|
■オープニング本文 忍犬という肩書きを持つコリー犬レオポールは、もこもこの子供たちを並べて点呼。 「わん」 「きゃん」「きゃん」「きゃん」「…きゃん」 いつもテンポが遅い最後の子がちょっと心配。 親心をうずかせ顔を舐めてやる彼は、ふと子供たちを母犬のところへ押しやり、お邸の門のところまでひょいひょい歩いて行く。見慣れぬ人間が来ていたので。 制服を着た女学生。いかにもお嬢様学校、といった雰囲気。 もちろんレオポールは犬なのでそんな細かいところまで分からないが、怖そうな人でなさそうだから挨拶した。 「わん」 さすれば頭を撫でてくれたから、尻尾で感謝の表現。 そこに声が。 「あー…今日はよく働いたわー」 主人であるエリカが戻ってきた。 口の端を切ったりすり傷を作ったりしているがご機嫌は良さそう。 「でちな。食人鬼の群れを斬っては投げ斬っては潰し。正味どっちがアヤカシだかわかんない暴れっぷりでちた」 「…スーちゃん、あんたは戦いのときほとんど見てるだけなんだからね、人のやり方にケチつけないで」 「ケチなんてつけてはおりまちぇんよ。事実ありのままでち。開拓者という仕事がこの世に存在しててよかったとスーちゃん心から思うのでち。でなければエリカたまは荒ぶる血を持て余し犯罪の道をひた走ったことでちょう虐待でち虐待でち!」 もふらのスーちゃん通常運転。 レオポールが思ったところ、頭を撫でていた女学生がいきなりエリカのほうに走って行き、スライディング土下座をした。 「エリカ番長! 助けてくだせえ!」 「誰が番長よ!…ていうか、あんたどこの子?」 身に覚えのない呼びかけに怒りかつ戸惑っているエリカに、女学生が滝のごとき涙を流し、すがりつく。 「あ、あたしエリカ番長の出身校、聖マリアンヌ女学院のアガサ・クリスティンす! 今初めてお目にかかったんす! どうか今後ともお見知りおきくだせえ!」 「いや、お見知りおきとか言われても…」 「助けてくだせえ、このままだとあたしマジやばいんっす! 犯されて殺されて埋められるっす! うわああああ!」 「大変でちエリカ番長たま、事件発生でち!」 「スーちゃんあんたはまた悪乗りして! 番長じゃないって言ってんでしょうが!」 ● 「あのね、いい、何か勘違いしてるみたいだけど、私は番長じゃないから」 通された部屋で出されたクッキーを食べながら、女学生は首を振る。 「ご謙遜をっす。エリカ番長の業績はみな知ってるっす。在学中に100校殴りこみ行ったとか、盗んだ馬車でジェレゾの大通りを暴走したとか、スィーラ城の窓ガラス割りまくったとか…半端ないっす!」 「そんなことしてない! 大体番長名乗ったこともない! なんなのちょっと、誰の創作なのそれは!」 両拳でテーブルを叩く彼女の後ろから、したり声。 「火のないところにはなんとやらと言いますからねえ。僕は他校だったけど、確かに当時、あなたのそれっぽい噂聞いたことありますよ?」 「…ロータス、いつからそこにいたの」 「昨日から。気付かないとは徐々に僕の存在が日常化してきてるみたいですね。結構なこ」 男の顔に全力でクッションを投げつけてからエリカは、女学生に向き直った。 「…で、結局どういう事情なの」 「はい。あたし今度他校のやつとタイマン張ることになったんす。でもそいつ、知り合いにヤクザがいるとかで、そいつを応援に連れてくるって、お前なんかギタギタのメタメタにしてやるって…やり方ちょう汚いっす! あたし、そんなんに勝てる自信全然ないっすよ!」 「…じゃあ止めときなさいよ」 「そういうわけにはいかないっす。この戦いにはあたしと仲間の譲っちゃいけねえ最後のプライドがかかってるっす!」 「なんかふわふわした動機でち。そしてその割には、すぐ助けを求めるのでちな」 「不可抗力っす。相手が汚い手を使うならこっちだって遠慮する必要ないっす」 「ああ、それは正しい考え。この子将来大成しそうですよね、エリカさん」 「あんたは黙っててロータス」 ● ジェレゾのどことも知れない住宅地区。広い川原の橋の下。 日も落ちた薄暗がりで女学生たちがもめている。 「どうするんですかアリスさん! あいつ番長OB連れてくるっていうじゃないですか!」 「エリカだよエリカ、伝説の野獣番長じゃん! だから変なハッタリかけるのやめておこうって私最初に言ったじゃん! やだー、まだ死にたくないー!」 「それもこれもアリスが思いつきで行動するからなのです! 喧嘩弱いのに喧嘩吹っかけるからなのです!」 「黙りよあんたたち! まだ勝負が決まったわけじゃないやろ! 私にはちゃんと奥の手あんねん!」 動揺しまくっている手下を従え、ボスの女学生は踏ん反りかえる。 足は見るからにガクガクしており、頼りないことこの上ない。 「奥の手ってなんですよ!」 「どうせ口だけなんでしょ、アリスいっつもそうじゃん! 飛び出しナイフ使えば指切って、ヌンチャク使えば頭撃って、大泣きする人間じゃん!」 「やかまし! 今度は本当にあんねん! 皆さん、いらしてえーなー!」 アリスの声に、物陰からぞろぞろ人が出てきた。 皆なんとなく醒めたというか呆れたというかそんな目をしている。 「見い! 朝からギルドの入り口で粘って、泣き落としで助っ人集めてきたねんで!」 そこにアガサたちがやってきた。 「ふふん、てっきりもう逃げたかと思っていたのに、雁首揃えていやがったっすね! ここがお前たちの地獄の一丁目っす! ふははははは!」 高笑いする彼女の姿に、スーちゃんが目を細める。 「虎の威を借るのは気持ちいいことでちなあ、アガサたん」 エリカは逆に目を丸くする。相手側にいる傭兵仲間の姿に。 「あれ、あんたたち…何してんの?」 |
■参加者一覧
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
岩宿 太郎(ib0852)
30歳・男・志
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ |
■リプレイ本文 岩宿 太郎(ib0852)は焦っていた。 河原。橋の下。夜。2手に分かれたグループ。状況から判断するに、どうやら抗争が起きているらしい。 (黒服か! 黒服がいけないのか!) 応援ヤクザとしてアガサチームに拉致された原因を己の装束に求め、悔やむ太郎。 一方アリスチームにいる霧雁(ib6739)は、自ら気合が入ったコーディネートをしていた。何を隠そう彼は10代の頃、不良性がウリの演奏集団――猫の神威人のみで構成されることから「猫面哭夜」(にゃめんなよ)と命名されていた――の一員であったのだ。 本日は当時の懐かしい衣装を引っ張り出し再装備。髪は砂糖水で固め長大なりーぜんとにするという念の入れ用。 「あれが野獣番長…! 先手必勝! なめられたら無効でござる!」 泣き落としてきたアリスの言い分を信じている彼は、エリカに急接近。不良における喧嘩作法第一段階の、メンチ切りに打って出た――途端。 ゴヅッ フェイントなしで襟を掴まれ頭突きされた。 霧雁はその場で昏倒。 エリカも額を押さえよろめいている――どうやら手加減してなかったらしい。 「パネェす! 番長パネェす!」 「前フリ抜きとかまさに野獣!」 「最早条件反射でちなご主人たま!」 (こえぇ! どうしよう! こ、ここはひとつ穏便に解決せねば…!) うろたえる太郎と盛り上がるアガサたちをよそに秋霜夜(ia0979)は、アリスチームにいるマルカ・アルフォレスタ(ib4596)、とシーラ・シャトールノー(ib5285)に挨拶した。 「あ、お久しぶりですー。マルカさん、シーラさん、こんなところで会うなんて奇遇ですねー」 「本当に奇遇ですわね♪ それにエリカ様、番長様だったとは。流石ですわ」 「番長じゃないったら…」 「……あら、岩宿さんもいるわね? くす、秋霜夜さん、こんにちは。いえ、もうこんばんはかしら。奇遇ねえ…」 「はい。ちょっとジルベリアに滞在中で〜♪ お散歩してたらエリカさんに捕まりました。お嬢様どうしが意地の張合いから喧嘩だから、手を貸してほしいということでして。皆様は?」 「あたしは、この子たちからあんまり必死になって頼まれたから、しょうことなしに来てみたのよ」 「私もクラスメイトのアリス様に泣いて頼まれ参りましてー」 一角に広がる和やかムード。 やっと起き上がった霧雁はそそくさ後退する。 「…拙者空気が読めておらぬでござるっ」 リーゼントをほどき手櫛で整える彼に、アリスは苦情を申し立てた。 「戻ってきたらアカンやん! ちゃんと戦うてや!」 それに勢いづいたアガサが、長渡 昴(ib0310)に言った。 「今っす! 一気に総崩れにさせるっす!」 しかし昴はピクリとも動かない。 ヤクザ者がいるという懸念からアガサチームに召喚された彼女は水侠。仁も儀もある筋の人。であるからこそどう見渡しても子供の喧嘩にしか見えないこの状況、助太刀するまでもないという心持ち。 「海の上や湊の事であればいざ知らず、陸のカタギ衆相手に此方から如何こうする謂れはありませんもの」 「え、えっ!? こ、困るっすよそんなの! エリカ番長なんとか言ってやってくださいっす!」 要請に応えたのはエリカでなく源三郎(ic0735)。 喧嘩騒ぎを聞きつけ様子見に来た彼は、アガサチームに加わるが早いか陣笠を押し上げ、アリスチームを向こうに回し、口上を述べた。 「恐れいりやす。手前東房生まれの源三郎と言うつまらない者にござんす」 そして腰の業物にゆっくり手を伸ばす。 発散されている殺気にアリスは気圧され、数歩下がる。 「おまえさんに恨みつらみはねえが、一度助っ人すると決めたからには後には引けねえ。あっしも死に急ぎたくはねえが……ジェレゾ城北学園の親分さん、殺すか殺されるか、今この場でどっちかけりをつけとうござんす!」 業物の鯉口が切られた。鞘に隠れていた刀身が抜き放たれる。研ぎ澄まされた鋼の輝きが薄暗がりに浮かび上がる。 「いや、ちょ…いや何もそこまで…ちょっ、アガサ、どういうこっ」 源三郎が一歩踏み出した途端飛び上がり、尻餅をついてしまうアリス。手で這って後ずさり。 彼女の前に素早くシーラが出た。剣呑な表情をして。 「だったら受けて立つわよ」 『タワーシールド・アイスロック』を構え、『ロッセ』の柄に手をかける。 瞬間源三郎は大きく踏み出した。 盾を刃が凪ぐ。キィンと鋭い音。金属がぶつかる際の火花が上がる。 シーラは盾を掲げ、源三郎に向かって一気に押し出した。防御の影から『ロッセ』を突き出した。 源三郎は地面に一回転し避け、素早く起き上がる。 間を取りながらの息詰まるような対峙。 そこに多由羅(ic0271)も加わった。 「学生の喧嘩に大人、しかも開拓者が出張るとは不届き千万…私が成敗してくれましょう!」 太刀『鬼神大王』をかざした彼女は、まさしく鬼神。爛々と目が燃えている。 源三郎はアガサたちの方に振り向いた。 「見たところ相手は手練揃い。あっしも命懸けで掛かりやすが、皆さんも覚悟はなさって下さい」 当のアガサはというと――こちらも完全に萎縮していた。汗をだらだらかいて、声が出ない様子である。 (やっぱりこの子たち、口だけですね…) 思いながら昴はオーラを背負い、仲裁に打って出た。 「よさねぇか東房の、子供相手にみっともねぇ。喧嘩の仕方も分からねぇ様な学生サン相手に得物振りかざしたってなぁんの自慢にもなりゃしねぇぞ?」 「じゃあどうすりゃあいいとおっしゃるんで?」 (頃合いですわね…) 全体の動きからこれが演技と見抜いているマルカは、手を挙げ提案を行う。 「命を賭けての抗争など馬鹿馬鹿しいですわ。ここは競技で決着をつけられては?」 源三郎がアガサに確認を取る。 「…そいつはあっしが決める事じゃござんせん。どうされるんですかい」 エリカはマルカの目配せを受け、自分の後ろに隠れているアガサの腕を掴み、前に出させた。 「アガサ、自分で白黒つけてきなさい」 言って彼女が渡したのは、一枚のハンカチだった。 「…エリカ番長、これをどうするんすか?」 「あら、知らない? 最近の子は、こういうのやらないのかしらね――まずこっちの端をあんたが持つ。そっちの端をあの子が持つ。で、空いた手で殴りあう。先に音を上げて手を離した方が負け」 「…あの、ちょう痛そうなんすけど…」 「ええ、そりゃ痛いに決まってるわ。でも死にはしない大丈夫」 言葉を失うアガサとアリスとその仲間たち。 太郎はつとめて明るい声を出し、割り込んだ。 「まあ待て待て待て! そう殺伐としなくてもいいじゃないか! 決着をつけるやり方はいくらでもあるぞ、例えば――」 ● 快晴。河原の橋のたもと。ジルベリアには珍しい鯉のぼりがたっている。 大きい真鯉がお父さん、小さい緋鯉が子供たち――最も小さな鯉にはまっているのがジャッジを務める太郎とスーちゃん。 「お待たせー! さあ試合開始しよう! 第一回! 叩いて被ってじゃんけんぽん大会!」 「どっちもがんばるでちよー」 2人を地上から見上げたロータスが、エリカに言う。 「昨日から持ち越しましたか」 「ええ。もう夜だったし皆家に帰さないわけにいかないし。古新聞集めるのも時間がかかるしね」 アガサチームとアリスチームは、新聞紙で折った兜と剣を装備している。 どれも折りかたが歪んでいるが、手本となるべき『今日から使える! 太郎のかんたん折り紙講座』の見本からして歪んでいたのだから、致し方なし。 アリスチームはアリスを含め4人、プラス多由羅。 アガサチームがアガサ含めて5人なので、数合わせのためである。しかし。 「叩いて被ってジャンケンポン…恐ろしい競技です。死者が出てもおかしくありません…」 サムライの意気込みは、あまりに本気過ぎた。 「え、っと、ジャンケン」 バアン アガサチームとの一回戦は、当然彼女の勝ちである。 「不公平っす! 開拓者に素人が勝てるわけないっす! 今の勝負相手を変えてのやり直しを求めるっす! エリカ番長お願いするっす!」 「う〜ん…まあ、一理あるかもね」 というわけで、霜夜が急遽ピンチヒッターとして登板。 「よろしい。アガサ組用心棒の霜夜がお相手仕りますっ」 腕まくりする彼女に多由羅は、新聞刀の切っ先を向ける。 「私の前に立ちふさがるのであれば死を覚悟する事です」 (う。多由羅さん目がマジです。ヤバイです) 気を引き締めた霜夜は息を吸う。吐く。 「せーの、最初はグー…」 多由羅は右手でパーを出し、左手で刀を取る。 (『最初はグー』といいました、その愚かさが命取りです!) だが彼女の目の前に出された霜夜の手も、パーだった。 「何い!?」 狼狽のあまり次の動きが遅れる多由羅。 隙をついて霜夜はチョキを作る。 「ジャンケンポン!」 霜夜が刀を取るのと、多由羅が兜に取り替えるのと、ほぼ同時だった。 そのままであれば互角だったろう。だが霜夜は反対の手にハリセンを隠し持っていた。 兜が頭にはめられる一瞬前に、一発入る。 アリスから物言いがついた。 「ズルやん! 今のズルっこやん! 点なしや、なし!」 こいのぼりから太郎が答える。 「そうだなー…そしたら今の試合プラマイゼロってことで、カウントなしー」 これで、正真正銘4対4。 「フレー! フレー! マリアンヌ フレーフレー ジェシカ! 撃滅城北何のそーのー!」 「フレー! フレー! 城北 フレーフレー リューバ! 撃滅マリアンヌ何のそーのー!」 霧雁が扇出の音頭を取り、応援合戦も過熱気味。 「腹から大声出して 若い力をエールに乗せて 選手に届けるでござるよ!」 1回目はアガサチーム勝利、2回目はアリスチーム勝利、3回目はアガサチーム勝利。 最後に番長同士の試合。 ここで勝っても全体の点数的に引き分けであるが、ひとまずマルカは同級生の応援に回る。 「アリス様−、頑張ってくださいましー」 最終決戦の火ぶたが切って落とされた。アガサが大きく振りかぶり、一歩踏み出す。 「じゃあいくっす! 最初はグー!」 先程の試合を見ていたからだろう、アリスはパーを出した。 「ははは! その程度の知恵だと思ったっす!」 先読みではアガサの方が上手だ。出したのはチョキ。 刀を取ると同時に彼女は机を蹴り倒し、脳天に一撃。 しかしアリスも負けていない。咄嗟に白刃取りをした。 「あっ! 手を使うのは反則っすよ!」 「反則は自分や! 今、わざとに机倒して兜取れへんようにしたやんけ!」 「ふ、してやられるアリスがアホなんす!」 「なんやと、もっぺん言ってみいこの腹黒!」 言うが早いかアリスは仲間から投げ渡された刀を手に、猛然と反撃し始めた。 アガサも負けてない。 「何するっすか、筋肉脳!」 かくして始まる場外乱闘。 「行けーアガサ!」 「やっちゃうです、アリス!」 武器は新聞紙であり危険はないので、一同彼女らが疲れ果てるまで見物し続けた。 「おー、どっちもやるじゃないか。やっぱり子供は元気が一番だ」 「でちなあ太郎たま。実際あの子たち元気を除いたら、なにもなくなってしまいそうでち。ご主人たまみたいに」 息を切らし髪を乱して両番長が膝をついたところで、マルカがぱちぱち拍手を送る。 「素晴らしい勝負でしたわ!」 霜夜も同じく健闘をたたえ、両者の肩を叩く。 「伝説のエリカ番長の組を相手に、アリス陣営もよく頑張りました。久方ぶりに出張った大番長の顔を立て双方とも手打ちと行きませんか? 実はシーラさんのお店をエリカさんが予約してるのです」 完全な方便である。だがエリカは特に文句を言ってこない。 そこを確認した霜夜は、にっこり。 「ほらほら、両人ともエリカさんに恥かかせるなんてしないですよね?」 ● お菓子とお総菜の店『パティスリー・エムロード』。 店内の飲食コーナーは本日満席。特に女学生の姿が目につく。 「この様な競技会を定期的に開き親睦を深めるのがよいでござるな。今回のような体育競技は勿論、刺繍や裁縫、算術や料理等競技内容を増やすのがよいでござる。競い合う中でお互いを高め合い切磋琢磨する…これぞ青春にござる!」 「いいっすね。算術ならアホの子アリスはぼろ負けっす」 「あ? 刺繍針で口縫うたろか? クロスステッチしたろか?」 「アリス様はお裁縫、お好きですよね」 「へえ、そうなんですか。なんだか意外です」 相棒へのお土産を脇に緑茶を飲む霧雁。 タルト・タタンにプランマンジェ、オレイエット、シュークリームの食べかすをくっつけガヤガヤしている番長とその仲間たち。 紅茶をたしなむマルカ。 クッキーをつまむ霜夜。 以上が集うテーブルに、店長のシーラがカモミール茶を出してくる。 「元気なのは結構だけどアリスさん・アガサさん。またこんな馬鹿な事をやらかしたら、そのときは、今回のお菓子代を請求するから、あなた達が全額払うのよ、分かったかしら?」 目の前にひらひらされた請求書の額、二万五千文也。 顔をひきつらせる少女たちにシーラは、くすりと頬を緩めた。 「遊びなら、また付き合ってあげなくもないわ」 そこに源三郎が来た。 彼は彼女らの前に正座し詫びる。先日啖呵を切ってみせたのは、双方の肝を冷やすための芝居だったと打ちあけて。 「喧嘩を止めるためとは言え、堅気の皆さんを恐ろしい目に遭わせやした。誠にもって、相済みやせん」 「え、そうなんすか。なんだビビらなくてもよかったっす。アリスが腰抜かしたのには大笑いしたすけど」 「なんやと。あんたもめっちゃキョドってたやんけ」 口論が始まりそうなところに、昴がやってくる。 「天儀のやり方であれば互いに杯を交わすところですが…」 彼女が差し出して来たのは、プリャーニク。ジルベリアの祝い菓子だ。 抗争を節目節目の行事にしてしまうなら、こどもの日も近い事だし祝い菓子の一つもあった方がいい。そう思っての提供である。 「二人で割って食べる等すれば、いいのではないですかね?」 「あ、それならあたしがやりましょう!」 脇から手を出し霜夜は、えいやとプリャーニクを割る――不等分に。 「…この小さい方がアリスっすね」 「…あんたやろ」 小競り合いが始まりそうな彼女らの隣のテーブルでは、多由羅が自己批判していた。 「隙を見せ一本取られるとは一生の不覚…もっと精進せねば…」 その前ではエリカが額を押さえて考え事。 ロータスがコーヒーを飲みながら尋ねる。 「どうしました、エリカさん」 「いや、何かを忘れてるような…なんだったかしら…」 河原。 太郎とスーちゃんは、仲良くまだ鯉のぼりにはまっている。 「…いやー、どうやって降りようなースーちゃん」 「どうしたもんでちょうな。全くご主人たまたちときたら。ぷんぷん。自分たちだけでいい思いを。ぷんぷん」 とりあえずこの場に迎えが来るまで、後一時間はかかるのであった。 |