相棒感謝の日
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 14人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/10 17:11



■オープニング本文


 どこかの空き地。
 ぶちもふらのスポッティことスーちゃんが林檎箱の壇上に上がり、居並ぶ様々な相棒たちに演説している。


 えー、本日はお日柄もよく誰が決めたか相棒感謝の日。常日頃お世話になる相棒たちの労を、開拓者がねぎらう日。相棒の気分を追体験してみる日なのでち。
 というわけで、今日はスーちゃんのみならず、みなたんご主人たまと立場逆転するのでち。スーちゃんたちが命令する方で、ご主人たまたちが聞くほうなのでち。
 年に一度のことでちから、みなたま十分にストレス発散させるといいとスーちゃん思うのでち。
 とりあえずスーちゃんは今日ご主人たまに虐待禁止令を出すのでちよ。破ったら罰金とるのでちよもふふふふふ。
 まあともかくでちな、普段相棒と良好な関係さえ築いているなら恐れるものなどないのでち。これ幸いと合法的に復讐されるなんて憂目は見ないですむのでち。
 ここにお集まりのみなたまはのご主人たまたちは、きっとそんないい人ばかりだと思いまちが、もしそうでなくても、明日の朝日が拝めることを祈っておきまちでち。

 ではみなたま、感謝の日をご主人たまたちと自由闊達に楽しんでくださいまちでち。

 演説終わり。
 拍手の後一斉に振り向く相棒たち。
 その視線の先には、なにやら戦々恐々としている開拓者たちの姿が…。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / キース・グレイン(ia1248) / 菊池 志郎(ia5584) / 村雨 紫狼(ia9073) / 岩宿 太郎(ib0852) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / エルレーン(ib7455) / 澤口 凪(ib8083) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 草薙 早矢(ic0072) / 津田とも(ic0154) / 紫ノ眼 恋(ic0281


■リプレイ本文

『あいぼーかんしゃのひ?』

 幼き猫又小雪には、言葉の意味がよく分かっていない。
 しかし問題はない。主人である礼野 真夢紀(ia1144)は何もかも承知しているのだから。

「小雪ー、鈴麗の所に行きますよー」

『はぁい』

 呼ばれた小雪はぽんと、真夢紀の懐に飛び込んだ。そして、そのまま運ばれて行く。

「今日はね、おいしいもの作りますよー」

『わぁい。おいしいものー』

 無邪気に喜ぶ声は、あちらからもこちらからも聞かれる。
 羽妖精の天詩もその一人。

「わーい、今日はうた、好きなことしていいんだねっ。しーちゃんと鬼ごっこしてかくれんぼしてえっとそれからー」

 羽をぱたぱたさせ指折り数える相棒に、菊池 志郎(ia5584)は人知れずため息をつく。

「今日は試練の一日になりそうです……」

 体こそ小さいが彼女天詩はとにかく元気。遊びといっても力の限りを尽くさねば承知されまい。

『むふふ、今日はボクがご主人様なんだからねっ、マスター』

 土偶ゴーレムのアイリスから指を突き付けられ、村雨 紫狼(ia9073)はぼやきたおす。

「主従逆転つーか、いつもお前らの尻に敷かれてるやん俺…」

『もう〜しょうがないなァマスター! 最近、ボクの出番少ないよ!! 新入りのカリンやタマちゃんばっか可愛がって…だ・か・ら! 今日はボクの言うこと、ちゃ〜んと聞く様に!!』

 高々言った後アイリスは、ぷっと頬を膨らませた。

『…ボク、すごく淋しかったんだからね』

 彼女がそう言っているとき紫狼は、機構獣の火竜と主人津田とも(ic0154)に目を奪われていた。

「立場が入れ替わるっていわれても、アーマー火竜はすごく大切にしているぞ、乗る時も…って、えっ、な、なんだこれ! 機構獣が俺の上に…ちょっ、お、重い!! え、お前載せて進むの!? 無理無理無理! 砕ける砕ける腰が!」

(すげえな。俺なら死んでるぜ…)

 話しかけられたと数秒遅れて気づき、聞き返す。

「あ、なんか言ったか?」

『…あーもう、うるさいうるさーいッ!! 今日はボクがマスターのマスターなんだからッ。じゃあ命令ッ…きょ、今日一日…ぼ、ボクとデートちゅるの!」

「…今、噛んだろアイリス」

『…!』

 アイリスの顔が赤くなったようだった。土偶なのに。上目使いの目も潤んでいるようであった。
 ここまできたら紫狼も、無神経なことばかり言っていられない。

「わーたって、皆まで言うなッ食い物は無理でも、服ならいけるだろ?」

 アイリスの顔が満面にほころぶ。

『うんッ! おにいちゃん!!』

 羽妖精のキルアはそれと別種の笑みを浮かべ、ラグナ・グラウシード(ib8459)に迫っている。

「ふふん、ではまず宝飾品からだな!」

「ほ、宝飾品!?」

「そうとも。宝珠にドレス、アクセサリー…普段はこの粗末な装備で我慢しているのだからな! 今日はその償いをつけてもらう! さあ行くぞ目抜き通りへ!」

 からくりの白銀丸は主人である紫ノ眼 恋(ic0281)の決意表明に、ひたすら冷めた目をしていた。

「相棒感謝の日か。ならば、シロに代わって今日の家事はあたしがやろう」

 甲龍ほかみは岩宿 太郎(ib0852)を前に考えている。主人との立場逆転とはどうあるべきかと。

(つまりとりあえず従者をツノで…もといアゴで使えばいいのか。よし、今日はとことんこき使ってやろう。今までは嫌々ながらも最初の命令だけは聞いてたけど、今回は初回からワガママ言っていいんだよね)

 一方太郎も考えている。主従逆転というものについて。

(…つまりはほかみの奴の立場が俺の立場と入れ替わるわけで…俺が晩ごはんゲットか! そういう流れか! なんていい日なんだ相棒感謝の日。よ〜し今日くらい主従逆転して俺が主になってやるぞ〜!)

 ほかみも引き続き考えている。

(抵抗したらこっちも反撃しちゃうぞ。日頃の情けなさの恨みもこっそり加えて矯正しちゃうぞ)

 太郎は意気揚々と言った。

「…よし! ならほかみ、アンパン買ってきてくれ!」

 直後の尻尾一撃で、太郎が沈黙した。
 ほかみと同じ甲龍のグレイブは、主人キース・グレイン(ia1248)の声に耳を傾ける。

「グレイン、背中に乗れ。今日は俺が運んでやる」

 グレインは前足をキースの肩にかけた。

「いや、乗ってもいいんだぞ? 潰れはせん」

 と言われても気掛かりなのか、後ろ足は乗せない。彼を支えにもたれかかり、一緒に歩いて行く。
 一方霊騎の夜空は。

「よーしよし、夜空、たまには私がおんぶしてやろう。どうだ、楽か?」

 もともと小柄ということもあり、篠崎早矢(ic0072)の背に遠慮なく乗っている。

「どこか行きたいところがあるか?」

「ブヒン」

「えっ、山登りするの!? いや、まあそりゃ馬なんだから昇り降りが急なところ走らせてるけど…」

 もふらのもふもふはにんまり。主人のエルレーン(ib7455)にびしと肉球をつきつける。

「もっふ〜、じゃあ、今日は普段の疲れを癒すべく、我輩にちやほやするもふ〜」

「…もふもふ、普段疲れるようなことほとんどしてなくない?」

「むむ、口答えはいかんもふ! 今日は我輩の日なんだもふ! ごちそうごちそう、ごちそうするもふ!」

「はいはい、分かったよもう…」

 からくりカフチェは困惑顔だ。隣にいる主人アルマ・ムリフェイン(ib3629)につい聞いてしまう。

『……どうしたら?』

 アルマはくすくす悪戯に笑うばかり。

「え。命令すればいいんじゃない?」

『アル、…楽しんでるでしょう』

「…そうだね。じゃあ、懐かしい曲でも?」

『――では、それで。広場に行きましょうか』

「仰せのままに」

『止めなさい』

 羽妖精の姫翠は、主人緋乃宮 白月(ib9855)の周囲を、元気一杯飛び回る。

「うん、たまにはこの様な日も良いかもしれませんね…姫翠はどう過ごしたい?」

『えへへ〜、マスターと一緒にお散歩したいですっ』

「そっか。それなら町の散歩をしようかな」

『はいっ。そうしましょう』

 この両者は普段から関係が良好なため、いざ逆転してもさしたる変化はない。仲良くほのぼのするだけである。
 甲龍の岳と澤口 凪(ib8083)もまた同様。

「感謝、ねぇ。まあ確かに日頃世話になってるし、たまにゃあいいかね。おいで岳」

「ガウ」

 全ての退場を見届け人妖の蓮華は、瓢箪の酒をくいと飲む。

「んむ、よき日なのじゃ」

 主人の羅喉丸(ia0347)は彼女を茶化した。

「主従の関係が入れ替わる。そうか、いい日だな…蓮華、お茶を入れてくれ」

「なんでじゃい」

「主従が入れ替わるわけだから、言う事を聞いてくれるんじゃないのか」

「あほう。妾は『羅喉丸の師匠』にして『酔八仙拳の達人』じゃぞ。何が悲しゅうて茶汲みなぞ」

「だろうな。まあ、言ってみただけだ」

「ならよい。しかしここでぼうっとしているのも芸がないものじゃ。遠出でもするか?」

 せっかく相棒が機嫌よくしているのであれば羅喉丸も、付き合うにしくはない。

「そうだな――この間見つけた、あそこにするか?」



 小高い地の一角。
 そこにある龍舎の藁山にキースが寝ている。
 太陽は高く、風が差し込まなければちょうどいい陽気だ。

(最近はここも御無沙汰気味だったな。依頼や訓練帰りに立ち寄っているものの、長屋の騒ぎやなんやで身動き取れなかったりしてたからな…一人で抜け出したりは、してたけど…)

 傍らにはグレイブが丸くなっている。一緒に昼寝だ。
 鼻先を撫で、キースが語りかける。

「グレイブ、お前…いつもと変わらんだろう。いいのか?」

 尻尾がぱたりと振って返された。御機嫌な証拠だ。

「…まあ、此処のところ気張りっぱなしだったしな。付き合うついでに、俺も少し休ませて貰うとするか…。暫くは面倒事が続きそうだ」

 苦笑する彼の耳に、水音が聞こえている。
 凪がバケツを傍らに、岳の手入れをしてやっているのだ。
 大きな体の隅々まで布で拭き、磨いてやり、小さな傷があるなら薬を塗り込んでやり。

「ほんに、ありがとね」

 岳は心地よさげに太く喉を鳴らしている。
 キースは再度相棒に話しかけた。

「また、こうして過ごす為にも…手を貸してくれるか?」

 べろりと分厚い舌が顔を嘗める。

「…ありがとう、な」



 龍舎からそう離れてもいない、とある山。
 早矢はぽかぽかどころか汗だくだった。荷を負っての山道はやはり厳しい。相棒の重さが身に染みてくる。

「はあ、はあ、ちょっと休憩、サボろう…痛いっ! 鞭でおしり叩くのやめて!」

「ブヒン」

「いやいや、尻尾だって十分鞭って感じだからさ…」

 背中からの抗議に抗う彼女はようやく休憩場所を見つけた。峠の茶屋である。
 やれやれ座ろうとする所、夜空が鼻息で止めてきた。

「え? 私はあっち?」

 かくして馬が座敷席に、人間は道端に面した馬房に。

「にんじんかあ。嫌いじゃないけど生はきついな…」

 零しボリボリ生野菜を齧る彼女であったが、続いてやってきたともの姿を見て、自分はまだマシだと悟る。
 何しろ乗っかられている彼女、全く起き上がれない状態。四つん這いとほふく前進の中間と言った具合。

「うわっ! 体つつくな! そこ別にボタンじゃねーよ!! あっ、やっやっ、やだちょっと、レバーでもねえええ! わかったわかった! 銃砲撃つんだろ!? 立場逆転してんだろ!?」

 アーマーに乗っかられたまま銃を撃ち、ぜえぜえしながら過ぎて行く。
 もはや一種の苦行だ。
 逆転するなら生き物の方がまだよい。
 思いを新たにする前を、今度は全速力の人影が通り過ぎる。
 志郎だ。
 その背後から弾丸のごとき速度で羽妖精が追いすがる。
 天詩だ。

「わーい、うたがおにだうたがおにだー! しーちゃんつかまえちゃうぞー!」

 両者木々の間に入ってたちまち見えなくなる。
 ああいうハードな遊びを要求されなくてまだよかった。
 己を慰め早矢は、休憩を終える。

「さてと、行こうか夜空」



「今日は文旦が手に入ったからね〜」

『りんれい、おいしぃ?』

「グウ」

 「龍のお姉ちゃん」である鈴麗が大きな柑橘を食べるのを見ていると、小雪もお腹がすいてきた。
 そこに真夢紀としらさぎから、うれしいお知らせが。

「今日はウドンだよ。温泉卵もつけてあげるからね」

『わーい♪ かまたまうどんー♪』

 口に入りやすいよう小さく切ったうどんの上に半熟卵。たくさん食べてお腹一杯になった小雪は、日なたに丸まりお昼寝に入る。



 同時刻恋宅では、気合のエプロンドレス姿である狼主人を前に、白銀丸が半眼になっていた。

「なんだ。何か言いたいことでも?」

 恋が聞くと彼はため息交じりに部屋を見回し、口を開いた。

『ああ、ある』

 まず畳の縁をすーっと指でなぞる。

『掃除は部屋の角まで届いて無いし、』

 くしゃくしゃの塊となっている洗濯物を手に取り、パッパと広げる。

『洗濯はピシッと伸ばさないとシワが残る』

 台所に立って行き、怪しげなナベの中身を指さす。

『料理は材料全部ぶちこんだな。うろこも取らない魚入れてどうすんだよ。生臭すぎて食えねえよ』

 とどめにこう付け加える。

『……嫁に行く気、無いよな。まったく恋はいつもいつも…。もう少し女らしくしてろよな』

 電光石火恋は抜刀した。こめかみに筋を浮き上がらせて。

「うるせェえ! あたしは狼だッ! 狼にゃンな『じょしりょく』は、要らねェんだよォッ!」

『ちょ待って訊いたのそっちじゃn』

 その後は、がらがらどしゃーんと、いつにもましてけたたましい物音。



 小雪ははたと昼寝から覚めた。カーンといういい音を耳にして。
 目を開けてみれば庭先に見慣れぬものが。

『…あれー、どこからこのふらいぱんとんできたのー?』






 町角の寿司屋でもふもふは昼ご飯と称し、大トロばかりを食べていた。

「足りないもふえるれん、もっともっともってこいもふ〜」

「…もふもふ、食べすぎじゃない?」

 財布の中身を確かめているエルレーンの目は本気になり始めている。
 もふもふはそれに気づかず、増長を続ける。

「なにをいうもふか〜。使うために金はあるもふ〜。あ、マッサージもしっかり頼むもふ〜。我輩日頃の疲れをいやされたいもふよ〜」

「…はいはい、なのっ!」

「ぎいやああああああなにするもふかああ!」

「うん? あしうらマッサージだよ? ここがいたいときはないぞうがわるいんだって。しんぱいだねえもふもふ」

「あきゃああああああああやめるもふううう!」

 大絶叫が繰り広げられているそこへ、顔色の悪いラグナと最新モードに着飾ったキルアが入ってくる。

「さあて、いったん小休止してここで昼にするか」

「う、うぅ…よ、予算がっ」

 うめいていた彼は一拍遅れてから、店内のエルレーンたちに気づく。

「はっ、貧乳女! ここで会ったが百年目だ、我が大剣で…!」

「ひんにゅうとか言うなああ!!」

 あわや軍事衝突になりかけたその時、互いの相棒が待ったをかけた。

「こらっ、えるれん! 今日は相棒感謝の日もふよ!」

「ラグナ、この馬鹿者がッ! 今日は貴様が私に奉仕する日だぞ! 争いなど気分が悪いッ!」

 出端を挫かれたところで追い打ちが。

「けんかとか止めて、なかよくするもふっ」

「けんかなどよせ、仲良くするのだ!」

 こうくるともうしょうがない。今日は相棒が主導権を握っているのだ。

「「う、うぐぐ…」」

 不承不承ながら、お互い手を握りあう。これも感謝の日ならではの光景か。
 どこからともなく穏やかな音楽が流れてくる。



 こつこつ足で拍子を取ってから始まる合奏。アルマはオルガネット、カフチェはバイオリン。
 曲目はカフチェの――前の主であり、アルマも少し世話になった人のもの。
 道行く人は音色にしばし足を止める。
 白月もまたその一人。姫翠は彼の肩に座り、休憩を取っている。

『いい音ですねマスター』

「そうだね。優しい音色だ」

 温和な顔立ちをさらに和らげて彼は、ふと洋品店の店先へ目を留める。そこでは紫狼に連れられたアイリスが、あれやこれやと品定めをしていた。

『ねえマスター、この服似合うー?』

「あー、いいんじゃねえ?」

『なんだよもう、ちゃんと見てから言ってよ!』

「見ても見なくても似たようなもんだろ、色違いなだけなんだからよー」

 白月はほほ笑み、相棒に言った。

「うん、皆にも何かお土産を買っていきましょうか」

『あ、それはいいです、大賛成ですっ! マスターマスター、向こうのお店に行ってみましょうっ!』

「はいはい、あのケーキ屋さんですね」

 音は穏やかに溶け響き会い、消えて行く。
 アルマは余韻を十分響かせてから、観客の拍手の中、カフチェと拳を合わせた。

「これからもよろしくね、カフチェ」

『こちらこそ』



 一際高い楼閣。眼下に雪の町を眺めながら、羅喉丸と蓮華は酒をたしなむ。

「む。いい演奏じゃった。そしてよい景色じゃの。冬は雪、それだけで酒が進むというものじゃ」

『そうだな。特にこの時期、熱燗はいい』

 火鉢であぶったスルメを口に、蓮華はほろ酔い加減。小唄などうなっている。

『あれじゃ羅喉丸。2人では座敷も華に欠けるで、きれいどころの娘ごでも呼んではどうじゃな? 膳などもどんどん運ばせての』

「遠慮しておく」

『…お主はちと真面目すぎる。人生は楽しむものじゃ、こんなにも楽しいのじゃから、そうじゃろう』

「ええ、ありがとう、蓮華」



 小雪はしらさぎとねこじゃらしで遊んでからまたお昼寝をし――起きてみたらば夕方だった。
 顔を洗ってお目目をこすってしていたところで、いい匂い。
 台所に行くと夕ごはんの用意をしている。

「鳥の良いのが手に入ったから親子丼にしましょうか」

『わあい。とりのおにくー』

 みいみい鳴いて喜びを表現する子猫の前に、出来立てご飯がやってくる。小さく切った鶏肉と煮込んだご飯。

『あれー、おねぎがないよー?』

「あ、葱は小雪はだめなんだってー。でもお味は一緒にしてるからね」

『はーい』

 皆にかまわれる子猫として小雪の一日は、相棒感謝の日でも日常と、何にも変わらないようである。



 日も暮れた。
 早矢は自宅の馬屋にいる。

「依頼に出るのと大差ないなこれは…」

 四つん這いになって腰を叩いているところ、夜空がブラッシングしてくる。口で。

「あーそこそこ、背中かゆい、うんもういいや」

 続けて足の裏に頬を擦り付けてくる。察するに、蹄鉄の裏掘りのかわりに足の裏の汚れを拭いてやろうということらしい。
 そうと察した早矢は首を抱き、ねぎらった。

「うんうん、ありがとうな!」

 それからワラの上へ仰向けに倒れる。思い切り手足を延ばし、ふふっと笑う。

「やりがいがあって悪い一日じゃなかったな…」

 台詞を言い終わるか終わらないかのうち、すぐ眠りに落ちる。
 後には、馬と人との高いびき。



「やっと終わった……」

 平地だけでなく木や屋根の上まで駆け上っての鬼ごっこ、そして影踏み。かくれんぼ。缶蹴り。
 最早修行の域に達した遊びは天詩のエネルギー切れをもって終了した。彼女は今心地よい夢の中。ふらふら戻ってきた空き地に行き倒れている志郎の頭の上で。
 ともも近くに倒れている。アーマーを背負ったままで精根尽きて。
 付近には退屈そうにしているほかみがいる。その足元で地面に埋まっていた太郎が、がばりと起き上がった。

「はっ! 俺は一体今まで何を…まるで長い長い夢を見ていたようだ…」

 一人ごちた彼は立ち上がり、ほかみに言う。

「おいほかみ、アンパンを買ってきてくれ!」

 頭上から尻尾が落ちた。
 再度沈黙する場に、岳を連れた凪が通りがかる。
 ほかみに彼女と相棒は、声をかけた。

「今晩は。いい月夜だねえ」

「ガウ」

 返事はやはり龍語。

「ガワ」

 そこに羅喉丸と蓮華も通りがかった。

「おーい、なんだか知らんが皆起きないと風邪をひくぞ」

『野宿かや。まだ2月というのに、豪儀なものじゃのう…。酒でもかけてやろうかのー?』



 ようやく片付いた家の中を見回し、白銀丸は半眼だ。雑巾を片手にして。

『たくよー、どこが感謝の日なんだよ。いつもより働いてるじゃねえか俺』

「やかましいわ。それよりどこを捜してもフライパンが見当たらぬ」

『恋が見境なくふっとばすからだっての』

 と、そこにお客様。
 出てみると、フライパンを手にした真夢紀と、その胸に収まっている小雪。

「ええと、これ、お宅のではありませんか?」

『うちのおにわにとんできたのー』






相棒感謝の日。
それぞれの夜が更けて行く…。