相棒交換日記
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/10 03:22



■オープニング本文


 ○月×日。スポッティ。

 ご主人たまは本日、お留守でち。

 そこは暗き北の果て。
 森から出てきた惨殺死体。
 疑わしき領主。 
 沈黙に塗り込められる真実。
 子羊たちの悲鳴をキミは止められるか! 

 的なサスペンス依頼に出かけてるでち。残念ながら温泉若女将とかは出ないようでちな。
 というわけでスーちゃん、ゆっくり暖炉の前でお菓子を食べながらこの日記が書けるでち。
 ご主人たまは最近ロータスたまがうちに出入りするようになったので、カリカリしっぱなしだったのでちよ。たださえ狭い心の堀を埋め立てられているせいでちょうな。スーちゃん多大な被害を受けてるでち。1日1回は踏まれてるでちよ。ぷんぷん。
 ああいう余裕のないことだから男も仕事もスカばかり引くのでちよ。ぷんぷん。
 相棒だけはそうでないことにご主人たまはもっと感謝すべきだと思うのでち。ぷんぷん。
 全くもう、さっさとロータスたまに決めてしまえばいいのでち。そしたらちっとは落ち着くかもなのでち。レオポールたんがそのいい例でち…あ、そうだ。レオポールたんの名前が出たからついでに書いておきまちが、この度お嫁たんのメリーたん、とうとう子供を生んだのでちよ。レオポールたん喜びのあまり庭駆け回って壁に激突し脳震盪起こしてまちた。
 男の子3匹女の1匹でち。名前はまだないのでち。見に行ってあげると、レオポールたん喜ぶのでち。
 


 それでは次の人、次のページにどうぞなのでち。



■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / 菊池 志郎(ia5584) / 村雨 紫狼(ia9073) / そよぎ(ia9210) / 无(ib1198) / 月野 魅琴(ib1851) / 杉野 九寿重(ib3226) / 誘霧(ib3311) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ウルグ・シュバルツ(ib5700) / エルレーン(ib7455) / フタバ(ib9419) / アーディル(ib9697) / 黒曜 焔(ib9754) / 厳島あずさ(ic0244) / 紫ノ眼 恋(ic0281


■リプレイ本文


●スーちゃんに続いて

 礼野 真夢紀(ia1144)の相棒、猫又小雪は、毛布の中でクレヨンを前足に挟み、ごきげんで日記を書いている。

 『○がつ○にち こゆき』

 「ち」の字が逆になったり「こ」が「て」になっていたりと、子猫だけにさまざまな標記間違いが起きているが、それをそのまま書くと読みにくいので、逐一翻訳し、文を追いかけることとする。部屋の中は静か。主人たちは留守なのだ。

『まゆきはからくりのしらさぎをつれて、おししょうさまのところへおでかけです』

 小雪だけがお留守番。なので、ちょっと退屈。

『ほんぎょうがいそがしくて、またねおちしたっていってました。かんびょうでよていのしごとにいけないことがおおくてこまるといってたのー。みやつかえってたいへん』

 ここでふと手を止める。
 そういえば「みやつかえ」ってなんだろう。
 「みや」が「つかえる」。
 つかえるといえばきっと喉にだろう。まゆきもこの前言っていた。喉につかえるといけないから、おもちはちょっとづつ食べようねと。
 けど、そうくると「みや」ってどんなたべものだろう。

「…かえってきたら、きいてみよ」

『ひばちやしちりん、まゆきがいないとつかえないのでこゆきようのもうふのなかでかいてます。こゆきだけだとあぶないからってひはけしてでかけるのー。すぽってぃさん、ごしゅじんさまいなくてもだんろつかえるんだーいーなー』

 ぬくぬく体温で暖まりながら、小雪は小さく欠伸した。

『でもいらいでまゆにはこんでもらえるし…ちっちゃいのもけっこうべんりだし。わるいことばかりでないの』

 そこでぴんと耳を立てる。木戸が開く音が聞こえたのだ。 

「小雪−、お土産買ってきたよー」

「かつぶしあられですよー」

 小雪は急いで一行書き加える。

『つぎのひと、どうぞ』

 毛布から抜け出し、お出迎えに出る。

「わーい、かつぶしかつぶしー」



●小雪に続いて。

 菊池 志郎(ia5584)の相棒、管狐の雪待。

「む…小雪の字が、こちらページにもはみ出しておるのう…」

 言いながら彼は文机に向かい、器用に筆を手挟んで書き始める。

『弥生某日 雪待』

 なかなかうまい字だ。

『この日記を綴っている皆の者は、主に満足しているのであろうか? 我は大いに不満じゃ。我が我侭なのではない。あやつが悪いのじゃ。毎度毎度我に対して、やれ食いすぎだの食の嗜好が贅沢すぎるのだのと』

 ふさふさ尻尾を右にゆらり左にゆらり。書き手のバランスをとっているのだろうか。

『よいではないか。我の命とて無限ではないのじゃ。世に数ある料理の全てを味わうことが我のささやかな狐生目標なのじゃ。それを理解せぬあやつと結局大喧嘩じゃ』

 くるりと振り向くと、見事に大穴が空いた襖。

『襖が破れた』

 穴の向こうには食器の後片付けをしている志郎の姿。
 雪待はちょいと考え、さらさら以下の文を綴る。

『そんなで我はこの一月志郎とは口をきいていないのだがな……本日の夕飯の、散らし寿司と蛤の吸い物は旨かったから、そろそろ許してやろうと思うのじゃ』

 それから前足に墨をつけ、紙にぺたり。

『次の方、よしなに』



●雪待に続いて。

 村雨 紫狼(ia9073)の相棒土偶、ミーア。

「あ、雪待さん、肉球署名入れてます。なんだかかわいいのです!」

 ミーアはペンを手に取り、テーブルの上で書き始める。まずは日付から。

『☆月♪日 ミーア』

 ここは近況を知らせるべき。
 思ってその通り書き綴る。

『はい、ドグーロイドのミーアなのです☆ 最近は、妹のアイリスちゃんやカリンちゃん、マスターとの愛の結晶…きゃ〜ん、ミーア恥ずかしいのですゥ!』

 テンション急上昇のあまりたちまち筆が止まってしまう。
 ひとしきり赤面しいやいやした後、呼吸を落ち着けて再開。

『ミーアの部品を使って誕生した娘のタマミィちゃん、家族も増えて、ミーアも依頼に出ることはめっきり減りましたの。でもミーアは寂しくないのです。ミーアはみんなのお姉さんでお母さん、そしてマスター…ううん、大好きなシロウの奥さんなのです。』

 がばりとテーブルに伏し、また息を落ち着けること数分。再び執筆を。

『そりゃあ…ミーアは人間さんじゃないのです、子供も産めない素焼きの体なのです。でも、大好きなシロウの側にいる、それでいい、それだけでいいのです それだけで、ミーアは幸せなのです』

 胸が一杯になりまたぼうっとしてしまうミーアは、台所に入ってきた紫狼の呼びかけで我に返る。

「さっきから何1人でバタバタしてるんだ、お前?」

「い、いえ、なんでもないのですよっ!」

 首をぶんぶんしてごまかす彼女は、手早く一文を入れ、日記を閉じた。

『はい、次の方お願いなのです♪』



●ミーアに続いて。

 そよぎ(ia9210)の相棒、招き猫型土偶のキティ。

「ミーアサン、オノロケネー」

 ただ今外からどしんどしん戻ってきた彼女は、その体に比して小さな日記帳を開き、器用に筆ペンで書き込む。

『○月△日 キティ』

 文面はカタコト喋りに併せてか、カタカナ使用である。

『キョウモイイテンキヨー。そよぎチャンハジルベリアニイッテルカラ、キティハヒトリデアソンデルヨー。そよぎチャンハウルサイケド、イナイトチョットダケサビシクナルネ。オミヤゲモッテハヤクカエッテクルトイイネ。レオポールニアカサンウマレタ、スーチャンオシエテクレタカラ、キティヒトリデイッテミタヨー。』

 そこまで書いて彼女は、今しがた見てきたばかりの光景を思い起こす。
 母犬のおっぱいに吸い付く、まだ毛も生えそろわず目も空かない子犬が4匹。
 父犬はその脇で、頭にハチマキを巻いて番をしていた。

『ミンナカワイイ。ハヤクオオキクナルトイイネ。オトコノコノウチノイッピキハ、キティノフルサトノコイビトニニテタネ。』
 キティは、過ぎし昔を懐かしむように遠い目をする。表情はいまいち動いていないが。目に映る外は、梅の花が満開。

『ダニエル、キティノサイアイノヒトヨー。イイオトコヨ。アカサンノコト、ダニエルッテヨンデイイ?』

 春も程近い。その認識を新たに彼女は、文を結ぶ。

『ソレデハ、ツギノヒトドウゾー』

●キティに続いて。

(…土偶の恋人って、やっぱり土偶…?)

 无(ib1198)の相棒駿龍、風天の脳裏を、ふとそんな疑問が掠める。

(今度会ったら聞いておこうかな…)

 思いながら早速爪をインクに浸し、書き始め。
 人から見ればただの引っ掻き傷しか見えないが、彼からすればこれは断固文字なのである。すぐ横で見ているナイにはなんとなく意味が分かる。よってここからは、彼の音読で通訳してもらおう。

「X月XX日 風天。今、无は遠くに泊まりでお勉強でいないからゆったりしてる。この前泳ごうとしたら无に必死で止められたんだ この前おぼれたけど今度はうまくいくはずなのに。ここで泳ぐの止めるのと、これからずっと飛ぶのやめるのどっちがいいって言う无の笑顔が怖くて泳ぐの止めたけどさ。これってひどいと思わない?」

 駿龍はそもそも空を飛ぶものであって、泳ぐものではないという認識は、風天に存在しない。
 あるのは、飛びかつ泳ぐ鳥もたくさんいるのだから、自分に出来ないはずはないという信念だ。
 その思いが主人に通じた試しがないのが、無念な限り。

「そういえば无で思い出したけど僕のとこのも人のこと言えないな。あの朴念仁、鈍感すぎて色々残念なことになってるから、僕もナイも心配してるんだ。誰かいい人いないかな〜」

 インクが切れたので、再度爪をつける。
 紙を破かぬように引っ掻くのは、これでなかなか難しい。

「あ、レスポールのとこのこの名前はダブ、マローダ、グラバー、グラナダとかどう?」

 どれも強そうでイカしてて音楽的でいい名前。
 自画自賛しつつ締めくくり。

「次の人、よろしく」

●風天に続いて。

「…レスポールではなくレオポールではなかったか?」

 月野 魅琴(ib1851)の相棒、羽妖精のホティは鉛筆をかつぎ首を傾げる。

「まあよいわ。どっちでも大差ないからの。さてと」

 よろけそうになりながら羽妖精は、文字を書く。

『§月§日 ホティ』

 そして休憩。
 間近で本に突っ伏している魅琴の髪を引っ張り起きないのを確かめてから、続行。

『さて、何を書くのか……我、ホティはわからない』

 わからないといってもこれで終わってしまっては、あまりに空白が多すぎる。
 一応もっと埋めなければなるまい。

『我は睡眠を妨げられ、月野とやらの相棒になった。それが、つい最近の話』

 出会いは福袋。
 中で心地よく寝ていたところそのまま買われてしまい、なし崩しで相棒関係となってしまったのだ。

『あの最初の慌てようは何とも言い難いものだったわ。いきなり良くわからぬ、うちにちょこれーととやらを食した。もとい、食させられた……辛かったり、苦かったり、不味いもの食わせやがって……』

 再度寝ている主人を見て、ため息を吐く。

『今目の前に、月野がいる。本に顔を突っ伏して、寝ている。 お供の茶に、辛子でもいれてやろうか……そう思ってたのに、寝言で我とスーサの名を呼ぶ。それもすがる様な、今にも泣きそうな感じだ』

 この男が自分のことをよく知らないのと同時に、自分もまた彼についてよく知らない。なにしろ、身の上話などした試しがないし、された試しもないので。

『良く笑って、私は記憶を失ったと話す。……どっちが、本当の月野だ。さて、我も眠るか、モノクルも外さず阿呆が……』

 つらつら思いを書き連ね彼女は、文の最後にピリオドを打つ。

『次の者、頼む。』



●ホティに続いて。

「ふーむ。ホティの主人、ワケ有りそう」

 杉野 九寿重(ib3226)の相棒、人妖の朱雀は、日記を前に片手でおにぎりを掴み。もぐもぐ食べている。
 もう片方の手にて筆を執り、執筆。

『三月初旬、春を満喫できる日』

 開け放している窓から桜の花びらが舞い込んできた。
 ここは天儀でも暖かい地方。既に春が訪れている。

『今日のワンコは親友のローゼを誘ってお花見だそうです。』

 ワンコ、というのは九寿重のこと。愛らしい犬耳にちなんで朱雀は、そう呼んでいるのである。

『昨晩から持ち寄るお弁当作成に手間暇掛けて朝にはきっちり仕上げた挙句に、うきうきと出かけて行きましたとさ。主足るアタシは今回は付いていかずにちゃんとお見送りして』

 ちなみに彼女の中で主従の関係は、逆転していたりする。

『只今弁当の余りを美味しく味わっている最中なのさっ。先日アタシがチョコレートを横取りした経緯もあるので、ここは大人しくワンコが親友を気遣う様に促して…」

 本当は一緒に行きたかったので、かなり寂しい。
 ワンコワンコワンコ。
 ああアタシのかわいいワンコ。今頃どこで尻尾を振ったり耳をぱたぱたさせていたりするのやら。
 アイラブワンコ。
 アタシは今猛烈にワンコ成分が不足している。誰かギブミーワンコ。ワンコがいないと死ぬ。
 切なさにくすんと鼻を鳴らす朱雀は、負け惜しみを延々綴る。

『アタシは夕方以降に帰るだろうワンコの耳とか尻尾のもふもふ加減を、独り占めで存分に味わう事にするのさっ。毛をさするのは良い気持ちで、やはりこの時はワンコの相棒であるのが至福に感じられるのさっ。これこそ本当の『萌え』だねっ」

 そして、バトンタッチ。

『次の方どうぞ』

●朱雀に続いて。

「ギ」

 誘霧(ib3311)の相棒、迅鷹の兎羽は、前のページに簡単な感想を述べ、新たなページに尖った嘴の端をつきたてた。
 当然紙に、ぷすと小さな穴が空く――これが彼の字なのだ。
 だがこのままでは到底分かるわけがないから、特別に訳文を乗せるとする。

『○月×日 上昇気流 とわ』

 まず出だし。続いて本文。

『あの犬のお兄さん、赤ちゃん生まれたってゆきりが言ってた。おめでとう、だね。』

 今度くだんのお屋敷の上空を巡回し、赤ちゃんを見てこよう。
 心に決めて彼は、穴を空け続ける。

『昨日、ゆきりがお肉食べたいって言ってたんだ。ぼくもお肉好きだから、野兎を捕まえようと思ったんだけど、ぼくの冠羽が兎の耳みたいだから「兎羽」って名前付けて貰ったこと思い出して、狩るのやめたんだ…。』

 ちょっと動きを止め毛づくろいし、また続ける。

『でも、ゆきりにはお肉食べさせたくて、ぼくも食べたくて、お肉。そしたら町で「蛙の肉が美味しい」って噂、聞いたの。お腹一杯食べて欲しいからたくさん蛙獲って行ったの。そしたらゆきりってば、血相を変えて逃げ出しちゃったよ? なんで? とっても喜んでくれると思ったのに』

 残念そうな表情をしているところ、ゆきりがやってきた。

「兎羽−、おやつ持って来イイイイヤアアアアアアアアアアア!」

 悲鳴を上げて彼女は逃げて行く。兎羽が山積みにしている、新鮮な蛇の死骸を見て。

(これも駄目なのかなあ‥‥)

 しょんぼりする兎羽。

『ゆきりごめんね? 大好きなの。お肉』

 彼女が投げだして行った芋をつつく。

『お芋美味しい。』

 肉もいけるが野菜もいける。彼はそんな猛禽である。

『次の人に、パス』



●兎羽に続いて

「次はネズミを狩ってきてあげるといいかもしれませんにゃ」

 リィムナ・ピサレット(ib5201)の相棒からくり、ヴェローチェは、ランプの明かりのもと、穴だらけな兎羽のページの裏が使えないので、一枚とばして書いている。

『?月?日 深夜 ヴェローチェ』

 傍らでは主人のリィムナがぐうぴい健康な寝息を立てている。

『からくりのヴェローチェにゃ! 今朝、リィムにゃんがまたおねしょをしたにゃ。上級アヤカシとだって渡り合える強ーいリィムにゃんだけど、お布団濡らした時はえぐえぐ泣いてて抱き締めてあげたくなるにゃ♪』

 思い出しているのだろう、ヴェローチェはくすくす笑った。

『後始末をお手伝いして、2人でお布団干した後は…心を鬼にして、お尻ペンペンタイムにゃ! ヴェローチェだって辛いにゃ…でも一番上のお姉さんに、こうする様に頼まれてるのにゃ』

 再度思い出しているのだろう、ヴェローチェはうっとり目を潤ませた。

『リィムにゃんは可愛い声で大泣きするので つい多目に叩いてしまうにゃん♪』

 何度でも思い出すのだろう、ヴェローチェは頬を赤くし息を荒げ始めた。

『…今夜も寝てる時に手をお湯に入れてあげるにゃ♪ ハァハァ♪』

 なにやら不穏なことを書いた後、ちらと目を向ける。ストーブの上のやかんに。

『次の人、下が多く空いたので、よかったらまたいで使ってくださいにゃ♪』

 立ち上がり、どこかから持ってきた洗面器に、やかんの湯と水を混ぜ始める。温度計を突っ込んで。

「火傷しない熱さ…火傷しない熱さ…」

 彼女の愛は少しだけ歪んでいるもようだ。



●ヴェローチェに続いて。

「ではありがたく使わせていただこうぞ」

『桃見月 某日 導』

 ウルグ・シュバルツ(ib5700)の相棒、管狐の導は、さらさら筆を走らせる。
 実に達筆な行書体だ。人間でもこれだけ書けるものは、なかなかいまい。

『今晩の煮物は出汁が良い塩梅で美味であった。助言が適確だったのもあろうが、我が見込んだだけはあるの』

 主人であるウルグはただ今外出中。
 例によって例のごとく、またぞろ何かに巻き込まれ、頼まれごとをされているものと思われる。

『昼に通りを飛んでおったら、スリなぞしよる輩を見掛けての。雀に化けてこっそり襟に火を付けてやったら、大わらわで周りに助けを請うておったわ。全く都合の良いものよ。』

 ふん、と尖った鼻で笑う導であったが、すぐと眉を顰めた。ここ最近の事柄が気になってきてしまって。

『近頃は大アヤカシ云々で騒がしくなっておるな。ウルグも先日はシャリアごと瘴気感染してきよったが…無茶も程々にして欲しいものであるの。』

 陰の勢力が大きくなるのは、世界にとってまことによからぬこと。
 困ったものだと首を振り振りしたキツネは、硯に筆をつけ、余分な墨汁を落とす。

『主らも気を付けるのであるぞ。と、何やらおめでたであったようだの。部外者なりに祝いの言葉を述べさせて貰おうぞ。伝えておくがよい。』

 そこからしばらくさらさらさら、軽快に筆を動かす。
 動きからしてどうも文字を書いているのではなさそう。
 手元を覗いてみればなんとそこには、本格的な水墨画――鯉の滝登り。お祝いの意味を込めてのことであるもようだ。

『それでは次の方、頼む』



●導に続いて。

「おう、見事な出来栄えもふ。さすが導画伯、いい仕事してるもふなあ…」

 エルレーン(ib7455)の相棒もふら、もふもふは、エルレーンの留守を見はかり机とペンを借用、鼻歌を歌いながら日記を書き始める。

『〇月□日 もふもふ』

 とりあえず日付から入り、えへんと咳払い。

『如何お過ごしもふか、もふらのもふもふもふ。あうっ…もふが連続してしまったが、名前が「もふもふ」で、語尾が「もふ」なのでもふ』

 話し言葉で書き言葉を綴るというのも難しいものだ。
 思い知りながら彼は本題に入った。

『さて、我輩の主君について書いてみるもふよ。我輩の主君は「えるれん」という志士で、得意がって剣を振り回しているが彼氏の1人も作れない可哀そうなこむすめもふ…』

 筆がいったん乗り出すと、後はとめどなくいける。

『貧乳で、おとこひでりで、おこづかいくれないケチンボもふ。おまけに暴力癖があるもふよ。もふもふは常に被害を受けているもふ。
まあそういうことだからおとこひでりになるもふな。
おまけにメシのマズいことといったら、お話しにならないもふ。焦がすか生焼けか、さもなくば得体の知れない味付けになるのがお約束もふ。
まあそういうことだから、嫁き遅れになるもふな。
そのくせ理想だけは高いんだから己を知らないといったらないもふ。「かわいいねエルレーン」って言ってくれて抱き締めてくれて見目がよくて性格よくてお金持ちでとか、自分を何様だと思っているもふか。あんなことでは一生相手が見つからなくてもおかしくないもふ。そうならないためには今のうちにハードルを下げるべきもふ。
いやそりゃスポッティ殿のご主人様ほど落ち穂拾いしなくてもいいとは思うもふが、分相応という言葉が世間にはあるもふから、よろしくその意味を噛み締めるべきもふ』

 ノリノリで書いているため彼は、誰かが部屋に入ってくる物音を聞き逃した。

『まあでもかわいそうもふから、我輩が面倒見てるもふ〜。それでは文字数もいっぱいになりそうだか』

 まとめに入りかけたところ、ものすごく近くで声がした。

「もふもふ…何書いてるの?」



●もふもふに続き

「あれー、どうしてもふもふさんのとこ、最後のところちょん切れているもふ?」

 回って来た日記を見て首をかしげるのは、フタバ(ib9419)の相棒もふら、ゆき。
 でもすぐ、「まあいいや」ですませる。
 実にもふららしい反応だ。

「にっきなんてとってもめずらしいもふー! ゆきもにっきかいて、おとなのなかまいりもふ!」

 早速クレパスを手に書き始める。

『*月*日 ゆき』

 ピンク色の線の、大きな大きな文字。

『最近あったかいかぜがふいてて、ゆきも、お友達でせんぱいのおまんじゅうちゃんも、まっしろいけなみが汚れちゃうもふ。ふたばはそれをきれーにしよーとして、まいにち櫛ですいてくれるもふ♪』

 温もりに誘われるこの季節。草木も芽吹き出し、川の土手には菜の花が一杯咲き始めた。
 そこを駆け回るのが、最近のゆきと友達のお気に入り。
 冬が過ぎて春。思う存分屋外で遊べる。何とすばらしい。

『ゆきは櫛ですかれるのだいすきもふ! そういえばおまんじゅうちゃんはこくよーさんにさいきんお料理つくってもらったり、ふくをぬってもらったり、うらやましいもふー。』

 今日もそうやって駆け回って来た後なので、体のあちこちに冬の名残の草の実がついたり、花びらが毛の間にはまったり、草がからまったり。

『でもでも、ふたばもゆきのこうぶつをいっぱいかんがえてくれてるもふ! さいきんおいしかったのはいちごだいふく! また、おいしいだいふくをたべたいもふ! ふたばといっしょに!』

 ついよだれが出そうなところに、呼び声。

「あ、帰ってたん。まあまあ、またぎょうさん汚してえ…きれいにしたげるからこっち来いや」

「はーいもふー」

『それじゃあ、次の人お願いもふ』



●ゆきに続いて

 黒曜 焔(ib9754)の相棒もふら、おまんじゅうは、ぽかぽかする縁側にて寝転がり、日記に取り組む。
 主人である焔は、近くで惰眠を貪っている。

『*月*日 おまんじゅう』

 おまんじゅうは飯釜を脇においている。お腹がすいたのでおにぎりでも作って食べながら、と思ったのだ。
 しかし。

「うっ。いっぱいくっついてしまったもふ」

 握る前に塩水を浸けなくては、当然そうなる。
 ブンブン手を振ってみても取れやしない。
 のでおまんじゅうは、あきらめた。その件を日記に書く。

『もふはおむすびを握ろうとして、釜に手を突っ込んでみたもふ。手がご飯粒まみれになったもふ。結局おむすびは握れなかったもふ。これを書いたら相棒を起こして握って貰うもふ』

 つぶれたご飯粒が糊の役目を果たし、右手にぺったり筆がくっつくので、ケガの功名と言えなくもない…と言いたいが、やはり字を書くのが難しいことに変わりはなかった。

「あっ、筆が落ちたもふ…」

 落ちた床に筆の墨がべちゃとつく。
 持ち上げ墨汁に浸し落としまた拾いしているうちに、辺り一面真っ黒。
 ついでにおまんじゅうの手も黒。
 釜もいつの間にかひっくりかえりご飯ぶちまけ状態。

『…腕がつりそうもふ…もふの白い毛はもう墨だらけもふ。後で相棒にお風呂に入れてもらうもふ〜。』

 切々と心情を綴っているところ、やっと焔が起きてきた。
 目を開けた彼は、周囲の惨状に仰天する。

「うわああああ、なにをしてるんだい、おまんじゅう!」

 大急ぎで雑巾を探しに行く主人の背中を目に、おまんじゅうは書く。これから起きることを予測して。

『米を炊いたりおむすびを握ったりもふをお風呂に入れたり、今日の相棒は大忙しもふね〜。』

 前述のとおり腕が疲れたので、早々終了。

『では、次の人どうぞもふ』



●おまんじゅうに続いて。

「にゃるほど、そういうわけでこのページ、あちこち足型ついてるんにゃ」

 アーディル(ib9697)の相棒猫又である桃浪は、納得の頷きをしながら、窓辺で日記をしたためる。

『○月☆日 晴れ(ぽかぽか陽気) 桃浪』

 地面がぬくみでもんわりする匂い。
 鼻回りのヒゲをひこひこさせ桃浪は、焼きたてのサンマをかじっている。

『桃にゃー。最近は、お日様がぽかぽかで毎日眠いのにゃー。「少し動け!」って、アーディには言われるけど、いいのにゃ、猫は寝るのも仕事なのにゃ。そのアーディも、何かお仕事忙しそうで、あんまり遊んでくれないのにゃ。』

 足元に転がっているのは、小一時間追跡し格闘して捕まえた、見事な獲物。
 灰色の毛皮にまるまるした体。三角の鼻先に鋭い出っ歯。大きなドブネズミ。

『留守番なんて、おいらにかかれば朝飯前だけどあんまり暇なので、鼠捕りとかしてみたのにゃ。』

 ところで床には、割れ土がこぼれ出している鉢植えが。
 蘭の一種らしいが、哀れにもくたっている。早く水に浸けるなりなんなりしないといけないのではないだろうか――。

『アーディの大事にしてる鉢植えを1個ガシャンとしたけど、細かい事は気にしちゃダメなのにゃー。お仕事の後の焼き魚は最高なのにゃ。』

 ――などと、猫は全然考えていない。知らん顔で日記に没頭だ。

『そういえば、れおぽんに子供が生まれたんだっけ? 見た目はともかく、性格はれおぽんに似てない事を祈ってるにゃー。』

 と、アーディルが帰ってきたらしき物音。

「あ、帰ってきたにゃ」

 早速この戦果を見せつけよう。
 思って桃浪は鼠を咥え、窓から飛び出した。忘れず一文を添えて。

『次の人にパスするにゃ』

 ほどなくして、アーディルの叫び声が上がる。

「鉢植えが、鉢植えがー!」



●桃浪に続いて

「どこも春ですのねえ」

 厳島あずさ(ic0244)の相棒もふら、居眠毛玉護比売命は、しずしず筆を執る。

『×月○日 居眠毛玉護比売命(以下、ねむりんと略しますわ)』

『本日の餌…もとい、わたくしへのお供え物は野菜サラダ。』

 そこまで書いて彼女は、しずしずあずさに告げた。

「あずさや、ドレッシングをかけたほうが美味しくなるのではなくて?」

 あずさもしずしず答える。

「ねむり様、自然崇拝たる天儀神道は自然物をそのままいただく事こそが敬意の現れなのです」

 なるほど。
 すごく納得したねむりんは、日記に綴った。

『生サラダを頂きましたの。』


『×月×日 雨。この日はひどい雨。』

 でも春雨。
 暖かい水滴が、桜のつぼみとタンポポの花を濡らしている。
 ねむりんはお散歩に行きたい気分だ。

『わたくしの被毛は水をはじきますが、下々の者のような格好に憧れがないわけでもないですの。』

 というわけで、しずしずあずさに言う。

「敬虔なるあずさや、レインコートを買ってこさせてさしあげますよ」

 あずさもしずしず答える。

「偉大なるねむり姫様、あのような下賤な物は高貴な方には似合いませぬ」

 なるほど。
 とても得心したねむりんは、日記に綴った。

『わたくしはいつもの格好で出かけましたの。では次のもの、苦しゅうないのでお書きなさい』

 そしてお出掛けに行った。

 もこもこな後ろ姿に、重度のもふらフェチであるあずさは、人知れず悶える。

「かっ…かわいい…なにもかもかわいい…」



●ねむりんに続いて

「…うまいこと騙されてんじゃねえかなあ…ねむりん…」

 半眼で呟いた紫ノ眼 恋(ic0281)の相棒からくり白銀丸は、ちゃぶ台の前でお茶を飲む。

『〇月某日。白銀丸』

 手にしているのは万年筆。

『ようやく家事がひと段落。こっちはやることいろいろあるってのに、うちの主は構い無しに剣の修行付き合えとか腹減ったとか、自由すぎてちょっと困る。』

 主人はただ今入浴中。お風呂場からざあざあいう音が聞こえてくる。

『今日の夕飯も1人で十人前は平らげててちょっと怖い。人間の胃袋ってそんなに入れて大丈夫なもんなの? まぁ作ったの俺だし悪い気はしねぇけど。あいつ、いつか爆発したらどうしよう』

 そこで彼は、ふいと前のページをめくり返す。

『ああ、レオポールんとこ子供出来たんだ。おめでとうで、お大事にだな。まったくうちの主も見習って欲しい。まじ結婚とか出来る気がしねェ』

 「恋」というポエミーな名前を持っているにもかかわらず、性格はいっこも合致しない。半分以上野生動物でなかろうかと思うことも多々。
 外見は悪くないんだから、もう少しどうにかならないものだろうか。

『……それこそ、今度料理くらい教え込むかね。ま、皆のとこがそれぞれ楽しそうで安心したぜ。何事もねェ平穏ってのは大事だ。デケェ戦もあるみてぇだし、壮健にな』

 そこまで書いたところで、風呂場から声が。

「白銀丸−、寝間着が見当たらないんだがー」

『じゃ、次の奴頼むわ』

 手早くそう書いて、白銀丸は立ち上がる。

「んだよもう、籠に入れといたはずだぞー!」

 彼の主人は、まだまだ手がかかりそうだ。



●白銀丸からスーちゃんに戻る

「皆様色々とあるのでちねー。それにしてもレオポールたんの子供の名前も考えてくれるとは、ありがたいことでちな。そのうち本人に報告にいきまちょうか」

「スーちゃん、ちょっと来なさい、手伝いして!」

「わおご主人たま! なんでちか急に帰ってきて、サスペンス依頼はどうちたでちか」

「だからそのために帰ってきたの、おいで、ロータスの家に行くわよ!」

「え〜、スーちゃんまだ骨休みしてたいでち」

「あんたはいっつも休んでるでしょ!」