助太刀参る!
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/25 22:27



■オープニング本文

 ばっさばっさ羽音を響かせ、飛んでいるのは1匹の甲龍。
 白地に黒の縞模様というなかなかアバンギャルドな彼の名は、ゼブラ。
 周囲にはたくさんの渡り鳥が飛んでいる。ゼブラにとってそれは仲間だ――何を隠そうこの龍、『自分は渡り鳥』という妄想を抱いているのである。
 詳しいことは不明だがとにかくそう信じ込んでおり、手がつけられない状態。一応契約した主もいるのだが、冬になるたびこうやって鳥の群れに紛れ、暖かい地方に渡っていってしまう始末。
 この大きい相手にくっついていれば何かと危険を免れやすいので、渡り鳥たちも(仲間とまでは思わないが無害なものであると認め)積極的に行動を共にしている次第。
 とにかく彼らは、日一日暖かさの増してくるジルベリアへの帰還中。越冬地である小儀から舞い戻るところ。目的地はもうすぐそこ。
 青い空にぽかりと浮かぶジルベリアが見えてきた。
 羽ばたきに力が入る。

 そのときだ。ゼブラの右翼側にいた鳥が10羽ほど、いきなり消えた。
 雲の中から突如顔を出してきたアヤカシに食われたのだ。
 隊列はたちまち乱れ、鳥たちが逃げ惑う。
 ゼブラはタテガミを膨らませ、臨戦態勢をとった。

 ガアアアア!

 アヤカシは、胴から3対の羽を生やした蛇の姿。
 唸ってきた甲龍に向けて鎌首を持ち上げ、二股に分かれた舌を出し、威嚇音を発する。

 シュウウウ!

 両者空中でじりじり間合いを詰め、戦闘が始まる。
 蛇は龍の体にからみつき、絞め殺そうと試みる。龍はその蛇の体を爪と牙で、引き裂こうと試みる――。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
紫ノ眼 恋(ic0281
20歳・女・サ


■リプレイ本文

■リプレイ本文

 雲の峰を越え飛んで行くのは細身の駿龍、月慧。その背に乗るのは主人である露羽(ia5413)。
 彼らはとあるアヤカシ退治の任務を終えジルベリアに帰還して行くところ。
 ジルベリア本儀から見て近空に属するこの領域は、外空にあるような嵐など起こらぬ、穏やかな空域である。
 明るく暖かい風がそよいでいる。

「もう春が来てますね、月慧」

 露羽がそう相棒へ語りかけたとき、すさまじい咆哮が聞こえてきた。
 高めの物と低めのもの、2種類。両者とも明らかに威嚇音。



「いやー、今日はいい天気だなー。弁当持ってくればよかったか」

 ルオウ(ia2445)は相棒炎龍ロートケーニッヒに乗って空の散歩中だ。滑空機もいいが龍の乗り心地もいい、どっちも捨てがたいよなーなどと考えている。
 雲の丘や平原に影を落として進んでいたところ、ひょいと前方にお仲間を見つけた。
 紫ノ眼 恋(ic0281)とその相棒炎龍、深緋だ。
 持ち前の気さくさで彼は、遠慮なく声をかける。

「おうーい。恋じゃねえかー」

 呼ばれた恋は振り向き、龍の速度を落とさせる。追いついてきたルオウと横並びになり、会話に応じる。

「これはルオウ。どこかへお出掛けか?」

「いや、たいした用事もねえけどよ、ま、散歩ってとこで。恋は?」

「あたしはまあ、騎乗訓練というところだな」

 言いながら彼女は、乗っている深緋の体を撫でた。

「修行おつかれだ……しかし騎乗は問題なくなったとして、戦闘にまで持っていくのはやはり骨だな。慣れない。難しいね、空は」

 最初はそりゃもう落とされてばかりだったと追憶にふける彼女は、次の瞬間形相を一変させた。凶々しい鳴き声が大気を裂き響いてきたのだ。

 キシャアアアアアア!

「よく判んねェがッ! アヤカシだな? アヤカシだなァッ! ぎゃはははッ 斬って良いンだなァアアッ!」

 手綱を引き、急速方向転換していく恋。
 ルオウも急ぎ相棒に発破をかける。

「いくぜえ! ロートっ!」



 滑空艇、マッキSIを操るリィムナ・ピサレット(ib5201)と、相棒炎龍の宵闇に乗る設楽 万理(ia5443)は、並んで空を飛んでいる。

「ふーん、万里はお仕事中なんだー」

「ええ、ちょっとした息抜き。久しぶりに空を飛ぶと、合戦の作戦中とは言え気持ちいいわねー」

 目を細める万里の頭上になびく羽飾りを見るにつけ、リィムナは、自分もあんなのが欲しいなあと思う。
 なにやら景気よく、かつ格好いい感じでないか。

(マッキSIはペイントだけだもんね…もうちょっとデコレーションしてみようかなあ)

 自家用馬車を改造する人々と似たような考えにふけるリィムナは、次の叫び声で、はっと我に返った。

 グアアアアアアアア!

 野太く低い唸り声 。あれは龍のものではあるまいか。
 即時機首を音がしてきた方向へ向け、機体を急加速させる。前方にある大きな雲峰を迂回するももどかしく真っすぐ飛び込んだ。万里も後に続いてくる。
 ズボっと雲の霧を抜けた彼女らの目に飛び込んできたのは、真っ青な空を背景にもつれあうゼブラとアヤカシと、周囲を逃げ惑う鳥の群れ。
 ざっとした状況を理解した万里は、『コールドボウ』を手に取った。

「これは合戦中の戦闘服に身を包んだ私にあったが運のつき。昂ぶった私が相手してあげるわ。行くわよ、炎龍宵闇」

 リィムナも急ぐ。

「あれはアヤカシ! 大変、やっつけよう!」

 偶然同じ空域にいたらしい傭兵が、あちらこちらから接近してくるのが確認出来た。
 相棒鷲獅鳥の早瀬に跨がった篠崎早矢(ic0072)も駆けつけてくる。
 彼女はゼブラの姿を見るなり、目を丸くした。

「な、なんだ、あの独特のエリカっぽい空気の竜は…うちの夜空と似た匂いがする…」

 その台詞が吐かれた途端、ギイギイ憤激の声が上がった。

「ああ、ごめんごめん早瀬、違う朋友の話題は嫌いだったな」

 彼女の鷲獅鳥は相当な焼きもち焼きらしい。



「甲龍と…あれはアヤカシ…!? 渡り鳥を守っているようにも見えますが…ただの甲龍ではない様子、これも何かの縁かもしれないですね。月慧、助太刀しましょう!」

 月慧は刃のように空を切り、対象に急接近して行く。
 巻き付かれているゼブラは牙を蛇の身に突き立てているが、呼吸がかなり阻害されているらしい。噛み付きながら血まじりのよだれを垂らしている。早く引きはがさなければ危険である。

「この辺りを縄張りにしていたのかもしれませんね。助太刀など予想もしていなかったでしょうが、油断は禁物です」

 アヤカシにだけ当たるよう細心の注意を払い、露羽が投げた『刹手裏剣』は、全てきれいに突き刺さった。
 蛇は瞼のない目をぎろりと彼の方に向ける――だがゼブラから離れはしない。この程度の刺激では弱いらしい。

「アヤカシは滅すべき相手。月慧、手加減はいりませんよ」

 月慧が蛇の体に噛み付き牙を引っかけ身を引き裂く。
 今度は向こうも無視出来なかったらしい。巻き付いたまま首を突き出してくる。
 噛まれる前に至近距離から離脱した露羽たちと入れ替わりに、ルオウが仕掛けていく。

「はんっ! 俺が相手になってやんぜい、アヤカシども!」

 なんで甲龍がこんなとこに1匹でいるのかとか疑問は多々あるが、通りすがったからには存分関わらせてもらう。
 蛇の背後から接近し『秋水清光』 で一閃。翼の一枚を切られた蛇は、彼と息を合わせたロートケニッヒの蹴りで、思い切り頭も蹴り飛ばされる。
 立て続けに深緋が急降下、体当たりをする。
 蛇の頭から首までの部分がゼブラからはがれ落ちた。周囲を小うるさく飛び回り恋は、挑発を続ける。

「いよう、くっせえミミズ! 空を飛ぶとか、何をとち狂ったんだ? お前に一番お似合いなのは、腐った泥の中だろ!」

 彼女が自分と同じ作戦をとっていることに気づいたルオウは、声をかけた。

「右は俺がやる! 恋は左から頼むぜ!」

「おう! 深緋、どうせこれしかねェんだッ! 落ちるまで削り取れェッ!」

 両者が敵を引き付けている間リィムナは『ヒーリングミスト』を吹き鳴らし、右往左往している鳥たちを集めにかかった。

「渡り鳥さん達、こっちだよ!」

 マッキSIの周囲へ、ウンカの如く群れが集まり始める。
 取り残しがなくなるまで演奏を続けてから彼女は、急いで場から離れる。彼らを安全空域まで移動させるために。

「鳥さん達、すぐやっつけるから離れててね!」

 早矢は、戦い続ける蛇と龍たちの下方に潜り込んだ。

「空中戦は三次元、騎射よりさらにもう一本の移動軸…面白い、アヤカシどもは全て撃ち落としてやる! 駆けろよ早瀬!」

 きりきりと『十人張り』の弦を引く。
 揺れ動く鞍の上狙いを定め撃つ。蛇の白い胴目がけて。
 万里の『コールドボウ』による連続射撃も、そこに加わった。
 弓が敵の体を貫通し損ねていく。
 とうとう蛇もからんだままでは攻撃を受けるだけだと悟ったらしい。糸がほどけるように素早くゼブラの体から離れた。
 それを受けルオウが進路を塞いだ。相棒に負けぬほどの声量で吠えたてる。

「さあ来い! 開きにしてやるぜ!」

 相手は一直線に向かってくる。
 ロートケーニッヒは身を斜めにして避ける。
 相棒の胴を挟みこむ両足に力を入れルオウは、刃を突き立てようとした。
 蛇は回避行動を取った。垂直に急上昇し、相手を切り離そうとする。
 露羽の月慧が負けじと併走し、羽の一つに食いついた。

「よし、そのまま!」

 『血雨』が付け根から一刀両断する。
 血と羽毛が宙にばらまかれた。
 蛇が首から折り返すように向きを変え、露羽たちを真上から襲ってくる。
 横から深緋が渾身の体当たりをかけ、軌道をそらした。
 その衝撃の強さは、主人である恋を鞍から浮かせるほどだった。

「あっぶね! おいあぶねえよ! ここで落ちたらしゃれになんねえんだからな!」

 態勢を立て直す彼女の前を、マッキSIが通り過ぎる。リィムナが戻ってきたのだ。フルートが奏でているのは仲間を鼓舞する勇ましいメロディと、敵の魂を打ち砕く沈鬱なメロディ。
 蛇はぎくっと身を強張らせ舌をぺろぺろさせ、マッキSIを追い始めた。音が体に不快さを与えていることを理解しているものらしい。しかし体中痙攣し動きが著しく鈍っている。滑空艇の急旋回、急上昇に追いつけない。明らかに後れを取っている。
 通じるか不明だが、リィムナはさらなる挑発をした。アカンベーをし、見えもしなかろうがお尻もペンペン叩いてみる。

「悔しかったら噛み付いてみろ〜♪」

 言葉どおりにしたのは蛇でなくゼブラだった。蛇を追いかけ、尻尾の先に食いついたのだ。先ほど受けていた攻撃が響いているのか先をちょっぴり千切っただけで、すぐ引き離されてしまったが。
 代わって恋が追いすがる。肉薄した位置まで相棒を近づかせ、雄叫びを上げる。

「さっさと落ちろ!」

 彼女は両手に張った『墨風』で、手の届く部分の鱗を逆むけにそいでいく。
 破壊力は余りないが、相手の意識を散漫にさせる役には立っているはずだ。蛇は幾度も身をよじり、恋たちに食らいつこうとしているのだから。

「翼がなくなっても、果たして浮いてられるかしらね?」

「さて、どうだろうな」

 万里と早矢は、羽を狙いの中心に切り替えている。付け根がたちまち矢ぶすまとなっていくことで、蛇はますます速度を落とし――いきなり急降下した。雲間に逃げるつもりらしい。
 リィムナがフルートの音色を一段と高らかに響かせる。みなの力が増すように。

「渡り鳥達が無事に行けるように…! 消えてください!」

 月慧が回り込み、露羽が刃をふるう。
 舌を切られた蛇は急遽向きを変えた。そこにはロートとルオウがいる。

「いっけえええ!!」

 ロートケーニッヒが火を吹いた。
 真正面からあぶられた蛇は身を翻す。
 早瀬は爪を蛇の顔に走らせ、思いきり切り裂いた。
 宵闇が長い胴に噛み付き、肉の一部を持っていく。

 シャアアア!

 黒い瘴気が傷口から漏れてくるのが、はた目にもはっきり見えだした。
 万里の矢が目と目の間に突き刺さるに至りそれは加速する。
 蛇は輪郭を端からほつれさせ、虚空に消えていった。何も残さないままに。

 間を置いて恋が述べる。

「やはり実戦闘でないとわからぬことは多い、な」

 言葉は淡々としているが、表情からするに、主従ともとても楽しかったようだ。
 消滅したとの確信を得て胸をなでおろす開拓者たちの元に、ゼブラがばさばさ近づいてきた。
 喉を鳴らしているところをみるに、友好的気分であるもよう。
 ルオウはそもそもの疑問を思い出す。

「…そういやこいつ、どっから来たんだ?」

 これだけ人慣れしているなら野生でないはず。思ってよく見ると、鞍こそないものの首輪がついている。
 頭をなでついで調べてみれば文字が刻んであった。読んでみると、こう。

『我が名はゼブラ。ジルベリア帝国騎士エリカ・マーチンの従者なり。/迷子になっているところを見かけたら、最寄りの開拓者ギルドまでお知らせください。お願いします。』

「エリカの龍かー」

「やはりな。見た瞬間なんだかそうじゃないかと思ったんだ」

 納得そのもののルオウと早矢。
 当人を知らない露羽にはなんのことやらであったが、ひとまずはにっこりする。

「まさか、この甲龍の主人は既に落ちて…というのは要らない心配だったようですね」

 ゆるゆる円を描き巡回しているリィムナの周囲に再度鳥が集まって来、うれしそうに尾を振るゼブラの回りに戻ってくる。

「渡り鳥達も帰ってきたようです、気をつけて行ってくださいね」

 微笑ましげに露羽はゼブラの鼻先を撫でてやった。
 恋が言う。

「さて、帰ろうか。これも縁だからジルベリアまでは送り届けるよ。なあ、キィ」

 空を楽しむのもきっと、大事だ。
 そんな主人の心が伝わったか、深緋は珍しく素直に従った。
 万里も進路をシルベリアに向ける。

「こんな感じでなら、作戦に遅れてもいいわよね」

 リィムナも巡航に速度を落とし、一路来た道を引き返す。最後まで渡り鳥たちを見守るために。

「後一息だよ〜みんながんばって〜」

 ルオウと早矢、それに露羽も同じ進路を取る。話をしながら。

「へえ、お2人とも、この龍の主人とお知り合いなんですか。どんな方です?」

「どんなっつーか…まあ、騒がしいな。そういやあいつあれから、ちゃんとまともな男捕まえられたかな」

「んー、あのままでは望み薄かと思うぞ? だから馬を飼えばいいと私はだな、前から口すっぱく言ってやってだな」

「そんなん馬飼っても一緒じゃねえ?」

「いや、そんなことはないぞ。馬を飼えば少しは性質が穏やかになるはずだ。そこからでなければ、改めて己の生き方を省みることなどとてもとても」

「あの、お2人とも一体何の話なのでしょうか…」


 緑色の儀が近づいてきた。
 とにもかくにも、ジルベリアに春が来る。