イVSウ
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/04 01:52



■オープニング本文

 ジルベリア帝国の一地方。

 バーム村にある村役場では、村長が重役相手に頭を抱えていた。
 両者丸々固太りである。

「‥‥今月だけでも転居届けは5件だぞ。しかも全員隣のクーヘン村への転居だ。何故だ、何故向こうに行ってしまうのだ。しかも若い世帯ばかり。向こうとうちとが違うというのだ。丘と畑と森しかないという点では、ほとんど一緒じゃないか。しかも地味はうちのほうが肥えているのに」

 嘆く村長に重役は、汗を拭き拭き言う。

「まあ‥‥あえて言うなら向こうには新しく首都への街道が通ったからでしょうか。働き盛りの若者が都会に通勤しやすくなったという」

「農家の子なら農業を継がんかい! 最近の若いもんはどいつもこいつもやれ飛空船の船員になりたいだの騎士になりたいだの開拓者になりたいだの軽佻浮薄過ぎる!」

「わ、私に言われましても。時代の流れですよ」

「くくう、情けないのう。こんなことではご先祖様に申し訳が立たん‥‥帝国より侵攻を受けた際、子孫のためにと涙を呑んで恭順王化し、我がイ族の集落を存続させてくだすったじい様やばあ様にどう顔向けが出来ようか‥‥」

 ふがふが鼻を鳴らした村長は、村役場の壁に飾ってある肖像画を眺める。
 どれも彼と同じように丸っこく固太りであった。一番古いものは上半身裸で頬に刺青が入っており、獣の皮を纏っている。

「大体隣のクーヘン村の連中‥‥ウ族はいつもいつも小ずるく立ち回りおる。侵攻のときも共同戦線を申し出ておきながらいざ戦いが始まったらいの一番に投降しおって屁の役にも立たずに‥‥おまけに帝国に媚を売り領地安堵の際無断でわしらの土地を自分側へ大幅に組み入れおって‥‥いつか失地回復を!」

 興奮してきてますます鼻声が高くなる村長。重役はそれを必死に宥める。

「村長、過ぎたことを嘆いても仕方ありません。こうなったらうちもなにかこう、向こうに負けないよう目新しいものを都会から誘致してみてはどうでしょう。工房とかなんとか」

「何? いかんいかんそんなもの。土地が汚れてしまう」

「しかしですね」

 まだまだ話が続きそうだったその時、どん、と大きな地響きがした。
 弾みで村長と重役はころころ転がってしまう。

「な、何事じゃ」

 起き上がったそこへ、どたどた村人が駆け込んできた。

「大変です、隣村にアヤカシが現れました!」

「なに!!」

 村長は先祖伝来の兜をかぶり、極彩色の盾と槍を手にする。それから窓を開き、村中に響き渡るほど高らかに角笛を拭きならした。

「おおい、男衆集まれええ。出陣じゃあ!」



 アヤカシは暴れている。一応。ものすごく動きが遅いので誰もがやすやす逃げられているが、とにかく暴れているし、被害は出している。重みで家を倒したり、畑のキャベツを潰して台無しにしたり、道をへこませたりといった。
 しかしクーヘン村の村長は、現在それへの対処とはまるで別のことに忙殺されていた。
 混乱に乗じ、隣村からイ族の一群が攻め寄せてきたのだ。

「何のつもりだ!」

「しれたこと、この機会に境界石をあるべき位置に戻すのだ!」

「ここはうちの土地だ!」

「わしらの弱みに付け込んで50年前奪ったくせに何を言う!」

「その前からうちのものだ! 80年前一面のにんじん畑が作られていたという記録がある!」

「100年前には一面の芋畑だったのだ! うちにはちゃんとその伝承がある!」

 アヤカシはその騒ぎを遠目に見ながら――特に何も考えずぬたぬたし続けていた。



■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ヴェルナー・ガーランド(ib5424
24歳・男・砲
アクア・J・アルビス(ib9183
25歳・女・巫
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
法琳寺 定恵(ib9995
17歳・男・武
伊波 楓真(ic0010
21歳・男・砂
ファノレ=ピュラクス(ic0027
24歳・男・弓


■リプレイ本文

 ファノレ=ピュラクス(ic0027)はたれ耳をひこひこさせ、クーヘン村外れに集う集団――大きくて丸っこいグループと、小柄でほそっとしたグループ――へ、挨拶した。

「すっみませーん! 開拓者なんスけどー! やーやーやー、皆さんご苦労様っス!」

 続けては法琳寺 定恵(ib9995)。

「どうもー、アヤカシ退治に来ました。開拓者です! もう心配要りません、俺たちが来たからには百人力‥‥」

 皆アヤカシと戦うために集まっているに違いない――2人ともそう解釈していたのだが、すぐに違うと考え直した。罵り合っているのが聞こえてきたので。

「どうせ口伝えしかないんだろ! こっちにはちゃあんと文字の資料が残っているんだ、言い掛かりもたいがいにしろ!」

「お前らの資料こそあてにならんだろうが! 帝国編入の際は言いたい放題上申しくさりおって!」

「全部本当のことだろ! 大体お前さんたちゃ鼻息荒くすれば何でも通ると思ってるのがなあ――」

 定恵は隣にいたヴェルナー・ガーランド(ib5424)に、困惑顔を向ける。

「‥‥って、何? なんか揉めてんの?」

 アヤカシそっちのけなこの雰囲気が何なのか、彼にだって分かりはしない。それよりもっと重要なことが気掛かりだ。

「‥‥この仕事、報酬ちゃんと出るんだよな?」

 アクア・J・アルビス(ib9183)は双陣営とのたっているナメクジを見比べ、おろおろ。

「喧嘩は良くないんですー、仲がいいのがいいんですー、みんなで楽しくするですよー」

 残念ながら彼女の呼びかけはおっとりし過ぎて、彼らの耳に届いていない。
 伊波 楓真(ic0010)はこの状況にいかにして手をつけたものか、考えあぐねてしまう。初めての依頼頑張るぞと、気合を入れて来ていたのだが。

(‥‥意見してもいいのかな)

 アヤカシ退治に関係ないといえばないのだが、見過ごすのもよくないだろう。第一ここにこうして頑張っていられては、アヤカシとの戦闘の際、彼らにとばっちりがかかる恐れがある。

「まあまあ、落ち着いて‥‥とにかく移動を‥‥」

 だが彼の物言いも大人しすぎたか、流されてしまった。
 言い争いはヒートアップしてくるばかりだ。

「このタマ無しウサギ野郎!」

「この脳無しイノシシ野郎!」

 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は憤慨する。

「アヤカシが出たというに、何をやっておるのか‥‥帝国臣民同士が争って何になるか! 双方退くのじゃ!」

 引き続いて銃声がした。ヴェルナーが「クルマルス」を空に向け撃ったのだ。
 武装集団はやっと悶着を一時停止し、開拓者たちに注意を向けた。
 そこに彼の、嘆息交じりなぼやき。

「喧嘩なら、騒ぎが収まった後でやれ‥‥距離をとれば、そこまで脅威という訳じゃないんだが‥‥デカいな」

 メキメキミシミシという音が響いてきた。
 ナメクジがぬたりぬたり畑の物置にぶつかり破壊していたのだ。
 そいつが通った後には一筋の道。触りたくないなあと全力で思わせてくれる輝きを放つ道。よく見れば体全体からも粘液を滲み出させている。
 よし絶対私は近づくまい。
 さっさと決定した雁久良 霧依(ib9706)は、にこやかに言う。

「あらあら、大変ねぇ。サクッとアヤカシ倒して喧嘩も止めちゃいましょう♪」

 アクアは相手の情報を頭で整理し記憶する。
 アヤカシの生態に限りない興味をもつ彼女にとって、全ての依頼が学術調査となり得る。

(ええと、分類上は下級アヤカシですねー。体中に粘液をみなぎらせているのはー、外気に対する保護膜としてでしょうかあ。骨も外殻もないわけですしー)

「倒したら消えちゃうので生け捕りー‥‥は怒られるのでしないです」

 苦虫噛みつぶしたリンスガルトが「ゲイ・ボー」を構える。ナメクジなりに全力で驀進してくるナメクジに向けて。

「ええい、まずはアヤカシ退治じゃ!」

 彼女の手から離れた槍は、真っすぐぶよぶよした腹に突き刺さった。
 ナメクジは身をくねらせ、刺さったものを噛もうとする。だがその前に槍は自分から抜け、持ち主の元に戻ってきた。
 リンスガルトは柄の端を受け止め、粘液をしたたらせる穂先を無言で草に擦り付ける。
 ヴェルナーがそれを横目に、「クルマルス」をぶっ放した。

「できる限り、あんなモノには近づきたくないからな‥‥銃剣使う距離まで詰められたら、俺は間抜けだよな」

 火力を正面から食らったナメクジは塩をかけられたみたいに目と角を引っ込ませ、身を縮ませる。

「おい、もうギブアップか?」

 それから揶揄に抗するかのようにぬたぬた身を延ばし、怒ったのだろうか、四方八方粘液の塊を吐き散らし始める。本体が移動するよりはるかに早い速度で。
 リンスガルトは「黄金の獅子の盾」で防御した。ヴェルナーと楓真、ファノレは漏れなく食らう。
 定恵は身をもってアクアと霧依への攻撃を防いだ。妙齢から幼女まで見境をつけない女好きの名に賭けて。

「大丈夫ですか、霧依さん! アクアさん!」

「ええ、助かったわ。ありがとう定恵さん」

「ありがとうございますー」

 言いながら粘液のかかった相手から微妙に距離を取る彼女たち。

「では、こちらからも!」

「砂漠の薔薇」をかざし霧依は、立て続けのホーリーアローとブリザードを食らわす。
 打撃と寒さによろめき縮むナメクジ。
 そこにファノレも加わる。

「ナメクジさん怨みはないけどごめんねー。新人の自分が言ってもアレだけど、運が悪かったんだよ。ね?」

 鼻歌交じりに「フェアリーグリーン」が放たれた。
 巨体からほのかに黒っぽい霧が漏れ始める。立て続けの攻撃で大分弱ってきた模様だ。

「みんな、がんばれー、ですよー。援護するですー」

 「見習いの杖」を振り、アクアは援護を。
 楓真と定恵が止めを差すため走りだす。
 とはいえ定恵は頭から手元までべたべたになっているせいで、かなりやり辛そうだった。「藤家秋雅」も普段以上に力を入れていなければ、滑り落としそうな有り様。まるで油を塗られたようだ。
 そのくせ髪にはねっとり糸を引くというこの矛盾。

「おぉ、粘着力凄そうだな!」

「ふ‥‥同情には及びませんよ! 大丈夫、アヤカシを倒したらこれも消えるはずですから!」

 薙刀の刃がナメクジの頭部をえぐった。
 間を置かず楓真は「シャムシール」で喉元を切り裂く。
 先程と比較にならないほどの黒霧が切断面から噴き上がった。
 ナメクジの輪郭は紙風船が弾けるように破れ、四散し、飛び散る。凝り固まっていた瘴気がもとの姿に戻ると同時に、その一部であった粘液も四散する。
 残るのは破壊された村の建物やへこんだ道路、荒らされた畑といった痕跡ばかり。

「いつもながら、アヤカシというのは‥‥存在しながら存在しないみたいで‥‥すごく不思議ですー」

 アクアは感慨深げに呟く。
 今回の任務は簡単に終わったようだ――と思ったら、またぞろ騒ぎが持ち上がってきた。

「貴様ら、あのとき戦わずして逃げおったくせして!」

「訳も分からず猪突猛進していくのは単なる馬鹿と言うんだ!」

 ヴェルナーは肩をすくめる。

「で、アヤカシ退治した後はこっちの問題かい?」

 弓を拾って戻ってきたファノレが思い出したように、当人たちへ話しかける。

「あ、そうだ。さっきさ、なんでケンカしてたの?」

 そこへリンズガルトが子供と思えぬ貫禄で、割って入ってくる。

「汝等、アヤカシに対して結束し抗戦するならば兎も角、私闘を繰り広げるとは何たる事か! 弱き者を、人々の生活を守るが戦士の役目ではないのか? 皇帝陛下がお聞きになれば、さぞお嘆きになられるであろう。恐らく村の長はその任を解かれ、帝都より役人が統治の為に派遣されるであろうな。帝国臣民同士で争いを起こし、止める事も出来ぬでは人の長たる資格はないからのう」

 イ村長ウ村長、ともにぎくりとした様子で顔を見合わせた。

「‥‥双方とも矛を収めよ。今ならまだ間に合うぞ」



 両者が権利を主張する境の土地で、話し合いが行われている。

「係争を抱えた村に人が住みたいと思うかしら? クーヘン村にはいい街道が通ったみたいだけど、いずれ帝都に行った若い人達は村に戻らなくなるわよ?」

 境界石に寄りかかり言う霧依に、定恵も同意する。

「村のコたちに聞いたんだけど、やっぱり帝都に対する憧れ、強いみたいですよ。都心に通うのも大変だから、向こうに家を借りようかっていう考えの夫婦とかもいるみたいで」

 イ村長が鼻息荒く吠えた。

「なんと、けしからん! 生まれ在所に錦を飾るならともかく、捨てようなどとは!」

 霧依はまあまあとそれをなだめた。

「よく考えて。帝都への街道はチャンスでもあるの。帝都から産業や観光客を呼べれば村の発展に繋がるわ」

「そんなものはいらん。せっかくこれまで守ってきた伝統が崩れてしまう。今でさえそうなっておるのに‥‥」

「伝統? 争いの無い豊かな村になれば、これまでの伝統だって失われないわ。祭祀や儀礼は受け継がれるものね」

 支払われた依頼料を勘定しながら、ヴェルナーが口を挟む。

「まあ、金もらえるなら別に構わないんだがね‥‥争ってばかりでは、廃れるばかりだと思うが。闘争繰り返してたら、中央から鎮圧部隊が来るかもしれんぞ?」

 実際その仕事をしていた人物が言うことだけに、語調も説得力がある。

「なんかわかりやすい勝負でもして、年ごとに土地を管理したらどうだ?」

 これにはイ、ウ双方から同時に声が上がった。

「それはいい。よし、相撲じゃ」

「それはいい。よし、徒競走だ」

 両者同時に黙り、それからつかみ合う。

「また自分にだけ有利なようにことを運ぼうとしおったな!」

「それはこっちの台詞だ!」

 定恵があわてて両者の間に割って入り、引き分ける。

「あんまり話が大きくなると、さっきリンズガルトさんが言ったように、皇帝さんにも怒られちゃいそうだし?」

 ファレノも加わる。あくまでも軽い調子で。

「たとえばケンカして、この場で武に勝るイ族が勝っても痛い思いしたウ族が陛下に報告したら、イ族が痛い目見るってわけだよね」

 その言葉で昔を思い出したイ村長が、ウ村長に吠えた。

「そうじゃ、お前らはすぐそうやって告げ口という汚い真似をしてきおってからに!」

「何が汚い真似だ、当然の権利だ!」

 興奮を和らげるよう、アクアがやんわり意見を述べる。

「とにかく、ずっといがみ合ってると疲れちゃうですー。仲良くするですよー。例えばー、子供同士には仲良くしようね、って教えるですよね。それと一緒じゃないですかー?」

 うんうん頷いてからリンスガルトは、えへんと咳払いし、あたりを睥睨した。

「しかり。対立が長引けば長引くほど両者の間に溝が深まる。最後には‥‥殺し合いじゃ。どちらか一方が死に絶えるまでな。共有も分割も交替制も中途半端な手段、とるべき手立てはただひとつ。それこそが‥‥」

 満を持してといった具合に彼女は丸めた画用紙を懐から出し、ばっと広げる。

「これじゃ! この際じゃ、村を合併させ新たなトーテムを創造し、平和と協調のシンボルとし、発展を図るのがよかろう!」

 イ族ウ族の一団がしいんとなった。彼女の演説というより、示された絵に対しての衝撃で。

「あらっ、リンスちゃんの絵、可愛いわね♪ そうだわ、この際、両村を合併しバームクーヘン村にしちゃいなさい♪ このトーテムの着ぐるみやぬいぐるみを作って平和の象徴として宣伝すれば、それだけでも観光客が来そうよ♪」

 霧依が褒めちぎる新たなトーテムの姿は、『長い耳に兎の後ろ脚、尻尾、ずんぐりした体形につぶらな瞳と猪鼻をもつ白い二本足の不思議生物』というもの。
 我に返ったイ村長が、真っ向からぶいぶい鼻を鳴らす。

「ま、待てい! なんかこれだと全体的にアホみたいじゃぞ! 猪の勇ましさが全く出ておらん!」

 ウ村長も不満な様子。

「も少しウサギの要素を強くした方が統一感が出て可愛くなるんじゃないかね?」

 だがリンスガルトはひるまない。

「ふふん、汝らは情報に疎いのう‥‥よいか、これこそが今泰や天儀で大流行しているトーテムスタイル、『ゆるキャラ』そして『ブサかわ』というものじゃ! ジルベリアでの普及が遅れているこの最先端の様式を使用した暁には、帝国全土津々浦々の婦女子から絶大な支持を得ること間違いなし!」

 断固力押しで行く。

「え‥‥そうだった‥‥ですか? 僕はそこまで両国にその手のマスコットが溢れているとは」

 楓真が軽く疑義を呈しても黙殺しなお力説する。

「これで断然知名度もウナギ上りじゃ!」

 アクアも一押しを手伝う。

「ウ族の方たちにもイ族の方たちにも得意なことはあるですー。二つ合わせたら、面白くて、素晴らしいものが出来上がる、そうは思いませんか? そう考えると私はとっても興奮するのですー」

 霧依は笑ってウインクを。

「トーテム結合の儀式は私がやってもいいわ。幸い、各地の伝承や儀礼には詳しいし。誠心誠意努めさせてもらうわよ 」



 数週間後。
 開拓者たちは再び村に来ていた。両村の合併式に招待されて。
 話は何とか落ち着くところに落ち着いたらしい。
 だが村の入り口にある門には

 『バームクーヘン村』『クーヘンバーム村』

 2つの村名が併記されていた。

「‥‥こりゃまだ相当揉めてるねー」

「ですよね、どう見ても」

「こういうのって、いいんでしょうかね?」

「まあ、何かに違反しておるわけではないからのう‥‥」

 ファノレ、楓真、定恵、リンスガルトが話している場所からさらに進むと、広場。
 そこには3つのトーテム。右にウサギ左にイノシシ、真ん中に例のアレ。
 その台座には

 『イノシシウサギ』『ウサギイノシシ』

 と、これまた2つの名が刻まれている。

(そう簡単にいかない根の深さ、か)

 ヴェルナーは屋台で買った焼き栗を手に、霧依によるトーテム結合の詠唱を聞く。

 ‥‥勲誉れ高き汝猪の精霊よ 知恵優れし汝兎の精霊よ 今和平と友好のもと解け合わんことを‥‥

 手にしている袋へ横から手が突っ込まれた。アクアである。

「でも、新しく何かを始めるというのは、よいことですー」

「‥‥1個食ったんだから後で1文払ってくれよ」

「‥‥お金に細かすぎですよー、ヴェルナーさん」