを嗅ぎ、芋を掘る。
 踏み占めるたび感じる大地の感触は、彼女にとってちっともいやなものではない。
 茎を引っぱりたくさんのジャガイモが顔を出すたび、歓声をあげる。

「わっ、こんなに一杯! はーい、どんどんいくよ!」

 そんな彼女に触発され、柚乃と八曜丸も掘りまくる。

「あっ、負けないぞー!」

「芋もふ、芋もふ!」

 奮闘振りを観戦するふりして、シャツの下から出ているリィムナの細い手足を隅から隅まで嘗めるようにガン見――もとい微笑みながら温かく見守る霧依は、てぐわ使用。

「‥‥リィムナちゃん、細い足が丸見えね‥‥まあそれはともかく、コツは丁寧に掘る事ね♪」

 キャメルは忍犬くーちゃんと協力しあい、掘り役収穫役に分かれ、効率よくまとめていく。

「おいもさん、すきー! おいもさんって、引き抜いてみるまで分からないよね。キャメルねー、宝物見つけるみたいな感じがして好きよ。リィムナしゃんには負けないぞ!」

 イヅルは不慣れなマルセールに掘り方を実演し、教えている。

「‥‥こうして根元をしっかり掴んで‥‥ゆっくり引いて‥‥」

 彼の仕事はかなり丁寧。抜いた後も掘り返し、土の中に残っているジャガイモを傷つけないように取り出している。

「‥‥とりあえずこれが‥‥基本だ‥‥大事な食べ物‥‥だからな‥‥」

「そうか、分かった。早速やってみる」

 示されたように真似し、収穫を得るマルセール。
 店頭の物を買うのとは全然違った充実感がそこにはあった。クールな彼女の顔もつい緩んできてしまう。

「そうだ、普段イヅルには料理をふるまってもらってばかりだから‥‥材料も調理器具も揃っているこの機会に是非普段のお礼をしたいものだ!」

 イヅルは一瞬目を泳がせた。それから新しいジャガイモの茎に取り掛かり、ゆっくり引き抜いて行く。

(謎料理になりそうな場合はさりげなく止めたい‥‥止められればいいな‥‥謎料理になったら‥‥頑張って食べる‥‥食べきる‥‥)

 そう思える彼はよき漢である。



 バロンと真夢紀は、わりと真面目な話をしている。

「芋は年に複数回収穫でき、寒い気候でも育ちやすい故ジルベリアでは重宝されている。わしも若い頃はよく収穫を手伝わされたものだ‥‥ここまで大きい農地ではなかったがな。食するにも粉にして挽くなどという手間がかからんからな」

「そうなのです。そこが実に便利で。でも、じゃがいもからもお酒が造れるとは知りませんでした。どんな製法で作るのか、後でお教え願えませんか?」

「ああ、かまわんとも」

 北斗は側で子供の相手をしていた。たれたぬきの着ぐるみ姿が親しみやすいらしい、収穫に忙しい親たちから構ってもらえない近所のはな垂れたちが、まといついてくる。

「てんぎって、ふゆでもゆきがふらないとこがあるって、ほんとけ?」

「ん〜場所にもよるけど〜そういうところも、あるよぉ〜ねえしらさぎちゃん」

「はい。あったかいところ、ありますよ。でも、アル・カマルほどあたたかくはないんです」

 からくりも手を休めにこにこ相手をし、忍犬は右から左から手を伸ばされ尻尾を振るのに忙しい。
 両者収穫スピードはのんびりしたものだ。



 待ちの一手である駿龍4匹は鳴き交わすのも飽きてきたのか瞼を半分綴じ、うとうとしている。炎龍たちも同様で、滑空艇に顎を乗せ欠伸。
 その背後に隠れ、芋掘りもそこそこに切り上げたエルレーンは、運営から借りた簡易オーブンの中をじっと眺めていた。
 中で焼けているのは先程取ったジャガイモをゆでて裏ごしし、砂糖と卵を混ぜてカップに入れたもの。

「すいーとぽてと、だよっ」

 本来サツマイモでやるものだが、聞いたところによればジャガイモに砂糖やビスケットの粉を混ぜ作るお菓子もあるらしい。であれば、そう変ではないはず。
 期待しつつ焼けたものを取り出し、パクリ一口。

「‥‥自分で食べても、おいしいの」

 ひいき目かもしれないが食べられなくはない。
 安心した彼女はラッピングし再度頬被り。リィムナに視線を注ぎ続けているせいで一番暇にしてそうに見える霧依に近づく。

「あのう、すいません‥‥」



「ジャガイモ掘りは楽しいな、なあうさみたん!」

 最初単なる強がりだったが本気でそう思うようになってしまっているラグナ。
 彼は今だけはりあじゅうの存在を忘れ、心に平安を取り戻している。早い話が現実逃避。
 そこに信じられないような幸運が舞い込んできた。

「あ、すいません。あなたにこれを渡すようにと頼まれましたんで」

 どこかの女性――霧依がいきなりお菓子をくれたのだ。女の子女の子した、ピンク色にかわいくラッピングされた奴を。

「‥‥!」

 彼は彼女の姿を見ることができなかった。顔も確かめられなかった。何故なら滂沱の涙で視界が完全に塞がれていたので。
 もうイモ掘りなぞどうでもよい。
 地べたに腰を下ろした震える手でラッピングをはがしスイートポテトを取り出し、口に入れる。
 倍加して涙が溢れてきた。

「‥‥うさみたん、おいしいお!」

 男泣きしている姿を、エルレーンがこっそり眺めている。キャメルとリィムナが作り上げたジャガイモ山の背後に隠れて。

「‥‥エルレーンしゃん、なにしてるんだろ?」

「うーん、なんだろう。ねえ霧依さん、なにかなあ」

 少女らの問いかけを受けた霧依は、訳知り顔に答える。

「いわゆるデレよ」

 そこでカランカランとベルが鳴った。

「みなさーん、現時点で最も大きい収穫物を出してくださーい! 測定しまーす!」

 彼女はてぐわを置き、2人にほほ笑みかける。

「さ、行きましょうか。リィムナちゃん、おいで。手足拭いて上げるから」



 芋掘り会場の特設調理場は、食べるやら作るやらでおおわらわ。油や肉や揚げ物の香ばしい匂いが花盛り。

「まだかもふ、まだかもふ」

「もう八曜丸、うろちょろしない。もう少しだよー」

 柚乃はマッシュポテトとそれを利用したコロッケ、それからポテトチップを作るのに忙しい。
 待ち切れない相棒は時々台の下から手を伸ばし、盗み食いしていた。

「いい、これ御醤油があうのよ。こうやって薄切りや拍子切りにし、油で揚げ塩振って‥‥」

 真夢紀はしらさぎに料理を教えている。

「小さいのを綺麗に洗って、皮ごと茹で二つ割にして、両面に焼き色をつけたところ、この焼き肉のたれを――」

 後はアル・カマル料理のカレーや、天儀料理の肉じゃが。ジルベリア風にじゃが芋、玉葱、ベーコンを炒め塩胡椒で味付け、チーズを乗せたのも作成中。
 北斗はそれらの完成を待ちつつ、シンプルにたき火で焼き芋を作り塩を振り、黒曜、子供たちと分け合って食べていた。

「ほくほくおいしいねぇ〜」

 キャメルは七輪に網を置き、その上で焼く。
 十字に切れ目を入れ、あつあつのところバター。黄色い固まりがとろとろ溶け、いい香り。口に入れると更にいい感じ。

「あふ、あちあち、でもおいひい」

 彼女は続けてくずいもの煮っころがしも作り始めた。醤油と砂糖と、味醂がキモ。

「こっちはお土産に‥‥あ、くーちゃんには塩つきしかだめだよ?」



 イヅルはマルセールの横で、彼女の調理を監督するつもりだった。

「甘味を出すのには‥‥水飴でいいだろうか?」

 のだが止める暇も無く芋の入ったナベに麦芽水飴が投入された。

「あとは‥‥料理には酒を入れると美味しいと聞いたな‥‥」

 続けて葡萄酒がどぼどぼと。

「この際だから色んな料理に挑戦したいものだな‥‥!」

 何かよく分からない香草も入った。

「‥‥」

 悟りの地平に入ったイヅルは、口を差し挟む事なくただ見守る。


 泡立つ液体がテーブルに運ばれてきた。運営ふるまいのビールだ。

「ま、気が利いてるわね」

 霧依はそれを自分の分だけ受け取った。ごちそうしているリィムナは未成年なので、当然なし。

「この塩漬け肉とジャガイモの炒めもの、すごくおいしーい。霧依さんの芋料理をお腹いっぱい食べて幸せ♪」

「んふふ、ありがと。いっぱいあるからどんどん食べてねー‥‥あらバロンさん、それおいしそうね。どうやって作ったの?」

「ああ、ジャガイモを軽く茹で、後に表面をカリカリに焼いただけでな‥‥酒のつまみにはこれがいいぞ」

 ラグナはお菓子をもらったという事実に浸り続けている。座り込んだまま。

「いい日だ‥‥今日は‥‥来てよかったな、なあうさみたん」

 エルレーンはといえば、やっぱりそれを陰から見守っていた。若干ニヤニヤしつつ。
 そこへお知らせが。

「えー、皆様、ただ今判定結果が出ました。今年の収穫王は‥‥礼野 真夢紀さんです!」

 まるで予想していなかったことに、真夢紀は目を丸くする。

「ええっ!」

「さあ、どうぞコメントを!」

 壇上に手を引かれて立ってみたものの、何を言えばいいものか。頭をぐるぐるさせて彼女は、

「あの‥‥あの‥‥その、それでは‥‥」




 後日、農業機関紙の紙面には、こういう記事が載っていた。


 今年の収穫王(天儀からお越しの礼野 真夢紀さん(10歳))のコメント

『持ち帰って地元で春の種芋にしたいです。きっと立派なじゃが芋が沢山穫れるでしょうから』