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■オープニング本文 とある資料室――一人の青年が、過去の報告書を整理していた。 足元には暖房器具の中で宝珠が熱を発し、もふらが丸まって暖を取っている。 彼は眠そうな瞳をこすりながら紙資料の山をめくり、中に少しずつ目を通していく。 そこに記されているのは、遠い昔の出来事だ。 それはまだ嵐の壁が存在していて、儀と儀、地上と天空が隔てられていた時代の物語。アヤカシが暴れ狂い、神が世界をその手にしていた時代の終焉。神話時代が終わって訪れた、英雄時代の叙事詩。 開拓者――その名は廃されて久しく、彼らは既に創作世界の住人であった。 「何を調べてるもふ?」 膝の上へ顔を出してもふらが訊ねる。 彼が資料の内容を簡単に読み上げると、もふらはそれを知っているという。 「なにせぼくは、当時その場にいたもふ!」 そんな馬鹿なと彼は笑ったが、もふらはふふんと得意満面な笑みを浮かべ、彼の膝上へとよじ登る。 「いいもふか? 今から話すのはぼくとおまえだけの秘密もふ。実は……」 全ては物語となって過ぎ去っていく。 最後に今一度彼らのその後を紡ぎ、この物語を終わりとしよう。 ● ここはジェレゾ国立図書館、児童書コーナー。 子供たちが1つのテーブルを囲み、思案げに首を傾げている。 「僕たちの班、自由研究どうしようか」 ガラス窓の外は濃い青色。もくもく湧いている入道雲。 季節は夏真っ盛り。彼らは夏休み真っ盛り。 「町の地図を作るってどう」 「駄目駄目、そんなの誰でも考えるよ」 「じゃあ蛙の生態観察とか」 「どうせならもっと珍しい生き物にしようよ」 「もふらとか?」 「あ、それいいね!」 「待ってよ、どこでもふらを観察するの? 飼ってる人、いる?」 「俺んちにはいない」 「私の家にもいないわね」 「もう動物園巡りでいいんじゃないかな」 「それ、クリスチンの班が昨日やってたよ。園内パンフレットを丸まる書き写して、インスタントアイズでとった写真貼ってただけだったけど」 「ねえ、方向を変えてさ、料理研究にしない? おいしいカレーの作り方とか」 「空き缶カラクリ作る方がいい」 等紛糾しつつも、最終的に「昆虫採集」という無難な方向に話がまとまった。 というわけで後日、虫取り網と虫かご、日よけ帽子を装備したメンバーは、ジェレゾ公園の雑木林に集結した。 ここは町の子供たちにとって、生きた自然に触れられる貴重な場所。 「さあ、行こう。いっぱいセミとろう」 「カブトムシいたらいいんだけどな」 「クワガタの方がいいよー」 ジルベリアの夏は他儀に比べて格段に過ごしやすいけど、そこに住んでいる者には、やっぱり暑く感じられる。 だからこそ、避暑地なんてものが存在するのだ。 子供たちは頬を火照らせ汗を拭い、水筒の水を飲みながら、地道な探索に明け暮れる。 濃い緑の夏草を踏みしだき、木漏れ日を作る分厚い葉の下を進む、進む。 そのうち誰かが言い出した。 「…ねえ、ところでここ、どのへん?」 皆は動きを止め、立ち止まった。 「そういえば…どのへんかなあ」 「わかんなくなっちゃったね」 皆慌てる様子がないのは、所詮は公園の中と思っているからである。 どっちの方角でもいいから真っすぐ歩いて行けば、いずれこの林から出られるに決まっている…と高をくくっていたのだ。 だがその目論みは外れていた。 行けども行けども林が尽きないのだ。 そればかりか、青々していた木の葉がくすんだ灰色になり、真っすぐ伸びていた幹が盆栽のようにねじくれ曲がり、地面にあった草が水気を含んだ苔になってきた。 「ねえ、これきっと道間違えたんだよ、引き返そうよ」 「う、うん、そうしよう」 というわけで急遽きびすを返し歩き始めた一行だが、今度はいくら歩いても、景色が全く変わらない。 日が傾き始め、周囲が紅に染まってくる。 「うわーん、おかあさーん、おとーさーん」 「おうちにかえりたいよー」 泣き声の大合唱となった時、唐突に、第三者が割り込んできた。 『アラ、コンナヒトタチヨンダカシラ』 声のした方を振り向けば、長い黒髪に白いワンピースの女――20センチ弱の。 アヤカシ隙間女だ。 子供たちが驚いて泣き止んだ。 それで満足したのか、隙間女はゆらゆら歩きで離れて行く。 子供たちは…おっかなびっくりその後をつけた。他に何をする当てもなかったので。 しばらく行くと林が途切れ、湿地帯に出た。 一面奇妙な菌糸植物で覆われている。 どれもこれも、薄闇の中ぼんやり光っている。色さまざま、形もさまざま。 |
■参加者一覧
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
八壁 伏路(ic0499)
18歳・男・吟
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ジルベリア神教会自治区にある教会では、日曜礼拝が行われている。 この教会の創設者はエルディン・バウアー(ib0066)。今より200年ほど前に生きていた神父。信教の自由が確立していなかった当時の帝国において、様々な困難にもめげず、神教会の教えを復興させた人物だ。 ちなみに今壇上でお説教している神父も、エルディン・バウアー。 同姓同名は偶然でない。創設者の子孫として名を受け継いだのだ。そのせいかあらぬか、ご先祖様と瓜二つ。 それはともかく礼拝中の教会に、部外者が入ってきた。 「すいません、エルディン・バウアー神父はおられますか?」 「はい、私がそうですが――何事ですか?」 「実は今大変なことが…」 ● クララ・フセミチ・アーバンは、貴族のうちで一番早く民へ施政権を返上した(させられた)アーバン伯爵家の出である。 ミドルネーム『フセミチ』はお家中興の祖である八壁 伏路(ic0499)からとったもの。 本家を兄に任せ故郷を出て幾歳月。現在夫、2人の娘と友にジェレゾに住んでいる。巫女の免状を持っているが、職業は巫女でない。ジェレゾ新聞社のパートだ。 そんな彼女は黒い髪を掻き上げ、窓の外を見ている。 網と携帯アイズを手に出て行った娘たちが、戻ってこない。 「帰りが遅いわね…おかしいわ…」 胸騒ぎがしてしょうがないので、メイドに夫への伝言等を任せ、公園まで様子見に行くとする。 ところがそこへ来てみれば、警察の人間と、うろたえ切った親たちがたむろしていた。 「うちの子は一体どこにいるんですか、早く見つけてください!」 「誘拐犯は誰なんですか!」 「落ち着いてください皆さん、まだ事件と決まったわけでは…」 穏やかならざる会話に立ち尽くすクララ。 そんな彼女に、青年が声をかけてきた。金髪で紅い瞳を持つ、大柄な青年だ。 「あんたも子供がいなくなったのかい?」 彼の名はマルク・アルフォレスタ。かのアルフォレスタ侯爵家の一員。 歴史学者として名を馳せたご先祖、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)にあやかり1文字違いの名前をつけてもらったのだが、本人はさほど学問に興味を持たずにいる。 「あ、俺は怪しいもんじゃない。マルク・アルフォレスタって騎士だ。子供が団体でいなくなったって話を聞いてな、捜索に協力しているところなんだが――何か心当たりはないかい?」 「心当たりといっても…虫取りに行くとしか…」 そこへ、とび色の肌の女の子、リザ・バトゥールが走ってきた。紫髪から伸びた白い垂れうさ耳と、首にかけた安物の動画用アイズが、動きに合わせ揺れている。 「あ、クララさーん!」 彼女は映画監督の卵(自称)。 歴史的動員数を記録し社会現象になりカタケ世界で一大ムーブメントを起こす大作を作るため、シノビの免状を取り開拓者として働き、製作資金を集めている。 実家は公爵だが領地を早くに民主制へと移行させたため、ほぼ名前だけの存在。おまけに家訓第一項が「夢をかなえるなら自費で」…援助は期待出来ないのだ。 「どうしたんですか? 何か騒ぎでも?」 クララは手短に事態を説明した。 うさ耳がピンと立つ。 「ムーシカちゃんたちが行方不明? そういうことなら、リザちゃんにお任せですよ♪」 急に場が眩しくなった。勇者王を思わせる装甲のからくりが夕日を反射させながら、接近してきたのだ。 彼こそは鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)。 総合からくり格闘技団体「デストゥカス」の会長として、映画俳優として、映画監督として、ヴェ=ガとの戦いで部下と共に戦功を上げた伝説のからくり戦士として、バトゥール領における3期前の知事として――超有名人。 リザの目が落っこちそうなくらい見開かれた。 「鏖殺大公テラドゥカス様! あたし大ファンなんです! 貴方の出てる映画は全部観てます!」 駆け寄ってくる彼女にテラドゥカスは、手を挙げ微笑む。 多種多様な経験を積んだ故か200年前に比べ、人当たりがよくなっているようだ。 「ほう、お嬢さんはわしのファンか。嬉し……」 あこがれの人を前に、リザは興奮の極み。 「お会いできるなんて…嬉しくて堪らな」 台詞が止まった。 …なにやら彼女の足元に水たまりが。 「…すみません穿き替えてきますっ。あたし…興奮したりするとすぐ…ううっ…」 涙目で茂みに駆け込んで行くリザ。 「余り気にするでない」 優しい言葉がかえって骨身に染みるリザ。 「うわああん! あたしったら憧れのテラドゥカス様の前でっ…」 マルクはそれらを見なかったことにして、本題に戻る。 「とにかく子供たちだな。虫取りなら雑木林だろうけど…それがさんざ探して見つからないとなると」 「神隠しのようですね。昔はアヤカシによるこういった事件が多発したようですよ」 急な声の割り込みに顔を向ければ、笑みを浮かべる神父。 「誰だい、あんたは」 「ああ、これは失礼致しました。私はエルディン・バウアーと申します」 マルクは変な気持ちがした。クララといい、リザといい、この人といい、初対面なのに初対面でないような気がするのだ。テラドゥカスに関しては映画の看板などでよく顔を見るから、既視感があってもおかしくないのだが。 「この度は子供たちが行方不明になったということで、助力を請われまして」 言いながらエルディンは、手にした懐中時計を四方へ翳す。 「これはド・マリニーと言いまして、瘴気という悪い気を探知する時計です。わが家に昔から伝わるもので…もしアヤカシがらみなら、これで消息を追えるかと…」 この御時世、地上ならともかく天儀においてアヤカシの姿を見かけることなど、まずない。でもこの事件が本当に、アヤカシがらみだとしたら…。 不安が募る一方のクララは両手の指を組み、順を追って動かした。マルクが尋ねる。 「クララさん、何してるんだ?」 「瘴索結界よ。ご先祖が巫女だか吟遊詩人だったらしくて、やり方だけが伝わっているの」 そう答えはしたものの、所詮おまじないみたいなもの。クララ当人もたいした期待はしていなかった――が、意外にも効果があった。 「あら…何か見える」 「えっ、何が見えるんだ?」 「ええと、うまくは言えないけれど、景色がもやもやっと…揺れているみたいな…」 エルディンはド・マリニーをそちらに向け、計測する。 「確かに何かありそうですね」 「マジか?」 何も見えないので、いまいち実感がわかないマルク。 とはいえもし凶悪なアヤカシがいたら――スキルが通じるかどうかは不明だが、騎士としていの一番に立ち向かわねば。 幸いご先祖が手記という形でアヤカシに対する記録を残してくれている。それを参考にすれば、なんとか対処できるだろう。 「なら、行ってみるか。子供達は何としても助けないと」 テラドゥカスは彼の肩に、重い鋼の手を置く。 「わしも手伝おう。アヤカシへの対処なら、慣れているからな」 パンツを履き替えたリザが、茂みから飛び出てくる。 「待ってくださいあたしも行きますー。あたしもド・マリニー持ってますよー」 クララも同行を申し出た。母として子供たちの救出を、人任せにしておけなくて。 ● クララの示す方向へ足を踏み入れた途端、音が消えた。 どんなに耳をすませても入ってくるのは沈黙のみ。明らかに不自然だ。その不自然さは、進むにつれ顕著になってくる。 足元の夏草は水を含んだ苔に。木々は奇妙にねじ曲がり、灰色に。 先頭を行くテラドゥカスとマルクは、警戒怠りない。 「…様子がおかしいぞ」 「…確かに。あからさまにおかしいな」 エルディンは、ド・マリニーとにらめっこ。 「瘴気の数値が上がっていますね」 リザは顎に手を当て、考え込んでいる。 (なんだかここ、じめじめなんとかに似てない…?) じめじめなんとか。それは彼女の実家に唯一残った私領地だ。ご先祖サライ・バトゥール(ic1447)の遺訓により、代々手をつけずにいるため、入らずの森としている。 (似てるというかそのものっぽいんだけど…でもまさか…) かの地で知事をしていたテラドゥカスも、当然彼女と同じことに気づく。 だが彼女と同様、断定はしかねる。バトゥールは、ジェレゾから500キロ以上離れた所にあるのだ。 (いくら何でも、そこまでの距離は歩いていないはずだが…) クララが声を張り上げた。 「マーシカ、ムーシカ! どこにいるのー!」 リザも子供たちを呼ぶ。返事があったら聞き逃さないよう、長い耳を持ち上げて。 「みんなー、助けに来たよー!」 テラドゥカスも太い声で呼びかける。 「わしは鏖殺大公テラドゥカスだ! 子供達よ返事をするのだ!」 行く手から急に夕風が吹いてきた。かん高い声を乗せて。 「おとーさーん、おかーさ−ん」 「かえりたいよー」 子供たちだ。 マルクは先陣切って走る。 「おーい! こっちだ、こっちだ! 助けに来たぞ!」 日は落ち、薄闇が迫ってくる。 木立がまばらになってきた。行く手がほの明るい。 一挙に視界が開ける。 一面湿地帯だ。巨大化した菌糸類が茂っている。さまざまな色に、ぼんやり発光しながら。 そのほとりに子供たちがいた。 「あっ、おかーさん」 「おかーさーん!」 クララに娘たちが飛びついた。彼女は、へなへな座り込む。 残りの子供たちも大人たちの姿を見て安心する。 特にテラドゥカスの存在が効いた。 「うわー! 勇者王!」 「本物? ねえ本物?」 「ははは、もちろんだ。わしが来たからには怖いものなしだぞ。ロケットパンチを見せてやろうか?」 マルクは子供たちに怪我がないのを確認し、胸を撫で下ろす。 そこではたと気づいた。淡い光を放つキノコの上に、小さな人影がいるのを。 長い黒髪に白いワンピース。 急いで鞄から古い手帳を引き出し該当ページを開き、ご先祖の記録を読む。 「あれ、隙間女とかいう奴じゃないか?」 その名にはエルディンも覚えがあった。初代エルディンが残した手記に、何度か出てくるもので。 「ああ、これが…とりあえず当人に確認をとってみましょうか。間違いないかどうか」 しかし彼が聞くまでもなかった。先にリザがその問を発した。 「ほ、本物だ! 隙間女! あなた隙間女ですよね!」 『ウン』 「やっぱり! やっぱりここ、あたしん家の私有地だったんだ!」 興奮のあまり駆け寄った彼女は湿地帯に足を踏み入れ、どぶんと一気に腰まで沈む。 「いやあああ底無し沼−!」 悲鳴を上げるリザ。 その体が見えない力でがぼっと引き抜かれ、岸に戻される。 『カダンヲアラサナイデチョウダイ』 このアヤカシ、テリトリーについて敏感な性分であるようだ。 子供と再会したことで落ち着いたクララは、昔親から『掃除をサボると隙間女が湧くぞ』と脅されたことを思い出した。 (…子供部屋のお化けではなかったのね) 改めて見回してみればこの光る菌糸の森、ファンタスティックな場所と言えなくもない――実家にある古いアイズに記録されている画像に、よく似ている。 「…もしかして本物の魔の森なのかしら」 呟いたところ、隙間女が答えてきた。 『ソレホドノモノジャナイワ。テンギデハモウ、マノモリハソダタナイノ。チジョウモドンドンソウナッテイクトオモウケド』 居残りアヤカシがようやく得た安堵の地が、ここなのだろう――エルディンはそう思った。 「そっとしておきましょうか。ほとんど無害とはいっても、表に出てこられたら困りますからね。それに、手記によると退治できないそうですから」 テラドゥカスも彼の意見に賛成だ。 「そうだな。騒がすのは止めておこう」 マルクとて同様だ。相手に戦意がないなら戦う必要もない。 ただ、ちょっと確かめてみたかった。これがご先祖が会ったのと同じアヤカシであるのかどうか。 「なあ、マルカという名を知っているか?…俺の先祖でな」 隙間女はフクロウのように頭を傾け、じっと彼の顔を見る。 『アア、ドウリデ。カオ、ニテルワ』 続けてリザ、クララ、エルディンを見る。 『コレトコレトコレモ、マエニミタノトヨクニテル…』 最後にテラドゥカスへ顔を向ける。 『…コレハミタコトナイワ』 「じゃろうな。わしもお主を伝聞でしか知らん」 『ドウリデ』 不意に子供たちが訴え始めた。 「なんか気分が悪い…」 「耳が痛い〜」 クララも頭が重くなってきたのを感じる。 どうやらここは、人が長居するによくない場所らしい。早く戻った方がいいだろう。 というわけでエルディンは、隙間女に頼む。 「ところで、帰るにはどうしたらいいんでしょう? 教えていただけるとありがたいのですが。何しろこのままですと、帰れそうにないので」 マルクもそれを後押し。 「俺達が此処にいたら騒がしくて困るだろう? 帰り道を教えてくれないか」 『ジャア、ソコカラデテイッテ』 何のことかとアヤカシが示す方向を見れば、木の根元に、彼女サイズの小さな扉が。 テラドゥカスは『うむ』と唸る。 「これだと子供すら通れそうにないのだが」 『ソンナコトナイ』 次の瞬間扉を覗き込んでいたからくりの巨躯が、向こう側へ吸い込まれる。煙のように。 「…理屈が謎だが…まあ、ありがとうな。帰るよ」 マルクはひとまず礼を言い、子供たちと一緒に扉をくぐる。 続いては爽やかな聖職者スマイルを浮かべた、エルディン。 「さようなら、お元気で。お互いの世界を大切にしましょう」 クララは娘たちから子供用アイズを借り、湿地帯の写真を撮る。 「…また来てもいいかしら優しいお化けさん」 リザも、アイズで動画を撮影した。このまま帰るのがいかにも勿体ない。 「今度インタビューさせてください! 沢山お話伺いたいです!」 彼女らは扉に向け押される。見えない力で。 『コレルモノナラネ』 それがアヤカシから聞けた最後の言葉。 ちなみに扉の向こうはジェレゾでなく、10キロも手前の町だった。 ● 一同は駅のホームで宝珠機関車を待つ。 子供たちはマルクが与えたビスケットのお陰で静か。 クララが娘たちに言い聞かせている。 「今日のことは誰にも言わないようにね。見つかったらあそこも、消毒されてしまうだろうから…」 その傍らではリザが、テラドゥカスに頼み込んでいる。 「テラドゥカス様、あの、これも何かのご縁ですので、今度作る映画に出てくれませんでしょうか!」 「…それとこれとは話が別じゃ。わしのギャラは高いぞ?」 「…ですよね、すみません…」 「実力でのし上がってこい! 楽しみに待っておるぞ」 「あ…はい! 頑張りますいません履き替えてきますー!」 頭を撫でられた直後、泣きながら構内トイレへ駆け込んで行くリザ。 マルクは壁の時刻表を眺めるエルディンに聞いた。 「後何分で来るんだ?」 「20分ですね」 「まだ時間があるなあ…手記でも書くかな。今日のこと、子孫に伝えておくのも悪く無さそうだし」 「おお、それはいい考えです。私もそうしましょうかねえ…」 |